説明

改質カーボンブラックおよびその製造方法

【課題】種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示す改質カーボンブラックおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】改質カーボンブラックは、カーボンブラック粒子が芳香族炭化水素系樹脂により改質されてなるものであって、当該改質カーボンブラックが、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分の条件で行う熱重量分析法による100℃から500℃までの質量減少率が5〜25質量%のものであることを特徴とする。改質カーボンブラックの製造方法は、カーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを機械的せん断力が作用される状態において混合する混合工程と、前記混合工程により得られた混合物を洗浄する洗浄工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の用途に用いられる改質カーボンブラックおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、着色性、導電性、耐候性および耐薬品性などに優れることから、例えばプラスチックやエラストマーの補強剤や充填剤として、また例えばインクの着色剤として、種々の用途に幅広く利用されている。
このようなカーボンブラックは、通常、複数の一次粒子が化学的・物理的に結合した二次粒子、すなわち凝集体(ストラクチャー)として存在している。この凝集体(以下、「一次凝集体」ともいう。)は、不規則な鎖状に枝分かれした複雑な凝集構造を有している。
【0003】
また、カーボンブラックは、一次凝集体同士がファンデルワールス力や単なる集合、付着、絡み合いなどにより、二次凝集体として存在するものも含まれることから、より複雑な凝集構造を有し、微分散状態を得ることは困難とされている。
【0004】
通常、カーボンブラックは、その形態が粉状または粒状であることから、単独で使用されることが少なく、樹脂やゴムなどの固体、または、水や有機溶剤などの液体に均一に混合または分散されることにより、その特性を発揮する。
しかしながら、カーボンブラックは、一次粒子間の凝集力に比べて、他の物質、例えば水や有機溶剤などとの親和性が低いために、通常の混合条件または分散条件によっては、均一に混合または分散させることが極めて難しいという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するため、カーボンブラックの表面を各種の界面活性剤や樹脂などにより被覆し、固体や液体などの分散媒物質との親和性を高めることにより、カーボンブラックの分散特性を改良する検討が多数なされている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すカーボンブラックを得る方法としては、凝集体を細分化する方法などが挙げられる。
しかしながら、凝集体を細分化する方法によっては、一次粒子間の凝集力または二次粒子間の凝集力が高いため、凝集体を細分化しても直ちに凝集して再び凝集体を形成するので、一次粒子または二次粒子として安定した状態が得られなかった。
【0007】
このような問題を解決するため、活性遊離基を有する有機化合物とカーボンブラックとを機械的せん断力が作用される状態において、有機化合物の融点以上の温度で直接グラフト反応させ、有機化合物により被覆されたカーボンブラックを得る方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、このような方法によっても、機械的せん断力が作用される部分において次々にグラフト反応が起こるため、粒子間での均一性が得られないことから、得られるカーボンブラックが種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すものとはならず、また、製造ロットごとにバラツキが大きくなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6417283号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第1781999号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示す改質カーボンブラックおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の改質カーボンブラックは、カーボンブラック粒子が芳香族炭化水素系樹脂により改質されてなる改質カーボンブラックであって、
当該改質カーボンブラックが、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分の条件で行う熱重量分析法による100℃から500℃までの質量減少率が5〜25質量%のものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の改質カーボンブラックにおいては、前記芳香族炭化水素系樹脂が、軟化点が100〜200℃のものであることが好ましい。
【0012】
本発明の改質カーボンブラックにおいては、着色剤として用いられることが好ましい。
【0013】
本発明の改質カーボンブラックの製造方法は、上記の改質カーボンブラックを製造する方法であって、
カーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを機械的せん断力が作用される状態において混合する混合工程と、
前記混合工程により得られた混合物を洗浄する洗浄工程とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の改質カーボンブラックの製造方法においては、前記混合工程に供されるカーボンブラック粒子の質量(m1)と芳香族炭化水素系樹脂の質量(m2)との比(m1/m2)が、100/25〜100/200であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の改質カーボンブラックにおいて、熱重量分析法(以下、「TGA」ともいう。)により測定される質量減少率から算出される質量減少量は、カーボンブラック粒子に対して固着された芳香族炭化水素系樹脂の量とほぼ同等と考えられる。従って、本発明の改質カーボンブラックによれば、当該改質カーボンブラックのTGAによる質量減少率が特定の範囲内であることにより、カーボンブラック粒子に対して適当量の芳香族炭化水素系樹脂による改質が施され、その結果、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すものとなる。
【0016】
本発明の改質カーボンブラックの製造方法によれば、機械的せん断力が作用される状態においてカーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを混合する混合工程を有することにより、カーボンブラック粒子に芳香族炭化水素系樹脂が固着されて良好な改質状態が得られるため、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示す改質カーボンブラックが得られる。
これは、機械的せん断力が作用される状態において混合工程が行われることにより、芳香族炭化水素系樹脂がカーボンブラック粒子間の間隙に浸透して凝集力が低減されるため、凝集体が細分化されて小粒径化されると共に、芳香族炭化水素系樹脂に係るフェニル基がカーボンブラック粒子の表面に存在する官能基と反応して表面エネルギーが安定な順位に導かれるため、細分化された凝集体が再凝集されることを抑制し、得られる改質カーボンブラックが種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すものになると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
〔改質カーボンブラック〕
本発明の改質カーボンブラックは、カーボンブラック粒子(以下、「原料カーボンブラック粒子」という。)が芳香族炭化水素系樹脂により改質されてなる改質カーボンブラック粒子よりなるものである。
本発明の改質カーボンブラックは、原料カーボンブラック粒子の少なくとも一部に芳香族炭化水素系樹脂が固着されて改質が施されてなるものであればよい。
ここで、本発明において、「カーボンブラック粒子(原料カーボンブラック粒子)」および「改質カーボンブラック粒子」とは、一次粒子、二次粒子すなわち一次凝集体、および、二次凝集体を含むものをいう。
【0019】
本発明の改質カーボンブラックは、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分の条件で行うTGAによる100℃から500℃までの質量減少率が5〜25質量%のものとされ、好ましくは10〜25質量%のものとされる。
TGAによる質量減少率が上記範囲内であることにより、原料カーボンブラック粒子に対して適当量の芳香族炭化水素系樹脂による改質が施されて、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すものとなる。
改質カーボンブラックのTGAによる質量減少率が5質量%未満である場合においては、原料カーボンブラック粒子に対して芳香族炭化水素系樹脂による改質機能が十分に発揮し得ず、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すものとならない。一方、改質カーボンブラックのTGAによる質量減少率が25質量%を超える場合においては、カーボンブラックとしての特性や機能を発揮できないおそれがある。
【0020】
ここで、「熱重量分析法」とは、対象試料の温度を制御しながら、当該対象試料の質量変化を測定し、対象試料の物質特性を分析する方法をいう。
本発明においては、TGAによる質量減少率は、具体的には、熱重量分析装置「EXSTAR6000」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、改質カーボンブラック10mgを窒素気流下において、昇温速度10℃/分の条件で、100℃から500℃まで40分間加熱したときの質量変化を測定し、下記式(1)により算出されるものである。
式(1):質量減少率(質量%)={(w1−w2)/w1}×100
〔式(1)中、w1は加熱前の改質カーボンブラックの質量であり、w2は加熱後の改質カーボンブラックの質量である。〕
【0021】
なお、本発明において、TGAによる質量減少率から算出される質量減少量には、原料カーボンブラック粒子自体に含有される水分などの蒸発による質量減少量も含まれると考えられるが、この原料カーボンブラック粒子自体の質量減少率はおよそ1質量%未満とごく微量であるため、本発明において規定する質量減少率から算出される質量減少量は、原料カーボンブラック粒子に対して固着された芳香族炭化水素系樹脂の量とほぼ同等と考えることとする。
