説明

擬似無重力生成装置

【課題】1軸で擬似無重力状態を生成する擬似無重力生成装置を提供する。
【解決手段】擬似無重力生成装置1は、XYZ直交静止座標系内に配置される。傾斜クランク10は、シャフト部101とシャフト部102とを備える。シャフト部101は、X軸方向に延びる。シャフト部102は、シャフト部101に対して傾斜してシャフト部101に接続される。回転部材11は、シャフト部102の周りに回転可能に傾斜クランク10に取り付けられる。ガイド部材12は、回転部材11に取り付けられる。駆動源13は、傾斜クランク10をX軸周りに回転する。ガイド部材14は、回転部材11の周りに配置され、ガイド部材12と接触してガイド部材12の移動をガイドする。擬似無重力装置1では、駆動源13が傾斜クランク10を回転するとき、ガイド部材14がガイド部材12の移動をガイドすることにより、回転部材11が三次元的に回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似無重力生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
擬似無重力生成装置は、三次元クリノスタットとも呼ばれる。擬似無重力生成装置は、供試材を搭載し、搭載された供試材を三次元的に回転する。供試材は三次元的に回転されるため、供試材が重力による刺激を受ける前に、供試材にかかる重力の方向が変化する。このように、擬似無重力生成装置は、供試材に掛かる重力ベクトルを分散する。そして、供試材に固定されたxyz直交座標系の3軸方向の各々に働く重力の時間平均を実質的にゼロにする。要するに、擬似無重力生成装置は、供試材に対して擬似的な無重力状態を生成する。
【0003】
特開平11−264716号公報(特許文献1)、特開2000−79900号公報(特許文献2)、特開2003−70456号公報(特許文献3)、特開2007−131261号公報(特許文献4)、特開2007−284006号公報(特許文献5)及び特開2008−273276号公報(特許文献6)は、擬似無重力生成装置を開示する。これらの文献に開示される擬似無重力生成装置は、2軸の回転機構を備える。これらの擬似無重力装置は、供試材を、2軸で3次元的に回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−264716号公報
【特許文献2】特開2000−79900号公報
【特許文献3】特開2003−70456号公報
【特許文献4】特開2007−131261号公報
【特許文献5】特開2007−284006号公報
【特許文献6】特開2008−273276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、2軸の回転機構は複雑な機構を有する。さらに、2軸の場合、各軸の角速度の制御が複雑になりやすい。さらに、供試材を2軸で三次元的に回転する場合、回転時の角速度が急激に変化しやすく、不連続に変化する。したがって、1軸で供試材に対して擬似的な無重力状態を提供できる方が好ましい。
【0006】
本発明の目的は、1軸で擬似的な無重力状態を生成できる擬似無重力生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明による擬似無重力生成装置は、XYZ直交静止座標系内に配置される。本発明による擬似無重力装置は、傾斜クランクと、回転部材と、第1のガイド部材と、駆動源と、第2のガイド部材とを備える。傾斜クランクは、第1シャフト部と第2シャフト部とを備える。第1シャフト部は、X軸方向に延びる。第2シャフト部は、第1シャフト部に対して傾斜して第1シャフト部に接続される。回転部材は、第2シャフト部の周りに回転可能に傾斜クランクに取り付けられる。回転部材には対象物が搭載される。第1のガイド部材は、回転部材に取り付けられる。駆動源は、傾斜クランクをX軸周りに回転する。第2のガイド部材は、軌道面を有する。軌道面は、回転部材の周りに配置され、第1のガイド部材と接触して第1のガイド部材の移動をガイドする。擬似無重力装置では、駆動源が傾斜クランクを回転するとき第2のガイド部材が第1のガイド部材の移動をガイドすることにより、回転部材が三次元的に回転する。
