説明

擬似タバコ臭組成物

【課題】タバコ臭をより正確に再現でき、タバコ臭の消臭効果、マスキング効果又は変調効果を好適に評価できる擬似タバコ臭組成物、及びこれを用いるタバコ臭の消臭、マスキング又は変調効果の評価方法の提供。
【解決手段】メトキシフェノールを含有する擬似タバコ臭組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喫煙した時に発生する煙のニオイ、いわゆるタバコ臭をより正確に再現でき、タバコ臭に対する消臭効果、マスキング効果又は変調効果を好適に評価できる擬似タバコ臭組成物、及びこれを用いるタバコ臭の消臭、マスキング又は変調効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅環境の向上により、台所、バス・トイレのニオイが低減され、家庭内の悪臭が減少傾向にあり、健康志向の高まりも相俟って、タバコ臭を気にする人が増えており、室内や衣類等に付着したタバコ臭の消臭に対する要望は年々高まっている。
【0003】
このような状況のもと、タバコ臭の消臭効果、マスキング効果又は変調効果がより高く、即効性のある製品の開発が重要である。従来、評価に供される化合物又は組成物(以下、被検体という)のタバコ臭に対する消臭効果、マスキング効果又は変調効果を評価するには、実際にタバコを喫煙して布にニオイを付着させて、タバコ臭試験サンプルを作製していた。しかし、この方法では、タバコ臭の試験サンプルを作製する度にニオイの強度や質が異なるという問題があり、また、一度に大量に作製し保管するとニオイが揮散する傾向があり、保管が難しいという問題があった。
【0004】
タバコの煙のニオイ成分は、約2000種あるといわれており、非特許文献1には、タバコとタバコの煙に含まれる窒素含有化合物が報告されており、非特許文献2には、紙巻タバコの主流煙の成分が報告されている。しかし、いずれの報告にも、どの成分がニオイ成分として重要なものであるかは述べられていない。
【0005】
また、非特許文献3には、消臭繊維の消臭効果を定量的に測定するために、アンモニア、アセトアルデヒド、酢酸、硫化水素、ピリジンを使用することが報告されているが、これらの成分は定量のし易さの観点から選ばれた成分であり、どの成分がニオイ成分として重要かは述べられておらず、また、これらの成分を組み合わせても、擬似タバコ臭組成物として必ずしも充分満足するレベルとはならなかった。
【0006】
【非特許文献1】Chemical Reviews Vol.77, No.3, p.295〜310, 1977
【非特許文献2】Agric. Biol. Chem., 42(2), 407〜410, 1978
【非特許文献3】日本繊維製品消費科学会誌 Vol.40, No.1, p.45〜51, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況のもと、タバコ臭に対する消臭効果、マスキング効果又は変調効果をより迅速に効率よく、かつ的確に評価できる方法が求められていた。これを実現するためには、いつも同一のニオイの強度と質を有するタバコ臭試験サンプルを簡便に作製できる評価用の擬似タバコ臭組成物の開発が不可欠である。
【0008】
本発明の目的は、喫煙した時に発生する煙、いわゆるタバコ臭をより正確に再現でき、タバコ臭の消臭効果、マスキング効果又は変調効果を好適に評価できる擬似タバコ臭組成物、及びこれを用いるタバコ臭に対する消臭、マスキング又は変調効果の評価方法を提供することにある。
【0009】
ここで、本発明において消臭効果とは、消臭基剤を使った物理・化学的消臭効果を意味し、マスキング効果とは、悪臭より強い香りを使った感覚的消臭効果を意味し、変調効果とは、香りを用いて悪臭の質の印象を変える効果を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、タバコの副流煙と吐出煙を回収して、AEDA(アロマ・エクストラクト・ダイリューション・アナリシス)の手法を用い、タバコの煙に含まれるニオイ成分のうち、最もタバコ臭らしいニオイを持つ成分が、2-メトキシフェノールであり、次に3-ビニルピリジンであることを解明した。この知見に基づき検討した結果、実際のタバコ臭を、より正確に再現できる擬似タバコ臭組成物を得ることに成功した。
【0011】
更に、本発明者らは、この2-メトキシフェノールと3-ビニルピリジンの類縁体のニオイについて調べた結果、2-メトキシフェノールの類縁体である3-メトキシフェノール及び4-メトキシフェノールが2-メトキシフェノールと同様の効果を有すること、更に、3-ビニルピリジンの類縁体である2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン及び4-エチルピリジンが3-ビニルピリジンと同様の効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明はメトキシフェノールを含有する擬似タバコ臭組成物、及びこれを用いる、タバコ臭に対する消臭効果、マスキング効果又は変調効果の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タバコ臭をより正確に再現できるため、これを用いることにより、被検体の消臭効果、マスキング効果又は変調効果を、簡便に効率よく、かつ正確に評価することができ、タバコ臭の消臭関連製品の開発に多大な貢献をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の擬似タバコ臭組成物は、メトキシフェノールを必須成分として含有するものであり、メトキシフェノール単品を用いてもよい。メトキシフェノールとしては、2-メトキシフェノール(グアヤコール;Guaiacol)、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノールがあるが、特に2-メトキシフェノールが好ましい。これらメトキシフェノールは、いずれかを単独で、又は2種若しくは3種を用いることができる。
