説明

擬似架橋型環状高分子

【課題】簡便な加工により高い耐熱性と新たな性能が付与された、特に相反する特性を両立して有する擬似架橋型樹脂組成物及びこの擬似架橋型樹脂から成形された成形品を提供することを目的とする。
【解決手段】1種又は2種以上の合成高分子がその分子末端又は末端近傍で分子内結合した環状高分子を含む擬似架橋型樹脂であって、合成高分子が第1の原子団と第2の原子団とを有し、第1の原子団と第2の原子団との間の水素結合による擬似的な架橋が形成されていることを特徴とする環状高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な擬似架橋型樹脂及び前記擬似架橋型樹脂からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成樹脂に関する研究開発が進み、様々な性能を有する合成樹脂が得られるようになった。この様な研究開発のうちでも、既存の合成樹脂にその樹脂の本来有する性能を損なわずに新たな性能を付加しようとする試みが数多く行われている。
【0003】
代表的な合成高分子材料には、例えばアクリル樹脂またはスチレン系樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、熱硬化性樹脂、アイオノマー樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0004】
アクリル樹脂またはスチレン系樹脂の場合は、比較的安価であること、透明性に優れていること、ゴム状物からガラス状ポリマーまで多様な特徴を有するポリマーを比較的容易に製造できること、変性の容易さ等の優れた特徴を有しているが、その反面、強度および耐熱性ならびに靱性の両立向上に大きな課題を残しているため、これを改良しようとする試みが為されている。例えば、靱性の不足はアクリル樹脂全般に共通した課題であるが、これを解決する方法は幾つか報告されており、樹脂中にゴム粒子を添加すること(特開平3−52910号公報)等が知られている。しかし、これらの方法では、樹脂を折り曲げた時に発生する白化現象(折り曲げ加工性)を解決することができない。このため、室温以上のガラス転移点と靱性の必要な薄膜フィルムの形成能(折り曲げ加工性)とを両立するアクリル樹脂は見出されていないのが現状である。また、耐熱性を向上させる方法としては、主鎖に反応性のある原子団を導入し、加熱又は光により熱硬化させることが知られている。この方法では、溶液状態で当該原子団を導入することが一般的であるが、耐熱性は向上するものの、溶媒を除去する際にゲル化等の不具合が生じやすく、溶媒を除去した後の硬化反応に多くの時間を要する等の課題がある。
【0005】
芳香族ポリアミド樹脂では、最も代表的な例としてポリパラフェニレンテレフタルアミドを挙げることができる。芳香族ポリアミド樹脂は、特に優れた結晶性や高い融点や優れた難燃性を有し、剛直な分子構造の故に、高い機械的強度、低い線膨張係数等を有している。しかし、この樹脂の問題点としては、有機溶媒に難溶であり、濃硫酸等の無機の強酸を溶媒として用いなければならない点が挙げられる。濃硫酸等の濃厚溶液から紡糸された繊維は高い強度と弾性率を示すことが知られており、工業的に実施されるに至っている。しかし、フィルムへの応用例は少なく、膨潤状態で延伸を行うことによって達成できることが知られているのみである。ところが、この方法では、製造工程が極めて煩雑であり、生産性が低下し、更には製品価格が上昇するという問題がある。有機溶媒への溶解性を向上させる方法としては、芳香核にハロゲン基を導入した単位または屈曲性の高い単位を共重合する方法が知られている(特公昭56−45421号公報)。しかし、この方法では、耐熱性や難燃性の高さを損なうことが懸念される上に、ハロゲン原子の金属腐食性が問題となる。
【0006】
熱硬化性樹脂は、一般に不溶不融の硬化物であるために、耐溶剤性又は高温下での強度保持率等の耐久性に非常に優れる特徴を有する。しかし、架橋反応が共有結合により形成されているため、架橋反応の形成に多くの時間を要する等の課題があり、再加工することができないという問題点もある。この欠点は、近年のリサイクル性の確保に関して致命的欠点である。
【0007】
リサイクル可能な熱硬化性樹脂に最も近いものとしては、アイオノマー樹脂を挙げることができる。これは、側鎖にカルボキシル基を有するポリマーに、酸化マグネシウム又は水酸化カルシウム等の金属酸化物又は金属水酸化物を添加したものである。金属とカルボキシル基との間にイオン結合を形成することによって、擬似的架橋点を形成するものである。この方法では、ある程度の耐熱性、靱性の向上は認められるものの、金属化合物とカルボキシル基の結合力が弱いこと、金属化合物の樹脂に対する溶解性が低いために少量しか添加できないこと等の理由により、大きな特性の向上は認められない。
【0008】
また、エンジニアリングプラスチックの中でもポリイミド樹脂は、極めて高い耐熱性と強靱なフィルム性能を有しており工業的に極めて有用な材料である。ポリイミドをフィルム状に加工する方法としては、ポリイミド溶液を塗工した後、高温度で加熱することによりイミド環を形成することが一般的である。この際、一度イミド環を形成してしまうと溶媒に対する溶解性は著しく低下してしまう。この特徴は、ポリイミドをリサイクルする際には極めて重大な欠点となる。そこで、溶媒に対する溶解性と高耐熱性を両立できる材料が求められており、芳香核にアルキル等の置換基を導入した単位を共重合することにより有機溶媒への溶解性を向上させる方法が知られている。しかし、この方法ではガラス転移温度が320℃以上の材料は得られていない。また、この方法の欠点としては、モノマーが高価であるために製品価格が高くなるという問題がある。
【特許文献1】特開平3−52910号公報
【特許文献2】特公昭56−45421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記観点から為されたものであり、分子末端を同一分子内で結合させた環状の合成樹脂の分子間に十分な水素結合を形成させて擬似的な架橋構造を持たせることで、簡便な加工により高い耐熱性と新たな性能が付与された、特に相反する特性(例えば強度および耐熱性ならびに靱性)を両立して有する擬似架橋型樹脂組成物及びこの擬似架橋型樹脂から成形された成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、各種の分子末端を同一分子内で結合させた環状合成高分子に特定の官能基を組合せて導入することで、官能基の相互作用により合成環状高分子間に水素結合が形成されて架橋構造と類似の構造を持たせることが可能となり、合成樹脂に新たな性能を付与することが容易に達成されること、特に相反する特性を両立して有する合成樹脂の作製が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)1種又は2種以上の合成高分子がその分子末端又は末端近傍で分子内結合した環状高分子を含む擬似架橋型樹脂であって、
合成高分子が、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、およびスルホン酸基からなる群から選択される基を含有する第1の原子団と、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基からなる群から選択される基を含有する第2の原子団とを有し、
第1の原子団と第2の原子団との間の水素結合による擬似的な架橋が形成されていることを特徴とする環状高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物。
ここで、第1の原子団と第2の原子団との間の水素結合は、少なくとも分子間水素結合である。
【0012】
(2)合成高分子が同一分子内に第1の原子団と第2の原子団の両方を有することを特徴とする(1)に記載の環状高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物。
(3)第1の原子団が〔化1〕〜〔化3〕に示される構造式群(以下「構造式群A」という)から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化4〕〜〔化6〕に示される構造式群(以下「構造式群B」という)から選択される基本骨格を有する原子団であることを特徴とする、(1)に記載の環状高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜5の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。また、式中、炭素に結合する水素は、アシル基又は脂肪族系炭化水素基で置換可能なアミノ基で置換されていてもよい。]
【0021】
(4)第1の原子団が〔化7〕に示される構造式群(以下「構造式群C」という)から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化8〕に示される構造式群(以下「構造式群D」という)から選択される基本骨格を有する原子団である、(3)に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【0022】
【化7】

【0023】
[上記式中、R1及びR2は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜3の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【0024】
【化8】

【0025】
[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。]
【0026】
(5)合成高分子の分子量が5000以上であることを特徴とする(1)に記載の擬似架橋型樹脂。
【0027】
(6)環状高分子が、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、エステル結合、エーテル結合、炭素―炭素結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合を有する環状合成高分子から選択され、第1の原子団が〔化9〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化10〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であることを特徴とする、(1)に記載の環状高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物。
【0028】
【化9】

【0029】
[上記式中、R1及びR2は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜3の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【0030】
【化10】