【0008】
本発明による無重力生成装置は、回転部材を1軸で回転することで、擬似的な無重力状態を生成できる。
【0009】
好ましくは、擬似無重力生成装置では、第2シャフトの軸方向に延びるx軸を含むxyz直交動座標系において、x軸の重力加速度、y軸の重力加速度及びz軸の重力加速度の時間平均が等しい。
【0010】
好ましくは、前記回転部材のピッチ角θ、ヨー角Ψ及びロール角φが、式(A)〜式(C)を満たすように軌道面の形状が設けられる、擬似無重力生成装置。
【0011】
θ=sin−1(sinαcosβ) (A)
Ψ=tan−1(tanαsinβ) (B)
φ=β/2+f(β) (C)
ここで、αは第1シャフト部と第2シャフト部とがなす傾斜角である。βは傾斜クランクのX軸周りの回転角である。f(β)は、周期πの周期関数であり、かつ、奇関数である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態による擬似無重力生成装置の斜視図である。
【図2】図1に示す擬似無重力生成装置の模式図である。
【図3】図1に示す擬似無重力生成装置内の回転部材に固定されるxyz直交動座標において、x軸方向のiベクトルと、y軸方向のjベクトルと、z軸方向のkベクトルとの関係を説明するための模式図である。
【図4】xyz直交動座標系におけるx軸方向のiベクトルと、傾斜角αと、回転角βとの幾何学的関係を示す模式図である。
【図5】本明細書中の式(5)、(6)、(7)及び(9)に基づいて算出された、オイラー角(φ、θ及びΨ)と回転角度βとの関係を示す図である。
【図6】ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合の、回転角度βに対するiベクトルのXYZ直交静止座標上での座標を示す図である。
【図7】ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合の、XYZ直交静止座標系でのiベクトルの軌跡を示す図である。
【図8】ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合の、回転角度βに対するjベクトルのXYZ直交静止座標上での座標を示す図である。
【図9】ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合の、XYZ直交静止座標系でのjベクトルの軌跡を示す図である。
【図10】ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合の、回転角度βに対する単位ベクトルkのXYZ直交静止座標上での座標を示す図である。
【図11】ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合の、XYZ直交静止座標系でのkベクトルの軌跡を示す図である。
【図12】本明細書中の式(12)で示される重力加速度ベクトルgの軌跡の一例を示す図である。
【図13】図1に示すガイド部材の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[擬似無重力生成装置の全体構成]
図1は本実施の形態による擬似無重力生成装置1の斜視図である。擬似無重力生成装置1は、XYZ直交静止座標系内に配置される。XYZ直交静止座標系は、X軸とY軸とZ軸とを有する。X軸、Y軸及びZ軸は互いに直交する。Z軸は鉛直方向に延びる。X軸及びY軸は水平面に含まれる。X軸及びY軸の方位角(東西南北の向き)は任意である。
【0015】
擬似無重力生成装置1は、傾斜クランク10と、回転部材11と、ガイド部材12と、駆動源13と、ガイド部材14とを備える。
【0016】
