説明

播種機

【課題】小粒で浅い位置に播種する種子であっても、種子を確実に播種溝内の土壌に定着させて、精度良く播種できる播種機を提供する。
【解決手段】トラクタTに牽引されてほ場を走行しながら播種する播種機1であって、ほ場に播種溝8を形成する作溝器3と、播種溝8に種子9を放出する種子繰り出し機構を備えた種子繰り出し部と、種子9を播種溝8の土壌に定着させる
種子鎮圧輪5を備え、種子鎮圧輪5は、播種溝8の開口幅と同じかそれよりも小さい幅を有し、播種機1に回転力を伝達する駆動軸10に連結されて強制回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、播種機に関するものであり、殊に甜菜等の小粒の種子の播種において、播種精度を向上させるとともに確実な発芽を得ることができる播種機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
甜菜は、輪作作物の一つとして北海道を中心に栽培されている。輪作農家の安定した経営を図るためには、甜菜および他の作物の経営規模を拡大し、所得を確保する必要があるが、手間のかかる甜菜の移植栽培は規模拡大の障害となっており、省力的な栽培方法として、播種機を用いた直播栽培の普及が望まれている。
【0003】
従来、甜菜の播種は、作溝器や覆土器、覆土鎮圧輪等を有する汎用播種機を利用して行っていた。汎用播種機は、土壌の表層に作溝器で筋状の播種溝を形成し、その播種溝に種子を放出し、その後覆土し、覆土鎮圧輪で播種位置付近の覆土部を鎮圧するものである。作溝器として、シュー型作溝器が広く使用されている。覆土鎮圧輪は、播種後の覆土部分の土壌を鎮圧し、種子を播種位置に定着させるために用いられる。播種機は、駆動輪の回転を動力源として、チェーン等を介して回転力が伝えられる。
【0004】
また、甜菜は、コーティング種子の大きさが直径5mm程度と小さく、種子周辺の土壌から、発芽のための水分を吸収しにくい。そのため、播種した種子を鎮圧して確実に土壌に定着させて土壌から水分を吸収させることが必要である。そのため、甜菜の場合、覆土前に、播種した種子および種子近傍を鎮圧する種子鎮圧輪が設けられることもある。
【0005】
従来の種子鎮圧輪は播種機本体に連結され、トラクタ走行時の地面との接触抵抗により回転する。ところが、種子鎮圧輪が地面上を回転する際、種子鎮圧輪の表面に湿潤土壌が付着し、その土壌に種子が付着することがある。種子鎮圧輪は、種子を播種溝に押しつけて播種溝の底部に埋没させるものであるが、土壌に付着した種子が、種子鎮圧輪の回転とともに連れ回されると、種子が播種溝内に埋没されず、所定位置に播種されなくなる。種子鎮圧輪の回転時に種子が離脱しても、その種子は地表面に露出し、出芽できないか、出芽できたとしても播種間隔が不規則となり、収量に影響を及ぼす。
【0006】
そのため、種子鎮圧輪への土壌の付着を抑制する手段として、種子鎮圧輪の下部にスクレイパを設け、付着した土や種子をそぎ落とす方法がある。ところが、種子鎮圧輪は、播種溝とほぼ同じ幅の小径の回転体であり、従来は、前述の通りトラクタ走行時の地面との接触抵抗による回転力のみで駆動させているため、駆動力が小さく、スクレイパの抵抗によって回転が停止することがある。そして、回転が停止したまま種子鎮圧輪が進行方向に引きずられることによって、種子が引きずられ、播種間隔が不規則になる。あるいは、播種溝をラッセル状に排土して播種溝の形状を破壊し、播種された種子の位置が深くなったり、播種位置が覆土されずに種子が地表面に露出するという問題が発生する。
【0007】
特許文献1には、作溝器よりも幅の広い種子鎮圧輪によって、播種溝よりも深く鎮圧する水稲用播種機が記載されている。特許文献1には、種子鎮圧輪を強制駆動することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−215409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1は、甜菜の種子よりも大粒の水稲用であり、小粒の甜菜の播種に関しては、以下のような課題を有している。