【0022】
本発明の改質カーボンブラックを構成する改質カーボンブラック粒子は、フェレ径が10〜70nmである当該粒子が個数基準で70個数%以上存在することが好ましい。
本発明の改質カーボンブラックにおいて、小粒径の改質カーボンブラック粒子の存在比率が高いことにより、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示し、特に、本発明の改質カーボンブラックが、インクジェット方式による画像形成に供されるインクの着色剤として用いられる場合において、インクジェット用分散液におけるカーボンブラックが高い分散性を有することにより、高い着色力を有する着色剤を得ることができる。
【0023】
ここで、フェレ径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影された改質カーボンブラック粒子の任意の一方向における最大長をいう。この最大長とは、前記任意の一方向に対して垂直方向に、改質カーボンブラック粒子の外径に接する2本の平行線を引いた場合における平行線間の距離をいう。
なお、フェレ径の測定においては、改質カーボンブラック粒子が一次粒子として存在するものは当該一次粒子を測定対象とし、一次凝集体または二次凝集体として存在するものは当該一次凝集体または二次凝集体を測定対象とする。
【0024】
(原料カーボンブラック粒子)
本発明の改質カーボンブラックに用いられる原料カーボンブラック粒子としては、特に限定されないが、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどが挙げられ、具体的には「Mogul−L」、「Regal 330」(以上、キャボット社製)、「MA100S」、「MA220」、「MA100」、「MA230」「#2650」、「#33」(以上、三菱化学社製)などが挙げられる。
【0025】
また、本発明に係る原料カーボンブラック粒子のDBP吸油量としては、40〜160〔ml/100g〕であることが好ましく、40〜130〔ml/100g〕であることがより好ましい。
原料カーボンブラック粒子のDBP吸油量が160〔ml/100g〕を超える場合においては、ストラクチャーの発達が著しいために原料カーボンブラック粒子の表面に効率よく芳香族炭化水素系樹脂が固着されないおそれがある。
なお、本発明において、原料カーボンブラック粒子のDBP吸油量とは、原料カーボンブラック粒子100g当たりに吸収するDBP(ジブチルフタレート)の量をいい、具体的には、JIS K6217に準拠する方法により測定されるものである。
【0026】
(芳香族炭化水素系樹脂)
本発明の改質カーボンブラックに用いられる芳香族炭化水素系樹脂としては、フェニル基を有する樹脂であることが好ましく、具体的にはポリスチレン系樹脂、高分子主鎖からフェニル基などの芳香族系置換基が置換されてなる樹脂などが挙げられる。
【0027】
芳香族炭化水素系樹脂の軟化点としては、100〜200℃であることが好ましく、130〜190℃であることがより好ましい。
芳香族炭化水素系樹脂の軟化点が100℃未満である場合においては、後述する混合工程において、適当な温度で混練することが困難となり、原料カーボンブラック粒子の表面に十分に芳香族炭化水素系樹脂が固着されないおそれがある。一方、芳香族炭化水素系樹脂の軟化点が200℃を超える場合においては、後述する混合工程において、機械的せん断力が十分に得られない場合があり、得られる改質カーボンブラック粒子が小粒径化されないおそれがある。
なお、芳香族炭化水素系樹脂の軟化点は、具体的には、「フローテスターCFT−500(島津製作所社製)」を用い、高さ10mmの円柱形状に測定試料を成形し、昇温速度6℃/分で加熱しながらプランジャーより1.96×106 Paの圧力を加え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出すようにし、これにより当該フローテスターのプランジャー降下量−温度間の曲線(軟化流動曲線)を描き、最初に流出する温度を溶融開始温度、降下量5mmに対する温度を軟化点温度とする方法により測定されるものである。
【0028】
芳香族炭化水素系樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、30000以上300000以下であることが好ましく、50000以上300000以下であることがより好ましい。
芳香族炭化水素系樹脂の重量平均分子量(Mw)が30000未満である場合においては、得られる改質カーボンブラックの改質安定性が不足するおそれがある。一方、芳香族炭化水素系樹脂の重量平均分子量(Mw)が300000を超える場合においては、原料カーボンブラック粒子の表面改質は施されるものの、芳香族炭化水素系樹脂が分長分子鎖となるため、改質カーボンブラック粒子同士が絡み合い、小粒径化が図れないおそれがある。
なお、芳香族炭化水素系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線作成用の標準ポリスチレンとしては、Pressure Chemical社製の分子量が6×102 、2.1×103 、4×103 、1.75×104 、5.1×104 、1.1×105 、3.9×105 、8.6×105 、2×106 、4.48×106 のものを用いるものとする。
【0029】