【0031】
[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。]
【0032】
(7)環状合成高分子が芳香族系ポリアミドであり、第1の原子団が〔化11〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化12〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であることを特徴とする、(1)に記載の環状高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物。
【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の擬似架橋型樹脂組成物から成形された成形品。
【0036】
(9)成形品がフィルムであることを特徴とする(8)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0037】
本発明の擬似架橋型環状高分子樹脂組成物により、線状高分子には見られない特徴を得ることができる。すなわち、本発明の擬似架橋型樹脂組成物は、溶媒除去するのみで加熱硬化工程を設けることなく、熱硬化性樹脂同等の高耐熱性、低熱膨張性、耐溶剤性等を有するものとして得ることができ、したがって、加熱硬化工程が不要となることによりその生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明を実施の形態により具体的に説明する。
【0039】
本発明の擬似架橋型樹脂組成物は、1種又は2種以上の合成高分子がその分子末端又は末端近傍で同一分子内で結合した環状高分子を含み、合成高分子が少なくとも分子間で水素結合を形成することで擬似的に架橋した構造を有する擬似架橋型樹脂組成物であって、ここで合成高分子は、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基からなる群から選択される基を含有する第1の原子団と、第1の原子団と相互に作用して水素結合を形成し得る、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基からなる群から選択される基を含有する第2の原子団とを有し、両原子団を介して水素結合を形成していることを特徴とする。
【0040】
1.環状高分子
まず、本発明の分子末端又は末端近傍において同一分子内で結合した環状高分子について説明する。
【0041】
環状高分子は、両末端に官能基を有する線状高分子を分子間反応が起こりにくい希薄溶液中で、両末端官能基と反応することができる多官能化合物と反応させることで製造することができる。以下にポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂の場合を例として詳細を説明する。
【0042】
(1)アミド結合からなる線状高分子の合成
主鎖を構成する結合が主としてアミド結合からなる線状高分子の合成については、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例えば、ジアミン化合物とジ酸クロライドを非活性の溶媒中で反応させることにより合成することができる。用いることができるジアミン化合物としては、ジアミノベンゼン、ジアミノナフタレン、ジアミノアントラセン、炭素数が1から15のアルキルジアミン化合物、ジアミノピリジン、ジアミノピペラジン、ジアミノピリミジン等のヘテロ環を有するジアミノ化合物、カルボキシル基を有する芳香族ジアミノ化合物、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、ビスアミノフェノキシビフェニル、ビスアミノフェニルスルホン等が挙げられるが、ここに示した化合物は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0043】
用いることができるジ酸クロライドとしては、フタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、テルフタル酸クロライド、ナフタレンジ酸クロライド、アントラセンジ酸クロライド、炭素数1から15のジ酸クロライド等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0044】
重合方法については、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例えば、非活性溶媒中で前記ジアミノ化合物と前記ジ酸クロライドとを反応させることにより合成することができる。用いることができる溶媒としては、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、公知の界面重縮合反応を用いることもできる。例えば、ジアミノ化合物を蒸留水中に溶解させ、ジ酸クロライドを水と非相溶の溶媒である塩化メチレン、クロロホルム、トルエン、キシレン等に溶解させ界面にて重縮合させることにより合成することもできる。
【0045】
溶液重合を行う際には、生成した高分子の溶媒への溶解性が高いことが望ましい。生成した高分子が溶媒への溶解性が低いために溶媒から析出する場合には、高分子の分子量をそれ以上大きくすることができないからである。溶解性を挙げる方法として、塩化リチウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、臭化カルシウム等の塩を添加することができる。ここに挙げた塩は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0046】
溶液重合を行う際の温度には特に制限はなく、いかなる温度でも適宜選択することができる。重合温度が高すぎると水等との副反応が相対的に増加する可能性があり、重合温度が低すぎると反応性が低下するおそれがある。そのため重合温度は0℃から100℃程度が好ましく、更に好ましくは10℃から60℃程度、最も好ましくは10℃から30℃程度である。未反応の単量体を低減する目的で、反応がほぼ終了した後に重合温度を100℃以上に上げることも可能である。
【0047】
単量体の濃度には特に制限はなく、適宜選択することができる。濃度が低すぎると反応速度が低下し、高分子量体を得るための時間が著しく増加する。また濃度が高すぎると、重合反応の進行に伴って重合系の粘度が上昇し、取り扱いが困難となる。単量体の濃度は、5重量%から50重量%であることが好ましく、更に好ましくは10重量%から40重量%であり、最も好ましくは、15重量%から30重量%である。
【0048】
本明細書において、線状高分子は、両末端に官能基が導入されていることが好ましい。両末端に導入する官能基の種類には特に制限はなく、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアネート基、フェノール性水酸基、グリシジル基、ハロゲン化アルキル基等を用いることができる。
【0049】
末端に官能基を導入する方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ジアミノ化合物とジ酸クロライド化合物とを反応させてアミド系高分子を得る場合には、当モルのジアミノ化合物とジ酸クロライドを配合し所定の濃度、温度で反応させた後、用いたジアミノ化合物を更に添加し、末端に存在する可能性のある酸クロライドをアミノ基と反応させることにより両末端にアミノ基を導入することができる。両末端に酸クロライド基を導入したい際には、反応後添加するジアミノ化合物の代わりに酸クロライド化合物を添加することにより実現することができる。但し、目的の高分子の純度を上げるためには、単離精製する必要がある。単離方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0050】
アミノ基又は酸クロライド基以外の官能基を導入する場合にも、その方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、一旦両末端にアミノ基又はカルボキシル基を導入した高分子に、更に所定の導入目的の官能基を同一分子中に複数有する化合物を大過剰に加えて反応させることにより導入することができる。目的の高分子の純度を上げるためには、単離精製する必要がある。単離方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0051】
(2)ポリアミド樹脂からなる環状高分子の合成
上述のようにして得られた主としてアミド結合からなる線状高分子の両末端を同一分子内で共有結合させることにより、環状高分子を製造することができる。同一分子内で両末端を結合させる方法を以下に具体例を挙げて説明する。
【0052】
主としてポリアミド結合からなる線状高分子の両末端を同一分子内で反応させるためには、溶液中で行うことが好ましい。溶媒は線状高分子が溶解するものであれば特に制限はなく、公知の溶媒を用いることができる。例えば、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド等を用いることができるが、ここに示した溶媒は一例であり、これらに制限されるものではない。溶解性を向上させるために、塩化リチウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、臭化カルシウム等を添加することができるが、ここに示した化合物は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0053】
線状高分子を溶媒に溶解させる条件に特に制限はない。例えば、加熱によって溶解速度を上げることにより溶解時間を短縮することができる。線状高分子の濃度は、線状高分子の孤立鎖が重なり合わない濃度であれば特に制限はない。0.1重量%から5重量%未満が好ましく、更に好ましくは0.2重量%から4重量%であり、最も好ましくは0.3重量%から3重量%である。線状高分子の濃度が0.1重量%未満であると、生産性が非常に悪化し、線状高分子の濃度が5重量%を超えると、同一分子内での両末端間反応に対して異なる分子間の末端間反応が優先的に生起するために、環状高分子が得られにくくなる。
【0054】
同一分子内の両末端を結合させるためには、上述のように、線状高分子の両末端に官能基を有することが有効である。両末端の官能基は同一のものでもよく、異なるものでも良い。両末端に同一の官能基を有する場合には、その官能基と反応できる2官能性の化合物を用いる必要がある。両末端の官能基が異なる場合は、各々が反応し共有結合を形成できることが必要である。
【0055】
線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる際の反応温度には、分子末端間の距離が最も近づく温度を選定する必要がある以外は特に制限はない。例えば、反応温度は0℃から200℃が好ましく、更に好ましくは10℃から180℃、最も好ましくは20℃から150℃である。反応時間は、特に制限はないが、反応が完結するまで継続することが必要である。
【0056】
両末端に同一の官能基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、当該官能基と反応性がある2官能以上の多官能化合物を用いて当該線状高分子の両末端をつなぐことにより達成する方法が挙げられる。線状高分子の両末端に有する同一の官能基としては、例えばアミノ基、酸クロライド基、水酸基、酸無水物基、イソシアネート基、グリシジル基、ハロゲン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0057】
例えば、線状高分子の両末端の官能基が共にアミノ基である場合には、2官能以上の酸クロライドを用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成することができる。用いることのできる酸クロライドとしては、炭素数2から15の脂肪族ジ酸クロライド、フタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、2官能以上の酸クロライドの代わりに、酸無水物を用いることもできる。用いることのできる酸無水物としては、例えば無水ピロメリット酸等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
さらに、同一分子内に酸無水物基と酸クロライド基を有する化合物を用いることもできる。例えば、無水トリメリット酸クロライド等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。
2官能以上の多官能化合物としてはまた、同一分子内にハロゲン原子を2個以上有する脂肪族系化合物を用いることができる。例えば、炭素数2から15のジハロゲン化アルキルを挙げることができる。ハロゲンとしては、塩素原子、臭素原子が用いることができるが、臭素原子が最も好適である。
さらに、2つ以上のグリシジル基を有する化合物を用いることができる。例えばビスフェノールAのエピクロロヒドリン付加物等を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を用いることができる。例えば、フェニルジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート、イソシアネート基を2個以上有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物等を挙げることができる。ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0058】
両末端に酸クロライド基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0059】
両末端に水酸基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上の酸クロライド基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐ方法が挙げられる。例えば、炭素数2から15の脂肪族ジ酸クロライド、フタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド等を用いることができる。また、2つ以上の酸クロライド基を有する化合物の代わりに、酸無水物(例えば、無水ピロメリット酸等)を用いることができる。さらに、同一分子内に酸無水物基と酸クロライド基を有する化合物を用いることもできる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0060】
両末端に酸無水物基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0061】