【0010】
前述のように甜菜のコーティング種子は直径約5mmと小さく、発芽を促進させるために、種子を周辺の土壌に圧着させて、土壌から種子へ水分を供給することが重要であるが、特許文献1の鎮圧方法では鎮圧が不十分な場合がある。そのため、種子周辺土壌から発芽のための水分を吸収しにくく、種子が播種溝内の土壌に十分且つ適切な深さに鎮圧されない場合には出芽率が低くなり、収量に影響を及ぼす。さらに、播種溝の深さが1〜2cmと浅いため、播種機から放出された種子が播種溝から飛び出して、播種精度の低下を招くことがある。
【0011】
1〜2cm程度の播種深さの溝を作るときに用いられる作溝器として、シュー型作溝器が周知であるが、図5に示すように、従来のシュー型作溝器3の側板12の下端12aは、V字形断面の作溝部11の上端11bよりも下方には及んでいない。そのため、作溝器3の側板12と地表面15との間には、図5に示すように隙間16が生じている。甜菜の種子9は小粒であり、通常、深さ1〜2cmと浅い位置に播種するため、種子9が播種溝8から外側へ飛び出しやすく、飛び出した種子が、図示するように、隙間16から外側へ転がって地表面15に露出し、播種精度が低下するという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、小粒で浅い位置に播種する種子であっても、種子を確実に播種溝内の土壌に定着させて、精度良く播種できる播種機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題を解決するため、本発明は、トラクタに牽引されてほ場を走行しながら播種する播種機であって、前記ほ場に播種溝を形成する作溝器と、前記播種溝に種子を放出する種子繰り出し機構を備えた種子繰り出し部と、種子を前記播種溝の土壌に定着させる種子鎮圧輪を備え、前記種子鎮圧輪は、前記播種溝の開口幅と同じかそれよりも小さい幅を有し、前記播種機に回転力を伝達する駆動軸に連結されて強制回転することを特徴とする播種機を提供する。
【0014】
前記作溝器は、前記トラクタの進行方向に延びる断面V字形の作溝部と、前記作溝部の両側方に配置される一対の側板を有し、前記側板の下端は、前記作溝部の上端よりも下方に位置することが好ましい。前記側板の下端が、前記作溝部の下端よりも播種深さの寸法だけ上方に位置するようにしてもよい。
【0015】
前記種子鎮圧輪の回転の周速度が、前記トラクタの走行速度と同じ速度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トラクタ等で牽引して通常の播種作業を行うことによって、甜菜等の小粒の種子を確実に播種溝内の土壌に定着させるので、安定した出芽を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる播種機の概略を示す側面図である。
【図2】図1の主要部分の拡大図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】本発明の作溝器を示し、(a)は側面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】従来のシュー型作溝器を示し、(a)は側面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図6】実施例における設定播種間隔18.6cmの場合の種子鎮圧輪の円周速度比と播種間隔との関係を示す図である。
【図7】実施例における設定播種間隔20.1cmの場合の種子鎮圧輪の円周速度比と播種間隔との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
図1〜3は、本発明の播種機の例を示す。図1に示すように、播種機1は、トラクタTの進行方向後方に連結され、駆動輪Wの回転を動力源として、トラクタTに牽引されながら稼働する。すなわち、例えば駆動輪Wの回転が、駆動輪Wに連結されたリンク部材からチェーン等を介して播種フレームFに伝えられる。播種フレームFは、地面方向に加圧する弾性体により連結され、ほ場面の凹凸に対応しながら走行および稼働することができる。尚、本明細書において、前方または後方とは、トラクタの進行方向における前方または後方を指す。
