説明

播種機

【課題】一つの播種機で、コストを増大させることなく、様々な大きさや形状の種子に適応し、一粒播きおよび株播きの双方において、高速で高精度な播種作業を実現できる播種機を提供する。
【解決手段】作物の種子を、一度に播種する分量毎に吸着させて、ピックアップ位置から放出位置まで搬送する搬送機構(吸着セルプレート2)と、搬送機構2の種子吸着部(吸着セル16)の空気を吸引する吸引機構(吸引ブロック3)とからなる。吸引機構3は、ピックアップ位置から放出位置の直前までの範囲にわたって減圧室5を有する。減圧室5は、圧力隔壁6によって、ピックアップ位置側の第1減圧室5aと放出位置付近側の第2減圧室5bの2つに、隙間を有して区切られ、第1減圧室5aおよび第2減圧室5bそれぞれに、吸引ダクト27に連通する吸引口21a、21bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、播種作業に用いられる播種装置の一種であり、一粒ずつまたは複数粒ずつの種子を吸着させて放出位置まで搬送し、放出する動作を連続的に繰り返す種子繰り出し機構を有する吸着式の播種機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飼料用播種機構として、トウモロコシなどの比較的大きな種子を1粒ずつピックアップして播種する一粒播き用の空気吸引式または加圧式と呼ばれるものや、稲や麦などのように比較的小粒の種子を一定体積内に複数粒収容して播種するロール式または目皿式のものなどがある。空気吸引式の真空播種機は例えば特許文献1に、目皿式播種機は例えば特許文献2に開示されている。
【0003】
従来の空気吸引式又は加圧式タイプの播種機は、種子を高速かつ高精度に1粒ずつ播種することができるものの、株播きには適応できない。一方、ロール式又は目皿式と呼ばれるタイプの播種機は、多様な種子に適応できるものの、トウモロコシなどの一粒播きや稲・麦等の株播きを精度良く行うことは困難である。
【0004】
また、例えば特許文献3に、搬送ベルトを対向させた方式の播種装置が開示されているが、播種速度は0.5m/s以下であり、構造上高速作業には向いていない。また、例えば特許文献4に、いわゆるショットガン方式の播種装置が開示されているが、稲等の株播きはできるものの、トウモロコシ等の高速かつ精密な一粒播きは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−131905号公報
【特許文献2】特開平10−178823号公報
【特許文献3】特開2005−333895号公報
【特許文献4】特開2002−84822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、従来の播種機では、種子の種類や大きさ、または播種様式の違いによって、複数の機種を使い分けたり、部品の交換を行う必要があり、効率的な播種作業を妨げる要因となっていた。近年、飼料価格が高騰している状況の中で、低コストで飼料を自給生産することが課題となっており、作物の種類によって複数の播種機を導入することは、機械費のコスト高の要因となるという問題がある。
【0007】
また、吸着式播種機において、比較的大粒の種子の一粒播きを行う場合には、ピックアップ位置の吸引圧が不足すると、高速稼働時には種子をピックアップし損ねる場合があるが、一粒ずつ搬送するため、放出位置付近では大きな吸引圧でなくても確実に吸引状態を保持することができる。一方、株播きを行う場合、比較的小粒で軽量の種子を扱うため、ピックアップ位置ではそれほど大きな吸引圧を必要としないが、放出位置直前の吸引圧が不足すると、放出位置に到達する前に一部の種子が落下することがある。放出位置直前に落下すると、播種機内に回収されず、本来の播種予定位置からずれた位置の地面に種子が落下してしまう。そのため、適正な株形成が行われず、作物の生育に支障をきたす。このように、種子の違い等によって、大きな吸引圧を必要とする位置が異なるが、ピックアップ位置から放出位置直前までの全ての範囲で大きな吸引圧を保持するには、大容量の吸引機構を要し、設備が大がかりとなりコストがかさむ。
