説明

操縦支援装置

【課題】操縦翼を動かす際の駆動力を低減し、応答性の悪化を防止することができる操縦支援装置を提供する。
【解決手段】操縦支援装置1は、航空機の操縦者が手で操作する操縦桿2を備えている。操縦桿2には、前方に延びる連結部材3が固定され、この連結部材3には円板状部材4が取り付けられている。連結部材3は、接続機構5を介して1対のエレベータ及び1対のエルロンと接続されている。エレベータは、ピッチング用モータ11により動かされ、エルロンは、ローリング用モータ12により動かされる。ピッチング用モータ11及びローリング用モータ12は、操縦桿2の近傍に設置されている。つまり、ピッチング用モータ11は、連結部材3にギア13,14を介して取り付けられ、ローリング用モータ12は、円板状部材4にギア16,17を介して取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の操縦を支援する操縦支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の操縦支援装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、航空機が失速状態に近づくと、操縦レバー部材の先端部に設けられた操縦グリップ部材に振動を発生させることにより、航空機が失速状態に近づいたことを操縦者に知らせるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−264894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のように、操縦グリップ部材に振動を与えるだけでは、操縦者に対する教示効果としては不十分となるおそれがある。これに対処する方法としては、例えば自動操縦(オートパイロット)用のアクチュエータを利用し、操縦桿を動かして教示を行うことが考えられる。しかし、自動操縦用のアクチュエータはエレベータ等の操縦翼の近傍に設置されているため、大きな駆動力が必要となり、応答性の悪化を招くおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、操縦翼を動かす際の駆動力を低減し、応答性の悪化を防止することができる操縦支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、航空機の操縦を支援する操縦支援装置において、航空機の操縦者が操縦操作を行うための操作手段と、操作手段と航空機の操縦翼とを接続する接続部における操作手段の近傍に設けられ、操縦翼を動かすアクチュエータ手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明の操縦支援装置においては、例えば航空機が失速状態に近づいたことを操縦者に教示したり、操縦者による操縦操作をアシストする場合に、アクチュエータ手段により航空機の操縦翼を動かすようにする。このとき、アクチュエータ手段が操作手段と操縦翼とを接続する接続部における操作手段の近傍に設けられているので、アクチュエータ手段の駆動力が小さくて済み、応答性を良好にすることができる。
【0008】
好ましくは、操作手段は、操縦者が手で操作する操縦桿であり、操縦翼がエレベータであり、アクチュエータ手段は、操縦桿とエレベータとを接続する接続部における操縦桿の近傍に設けられ、エレベータを動かす手段である。この場合には、アクチュエータ手段によりエレベータを動かす際に、アクチュエータ手段の駆動力を低減し、応答性の悪化を防止することができる。
【0009】
また、好ましくは、操作手段は、操縦者が手で操作する操縦桿であり、操縦翼がエルロンであり、アクチュエータ手段は、操縦桿とエルロンとを接続する接続部における操縦桿の近傍に設けられ、エルロンを動かす手段である。この場合には、アクチュエータ手段によりエルロンを動かす際に、アクチュエータ手段の駆動力を低減し、応答性の悪化を防止することができる。
【0010】
さらに、好ましくは、操作手段は、操縦者が足で操作する操縦ペダルであり、操縦翼がラダーであり、アクチュエータ手段は、操縦ペダルとラダーとを接続する接続部における操縦ペダルの近傍に設けられ、ラダーを動かす手段である。この場合には、アクチュエータ手段によりラダーを動かす際に、アクチュエータ手段の駆動力を低減し、応答性の悪化を防止することができる。
【0011】
また、好ましくは、操作手段の操作位置を保持するようにアクチュエータ手段を制御する制御手段を更に備える。この場合には、航空機の機体を適切な状態(例えば機首を上げた位置やニュートラル位置)に保持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、操縦翼を動かす際の駆動力を低減し、応答性の悪化を防止することができる。これにより、操縦者に対する操縦教示、航空機の操縦アシスト及び自動操縦等を効果的に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる操縦支援装置の一実施形態の一部を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示した操縦桿と機体のエレベータとを接続する接続機構を示す概略斜視図である。
