説明

播種機

【課題】一つの播種機で、部品を交換することなく、様々な大きさや形状の種子に適応し、一粒播きおよび株播きの双方において、高速で高精度な播種作業を実現できる播種機を提供する。
【解決手段】作物の種子が一時貯留されるホッパ部31と、駆動軸を中心として回転可能に配設され、種子を空気吸引により吸着させて放出位置まで搬送する吸着セルプレート2と、吸着セルプレート2のホッパ部31からの種子のピックアップ位置を上下方向に調節するスライド板32と、余分な種子を掻き落とすセレクタ35と、セレクタ35により掻き落とされた種子をホッパ部31へ誘導する種子環流板34とを備える。吸着セルプレート2は、通気性を有し種子を通過させない種子ストッパ13と、一回に播く量の種子を収容する逆円錐台状の種子ホルダ14と、種子の移動を誘導する種子誘導部15とからなる吸着セル16が、外周に沿って等間隔で複数個設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、播種作業に用いられる播種装置の一種であり、一粒ずつまたは複数粒ずつの種子を放出する動作を連続的に繰り返す種子繰り出し機構を有する播種機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飼料用播種機構として、トウモロコシなどの比較的大きな種子を1粒ずつピックアップして播種する一粒播き用の空気吸引式または加圧式と呼ばれるものや、稲や麦などのように比較的小粒の種子を一定体積内に複数粒収容して播種するロール式または目皿式のものなどがある。空気吸引式の真空播種機は例えば特許文献1に、目皿式播種機は例えば特許文献2に開示されている。
【0003】
従来の空気吸引式又は加圧式タイプの播種機は、種子を高速かつ高精度に1粒ずつ播種することができるものの、株播きには適応できない。一方、ロール式又は目皿式と呼ばれるタイプの播種機は、多様な種子に適応できるものの、トウモロコシなどの一粒播きや稲・麦等の株播きを精度良く行うことは困難である。
【0004】
また、例えば特許文献3に、搬送ベルトを対向させた方式の播種装置が開示されているが、播種速度は0.5m/s以下であり、構造上高速作業には向いていない。また、例えば特許文献4に、いわゆるショットガン方式の播種装置が開示されているが、稲等の株播きはできるものの、トウモロコシ等の高速かつ精密な一粒播きは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−131905号公報
【特許文献2】特開平10−178823号公報
【特許文献3】特開2005−333895号公報
【特許文献4】特開2002−84822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、従来の播種機では、種子の種類や大きさ、または播種様式の違いによって、複数の機種を使い分けたり、部品の交換を行う必要があり、効率的な播種作業を妨げる要因となっていた。また、近年、飼料価格が高騰している状況の中で、低コストで飼料を自給生産することが課題となっており、作物の種類によって複数の播種機を導入することは、機械費のコスト高の要因となるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、一つの播種機で、部品を交換することなく、様々な大きさや形状の種子に適応し、一粒播きおよび株播きの双方において、高速で高精度な播種作業を実現できる播種機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、作物の種子が一時貯留されるホッパ部と、駆動軸を中心として回転可能に配設され、前記種子を空気吸引により吸着させて放出位置まで搬送する吸着セルプレートと、前記吸着セルプレートの前記ホッパ部からの前記種子のピックアップ位置を上下方向に調節するスライド板と、余分な種子を掻き落とすセレクタと、前記セレクタにより掻き落とされた種子を前記ホッパ部へ誘導する種子環流板と、を備え、前記吸着セルプレートは、通気性を有し前記種子を通過させない種子ストッパと、一回に播く量の種子を収容する逆円錐台状の種子ホルダと、前記種子を前記種子ホルダ内へ誘導する種子誘導部とからなる吸着セルが、外周に沿って等間隔で複数個設けられていることを特徴とする播種機を提供する。
【0009】