【0008】
本発明の目的は、一つの播種機で、コストを増大させることなく、様々な大きさや形状の種子に適応し、一粒播きおよび株播きの双方において、高速で高精度な播種作業を実現できる播種機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明は、作物の種子を、一度に播種する分量毎に吸着させて、ピックアップ位置から放出位置まで搬送する搬送機構と、前記搬送機構の種子吸着部の空気を吸引する吸引機構とからなり、前記吸引機構は、前記ピックアップ位置から前記放出位置の直前までの範囲にわたって減圧室を有し、前記減圧室は、圧力隔壁によって、前記ピックアップ位置側の第1減圧室と前記放出位置付近側の第2減圧室の2つに、隙間を有して区切られ、前記第1減圧室および前記第2減圧室それぞれに、吸引ダクトに連通する吸引口が設けられていることを特徴とする播種機を提供する。
【0010】
前記第1減圧室および前記第2減圧室それぞれの吸引口のうち、いずれか一方の吸引口を選択して前記吸引ダクトと連通させる切り替えバルブを有することが好ましい。
【0011】
前記第1減圧室側の吸引口は、前記第1減圧室の上部に設けられ、前記第2減圧室側の吸引口は、前記第2減圧室の下部に設けられていることが好ましい。
【0012】
前記圧力隔壁は、前記減圧室の最上部から搬送方向前方寄りの位置に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一つの播種機で、様々な大きさや形状の種子に適応し、一粒播きおよび株播きの両方において、1回当たりの粒数のばらつきが小さく、かつ高速で正確な播種作業を行うことができる。したがって、機械コストを削減でき、飼料生産の低コスト化及び飼料生産の自給率向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の播種機の一例を示す分解斜視図。
【図2】図1の反対側(吸引ブロック背面側)から見た分解斜視図。
【図3】図1の吸引ブロックの正面図。
【図4】図1の吸引ブロックの背面側から見た斜視図。
【図5】吸引ブロックおよび切り替えバルブの正面から見た斜視図であり、(a)は第1減圧室側から吸引する場合、(b)は第2減圧室側から吸引する場合の切り替えバルブの向きを示す。
【図6】本発明の一粒播き時の使用例を示す側面図。
【図7】本発明の株播き時の使用例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の播種機1の一例を示す分解斜視図である。吸着セルプレート2の中心に取り付けられる中心軸(ボルト9)は、図示しないモータにチェーンまたはベルト等で連結され、吸着セルプレート2は図の矢印方向に回転する。吸引ブロック3は回転せずに、裏板4に固定される。なお、本明細書中の各部材において、図1の左下方向(手前側)を正面側、右上方向(奥側)を背面側と称する。
【0017】
吸着セルプレート2は、中心軸線方向に、フランジ11と適宜厚みを有する略円板状の本体12とが重ね合わせられている。フランジ11は、吸引ブロック3の正面全体をちょうど覆う大きさである。本体12の外周には、種子ストッパ13、種子ホルダ14、種子誘導部15からなる吸着セル16が、円周方向等間隔に複数設けられている。種子ストッパ13は、本体12を貫通する孔に、空気は通過するが種子は通過させない材質、例えば網が張られている。種子ストッパ13の位置に対応して、図2に示すように、フランジ11の背面に貫通孔17が形成されている。吸着セルプレート2が図1の矢印方向に回転し、吸着セル16が吸引ブロック3の後述する減圧室5を通過する際に、種子ストッパ13から吸着セルプレート2側の空気が吸引される。種子ホルダ14は、種子ストッパ13を底面として、外周側に向かって開き角を有する逆円錐台形状であり、例えばトウモロコシ等の大きな種子が1粒収容される大きさである。種子誘導部15は、種子のピックアップ時に種子ホルダ14への入り込みを誘導するとともに、余分な種子を落下させやすくするために、種子ホルダ14から回転方向前方側へ向けて形成される。