両末端にイソシアネート基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。さらに、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0062】
両末端にグリシジル基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。さらに、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0063】
両末端に塩素原子または臭素原子等のハロゲンを有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、前記した2つ以上の水酸基を有する化合物の金属アルコラートも用いることができる。用いることのできる金属としては、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0064】
添加する多官能化合物の量は、線状高分子の両末端の量に対して0.5倍モルから500倍モルが好ましい。更に好ましくは、0.5倍モルから400倍モルであり、最も好ましくは、0.5倍モルから300倍モルである。例えば、ジ酸クロライドの添加量が0.5倍モル未満のときは環状構造高分子の生成量が低下し、500倍モルを超えると分子間反応が相対的に多く起こり、環状構造高分子の生成量が低下する。
【0065】
(3)エステル結合からなる線状高分子の合成
主鎖を構成する結合が主としてエステル結合からなる線状高分子の合成については、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例えば、ジオール化合物とジ酸クロライド化合物を非活性の溶媒中で反応させることにより合成することができる。
用いることができるジオール化合物としては、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシアントラセン、炭素数が1から15のアルキルジオール化合物、ジヒドロキシピリジン、ジヒドロキシピペラジン、ジヒドロキシピリミジン等のヘテロ環を有するジオール化合物、カルボキシル基を有する芳香族ジオール化合物、ビスヒドロキシフェノキシフェニルプロパン、ビスヒドロキシフェノキシビフェニル、ビスヒドロキシフェニルスルホン、ビフェノール等が挙げられるが、ここに示した化合物は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0066】
また、用いることができるジ酸クロライド化合物としては、フタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、テルフタル酸クロライド、ナフタレンジ酸クロライド、アントラセンジ酸クロライド、炭素数1から15のジ酸クロライド等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0067】
重合方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、非活性溶媒中で前記ジアミノ化合物と前記ジ酸クロライド化合物を反応させることにより合成することができる。用いることができる溶媒としては、ジメチルアセトエステル、N-メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、公知の界面重縮合反応を用いることもできる。例えば、ジオール化合物を蒸留水中に溶解させ、ジ酸クロライド化合物を水と非相溶の溶媒である塩化メチレン、クロロホルム、トルエン、キシレン等に溶解させ界面にて重縮合させることにより合成することもできる。但し、ここに示した方法は一例であり、これらの方法に制限されるものではない。
【0068】
溶液重合を行う際に用いる溶媒には特に制限はなく、生成した高分子が溶解するものであればいかなるものも用いることができる。更に、生成した高分子の溶媒への溶解性が高いことが望ましい。何故ならば、生成した高分子が溶媒への溶解性が低いために溶媒から析出する場合には、分子量をそれ以上大きくすることができないからである。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、γ―ブチロラクトン、トルエン、キシレン、アルキルベンゼン、ピリジン、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン等を挙げることができるが、ここに示した化合物は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0069】
溶液重合を行う際の温度には、特に制限はなく、いかなる温度でも適宜選択することができる。重合温度が高すぎると水等との副反応が相対的に増加する可能性があり、重合温度が低すぎると反応性が低下するおそれがある。そのため重合温度は0℃から300℃程度が好ましく、更に好ましくは10℃から200℃程度、最も好ましくは20℃から180℃程度である。未反応の単量体を低減する目的で、ほぼ反応が終了した後に重合温度を250℃以上に上げることも可能である。
【0070】
単量体の濃度には特に制限はなく、適宜選択することができる。濃度が低すぎると反応速度が低下し、高分子量体を得るための時間が著しく増加する。また濃度が高すぎると、重合反応の進行に伴って重合系の粘度が上昇し、取り扱いが困難となる。単量体の濃度は、5重量%から50重量%であることが好ましく、更に好ましくは10重量%から40重量%であり、最も好ましくは、15重量%から30重量%である。
【0071】
本明細書において、線状高分子は、両末端に官能基が導入されていることが好ましい。両末端に導入する官能基の種類に特に制限はなく、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアネート基、フェノール性水酸基、グリシジル基、ハロゲン化アルキル基等を用いることができる。
【0072】
末端に官能基を導入する方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ジオール化合物とジ酸クロライド化合物とを反応させてエステル系高分子を得る場合には、当モルのジオール化合物とジ酸クロライド化合物を配合し所定の濃度、温度で反応させた後、用いたジオール化合物を更に添加し、末端に存在する可能性のある酸クロライドを水酸基と反応させることにより両末端に水酸基を導入することができる。両末端に酸クロライド基を導入したい際には、反応後添加するジオール化合物の代わりに酸クロライド化合物を添加することにより実現することができる。但し、目的の高分子の純度を上げるためには、単離精製する必要がある。単離方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0073】
水酸基又は酸クロライド基以外の官能基を導入する場合にも、その方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、一旦両末端に水酸基又はカルボキシル基を導入した高分子に更に所定の導入目的の官能基を同一分子中に複数有する化合物を大過剰に加え反応させることにより導入することができる。目的の高分子の純度を上げるためには、単離精製する必要がある。単離方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0074】
(4)ポリエステル樹脂からなる環状高分子の合成
上述のようにして得られた主としてエステル結合からなる線状高分子の両末端を同一分子内で共有結合により結合させることにより、環状高分子を製造することができる。同一分子内で両末端を結合させる方法を以下に具体例を挙げて説明する。
【0075】
主としてポリエステル結合からなる線状高分子の両末端を同一分子内で反応させるためには、溶液中で行うことが好ましい。溶媒は線状高分子が溶解するものであれば特に制限はなく、公知の溶媒を用いることができる。例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、γ―ブチロラクトン、トルエン、キシレン、アルキルベンゼン、ピリジン、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができるが、ここに示した溶媒は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0076】
線状高分子を溶媒に溶解させる条件に特に制限はない。例えば、加熱によって溶解速度を上げることにより溶解時間を短縮することができる。線状高分子の濃度は、線状高分子の孤立鎖が重なり合わない濃度であれば特に制限はない。線状高分子の濃度は、0.1重量%から5重量%未満が好ましく、更に好ましくは0.2重量%から4重量%であり、最も好ましくは0.3重量%から3重量%である。線状高分子の濃度が0.1重量%未満であると、生産性が非常に悪化し、線状高分子の濃度が5重量%を超えると、同一分子内での両末端間反応に対して異なる分子間の末端間反応が優先的に生起するために、環状高分子が得られにくくなる。
【0077】
同一分子内の両末端を結合させるためには、線状高分子の両末端に官能基を有することが有効である。両末端の官能基は同一のものでもよく、異なるものでもよい。同一の官能基を有する場合には、その官能基と反応できる2官能性の化合物を用いる必要がある。両末端の官能基が異なる場合は、各々が反応し共有結合を形成できることが必要である。
【0078】
線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる際の反応温度には、分子末端間の距離が最も近づく温度を選定する必要がある以外は特に制限はない。例えば、反応温度は0℃から200℃が好ましく、更に好ましくは10℃から180℃、最も好ましくは20℃から150℃である。反応時間は、特に制限はないが、反応が完結するまで継続することが必要である。
【0079】
両末端に同一の官能基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、当該官能基と反応性がある2官能以上の多官能化合物を用いて当該線状高分子の両末端をつなぐことにより達成する方法が挙げられる。線状高分子の両末端に有する同一の官能基としては、例えば水酸基、酸クロライド基、アミノ基、酸無水物基、イソシアネート基、グリシジル基、ハロゲン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0080】
例えば、線状高分子の両末端の官能基が水酸基である場合は、2官能以上の酸クロライド化合物を用いて当該高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成できる。用いることのできる酸クロライド化合物としては、炭素数2から15の脂肪族ジ酸クロライド、フタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、酸クロライド化合物の代わりに、テトラカルボン酸の酸無水物(例えば、無水ピロメリット酸等)を用いることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
さらに、同一分子内に酸無水物基と酸クロライド基を有する化合物を用いることもできる。例えば、無水トリメリット酸クロライド等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。
さらに、2つ以上のグリシジル基を有する化合物を用いることができる。例えばビスフェノールAのエピクロロヒドリン付加物等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を用いることができる。例えば、フェニルジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート、イソシアネート基を2個以上有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0081】
両末端に酸クロライド基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0082】
両末端にアミノ基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2官能以上の酸クロライド化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできる酸クロライド化合物としては、炭素数2から15の脂肪族ジ酸クロライド、フタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド等が挙げられるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。また、2官能以上の酸クロライド化合物の代わりに、酸無水物を用いることもできる。例えば、無水ピロメリット酸等を用いることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
さらに、同一分子内に酸無水物基と酸クロライド基を有する化合物を用いることもできる。例えば、無水トリメリット酸クロライド等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。
さらに、同一分子内にハロゲン原子を2個以上有する脂肪族系化合物を用いることができる。例えば、炭素数2から15のジハロゲン化アルキルを挙げることができる。ハロゲンとしては、塩素原子、臭素原子が用いることができるが、臭素原子が最も好適である。
また、2つ以上のグリシジル基を有する化合物を用いることができる。例えばビスフェノールAのエピクロロヒドリン付加物等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
また、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を用いることができる。例えば、フェニルジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート、イソシアネート基を2個以上有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物等を挙げることができるが、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0083】
両末端に酸無水物基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0084】
両末端にイソシアネート基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。また、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0085】
