説明

改質天然ゴム及びその製造方法

【課題】耐候性に優れるとともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】天然ゴム及び脱蛋白質化天然ゴムの少なくとも一方からなるゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合の一部にエポキシ基を導入してエポキシ化ゴム状重合体を形成する。次いで、同エポキシ化ゴム状重合体の主鎖に残存する不飽和二重結合に水素添加するとともにエポキシ基の一部または全部を開館させて水酸基を形成することにより、主鎖の不飽和二重結合を20%未満に減少させた水素添加ゴム状重合体を形成する。その後、エポキシ基及び水酸基を起点とする架橋を形成して改質天然ゴムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性に優れるとともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野においてゴム製品が実用化されている。これらゴム製品の原料としては、植物由来の天然ゴムと、石油由来の合成ゴムとに分類される。このうち合成ゴムでは、耐油性、耐候性、ガス透過性、耐寒性などに優れた性質を有する様々な種類のものが実用化されている。例えば、耐候性、耐オゾン性に優れた合成ゴムとしてはエチレン−プロピレンゴム(EPDM)が挙げられ、同ゴムは自動車部品、絶縁体など様々な用途に使用されている。
【0003】
一方、近年、石油資源の枯渇や地球温暖化などに対する懸念から植物由来材料への関心が高まっている。この植物由来材料は、限りある石油資源の消費を抑制することができるとともに、植物が生長過程で地球温暖化の要因となる二酸化炭素を吸収するため地球温暖化の抑制にも寄与することができると期待されている。
【0004】
ここで、ゴムの木から重合体として採集される天然ゴムは、加工性及び強度等に優れた特性を有するため、様々な用途で使用されている。しかし、その主鎖に不飽和二重結合を含むことから耐候性、耐オゾン性に劣るため、製品寿命が短く日光に曝される部品には適用し難いといった問題がある。そのため、このような天然ゴムの性質を改良し、上記合成ゴムの代替品となり得る材料の開発が望まれている。現在までに、かかる天然ゴムの性質を改良する手段として、水素添加することにより主鎖の不飽和二重結合を減少させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−28507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、天然ゴムに水素添加を行うと、不飽和二重結合が減少して耐候性が向上するものの、結晶化が進んでゴム弾性等のゴム特性が失われる虞がある。また、不飽和二重結合が減少することにより、架橋の形成が困難になるといった不都合も生じる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐候性に優れるとともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、改質天然ゴムであって、天然ゴム及び脱蛋白質化天然ゴムの少なくとも一方からなるゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合がエポキシ化及び水素添加により20%未満に減少されているとともに、前記ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合に導入されたエポキシ基が開環された水酸基を起点とする架橋構造を有することを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合が20%未満に減少されているため、紫外線や空気中の酸素、オゾンなどが不飽和二重結合に対して作用することによる劣化を効果的に抑制することができ、耐候性や耐オゾン性を向上させることができるようになる。
【0010】
ここで、こうして耐候性を向上させるためには、ゴム状重合体の不飽和二重結合を0%近くまで減少させることが望ましい。しかし、水素添加のみにより不飽和二重結合をほぼ完全に消失させると、結晶化が進みゴム状弾性等のゴム特性が失われる結果、このような重合体はゴム製品に適用できなくなる虞がある。
【0011】
本発明者らは、この点について、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合にエポキシ基、または同エポキシ基を開環した水酸基を導入することにより、水素添加を行うことによる結晶化を抑制でき、これによりゴム特性を保持することができることを見出した。
【0012】