【0018】
また、図1に示すように、吸着セルプレート2の本体12側に、ホッパ部31、スライド板32、補助板33、種子環流板34、セレクタ35が設けられる。スライド板32と補助板33は、ホッパ部31のトレイ36の上方に設置される。スライド板32は上下移動できるように取り付けられ、下方に下げた状態で、吸着セルプレート2の外周にほぼ接するように配置される。補助板33は、吸着セルプレート2の本体12側の、吸着セル16よりも内側に配置される。種子環流板34は、トレイ36の先端部に取り付けられ、吸着セルプレート2の上方から余分な種子が落下したときに、トレイ36上へ種子を誘導する。
【0019】
セレクタ35は、種子ホルダ14内に収容された余分な種子を掻き落とす部材であり、吸着セルプレート2の最上部よりも回転方向後方に設置される。セレクタ35は、例えば裏板4に軸38が固定され、先端37が弾性体(図示省略)により吸着セル16側へ付勢された状態で取り付けられる。付勢力は、種子ホルダ14に収容された種子に先端37が軽く接触する程度の強さとし、種子の大きさに対応して、軸38を中心として先端37が上下移動する。なお、セレクタの形状や取り付け方は図示の例に限らない。
【0020】
吸引ブロック3には、吸着セルプレート2側の空気を吸引するための減圧室5が設けられている。減圧室5は、円板状の吸引ブロック3の外周に沿って、種子のピックアップ位置から放出位置の直前までの範囲に設けられる。減圧室5は、圧力隔壁6によって、ピックアップ位置側の第1減圧室5aと、放出位置付近側の第2減圧室5bの2つに分けられている。圧力隔壁6は、減圧室5の最上部または最上部よりも回転方向前方寄りの位置、例えば吸着セルプレート2の回転中心の垂直上方から15°程度回転方向前方に設けられる。また、第1減圧室5aと第2減圧室5bとの間で適宜量の空気が流れるように、隙間を設けて配置される。隙間の設け方は、例えば圧力隔壁6の正面側端部が吸引ブロック3の正面側の端面よりも少し内側(背面側)に位置するように設けられ、圧力隔壁6と吸着セルプレート2のフランジ11との間に隙間が生じるようにしたり、あるいは圧力隔壁6自体にスリットを設けてもよい。こうして、圧力隔壁6を挟んだ両側の減圧室5a、5b間の空気の流れを一部制限することにより、第1減圧室5aと第2減圧室5bとの間に圧力差を生じさせる。この圧力差は、低い方と高い方との比率が例えば1:3程度とされ、種子の種類等に応じて、適宜、圧力隔壁6の隙間の調整、または、切り替えバルブ26の開度の調節などにより設定すればよい。
【0021】
吸引ブロック3には、図3に示すように、第1減圧室5aと第2減圧室5bそれぞれに通じる吸引口21a、21bが設けられ、図4に示すように、それらの背面側に、吸引管22が取り付けられる。吸引口21aは、第1減圧室5aの上部の、圧力隔壁6から少し離れた位置に設けられ、図3に示すように、吸引ブロック3の中心から見て斜め上方の位置が好ましい。吸引口21bは、第2減圧室5bの下部の、大気開放室7に近い位置に設けられる。吸引管22は、減圧室の一方の吸引口に連通する円筒状の切り替えバルブ挿入口23と、他方の吸引口を覆う有底円筒状のカバー24と、それらを連結する中空の連結部25とからなる。切り替えバルブ挿入口23は、正面側に、例えば図示の例では第1減圧室5aの吸引口21aに連通する開口23aが設けられ、側面に、連結部25内に連通する開口23bが設けられている。カバー24も同様であり、正面側に、例えば図示の例では第2減圧室5bの吸引口21bに連通する開口(図示省略)が設けられ、側面に、連結部25内に連通する開口(図示省略)が設けられている。切り替えバルブ挿入口23に切り替えバルブ26を取り付け、さらに吸引ダクト27(図1)が連結されて、第1減圧室5aまたは第2減圧室5b側から空気が吸引される。
【0022】
