説明

擦れ音防止剤及び擦れ音抑制発泡樹脂成形体

【課題】低温から高温までの広い温度領域において擦れ音防止性能を発揮できると共に、他部材に対する汚染を抑制でき、耐水性に優れた擦れ音防止剤及び擦れ音抑制発泡樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】発泡樹脂成形体用の擦れ音防止剤、及びこれを発泡樹脂成形体の表面に塗布してなる擦れ音抑制発泡樹脂成形体である。擦れ音防止剤は、融点40〜100℃のワックス及び流動点−10℃以下の鉱物性油が水性分散媒体に分散されたエマルションからなる。擦れ音防止剤においては、鉱物性油の配合割合がワックスに対する質量比で0.3〜6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂成形体と金属等の他部材との間に生じうる擦れ音の発生を低減又は防止できる擦れ音防止剤、及び該擦れ音防止剤が塗布された擦れ音抑制発泡樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂成形体は、自動車の内装材、電化製品の断熱部材、各種容器等に広く用いられている。ところが、発泡樹脂成形体は、金属等の他部材と接触して接触面で擦れ合うと不快な異音(擦れ音)が発生することがあった。
【0003】
この擦れ音の発生を防止するために、発泡樹脂成形体の表面に、ワックスや界面活性剤を塗布する技術が開発されている(特許文献1〜4参照)。ワックスや界面活性剤を塗布することにより、発泡樹脂成形体の表面の潤滑性を向上させ、他部材との摩擦抵抗を小さくし、擦れ音の発生を防止することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−63745号公報
【特許文献2】特許第4292074号公報
【特許文献3】特開2006−28374号公報
【特許文献2】特開2007−131826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、界面活性剤は、水溶性であるため、水に濡れるおそれのある用途においては耐久性が問題になる。また、ワックスは耐水性には優れるが、融点が40℃以上のものが一般的であり、融点以下ではワックスが硬くなってしまう。そのため、低温領域での擦れ音防止性能が低下しやすく、低温領域での擦れ音防止という点では改善の余地があった。
【0006】
一方、プロセスオイル等のように液状のオイルを用いると、低温領域においても擦れ音防止性能を発揮しうる。
しかし、オイル成分が発泡樹脂成形体の表面に多量に存在すると、発泡樹脂成形体の表面にべたつきが発生してしまう。そのため、発泡樹脂成形体を他部材と組み合わせて使用する例えば自動車用の内装材や電化製品等の用途においては、その組立ラインを汚染し、組立ラインに不具合を発生させてしまうおそれがある。
また、プロセスオイルは、高温で揮発し易い。そのため、高温領域での擦れ音防止性能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、低温から高温までの広い温度領域において擦れ音防止性能を発揮できると共に、他部材に対する汚染を抑制でき、さらに耐水性にも優れた擦れ音防止剤及び擦れ音抑制発泡樹脂成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、発泡樹脂成形体用の擦れ音防止剤であって、
融点40〜100℃のワックス及び流動点−10℃以下の鉱物性油が水性分散媒体に分散されたエマルションからなり、
上記鉱物性油の配合割合が上記ワックスに対する質量比で0.3〜6であることを特徴とする擦れ音防止剤にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の表面に塗布してなることを特徴とする擦れ音抑制発泡樹脂成形体にある(請求項2)。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明の擦れ音防止剤は、上記特定の融点を有するワックスと上記特定の流動点を有する鉱物性油とが上記特定の配合割合で水性分散媒体に配合されたエマルションからなる。
上記擦れ音防止剤においては、上記ワックスと上記鉱物性油とが特定の配合割合で配合されているため、上記擦れ音防止剤を塗布した発泡樹脂成形体においては、低温領域では主に鉱物性油が優れた潤滑性能を示し、高温領域ではワックス及び鉱物性油の両方が優れた潤滑性能を示すことができる。そのため、例えば−30℃〜80℃という幅広い温度領域において、擦れ音防止性能を発揮することができる。