本発明の改質カーボンブラックによれば、当該改質カーボンブラックのTGAによる質量減少率が特定の範囲内であることにより、原料カーボンブラック粒子に対して適当量の芳香族炭化水素系樹脂による改質が施され、その結果、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示すものとなる。
【0030】
〔改質カーボンブラックの製造方法〕
本発明の改質カーボンブラックの製造方法は、原料カーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを機械的せん断力が作用される状態において混合する混合工程と、この混合工程により得られた混合物を洗浄する洗浄工程とを経ることにより改質カーボンブラックを得る方法である。
【0031】
<混合工程>
この混合工程は、原料カーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを機械的せん断力が作用される状態において混合撹拌して混合物を得る工程である。
ここで、本発明において、「機械的せん断力を作用される状態」とは、機械的せん断力を付与する装置を用いることをいう。このような装置としては、例えばスクリューを備えた装置が挙げられ、具体的には、密閉式混練機、リファイナ、単軸押出機、二軸押出機、遊星軸押出機、錐形押出機、連続混練機、密封ミキサー、Z形ニーダーなどが挙げられる。
【0032】
このような機械的せん断力を付与する装置を用いる場合において、当該装置内におけるケーシングに充填する原材料の投入量としては、ケーシングの容量に対して80体積%以上の密度となるように調整することが好ましい。これにより、機械的せん断力を原材料に対して均一に付与することができる。
また、混合温度としては、混合物が100〜280℃となるように設定することが好ましい。これにより、芳香族炭化水素系樹脂が溶融されながら安定したトルクを確保することができる。
さらに、混合時間としては、芳香族炭化水素系樹脂による改質の程度によっても異なるが、15秒間〜120分間であることが好ましい。
【0033】
また、混合工程に供される原料カーボンブラック粒子の質量(m1)と芳香族炭化水素系樹脂の質量(m2)との比(m1/m2)としては、100/25〜100/200であることが好ましく、100/50〜100/100であることがより好ましい。
比(m1/m2)が上記範囲内であることにより、原料カーボンブラック粒子に芳香族炭化水素系樹脂が均一に固着され、また、再凝集を効果的に防止することができる。
【0034】
<洗浄工程>
この洗浄工程は、混合工程により得られた混合物を洗浄乾燥して改質カーボンブラック粒子を得る工程である。具体的には、ソックスレー抽出法により余剰の芳香族炭化水素系樹脂を除去して洗浄を行い、その後、乾燥を行う。このソックスレー抽出法を採用することにより、効率的に余剰の芳香族炭化水素系樹脂を除去することができる。
なお、余剰の芳香族炭化水素系樹脂とは、混合工程により得られた混合物に含有される、原料カーボンブラック粒子に固着された芳香族炭化水素系樹脂以外の芳香族炭化水素系樹脂や原料カーボンブラック粒子に固着された芳香族炭化水素系樹脂であって、洗浄工程において洗浄され得る芳香族炭化水素系樹脂をいう。
【0035】
ここで、ソックスレー抽出法とは、ソックスレー抽出器を用いて固体試料を溶媒で加熱還流することにより、固体試料に含有される目的成分を抽出する方法をいう。
具体的には、以下の手順1〜手順3により目的成分を抽出する方法である。
手順1:混合工程により得られた混合物を適量の有機溶媒に溶かし、ろ紙が入ったソックスレー抽出器に移す。
手順2:8時間加熱還流を行う。
手順3:ろ紙を取り出し、ろ紙上の残留物を乾燥する。
【0036】
本発明の改質カーボンブラックの製造方法によれば、機械的せん断力が作用される状態において原料カーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを混合する混合工程を有することにより、原料カーボンブラック粒子に芳香族炭化水素系樹脂が固着されて良好な改質状態が得られるため、種々の分散媒物質に対して高い分散特性を示す改質カーボンブラックが得られる。
【実施例】
【0037】
〔改質カーボンブラックの作製例1〕
原料カーボンブラック粒子として「Mogul−L」(キャボット社製)100質量部と、芳香族炭化水素系樹脂として「MW2C(軟化点:187℃)」(東洋スチレン社製)50質量部とを、機械的せん断力を付与する装置である「ポリラボシステムミキサ」(サーモエレクトロン社製)に、当該装置におけるケーシングの容量に対して85体積%の密度となるように投入し、混合温度として混合物が230℃となるように設定して120分間混合撹拌し、混合物を得た。次いで、ソックスレー抽出法により、得られた混合物から余剰の芳香族炭化水素系樹脂を洗浄し、その後、乾燥処理を行って、改質カーボンブラック粒子よりなる改質カーボンブラック〔1〕を作製した。
【0038】
〔改質カーボンブラックの作製例2〜7〕
原料カーボンブラック粒子の種類、芳香族炭化水素系樹脂の種類、比(m1/m2)、機械的せん断力を付与する装置の種類、および、混合温度を表1に従って変更することの他は改質カーボンブラックの作製例1と同様にして、改質カーボンブラック〔2〕〜〔7〕を作製した。なお、改質カーボンブラック〔2〕〜〔5〕は本発明に係るものであり、改質カーボンブラック〔6〕は比較用のものであり、改質カーボンブラック〔7〕は参考用のものである。
【0039】
【表1】

【0040】