【図3】図1に示した操縦桿と機体のエルロンとを接続する接続機構を示す概略斜視図である。
【図4】本発明に係わる操縦支援装置の一実施形態の他の一部を示す概略斜視図である。
【図5】図1に示した操縦ペダルと機体のラダーとを接続する接続機構を示す概略斜視図である。
【図6】図1及び図4に示した操縦支援装置の制御系を示すブロック図である。
【図7】図1に示した操縦桿の動作とエレベータの状態との関係を示す図である。
【図8】比較例として、ピッチング用モータがエレベータの近傍に設置されている構造を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係わる操縦支援装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる操縦支援装置の一実施形態の一部を示す概略斜視図である。同図において、本実施形態の操縦支援装置1は、航空機の機体に搭載されるものである。操縦支援装置1は、航空機の操縦者が手で操作する操縦桿2を備えている。操縦桿2には、前方に延びる連結部材3が固定され、この連結部材3には円板状部材4が取り付けられている。
【0016】
連結部材3は、図1〜図3に示すように、接続機構5を介して機体6に設けられた1対のエレベータ7及び1対のエルロン8と接続されている。エレベータ7は、機体6の水平尾翼9の後部に設けられ、機体6をピッチング運動させる操縦翼である。エルロン8は、機体6の主翼10の後部に設けられ、機体6をロール運動させる操縦翼である。エレベータ7は、ピッチング用モータ11により動かされ、エルロン8は、ローリング用モータ12により動かされる。
【0017】
連結部材3における操縦桿2と円板状部材4との間の部位には、ラックギア13が設けられている。ラックギア13には、ピッチング用モータ11の出力軸に取り付けられたギア14が噛み合っている。
【0018】
なお、図2(a)に示すように、連結部材3にラックギア13を設ける構造に限られず、例えば図2(b)に示すように、連結部材3に補助部材15を固定し、その補助部材15にラックギア13を設けても良い。
【0019】
円板状部材4の外周面には、ギア16が設けられている。ギア16には、ローリング用モータ12の出力軸に取り付けられたギア17が噛み合っている。
【0020】
接続機構5は、図2及び図3に示すように、連結部材3に固定されたアーム18と、このアーム18と各エレベータ7とを接続するリンク19と、アーム18と各エルロン8とを接続するリンク20とを有している。なお、図2では、円板状部材4は省略してある。
【0021】
ピッチング用モータ11を回転駆動させると、連結部材3が前後方向に移動し、これに伴ってアーム18及びリンク19を介してエレベータ7が動作すると共に、操縦桿2が前後方向に移動するようになる。ローリング用モータ12を回転駆動させると、連結部材3が回動し、これに伴ってアーム18及びリンク20を介してエルロン8が動作すると共に、操縦桿2が回動するようになる。
【0022】
図4は、本発明に係わる操縦支援装置の一実施形態の他の一部を示す概略斜視図である。同図において、操縦支援装置1は、操縦者が足で操作する操縦ペダル21,22を備えている。一方の操縦ペダル21には軸部材23が連結され、他方の操縦ペダル22には、軸部材23の一部を取り囲むように設けられた筒状部材24が連結されている。筒状部材24の外周面には、ギア25を有する環状部26が設けられている。ギア25には、ヨーイング用モータ27の出力軸に取り付けられたギア28が噛み合っている。
【0023】
ヨーイング用モータ27は、図5に示すようなラダー29を動かすモータである。ラダー29は、機体6の垂直尾翼30の後部に設けられ、機体6をヨーイング運動させる操縦翼である。
【0024】
軸部材23及び筒状部材24とラダー29とは、リンク(接続機構)31を介して接続されている。ヨーイング用モータ27を回転駆動させると、筒状部材24が軸部材23に対して回転し、これに伴ってリンク31を介してラダー29が動作すると共に、操縦ペダル22が動くようになる。
【0025】
また、操縦支援装置1は、図6に示すように、機体6の角速度、角度(姿勢)、翼面気流状態量(揚力)及び失速状態等を検知する機体状態量検知センサ32と、この機体状態量検知センサ32の検知信号に基づいてピッチング用モータ11、ローリング用モータ12及びヨーイング用モータ27を制御するコントローラ33とを備えている。
【0026】
コントローラ33は、機体状態量検知センサ32によって機体6が衝突領域や失速状態に近づいたことが検知されると、操縦桿2や操縦ペダル21,22を動かすようにピッチング用モータ11、ローリング用モータ12及びヨーイング用モータ27の何れかを制御することにより、機体6が危険な状態にあることを操縦者に対して教示する。
【0027】
また、コントローラ33は、操縦桿2や操縦ペダル21,22が所望の操作位置で保持されるようにピッチング用モータ11、ローリング用モータ12及びヨーイング用モータ27の何れかを制御することにより、操縦者による操縦操作をアシストする。
【0028】