前記種子ホルダの中心軸が、前記吸着セルプレートの回転方向前方に傾いていることが好ましい。また、前記種子ホルダの中心軸が、前記吸着セルプレートの板厚方向外側に傾いていることが好ましい。
【0010】
前記吸着セルプレートの前記吸着セルよりも内側に、前記ホッパ部から前記吸着セルプレート側へ流れる前記種子を受け止める補助板が設けられていることが好ましい。
【0011】
前記種子ホルダの開放端の回転方向後方に、他の部分よりも外周方向に突出した突出部が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一つの播種機で、部品を交換することなく、様々な大きさや形状の種子に適応し、一粒播きおよび株播きの双方において、1回当たりの粒数及び播種位置のばらつきが小さく、かつ高速で播種作業を行うことができる。したがって、機械コストを削減でき、飼料生産の低コスト化及び飼料生産の自給率向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の播種機の分解斜視図。
【図2】図1の吸着セルプレートの斜視図であり、(a)は本体側(種子トレイ側)から見た図、(b)はフランジ側(吸引ブロック側)から見た図。
【図3】図2の吸着セルプレートの種子ホルダの向きの説明図であり、(a)は側面図、(b)は正面図。
【図4】セレクタ周辺を示す部分斜視図。
【図5】本発明の株播き時の使用例を示す側面図。
【図6】本発明の一粒播き時の使用例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の播種機1の分解斜視図である。吸着セルプレート2の中心に取り付けられる中心軸(ボルト9)は、図示しないモータにチェーンまたはベルト等で連結され、吸着セルプレート2は図の矢印方向に回転する。吸引ブロック3は回転せずに、裏板4に位置が固定される。
【0016】
吸引ブロック3には、吸着セルプレート2側の空気を吸引するための減圧室5が設けられている。減圧室5には吸引ダクト6が連結される。減圧室5は、吸引ブロック3の外周に沿って、種子のピックアップ位置から放出位置の直前までの範囲に設けられる。種子の放出位置には、吸引ブロック3を厚さ方向に貫通する貫通孔からなる大気圧開放室7が設けられている。さらに、大気圧開放室7に隣接して、吸着セルプレート2に向けて加圧空気を送って吸着セルプレート2に残る種子くず等を取り除くための加圧室8が設けられている。
【0017】
吸引ブロック3の吸着セルプレート2と接する面は、長期間稼働しても空気が漏れないように、高い密着性を維持する必要がある。このため、その部分には、例えば超高分子ポリエチレン等のように、摩耗係数が小さく摩耗しにくい材質がはめ込まれている。
【0018】
吸着セルプレート2は、図2に示すように、中心軸線方向に、フランジ11と適宜厚みを有する円板状の本体12とが重ね合わせられている。フランジ11は、図1の吸引ブロック3の側面全体をちょうど覆う大きさである。本体12の外周には、図2(a)に示すように、種子ストッパ13、種子ホルダ14、種子誘導部15からなる吸着セル16が、円周方向等間隔に複数設けられている。
【0019】
種子ストッパ13は、本体12を貫通する孔に、空気は通過するが種子は通過させない材質、例えば網が張られている。種子ストッパ13の位置に対応して、図2(b)に示すように、フランジ11の側面に貫通孔17が形成されている。吸着セルプレート2が矢印方向に回転し、吸着セル16が図1に示す吸引ブロック3の減圧室5を通過する際に、種子ストッパ13から吸着セルプレート2側の空気が吸引される。
【0020】
種子ホルダ14は、種子ストッパ13を底面として、外周側に向かって例えば約70°から90°程度の開き角を有する逆円錐台形状であり、例えばトウモロコシ等の大きな種子が1粒収容される大きさである。また、種子ホルダ14の中心軸は、図3(a)に示すように、側面から見ると、回転方向前方に例えば20°程度傾き、図3(b)に示すように、正面から見ると、板厚方向の外側、すなわちフランジ11の反対側に例えば40°程度傾くように形成される。さらに、種子ホルダ14の開放端の回転方向後方に、他の部分よりも外周方向に突出した突出部21が設けられる。これは、種子をピックアップする際に、種子を受け止めやすくするために設けられる。また、突出部21から連続してフランジ11の反対側に、後述するセレクタ35の底面42との間に数ミリ程度の隙間が空くように、吸着セルプレート2の面方向および外周方向に削り取られた切り欠き部22が設けられている。これは、セレクタ35によって押し出された余分な種子が、吸着セル16の外へ出やすくなるために設けられる。
