説明

撹拌機

【課題】 槽内の全体に亘って十分な上下循環流動を形成することができて、好適な撹拌特性を発揮することができる撹拌機を提供する。
【解決手段】 本発明は、撹拌翼3に対して以下の条件で開口4を設ける。(i)撹拌翼3の上半分Uの総面積に対する該上半分Uにおける開口4の開口面積の比率(撹拌翼3の上半分Uにおける開口率)が45〜80%、(ii)撹拌翼3の下半分Dの総面積に対する該下半分Dにおける開口4の開口面積の比率(撹拌翼3の下半分Dにおける開口率)が18〜50%、(iii)撹拌翼3の上半分Uにおける開口率に対する撹拌翼3の下半分Dにおける開口率の比率が31〜71%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合、溶解、晶析、反応等を目的とした撹拌処理用の撹拌機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撹拌機の撹拌翼として、タービン翼、パドル翼、プロペラ翼等の小型翼を多段で使用する例が多い。これらの撹拌翼を使用する撹拌機では、翼回転数を高くして翼から半径方向に吐出される液の流量を多くすることにより、液が槽壁に衝突して上方及び下方に回り、再び翼の所へ戻る循環流動を発生させ、槽内の混合を行う。
【0003】
しかしながら、上記小型翼では、図14に示す如く、槽内の全体に亘って十分な上下循環流動が形成されず、上下間に複数の仕切ゾーンZ,…ができてしまうため、撹拌特性はあまり良くない。しかも、翼形状が複雑化する傾向にあり、製作コストが高く、洗浄もしづらい。
【0004】
これに対し、例えば特許文献1に記載されている平板型翼では、翼形状が簡潔であるため、製作コストが抑えられ、洗浄もしやすいというメリットと共に、槽内の全体に亘って翼から半径方向への液の吐出流量が大きいため、撹拌特性が良いというメリットがあり、特に高粘度液や槽底部に沈降しやすい固体を含む液体の撹拌処理に適している。
【特許文献1】特開平10−174857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、平板型翼であっても、特許文献1に記載されたものや、開口のない完全な平板であれば、図15に示す如く、翼の上半分と下半分とで翼から半径方向へ吐出される液の吐出流量が等しいため、翼の上半分からの下方への吐出流動と翼の下半分からの上方への吐出流動とが衝突して、やはり上下間に仕切ゾーンZができてしまい、撹拌特性が悪くなる。
【0006】
そこで、本発明は、槽内の全体に亘って十分な上下循環流動を形成することができて、好適な撹拌特性を発揮することができる撹拌機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る撹拌機は、撹拌槽1内中心部に槽外から回転可能な撹拌軸2が配設され、該撹拌軸2に平板且つ矩形状の撹拌翼3が取り付けられてなる撹拌機において、該撹拌翼3が複数の開口4,…を、(i)撹拌翼3の上半分Uの総面積に対する該上半分Uにおける開口4の開口面積の比率(撹拌翼3の上半分Uにおける開口率)が45〜80%、(ii)撹拌翼3の下半分Dの総面積に対する該下半分Dにおける開口4の開口面積の比率(撹拌翼3の下半分Dにおける開口率)が18〜50%、(iii)撹拌翼3の上半分Uにおける開口率に対する撹拌翼3の下半分Dにおける開口率の比率が31〜71%、の条件で備えてなることを特徴とする。
【0008】
上記構成からなる撹拌機によれば、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率が大きく、下半分Dにおける開口率が小さく、下半分Dから半径方向に吐出される撹拌対象物の吐出流量は、上半分Uから半径方向に吐出される撹拌対象物の吐出流量よりも多くなる。そのため、吐出の強い領域から吐出の弱い領域への上下循環流動、即ち、撹拌槽1の下部から上部へと連続した上下循環流動が形成されることとなる。その結果、仕切ゾーンができることなく、撹拌対象物が全体的に撹拌されることとなる。
【発明の効果】
【0009】
即ち、本発明に係る撹拌機は、撹拌翼の上半分における開口率を大きくすると共に、下半分における開口率を小さくし、且つその開口率の適正化を図ることにより、槽内の全体に亘って十分な上下循環流動を形成することができて、好適な撹拌特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る撹拌機について図1に基づき説明する。