なお、表1において、「Mogul−L」および「Regul 330」はキャボット社製、「MW2C(軟化点:187℃)」、「G100C(軟化点:164℃)」および「G200C(軟化点: 176℃)」は東洋スチレン社製、「ポリラボシステムミキサ」はサーモエレクトロン社製、二軸押出機「PCM−30」は池貝社製、V型混合機「VM−10」は三喜製作所社製のものである。
また、芳香族炭化水素系樹脂の軟化点については、上述した方法により測定したものである。
【0041】
〔評価〕
作製した改質カーボンブラック〔1〕〜〔7〕について、(1)小粒子比率を下記に示す方法により評価し、また、分散媒物質に対する分散特性の指標として、下記方法により作製された油性インクの(2)インク濃度を評価した。結果を表2に示す。
また、改質カーボンブラック〔1〕〜〔7〕について、上述した測定方法により、TGAによる質量減少率を算出した。結果を表2に示す。
【0042】
(1)小粒子比率
走査型電子顕微鏡(SEM)「JSM−7600F」(日本電子社製)を用いて、芳香族炭化水素系樹脂により改質される前の原料カーボンブラック粒子1000個について、および、芳香族炭化水素系樹脂により改質された後の改質カーボンブラック粒子1000個について、各々、フェレ径を測定し、当該フェレ径が10〜70nmである小粒子の存在比率を小粒子比率として評価した。
【0043】
〔油性インクの作製例1〕
着色剤として改質カーボンブラック〔1〕12質量部、顔料分散剤として塩基性官能基含有共重合体「アジスパーPB822」(味の素ファインテクノ社製)6質量部、N−メチルピロリドン6質量部、ジエチレングリコールジエチルエーテル76質量部を、直径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で60%充填した「横型ビーズミルシステムゼータミニ」(アシザワ社製)を用いて分散し、その後、ジルコニアビーズを除去してカーボンブラック分散液〔1〕を作製した。このカーボンブラック分散液〔1〕にN−メチルピロリドン4質量部、ジエチレングリコールジエチルエーテル58質量部、硫酸カリウム塩含有塩化ビニル樹脂「MR110」(日本ゼオン社製)5質量部を添加した後、0.8μmフィルターにより濾過して油性インク〔1〕を作製した。
【0044】
〔油性インクの作製例2〜7〕
油性インクの作製例1において、改質カーボンブラック〔1〕を、各々、改質カーボンブラック〔2〕〜〔7〕に変更したことの他は同様にして油性インク〔2〕〜〔7〕を作製した。
【0045】
(2)インク濃度
油性インク〔1〕〜〔7〕について、「ワイヤーバーNo.7」(エスエムテー社製)を用いて白光沢塩ビシート「MD3/White/GL」(メタマーク社製)に塗布し、1日間自然乾燥した後、濃度計「X−Rite938」(X−Rite社製)により反射濃度を測定した。測定された反射濃度をインク濃度とした。なお、インク濃度が高い程、改質カーボンブラックが改質カーボンブラック分散液に対して高い分散性を有することを示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果より、本発明に係る改質カーボンブラック〔1〕〜〔5〕においては、改質される前の原料カーボンブラック粒子の小粒子比率に比べ、改質された後の改質カーボンブラック粒子の小粒子比率が高く、芳香族炭化水素系樹脂による改質により小粒径化されたことが確認された。また、本発明に係る改質カーボンブラック〔1〕〜〔5〕を着色剤として用いた油性インク〔1〕〜〔5〕は、比較用の改質カーボンブラック〔6〕および参考用の改質カーボンブラック〔7〕を着色剤として用いた油性インク〔6〕および〔7〕に比べ、高いインク濃度を示し、改質カーボンブラック〔1〕〜〔5〕がカーボンブラック分散液に対して高い分散性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック粒子が芳香族炭化水素系樹脂により改質されてなる改質カーボンブラックであって、
当該改質カーボンブラックが、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分の条件で行う熱重量分析法による100℃から500℃までの質量減少率が5〜25質量%のものであることを特徴とする改質カーボンブラック。
【請求項2】
前記芳香族炭化水素系樹脂が、軟化点が100〜200℃のものであることを特徴とする請求項1に記載の改質カーボンブラック。
【請求項3】
着色剤として用いられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の改質カーボンブラック。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の改質カーボンブラックを製造する方法であって、
カーボンブラック粒子と芳香族炭化水素系樹脂とを機械的せん断力が作用される状態において混合する混合工程と、
前記混合工程により得られた混合物を洗浄する洗浄工程とを有することを特徴とする改質カーボンブラックの製造方法。
【請求項5】
前記混合工程に供されるカーボンブラック粒子の質量(m1)と芳香族炭化水素系樹脂の質量(m2)との比(m1/m2)が、100/25〜100/200であることを特徴とする請求項4に記載の改質カーボンブラックの製造方法。

【公開番号】特開2012−41498(P2012−41498A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186047(P2010−186047)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】