説明

改質セメント系材料の製法

【課題】還元剤として、環境に対して優しく、かつ安価な物質を使用することにより、安定してセメント系材料からの六価クロムの溶出防止を図る。
【解決手段】 六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に、その被処理材中の六価クロム含有量x(mg/kg)に応じて、当量比率yが下記(A1)式および(B1)式を満たすように亜硫酸カルシウムを配合する、改質セメント系材料の製法。
y≧100x-1 ……(A1)
y≧40 ……(B1)
亜硫酸カルシウム源として、SOXの吸収剤として生石灰を使用するタイプの排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロムを含有するセメント系材料を処理することにより、六価クロムの溶出が顕著に抑制される改質セメント系材料を製造する方法に関する。本発明の対象となる改質セメント系材料としては、代表的には、地盤改良に用いるソイルセメントが挙げられる。また、モルタル構造物やコンクリート構造物を解体することによって生じた粉粒状あるいは塊状のセメント系材料を用いた、地盤改良材や、盛土、覆土等の埋め戻し材が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
セメントにはクロム、亜鉛、鉛、銅などの金属元素が微量に含まれている。このうちクロムの一部は六価クロムとして存在しており、セメント系材料を地盤改良材または埋め戻し材として使用する場合には、環境上、問題となることがある。この六価クロムは粘土中に含まれる三価クロムの一部が高温酸化雰囲気での焼成工程で酸化されることによって生成すると考えられている。
【0003】
セメント系材料に含有される六価クロムを溶出し難くする(不溶化する)ための方法として、特許文献1、2にはカルシウムアルミネートを含有する重金属低減材・捕集材が記載されている。特許文献3、4にはカルシウムフェライト、あるいはカルシウムアルミノフェライトを含有する重金属低減材・捕集材が記載されている。
【0004】
一方、特許文献5にはセメント混練時に還元剤を存在させることにより六価クロムの放出を防止する方法が開示されている。その還元剤としては第一鉄、第一錫、第一バナジウム、第一銅等が挙げられ、硫酸第一鉄が好ましいと記載されている。還元剤の使用量は、六価クロム量に対し10〜30倍の当量とすることが好ましいと記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−153836号公報
【特許文献2】特開2004−136160号公報
【特許文献3】特開2004−130240号公報
【特許文献4】特許第3804950号公報
【特許文献5】特許第2876441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に記載の方法は、六価クロムをセメント系材料中に固定化することにより溶出防止を図ろうというものである。これらの方法ではカルシウムアルミネート(アルミナセメント)やカルシウムフェライト等の物質を必要とし、コストが増大する。また、六価クロムの固定化が不十分であれば溶出を招く恐れがあり、それを防止するには結局、還元剤の併用が望まれる。一方、特許文献5に開示の方法では還元剤として鉄、錫、銅などを含む薬剤が必要である。代表的にはそれらの塩類が使用できるが、例えば鉄塩を使用した場合、鉄は還元機能を発揮して自ら酸化されると錆(さび)を発生し、錆流れの原因となりうる。錫、銅などの金属を土壌中に投入することも環境上好ましいとはいえない。また、これらの薬剤は比較的高価であり、コスト的な観点からも地盤改良材の用途で大量に使用するのには適していない。
【0007】
上述のように、セメント系材料中に含まれる六価クロムの溶出を安定して抑止するには、六価クロム自体を三価クロムに還元するための還元剤の使用が望まれる。本発明は、そのような還元剤として、地盤改良材等の用途で大量に使用した場合にも環境に対して優しく、かつ安価な物質を使用することにより、安定してセメント系材料からの六価クロムの溶出防止を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に、その六価クロムが三価クロムに還元される反応が進行するに足る量の亜硫酸カルシウムを配合する改質セメント系材料の製法が提供される。ここで、被処理材であるセメント系材料は、硬化前のセメント成分を含有する材料、あるいは既にセメント成分が硬化した物質(コンクリートやモルタルの粉砕物など)を含有する材料が対象となる。改質セメント系材料は、亜硫酸カルシウムが配合された結果、六価クロムの溶出が顕著に抑制される性質を備えているものである。具体的には、環境省告示18号試験(環境庁告示46号試験)に準拠した溶出試験において六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下となるものである。