【0020】
本発明の播種機1は、トラクタTの進行方向前方側から順に、播種位置鎮圧輪2、作溝器3、種子繰り出し機構および種子ホッパを備えた種子繰り出し部4、種子鎮圧輪5、覆土器6、覆土鎮圧輪7を備え、これらは上下方向に移動可能にトラクタTに連結された播種フレームFに取り付けられている。播種機1は、トラクタTの左右方向に例えば4列に設けられ、同時に4条の播種作業が行える。
【0021】
播種位置鎮圧輪2は、播種位置付近の地均しをするローラであり、例えば10〜20cm程度の幅のローラが用いられる。播種位置鎮圧輪2の後方には、深さ1〜2cm程度のV字状の溝を形成するシュー型作溝器3が設けられ、さらに、作溝器3で形成した播種溝内に所定粒数の種子を所定間隔で放出する種子繰り出し機構を備えた種子繰り出し部4が設けられる。
【0022】
作溝器3は、図4に示すように、底部に、地面にV字状の播種溝8を形成する断面V字形の作溝部11が、播種機1の進行方向に沿って設けられ、作溝部11の後端の後方に、種子繰り出し部4から種子9を放出するシュータ13の先端の種子放出口14が配置されている。また、作溝部11の両側方から、作溝部11の後端よりも後方の、少なくとも種子放出口14の位置よりも後方まで突出した側板12が設けられている。側板12の下端12aは、断面V字形の作溝部11の断面上端11bよりも、例えば5mmまたはそれ以上下方に位置している。側板12の下端12aは、作溝部11の下端11aから、播種する種子9の播種深さの寸法だけ上方に位置することが好ましく、これにより、下端12aが、地表面15とちょうど同じ高さになる。この作溝器3を用いると、図4に示すように、種子放出口14の位置において、側板12の下端12aが地表面15に略接触しているため、播種深さが浅くても、種子9が播種溝8の外側へ飛び出すのを防ぎ、播種溝8内に確実に播種される。
【0023】
甜菜は、コーティング種子の大きさが直径5mm程度と小さく、種子周辺の土壌から、発芽のための水分を吸収しにくい。そのため、播種した種子を鎮圧して確実に土壌に定着させて種子下部の土壌から水分を吸収させることが必要であり、そのための種子鎮圧輪5が種子繰り出し部4の後方に設けられる。種子鎮圧輪5は、V字状の播種溝8の上端の開口幅、すなわち、作溝器3の作溝部11の幅と同程度か、またはそれよりも小さい幅を有する。種子鎮圧輪5は、例えば、外周に溝が形成されたローラの外周にゴム等からなるOリングがはめ込まれたものや、内部が空洞のゴム製のタイヤ状のものが用いられ、ゴム等の表面で播種溝8内の種子9を押圧することにより、種子9を傷付けずに押さえ付けて土壌に定着させる。
【0024】
種子鎮圧輪5は、駆動輪Wに連結されて播種機1の駆動原となる駆動軸10に、チェーンを介して連結される。図2、3の例では、第1のチェーン系統21、第2のチェーン系統22、第3のチェーン系統23の3つの系統によって連結されているが、3つのチェーン系統で構成されるものには限らない。このように連結されることによって、駆動軸10の回転力が各チェーン系統21、22、23を介して種子鎮圧輪5に伝導され、種子鎮圧輪5が強制的に回転駆動される。これにより、種子鎮圧輪5は地面に対して常に一定の速度で回転し、スクレイパ24等の抵抗によって回転が妨げられることがない。そのため、土や種子が種子鎮圧輪5に引きずられて播種間隔が不規則になったり、播種溝8が破壊されて播種深さにばらつきが生じたり、種子9が地表面15に露出するということが起こりにくくなり、出芽率が向上する。種子鎮圧輪5の円周速度は、播種機1全体の進行速度と同程度であることが好ましい。なお、種子鎮圧輪5は地表面15に近い位置に設けられているので、駆動系統に土が付着して回転不良とならないように、チェーン等の駆動系統をケースで覆うことが好ましい。
【0025】
