説明

改良地盤の改良体に生じる最大せん断応力度の計算方法

【課題】 直接基礎型式の基礎構造を有する例えば火力発電所本館等の構造物を支持する基礎地盤を深層混合処理工法で地盤改良をする場合の地震時に改良体に生じる最大せん断応力度の計算方法を提供する。
【解決手段】 軟弱地盤を深層混合処理工法により改良した改良地盤で構造物を直接支持する場合の改良体の地震時設計計算法において、改良地盤に作用する外力を改良体の面内壁で分担することを前提として、改良体に生じる最大せん断応力度の計算式を、
【数1】


とし、その際、
【数2】


及びCを、応力解析法を用いて、全面改良体または格子状改良体に作用する応力結果をあらかじめ求めて決定し、得られた計算式を使用して改良体に生じる最大せん断応力度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接基礎型式の基礎構造を有する例えば火力発電所本館等の構造物を支持する基礎地盤を深層混合処理工法で地盤改良をする場合の地震時に改良体に生じる最大せん断応力度の計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に深層混合処理工法による全面改良形式(ブロック・ラップ式)着底型の地盤改良を行なう場合、この改良地盤の設計は、非特許文献1によれば、図1の(a)に示される地盤安定の検討フローに従って行われる。直接基礎型式の基礎構造を有する例えば火力発電所本館等の構造物を支持する基礎地盤の深層混合処理工法による全面改良形式の地盤改良を行なう場合の設計は、非特許文献2によれば、図1の(b)に示される地盤安定の検討フローに従って改良地盤の外部安定及び内部安定の検討を行なうことが示されている。
【0003】
一方で深層混合処理工法により改良した地盤に建築物を支持する工法は、非特許文献3により設計計算法が提示されてから徐々に増えてきている。非特許文献3では建築物の用途や重量に特に制限を設けていないが、適用実績は軟弱地盤上に建設される中低層建築物の杭基礎の代用とした事例が多い。そのため同指針における改良体の地震時の検討は杭基礎の地震時の検討と同じであり、建物から作用する地震時水平力に対して改良体で発生する応力を照査することが示されている。
【0004】
一方で非特許文献3では、大規模かつ重量の大きい建築物(例えば火力発電所建屋本館等)への適用には慎重な対応が示唆されている。
【0005】
非特許文献2では、特に短期及び建屋に保有耐力を必要とする場合において内部安定の検討を行う場合、改良地盤に生じる最大せん断応力度を計算し、この最大せん断応力度が許容せん断応力度を超えないことを確認しなければならない。この場合、全面改良をする場合の最大せん断応力度の計算は、非特許文献4によれば、改良地盤の形状を考慮して、次式
【数1】

によって行なう。
【0006】
前式は全面式地盤改良の場合には適切な計算方法であるが、改良体の平面形状が不整形で四角形でない場合の適用には検証が必要である。また全面式地盤改良の場合は高い改良費用を要することが欠点である。そこで地盤を格子状に改良することにより改良範囲を低減させて費用を最小限に抑える工法が考えられる。しかしながら、この場合、格子状に地盤改良した改良体に生じる最大せん断応力度を求める計算方法が確立されていないことが問題である。
【0007】
地震時に液状化しやすい地盤中に改良体による固化壁を格子状に配置して地盤の液状化を防止する技術は、例えば特許文献1や特許文献2に種々に開示されている。また液状化防止のための格子間隔の設定方法については特許文献3や特許文献4で開示されている。これらの発明では改良体は液状化防止の目的のために設置するものであり、重量建築物からくる荷重は分担しない場合の適用事例が多い。また格子間隔の設定方法の検討では二次元有限要素法により擬似的にモデル化した改良体の地震応答解析結果をベースに構築されており、格子状に地盤改良した改良体の応力状態が適切に評価されていない。したがって重量建築物を直接支持するための設計計算法として適用することができない。
【特許文献1】特許1930164号公報
【特許文献2】特許2131070号公報
【特許文献3】特開2001-355229号公報
【特許文献4】特開2002-302935号公報
【非特許文献1】「陸上工事における深層混合処理工法設計・施工マニュアル」(財)土木研究センター、平成11年6月
【非特許文献2】増田彰・成川匡文・中村紀吉・岸野泰章・鈴木吉夫・塩見忠彦「深層混合処理工法を用いた火力発電所建屋基礎地業の検討 ―その9設計法―」、日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、1997年9月
【非特許文献3】建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針,日本建築センター,平成9年6月
【非特許文献4】鈴木吉夫・成川匡文・荻原みき・舛田健次・石川泰・上山等・塩見忠彦「深層混合処理工法を用いた火力発電所建屋基礎地業の検討 ―その16改良地盤の内部応力照査方法の詳細検討とその設計法―」、日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)、2000年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術における問題点を解決することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の課題は請求項1の特徴を有する計算方法によって解決される。具体的な計算手法については、従属請求項に記載されている。本発明では、改良体を不整形(例えば四角形ではなく凹型など)に全面改良した場合や、また全面改良ではなく格子状に改良した場合に地震時に発生する最大せん断応力を評価できる点が大きな特徴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下で、例えば火力発電所本館を支持する基礎地盤に適用した場合を例にとって、格子状に改良した改良体に生じるせん断応力度を計算するための計算式を得る方法を、特に、計算を容易にするために改良地盤に作用する外力を改良体の面内壁で分担することを前提として、改良体に生じる最大せん断応力度の計算式を、
【数2】