そこで、上記改質天然ゴムでは、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合に導入されたエポキシ基が開環された水酸基を起点とする架橋構造を有するようにしている。これにより、耐候性に優れるとともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴムを得ることができ、ひいては、ゴム特性及び耐候性、耐オゾン性を要する部品の原料として、上記改質天然ゴムを使用することができるようになる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、改質天然ゴムの製造方法であって、天然ゴム及び脱蛋白質化天然ゴムの少なくとも一方からなるゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合の一部にエポキシ基を導入してエポキシ化ゴム状重合体を形成するエポキシ化工程と、前記エポキシ化ゴム状重合体の主鎖に残存する不飽和二重結合に水素添加するとともに前記エポキシ基の一部または全部を開環させて水酸基を形成することにより、主鎖の不飽和二重結合を20%未満に減少させた水素添加ゴム状重合体を形成する水素添加工程と、前記エポキシ基及び前記水酸基を起点とする架橋を形成して改質天然ゴムを得る架橋工程とを有することを要旨とする。
【0014】
上記製造方法によれば、主鎖の不飽和二重結合が20%未満に減少された改質天然ゴムが得られるため、紫外線や空気中の酸素、オゾンなどが不飽和二重結合に対して作用することによる劣化を効果的に抑制することができ、耐候性や耐オゾン性に優れた改質天然ゴムを製造することができるようになる。
【0015】
また、上記製造方法では、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合の一部に予めエポキシ基を導入した後に、水素添加により同エポキシ基を開環させて水酸基を形成するようにしている。したがって、耐候性を向上させるべく水素添加によってゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合を減少させた場合であっても、水素添加後のゴム状重合体(水素添加ゴム状重合体)の結晶化を抑制することができる。また、ゴム状重合体の主鎖にエポキシ基及び水酸基が導入されるため、その後の架橋工程において、エポキシ基及び水酸基を起点とした架橋を形成することができるようになる。したがって、上記製造方法によれば、耐候性に優れるとともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴムを製造することができるようになり、こうして製造された改質天然ゴムは、ゴム特性及び耐候性、耐オゾン性を要する部品の原料としても使用することができるようになる。
【0016】
なお、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合に水素添加した後にエポキシ基を導入する場合にあっては、主鎖の比較的長い部分の不飽和二重結合が全て水素添加されて、その部分にエポキシ基が導入されないことがある。このため、水素添加ゴム状重合体が部分的に結晶化することとなり、ゴム特性を十分に保持することができなくなる虞がある。
【0017】
この点、上記製造方法によれば、エポキシ基を導入した後に水素添加を行っているため、エポキシ基(水酸基)が比較的均等に導入されることとなり、水素添加ゴム状重合体の結晶化を効果的に抑制することができる。
【0018】
ここで、水素添加ゴム状重合体において、その後の架橋形成に必要となる起点を十分に確保するとともに結晶化の抑制効果を十分に得るためには、上記エポキシ化工程においてエポキシ化率が1%以上になるようにエポキシ化ゴム状重合体を形成することが望ましい。一方、エポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率を25%よりも高くすると、この後の水素添加工程において、水素添加ゴム状重合体の収率が低下することが発明者らの実験により判明している。なお、この原因としては、同工程においてゴム状重合体が低分子化することが挙げられる。
【0019】
そこで、請求項3に記載されるように、上記エポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率について1〜25%とすることにより、ゴム特性及び耐候性、耐オゾン性に優れた改質天然ゴムを効率よく製造することができるようになる。
【0020】