【0009】
また本発明では、六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に、その被処理材中の六価クロム含有量x(mg/kg)に応じて、当量比率yが下記(A1)式および(B1)式を満たすように亜硫酸カルシウムを配合する、改質セメント系材料の製法が提供される。
y≧100x-1 ……(A1)
y≧40 ……(B1)
ただし、当量比率yは、被処理材中の六価クロムnモル全部を三価クロムに還元するに必要な亜硫酸カルシウムの化学量論量n0モル(=1.5nモル)に対する、亜硫酸カルシウム配合量n1モルの比率であり、y=n1/n0で定義される。
【0010】
特に、上記(A1)式および(B1)式に代えて、下記(A2)式および(B2)式を満たすように亜硫酸カルシウムを配合する、改質セメント系材料の製法が提供される。
y≧200x-1 ……(A2)
y≧100 ……(B2)
【0011】
また、当量比率yに関わらず、亜硫酸カルシウムを十分多量に添加する手法を採用することもできる。その場合、セメント系材料(被処理材)1kgに対し、亜硫酸カルシウムをCaSO3・1/2H2O換算で0.5〜1000gの範囲で配合させるとよい。この手法は六価クロムを20mg/kg以下の範囲で含有するセメント系材料(被処理材)に適用される。
【0012】
上記の「被処理材」としては、(i)セメントそのもの、(ii)セメントと土の混合物としてのソイルセメント、(iii)コンクリート塊(40mm以下に粉砕したもの)、(iv)コンクリート塊から粗骨材を取り除いたもの(粒径2mm以下の細骨材とモルタル成分の混合物、あるいは粒径300μm以下のいわゆる副産微粉)、(v)打設したコンクリート残渣、などが対象となる。特に上記(ii)〜(v)としては、セメントを5〜40質量%含むものが好適な対象となり、セメントを10〜30質量%含むものがより好適な対象となる。六価クロム含有量x(mg/kg)は、このような被処理材1kg当たりにおける還元前の六価クロムの量(mg)である。
【0013】
上記の亜硫酸カルシウム源として、SOXの吸収剤として生石灰を使用するタイプの排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物を使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、六価クロムを含有する一般的なセメント系材料について、その六価クロムを三価クロムに無害化することが可能になる。その際、前記(A1)式および(B1)式、場合によっては(A2)式および(B2)式を満たすように還元剤(亜硫酸カルシウム)の配合量を調整することにより、特に安定して優れた無害化効果が得られる。このため、従来のように、還元剤を添加したにも関わらず六価クロムの溶出が十分に食い止められなかった、という失敗が防止される。また、還元剤として火力発電所等の排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム含有物質が使用できる。この物質は亜硫酸カルシウムと生石灰を主成分とするものであり、鉄や銅などの遷移金属を使用した還元剤と異なり、地盤材料の用途においても環境に優しい。また、安価である。したがって本発明は、ソイルセメントの無害化や、コンクリート粉砕物を用いた地盤材料の無害化に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
六価クロムは、一般に水中において酸性でもアルカリ性でも安定なイオンとして存在する(下記(1)式)。しかし、還元剤によって六価クロムを三価クロムに還元すると、水酸化クロムとして沈殿させることができる(下記(2)式)。
2CrO42-+2H+(アルカリ性) ⇔ Cr272-+H2O(酸性) ……(1)
Cr3++3OH- → Cr(OH)3↓ ……(2)
【0016】
本発明では、六価クロムの還元剤として亜硫酸カルシウムを使用する。亜硫酸カルシウムは食品の防腐剤、浄水器、発酵工業の殺菌剤に使用されるように無害の物質である。このため、地盤材料等への添加には適している。
【0017】
六価クロムの還元剤として亜硫酸カルシウム半水和物(CaSO3・1/2H2O)を用いた場合の還元反応は下記(3)式で表すことができる。
2H2CrO4+3CaSO3・1/2H2
→ Cr2(SO43+3Ca(OH)2+1/2H2
→ 2Cr(OH)3+3CaSO4+1/2H2O ……(3)