【0021】
種子誘導部15は、種子のピックアップ時に種子ホルダ14への入り込みを誘導するとともに、余分な種子を落下させやすくするために、種子ホルダ14の切り欠き部22から回転方向前方側へ向けて形成される。種子誘導部15は、種子の通過を円滑にするために、例えば円柱の側面で削り取られたような曲面状に形成されることが好ましいが、平面でも構わない。
【0022】
図1に示すように、吸着セルプレート2の本体12側に、ホッパ部31、スライド板32、補助板33、種子環流板34、セレクタ35が設けられる。
【0023】
スライド板32と補助板33は、ホッパ部31のトレイ36の上方に設置される。スライド板32は、裏板4に固定される固定部材37に対して上下移動できるように取り付けられ、下方に下げた状態で、吸着セルプレート2の外周にほぼ接するように配置される。補助板33は、吸着セルプレート2の本体12側の、吸着セル16よりも内側に配置される。種子環流板34は、トレイ36の先端部に取り付けられ、吸着セルプレート2の上方から余分な種子が落下したときに、トレイ36上へ種子を誘導する。
【0024】
セレクタ35は、吸着セルプレート2の最上部よりも回転方向後方に設置される。図4はセレクタ35の例を示し、吸着セルプレート2の面方向と平行に延びる刃41と、その刃41を頂点として吸着セルプレート2の回転方向前方の先端に向かって幅が広がるくさび形を呈している。底面42は、吸着セルプレート2の側面方向から見て円弧状の曲面である。刃41と反対側の先端43は、吸着セルプレート2の本体12の側面から板厚方向に少しはみ出す程度の幅を有する。セレクタ35は、図1の裏板4に軸44が固定され、先端43が弾性体(図示省略)により吸着セル16側へ付勢された状態で取り付けられる。付勢力は、種子ホルダ14に収容された種子に先端43が軽く接触する程度の強さとし、種子の大きさに対応して、軸44を中心として先端43が上下移動する。
【0025】
図5および図6は、本発明の使用時の状態を示す。図5は、スライド板32を最も下側に下げた状態であり、例えば米や麦等のような比較的小粒の種子10の株播きにおいて、一回当たりの種子数を少なくしたい場合の使用状態である。スライド板32を下げることにより、種子10は、吸着セルプレート2の下寄りの位置で吸着される。
【0026】
種子ホルダ14は、前述の通り、図3(a)に示すように回転方向前方に傾き、且つ図3(b)に示すように外側に傾いているので、吸着セル16が種子10のピックアップ位置を通過するときには、外向き且つ上向きに傾いて種子10が入りやすく、大きな吸引圧を要することなくピックアップロスを低減し、高速播種に対応することができる。また、吸着セル16が種子10の放出位置を通過するときには、種子ホルダ14が下向きに傾くため、摩擦や抵抗が小さく、複数粒の種子10が落下する際に種子間の広がりを抑えることができる。
【0027】
種子10を収容した吸着セル16がセレクタ35の位置を通過する際には、余分な種子をセレクタ35の刃41が掻き取って種子ホルダ14の外へ追い出し、種子環流板34上に落としてホッパ部31のトレイ36上に戻す。また、一旦吸着された種子が途中で落下した場合にも、種子環流板34に沿ってホッパ部31に回収される。
【0028】
種子10を収容した吸着セル16が種子の放出位置に到達すると、種子ストッパ13が図1に示す大気圧開放室7に連通する。その手前まで空気の吸引力によって吸着されて運ばれてきた種子10は、大気圧開放室により吸引力が解除されることで、抵抗や摩擦などの外力を最小限に留めて種子10を放出するため、複数粒が落下する際の種子間の広がりを小さくすることができる。
【0029】
図6は、スライド板32を最も上側に上げた状態であり、例えばトウモロコシ等のような比較的大粒の種子20の一粒播きや、比較的小粒の種子の株播きにおいて一回当たりの種子数を多くしたい場合の使用状態である。スライド板32を上げることにより、種子20は、吸着セルプレート2の上寄りの位置で吸着される。そのため、種子ホルダ14の開放端の向きが上方に近い向きとなり、大きな種子20または多くの種子を、高速でも確実に収容させることが可能となる。さらに、補助板33が設けられていることにより、スライド板32を上げても、種子20が吸着セルプレート2の中央付近までなだれ込むのを防ぎ、種子20を受け止めて積み上げ、種子20のピックアップ位置を高く保つことができる。