また、上記擦れ音防止剤においては、上記ワックスと上記鉱物性油とが特定の配合割合で配合されているため、高温領域における鉱物性油の揮発が抑制される。そのため、長期間安定して擦れ音防止性能を発揮することができる。
【0011】
また、上記擦れ音防止剤は、水性エマルションからなる。そのため、水性媒体中に上記ワックスと上記鉱物性油とが均一に分散しており、該擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体に塗布すると、該発泡樹脂成形体の表面に上記ワックスと上記鉱物性油とが均一に存在し、潤滑性に優れたものとなる。さらに、上記擦れ音防止剤を塗布した発泡樹脂成形体が他部材に接触したときに、他部材が汚染されてしまうことを抑制することができる。これは、ワックスと鉱物性油とが均一分散しているエマルションを塗布することにより、発泡樹脂成形体表面における鉱物性油の表面存在確率を小さくできるためであると考えられる。
【0012】
また、上記擦れ音防止剤は、非水溶性成分である上記ワックスと上記鉱物性油により擦れ音防止性能を発揮することができる。そのため、耐水性にも優れる。
【0013】
このように、第1の発明によれば、発泡樹脂成形体の表面に塗布することにより、低温から高温までの広い温度領域において擦れ音防止性能を発揮できると共に、他部材に対する汚染を抑制でき、さらに耐水性にも優れた、発泡樹脂成形体用の擦れ音防止剤を提供することができる。
【0014】
第2の発明の擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、上記第1の発明の擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の表面に塗布してなる。
そのため、上記第1の発明の上記擦れ音防止剤の作用効果を生かして、擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、低温から高温までの広い温度領域において擦れ音防止性能を発揮できると共に、他部材に対する汚染を抑制でき、さらに耐水性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記擦れ音防止剤は、発泡樹脂成形体に塗布し、乾燥させ、該発泡樹脂成形体の擦れ音防止用に用いられる。
上記擦れ音防止剤は、エマルションからなり、ワックス及び鉱物性油が、水等の水性分散媒体に分散されている。
【0016】
上記擦れ音防止剤において、上記ワックスとしては、融点40〜100℃のものを採用する。本発明におけるワックスの融点とは、JIS K2235(1991)に基づき測定される値である。なお、JIS K2235(1991)は、石油ワックスの融点の測定方法に関するものであるが、本発明においては、ワックスが石油ワックス以外の合成ワックス等である場合にも、これに従って測定し、特にJIS K2235(1991)の5.3.1に記載の方法に基づいて測定する。
【0017】
上記ワックスの融点が高すぎると、常温領域で十分な擦れ音防止効果が得られなくなるおそれがある。かかる観点から好ましくは、ワックスの融点は上述のごとく100℃がよく、より好ましくは80℃以下がよい。
なお、擦れ音防止効果の観点からは、ワックスの融点の下限は特に限定されるものではないが、市場で容易に入手可能であるものの融点の下限は概ね40℃程度である。したがって、ワックスの融点は上述のごとく40℃以上が好ましい。
【0018】
上記ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックスや、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0019】
上記擦れ音防止剤において、上記鉱物性油としては、流動点−10℃以下のものを採用する。なお、本発明における流動点とは、JIS K2269(1987)に基づいて測定される値である。
上記鉱物性油の流動点が高すぎる場合には、冬場などの低温領域で十分な擦れ音防止効果が得られなくなるおそれがある。かかる観点から上記鉱物性油の流動点は上述のごとく−10℃以下が好ましく、−15℃以下がより好ましい。
なお、低温領域での擦れ音防止効果の観点からは、鉱物性油の流動点の下限は特に限定されるものではないが、市場で容易に入手可能であるものの流動点の下限は概ね−45℃程度である。
【0020】