また、請求項4に記載されるように、上記架橋工程では、ジヒドラジド、ジカルボン酸、ジアミン、及びジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種の架橋剤を用いることにより架橋を形成するようにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合が20%未満に減少されているため、紫外線や空気中の酸素、オゾンなどが不飽和二重結合に対して作用することによる劣化を効果的に抑制することができ、耐候性や耐オゾン性を向上させることができるようになる。また、ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合の一部に予めエポキシ基を導入してエポキシ化ゴム状重合体を形成した後に、水素添加により同エポキシ基を開環させて水酸基を導入しているため、水素添加により主鎖の不飽和二重結合が減少した場合であっても水素添加ゴム状重合体が結晶化することを抑制することができる。これにより、耐候性や耐オゾン性に優れるとともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴムを製造することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる改質天然ゴム及びその製造方法について、さらに詳細に説明する。
(原料ラテックス)
本発明で改質天然ゴムを得るための原料となる天然ゴムラテックスとしては、天然ゴムの木から得られたラテックス及び該ラテックスを処理したものを使用することができ、例えば、新鮮なフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等を使用することができる。
【0023】
また、本発明においては、上記天然ゴムラテックスまたは下記に示す脱蛋白質化天然ゴムを任意の割合で混合したゴム状重合体を使用することができる。
(天然ゴムの脱蛋白質化)
天然ゴムラテックスの脱蛋白質化の方法は特に限定されないが、同ラテックスに蛋白質分解酵素等を添加して蛋白質を分解させる方法(特開平6−56902号公報)、石鹸等の界面活性剤により繰り返し洗浄する方法、尿素を用いる方法(特開2004−99696号公報)など、公知の方法により行うことができる。このうち、例えば本発明者らが先に提案した尿素を用いる方法は、適当な界面活性剤を添加して安定化させた天然ゴムラテックスに、下記一般式(1)で表される尿素系化合物(尿素誘導体、尿素複塩)及びNaClOからなる群から選択される蛋白質変性剤を添加し、ラテックス中の蛋白質を変性除去した後、界面活性剤により洗浄して脱蛋白質化天然ゴムラテックスを得る方法である。
RNHCONH …(1)
(式中のRは、H又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)
ここで使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムが好んで使用されるが、これに限られず適宜変更し得る。具体的には、カルボン酸系,スルホン酸系,硫酸エステル系,リン酸エステル系のようなアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール系や多価アルコール系のようなノニオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩のようなカチオン系界面活性剤、アミノ酸系やベタイン系のような両性界面活性剤、植物由来のバイオベースの界面活性剤等、各種の界面活性剤が使用し得る。
【0024】
また、上記一般式(1)で表される尿素誘導体としては、尿素、メチル尿素、エチル尿素、n−プロピル尿素、i−プロピル尿素、n−ブチル尿素、i−ブチル尿素、n−ペンチル尿素等が挙げられるが、好ましい尿素誘導体としては、尿素、メチル尿素、エチル尿素が挙げられる。
【0025】
なお、天然ゴムラテックスの脱蛋白質化は、天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下になるようにすることが好ましい。
(エポキシ化)
ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合(二重結合)へのエポキシ基の導入(エポキシ化)は、ゴム状重合体と有機過酸とを反応させて、同ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結をエポキシ基に置換することにより行う。具体的には、界面活性剤で安定化させたゴム状重合体のラテックスに有機過酸を添加し、所定時間反応を進行させることにより行う。なお、こうしたエポキシ化は、ラテックス状態で行うほかにも、固形ゴムやゴムを適当な有機溶媒に溶かして行うことも可能である。また、ここで使用される界面活性剤についても、上記天然ゴムの脱蛋白質化と同様に、各種の界面活性剤を使用することができる。
【0026】
エポキシ化する際に用いられる有機過酸としては、例えば、過安息香酸、過酢酸、過ギ酸、過フタル酸、過プロピオン酸、トリフルオロ過酢酸、過酪酸等が挙げられる。これらの有機過酸は天然ゴムラテックスに直接添加してもよいが、有機過酸を形成し得る成分を添加して、ラテックス中にて有機過酸を生成させてもよい。例えば、過ギ酸を生成させるには、ギ酸と過酸化水素とを順次添加すればよい。過酢酸を生成させるには、無水酢酸と過酸化水素とを順次添加すればよい。
【0027】