【0011】
1は、円筒形撹拌槽で、該槽1内中心部には、撹拌軸2が配設されている。撹拌軸2は、下端が槽底部に設けられた軸受(図示しない)を介して支持され、且つ上端が槽頂部上の駆動装置(図示しない)にカップリング(図示しない)を介して接続されている。
【0012】
3は、開口4を複数設けた平板状の撹拌翼で、矩形状を呈し、該撹拌翼3の幅方向中心部で撹拌軸2に取り付けられている。開口4は、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率(撹拌翼3の上半分Uの総面積(該上半分Uにおける開口4の総開口面積を含む)に対する該総開口面積の比率)が撹拌翼3の下部Dにおける開口率(撹拌翼3の下半分Dの総面積(該下半分Dにおける開口4の総開口面積を含む)に対する該総開口面積の比率)よりも大きくなるよう、上半分Uの方が多く配置される。本実施形態の場合、同一の開口面積を有する開口4が、撹拌翼3の上半分Uには所定間隔を有して四つ、撹拌翼3の下半分Dには所定間隔を有して三つ形成されている。
【0013】
5は、邪魔板で、撹拌槽1の側壁面であって、周方向に所定間隔を有して複数取り付けられている(図では、一つしか図示していない)。この邪魔板5は、撹拌槽1の側壁面下部から上部まで軸長方向に沿って連続しており、撹拌翼3から吐出された撹拌対象物を撹拌槽1の上部まで上昇させる特性を備えている。
【0014】
本実施形態に係る撹拌機は、以上の構成からなり、次に、本実施形態に係る撹拌機の撹拌特性について図2に基づき説明する。
【0015】
翼から半径方向に吐出される撹拌対象物の吐出流量は、撹拌翼3の軸長方向における単位幅面積と、該単位幅面積における外径の3乗との積に比例することが一般的に知られている。従って、本実施形態に係る撹拌翼3の如く、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率が大きく、下半分Dにおける開口率が小さい場合、下半分Dにおける撹拌対象物の吐出流量Q1は、上半分Uにおける撹拌対象物の吐出流量Q2よりも多くなる。
【0016】
そして、撹拌翼3の上半分Uと下半分Dとの吐出流量の違い、即ち、吐出強さの違いにより、吐出の強い領域から吐出の弱い領域への上下循環流動R1、即ち、撹拌槽1の下部から上部へと連続した上下循環流動R1が形成されることとなる。その結果、仕切ゾーンができることなく、撹拌対象物を全体的に撹拌することができるので、撹拌特性が良くなる。
【0017】
また、上下循環流動R1は、上部に達した後、撹拌槽1の側壁側から中心側へ移動し、撹拌軸2及び撹拌翼3に沿って下方へと移動する上下循環流動R2となり、槽底部に戻るが、撹拌翼3に開口4が複数設けられていることにより、下降中の撹拌対象物がこれら開口4,…によって剪断細分化され、この細分化された撹拌対象物が撹拌翼3の回転方向後側に発生する微細渦に巻き込まれてより細かく撹拌されるようになっている。
【0018】
尚、図2においては、理解を容易にするため、吐出流量(吐出流動)Q1,Q2 、上下循環流動R1,R2を片側一面にしか図示していないが、撹拌槽1の周方向全領域において同様の流動態様が生じていることは言うまでもない。
【0019】
ここで、本発明者は、撹拌翼3の開口率を如何なるように設定するのがよいか各種の実験を行った。
【0020】
図4は、以下の実験を行い、その実験結果(図3)をプロットし、境界線を引いたものである。
<実験条件>
・槽内径D(撹拌槽1の胴部の内径):310mm
・翼径d(撹拌翼3の幅):165mm
・翼高B(槽底部の最下位置から撹拌翼3の最上端までの高さ):295mm
・液深L(槽底部の最下位置から液面までの高さ):357mm
・槽底部形状:半楕円
・邪魔板:有り
・液量:25リットル
・液粘度:1cp(水)
・撹拌動力:0.2kW/m3
<実験方法>