両末端にグリシジル基を有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2つ以上の水酸基を有する炭素数2から15の脂肪族系炭化水素化合物を挙げることができる。また、前記した酸クロライド化合物の酸クロライド基をカルボキシル基に変えた化合物も用いることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0086】
両末端に塩素原子または臭素原子等のハロゲンを有する線状高分子の両末端を同一分子内で結合させる方法としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物を用いて当該線状高分子の両末端を共有結合でつなぐことにより達成する方法が挙げられる。用いることのできるアミノ化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する炭素数2から15の脂肪族炭化水素化合物を挙げることができる。また、2つ以上のアミノ基を有する化合物の代わりに、前記した2つ以上の水酸基を有する化合物の金属アルコラートも用いることができる。用いることのできる金属としては、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。但し、ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0087】
添加する多官能化合物の量は、線状高分子の両末端の量に対して0.5倍モルから500倍モルが好ましく、更に好ましくは、0.5倍モルから400倍モルであり、最も好ましくは、0.5倍モルから300倍モルである。例えば、ジ酸クロライドの添加量が0.5倍モル未満のときは環状構造高分子の生成量が低下し、500倍モルを超えると分子間反応が相対的に多く起こり、環状構造高分子の生成量が低下する。
【0088】
(5)その他の環状高分子
以上に示した環状高分子の合成例は一例であり、上述のアミド結合、エステル結合が主鎖を構成する主たる結合である高分子の他に、イミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、炭素―炭素結合が主鎖を構成する主たる結合である高分子にも応用することができる。
【0089】
2.合成高分子を構成する第1の原子団および第2の原子団
次に、本発明の擬似架橋型樹脂を構成する合成高分子が有する上記第1の原子団および第2の原子団について説明する。
【0090】
(1)第1の原子団
上記カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基から選択される基を含有する第1の原子団としては、これらの基を少なくとも1個有する原子団であれば特に制限されないが、具体的には、例えば上記構造式群Aから選ばれる基本骨格を有する原子団が挙げられる。なお、構造式群Aにおいて、R1−(COOH)は、分子内にカルボキシル基を2〜6個有するカルボン酸化合物を示し(mは2〜6の整数を示す)、この化合物においてはいずれのカルボキシル基も式中R1で示される脂肪族系又は芳香族系炭化水素基のいずれの位置に結合していてもよい。
【0091】
構造式群Aに基本骨格が示される原子団として、より具体的には、カルボニル基を基本骨格に有する原子団については、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキシル-2-プロパノン、2,4-ヘキサンジオン、3-アリル-2,4-ペンタンジオン、4-ペンテン-2-オン、5-プロピル-5-ヘキサン2,4-ジオン、アセトン、バイアセチル、1-(2-ナフチル)-6-フェニル-2,5-ヘキサンジオン、1,5-ジ-(2-フリル)-1,5-ペンタンジオン、1-(2-ピリジル)-1-ブタノン、アセトフェノン、1'-ブチルナフトン、4'-クロロウンデカノフェノン、プロピオフェノン、デオキシベンゾイン、カルコン、ジ-2-フリルケトン、2-フリル2-ピリジルケトン、ビス(5-メチル-2-チエニル)ケトン、2-ブロモ-1-ナフチル1−クロロ-2-ナフチルケトン、ジ-2-ナフチルジケトン、ジ-3-ピリジルトリケトン、2-フリル-2-ピロールジケトン、
【0092】
シクロヘキサノン、2,5-シクロヘキサジエン-1-オン、インデン-1-オン、1,2,3-インダントリオン、フルオレン-9-オン、4H-ピラン-4-オン、2(3H)-ピラジオン、1(2H)-ナフチレノン、5,8-キノリジオン、9(10H)-フェナントロン、2-ピリドン、4-ピリドン、2-キノロン、4-キノロン、1-イソキノロン、9-アクリドン、4-オキサゾロン、4-ピラゾロン、5-ピラゾロン、4-イソオキサゾロン、4-チアゾロン、4-ピペリドン、2-ピロリドン、4-チアゾリドン、p-ベンゾキノン、アントラキノン、1,4-ナフトキノン、5,6-クリセンキノン、2-アセトイル1,4-ナフトロキノン、フェニルケテン、ジブチルケテン等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0093】
また、カルボキシル基を基本骨格に有する原子団としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、オレイン酸、エライジン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メザコン酸、ショウノウ酸、
【0094】
安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフトエ酸、トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ケイ皮酸、フル酸、テン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、4-オキソ-1-シクロヘキサンカルボン酸、5-オキソ-2-ピロリジンカルボン酸、7-(1,4-ベンゾキノニル)-2-ナフタレンカルボン酸、o-(2-フロイル)ベンゼンカルボン酸、4,4'-カルボニルジベンゼンカルボン酸、5-(o-カルボキシベンゾイル)-2-フランカルボン酸、2-ヘキセン-4-イン二酸、4-ペンチル-2,4-ペンタン二酸、4-エチル-2-プロピルヘキサン二酸、3-ビニル-4-ヘキシン酸、2,5-ジフェニルヘプタン二酸、3-ビフェニルカルボン酸、1-ピロールカルボン酸、
【0095】
3-(3-フェニルプロピル)-1-シクロブタンカルボン酸、シクロヘキシルカルボン酸、1,3,5-ナフタレントリカルボン酸、3-(カルボキシメチル)ヘプタン二酸、6-(2-ナフチル)ヘキサン酸、1,3,6-ナフタレントリ酢酸、3-メチル-5-(1-ナフチル)ヘキサン酸、6-カルボキシ-1-(カルボキシメチル)-2-ナフタレンプロピオン酸、2,3,5-ヘキサントリカルボン酸、2-(3−カルボキシピロピル)-1,1,5,6-ヘプタンテトラカルボン酸、1,2,3-ブタントリカルボン酸、2-(シクロヘキシルカルボニル)-1-ナフタレンカルボン酸、β-オキソシクロヘキサンプロピオン酸、γ-オキソ-6-クリセン酪酸、
【0096】
β-オキソ-3-ピリジンプロピオン酸、ホルミルコハク酸、p-(2-オキソブチル)ベンゼンカルボン酸、ベンゾイルベンゼンカルボン酸、6-クロロ-ホルミルヘキサン酸、p-(3-ホルミルプロピル)ベンゼンカルボン酸、フタルアルデヒド酸、イソフタルアルデヒド酸、グルタルアルデヒド酸、マロンアルデヒド酸、テレフタルアルデヒド酸、サリチル酸、サリチロイルサリチル酸、3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸等を挙げることができるが、これらに制限されない。
【0097】
フェノール性水酸基を基本骨格に有する原子団としては、具体的には、フェノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4'-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2-メチレンビス(4-メチル-6-tブチル-3-メチルフェノール)、トリエチレングリコールビス(3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスフォネートジエチルエステル、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0098】
さらに、スルホン酸基を基本骨格に有する原子団としては、具体的には、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トルエンスルホン酸、2,4-トルエンジスルホン酸、1-ピペリジンスルホン酸、ナフチオン酸、スルファニル酸、タウリン、4,6-ジスルフィノ-1-ナフトン酸、p-スルホベンゼンカルボン酸、1-ナフチルアミン-4,7-ジスルホン酸等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0099】
これらのうちでもさらに、本発明に適用される上記第1の原子団として、より好ましくは、上記構造式群Cから選択される基本骨格を有する原子団が挙げられ、さらに好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフトエ酸、フェノール、クレゾール、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トルエンスルホン酸等の原子団が挙げられる。
【0100】
なお、上記A及びCの構造式群に示す基本骨格およびそれらを基本骨格に有する第1の原子団においては、これらが合成高分子の分子末端、側鎖、骨格中等に結合するための結合手が記載されていないが、上記カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基が残される形で、構造式中の置換可能な水素原子を外すことで結合手とすることができる。また、上記基本骨格に、他の官能基と反応して各種共有結合を形成しうる官能基、例えば、ビニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、酸クロライド基、グリシジル基、エチニル基、チオール基等の官能基を、上記カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基が残される形で導入した構造も第1の原子団の基本骨格に含まれ、この場合は、上記導入された官能基を介して合成高分子の分子末端、側鎖、骨格等に結合されていると考えればよい。
【0101】
(2)第2の原子団
上記アシル基又は脂肪族系炭化水素基で置換可能なアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基から選択される基を含有する第2の原子団としては、これらの基を少なくとも1個有する原子団であれば特に制限されないが、具体的には、例えば上記構造式群Bから選ばれる基本骨格を有する原子団が挙げられる。
【0102】
構造式群B群に示される基本骨格を有する原子団として、より具体的には、アシル基又は脂肪族系炭化水素基で置換可能なアミノ基を基本骨格に有する原子団については、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂肪族アミン、フェニルアミン、ベンジルアミン等の芳香族アミン、(アミノフェニル)エタン、(アミノフェニル)エチレン、(アミノフェニル)エチン、(アミノフェノキシ)エタン、(アミノフェノキシ)エチレン、(アミノフェノキシ)エチン、(アミノベンジル)エタン、(アミノベンジル)エチレン、(アミノベンジル)エチン等の脂肪族置換芳香族アミン、(フェニルエチル)アミン、(フェノキシエチル)アミン、(ベンジルエチル)アミン等の芳香族置換脂肪族アミン、
【0103】
ジアミノメタン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン等の脂肪族ジアミン、ジアミノベンゼン等の芳香族ジアミン、(ジアミノフェニル)エタン、(ジアミノフェニル)エチレン、(ジアミノフェニル)エチン、(ジアミノフェノキシ)エタン、(ジアミノフェノキシ)エチレン、(ジアミノフェノキシ)エチン、(ジアミノベンジル)エタン、(ジアミノベンジル)エチレン、(ジアミノベンジル)エチン、ビス(アミノフェニル)エタン、ビス(アミノフェニル)エチレン、ビス(アミノフェニル)エチン、ビス(アミノフェノキシ)エタン、ビス(アミノフェノキシ)エチレン、ビス(アミノフェノキシ)エチン、ビス(アミノベンジル)エタン、ビス(アミノベンジル)エチレン、ビス(アミノベンジル)エチン等の脂肪族置換芳香族ジアミン、フェニルジアミノエタン、フェノキシジアミノエタン、ベンジルジアミノエタン等の芳香族置換脂肪族ジアミン等、ブタントリアミン、ポリエチレンポリアミン等の多価アミン類、
【0104】
ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂肪族の2級アミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン等の芳香族の2級アミン、メチルフェニルアミン、エチルフェニルアミン、プロピルフェニルアミン、ブチルフェニルアミン等の2級アミン、(メチルフェニル)メチルアミン、(エチルフェニル)メチルアミン、(プロピルフェニル)メチルアミン、(ブチルフェニル)メチルアミン等の芳香族置換脂肪族アミン、ピロール、インドール、イソインドール、カルバゾール、フェノチアジン、フェノキサジン、トリアジン等のヘテロ環型アミン、
【0105】
ビス(ジメチルアミノ)メタン、ビス(ジメチルアミノ)エタン、ビス(ジメチルアミノ)プロパン、ビス(ジメチルアミノ)ブタン等の脂肪族ジアミン、ビス(フェニルメチルアミノ)メタン、ビス(フェニルメチルアミノ)エタン、ビス(フェニルメチルアミノ)プロパン、ビス(フェニルメチルアミノ)ブタン、ビス(ジメチルアミノ)ベンゼン、ビス(メチルエチルアミノ)ベンゼン、ビス(メチルプロピルアミノ)ベンゼン、ビス(メチルブチルアミノ)ベンゼン等の芳香族置換脂肪族ジアミン、
【0106】
トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリシクロヘキシルアミン、ジメチルエチルアミン等の脂肪族アミン、トリフェニルアミン、トリ(メチルフェニル)アミン、トリ(エチルフェニル)アミン、トリ(プロピルフェニル)アミン、トリ(ブチルフェニル)アミン、トリ(フェノキシフェニル)アミン、トリ(ベンジルフェニル)アミン等の芳香族アミン、ジメチルフェニルアミン、ジエチルフェニルアミン、ジプロピルフェニルアミン、ジブチルフェニルアミン、ジフェニルメチルアミン、ジフェニルエチルアミン、ジフェニルプロピルアミン、ジフェニルブチルアミン、ジフェニルシクロヘキシルアミン、(メチルフェニル)ジメチルアミン、(エチルフェニル)ジメチルアミン、(プロピルフェニル)ジメチルアミン、(ブチルフェニル)ジメチルアミン、ビス(メチルフェニル)メチルアミン、ビス(エチルフェニル)メチルアミン、ビス(プロピルフェニル)メチルアミン、ビス(ブチルフェニル)メチルアミン等の芳香族置換脂肪族アミン等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0107】