切り替えバルブ26は、図5に示すように、バルブ部41の正面側の円形の半分が塞がれ、残りが半円形の開口42になっている。また、バルブ部41の側面には、図4の吸引管22の開口23bに連通する開口43を有している。これらのバルブ部41の開口42、43は、一方が吸引管22の開口23aまたは開口23bを介して第1減圧室5aまたは第2減圧室5bに連通しているときには、他方が塞がれるような向きに設けられている。
【0023】
すなわち、バルブ部41を図5(a)の向きにして切り替えバルブ挿入口23に取り付けると、バルブ部41の正面側の開口42が、吸引ブロック3の第1減圧室5aの吸引口21aに連通し、第1減圧室5a側から空気が吸引される。このとき、バルブ部41の側面側の開口43は、吸引管22の連結部25とは逆の方向に開口しているため、第2減圧室5bからは空気が吸引されず、圧力隔壁6の隙間を介して、第2減圧室5bから少量の空気が吸引される。したがって、この場合には、第1減圧室5aの負圧の方が高くなり、第2減圧室5bの負圧は低くなる。
【0024】
一方、バルブ部41を図5(b)の向きにして切り替えバルブ挿入口23に取り付けると、バルブ部41の正面側の開口していない部分が第1減圧室5aの吸引口21aを塞ぎ、第1減圧室5a側からは空気が吸引されない。バルブ部41の側面側の開口43は、吸引管22の開口23bに向けて開口しているため、連結部25内を通って、第2減圧室5bから空気が吸引される。このとき、第1減圧室5aからは、圧力隔壁6の隙間を介して少量の空気が吸引される。したがって、この場合には、第1減圧室5aの負圧が低くなり、第2減圧室5bの負圧の方が高くなる。
【0025】
このように、レバー44を操作してバルブ部41を回転させるだけで、吸引ブロック3の第1減圧室5aまたは第2減圧室5bのうち直接空気吸引する方、すなわち、負圧を高くする方を容易に選択できる。したがって、播種方法の違いに応じて、第1減圧室5a側である種子のピックアップ位置と、第2減圧室5b側である放出位置付近のうち、吸引圧をより高くしたい方に合わせて切り替えることができる。
【0026】
種子の放出位置には、吸引ブロック3を厚さ方向に貫通する貫通孔からなる大気圧開放室7が設けられている。さらに、大気圧開放室7に隣接して、吸着セルプレート2に向けて加圧口8aから加圧空気を送って吸着セルプレート2に残る種子くず等を取り除くための加圧室8が設けられている。
【0027】
吸引ブロック3の吸着セルプレート2と接する面は、長期間稼働しても空気が漏れないように、高い密着性を維持する必要がある。このため、その部分には、例えば超高分子ポリエチレン等のように、摩耗係数が小さく摩耗しにくい材質がはめ込まれている。
【0028】
図6および図7は、本発明の使用時の状態を示す。
【0029】
図6は、例えばトウモロコシ等のような比較的大粒の種子10の一粒播きにおける使用状態である。この場合には、第1減圧室5a側の吸引口21a(図3参照)から空気が吸引され、種子10のピックアップ位置Pの吸引圧を大きくする。図6に示すようにスライド板32を上げることにより、種子10は、吸着セルプレート2の上寄りの位置で吸着される。そのため、種子ホルダ14の開放端の向きが上方に近い向きとなる。さらに、吸引口21a(図3)に近い位置で種子10がピックアップされるため、大きな種子10を、高速でも確実に吸着することが可能となる。また、この場合、補助板33を設けることにより、スライド板32を上げても、種子10が吸着セルプレート2の中央付近までなだれ込むのを防ぎ、種子10を受け止めて積み上げるので、種子10のピックアップ位置Pを高く保つことができる。
【0030】
種子10を収容した吸着セル16がセレクタ35の位置を通過する際に、余分な種子をセレクタ35が掻き取って種子ホルダ14の外へはじき出す。このとき、大粒の種子10を種子ホルダ14に吸着させるための吸引力が不足していると、余分な種子と一緒に種子ホルダ14内の種子まで落下してしまう。したがって、大粒の種子10を搬送する際には、少なくともセレクタ35の位置を通過するまでは、比較的大きな吸引力が必要であり、そのために、圧力隔壁6は、セレクタ35よりも回転方向前方に設けられる。
【0031】