図2は、擬似無重力生成装置1の模式図である。図1及び図2を参照して、傾斜クランク10は、一対のシャフト部101と、シャフト部102とを備える。一対のシャフト部101は、X軸方向に延びる。シャフト部102は、シャフト部101に対して傾斜して一対のシャフト部101に接続される。より具体的には、シャフト部102は、一対のシャフト部101の間に配置される。そして、シャフト部102は、一対のクランクアーム103を介して、一対のシャフト部101に間接的に接続される。図2に示すように、シャフト部101とシャフト部102とがなす角度は、α(deg)である。以降、角度αを、「傾斜角α」と呼ぶ。傾斜角αは一定である。
【0017】
図1を参照して、回転部材11は、シャフト部102の周りに回転可能に傾斜クランク10に取り付けられる。換言すれば、シャフト部102は、回転部材11内に回転可能に挿入される。回転部材11は、シャフト部102が挿入される貫通孔を有する。たとえば、回転部材11の貫通孔とシャフト部102との間には、図示しないベアリングが取り付けられる。回転部材11は、シャフト部102の周りを回転する。
【0018】
回転部材11には、対象物が搭載される。対象物はたとえば、供試材である。供試材はたとえば、微生物や動植物である。供試材が植物である場合、たとえば、擬似無重力状態下における供試材の成長等が調査される。
【0019】
図1では、回転部材11は筺体状であり、直方体状である。この場合、供試材は回転部材11に収納される。回転部材11の形状は筐体状に限定されない。図2に示すとおり、回転部材11は板状であってもよい。板状の回転部材11はたとえば、中央に貫通孔を有する。そして、貫通孔にシャフト部102が挿入される。シャフト部102は、板状の回転部材11の法線方向に延びる。板状の回転部材11の場合、供試材は回転部材11上に搭載される。
【0020】
一対のガイド部材12は、棒状であり、回転部材11に取り付けられる。より具体的には、一対のガイド部材12は、同じ仮想線上に配置される。そして、ガイド部材12は、シャフト102と直交する。好ましくは、一対のガイド部材12は、回転部材11の重心を含む仮想線上に配置される。
ガイド部材12は、ガイド部材14と接触する。傾斜クランク10がX軸周りを回転するとき、ガイド部材12はガイド部材14上をスライドして移動する。ガイド部材12を備える回転部材11は、ガイド部材12のスライドに応じてシャフト部102の周りを回転する。
【0021】
駆動源13は、傾斜クランク10のシャフト部101と接続される。駆動源13は、傾斜クランク10をX軸周りに回転する。駆動源13はたとえば、周知のモータである。駆動源13は、土台15上に取り付けられる。そして、駆動源13は、傾斜クランク10をX軸周りに一定速度で回転する。
【0022】
一対の支持部材50は、板状である。一対の支持部材50は、傾斜クランク10の一対のシャフト部101をX軸方向に回転可能に支持する。支持部材50は、土台15上に立てて配置される。回転部材11は、一対の支持部材50の間に配置される。一対の支持部材50の各々には、シャフト部101に対応する貫通孔が形成される。一対のシャフト部101は、一対の支持部材50の貫通孔に挿入され、支持部材50により、回転可能に支持される。
【0023】
ガイド部材14は、回転部材11の周りに配置される。図1では、ガイド部材14は、上端に傾斜した開口142を有する筒状である。ガイド部材14は、土台15上に配置され、傾斜した開口142内には、回転部材11が配置される。
【0024】
ガイド部材14は、軌道面141を有する。軌道面141は、開口142の周縁に相当し、筒の上端縁に配置される。軌道面141は、回転部材11の周りに配置され、一対のガイド部材12と接触する。傾斜クランク10が回転するとき、ガイド部材12は軌道面141上をスライドしながら移動する。つまり、ガイド部材14は、傾斜クランク10が回転するとき、ガイド部材12の移動をガイドする。
【0025】
上述のとおり、回転部材11は、ガイド部材12のスライドに応じてシャフト102の周りを回転する。したがって、回転部材11は、軌道面141の形状に応じて、シャフト102の周りを回転する。要するに、ガイド部材14及び軌道面141の形状に応じて、回転部材11の回転(姿勢角)が制御される。