【0015】
また、本発明の擬似タバコ臭組成物は、更にビニルピリジン及び/又はエチルピリジンを含有してもよい。ビニルピリジンとしては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンがあり、エチルピリジンとしては、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジンがあるが、これらのうち、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジンが特に好ましい。これらビニルピリジン及びエチルピリジンも、いずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(a)メトキシフェノールと、(b)ビニルピリジン及び/又はエチルピリジンの含有量の質量比(a)/(b)は、タバコ臭との類似性の観点より、好ましくは100/0〜10/90、より好ましくは80/20〜40/60、特に好ましくは60/40〜40/60である。
【0017】
また、ビニルピリジン以外に、例えば酢酸、アンモニア、ピリジン、アセトアルデヒド、ニコチン等の公知のタバコ臭成分を加えてもよい。
【0018】
本発明の擬似タバコ臭組成物は、取り扱い性の点より、希釈剤として水、エタノール、クエン酸トリエチル、アセトン、ジプロピレングリコール、流動パラフィン、LPG(液化石油ガス)等の溶剤や、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性等の界面活性剤を含有させることができる。
【0019】
本発明の擬似タバコ臭組成物において、メトキシフェノールの含有量は、好ましくは0.001〜100質量%、より好ましくは0.01〜100質量%であり、ビニルピリジン又はエチルピリジンの含有量は、好ましくは0〜90質量%、より好ましくは0.0001〜80質量%、更により好ましくは0.0001〜60質量%である。
【0020】
本発明の擬似タバコ臭組成物を、喫煙直後の空間のタバコ臭のモデルとして使用する場合には、メトキシフェノールの含有量が10〜100質量%、ビニルピリジン及び/又はエチルピリジンの含有量が0〜90質量%の本発明の擬似消臭剤組成物を1〜100mg程度用いるのが好ましい。
【0021】
発明の擬似タバコ臭組成物を、衣類や毛髪に付着するタバコ臭のモデルとする場合には、メトキシフェノールの含有量が0.01〜0.5質量%、ビニルピリジン及び/又はエチルピリジンの含有量が0.01〜0.5質量%の本発明の擬似タバコ臭組成物を0.1〜10g程度用いるのが好ましい。
【0022】
発明の擬似タバコ臭組成物を、車両や喫煙室の壁紙などに残留した弱いタバコ臭のモデルとする場合には、メトキシフェノールの含有量が0.001〜0.01質量%、ビニルピリジン及び/又はエチルピリジンの含有量が0.001〜0.01質量%の本発明の擬似タバコ臭組成物を10〜1000g程度用いるのが好ましい。
【0023】
本発明の擬似タバコ臭組成物は、液体のままで、又は固形状の担体に含浸して用いることができる。固形状の担体は、擬似タバコ臭組成物が担持できるものであれば特に限定されないが、例えば、シリカゲル、活性炭、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、ゼオライト、珪藻土、粘土鉱物、サイクロデキストリン、タルク、炭酸カルシウム、ゲル化剤、セルロース及びその誘導体、紙、不織布、繊維、樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、ポリビニル、ポリビニリデン、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体、ポリスチレン、ポリアクリレート、アリルスチレン共重合体)等が挙げられる。固形状担体の形態も特に限定されず、例えば粉体、粒状、シート状、塊状等として使用できる。
【実施例】
【0024】
(1) 擬似タバコ臭組成物
<実施例1〜14、比較例1〜6>
20mLのガラスびん中に合計200mgになるように表1に示した成分を混合し、専門パネル3人により、タバコ臭との類似性及びニオイの強さについて、以下に示す評価基準に基づき評価を行い、合議により判定した。その評価結果を表1に示す。
【0025】
<タバコ臭との類似性の評価基準>
◎:非常に似ている(焦げたタバコ臭、喫煙者の着衣・息のような匂い)
○:よく似ている(焦げたタバコ臭)
△:やや似ていない
×:全く似ていない
【0026】
<ニオイの強さの評価基準>
◎:非常に強い
○:強い
△:弱い
×:非常に弱い
【0027】
【表1】

【0028】