ここで、機体6の水平飛行中にエレベータ7がニュートラル位置にある状態では、図7(a)に示すように、水平尾翼9の表面に空気力が発生する。この状態で、操縦者が操縦桿2を手前に引くと、エレベータ7が接続機構5を介して動かされ、図7(b)に示すように、エレベータ7の反り角が変わり、水平尾翼9の表面の上下で圧力差が生じ、機体6の機首を上げるモーメントが発生する。そして、操縦桿2が手前に引かれた状態から操縦桿2を放すと、図7(c)に示すように、エレベータ7はニュートラル位置に戻ろうとする。
【0029】
そこで、コントローラ33は、図7(b)に示すように機体6の機首を上げるときは、操縦桿2の引き上げ角が大きすぎて機体6が失速することが無いように、ピッチング用モータ11を制御して操縦桿2を適正な位置で保持することにより、操縦者による操縦桿2の操縦操作をアシストする。また、コントローラ33は、機体6をニュートラル位置に戻すときは、操縦桿2をニュートラル位置に対応する位置で保持するようにピッチング用モータ11を制御する。つまり、ピッチング用モータ11により機体6の復元力を与えるようにアシストする。
【0030】
ところで、図8に示すように、ピッチング用モータ11がエレベータ7の近傍に設置されている場合には、モータ11の駆動パワーが大きくならざるを得ないため、大型のモータ11が必要となる。このため、応答性の悪化や重量の増大につながる。また、リンク19においてピッチング用モータ11と操縦桿2との距離が遠くなるので、ダイレクト感が失われてしまう。
【0031】
これに対し本実施形態では、ピッチング用モータ11が操縦桿2の近傍に設置されているので、モータ11の駆動パワーが小さくて済み、モータ11の小型化を図ることができ、応答性を良くすることができる。また、ピッチング用モータ11が操縦桿2に近くなるため、ダイレクト感を損なうことが防止され、操縦者は違和感なく操縦操作を行うことが可能となる。
【0032】
また、ローリング用モータ12も操縦桿2の近傍に設置されており、ヨーイング用モータ27は操縦ペダル21,22の近傍に設置されているので、上記と同様にモータ12,27の駆動パワーが小さくて済み、応答性を良くすることができると共に、ダイレクト感を損なうことを防止できる。
【0033】
なお、上記実施形態では、操縦者への操縦教示や操縦操作のアシストを行っているが、本発明の操縦支援装置は、航空機の自動操縦を実施したり、操縦者に対する何らかの警告を行うもの等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…操縦支援装置、2…操縦桿(操作手段)、3…連結部材(接続部)、4…円板状部材(接続部)、5…接続機構(接続部)、7…エレベータ(操縦翼)、8…エルロン(操縦翼)、11…ピッチング用モータ(アクチュエータ手段)、12…ローリング用モータ(アクチュエータ手段)、15…補助部材(接続部)、21,22…操縦ペダル(操作手段)、23…軸部材(接続部)、24…筒状部材(接続部)、27…ヨーイング用モータ(アクチュエータ手段)、29…ラダー(操縦翼)、31…接続機構(接続部)、33…コントローラ(制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の操縦を支援する操縦支援装置において、
前記航空機の操縦者が操縦操作を行うための操作手段と、
前記操作手段と前記航空機の操縦翼とを接続する接続部における前記操作手段の近傍に設けられ、前記操縦翼を動かすアクチュエータ手段とを備えることを特徴とする操縦支援装置。
【請求項2】
前記操作手段は、前記操縦者が手で操作する操縦桿であり、
前記操縦翼がエレベータであり、
前記アクチュエータ手段は、前記操縦桿と前記エレベータとを接続する接続部における前記操縦桿の近傍に設けられ、前記エレベータを動かす手段であることを特徴とする請求項1記載の操縦支援装置。
【請求項3】
前記操作手段は、前記操縦者が手で操作する操縦桿であり、
前記操縦翼がエルロンであり、
前記アクチュエータ手段は、前記操縦桿と前記エルロンとを接続する接続部における前記操縦桿の近傍に設けられ、前記エルロンを動かす手段であることを特徴とする請求項1記載の操縦支援装置。
【請求項4】
前記操作手段は、前記操縦者が足で操作する操縦ペダルであり、
前記操縦翼がラダーであり、
前記アクチュエータ手段は、前記操縦ペダルと前記ラダーとを接続する接続部における前記操縦ペダルの近傍に設けられ、前記ラダーを動かす手段であることを特徴とする請求項1記載の操縦支援装置。
【請求項5】
前記操作手段の操作位置を保持するように前記アクチュエータ手段を制御する制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の操縦支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−173413(P2010−173413A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16824(P2009−16824)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)