【0026】
図2を参照して、回転部材11には、xyz直交動座標系が固定される。xyz直交動座標系は以下のとおり定義される。x軸、y軸及びz軸は互いに直交する。x軸はシャフト部102の軸方向に延びる。z軸は、ガイド部材12の軸方向に延びる。ガイド部材12は、x軸と直交する。要するに、ガイド部材12は、y軸又はz軸方向に延びる。
【0027】
[軌道面の形状]
擬似無重力生成装置1では、駆動源13が傾斜クランク10を回転するとき、ガイド部材14がガイド部材12の移動をガイドすることにより、回転部材11が三次元的に回転する。このとき、ガイド部材12は、軌道面141と接触しながら軌道面141上を周回する。したがって、軌道面141の形状に応じて、回転部材11は三次元的に回転する。以上の動作により、擬似無重力生成装置は、1軸(傾斜シャフト)をX軸周りに回転することにより、回転部材11を三次元的に回転し、擬似的な無重力状態を生成できる。
【0028】
好ましくは、軌道面141の形状は、回転部材11の姿勢角(ピッチ角θ、ヨー角Ψ及びロール角φ)が、式(A)〜式(C)を満たすように設けられる。
【0029】
θ=sin−1(sinαcosβ) (A)
Ψ=tan−1(tanαsinβ) (B)
φ=β/2+f(β) (C)
ここで、ロール角φは回転部材11のx軸周りの回転角度を示し、ピッチ角θは、x軸が水平面となす角度を示し、ヨー角Ψは、水平面上に投影したx軸の回転角度を示す。より正確な定義は以下の通りである。最初に、回転部材11(xyz直交動座標系)をXYZ直交静止座標系に一致させる。第一の回転として、回転部材11(xyz直交動座標系)を+Z軸周り(この段階では+Z軸と+z軸とは一致する)に、時計回りを正として回転させた角度をヨー角ψ(deg)と定義する。第二の回転として、回転部材11(xyz直交動座標系)を上記の第一の回転後の+y軸周りに、時計回りを正として回転させた角度をピッチ角θ(deg)と定義する。第三の回転として、回転部材11(xyz直交動座標系)を上記の第二の回転後の+x軸周りに、時計回りを正として回転させた角度をロール角φ(deg)と定義する。
【0030】
また、図2に示すとおり、傾斜角α(deg)は、シャフト部101とシャフト部102とがなす角度である。傾斜角α(deg)は一定である。回転角β(deg)は、傾斜クランク10のX軸周りの回転角であり、+X軸方向に向いて時計回りを正とする。
【0031】
回転部材11のピッチ角θ、ヨー角Ψ及びロール角φが上述の式(A)〜(C)を満たせば、擬似無重力生成装置1が生成する擬似無重力状態は、無重力状態にさらに近づく。換言すれば、擬似無重力生成装置は、式(A)〜(C)を満たすように設けられた軌道面141を有することにより、xyz直交動座標系において、x軸の重力加速度成分gの時間平均gxaveと、y軸の重力加速度成分gの時間平均gyaveと、z軸の重力加速度成分gの時間平均gzaveとを実質的に等しくでき、いずれも0にすることができる。以下、この点について詳述する。
【0032】
図3に示すとおり、xyz直交動座標系において、x軸の単位ベクトルをiベクトルと定義する。y軸の単位ベクトルをjベクトルを定義する。z軸の単位ベクトルをkベクトルと定義する。
【0033】
XYZ直交静止座標系におけるiベクトル、jベクトル及びzベクトルの座標は、式(1)で定義される。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、i、j及びkは、XYZ直交静止座標系におけるiベクトル、jベクトル及びkベクトルのX座標である。同様に、i、j及びkは、XYZ直交静止座標系におけるiベクトル、jベクトル及びkベクトルのY座標である。i、j及びkは、XYZ直交静止座標系におけるiベクトル、jベクトル及びkベクトルのZ座標である。
xyz直交動座標系から、XYZ直交静止座標系への座標変換マトリクス(方向余弦マトリクス)Cは、式(2)で定義される。
【0036】
【数2】