とした場合の、改良体の外力分担率に関する関数、改良体の面内壁の応力分担率に関する関数、そして外周部分の割増係数を得る方法を説明する。
【0011】
改良地盤に作用する外力として、建屋基礎底面の接地圧、改良地盤の自重及び改良地盤の側面の土圧を考慮すべきであるが、その計算方法等については割愛する。その他、上記の計算式で使用される改良地盤の諸元は、図2の(a)、(b)及び(c)に示すとおりであり、(a)には、検討の際の格子壁厚に関しての考え方が示され、(b)には、汽力型発電所に対する格子式改良の適用例が示され、(c)には、有効断面積の考え方、即ち、(1)構造物支持範囲全面積:A、(2)構造物鉛直支持部面積:A、(3)改良体の見付け面積:a、(4)改良体の面内壁見付け面積aが示されている。この場合、構造物支持範囲全面積Aとは、タービン等支持部分とその周りの格子改良部支持地盤の面積を、構造物鉛直支持部面積Aとは、構造物支持範囲全面積から、格子改良部の格子内の未改良部を差し引いた面積を、改良体の見付け面積aとは、格子内の未改良部を除いた格子改良部の改良体面積を、そして改良体の面内壁見付け面積aとは、改良体の見付け面積のうち、水平の載荷方向と平行な面内壁の面積をいう。これを解析用にモデリングした標準モデルを図3に示す。
【0012】
一般汽力発電所の格子式改良の場合、全面改良とは異なり水平せん断の支持機構が三次元挙動を示す。またタービン等の重量構造物支持部分が改良地盤の上端よりも下がって設置される影響も考えられるため、三次元有限要素法による格子式改良地盤のせん断応力の解析は、震度法で行なう。
【0013】
図3に示す解析モデルを解析した結果から、格子式改良地盤のせん断応力分布に対して、改良体の外力分担率、支持地盤のせん断剛性、及び改良体の改良率(面内壁の面積率)の影響が大きいことを確認することができる。従って、図4に示す解析用全体モデルと、図5及び6に示す解析用部分モデルとを応力解析して、改良体の外力分担率、改良体の面内壁の応力分担率、及び外周部分の割増係数を策定する。
【0014】
改良体の外力分担率(構造物鉛直支持部に生じるせん断力に対する改良体に生じるせん断力の割合)と格子改良部の面積率(構造物鉛直支持部面積(A)に対する改良体の見付け面積(a)の割合)との相関は、図4に示す解析モデルを応力解析することによって確認する。解析は、支持地盤のせん断波速度(V)が360m/sと500m/sの2種類を、また載荷方向が長辺方向と短辺方向の2種類を条件として行なう。
【0015】
解析結果として、図7の(a)〜(c)に、支持地盤のせん断波速度(V)が500m/sであり、載荷方向が長辺方向である場合の、モデル(1)〜(3)の改良体(一般部)に生じるせん断力の総和、タービン等支持部に生じるせん断力の総和と、これから得られる改良体の総せん断力の割合の深さ方向の分布を例示的に示す。それぞれの条件でモデル(1)〜(3)の改良体の総せん断力の割合の分布を考察した結果、図8の散布図に示すように、せん断力が最大となる改良地盤底面での改良体の総せん断力の割合と格子改良部の面積率とに相関があることが分かる。これを回帰分析して得られる回帰式より、改良体の外力分担率は、
【数3】