本発明における鉱物性油とは、原油から分離、蒸留、精製される、パラフィン鎖、ナフテン環、芳香族環などを含有する飽和または不飽和の炭化水素化合物を意味する。芳香族炭化水素化合物は、スチレン系樹脂を過度に溶解してしまうおそれがあるため、発泡樹脂成形体がスチレン系樹脂からなる場合には、鉱物性油の中でも、芳香族炭化水素化合物の含有量が5重量%以下のパラフィン系炭化水素化合物および/またはナフテン系炭化水素化合物を主成分とするものが好ましく、芳香族炭化水素を含まずパラフィン系炭化水素および/またはナフテン系炭化水素化合物からなるものがより好ましい。
【0021】
また、上記擦れ音防止剤において、上記鉱物性油の配合割合は上記ワックスに対する質量比で0.3〜6である。
上記ワックスに対する上記鉱物性油の配合割合が0.3未満の場合には、低温領域での擦れ音防止性能が低下するおそれがある。一方、上記配合割合が6を超える場合には、上記擦れ音防止剤を塗布した発泡樹脂成形体が他部材に接触した際に、鉱物性油が染み出して他部材を汚染し易くなるおそれがある。
好ましくは、上記鉱物性油の配合割合は0.5以上がよく、さらに4以下がよい。
【0022】
次に、上記擦れ音防止剤は、乳化剤を含有し、該乳化剤の配合割合が上記ワックス及び上記鉱物性油の合計量に対する質量比で5〜30であることが好ましい。
この場合には、上記擦れ音防止剤において、エマルションをより安定化させることができ、上記ワックスと上記鉱物性油をより均一に分散させることができる。そのため、上記擦れ音防止剤を上記発泡樹脂成形体に塗布した際に、該発泡樹脂成形体の表面に上記ワックスと上記鉱物性油をより均一に存在させることができる。
【0023】
上記乳化剤としては、水性エマルションの製造に一般に使用されるものを用いることができる。具体的には、例えば、脂肪酸石鹸、アルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩などのアニオン系界面活性剤や、アルコールの脂肪酸エステル、グリセリンの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤等がある。
【0024】
また、上記擦れ音防止剤には、本発明の作用効果を妨げない範囲で、濡れ性を向上させる濡れ剤、酸化防止剤等を任意成分として添加することができる。
【0025】
エマルションからなる上記擦れ音防止剤を製造する方法は、例えば次のとおりである。
まず、ワックス、鉱物性油、及び乳化剤を、ワックスの種類に応じてワックスが融解する温度、例えば温度90℃〜120℃で加熱溶解させる。次いで、ホモミクサーで撹拌しながら、熱水を徐々に添加し、転相乳化を行なう。転相後にさらに熱水を添加し、粗乳化を行ない予備乳化液をつくる。その後、これをホモジナイズ処理してエマルションの粒子を微細化する。このようにして得られたエマルションを室温に近い温度まで急冷することによって、安定なエマルションからなる上記擦れ音防止剤を作製することができる。
【0026】
上記発泡樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリオレフィン中にてスチレンを含浸重合させたスチレン改質ポリオレフィンなどのオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ブタジエン変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂等が例示できる。
【0027】
上記擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の表面に塗布してなる擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれる一種以上からなることが好ましい(請求項3)。
これらの樹脂からなる発泡樹脂成形体においては、その発泡倍率により他部材との間に擦れ音が発生しやすくなるが、上記擦れ音防止剤をその表面に塗布することにより、特に優れた擦れ音防止効果を得ることができる。
【0028】
上記擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、自動車の内装材、電化製品の断熱部材、及び各種容器等の用途に適用することができる。
好ましくは、自動車の内装材に用いられることがよい(請求項4)。
自動車の内装材に用いられる発泡樹脂成形体には、振動が伝わることにより、擦れ音が発生し易い。さらに、自動車の内装材は、−30℃〜80℃という広範囲な温度環境に晒される。上記擦れ音防止剤が塗布された上記擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、このような広範な温度環境下においても上述のごとく優れた擦れ音防止性能を発揮することができる。