以上のように、本発明によれば、播種溝8の開口幅と同じかそれよりも幅の狭い種子鎮圧輪5が播種溝8内で確実に回転するので、播種された種子9は、播種溝8内に鎮圧されて確実に土壌に定着し、出芽率が向上する。また、種子9を放出する際、作溝器3の側板12によって種子9が播種溝8内へガイドされて、播種溝8の外へ飛び出すのが抑制されるので、さらに確実な播種を行うことができる。
【0026】
種子鎮圧輪5の後方に、播種溝を覆土する覆土器6が設けられ、さらにその後方に、覆土鎮圧輪7が設けられる。覆土鎮圧輪7は、前方の播種位置鎮圧輪2と同様のローラであり、例えば10〜20cm程度の幅のローラが用いられる。播種位置鎮圧輪2、種子鎮圧輪5、覆土鎮圧輪7は、いずれも、トラクタの左右方向の回転軸を中心として、進行方向に向けて回転する。
【0027】
なお、トラクタと播種機1との間に、施肥機が設けられていてもよい。施肥機は、例えば図1に示すように、施肥溝を掘る施肥作溝器31、その施肥溝に向けて肥料を放出する肥料繰り出し機構を備えた肥料タンク32、施肥後に施肥溝上を覆土する施肥覆土器33で構成される。施肥機は、播種フレームFに連結されて播種機1とともに駆動してもよいし、モータ等の駆動源により施肥機のみが単独で駆動してもよい。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0029】
ほ場内において、種子鎮圧輪の円周速度とトラクタの進行速度とを変化させた場合と、種子鎮圧輪が無い場合の播種間隔の精度への影響を調査した。
【0030】
進行速度は1.3m/s、1.5m/sの2通りとし、種子鎮圧輪の円周速度と進行速度との比を、0.05刻みで0.90〜1.20の範囲として、甜菜の播種を行った。図6、図7は、それぞれ設定播種間隔が18.6cm、20.1cmの場合の結果であり、各円周速度比について、(平均値−標準偏差)から(平均値+標準偏差)までの数値を表示した。
【0031】
図6、7に示すように、円周速度比が1.00の場合が、最も標準偏差が小さく、すなわち播種間隔のばらつきが小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、甜菜等の小粒の種子の播種機として適用され、播種精度および出芽率向上に寄与する。
【符号の説明】
【0033】
1 播種機
2 播種位置鎮圧輪
3 作溝器
4 種子繰り出し部
5 種子鎮圧輪
6 覆土器
7 覆土鎮圧輪
8 播種溝
9 種子
10 駆動軸
11 作溝部
12 側板
21 第1のチェーン系統
22 第2のチェーン系統
23 第3のチェーン系統
24 スクレイパ
F 播種フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタに牽引されてほ場を走行しながら播種する播種機であって、
前記ほ場に播種溝を形成する作溝器と、前記播種溝に種子を放出する種子繰り出し機構を備えた種子繰り出し部と、種子を前記播種溝の土壌に定着させる種子鎮圧輪を備え、
前記種子鎮圧輪は、前記播種溝の開口幅と同じかそれよりも小さい幅を有し、前記播種機に回転力を伝達する駆動軸に連結されて強制回転することを特徴とする、播種機。
【請求項2】
前記作溝器は、前記トラクタの進行方向に延びる断面V字形の作溝部と、前記作溝部の両側方に配置される一対の側板を有し、
前記側板の下端は、前記作溝部の上端よりも下方に位置することを特徴とする、請求項1に記載の播種機。
【請求項3】
前記側板の下端が、前記作溝部の下端よりも播種深さの寸法だけ上方に位置することを特徴とする、請求項2に記載の播種機。
【請求項4】
前記種子鎮圧輪の回転の周速度が、前記トラクタの走行速度と同じ速度であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の播種機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55239(P2012−55239A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201969(P2010−201969)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(510243528)サークル機工株式会社 (5)