エポキシ化により得られるエポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率は、1〜25%であることが望ましい。なお、このエポキシ化率は、エポキシ化前におけるゴム状重合体中の二重結合のうち、エポキシ基に置換された割合を示す。
【0028】
(水素添加)
上記エポキシ化により得られたエポキシ化ゴム状重合体の水素添加は、同エポキシ化ゴム状重合体を不活性有機溶媒で溶解させ、窒素やアルゴンなどの不活性気体または水素の雰囲気下において、水素添加用触媒を添加するとともに高圧水素を供給して、または還元剤を添加して行う。なお、不活性とは、水素添加反応のいかなる関与体とも反応しないものを意味する。上記不活性有機溶媒としては、ペンタン,ヘキサン,ヘプタン,オクタンのような脂肪族炭化水素類、シクロペンタン,メチルシクロペンタン,シクロヘキサンのような脂環族炭化水素類、ベンゼン,トルエン,キシレン,エチルベンゼンのような芳香族炭化水素など種々のものが使用し得る。
【0029】
水素化触媒としては、炭素−炭素二重結合の水素添加に一般的に用いられる均一系触媒及び不均一系触媒を用いることができる。具体的には、ニッケル,ルテニウム,白金,パラジウム,ロジウムなどの金属を、カーボン,シリカ,アルミナなどの単体に担持させた触媒等が挙げられる。こうした触媒の存在下、高圧水素ガスとゴム状重合体とを所定温度にて所定時間接触させることにより水素添加を行う。
【0030】
還元剤としては、p−トルエンスルホニルヒドラジドなどの還元剤を使用することができる。具体的には、ゴム状重合体のモノマー単位のモル量の4倍程度のモル量の還元剤を、ゴム状重合体を含む反応系に添加して十分に撹拌した後、135℃程度の所定温度で2〜12時間還流させながら水素添加を行う。なお、こうした反応は、上述したバッチ式のほか連続式の方法で実施しても良い。
【0031】
こうした水素添加により、エポキシ化ゴム状重合体の主鎖に残存する不飽和二重結合(二重結合)に水素添加されるとともに、同エポキシ化ゴム状重合体中のエポキシ基が開環して水酸基が形成された水素添加ゴム状重合体(以下、「水素添加物」と称する)が得られる。
【0032】
なお、上記水素添加物における水素添加率は、80%以上であることが好ましい。この水素添加率は、エポキシ化前におけるゴム状重合体中の二重結合のうち、上記エポキシ化及び水素添加反応に伴い減少した二重結合の割合を示すものであって、水素添加物中に残存する二重結合の数を測定することにより算出することができる。すなわち、水素添加により得られる水素添加物中に残存する二重結合の割合は、20%未満にまで減少していることが好ましい。
【0033】
(架橋)
上記水素添加物の架橋は、同水素添加物と架橋剤とを混合した後、熱プレスを実施することにより行う。ここで使用される架橋剤は、水酸基と反応するものであればよく、アジピン酸ジヒドラジド,プロピオン酸ジヒドラジドのようなジヒドラジド類、イソプロピルヒドラジン硫酸塩のようなアルキルヒドラジン類、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールのようなトリアゾール類、ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物、ビスマレイミドのようなイミド系化合物、無水フタル酸のようなジカルボン酸、ヘキサメチレンジアミンカーバメートのようなジアミンなど、幅広く使用することができる。これらの架橋剤は、単独であるいは混合して使用することができる。このうち、アジピン酸ジヒドラジドが好ましく用いられる。
【0034】
具体的には、水素添加物のゴム分100重量部に対して架橋剤を4重量部程度添加し、これら水素添加物と架橋剤とを混合する。なお、この混合には、通常の混練り装置、例えばラバーミル、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機などを使用することもできる。その後、プレス成形機を用いて、180℃程度の所定温度にて、所定時間保持することにより架橋形成を完了させて、成形品(改質天然ゴム)を得る。
【実施例】
【0035】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明にかかる改質天然ゴム及びその製造方法についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0036】
<評価方法>
本実施例においては、以下に示す各種評価方法を適用した。
(エポキシ化率の算出)
エポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率について、H−NMRを用いた測定結果に基づき次式により算出した。
【数1】

【0037】
(水添率の算出)
水素添加物の水素添加率(水添率)について、H−NMRを用いた測定結果に基づき次式により算出した。
【数2】

【0038】
(水酸基の割合の算出)
水素添加物中の水酸基の割合について、H−NMRを用いた測定結果に基づき次式により算出した。