【0029】
自動車の内装材としては、例えばフロア材(フロアカーペット、フロア嵩上げ材)がある。即ち、自動車のフロアパネル面はロッカーパネルやダッシュパネルなど、様々な凹凸形状を有しているため、これを平らにして居住性を改善したり衝撃吸収性能を向上させる目的からフロアパネル面上には、発泡樹脂成形体からなるフロア材が敷設される。上記擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、このようなフロア材に適用することができる。また、ティビアパッドに適用することもできる。
その他にも、ドアパッド、ヘッドレスト、及びラゲージボックス等の自動車内装材に適用することができる。
【0030】
本発明の擦れ音抑制発泡樹脂成形体を自動車内装材などに使用する場合には、上記発泡樹脂成形体として、一般には、発泡樹脂粒子を型内で成形してなる発泡粒子成形体が使用される。そして、上記発泡樹脂成形体を構成する樹脂がポリプロピレンである場合には、発泡倍率10〜50倍のものが使用され、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂である場合には、発泡倍率10〜60倍のものが使用される。ここで、上記発泡樹脂成形体がポリプロピレンからなる場合には、発泡倍率が20倍以上になると他部材との間で擦れ音が特に発生しやすい傾向にあり、発泡倍率が高くなるにつれて擦れ音の発生頻度が高くなる傾向にある。一方、スチレン改質ポリオレフィンやポリスチレンからなる場合には、発泡倍率に関わらず他部材との間で擦れ音が特に発生しやすく、やはり発泡倍率が高くなるにつれて擦れ音の発生頻度が高くなる傾向にある。本発明の擦れ音防止剤をこれらの発泡樹脂成形体の表面に塗布することにより、擦れ音の発生を効果的に抑制することができる。
【0031】
なお、本発明において発泡樹脂成形体の発泡倍率とは、発泡樹脂成形体の重量をその体積で除することにより発泡樹脂成形体の見掛け密度を求め、発泡樹脂成形体を構成する樹脂の密度を発泡樹脂成形体の見掛け密度で除することによって求めた値である。
【0032】
本発明において、上記擦れ音防止剤の発泡樹脂成形体表面への塗布方法は特に限定されるものではないが、刷毛等により擦れ音防止剤を成形体表面に塗布する方法や、擦れ音防止剤を水等により希釈してスプレーガンなどを用いて成形体表面に吹き付ける方法などを採用できる。これらの方法の中でも、比較的簡便に、かつ擦れ音防止剤を成形体表面に均一に必要量存在させることができるという観点から、上記スプレーガンによる方法が好ましい。
【0033】
上記擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の表面に塗布した後、該発泡樹脂成形体を例えば70℃程度の高温雰囲気下に静置して、擦れ音防止剤に含まれる水性媒体を蒸発させることにより、本発明の擦れ音防止抑制発泡樹脂成形体を得ることができる。
【0034】
上記発泡樹脂成形体の表面に存在させる、上記擦れ音防止剤の有効成分であるワックスおよび鉱物性油の合計存在量は、擦れ音の発生レベルによって、すなわち、発泡樹脂成形体の基材樹脂の種類および発泡倍率、使用される用途、接触する相手側の部材の素材等に応じて適宜決定することができる。例えば、自動車の内装材に使用される場合には、発泡樹脂成形体の表面1m2あたりにワックスおよび鉱物性油が合計で1g以上存在することが好ましい。より好ましくは2g/m2以上、さらに好ましくは3g/m2以上がよい。
【0035】
一方、擦れ音の発生を抑制するという観点からは、ワックスおよび鉱物性油の合計存在量の上限は特に限定されるものではないが、存在量が多すぎると他部材を汚染しやすくなることから、20g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは10g/m2以下がよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例及び比較例にかかる擦れ音防止剤及び擦れ音抑制発泡樹脂成形体について説明する。
本発明の実施例に係る擦れ音防止剤は、発泡樹脂成形体用の擦れ音防止剤であり、発泡樹脂成形体の表面に塗布して用いられる。擦れ音防止剤は、融点40〜100℃のワックス及び流動点−10℃以下の鉱物性油が水性分散媒体に分散されたエマルションからなる。鉱物性油の配合割合が上記ワックスに対する質量比で0.3〜6である。