このような還元反応は基本的に酸性域で起こりやすいが、還元剤が過剰に存在すればアルカリ性領域でも進行するようになる。還元された三価クロムは不溶性の水酸化クロムとして、通常の地盤中のクロムと同様に無害な形態で土壌中に留まる。一方、亜硫酸カルシウムは酸化されて石膏(CaSO4)となる。これは、被処理材であるセメント系材料中の未水和セメント分と合わさってエトリンガイト等を形成し、硬化に寄与すると考えられる。
【0018】
還元剤としての亜硫酸カルシウムは、被処理材であるセメント系材料中に含まれる六価クロムを全部三価クロムに還元するのに必要な化学両論量よりも、かなり過剰に配合する必要がある。発明者らの調査によれば、化学両論量の約100倍以上の量の亜硫酸カルシウムを被処理材に配合することによって、多くの場合、六価クロムの溶出を十分に抑止することができる。
【0019】
ところが、更なる詳細な検討の結果、亜硫酸カルシウムの配合量を化学両論量の何倍にすべきかについては、被処理材中に含まれる六価クロムの含有量に応じて事情が異なってくることがわかった。すなわち、被処理材中の六価クロム含有量が多くなると、亜硫酸カルシウムの化学両論量に対する配合倍率が低くても十分な不溶化効果が得られるようになる。例えば、化学両論量の100倍以上といった多量の配合量を確保しなくても済む場合が多々ある。逆に、六価クロム含有量が少ない被処理材の場合は、より高い配合倍率を確保すべき場合もある。このような配合倍率を本明細書では「当量比率y」と呼び、以下のように定義している。
当量比率y: 被処理材中の六価クロムnモル全部を三価クロムに還元するに必要な亜硫酸カルシウムの化学量論量n0モル(=1.5nモル)に対する、亜硫酸カルシウム配合量n1モルの比率であり、y=n1/n0で定義される。
【0020】
具体的には、被処理材中の六価クロム含有量x(mg/kg)に応じて、亜硫酸カルシウムの当量比率yを例えば下記(A1)式および(B1)式を満たすようにすれば、六価クロムの溶出を安定して顕著に抑止することができる。
y≧100x-1 ……(A1)
y≧40 ……(B1)
(A1)式は後述の実験によって、環境省告示18号試験(環境庁告示46号試験)に準拠した溶出試験での六価クロムの溶出量が0.01mg/L以下となる範囲を定めた上で、さらに安全を見込んで設定されたものである。ただし、被処理材における六価クロムの含有量xが多くなると、(A1)式だけでは還元不足を招くようになる。このため、(B1)式をも同時に満たすようにする。被処理材の種類や状態によって溶出量が0.01mg/L以下となる範囲は多少変動しうる。しかし、溶出量0.01mg/L以下という規定は、環境基準の0.05mg/Lに対して十分厳しいものである。つまり、(A1)式と(B1)式を同時に満たすように亜硫酸カルシウムを添加すれば、被処理材の形態が多少変わっても、六価クロムの溶出量を抑止する効果は発揮される。
【0021】
ただし、より高い信頼性を持って安定的に六価クロムの溶出量を抑止したい場合は、(A1)式に代えて、下記(A2)式を満たすことがより好ましい。あるいは下記(A3)式のように厳しく管理してもよい。また、(B1)式に代えて、下記(B2)式を満たすことがより好ましい。あるいは下記(B3)式のように厳しく管理してもよい。
y≧200x-1 ……(A2)
y≧400x-1 ……(A3)
y≧100 ……(B2)
y≧300 ……(B3)
【0022】
後述実施例で示すように、六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に対し、亜硫酸カルシウムの配合量を徐々に増大していくと、ある配合量まではほとんど六価クロムの溶出抑制効果は発揮されないが、それを超えると急激に六価クロムの溶出が抑止される挙動が見られる。このことは、亜硫酸カルシウムの配合量がある量(臨界量)以上になると、前述の(3)式に示されるような還元反応が進行することを意味する。この挙動は多くのセメント系材料において共通して観測される。したがって、個々の被処理材に応じて、臨界量以上の量の亜硫酸カルシウムを配合させることが重要である。亜硫酸カルシウムが安価に入手できるならば、安全しろを十分に見込んだ大量の亜硫酸カルシウムを添加するという手法が有利となる場合もある。例えば、排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物を使用するような場合である。特に、地盤改良材の用途では、亜硫酸カルシウムや生石灰が大量に配合されても問題ない。
【0023】
