説明

攪拌装置

【課題】深い容器においても、機械的な駆動源を必要とせずに良好な攪拌を可能とする装置を提供する。
【解決手段】内部に液体が収容された内径Dの円筒形容器(12)を備え、円筒形容器の底壁のほぼ中央に、液体内に気体を吹き込むためのノズル(14)が配置されており、ノズルから液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、気体の気泡が液体の液面を吹き抜けない流量以下であり、ノズルから所定の間隔だけ離れた個所に下端が位置し、液面から深さH1 のところに上端が位置し、ほぼ垂直方向に延びた噴流通過パイプ(16)を備え、深さH1 と内径Dとの比H1 /Dが、0.3〜1の範囲にある攪拌装置(10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、攪拌装置に関する。より詳細には、本発明は、プロペラ等の機械的な駆動源を必要とせずに、液体を効率的に攪拌することができる攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、機械的な駆動源を必要とせずに、流体を効率的に攪拌させることができる種々の攪拌装置を提案している(特許文献1〜特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3058876号明細書
【特許文献2】特許第4195782号明細書
【特許文献3】特許第4384477号明細書
【特許文献4】特許第4710070号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の特許文献、とりわけ特許文献1において提案された装置を改良発展させたものであり、深い容器においても良好な攪拌を可能とする装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図6を参照して、本発明の攪拌装置の作動原理について説明する。底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込むと上昇気泡噴流が形成されるが、本発明者は、特許文献1に示したように、一定条件下において、この上昇気泡噴流によって、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出した。すなわち、円筒形容器の内径をD、単孔ノズルと液面との高さの差を 01 とすると、Dと 01 との関係が約0.3< 01 /D<約1である場合に、気泡噴流の半径方向変位が比較的小さく、周期が短い旋回現象が発生し、円筒形容器内の液体は、スロッシングに似た挙動を示す。ここで、スロッシングとは、容器が軸方向又は半径方向に加振されることによって液体の振動が誘起される現象をいう。上述の旋回現象は、気泡の生成、上昇に伴う気体から液体への周期的加振によって誘起されたものと推測される。
【0006】
上述の旋回現象が気泡による液体への周期的な加振によって誘起されるものであるため、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生するためには、吹き込まれるガスの流量が臨界値以上であり、かつ、気泡が液面を吹き抜ける程度以下であることが必要である。なお、本明細書において使用される語「吹き抜け」とは、ノズルから液体中に吹き込まれた気体が気柱を作って液面から外部へ出る現象を意味している。
【0007】
本発明者は、ガスの流量の臨界値を以下のように算定した。スロッシングに関する研究によれば、容器の加振によって液面における波動が誘起され、この波動が粘性を介して液体の内部に伝わり、液体内部の運動が起こるといわれている。したがって、旋回は、液面の波動現象が抑えられることによって止まるものと推測される。本発明者の実験によれば、加振力の主要な部分は、気泡が上昇して液面から出る際にほぼ周期的に液体に及ぼす力であろうと結論できる。この力は、上昇する液体の慣性力に依存すると仮定する。また、波動を止めようとする力には、表面張力が関与しているであろう。本発明者は、液体の慣性力と表面張力の比として定義されるウェーバー数We =ρLa 2 /(σL3 )が10-5以上であれば、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを実験により確かめた。すなわち、上式のウェーバー数We =10-5が臨界値となる。ここで、ρL は液体の密度、Qa はガスの吹き込み流量、σL は液体の表面張力、Dは円筒形容器の内径である。
【0008】
一方、単孔ノズルより上方の液体が、図6(b)の矢印Aで示されるように、一方向に旋回すると、角運動量保存則により、単孔ノズルより下方の液体は、図6(b)の矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。単孔ノズルより下方における旋回流Bは、単孔ノズルより上方における旋回流Aを安定化させており、旋回流Aへの固形物等の投入により旋回流Aの速度の低下や乱れが生じても、旋回流Bが存在していれば、容易に元の状態に復帰することができる。このため、単孔ノズルより下方に一定の深さの領域を設けるのが好ましい。
【0009】
上述のように、底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込むことにより、一定条件下で、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出したが、円筒形容器が深い(すなわち、単孔ノズルから円筒形容器の底壁までの深さが深い)場合には、円筒形容器の底部に位置する液体の攪拌は必ずしも、十分であるとは言い難かった。本発明は、この点に着目し、円筒形容器が深い場合であっても、容器内の液体が良好に攪拌される装置を開発した。