【0037】
逆に、XYZ直交静止座標系からxyz直交動座標系への座標変換マトリクス(方向余弦マトリクス)Cは、式(3)で定義される。
【0038】
【数3】

【0039】
式(3)で示されるマトリクスCは、式(2)で示されるマトリクスCの逆行列である。座標変換マトリクスにおいて、逆行列は転置行列に一致する。
【0040】
図4は、XYZ直交静止座標系における、iベクトルと、傾斜角αと、回転角βとの幾何学的関係を示す模式図である。図4を参照して、XYZ直交静止座標系におけるiベクトルの座標(i、i、i)は、式(4)で定義される。
【0041】
【数4】

【0042】
式(2)〜式(4)を利用すれば、ピッチ角θとヨー角Ψとは、回転角βの関数として示される。具体的には、ピッチ角θは式(5)で示され、ヨー角Ψは式(6)で示される。
【0043】
【数5】

【0044】
【数6】

【0045】
ここで、ロール角φが、式(7)で定義される場合を考える。
【0046】
【数7】

【0047】
式(7)における関数f(β)は、奇関数であり、かつ、周期πの周期関数である。換言すれば、関数f(β)は、式(8)で定義される。
f(β)=−f(−β)
f(β+π)=f(β) (8)
【0048】
関数f(β)は、式(8)を満たせば任意である。
上述の式(5)は式(A)に相当し、式(6)は式(B)に相当する。そして、式(7)は式(C)に相当する。これらの式(A)〜(C)を満たすように、軌道面141が形成されることにより、擬似無重力生成装置1により生成される擬似無重力状態は、無重力状態にさらに近づく。
以下、関数f(β)の一例として、関数f(β)が式(9)で示される場合の、擬似無重力生成装置1の動作について説明する。
f(β)=a×sin(2β) (9)
ここで、aは任意の定数である。
【0049】
式(5)、(6)、(7)及び式(9)に基づいて、回転角度βにおけるオイラー角(φ、θ及びΨ)が決定される。図5は、式(5)、(6)、(7)及び(9)に基づいて算出された、姿勢角(φ、θ及びΨ)(deg)と回転角度β(deg)との関係を示す図である。図中の曲線L1は、ロール角φを示す。曲線L2はピッチ角θを示す。曲線L3は、ヨー角Ψを示す。なお、ロール角φは一般的には、回転角度β=±180degの範囲で定義される。しかしながら、図5中のロール角φは、式(7)に基づいて連続的にプロットされている。図5を参照して、回転角βが720deg回転すると、ロール角φは360°回転する。つまり、本例では、回転角βが720deg回転すると、回転部材11がx軸周りを一回転する。
【0050】
ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが決定されれば、式(2)又は式(3)に基づいて、xyz直交動座標系における、回転角度βに対するiベクトル、jベクトル及びkベクトルの座標が決定される。たとえば、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合、回転角度βに対するiベクトルのXYZ直交静止座標上での座標は、図6に示すとおりである。図中の曲線LiXは、iベクトルのX座標(i)を示す。曲線LiYは、iベクトルのY座標(i)を示す。曲線LiZは、iベクトルのZ座標(i)を示す。
図7(a)〜(c)は、図5に示すロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψの場合の、iベクトルのXYZ直交静止座標系における軌跡を示す。図7(a)は、XZ平面上でのiベクトルの軌跡を示す。図7(b)は、YZ平面上でのiベクトルの軌跡を示す。図7(c)は、XY平面上でのiベクトルの軌跡を示す。
【0051】
ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψが図5のとおりに決定される場合、回転角度βに対するjベクトルのXYZ直交静止座標系上での座標は、図8に示すとおりである。図8中の曲線LjXは、jベクトルのX座標(j)を示す。曲線LjYは、jベクトルのY座標(j)を示し、曲線LjZは、jベクトルのZ座標(j)を示す。さらに、図9(a)〜(c)は、図5に示すロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψの場合の、jベクトルのXYZ直交静止座標系における軌跡を示す。図9(a)は、XZ平面上でのjベクトルの軌跡を示す。図9(b)は、YZ平面上でのjベクトルの軌跡を示す。図9(c)は、XY平面上でのjベクトルの軌跡を示す。
さらに、図5に示すロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角Ψの場合の、回転角βに対するkベクトルのXYZ直交静止座標系上での座標は、図10に示すとおりである。図8中の曲線LkXは、kベクトルのX座標(k)を示し、曲線LkYは、kベクトルのY座標(k)を示し、曲線LkZは、kベクトルのZ座標(k)を示す。また、図11(a)〜(c)は、kベクトルのXYZ直交静止座標系における軌跡を示す。図11(a)は、XZ平面上でのkベクトルの軌跡を示し、図11(b)はYZ平面上でのkベクトルの軌跡を示し、図11(c)はXY平面上でのkベクトルの軌跡を示す。
【0052】
擬似無重力生成装置1が動作するとき、回転部材11のピッチ角θ、ヨー角Ψ及びロール角φが、式(A)〜式(C)を満たせば、回転部材11のiベクトル、jベクトル及びkベクトルは、傾斜クランク10の回転に対して、図6〜図11に示す軌跡を示す。ここで、図6、図8及び図10は、回転角βに対する各単位ベクトルの座標を示すが、駆動源13は一定速度で傾斜シャフト10をX軸周りに回転する。したがって、図6、図8及び図10の横軸(回転角β)は、時間軸に相当する。
次に、上述の軌跡を描くiベクトル、jベクトル及びkベクトルを有する回転部材11の、重力加速度ベクトルの軌跡について説明する。
【0053】
重力の方向は鉛直方向であり、+Z軸方向である。したがって、XYZ直交静止座標系における重力加速度ベクトルgは、重力加速度の大きさ1G(=9.80665m/s)を1単位として、式(10)で定義される。
【0054】
【数8】