発明者らの調査によれば、セメント系材料(被処理材)1kgに対し、亜硫酸カルシウムをCaSO3・1/2H2O換算で0.5g以上配合したとき、これまでに経験した数多くの実験例(六価クロム含有量xが5mg/kg以下の範囲)において、いずれも六価クロムの無害化が達成された。つまり、これまでに経験してきた例ではいずれも、この配合量以上において、六価クロムが三価クロムに還元される反応が進行したことになる。ただし、あまり多量に亜硫酸カルシウムを添加することはコスト的な観点から好ましくないので、被処理材と同量(1000g)以下とすることが望ましい。なお、亜硫酸カルシウムは還元機能を発揮すると自らは酸化されて石膏となる。種々検討の結果、改質セメント系材料中の石膏量を5質量%以下に規制すべき場合には、被処理材1kgに対し、亜硫酸カルシウムをCaSO3・1/2H2O換算で0.5〜50gの範囲とすることが望ましい。
【0024】
本発明では還元剤として亜硫酸カルシウムを被処理材に配合するが、工業的には排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物を添加することによって行うことができる。排煙脱硫装置には種々のタイプがあるが、亜硫酸カルシウム・生石灰混合物が発生するのは、SOXの吸収剤として生石灰を使用するタイプのものである。不純物の少ない亜硫酸カルシウム・生石灰混合物を得るためには、特に、集塵機の下流に配置される排煙脱硫装置が適している。例えば火力発電設備における排煙脱硫装置が挙げられる。排煙脱硫装置には、発生した亜硫酸カルシウムを石膏に酸化させる装置が付属しているものもある。その場合は、石膏に酸化させるプロセスに移す前の段階で亜硫酸カルシウム・生石灰混合物のスラッジを回収すればよい。
【0025】
発明者らの検討によれば、亜硫酸カルシウムとともに生石灰成分を添加する場合、生石灰を亜硫酸カルシウム(半水和物)に対する質量割合で5倍程度に多量に添加しても、亜硫酸カルシウムによる六価クロムの還元作用は阻害されないことが確かめられた。この点、排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物は本発明において問題なく使用できる。
【0026】
本発明で好適な対象となる改質セメント系材料としては、例えば地盤改良のためのソイルセメントが挙げられる。改質されたソイルセメントを得るには、大きく2通りの方法がある。1つは、予め原料セメント粉体と亜硫酸カルシウム粉体を混合してプレミックス粉体を得ておき、これを使用して現場で混練物を作る方法である。もう1つは、現場において原料と亜硫酸カルシウムを直接混合して混練物を作る方法である。被処理材中の六価クロム濃度を知るためには、予め六価クロム含有物質(セメント等)の分析により、被処理材における六価クロム含有量x(mg/kg)を算出しておけばよい。なお、ソイルセメントに限らず、各種構造物を構築するためのモルタルやコンクリートも本発明の改質セメント系材料の対象となりうることはもちろんである。
【0027】
また、モルタルやコンクリートの粉砕物などを含む地盤改良材も本発明でいう改質セメント系材料の対象とすることができる。この場合、モルタルあるいはコンクリート粉砕物は40mmアンダーとする必要があるが、細かい粉粒状(例えば2mm以下好ましくは300μm以下)とすることが望ましい。コンクリート粉砕物などは、必要に応じて他の材料(土質材料、セメント、水など)と混合されて地盤改良材とされる。この場合、還元剤である亜硫酸カルシウムとよく混合することが望ましい。改質された地盤改良材は、コンクリート構造物の解体現場またはその近辺の地盤に埋設したり、盛土に利用したりすることができる。
【実施例1】
【0028】
6種類のセメント固化体(コンクリート塊)の粉砕物(粗骨材込み)を用意した(試料1〜6)。粉砕物の粒径は2mm以下に調整されている。各試料(被処理材)300gに対し、市販の硫酸カルシウム半水和物の添加量を6段階に変化させた混合粉体(供試材)を得た。被処理材の六価クロム含有量x(還元前の値)、および添加した硫酸カルシウム半水和物添加量の当量比率yを表1に示す。供試材の粉体を環境省告示18号試験(環境庁告示46号試験)(液固比10、6時間振とう、ろ液中の六価クロム量測定)に供した。六価クロム溶出量の結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表2から、いずれの試料においても、被処理材300gに対する亜硫酸カルシウム半水和物の添加量が0.06g(0.465mmol)と0.10g(0.775mmol)の間で、六価クロムの溶出量が急激に低下することがわかる。つまり、この間に、六価クロムが三価クロムに還元される反応を進行させるに足る亜硫酸カルシウムの臨界量が存在する。そして、少なくとも亜硫酸カルシウム半水和物を0.10g(0.775mmol)以上添加した場合には、六価クロムの溶出量が0.01mg/L以下となる。ただし、試料により六価クロムの含有量レベルが異なっている。そこで、亜硫酸カルシウム半水和物を0.1g(0.775mmol)添加したものについて、被処理材の六価クロム含有量x(mg/kg)と、亜硫酸カルシウムの当量比率yの関係を図1に示す。