【数3】

【0039】
(収率の算出)
水素添加物の収率について、次式により算出した。
【数4】

【0040】
(架橋性)
評価用サンプルの濃度が0.1重量%となるようにトルエンを加えた後、同溶液を室温にて24時間静置した。その後、同溶液をろ過して得られた未溶解成分を乾燥させた後に秤量し、次式によりゲル分率を算出した。こうして算出した熱プレス後のゲル分率が「0」よりも高く、且つ熱プレス前に比して上昇したものを「架橋性あり」と判断した。
【数5】

【0041】
(架橋密度)
評価用サンプルの濃度が1重量%となるようにトルエンを加えた後、同溶液を室温にて72時間静置し、未溶解成分を回収した。そして、同サンプルの表面に付着したトルエンを除いた後に秤量し、次に示すFlory−Rhener式により架橋密度を算出した。
【数6】

【0042】
(耐候性)
JIS K6259に準拠し、温度40℃、オゾン濃度50pphm、5%伸長の条件下にて、評価用サンプルに亀裂が入るまでの経過時間を計測した。
【0043】
(結晶性)
示差走査熱量計を用いたDSC測定(−80℃〜150℃、10℃/min)にて、128℃付近に結晶化に由来する吸熱ピークのあるものを「結晶性あり」と判断した。
【0044】
<評価用サンプルの作製>
(実施例1)
(実施例1:天然ゴムの脱蛋白質化)
天然ゴムラテックスとして、GOLDEN HOPE PLANTATION製のsingleHAラテックス(ゴム分濃度60.2重量%、アンモニア分0.7重量%、ゴム粒子の平均粒径約1μm)を使用した。ゴム分の濃度が30重量%になるように上記ラテックスを希釈した後、このラテックス溶液100重量部に対してアニオン系界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム1.0重量部を添加し、ラテックスを安定化させた。次いで、このラテックスのゴム分100重量部に対して尿素0.1重量部を添加し、25℃で2時間撹拌して蛋白質分離処理を行った。その後、15℃において9000rpmで30分間の遠心分離処理を行い、上層のクリーム分を回収した。回収したクリーム分を、ドデシル硫酸ナトリウム1重量%水溶液にゴム分が30重量%となるように分散させ、2回目の遠心分離処理を上記と同様に行った。さらに3回目の遠心分離処理を行った後、回収したクリーム分をドデシル硫酸ナトリウム1重量%水溶液に分散させ、脱蛋白質化天然ゴムラテックスを得た。本実施例では、この脱蛋白質化天然ゴムラテックスのみをゴム状重合体として使用した。なお、この脱蛋白質化天然ゴムラテックスの窒素含有率は、0.02重量%であった。
【0045】
(実施例1:エポキシ化)エポキシ化工程
ゴム分濃度が10重量%、ドデシル硫酸ナトリウムが1重量%となるよう添加したゴム状重合体ラテックス100gに対し、過酢酸4mlを1ml/secの速度で滴下した。その後、6℃の条件下で6時間振とうしながら反応させた後、25%アンモニア水により反応溶液を中和した。次いで、試料をメタノールにより凝縮させて、得られた沈殿物を回収した。さらに、この沈殿物をトルエンに溶解させた後、メタノールにより再度凝縮させた。こうした操作を3回繰り返すことにより、沈殿物としてエポキシ化ゴム状重合体を得た。こうして得られたエポキシ化ゴム状重合体について、上述した評価方法に従ってエポキシ化率を算出した。
【0046】
(実施例1:水素添加)水素添加工程
窒素置換下において、ゴム分濃度が1重量%となるように上記エポキシ化ゴム状重合体をp−キシレンで溶解させた後、p−トルエンスルホニルヒドラジドを添加して十分に撹拌した。このp−トルエンスルホニルヒドラジドの添加量は、エポキシ化ゴム状重合体のモノマー単位のモル量の4倍のモル量とした。なお、モノマー単位のモル量は、エポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率を考慮して同モノマー単位の平均分子量を算出し、この算出された平均分子量でエポキシ化ゴム状重合体の全重量を割ることにより決定した。次いで、135℃にて還流させながら2時間反応させた後、室温にて冷却することにより反応を停止させた。その後、試料をメタノールにより凝縮させて、得られた沈殿物を回収した。さらに、この沈殿物をトルエンに溶解させた後、これをメタノールにより再度凝縮させた。こうした操作を3回繰り返すことにより、沈殿物として水素添加物を得た。
【0047】
こうして得られた水素添加物の水添率、水酸基の割合、及び収率について、上述した評価方法に従いそれぞれ算出した。なお、この水素添加物中のエポキシ基の割合についてもH−NMRを用いて測定したが、計測不可能な程度にまで減少していた。これにより、前の工程(エポキシ化工程)により導入されたエポキシ基は、水素添加により開環して水酸基が生成されたと推察された。
【0048】
(実施例1:架橋)架橋工程