【0055】
xyz直交動座標系における重力加速度ベクトルgは、式(3)のマトリクスCと、式(10)の重力加速度ベクトルgとの積により、式(11)で示される。
【0056】
【数9】

【0057】
ここで、g、g及びgは、xyz直交動座標系における重力加速度ベクトルgのx軸、y軸及びz軸の重力加速度成分である。
【0058】
式(11)に式(5)及び式(7)を代入すれば、式(12)に示すとおり、重力加速度成分g、g及びgが、傾斜角αと回転角βとで示される。
【0059】
【数10】

【0060】
上述のとおり、傾斜角αは一定である。したがって、式(12)で示される重力加速度成分g、g及びgの独立変数は、回転角βのみである。重力加速度成分g、g及びgはいずれも周期関数である。式(12)を参照して、重力加速度成分gの周期は2πである。重力加速度成分g及びgの周期はいずれもπである。このことは、図6、図8及び図10中の曲線LiZ、LjZ及びLkZを参照しても理解できる。
【0061】
図12(a)及び(b)は、式(12)で示される重力加速度ベクトルgの軌跡の一例を示す図である。図12(a)及び(b)は、傾斜角α=54.7degとした場合の重力加速度ベクトルgの軌跡を示す。図12(a)は、xyz直交動座標系のxz平面上での重力加速度ベクトルgの軌跡を示す。図12(b)は、xyz直交動座標系のyz平面上での重力加速度ベクトルgの軌跡を示す。
【0062】
軌道面141は、式(A)〜式(C)を満たす形状を有する。そのため、回転部材11に掛かる重力加速度ベクトルgは、式(12)の通りとなる。このとき、重力加速度ベクトルgの重力加速度成分g、g及びgの時間平均が等しく、互いに0になることを以下に説明する。
【0063】
式(12)より、重力加速度ベクトルgのうち、x軸方向の重力加速度成分gは、周期2πの周期関数である。したがって、重力加速度gの時間平均は、回転角βが0rad〜2πの範囲における重力加速度gの平均に等しい。したがって、重力加速度成分gの時間平均gxaveは、式(13)で示される。
【0064】
【数11】

【0065】
次に、y軸方向の重力加速度成分gの時間平均gyaveについて検討する。式(12)に示すとおり、重力加速度成分g(g(β)ともいう)は、周期πの周期関数である。したがって、時間平均gyaveは、回転角βが−π/2〜π/2の範囲における重力加速度成分gの平均に等しい。以上より、時間平均gyaveは、式(14)で示される。
【0066】
【数12】

【0067】
被積分関数であるg(β)は、式(12)で示されるとおり、周期πの周期関数であり、かつ、奇関数である。そのため、式(14)に示すとおり、時間平均gyaveは0である。
【0068】
次に、z軸方向の重力加速度成分g(gz(β)ともいう)の時間平均gzaveについて検討する。式(12)に示すとおり、重力加速度g(β)は、周期πの周期関数である。重力加速度g(β)にβ+πを代入する。このとき、重力加速度g(β+π)は式(15)で示される。
【0069】
【数13】