また、少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基を基本骨格に有する原子団としては、具体的には、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、インドリジン、3H−インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、4aH−カルバゾール、β−カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フラザン、ベンズ[h]イソキノリン、7H−ピラジノ[2,3-c]カルバゾール、5H−ピリド[2,3-d]o-オキサジン、1H−ピラゾロ[4,3-d]オキサゾール、4H−イミダゾロ[4,5-d]イミアゾール、セレナゾロ[5,4-f]ベンゾチアゾール、ピラジノ[2,3-d]ピリダジン、イミダゾロ[2,1-b]チアゾール、フロ[3,4-c]シンノリン、4H−ピリド[2,3-c]カルバゾール、4H[1,3]オキサチオロ[5,4-b]ピロール、イミダゾロ[1,2-b][1,2,4]トリアジン、ピリド[1',2':1,2]イミダゾロ[4,5-b]キノキサリン、4H−1,3ジオキソロ[4,5-d]イミダゾール、2,6−ビス(アルキルアミド)ピリジン、2,6−ビス(アルキルアミノ)ピリジン等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0108】
これらのうちでもさらに、本発明に適用される上記第2の原子団として、より好ましくは、上記構造式群Dから選ばれる基本骨格を有する原子団が挙げられ、さらに好ましくは、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエチルアミン、フェニルアミン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ナフチリジン、キノキサリン、2,6−ビス(アルキルアミド)ピリジン、2,6−ビス(アルキルアミノ)ピリジン等が挙げられる。なお、前記化合物中のアルキル基としては、炭素数1〜6の分岐していてもよいアルキル基が好ましく挙げられる。
【0109】
なお、上記B及びDの構造式群に示す基本骨格およびそれらを基本骨格に有する第2の原子団においては、これらが合成高分子の分子末端、側鎖、骨格中等に結合するための結合手が記載されていないが、構造式中の置換可能な水素原子を特に制限なく外すことで結合手とすることができる。また、上記基本骨格に、他の官能基と反応して各種共有結合を形成しうる官能基、例えば、ビニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、酸クロライド基、グリシジル基、エチニル基、チオール基等の官能基を導入した構造も第2の原子団の基本骨格に含まれ、この場合は、上記導入された官能基を介して合成高分子の分子末端、側鎖、骨格等に結合されていると考えればよい。
【0110】
3.本発明の擬似架橋型樹脂組成物を構成する合成高分子及び本発明の擬似架橋型樹脂組成物
本発明の擬似架橋型樹脂組成物を構成する上記合成高分子としては、上記第1の原子団及び第2の原子団を有する1種又は2種以上の合成高分子であれば特に制限されない。ここで、本明細書において、「第1の原子団及び第2の原子団を有する1種又は2種以上の合成高分子」とは、同一分子内に第1の原子団及び第2の原子団を有する唯1種の合成高分子又は2種以上の合成高分子の組合せである。2種以上の合成高分子の組合せである場合には、各構成合成高分子は第1の原子団及び/又は第2の原子団を有し、これら合成高分子の組合せにおいて必ず第1の原子団と第2の原子団とを含むような2種以上の合成高分子の組合せを含む概念で用いられる。
【0111】
本発明の擬似架橋型樹脂組成物が1種の合成高分子から構成される場合には、前記合成高分子は同一分子内に上記第1の原子団及び第2の原子団の両方を有することになる。また、本発明の擬似架橋型樹脂組成物が2種以上の合成高分子から構成される例としては、例えば2種の合成高分子から構成される場合に、合成高分子を構成する主構成部分は同一であるが一方は上記第1の原子団のみを有し、他方は第2の原子団のみを有する合成高分子の組合せや、合成高分子を構成する主構成部分が異なる2種の合成高分子の一方が上記第1の原子団を有し、他方が第2の原子団を有する組合せ等が挙げられる。前記合成高分子を構成する主構成部分が異なる2種の合成高分子と上記第1、第2の原子団との組合せは任意であり、さらに両方の合成高分子が両方の原子団を有してもよい。さらに、合成高分子の主構成部分が同一である場合には、同一分子内に上記第1の原子団及び第2の原子団の両方を有する合成高分子を用いて本発明の擬似架橋型樹脂組成物とする方が製造工数の点から好ましいといえる。
【0112】
上記合成高分子の主構成部分を構成する重合体として、具体的には、ポリオレフィン、ポリイミド樹脂、ポリエステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、芳香族系ポリエステル、芳香族系ポリエステルアミド、芳香族系ポリアミド、芳香族系ポリアミドイミド、芳香族系ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン等の合成高分子が挙げられるが、これらに制限されない。本発明の擬似架橋型樹脂組成物を構成する合成高分子は、上記各種重合体の分子末端、側鎖、骨格中に上記第1の原子団及び/又は第2の原子団が導入された構造を有するものである。
【0113】
上記本発明の擬似架橋型樹脂組成物が単一の合成高分子で構成される場合の合成高分子として、具体的には、合成高分子を構成する主構成部分が同一であって同一分子内に上記第1の原子団及び第2の原子団の両方を有するポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、芳香族系ポリエステル、芳香族系ポリエステルアミド、芳香族系ポリアミド、ポリアイミドイミド、ポリウレタン、ポリウレタンアミド、ポリウレタンイミド等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0114】
上記合成高分子における第1の原子団、第2の原子団の結合位置は、両者が相互に作用し合って水素結合を形成し樹脂を擬似架橋型のものとするような結合位置であれば特に制限されず、分子末端、側鎖、骨格中のいずれであってもよい。なお、好適な結合位置は合成高分子の種類によって適宜選択され得る。また、第1の原子団は、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基から選ばれる唯一つの官能基を1個以上有してもよいし、これらの官能基を組合せて2個以上の官能基を有してもよい。合成高分子が第1の原子団を2個以上有する場合は、これらは同一であっても異なってもよい。さらに、合成高分子における第1の原子団の含有量は、合成高分子の分子量にもよるが、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基の合計数として1分子当たり2〜10000個程度、好ましくは2〜3000個程度とすることができる。
【0115】
第2の原子団は、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基から選ばれる唯1つの官能基を1個以上有してもよいし、これらの官能基を組合せて2個以上の官能基を有してもよい。合成高分子が第2の原子団を2個以上有する場合は、これらは同一であっても異なってもよい。また、第2の原子団の含有量については、合成高分子の分子量にもよるが、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基の合計数として1分子当たり2〜10000個程度、好ましくは2〜3000個程度とすることができる。
【0116】
また、本発明の擬似架橋型樹脂組成物における第1の原子団と第2の原子団の割合は、樹脂内のカルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基の合計量と、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基の合計量の割合として1.0:0.1〜1.0:10.0程度が好ましく、より好ましくは1.0:0.3〜1.0:3.0程度である。
【0117】
本発明の擬似架橋型樹脂組成物を構成する合成高分子の分子量としては、合成高分子の種類にもよるが、5000以上とすることが好ましく、より好ましくは20000以上である。また分子量の上限は特に限定されないが、2000000程度を上限として挙げることができる。本発明の擬似架橋型樹脂組成物は、この様な合成高分子が上記第1の原子団と第2の原子団とを介して、少なくとも分子間で水素結合を形成しているものであり、擬似的に架橋した樹脂の構造を有するものである。
【0118】
(4)本発明の擬似架橋型樹脂組成物の製造方法
本発明の擬似架橋型樹脂組成物は、上記第1の原子団と第2の原子団とを有する1種又は2種以上の合成高分子から構成されるが、本発明の擬似架橋型樹脂組成物が第1の原子団と第2の原子団とを同一分子内に有する単一の合成高分子で構成される場合の製造方法についてまず説明する。
【0119】
同一分子内に上記第1、第2の原子団を有する単一の合成高分子よりなる擬似架橋型樹脂組成物は、例えば、前記合成高分子の主構成部分を構成するモノマー単位と、重合により第1の原子団及び第2の原子団となるモノマー単位を、通常、前記主構成部分を構成するモノマー単位が重合されるのと同様の条件で重合させることにより得られる。更に前述の方法により分子末端に官能基を導入した後、これらと反応できる多官能化合物を希薄溶液状態で反応させることにより環状高分子を得ることができる。この方法によれば、第1の原子団及び第2の原子団を主に合成高分子の骨格内や分子末端に有する単一の合成高分子からなり、上記第1の原子団と第2の原子団とを介して前記合成高分子が分子間で水素結合を形成して擬似的に架橋した本発明の擬似架橋型樹脂組成物が得られる。
【0120】
重合により第1の原子団及び第2の原子団となるモノマー単位は、これらが含まれる合成高分子により異なるが、各種合成高分子が有する重合の結合様式、例えば、付加重合、エステル結合、酸アミド結合、イミド結合、エーテル結合等に合わせて作製される。第1の原子団となるモノマー単位については、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基が残される形で、ビニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、グリシジル基、酸クロライド基、エチニル基、チオール基等が導入されたものが挙げられる。同様に第2の原子団となるモノマー単位については、上記構造式群Bに示される基本骨格に、ビニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、グリシジル基、酸クロライド基、エチニル基、チオール基等が導入されたものが挙げられる。
【0121】
また、側鎖に第1の原子団及び第2の原子団を有する合成高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物を得るには、例えば、前記合成高分子の主構成部分を構成するモノマー単位の少なくとも一部に重合に関与しない適当な官能基を導入して重合させ、側鎖に官能基を持つ合成高分子を製造した後、これと、前記高分子が側鎖に有する官能基と反応可能な官能基が上記同様に導入された第1の原子団及び第2の原子団とを反応させればよい。
【0122】
さらに、上記製造方法を適当に組合せれば、同一分子内の側鎖及び骨格内から選ばれる所望の部位に第1の原子団及び第2の原子団を有する単一の合成高分子からなる擬似架橋型樹脂組成物が得られる。
【0123】
また、合成高分子を構成する主構成部分は同一であるが一方は上記第1の原子団のみを有し、他方は第2の原子団のみを有する合成高分子の組合せや、合成高分子を構成する主構成部分が異なる2種の合成高分子の一方が上記第1の原子団を有し、他方が第2の原子団を有する組合せからなる本発明の擬似架橋型樹脂組成物については、擬似架橋型樹脂組成物を構成する前記2種の合成高分子をそれぞれ、上記同一分子内に両原子団を有する合成高分子の製造において第1の原子団及び第2の原子団を用いるところを第1の原子団又は第2の原子団を用いるのに代える以外は上記同様にして作製し、得られる2種の合成高分子を混合することにより、製造することができる。この際、前記2種の合成高分子を混合する方法は、上記第1の原子団と第2の原子団とを介してこれらの合成高分子が分子間で水素結合を形成して擬似的に架橋した構造を有する樹脂組成物となる様な方法であれば、特に制限されない。
【0124】
さらに、本発明の擬似架橋型樹脂組成物が、合成高分子を構成する主構成部分が異なる2種の合成高分子からなり、その両方が第1の原子団と第2の原子団とを有する場合や、3種以上の合成高分子からなる場合等についても上記製造方法に準じた方法により製造可能である。
【0125】
(5)本発明の擬似架橋型樹脂組成物の適用
以下に、本発明が特に好ましく適用される樹脂について詳細に説明する。
【0126】
(a)芳香族系ポリアミド
本発明の擬似架橋型樹脂組成物を構成する合成高分子が芳香族系ポリアミドである場合には、線状高分子の両末端の官能基は、それと反応する多官能化合物が線状高分子の側鎖又は主鎖骨格に有する原子団と反応性が低いものである限り特に制限はない。この範囲においていかなる多官能化合物も用いることができる。芳香族系ポリアミドの環状高分子の場合、第1の原子団がプロピオニックアシッド、ベンゾイックアシッド、フタリックアシッド、ナフトイックアシッド、フェノール、ベンゼンスルフォニックアシッドからなる群から選択され、第2の原子団がトリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ナフチリジン、キノキサリン、2,6−ビス(アルキルアミド)ピリジン、2,6−ビス(アルキルアミノ)ピリジンからなる群から選択される組合せが挙げられる。
【0127】