【0030】
このように、スライド板32を上下させることにより、種子の大きさや粒数の増減に対応することができる。
【0031】
本発明を実施したところ、吸着セルプレートの回転数を12回/秒として、各種の大きさおよび形状の種子に対して、吸着および放出される種子数、放出位置ともに、高精度な動作が確認された。これは、2.4m/秒の速度での播種に相当する。
【0032】
以上述べたように、本発明の播種機は、適応できる種子の大きさや形、粒数の範囲が広いので、部品を交換することなく一台で飼料用作物全般の播種に利用できる。したがって、本発明の播種機を例えばトラクタ等の車両に単独で、あるいは適宜台数を並列させて装備し、図5、図6の左右方向に移動させることにより、さまざまな種類の種子の播種を行うことができる。
【0033】
しかも、高速でも確実に所望する量の種子を所望する位置に高精度に放出できる。さらに、本発明によれば、小さな圧力で高速且つ高精度に種子を吸着させて播種できるため、空気吸引機構を簡素化させることができるうえ、稼働時の省エネ化を実現できる。
【0034】
このように、本発明によれば、多様な作物に対応する高速汎用播種機や不耕起播種機の開発に貢献するとともに、幅広い作物を対象として各種の作業を請け負う次世代のコントラクタ(飼料生産受託組織)による利用が期待される。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、トウモロコシまたは豆類等の比較的大きな種子の一粒播きや、ソルガム、稲、麦類等比較的小粒の種子の株播きの他、イタリアンライグラス、スーダングラスなどの小型で軽量な種子やライ麦、エン麦などの細長い種子の条播や表面散播用としても適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 播種機
2 吸着セルプレート
3 吸引ブロック
4 裏板
5 減圧室
6 吸引ダクト
7 大気圧開放室
8 加圧室
10、20 種子
11 フランジ
12 本体
13 種子ストッパ
14 種子ホルダ
15 種子誘導部
16 吸着セル
17 貫通孔
21 突出部
22 切り欠き部
31 ホッパ部
32 スライド板
33 補助板
34 種子環流板
35 セレクタ
36 種子トレイ
41 刃
42 底面
43 先端
44 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物の種子が一時貯留されるホッパ部と、
駆動軸を中心として回転可能に配設され、前記種子を空気吸引により吸着させて放出位置まで搬送する吸着セルプレートと、
前記吸着セルプレートの前記ホッパ部からの前記種子のピックアップ位置を上下方向に調節するスライド板と、
余分な種子を掻き落とすセレクタと、
前記セレクタにより掻き落とされた種子を前記ホッパ部へ誘導する種子環流板と、を備え、
前記吸着セルプレートは、通気性を有し前記種子を通過させない種子ストッパと、一回に播く量の種子を収容する逆円錐台状の種子ホルダと、前記種子を前記種子ホルダ内へ誘導する種子誘導部とからなる吸着セルが、外周に沿って等間隔で複数個設けられていることを特徴とする、播種機。
【請求項2】
前記種子ホルダの中心軸が、前記吸着セルプレートの回転方向前方に傾いていることを特徴とする、請求項1に記載の播種機。
【請求項3】
前記種子ホルダの中心軸が、前記吸着セルプレートの板厚方向外側に傾いていることを特徴とする、請求項1または2に記載の播種機。
【請求項4】
前記吸着セルプレートの前記吸着セルよりも内側に、前記ホッパ部から前記吸着セルプレート側へ流れる前記種子を受け止める補助板が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の播種機。
【請求項5】
前記種子ホルダの開放端の回転方向後方に、他の部分よりも外周方向に突出した突出部が設けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の播種機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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