ヨウ素還元脱色法を用い、流動状態を観察する。即ち、撹拌槽1内の液をヨウ素にて赤褐色に着色し、脱色液を投入してから撹拌を行う上で、槽内液の脱色の進み具合及び仕切ゾーンの有無を観察する(VTR記録)。尚、この方法は、例えばMixing(1975) Shinji NAGATA John Wiley & Sons, P187, 4.3.1 Method of Measuring Mixer Performance や、Handbook of Industrial Mixing,John Willy & Sons, P167, 4-4.3 Approximate Mixing Time Measurement with Colorimetric methods にも開示されている周知の方法である。因みに、「○」は、撹拌槽1の下部から吐出された流動がスムーズに上部に到達し、上下方向に連続した一つの上下循環流動が形成された場合に対する評価であり、「△」は、撹拌槽1の下部から吐出された流動がほとんど上部に到達しているが、一部途中で中心側への流動が見られた場合に対する評価であり、「×」は、明らかに上下循環流動が分断された場合に対する評価である。
【0021】
図6は、同上の実験条件で同じ実験を行い、撹拌を行ってから槽内液が完全に脱色されるまでの時間を測定し、その実験結果(図5)をプロットして、近似曲線を引いたものである。尚、混合時間の比とは、混合時間の最適値(実験では、3.1秒)を100%とした場合の各混合時間の比率をいい、上下の開口率比とは、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率に対する撹拌翼3の下半分Dにおける開口率の比率をいう。また、混合時間の最適値(平均値)とは、混合時間が短くなっている領域での10個の混合時間データを平均化したものをいう。具体的には、図5の上から5個目のデータ(3.1秒)から14個目のデータ(3.4秒)のうち、13個目のデータ(4.0秒)は特異点として除外し、残り9個のデータを平均化したものをいう。図7は、近似曲線のデータである。
【0022】
図3及び図4から、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率が45〜80%、下半分Dにおける開口率が18〜50%であって、且つ、撹拌翼3の上下の開口率比が31〜71%(縦軸をy、横軸をxとした場合、y=0.31xとy=0.71xとで挟まれた領域)であるならば、流動状態(混合特性)が良く、さらに、撹拌翼3の上下の開口率比を37〜65%(y=0.37xとy=0.65xとで挟まれた領域)に絞り込めば、流動状態(混合特性)がさらに良好になることがわかる。
【0023】
図6及び図7からは、110%以内の範囲に入るのが、撹拌翼3の上下の開口率比が37〜65%であり、120%以内の範囲に入るのが、撹拌翼3の上下の開口率比が31〜71%であることがわかるが、この事実は、図3及び図4から導き出される上記事実と符合するものである。
【0024】
以上より、撹拌翼3の開口率は、(1)撹拌翼3の上半分Uにおける開口率が45〜80%、下半分Dにおける開口率が18〜50%であって、且つ、撹拌翼3の上下の開口率比が31〜71%であるのが好ましく、(2)さらに好ましくは、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率が45〜80%、下半分Dにおける開口率が18〜50%であって、且つ、撹拌翼3の上下の開口率比が37〜65%である。
【0025】
尚、本発明に係る撹拌機は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0026】
例えば、上記実施形態においては、上下の開口率比が、31%以上、より好ましくは37%以上であって、71%以下、より好ましくは65%以下であったが、混合時間の比が100%以内の範囲に入るということを考慮すると、46%以上であって、56%以下であるのがさらに好ましく、また、混合時間の比が99%よりも下回るということを考慮すると、48%以上であって、54%以下であるのがよりさらに好ましい。
【0027】
また、上記実施形態においては、上半分Uにおける開口率が、45%以上であって、80%以下であったが、評価が「○」のものだけを考慮すると、50%以上であって、76%以下であるのがより好ましい。
【0028】
また、上記実施形態においては、横長矩形状の開口4を縦に並べるように配置しているが、図8に示す如く、縦長スリット状の開口4を横に並べるように配置する態様(上下の開口率に違いを持たせるために、開口4の長さを異ならせている)、図9に示す如く、各開口4の大きさを異ならせ、それらを適宜配置する態様、図10に示す如く、撹拌軸2に対して非線対称に配置する態様、図11に示す如く、撹拌軸2を挟んで左右の開口4の位相を軸長方向にずらすように配置する態様、図12に示す如く、開口4を軸長方向に対して千鳥状に配置する態様、図13に示す如く、開口4を市松模様状に配置する態様等、要は、撹拌翼3の上半分Uにおける開口率が下半分Dにおける開口率よりも小さければ、開口4の形状、数、大きさ、配置は問わない。