【0037】
本例の擦れ音防止剤の作製にあたっては、まず、ワックス、鉱物性油、及び乳化剤を温度95℃で加熱溶解させた。次いで、ホモミクサーで撹拌しながら温度95℃の熱水を徐々に添加し、転相乳化を行なった。転相後にさらに熱水を添加し、粗乳化を行なった。その後、ホモジナイズ処理を施してエマルションの粒子径を均一に調整した。このようにして得られたエマルションを室温に近い温度まで急冷し、安定なエマルションからなる擦れ音防止剤を得た。
【0038】
本例においては、上記作製方法にしたがって、組成の異なる9種類の擦れ音防止剤(試料E1〜試料E4及び試料C1〜試料C5)を作製した。
各試料の擦れ音防止剤の組成を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
(実施例1〜8及び比較例1〜10)
次に、表1に示す各試料の擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体に塗布して擦れ音抑制発泡樹脂成形体を作製した。
各試料の擦れ音防止剤を塗布する発泡樹脂成形体としては、発泡ポリスチレン樹脂粒子(EPS)の型内成形体、又は発泡ポリプロピレン樹脂粒子(EPP)の型内成形体を採用した。発泡樹脂成形体の発泡倍率は40倍又は60倍とした。各実施例及び比較例において用いた発泡樹脂成形体の発泡樹脂の種類及び発泡倍率を後述の表2及び表3に示す。
なお、発泡倍率は上記方法にしたがって求めた値であり、ポリスチレン、ポリプロピレンの密度をそれぞれ1.05g/cm、0.9g/cmとした。
【0041】
具体的には、発泡樹脂成形体として、成形スキンが除去されていない200mm×300mm×25mmの板状の発泡樹脂粒子成形体を用いた。そして、各試料の擦れ音防止剤を水で2倍に希釈し、発泡樹脂成形体の片面にスプレーガンを用いて塗布した。次に、塗布後の発泡樹脂成形体を直ちに温度70℃の乾燥機中に8時間放置して水分を蒸発させ、次いで、室温で24時間放置して、擦れ音抑制発泡樹脂成形体を得た。
【0042】
なお、表2及び表3中の存在量(g/m2)は、発泡樹脂成形体の表面に存在する、単位面積あたりのワックスと鉱物性油との合計存在量である。
存在量(g/m2)は、これをP(g/m2)とし、擦れ音防止剤を塗布する前の発泡樹脂成形体の重量をWA(g)とし、塗布・乾燥後の発泡樹脂成形体全体の重量(擦れ音抑制発泡樹脂成形体の重量)をWB(g)とし、擦れ音防止剤1g中に存在するワックスと鉱物性油との合計量をY(g/g)とし、発泡樹脂成形体表面における擦れ音防止剤を塗布した面積をA(m2)とすると、P=(WB−WA)×Y/Aという式から算出した。ここで、面積Aは、発泡樹脂成形体の外形寸法から求めた値であり、本例においては具体的には0.06m2である。
【0043】
なお、後述の表2及び表3に示すごとく、比較例1〜3は、擦れ音防止剤を塗布していない発泡樹脂成形体である。
また、比較例9及び10は、ワックスのみのエマルションからなる擦れ音防止剤(試料C2)と鉱物性油のみのエマルションからなる擦れ音防止剤(試料C4)とを重ね塗りして作製した擦れ音抑制発泡樹脂成形体である。
即ち、比較例9においては、まず、試料C2の擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の片面に塗布して乾燥させ、次いで、試料C2を塗布した面にさらに試料C4の擦れ音防止剤を塗布して乾燥させた。
また、比較例10においては、まず、試料C4の擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の片面に塗布して乾燥させ、次いで、試料C4を塗布した面にさらに試料C2の擦れ音防止剤を塗布して乾燥させた。
これら比較例9及び比較例10におけるワックスと鉱物性油の存在量については、1回目の塗布時における値と2回目の塗布時における値をそれぞれ後述の表3に示す。
【0044】
次に、各実施例及び比較例において作製した擦れ音抑制発泡樹脂成形体について、以下のようにして「擦れ音評価」及び「汚染性評価」を行なった。
【0045】
「擦れ音評価」
温度−30℃(湿度コントロールなし)、温度23℃(相対湿度50%)、及び温度80℃(湿度コントロールなし)の恒温室内に、各実施例及び比較例で作製した擦れ音抑制発泡樹脂成形体を24時間放置した。次いで、各温度条件下で、軟質塩化ビニルシート、ステンレス板、及び発泡樹脂成形体(各実施例及び比較例で用いた塗布前のものと同一のもの)の上で、各実施例及び比較例の擦れ音抑制発泡樹脂成形体を数秒間擦り、擦れ音の有無を評価した。擦れ音の発生がなかった場合を「○」として評価し、擦れ音が少し発生した場合を「△」として評価し、大きな擦れ音が発生した場合を「×」として評価した。その結果を後述の表2及び3に示す。