で表される。
【0016】
改良体の面内壁の応力分担率(改良体に生じるせん断力に対する改良体の面内壁に生じるせん断力の割合)と、面内壁面積率(改良体の見付け面積(a)に対する改良体の面内壁見付け面積(al)の割合)との相関は、図5及び6に示す解析モデルを応力解析することによって確認する。これは、本来改良体の面内壁と面外壁とで受ける外力を、簡易的に面内壁でのみ受けるとしたために必要である。解析は、図5に示すような無限に続くとした格子改良の一部を抜き出した部分モデルを使用して、図6に示すような面内壁面積率のパターンで行なう。
【0017】
解析結果として、図9に、ある部分モデルの面内壁及び面外壁に生じるせん断力の総和と、これから得られる面内壁の総せん断力の割合の深さ方向の分布を例示的に示す。それぞれのパターンの部分モデルの面内壁の総せん断力の割合の分布を考察した結果、図10の散布図に示すように、面内壁のせん断力が最大となる深さでの面内壁の総せん断力の割合と面内壁面積率とに相関があることが分かる。図10には、深さ12mと18mとがプロットされているが、総せん断力の割合の大きい18mで評価すれば安全側であるので、深さ18mに対して回帰分析をして得られる回帰式より、改良体の面内壁の外力分担率は、
【数4】

で表される。
【0018】
外周部分の割増係数Cは、改良体の外力分担率を求めた際の解析結果を利用して求める。
【0019】
解析結果をまとめなおして、図11の(a)及び(b)に、モデル(1)の載荷方向に対する各面内壁の総せん断力、平均せん断応力、全体の平均せん断応力と、これから得られる全体の平均せん断応力に対する外周の面内壁のせん断応力の比(割増係数)の深さ方向の分布を例示的に示す。これをモデル(2)及び(3)に対しても行ない、せん断応力が最大となる改良地盤底面での割増係数を図12の表にまとめた。割増係数の値は、1.1〜1.4の範囲にあり、平均は1.23であるため一般的にC=1.25を応力割増係数Cとする。また、地盤改良率が増し、全面改良に近づいた場合、応力割増係数CはC=1.40に近づく。
【0020】
このようにして、格子式改良地盤の設計における内部安定を検討する際に使用可能な改良体に生じる最大せん断応力度を求める計算式が、以下のように得られる。
【数5】

であり、その際、
【数6】

である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)に地盤安定の検討フローを(b)に構造物を改良地盤で直接支持する場合の地盤安定の検討フローを示す。
【図2】改良地盤の諸元を示す。
【図3】解析用標準モデルを示す。
【図4】解析用全体モデルを示す。
【図5】解析用部分モデルを示す。
【図6】解析用部分モデルのパターンを示す。
【図7】改良体に生じる総せん断力及びその割合を示す。
【図8】改良体の総せん断力割合の散布図を示す。
【図9】改良体の面内壁に生じる総せん断力及びその割合を示す。
【図10】改良体の面内壁の総せん断力割合の散布図を示す。
【図11】外周の面内壁のせん断応力比を示す。
【図12】割増係数の表を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱地盤を深層混合処理工法により改良した改良地盤で構造物を直接支持する場合の改良体の地震時設計計算法において、改良地盤に作用する外力を改良体の面内壁で分担することを前提として、改良体に生じる最大せん断応力度の計算式を、
【数1】

とし、その際、
【数2】

及びCを、応力解析法を用いて、全面改良体または格子状改良体に作用する応力結果をあらかじめ求めて決定し、得られた計算式を使用して改良体に生じる最大せん断応力度を求めることを特徴とする計算方法。
【請求項2】
相関を確認するための解析用全体モデルを使用した震度法による応力解析の結果から得られる、相関のある総せん断力が最大となる改良地盤底面での構造物鉛直支持部に生じるせん断力に対する改良体に生じるせん断力の割合と、構造物鉛直支持部面積(A)に対する改良体の見付け面積(a)の割合との関係式から、改良体の外力分担率に関する関数を、
【数3】

とし、同時にこの解析結果から得られるせん断応力が最大となる改良地盤底面での面内壁全体の平均せん断応力と外周部の面内壁のせん断応力との比の平均から、外周部分の割増係数を、

C=1.25〜1.40

とすることを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項3】
相関を確認するための解析用部分モデルを使用した震度法による応力解析の結果から得られる、相関のある面内壁のせん断力が最大となる深さでの改良体に生じるせん断力に対する改良体の面内壁に生じるせん断力の割合と、改良体の見付け面積(a)に対する改良体の面内壁見付け面積(a)の割合との関係式から、改良体の面内壁の応力分担率に関する関数を、
【数4】

とすることを特徴とする請求項1に記載の計算方法。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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