【0010】
本願請求項1に記載の、内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記円筒形容器又は前記多角形容器内には、液体が収容されており、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁のほぼ中央に、前記液体内に気体を吹き込むためのノズルが配置されており、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置は、前記ノズルから所定の間隔だけ離れた個所に下端が位置し、前記液面から深さH1 のところに上端が位置し、前記下端および前記上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた噴流通過パイプを備え、前記深さH1 と前記内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、約0.3〜約1の範囲にあることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項2に記載の、内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記円筒形容器又は前記多角形容器内には、液体が収容されており、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁のほぼ中央に、前記液体内に気体を吹き込むためのノズルが配置されており、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置は、下端に近い部分に1又は複数の開口が設けられ、前記下端が前記ノズルに連結され、前記液面から深さH1 のところに上端が位置し、前記下端および前記上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた噴流通過パイプを備え、前記深さH1 と前記内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、約0.3〜約1の範囲にあることを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項3に記載の攪拌装置は、前記請求項1又は2の装置において、前記気体が空気であることを特徴とするものである。
【0013】
本願請求項4に記載の攪拌装置は、前記請求項1又は2の装置において、前記気体が反応性ガスであることを特徴とするものである。
【0014】
本願請求項5に記載の攪拌装置は、前記請求項1から請求項4までのいずれか1項の装置において、前記深さH1 と前記内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、0.5であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の攪拌装置は、容器が深い場合であっても、良好な攪拌効果を得ることができる。本発明の攪拌装置は、プロペラ等の駆動源を必要としないため、構造が極めて簡単であり、従って、装置の製造コスト、維持コストを廉価に押さえることができ、保守点検に要する時間・手間を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置を示した全体概略図である。
【図2】図2(a)は図1の部分2aの拡大図、図2(b)は図2(a)に示した個所の斜視図である。
【図3】図1の攪拌装置を作動状態を示した図である。 本発明の第2の実施の形態に係る攪拌装置を示した概略図である。
【図4】図3の部分4の拡大図である。
【図5】図1の攪拌装置の変形形態を示した図である。
【図6】図1の攪拌装置の作動原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置は、側壁12aと底壁12bとを有する円筒形容器12を備えている。円筒形容器12の内径は、図1に示されるように、Dである。円筒形容器12内には、底壁12bから液面までの高さがH1 +H2 +H3 となるように、攪拌しようとする液体が収容されている。
【0018】
円筒形容器12の底壁12bのほぼ中央には、ノズル14が配置されており、ノズル14は、エアコンプレッサ(図示せず)に連結されている。これにより、エアコンプレッサから供給された空気がノズル14から液体内に噴射されるようになっている。
【0019】
攪拌装置10はまた、ノズル14から間隔H3 だけ離れた個所に下端16aが位置し、液面から深さH1 のところに上端16bが位置し、ほぼ垂直方向に延びた噴流通過パイプ16を備えている。
【0020】
図2(a)および図2(b)には、噴流通過パイプ16がスペーサ部材18によって、円筒形容器12の底壁12bのノズル14から間隔H3 へだてた個所に配置されている状態が示されている。図2(a)および図2(b)に示される例では、スペーサ部材18は、円周方向に90°間隔をへだてて配置された4基の支柱によって構成されているが、噴流通過パイプ16を所定個所に配置することができるものであれば、図示されている構成に限定されるものではない。
【0021】
なお、液面から噴流通過パイプ16の上端16bまでの深さH1 と円筒形容器12の内径Dとの比H1 /Dは、約0.3〜約1の範囲にある。好ましくは、比H1 /Dは、約0.5である。
【0022】
図3は、攪拌装置10においてノズル14から噴射された空気が噴流通過パイプ16を通って液体内に噴射され、これにより液体が、矢印Aで示されるように旋回している状態を示した模式図である。この場合において、ノズル14から噴射される空気の流量Qa は、上述のように、ρLa 2 /(σL3 )=10-5を満足する流量以上であり、かつ、空気の気泡が液面を吹き抜ける程度以下である。