セレクタ35の位置を過ぎると、種子ホルダ14内には種子10が1粒ずつ吸着されているため、大きな吸引力がなくても、種子10が落下することなく、放出位置Sまで搬送される。したがって、第2減圧室5b側では、特に大きな吸引力を必要としない。放出位置Sに到達すると、種子ストッパ13が大気圧開放室7に連通する。その手前まで空気の吸引力によって吸着されて運ばれてきた種子10は、大気圧開放室7により吸引力が解除されることで、抵抗や摩擦などの外力を最小限に留めて種子10を放出するため、正確な位置に播種することができる。
【0032】
図7は、例えば稲や麦等のような比較的小粒の種子20の株播き時の使用状態である。この場合には、図3に示す第2減圧室5b側の吸引口21bから空気が吸引され、種子20の放出位置S付近の吸引圧を大きくすると同時に、圧力隔壁6の隙間を介して第1減圧室5aから吸引する。図7に示すようにスライド板32を下げることにより、ピックアップ位置Pが低くなり、少量の種子が吸着される。スライド板32を上げてピックアップ位置Pを高くすると、種子ホルダ14の開放端の向きが上方に近い向きとなることに加えて、第1減圧室5aの吸引位置となる圧力隔壁6に近い位置で吸着されるために吸引力が大きくなり、吸着される種子の数を多くすることができる。
【0033】
種子20を吸着した吸着セル16が、吸引ブロック3の最上部を過ぎて種子の放出位置Sに近づいたときに、吸引力が不足すると、一部の種子が放出位置Sに到達する前に途中落下してしまう。そのため、上述のように、第2減圧室5b側の吸引圧を大きくして、複数の種子20を確実に吸着させる。第2減圧室5bの吸引口21bを、図3に示すように第2減圧室5bの下部に設けることにより、種子20が落下しやすい下部に強い吸引力が作用するので、確実に途中落下を防ぐことができる。種子20が放出位置Sに到達すると、種子ストッパ13が大気圧開放室7に連通し、吸引力が解除されることで、抵抗や摩擦などの外力を最小限に留めて種子20を放出するため、複数粒が落下する際の種子間の広がりを小さくし、正確な株播きを行うことができる。
【0034】
以上のように、例えば大粒の種子の一粒播きを行う場合は、ピックアップ時に確実に吸着させるために、ピックアップ位置P付近に高い吸引圧を作用させ、小粒の種子の株播きを行う場合には、吸着した種子の一部が放出位置Sの手前でこぼれ落ちるのを防ぐために、放出位置S近傍の吸引圧を高めにして、確実に吸着させる。このように、種子の大きさ等に応じて、第1減圧室5aまたは第2減圧室5bのいずれかの吸引圧を高くすることにより、高速での播種時でも、種子を確実に吸着および搬送することができる。さらに、本発明は、減圧室5を2つに分けることによって吸引力を狭い範囲に効果的に作用させることができるため、小さな吸引力で稼働させることができ、吸引機構の小型化が図れる。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、種子の搬送を行う搬送機構は、前述の吸着セルプレートに限らず、従来用いられている目皿式等、空気吸引により種子を吸着させるものであれば良い。また、種子の放出は、大気開放による放出ではなく、加圧により放出させても構わない。
【実施例1】
【0036】
前述の播種機1において、第1減圧室5aおよび第2減圧室5bの吸引圧を等しくした場合と、圧力差を設けた場合との比較を行った。第1減圧室の負圧と第2減圧室の負圧との比は、ほぼ1:3とした。種子は千粒重36gの飼料イネ「ニシアオバ」とし、毎秒8回の株播きを行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において、「放出前落下」とは、種子が放出位置に到達する前に吸着セルから離れて地表に落下することをいう。表1に示すように、圧力差を設けない場合には、約2〜3割の種子が放出前に落下しているのに対し、放出位置付近の第2減圧室の吸引圧を高くすると、放出前落下の発生率が大きく低下することがわかった。しかも、第1減圧室の負圧が低くても、一株当たりの粒数の変動係数は、ほとんど大きくならなかった。第2減圧室の負圧が2kPaを超えると、放出前落下の発生率が0%となり、極めて正確に高速播種を行うことができた。なお、