さらに、上記本発明の擬似架橋型樹脂組成物を構成する芳香族系ポリアミドとして、より具体的には、ジアミノベンゼン、ビス(アミノフェニル)スルホン、アミノビフェニル、ビス(アミノフェニル)プロパン、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、アミノフェニルエーテル等の芳香族ジアミン類と、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニルテトラカルボン酸、トリメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、及びこれらの酸無水物、ハロゲン化物等の芳香族ジカルボン酸類とから通常得られる芳香族ポリアミドを構成するモノマー単位、導入されることにより上記第1の原子団となり得るモノマー単位(カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、およびスルホン酸基から選択される基と、結合のためのアミノ基又はカルボキシル基とを有する。例えば、ジアミノ安息香酸、ジアミノフェノール、ジアミノベンゼンスルホン酸等)、及び導入されることにより第2の原子団になり得るモノマー単位(置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基から選ばれる基と、結合のためのアミノ基又はカルボキシル基とを含有する。例えば、ジアミノピリジン、ジアミノピリミジン、ジアミノナフチリジン、ジアミノキノキサリン等)、さらには、任意のモノマー単位として、通常、芳香族系ポリアミドに任意に添加されるジアミノヘキサン、ジアミノシリコーン、ジアミノシクロヘキサン等のモノマー単位等を重縮合して得られる芳香族系ポリアミド等が挙げられる。これらの線状高分子の両末端に反応性のある官能基を導入した後、これらと反応性のある多官能化合物を用いて環状高分子を得ることができる。
【0128】
なお、この様な芳香族系ポリアミドのうち、例えば、第1の原子団となり得るモノマー単位や第2の原子団となり得るモノマー単位が、芳香族ジアミン類や芳香族ジカルボン酸類の誘導体、例えば、ジアミノ安息香酸、ジアミノピリジン、ジアミノピリミジン、ジアミノナフチリジン、ジアミノキノキサリン等を含む場合には、芳香族ポリアミドを構成するモノマー単位として挙げた上記モノマー単位を任意のモノマー単位とすることも可能である。
【0129】
本発明の擬似架橋型線状芳香族系ポリアミド樹脂組成物の分子量は、水素結合による擬似架橋を無視した共有結合高分子の分子量として5000〜30万程度であることが好ましく、より好ましくは2万〜20万程度である。また、第1の原子団の含有量は、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基の合計数として共有結合高分子1分子当たり2〜1500個程度、好ましくは2〜1000個程度とすることができる。さらに、第2の原子団の含有量は、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基の合計数として共有結合高分子1分子当たり2〜1500個程度、好ましくは2〜1000個程度とすることができる。
【0130】
また、本発明の擬似架橋型の芳香族系ポリアミド樹脂組成物における第1の原子団と第2の原子団との割合は、樹脂組成物内のカルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基の合計量と、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基の合計量の割合として1.0:0.1〜1.0:10.0程度が好ましく、より好ましくは1.0:0.3〜1.0:3.0程度である。
【0131】
なお、線状芳香族系ポリアミドの中には、分子末端にアミノ基やカルボキシル基を有する重合体からなる芳香族系ポリアミドも存在するが、これらの分子末端に存在するアミノ基やカルボキシル基は環状高分子へ変換する際に消失する。したがって本発明の架橋型樹脂組成物の範疇には含まれない。本発明の擬似架橋型の芳香族系ポリアミド樹脂組成物において、上記第1の原子団及び第2の原子団の結合位置は、両者が相互に作用し合って水素結合を形成し樹脂を擬似架橋型のものとするような結合位置であれば、側鎖、骨格中のいずれであってもよいが、第1の原子団及び第2の原子団の少なくとも一方が側鎖又は骨格内にある様な結合位置が望ましい。好ましい結合関係を具体的に示せば、芳香族系ポリアミド樹脂組成物が2種の芳香族ポリアミドからなり、一方が第1の原子団を側鎖又は骨格中に有し、他方も第2の原子団を側鎖又は骨格中に有するものが挙げられる。
【0132】
この様にして環状芳香族系ポリアミドに上記第1の原子団と第2の原子団とが導入された本発明の擬似架橋型の芳香族系ポリアミド樹脂組成物は、低い線膨張係数、高いガラス転移温度等を有しながら、加工性が改善された、成形品、フィルム等への加工が容易な、従来にはない芳香族系ポリアミド樹脂組成物である。
【0133】
(b)本発明の好適な樹脂
上記芳香族系環状ポリアミド以外の好ましく適用される樹脂としては、芳香族系環状ポリアミドイミド、芳香族系環状ポリウレタン、芳香族系環状ポリエステル、芳香族系ポリエーテル等を挙げることができる。用いることのできる第1の原子団及び第2の原子団には上記芳香族系環状ポリアミドの場合と同様のものを用いることができる。
【0134】
4.本発明の擬似架橋型樹脂からなる成形品
本発明の成形品は上記本発明の擬似架橋型樹脂組成物から成形される。成形品として、具体的には、フィルム、シート、射出成形品等が挙げられるが、本発明の成形品として、特に好ましくはフィルムが挙げられる。また、これら成形品を製造する際に、上記で得られる擬似架橋型樹脂組成物に、成形加工性改善剤、安定剤、滑剤、耐候剤、難燃剤、充填剤、顔料、抗菌剤、可塑剤等の一般的に合成樹脂を成形品に成形加工する際に添加される各種添加剤を加えることが可能である。
【0135】
上記本発明の成形品を製造する方法は特に限定されず、擬似架橋型樹脂組成物の種類に応じて、従来公知の方法、例えば、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法、注型成形法等の方法を適用することができる。
【0136】
また、本発明の擬似架橋型樹脂組成物のうちでも特に芳香族系ポリアミド樹脂組成物については、溶剤への溶解性が改善されることによって、フィルムへの加工性を簡素化することができる。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、下記各実施例及び比較例においては、得られたフィルム等の樹脂成形品について各種物性の測定を行っているが、その測定方法は以下の通りである。
【0138】
<物性測定法>
(1)分子量測定
実施例、比較例で得られた高分子の分子量測定及び流体力学的半径の測定は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により、日立製作所製 L6000を用いて行った。なお、測定は、溶離液に臭化リチウムを溶解させたジメチルホルムエステル(臭化リチウム濃度=0.6重量%)を用い、1ml/minの流量、25℃で行った。
(2)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)
実施例、比較例で得られたポリマーのTg、Tmを、DSC(示差走査熱量測定)によって、10℃/minの昇温速度条件で測定した。測定器として、PERKIN−ELMER社製、DSC7を用いた。
(3)熱分解温度測定
実施例、比較例で得られた高分子の熱分解温度の測定は、TG/DTA(示差熱熱重量同時測定)により、SEIKO INSTRUMENT社製、TG/DTA6300を用いて行った。空気気流下に昇温速度10℃/minの速度で、25℃より加熱を開始し、600℃まで昇温した。加熱に伴い重量減少が始まり5重量%重量が減少した温度を熱分解温度とした。
(4)熱膨張率(CTE:coefficient of thermal expansion)測定
実施例、比較例で得られた高分子の熱膨張率の測定は、TMA(熱機械的分析)により、RIGAKU社製、TMA8140を用いて行った。窒素気流下に昇温速度10℃/minの速度で、25℃より加熱を開始し、200℃まで昇温した。80℃から180℃までの膨張率の平均値を熱膨張率とした。
【0139】
<実施例、比較例>
[実施例1]
(原子団1を有する線状高分子Aの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド150gを秤量し、そこにm−ジアミノ安息香酸7.11gと無水塩化リチウム7.51gを加えた。乾燥アルゴン気流下で攪拌しながらm−ジアミノ安息香酸及び塩化リチウムを溶解させた後、10℃以下に冷却しセバコイルクロライド10.95gを約5分かけて滴下した。発熱による温度上昇を抑えながら10℃以下を維持し、5時間放置した。その後、約25℃に保温しながら20時間攪拌した。その後、m−ジアミノ安息香酸0.28gを添加し、60℃にて3時間攪拌しながら保温した。この時点を反応終点とした。
得られた反応混合物を蒸留水500g中に約1時間かけて滴下し、固形分を析出させた。析出した固形分をろ過により分離した後、蒸留水500gの中にこの固形分を分散させ、カッターミキサーにて粉砕した。これを濾別し蒸留水200g中に分散させ攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。粉砕の後の蒸留水による洗浄を3回繰り返した後、濾別により固形分を分離した。この固形分をアセトン150gに中に分散させ、50℃にて1時間攪拌しながら未反応の単量体及び低分子量物を溶出させた後、濾別により固形分を分離した。アセトンによる洗浄を3回繰り返した。分離した固形分を減圧下、50℃にて約5時間乾燥させて、目的の原子団1を有する線状高分子Aを得た。得られた線状高分子の数平均分子量は、約40700であった。
【0140】
(原子団2を有する線状高分子Bの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド150g、上記原子団1を有する線状高分子A15gを秤量し、攪拌しながら室温にて溶解させた。目視にて溶解したことを確認した後、2,2,6,6-テトラメチル-p-ピリミジン17.3gとトリフェノキシりん17.2gとを添加した。攪拌しながら80℃にて約12時間反応させた。この反応混合物を室温まで冷却した後、蒸留水500g中に30分かけて滴下し、高分子固形分を析出させた。析出した固形分をろ過により分離した後、蒸留水500gの中にこの固形分を分散させカッターミキサーにて粉砕した。これを濾別し蒸留水200g中に分散させ攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。粉砕の後の蒸留水による洗浄を3回繰り返した後、濾別により固形分を分離した。この固形分をアセトン150gに中に分散させ50℃にて1時間攪拌しながら未反応の単量体及び低分子量物を溶出させた後、濾別により固形分を分離した。アセトンによる洗浄を3回繰り返した。分離した固形分を減圧下、50℃にて約5時間乾燥させて、目的の原子団2を有する線状高分子Bを得た。得られた線状高分子の数平均分子量は、約40900であった。
【0141】
(原子団1を有する環状高分子Cの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド380g秤量し、乾燥アルゴン気流下で原子団1を有する線状高分子A1.5gを添加し攪拌して溶解させた。反応系の温度を25℃±3℃に維持した。線状高分子が溶解した後、セバコイルクロライド0.176gを添加した。その後、同温度を維持したまま約30時間攪拌した。この時点で反応の終点とした。
得られた反応混合物に4gの蒸留水を加え約30分攪拌した後、ナス型フラスコに移し90℃にてエバポレータを用いて溶媒を約300g留去した時点で溶媒の留去作業をとめた。その後、この濃縮した反応混合物を200gの蒸留水中に約1時間かけて滴下した。析出した固形分を濾別により分離した後、蒸留水150g中に分散させ1時間攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。その後濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、アセトン100g中に固形分を分散させ、50℃にて攪拌しながら保持し、未反応のセバシン酸をアセトン中に溶出させた。その後、濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、減圧下、50℃にて5時間乾燥させ、目的の環状高分子Cを得た。得られ高分子の数平均分子量は、約28500であった。
【0142】
(原子団2を有する環状高分子Dの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド380g秤量し、乾燥アルゴン気流下で原子団2を有する線状高分子B1.5gを添加し攪拌して溶解させた。反応系の温度を25℃±3℃に維持した。線状高分子が溶解した後、セバコイルクロライド0.176gを添加した。その後、同温度を維持したまま約30時間攪拌した。この時点で反応の終点とした。
得られた反応混合物に4gの蒸留水を加え約30分攪拌した後、ナス型フラスコに移し90℃にてエバポレータを用いて溶媒を約300g留去した時点で溶媒の留去作業をとめた。その後、この濃縮した反応混合物を200gの蒸留水中に約1時間かけて滴下した。析出した固形分を濾別により分離した後、蒸留水150g中に分散させ1時間攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。その後濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、アセトン100g中に固形分を分散させ、50℃にて攪拌しながら保持し、未反応のセバシン酸をアセトン中に溶出させた。その後、濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、減圧下、50℃にて5時間乾燥させ、目的の環状高分子Dを得た。得られた高分子の数平均分子量は、約28600であった。
【0143】
(特性評価)
上記の方法で得られた原子団1を有する環状高分子C1gと原子団2を有する環状高分子D1gとを秤量し、N-メチルピロリドン10gを加え、室温にて溶解させた。この溶液をガラスプレート上に流延し、乾燥炉中で100℃/30min乾燥させた後、150℃/60min/20mmHgの条件下にて乾燥させてN-メチルピロリドンを除去し、フィルムを作製した。これを特性評価用サンプルとした。特性評価としては、ガラス転移温度、熱分解温度、融点、熱膨張率、溶媒への再可溶性を調べた。
【0144】
[比較例1]
(原子団1を有する線状高分子Aの合成)
実施例1と同様に行った。
(原子団2を有する線状高分子Bの合成)
実施例1と同様に行った。
(特性評価)
実施例1の環状高分子C及びDの代わりに比較例1の線状高分子A及びBを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0145】
実施例1及び比較例1の合成例、ならびにこれらの特性評価の結果を表1及び2に示す。これらの結果より、実施例1では比較例1に比べてガラス転移温度(Tg)、熱膨張率(CTE)、および融点(Tm)について特性が向上していることがわかった。
【0146】
【表1】