2-メトキシフェノール単独を用いた実施例1と、2-メトキシフェノールと2-ビニルピリジン又は3-エチルピリジンとを組み合わせた実施例2〜11はタバコ臭によく似ており、特に実施例3〜7と実施例11は、タバコ臭に非常に似ていた。実施例1〜11は匂いの強さもあり、擬似タバコ臭として充分に使用可能であった。また、2-メトキシフェノールと2-ビニルピリジンとの組合せに、更に、従来、消臭効果の指標に使用されている、酢酸、アンモニア、ピリジン、アセトアルデヒドを組み合わせた実施例12〜14も、タバコ臭に非常に似ており、擬似タバコ臭として充分に使用可能なレベルであった。
これに対し、2-ビニルピリジン単独を用いた比較例1は、タバコ臭にやや似ているものの擬似タバコ臭としては使用可能なレベルではなかった。
【0029】
従来、消臭繊維の消臭効果の測定用に使用されていた物質について検討した結果を比較例2〜6として示す。酢酸単独(比較例2)は、酸っぱいニオイで似ていない。アンモニア単独(比較例3)は、刺激的なアンモニア臭で似ていない。ピリジン単独(比較例4)は、刺激的で生臭い溶剤様臭で似ていない。アセトアルデヒド単独(比較例5)は、発酵臭で似ていない。またニコチン単独(比較例6)は、タバコ臭にやや似ているが非常に弱い。以上より、比較例2〜6のいずれも擬似タバコ臭としては使用可能なレベルではなかった。
【0030】
(2) 擬似タバコ臭組成物を利用した消臭効果の評価1
2-1.試験サンプルの作製
2-メトキシフェノール/2-ビニルピリジン=6/4(質量比)の組成物(実施例5)をエタノールに溶解し、0.1質量%溶液とした。30cm×35cmの木綿布に0.3gをスプレーにて含浸させた後、10分間放置して、エタノールをとばして、タバコ臭試験布とする。
【0031】
2-2.消臭剤の調製
緑茶抽出物(FS-500M,白井松新薬製)の水−エタノール(85質量%/15質量%)5質量%溶液
【0032】
2-3.ニオイの強さの評価基準
以下に示す6段階臭気強度表示法(悪臭防止法における基準)を使用した。
【0033】
5:強烈な匂い
4:強い匂い
3:楽に感知できる匂い
2:何の匂いであるかがわかる弱い匂い
1:やっと感知できる匂い
0:無臭
【0034】
2-4.消臭試験
2-1で作製したタバコ臭試験布を2枚用意し、一方に2-2で調製した消臭剤を24回スプレーし、10分間放置した後に、タバコ臭の評価をした。
その結果、消臭剤をスプレーしなかった試験布のニオイの強度は3であったが、消臭剤をスプレーした試験布のニオイの強度は2に低下しており、消臭効果の評価用の擬似タバコ臭組成物及び消臭評価法として適したものと判断した。
【0035】
(3) 擬似タバコ臭組成物を利用した消臭効果の評価2
試験サンプルとして2-メトキシフェノール/3-エチルピリジン=6/4(質量比)の組成物(実施例11)を用い、前記(2) 擬似タバコ臭組成物を利用した消臭効果の評価1と同様の消臭効果の評価を同様の基準にて行なったところ、消臭剤をスプレーしなかった試験布のニオイの強度は3であったが、消臭剤をスプレーした試験布のニオイの強度は2に低下しており、消臭効果の評価用の擬似タバコ臭組成物及び消臭評価法として適したものと判断した。
【0036】
(4) 擬似タバコ臭組成物を利用した消臭効果の評価3
4-1.試験サンプルの作製
2-メトキシフェノール/2-ビニルピリジン=6/4(質量比)の組成物10mgを、幅7mm、長さ15cm、厚さ1mmのろ紙に含浸させて、タバコ臭試験サンプルとした。
【0037】
4-2.マスキング剤の調製
オレンジオイル50mgを幅7mm、長さ15cm、厚さ1mmのろ紙に含浸させて、消臭剤サンプルとした。
【0038】
4-3.消臭試験
幅1.2m、奥行き1.2m、高さ2.4mの密閉された空間を2つ用意して、両方の空間の底部に、3-1で作製したタバコ臭試験サンプルを、クリップで挟んで設置する。次に一方の空間に更に、3-2で作製した消臭剤サンプルをクリップに固定し設置する。30分後に空間のニオイの強度を評価した。
その結果、消臭剤サンプルを設置しなかった空間のニオイの強度は3であったが、消臭剤サンプルを設置した空間のニオイの強度は2に低下しており、香料によるマスキング効果の評価用の擬似タバコ臭組成物及びマスキング評価法として適したものと判断した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトキシフェノールを含有する擬似タバコ臭組成物。
【請求項2】
更に、ビニルピリジン及び/又はエチルピリジンを含有する請求項1記載の擬似タバコ臭組成物。
【請求項3】
(a)メトキシフェノールと、(b)ビニルピリジン及び/又はエチルピリジンの含有量の質量比(a)/(b)が、100/0〜10/90である請求項2記載の擬似タバコ臭組成物。
【請求項4】
メトキシフェノールが、2-メトキシフェノールである請求項1〜3のいずれかに記載の擬似タバコ臭組成物。
【請求項5】
ビニルピリジンが、2-ビニルピリジン又は3-ビニルピリジンである請求項2〜4のいずれかに記載の擬似タバコ臭組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の擬似タバコ臭組成物を用いる、タバコ臭に対する消臭効果、マスキング効果又は変調効果の評価方法。

【公開番号】特開2006−321943(P2006−321943A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148152(P2005−148152)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】