【0023】
なお、噴流通過パイプ16の上端16bより下方の液体は、上述のように、角運動量保存則により、図3において矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。
【0024】
次に図3および図4を参照して、以上のように構成された攪拌装置10の作動について説明する。攪拌装置10において、ノズル14から液体内に空気を吹き込むと、空気は、噴流通過パイプ16を通って噴流通過パイプ16の上端16bから液体内に噴射される。これにより、噴流通過パイプ16の上端16bの近傍およびそれより上方に位置する液体は、矢印Aで示されるように旋回し、その下方に位置する液体は、矢印Bで示されるように逆方向に旋回する。
【0025】
一方、噴流通過パイプ16の下端16aの周辺に位置する液体は、ノズル14から液体内に吹き込まれる空気に随伴して噴流通過パイプ16の下端16aに吸い込まれようとするため、液体に矢印C1 、C2 で示されるような運動が付加される。これにより、容器12の底部に位置する液体も攪拌されることとなる。
【0026】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0027】
また、前記実施の形態では、円筒形容器12の平面形状は円であるが、平面形状をn角形(n≧3)にした多角形容器(図示せず)を円筒形容器12の代わりに使用してもよい。この場合のDは、n角形の内接円の径となる。
【0028】
また、前記実施の形態では、ノズルから噴射される気体は空気であるが、液体を攪拌しつつ反応させようとする場合には、ノズルから噴射される気体を、目的に応じて、例えば酸素ガスのような反応性ガスとしてもよい。
【0029】
さらに、前記実施の形態では、噴流通過パイプ16の下端16aがノズル14から間隔H3 だけ離れた個所に位置するように構成されているが、たとえば図5に示されるように、下端に近い部分に1又は複数の開口16′aが設けられた噴流通過パイプ16′を準備し、噴流通過パイプ16′の下端をノズル14に連結するように構成してもよい。この実施の形態では、開口16′aを介して液体が吸い込まれようとするため、前記実施の形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0030】
10 攪拌装置
12 円筒形容器
14 ノズル
16、16′ 噴流通過パイプ
18 スペーサ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記円筒形容器又は前記多角形容器内には、液体が収容されており、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁のほぼ中央に、前記液体内に気体を吹き込むためのノズルが配置されており、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、
前記ノズルから所定の間隔だけ離れた個所に下端が位置し、前記液面から深さH1 のところに上端が位置し、前記下端および前記上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた噴流通過パイプを備え、
前記深さH1 と前記内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、約0.3〜約1の範囲にあることを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記円筒形容器又は前記多角形容器内には、液体が収容されており、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁のほぼ中央に、前記液体内に気体を吹き込むためのノズルが配置されており、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、
下端に近い部分に1又は複数の開口が設けられ、前記下端が前記ノズルに連結され、前記液面から深さH1 のところに上端が位置し、前記下端および前記上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた噴流通過パイプを備え、
前記深さH1 と前記内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、約0.3〜約1の範囲にあることを特徴とする攪拌装置。
【請求項3】
前記気体が空気であることを特徴とする請求項1又は2に記載された攪拌装置。
【請求項4】
前記気体が反応性ガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載された攪拌装置。
【請求項5】
前記深さH1 と前記内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、0.5であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された攪拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63375(P2013−63375A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202502(P2011−202502)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(599083547)
【出願人】(500430903)株式会社ヒューエンス (7)
【Fターム(参考)】