【0147】
【表2】

【0148】
[実施例2]
(原子団1を有する線状高分子Eの合成)
実施例1と同様に行った。
(原子団2を有する線状高分子Fの合成)
m−ジアミノ安息香酸の代わりに、m−ジアミノピリジン5.10gを用いたこと以外は実施例1の(原子団1を有する線状高分子の合成)方法と同様に行った。得られた数平均分子量は、約31200であった。
(原子団1を有する環状高分子Gの合成)
実施例1の線状高分子Aの代わりに実施例2の線状高分子Eを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
(原子団2を有する環状高分子Hの合成)
セバコイルクロライド0.176gの代わりに0.230gにしたこと、及び実施例1の線状高分子Aの代わりに実施例2の線状高分子Fを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた環状高分子の数平均分子量は、約23100であった。
(特性評価)
実施例1の環状高分子C及びDの代わりに実施例2の環状高分子G及びHを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0149】
[比較例2]
(線状高分子Iの合成)
m−ジアミノ安息香酸7.11gの代わりにm−ジアミノベンゼン5.05gを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた線状高分子の数平均分子量は、約37800であった。
(環状高分子Jの合成)
上記線状高分子Iを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた環状高分子の数平均分子量は、約27900であった。
(特性評価)
実施例2の環状高分子G及びHの代わりに比較例2の環状高分子Jを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0150】
実施例2及び比較例2の合成例、ならびにこれらの特性評価の結果を表3及び4に示す。これらの結果より、実施例2では比較例2に比べてガラス転移温度(Tg)、熱膨張率(CTE)、および融点(Tm)について特性が向上していることがわかった。
【0151】
【表3】

【0152】
【表4】

【0153】
[実施例3]
(原子団1を有する線状高分子Kの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したN-メチルピロリドン150gを秤量し、そこにm−ジアミノ安息香酸3.48gとジアミノフェノキシフェニルプロパン9.40gとを加えた。乾燥アルゴン気流下で攪拌しながらm−ジアミノ安息香酸及びジアミノフェノキシフェニルプロパンを溶解させた後、10℃以下に冷却し無水ピロメリット酸クロライド9.65gを添加した。発熱による温度上昇を抑えながら10℃以下を維持し、2時間放置した。その後、約50℃に保温しながら5時間攪拌した。その後、150℃に昇温し、2時間同温度を保持した。さらに、これを80℃まで冷却した後、無水酢酸10.0gとピリジン5.0gを添加し、同温度を5時間保持した。その後、m−ジアミノ安息香酸0.28gを添加し、同温度にて3時間攪拌しながら保温した。この時点を反応の終点とした。
得られた反応混合物を室温まで冷却後、乾燥メタノール500g中に約1時間かけて滴下し、固形分を析出させた。析出した固形分をろ過により分離した後、メタノール200g中に分散させ攪拌しながら残存溶媒をメタノール中に溶出させた。メタノールによる洗浄を3回繰り返した後、濾別により固形分を分離した。この固形分をアセトン150gに中に分散させ50℃にて1時間攪拌しながら未反応の単量体及び低分子量物を溶出させた後、濾別により固形分を分離した。アセトンによる洗浄を3回繰り返した。分離した固形分を減圧下、50℃にて約5時間乾燥させて、目的の原子団1を有する線状高分子Kを得た。得られた線状高分子の数平均分子量は、約57400であった。
【0154】
(原子団2を有する線状高分子Lの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド150g、上記原子団1を有する線状高分子K15gを秤量し、攪拌しながら室温にて溶解させた。目視にて溶解したことを確認した後、2,2,6,6-テトラメチル-p-ピリミジン10.58gとトリフェノキシりん5.25gとを添加した。攪拌しながら80℃にて約12時間反応させた。この反応混合物を室温まで冷却した後、メタノール500g中に30分かけて滴下し、高分子固形分を析出させた。析出した固形分をろ過により分離した後、メタノール200g中に分散させ攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。粉砕の後のメタノールによる洗浄を3回繰り返した後、濾別により固形分を分離した。この固形分をアセトン150gに中に分散させ50℃にて1時間攪拌しながら未反応の単量体及び低分子量物を溶出させた後、濾別により固形分を分離した。アセトンによる洗浄を3回繰り返した。分離した固形分を減圧下、50℃にて約5時間乾燥させて、目的の原子団2を有する線状高分子Lを得た。得られた線状高分子の数平均分子量は、約57300であった。
【0155】
(原子団1を有する環状高分子Mの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したN−メチルピロリドン380g秤量し、乾燥アルゴン気流下で原子団1を有する線状高分子K1.5gを添加し攪拌して溶解させた。反応系の温度を25℃±3℃に維持した。線状高分子が溶解した後、セバコイルクロライド0.125gを添加した。その後、同温度を維持したまま約30時間攪拌した。この時点で反応の終点とした。
得られた反応混合物をナス型フラスコに移し110℃にてエバポレータを用いて溶媒を約300g留去した時点で溶媒の留去作業をとめた。その後、この濃縮した反応混合物を200gのメタノール中に約1時間かけて滴下した。析出した固形分を濾別により分離した後、メタノール150g中に分散させ1時間攪拌しながら残存溶媒を溶出させた。その後濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、アセトン100g中に固形分を分散させ、50℃にて攪拌しながら保持し、未反応物のセバコイルクロライドをアセトン中に溶出させた。その後、濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、減圧下に50℃にて5時間乾燥させ、目的の環状高分子Mを得た。得られた高分子の数平均分子量は、約37300であった。
【0156】
(原子団2を有する環状高分子Nの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド380g秤量し、乾燥アルゴン気流下で原子団2を有する線状高分子L1.5gを添加し攪拌して溶解させた。反応系の温度を25℃±3℃に維持した。線状高分子が溶解した後、セバコイルクロライド0.125gを添加した。その後、同温度を維持したまま約30時間攪拌した。この時点で反応の終点とした。
得られた反応混合物をナス型フラスコに移し110℃にてエバポレータを用いて溶媒を約300g留去した時点で溶媒の留去作業をとめた。その後、この濃縮した反応混合物を200gのメタノール中に約1時間かけて滴下した。析出した固形分を濾別により分離した後、メタノール150g中に分散させ1時間攪拌しながら残存溶媒を溶出させた。その後濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、アセトン100g中に固形分を分散させ、50℃にて攪拌しながら保持し、未反応のセバコイルクロライドをアセトン中に溶出させた。その後、濾別により固形分を分離した。この操作を3回繰り返した後、減圧下、50℃にて5時間乾燥させ、目的の環状高分子Nを得た。得られた高分子の数平均分子量は、約37500であった。
【0157】
(特性評価)
実施例1の環状高分子C及びDの代わりに実施例3の環状高分子M及びNを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で行った。
【0158】
[比較例3]
(原子団1を有する線状高分子Kの合成)
実施例3と同様に行った。
(原子団2を有する線状高分子Lの合成)
実施例3と同様に行った。
(特性評価)
実施例3の環状高分子M及びNの代わりに比較例3の線状高分子K及びLを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0159】
実施例3及び比較例3の合成例、ならびにこれらの特性評価の結果を表5及び6に示す。これらの結果より、実施例3では比較例3に比べてガラス転移温度(Tg)、熱膨張率(CTE)、および融点(Tm)について特性が向上していることがわかった。
【0160】
【表5】