【0070】
要するに、g(β)は、g(β)の位相をπだけずらしたものと等しい。したがって、時間平均gzaveも、式(16)に示すとおり、時間平均gyaveと同じく0になる。
【0071】
zave=0 (16)
以上より、式(A)〜式(C)を満たすように、軌道面141の形状が設けられれば、式(17)に示すとおり、回転部材11(xyz直交動座標系)における3軸(x軸、y軸及びz軸)の重力加速度成分の時間平均gxave、gyave及びgzaveはいずれも等しくなり、0になる。
【0072】
xave=gyave=gzave=0 (17)
軌道面141の展開図の一例を図13に示す。図13は、ガイド部材14及び軌道面141をZ軸周りに展開した図であり、ガイド部材14の周面の展開図に相当する。
軌道面141の形状は、図10に示す曲線LkZ(kベクトルのZ座標(k))を円筒状のガイド14の周壁に投影して求められる。要するに、軌道面141の展開図は、ガイド部材12が配置される軸(ここではz軸)の単位ベクトル(ここではkベクトル)の回転角βに対するZ座標の軌跡をガイド部材14に投影したものと同じ形状を有する。
[動座標系の重力加速度の二乗平均]
擬似無重力生成装置1において、重力加速度成分gxave、gyave及びgzaveの各々の二乗平均が等しい方が好ましい。3軸の重力加速度の二乗平均が等しい場合、供試材に作用する重力加速度成分が略均一に分散する。したがって、供試材への重力加速度成分g、g及びgの影響を略均一にすることができる。
【0073】
傾斜角αが45〜65degであれば、3軸の重力加速度成分g、g及びgの二乗平均が互いに近づく。好ましい傾斜角αは50〜60degであり、さらに好ましくは、54.7±2degである。さらに好ましい傾斜角αは、54.7degであり、最も好ましくは、傾斜角αが式(D)を満たす。
【0074】
α=sin−1((2/3)1/2) (D)
傾斜角αが式(D)を満たせば、重力加速度成分g、g及びgの二乗平均が一致する。以下、この点について詳述する。
【0075】
重力加速度gxの二乗平均gxaveは、式(18)で示される。
【0076】
【数14】

【0077】
重力加速度gyの二乗平均gyaveは、式(19)で示される。
【0078】
【数15】

【0079】
式(12)で示されるg(β)に、β+πを代入すると、g(β+π)は式(20)で示される。
【0080】
【数16】

【0081】
式(20)に基づいて、式(19)中の被積分関数g(β)+g(β+π)は、式(21)で示される。
【0082】
【数17】

【0083】
式(21)を式(20)に代入すると、二乗平均gyaveは、式(22)で示される。
【0084】
【数18】

【0085】
次に、重力加速度gの二乗平均gzaveについて検討する。式(12)及び式(15)より、重力加速度g(β)は重力加速度g(β)の位相をπだけずらしたものに等しい。したがって、二乗平均gzaveは、式(23)で示される。
zave=gyave=1/2−sinα/4 (23)
【0086】
以上より、二乗平均gxave、gyave及びgzaveは、式(24)で示される。
xave=sinα/2
zave=gyave=1/2−sinα/4 (24)
【0087】
xyz直交動座標系の3軸(x軸、y軸及びz軸)の重力加速度が互いに等しい場合の傾斜角αを求める。式(24)より、gxave=gyaveとした場合、式(25)が成立する。
【0088】
【数19】

【0089】
式(25)より、最も好ましい傾斜角αは、式(26)で示される。
α=sin−1((2/3)1/2) (26)
式(26)は式(D)に相当する。したがって、傾斜角αが式(D)を満たすとき、xyz直交動座標系における各重力加速度成分g、g及びgの二乗平均が互いに等しくなり、回転部材11に掛かる各重力加速度成分が3軸(x軸、y軸及びz軸)で均等になる。
上述のとおり、傾斜角αが45deg〜65degであれば、3軸の重力加速度成分g、g及びgの二乗平均が互いに近づく。そのため、回転部材11に掛かる重力加速度成分は略均一になる。
【0090】
なお、このときの二乗平均gxave、gyave及びgzaveは、式(27)で示される。
xave=gyave=gzave=1/3 (27)
【0091】
そして、各重力加速度成分g、g及びgのrms値(二乗平均の平方根)gx,rms、gy,rms、gz,rmsは、式(28)で示される。
【0092】
【数20】