【0046】
「汚染性評価」
各実施例及び比較例の擦れ音抑制発泡樹脂成形体を、温度23℃、湿度50%の恒温室内に24時間放置した後、指触で表面のべたつきを評価した。
表面にべたつき感がない場合を「○」として評価し、ほんの少しべたつき感がある場合を「△」として評価し、かなりべたつき感がある場合を「×」として評価した。その結果を後述の表2及び表3に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表2及び表3より知られるごとく、試料E1〜試料E4の擦れ音防止剤を用いて作製した実施例1〜実施例8の擦れ音抑制発泡樹脂成形体は、−30℃〜80℃という広い温度範囲において、擦れ音の発生が抑制されていることがわかる。また、汚染性評価及び耐水性評価にも優れていた。これに対し、比較例1〜10は、擦れ音評価及び汚染性評価の少なくともいずれかに問題があった。
【0050】
本発明の実施例にかかる試料E1〜試料E4の擦れ音防止剤においては、特定の融点を有するワックスと特定の流動点を有する鉱物性油が特定の配合割合で水性分散媒体に配合されたエマルションからなる(表1参照)。そのため、試料E1〜試料E4を塗布した発泡樹脂成形体(実施例1〜8)においては、低温領域では主に鉱物性油が優れた潤滑性能を示し、高温領域では、ワックス及び鉱物性油の両方が優れた潤滑性能を発揮することができる。そのため、表2に示すごとく−30℃〜80℃という幅広い温度領域において、優れた擦れ音防止性能を発揮することができる。
【0051】
また、試料E1〜試料E4においては、ワックスと鉱物性油が上記特定の配合割合で配合されているため、高温領域における鉱物性油の揮発が抑制される。そのため、長期間安定して擦れ音防止性能を発揮することができる。
【0052】
また、試料E1〜試料E4の擦れ音防止剤は、エマルションからなる。そのため、発泡樹脂成形体に塗布すると、発泡樹脂成形体の表面にワックスと鉱物性油を均一に分布させることができ、潤滑性を向上させることができる。そして、ワックスと鉱物性油とが上記特定の割合で配合されているため、擦れ音防止剤を塗布した発泡樹脂成形体が他部材に接触したときに、他部材が汚染されてしまうことを抑制することができる。これは、流動性パラフィンの表面存在確率を小さくできるためであると考えられる。
また、上記擦れ音防止剤は、非水溶性成分である上記ワックスと上記鉱物性油により擦れ音防止性能を発揮することができる。そのため、耐水性にも優れる。
【0053】
このように、本例によれば、低温から高温までの広い温度領域において擦れ音防止性能を発揮できると共に、他部材に対する汚染を抑制でき、耐水性に優れた擦れ音防止剤(試料E1〜試料E4)及び擦れ音抑制発泡樹脂成形体(実施例1〜8)を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂成形体用の擦れ音防止剤であって、
融点40〜100℃のワックス及び流動点−10℃以下の鉱物性油が水性分散媒体に分散されたエマルションからなり、
上記鉱物性油の配合割合が上記ワックスに対する質量比で0.3〜6であることを特徴とする擦れ音防止剤。
【請求項2】
請求項1に記載の擦れ音防止剤を発泡樹脂成形体の表面に塗布してなることを特徴とする擦れ音抑制発泡樹脂成形体。
【請求項3】
請求項2に記載の擦れ音抑制発泡樹脂成形体において、上記発泡樹脂成形体は、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれる一種以上からなることを特徴とする擦れ音抑制発泡樹脂成形体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の擦れ音抑制発泡樹脂成形体において、自動車の内装材に用いられることを特徴とする擦れ音抑制発泡樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−231256(P2011−231256A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104332(P2010−104332)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】