【0032】
図1からわかるように、六価クロム含有量x(mg/kg)と、六価クロムの溶出量が0.01mg/L以下となるときに要した亜硫酸カルシウムの当量比率yは、反比例の関係になり、ここでの結果はy=89.6x-1の曲線で表される。つまり、ここで用いた被処理材の場合、y≧89.6x-1を満たすように亜硫酸カルシウムを配合すると、還元反応が進行し、六価クロムの溶出が0.01mg/L以下に低減できる。別の形態の被処理材を用いた場合には、このようなxとyの関係を表す曲線は多少変化するはずである。しかし、環境基準の0.05mg/Lに対しては、y≧89.6x-1の範囲は余裕を有する。前記(A1)式は、このy≧89.6x-1に対して、さらに余裕を付与するために係数を100としたものである。したがって、種々の形態の被処理材において、前記(A1)式を満たすように亜硫酸カルシウムを添加することは、六価クロムの無害化にとって一般的に極めて有効な手段になると見てよい。ただし、被処理材中の六価クロム含有量xが増大すると、(A1)式に従うだけでは還元力が不足してくる。したがって、前記(B1)式y≧40を同時に満たすことが重要である。信頼性を一層高めるには、xとyの反比例の関係を保ちながら(A1)式の係数を大きくした前述の(A2)式あるいは(A3)式を必要に応じて管理指標に用いるとよい。また、(B1)式の代わりに(B2)式あるいは(B3)式を採用することも信頼性向上に有効である。
【実施例2】
【0033】
実施例1で使用した被処理材300gに対し亜硫酸カルシウム半水和物を0.1g(0.775mmol)添加するとともに、さらに生石灰CaOを0.1g、0.5gの2水準で添加した配合組成のサンプル(6試料×2水準=計12種類)を作製し、実施例1と同様の手法で六価クロムの溶出量を調べた。その結果、CaOを添加した12種類とも、CaOを添加しなかった実施例1のものと同様に、六価クロムの溶出量は0.01mg/L以下であった。このことから、質量比で亜硫酸カルシウム半水和物の5倍の量の生石灰を添加しても、亜硫酸カルシウムによる還元作用は阻害されないことがわかった。したがって、本発明では、SOXの吸収剤として生石灰を使用するタイプの排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物が十分に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1において、被処理材中の六価クロム含有量x(mg/kg)と、六価クロムの溶出量が0.01mg/L以下となるのに要した亜硫酸カルシウムの当量比率yの関係を表したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に、その六価クロムが三価クロムに還元される反応が進行するに足る量の亜硫酸カルシウムを配合する、改質セメント系材料の製法。
【請求項2】
六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に、その被処理材中の六価クロム含有量x(mg/kg)に応じて、当量比率yが下記(A1)式および(B1)式を満たすように亜硫酸カルシウムを配合する、改質セメント系材料の製法。
y≧100x-1 ……(A1)
y≧40 ……(B1)
ただし、当量比率yは、被処理材中の六価クロムnモル全部を三価クロムに還元するに必要な亜硫酸カルシウムの化学量論量n0モル(=1.5nモル)に対する、亜硫酸カルシウム配合量n1モルの比率であり、y=n1/n0で定義される。
【請求項3】
六価クロムを含有するセメント系材料(被処理材)に、その被処理材中の六価クロム含有量x(mg/kg)に応じて、当量比率yが下記(A2)式および(B2)式を満たすように亜硫酸カルシウムを配合する、改質セメント系材料の製法。
y≧200x-1 ……(A2)
y≧100 ……(B2)
ただし、当量比率yは、被処理材中の六価クロムnモル全部を三価クロムに還元するに必要な亜硫酸カルシウムの化学量論量n0モル(=1.5nモル)に対する、亜硫酸カルシウム配合量n1モルの比率であり、y=n1/n0で定義される。
【請求項4】
六価クロムを20mg/kg以下の範囲で含有するセメント系材料(被処理材)1kgに対し、亜硫酸カルシウムをCaSO3・1/2H2O換算で0.5〜1000gの範囲で配合する、改質セメント系材料の製法。
【請求項5】
SOXの吸収剤として生石灰を使用するタイプの排煙脱硫装置で発生する亜硫酸カルシウム・生石灰混合物を使用することによって亜硫酸カルシウムを配合する請求項1〜4のいずれかに記載の改質セメント系材料の製法。

【図1】
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