第1減圧室の負圧および第2減圧室の負圧は、それぞれ、最も負圧が高い位置付近で測定した。
【実施例2】
【0039】
実施例1と同じ種子「ニシアオバ」の株播きにおいて、圧力隔壁の位置による比較を行った。粒数が少ない場合の結果を表2、粒数が多い場合の結果を表3に示す。なお、圧力隔壁の位置(°)は、図1に示す播種機1の吸着セルプレート2の回転中心から垂直上方を0°とし、回転方向前方を「+」方向とした。また、第1減圧室の負圧を0.4kPa、第2減圧室の負圧を2.0kPaとした。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
いずれの場合にも、圧力隔壁の位置が45°になると、放出前落下の発生率が増加し、殊に粒数が多い場合、その傾向が顕著に見られた。−15°〜+15°の範囲では放出前落下は低いことがわかった。
【0043】
表2、表3の結果、および、大粒の種子を一粒播きする場合にセレクタ位置を通過するまでは十分な吸引圧が必要であることから、圧力隔壁の位置は、吸引ブロックの最上部から15°程度回転方向前方が好適である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、所定量の種子を吸着させて搬送し播種する空気吸引式の播種機に適用され、トウモロコシまたは豆類等の比較的大きな種子の一粒播きや、ソルガム、稲、麦類等比較的小粒の種子の株播きの他、イタリアンライグラス、スーダングラスなどの小型で軽量な種子やライ麦、エン麦などの細長い種子の条播や表面散播用としても適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 播種機
2 吸着セルプレート
3 吸引ブロック
4 裏板
5 減圧室
5a 第1減圧室
5b 第2減圧室
6 圧力隔壁
7 大気圧開放室
8 加圧室
10、20 種子
11 フランジ
12 本体
13 種子ストッパ
14 種子ホルダ
15 種子誘導部
16 吸着セル
17 貫通孔
21a、21b 吸引口
22 吸引管
23 切り替えバルブ挿入口
23a、23b 開口
24 カバー
25 連結部
26 切り替えバルブ
27 吸引ダクト
31 ホッパ部
32 スライド板
33 補助板
34 種子環流板
35 セレクタ
36 トレイ
37 先端
38 軸
41 バルブ部
42、43 開口
44 レバー
P ピックアップ位置
S 放出位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物の種子を、一度に播種する分量毎に吸着させて、ピックアップ位置から放出位置まで搬送する搬送機構と、
前記搬送機構の種子吸着部の空気を吸引する吸引機構とからなり、
前記吸引機構は、前記ピックアップ位置から前記放出位置の直前までの範囲にわたって減圧室を有し、
前記減圧室は、圧力隔壁によって、前記ピックアップ位置側の第1減圧室と前記放出位置付近側の第2減圧室の2つに、隙間を有して区切られ、前記第1減圧室および前記第2減圧室それぞれに、吸引ダクトに連通する吸引口が設けられていることを特徴とする、播種機。
【請求項2】
前記第1減圧室および前記第2減圧室それぞれの吸引口のうち、いずれか一方の吸引口を選択して前記吸引ダクトと連通させる切り替えバルブを有することを特徴とする、請求項1に記載の播種機。
【請求項3】
前記第1減圧室側の吸引口は、前記第1減圧室の上部に設けられ、前記第2減圧室側の吸引口は、前記第2減圧室の下部に設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の播種機。
【請求項4】
前記圧力隔壁は、前記減圧室の最上部から搬送方向前方寄りの位置に設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の播種機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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