【0093】
本実施の形態では、ガイド部材14は、傾斜した開口を上端に有する筒状である。しかしながら、ガイド部材14の形状はこれに限定されない。上述の式(A)〜式(C)を満たすように、軌道面141の形状が設定されていればよい。たとえば、ガイド部材14は、回転体11を収納する球状又は直方体状の筐体であって、軌道面141が形成されるスリットを側面に有していてもよい。この場合、ガイド部材12は1つであってもよい。
【0094】
また、ガイド部材14は、回転部材11の周りに配置されるレールであってもよい。この場合、軌道面141は、レールの表面に形成される。要するに、軌道面141が回転部材11の周りに形成され、回転部材11の姿勢角が式(A)〜(C)を満たすように、軌道面141の展開図が、ガイド部材12が配置される軸の単位ベクトルの回転角βに対するZ座標の軌跡を投影した形状を有すればよい。換言すれば、回転部材11の姿勢角が式(A)〜(C)を満たすように、軌道面141の形状が、ガイド部材12が配置される軸の単位ベクトルの回転角βに対するZ座標の軌跡に対応する。
本実施の形態では、ガイド部材12は棒状である。しかしながら、ガイド部材12の形状は、棒状に限定されない。ガイド部材12は、たとえば、板状であってもよいし、他の形状であってもよい。要するに、ガイド部材12は、ガイド部材14の軌道面141に接触しながら、軌道面141上を移動できれば、特に形状を限定されない。
【0095】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 擬似無重力生成装置
10 傾斜クランク
11 回転部材
12,14 ガイド部材
13 駆動源
15 土台
50 支持部材
101,102 シャフト部
141 軌道面
142 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XYZ直交静止座標系内に配置される擬似無重力生成装置であって、
X軸方向に延びる第1シャフト部と、前記第1シャフト部に対して傾斜して前記第1シャフト部に接続される第2シャフト部とを含む傾斜クランクと、
前記第2シャフト部周りに回転可能に前記傾斜クランクに取り付けられ、対象物が搭載される回転部材と、
前記回転部材に取り付けられる第1のガイド部材と、
前記傾斜クランクを前記X軸周りに回転する駆動源と、
前記回転部材の周りに配置され、前記第1のガイド部材と接触して前記第1のガイド部材の移動をガイドする軌道面を有する第2のガイド部材とを備え、
前記駆動源が前記傾斜クランクを回転するとき前記第2のガイド部材が前記第1のガイド部材の移動をガイドすることにより、前記回転部材が三次元的に回転する、擬似無重力生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の擬似無重力生成装置であって、
前記第2シャフトの軸方向に延びるx軸を含むxyz直交動座標系において、前記x軸の重力加速度、前記y軸の重力加速度及び前記z軸の重力加速度の時間平均が等しい、擬似無重力生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の擬似無重力生成装置であって、
前記軌道面の形状は、前記回転部材のピッチ角θ、ヨー角Ψ及びロール角φが、前記式(A)〜式(C)を満たすように設定される、擬似無重力生成装置。
θ=sin−1(sinαcosβ) (A)
Ψ=tan−1(tanαsinβ) (B)
φ=β/2+f(β) (C)
ここで、前記αは前記第1シャフト部と前記第2シャフト部とがなす角度である。前記βは前記傾斜クランクの前記X軸周りの回転角である。前記f(β)は、周期πの周期関数であり、かつ、奇関数である。
【請求項4】
請求項1に記載の擬似無重力生成装置であって、
前記第1のガイド部材は、前記x軸と直交する、擬似無重力生成装置。
【請求項5】
請求項3に記載の擬似無重力生成装置であって、
前記角度αは、45〜65degである、擬似無重力生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−213138(P2011−213138A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80483(P2010−80483)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)