【0029】
また、上記実施形態においては、板材に孔を明けることにより開口を形成しているが、例えばアンカー型翼のように、構成部材を組み合わせて平板且つ矩形状の撹拌翼とし、各構成部材間の空隙を開口とするようにしてもよい。
【0030】
また、上記実施形態においては、撹拌軸2の下端が槽底部に支持されるようになっているが、該下端が槽底部から離間して支持されない態様であってもよい。
【0031】
また、上記実施形態においては、撹拌軸2を槽外から回転駆動するための駆動装置を槽頂部側に設けているが、該駆動装置を槽底部側に設けてもよい。
【0032】
また、上記実施形態においては、邪魔板5を設けているが、この邪魔板5は本発明においては、必須構成ではない。
【0033】
また、槽内径D、翼径d、翼高B、液深Lは、それぞれ特に限定されるものではないが、一般的には、翼径比d/D(翼径d/槽内径D)を40〜75%、翼高比B/D(翼高B/槽内径D)を50〜100%、液深比L/D(液深L/槽内径D)を10〜150%に設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態に係る撹拌機の正面図を示す。
【図2】同実施形態に係る撹拌機の撹拌特性を説明するための概念図を示す。
【図3】撹拌翼の上半分における開口率と下半分における開口率との関係における撹拌特性(混合特性)のデータ表を示す。
【図4】撹拌翼の上半分における開口率と下半分における開口率との関係における撹拌特性(混合特性)の良否を表すグラフを示す。
【図5】撹拌翼の上半分における開口率に対する下半分における開口率の比と混合時間の比との関係のデータ表を示す。
【図6】撹拌翼の上半分における開口率に対する下半分における開口率の比と混合時間の比との関係を表すグラフを示す。
【図7】図6における近似曲線のデータ表を示す。
【図8】他実施形態(その1)に係る撹拌機の正面図を示す。
【図9】他実施形態(その2)に係る撹拌機の正面図を示す。
【図10】他実施形態(その3)に係る撹拌機の正面図を示す。
【図11】他実施形態(その4)に係る撹拌機の正面図を示す。
【図12】他実施形態(その5)に係る撹拌機の正面図を示す。
【図13】他実施形態(その6)に係る撹拌機の正面図を示す。
【図14】従来の小型翼に係る撹拌機の撹拌特性を説明するための概念図を示す。
【図15】従来の大型翼に係る撹拌機の撹拌特性を説明するための概念図を示す。
【符号の説明】
【0035】
1…撹拌槽、2…撹拌軸、3…撹拌翼、4…開口、5…邪魔板、R1,R2…上下循環流動、Q1,Q2…吐出流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌槽(1)内中心部に槽外から回転可能な撹拌軸(2)が配設され、該撹拌軸(2)に平板且つ矩形状の撹拌翼(3)が取り付けられてなる撹拌機において、該撹拌翼(3)が複数の開口(4,…)を以下の条件で備えてなることを特徴とする撹拌機。
(i)撹拌翼(3)の上半分(U)の総面積に対する該上半分(U)における開口(4)の開口面積の比率(撹拌翼(3)の上半分(U)における開口率)が45〜80%
(ii)撹拌翼(3)の下半分(D)の総面積に対する該下半分(D)における開口(4)の開口面積の比率(撹拌翼(3)の下半分(D)における開口率)が18〜50%
(iii)撹拌翼(3)の上半分(U)における開口率に対する撹拌翼(3)の下半分(D)における開口率の比率が31〜71%

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−88146(P2006−88146A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159136(P2005−159136)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【分割の表示】特願2004−273582(P2004−273582)の分割
【原出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(502369746)住重機器システム株式会社 (29)
【Fターム(参考)】