【0161】
【表6】

【0162】
[実施例4]
(原子団1及び原子団2を有する線状高分子Oの合成)
実施例3のm−ジアミノ安息香酸3.48gの代わりにm−ジアミノ安息香酸1.74gとm−ジアミノピリジン1.25gを用いたこと以外は実施例3と同様に行った。得られた線状高分子の数平均分子量は、約42800であった。
(原子団1及び原子団2を有する環状高分子Pの合成)
実施例3と同様に行った。得られた環状高分子の数平均分子量は、約30000であった。
(特性評価)
実施例1の環状高分子C及びDの代わりに実施例4の環状高分子Pを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0163】
[比較例4]
(線状高分子Qの合成)
実施例3の線状高分子のm−ジアミノ安息香酸3.48gの代わりにm−ジアミノベンゼン2.48gを用いたこと以外は実施例3と同様に行った。得られた線状高分子の数平均分子量は、約51200であった。
(環状高分子Rの合成)
実施例4の線状高分子Oの代わりに比較例4の線状高分子Qを用いたこと以外は実施例4と同様に行った。得られた環状高分子の数平均分子量は、約38000であった。
(特性評価)
実施例4の環状高分子Pの代わりに比較例4の環状高分子Rを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0164】
実施例4及び比較例4の合成例、ならびにこれらの特性評価の結果を表7及び8に示す。これらの結果より、実施例4では比較例4に比べてガラス転移温度(Tg)、熱膨張率(CTE)、および融点(Tm)について特性が向上していることがわかった。
【0165】
【表7】

【0166】
【表8】

【0167】
[実施例5]
(原子団1を有する線状高分子Sの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド150gを秤量し、そこにm−ヒドロキシ安息香酸7.06gを加えた。乾燥アルゴン気流下で攪拌しながらm−ヒドロキシ安息香酸を溶解させた後、室温にてセバコイルクロライド10.95gを約5分かけて滴下した。発熱による温度上昇を抑えながら40℃以下を維持し、5時間放置した。その後、約120℃に保温しながら20時間攪拌した。その後、m−ヒドロキシ安息香酸0.42gを添加し、120℃にて8時間攪拌しながら保温した。この時点を反応終点とした。
得られた反応混合物を蒸留水500g中に約1時間かけて滴下し、固形分を析出させた。析出した固形分をろ過により分離した後、蒸留水500gの中にこの固形分を分散させカッターミキサーにて粉砕した。これを濾別し蒸留水200g中に分散させ攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。粉砕の後の蒸留水による洗浄を3回繰り返した後、濾別により固形分を分離した。この固形分をアセトニトリル150gに中に分散させ約25℃にて1時間攪拌しながら未反応の単量体及び低分子量物を溶出させた後、濾別により固形分を分離した。アセトニトリルによる洗浄を3回繰り返した。分離した固形分を減圧下、50℃にて約5時間乾燥させて、目的の原子団1を有する線状高分子Sを得た。得られた線状高分子の数平均分子量は、約30300であった。
【0168】
(原子団2を有する線状高分子Tの合成)
冷却管を備えた3つ口フラスコに水素化カルシウムで脱水したジメチルアセトアミド150g、上記原子団1を有する線状高分子S15gを秤量し、攪拌しながら室温にて溶解させた。目視にて溶解したことを確認した後、2,2,6,6-テトラメチル-p-ピリミジン14.63gとトリフェノキシりん14.09gとを添加した。攪拌しながら80℃にて約12時間反応させた。この反応混合物を室温まで冷却した後、蒸留水500g中に30分かけて滴下し、高分子固形分を析出させた。析出した固形分をろ過により分離した後、蒸留水500gの中にこの固形分を分散させカッターミキサーにて粉砕した。これを濾別し蒸留水200g中に分散させ攪拌しながら残存溶媒を水中に溶出させた。粉砕の後の蒸留水による洗浄を3回繰り返した後、濾別により固形分を分離した。この固形分をアセトニトリル150gに中に分散させ約25℃にて1時間攪拌しながら未反応の単量体及び低分子量物を溶出させた後、濾別により固形分を分離した。アセトニトリルによる洗浄を3回繰り返した。分離した固形分を減圧下、50℃にて約5時間乾燥させて、目的の原子団2を有する線状高分子Tを得た。得られた線状高分子の数平均分子量は、約30600であった。
【0169】
(原子団1を有する環状高分子Uの合成)
実施例1の線状高分子Aの代わりに実施例5の線状高分子Sを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた環状高分子の数平均分子量は、約23100であった。
【0170】
(原子団2を有する環状高分子Vの合成)
実施例1の線状高分子Bの代わりに実施例5の線状高分子Tを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた環状高分子の数平均分子量は、約22900であった。
【0171】
(特性評価)
実施例1の環状高分子C及びDの代わりに実施例5の環状高分子U及びVを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0172】
[比較例5]
(原子団1を有する線状高分子Sの合成)
実施例5と同様に行った。
(原子団2を有する線状高分子Tの合成)
実施例5と同様に行った。
(特性評価)
実施例5の環状高分子U及びVの代わりに比較例5の線状高分子S及びTを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0173】
実施例5及び比較例5の合成例、ならびにこれらの特性評価の結果を表9及び10に示す。これらの結果より、実施例5では比較例5に比べてガラス転移温度(Tg)、熱膨張率(CTE)、および融点(Tm)について特性が向上していることがわかった。
【0174】
【表9】

【0175】
【表10】

【0176】
以上より、本発明の擬似架橋型樹脂組成物では、環状構造による分子間の擬似架橋点の数が増加することにより、ガラス転移温度(Tg)、熱膨張率(CTE)、および融点(Tm)について特性が向上したものと推定される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の合成高分子がその分子末端又は末端近傍で分子内結合した環状高分子を含む擬似架橋型樹脂組成物であって、
前記1種又は2種以上の合成高分子が、カルボニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基からなる群から選択される基を含有する第1の原子団と、置換されていてもよいアミノ基および少なくとも1個の窒素原子を含むヘテロ環基からなる群から選択される基を含有する第2の原子団とを有し、
前記第1の原子団と前記第2の原子団との間の水素結合による擬似的な架橋が形成されていることを特徴とする擬似架橋型樹脂組成物。
【請求項2】
前記合成高分子が同一分子内に第1の原子団と第2の原子団の両方を有することを特徴とする請求項1に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【請求項3】
第1の原子団が〔化1〕〜〔化3〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化4〕〜〔化6〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であることを特徴とする、請求項1に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜5の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【化4】

【化5】

【化6】

[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。また、式中、炭素に結合する水素は、アシル基又は脂肪族系炭化水素基で置換可能なアミノ基で置換されていてもよい。]
【請求項4】
第1の原子団が〔化7〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化8〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団である、請求項3に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【化7】

[上記式中、R1及びR2は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜3の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【化8】

[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。]
【請求項5】
合成高分子の分子量が5000以上であることを特徴とする請求項1に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【請求項6】
前記環状高分子が、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、エステル結合、エーテル結合、炭素―炭素結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合を有する環状合成高分子から選択され、第1の原子団が〔化9〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であり、第2の原子団が〔化10〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であることを特徴とする、請求項1に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【化9】

[上記式中、R1及びR2は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜3の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【化10】

[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。]
【請求項7】
前記合成高分子が芳香族系ポリアミドであり、前記第1の原子団が〔化11〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であり、前記第2の原子団が〔化12〕に示される構造式群から選択される基本骨格を有する原子団であることを特徴とする、請求項1に記載の擬似架橋型樹脂組成物。
【化11】

[上記式中、R1及びR2は、それぞれ脂肪族系又は芳香族系炭化水素基を示し、nは1〜3の整数を、mは2〜6の整数をそれぞれ示す。]
【化12】

[上記式中、R1、R2及びR3は、それぞれ脂肪族系炭化水素基を示す。]
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の擬似架橋型樹脂組成物から成形された成形品。
【請求項9】
前記成形品がフィルムであることを特徴とする請求項8に記載の成形品。