上記水素添加物をトルエンに溶解させた後、同水素添加物のゴム分100重量部に対して架橋剤のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学株式会社製)4重量部を添加し混合した。その後、試料をメタノールにより凝縮させて、得られた沈殿物を回収した。こうして得られた試料のゲル分率について、上述した評価方法に従って算出し、これを「熱プレス前」のゲル分率とした。
【0049】
次に、同試料をプレス成形機にセットし、180℃、10MPaの条件下にて20分間保持させることにより、水酸基を起点とした架橋を形成させるとともにプレス成形を実施して成形品(改質天然ゴム)を得た。そして、こうして得られた改質天然ゴムの一部を評価用サンプルとして採取した。この評価用サンプルのゲル分率について、上述した評価方法に従って算出し、これを「熱プレス後」のゲル分率とした。また、この評価用サンプルについて、上述した評価方法に従い、耐候性(耐オゾン性)を評価した。
【0050】
(実施例2〜8)
実施例1において、エポキシ化における過酢酸の添加量、及び水素添加における反応時間を表1記載の条件にそれぞれ変更した他は、実施例1と同様に評価用サンプルを作製した。
【0051】
なお、実施例2にかかる評価用サンプルについては、上述した評価方法(架橋密度)に従い、架橋密度を算出した。また、実施例4にかかる評価用サンプルについては、上述した評価方法(結晶性)に従い、結晶性についても評価した。
【0052】
(実施例9)
エポキシ化率が25%のエポキシ化天然ゴムとして、Rubber Research Institute of Malyasia製「27−50(商品名)」を用い、表1記載の条件にて水素添加、及び架橋反応を行ったものを評価用サンプルとした。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様に調製した脱蛋白質化天然ゴムを用い、実施例1と同様に架橋反応を行ったものを、架橋性を判断するための評価用サンプルとした。また、上記脱蛋白質化天然ゴムを用い、パーオキサイド(日本油脂株式会社製パーブチルP)を使用して架橋反応を行ったものを、耐候性(耐オゾン性)を評価するための評価用サンプルとした。
【0054】
(比較例2)
実施例1と同様に調製した脱蛋白質化天然ゴムを、表1記載の条件にてエポキシ化し、その後、実施例1と同様に架橋反応を行ったものを評価用サンプルとした。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、エポキシ化及び水素添加を表1記載の条件にてそれぞれ行い、その後実施例1と同様に架橋反応を行ったものを評価用サンプルとした。
【0056】
(比較例4)
エポキシ化率が50%のエポキシ化天然ゴムとして、Rubber Research Institute of Malyasia製「27−50(商品名)」を用い、表1記載の条件にてエポキシ化及び水素添加を行った。
【0057】
(比較例5、6)
実施例1と同様に調製した脱蛋白質化天然ゴムを用い、表1記載の条件にてそれぞれ水素添加して得られたゴム状重合体を、結晶性を判断するための評価用サンプルとした。なお、これら比較例5,6の結晶性については、表2に示すように、−100℃〜150℃(10℃/min)の条件にてDSC測定を行うことにより結晶性の有無を判断した。
【0058】
(実施例1−2〜9−2)
実施例1−2は、実施例1と同様に作製した水素添加物を用い、表3記載の3種の架橋剤を使用してそれぞれ架橋反応を行ったものを、架橋性を判断するための評価用サンプルとした。また、実施例2−2〜9−2についても同じく、実施例2〜9と同様にそれぞれ作製した水素添加物を用い、表3記載の3種の架橋剤を使用してそれぞれ架橋反応を行ったものを、架橋性を判断するための評価用サンプルとした。
【0059】
(比較例1−2)
比較例1−2は、比較例1と同様に調製した脱蛋白質化天然ゴムを用い、表3記載の3種の架橋剤を使用してそれぞれ架橋反応を行ったものを、架橋性を判断するための評価用サンプルとした。
【0060】
(比較例2−2)
比較例2と同様に作製したエポキシ化ゴム状重合体を用い、表3記載の3種の架橋剤を使用してそれぞれ架橋反応を行ったものを、架橋性を判断するための評価用サンプルとした。
【0061】
(比較例3−2)
比較例3と同様に作製した水素添加物を用い、表3記載の3種の架橋剤を使用してそれぞれ架橋反応を行ったものを、架橋性を判断するための評価用サンプルとした。
【0062】
<評価結果1>
上記実施例1〜9及び比較例1〜6を評価した結果を表1及び表2に示す。
なお、表1及び表2の「−」は、各反応及び評価を実施していないことを表す。
【0063】
【表1】

上記表1に示す結果により、以下のことが分かる。
【0064】
・表1の「収率」に示すように、エポキシ化率が高くなるほど水素添加物の収率が低下した。すなわち、エポキシ化率が25%である実施例9における水素添加物の収率は4%となり、エポキシ化率が50%である比較例4における水素添加物の収率は0%となった。これにより、エポキシ化ゴム状重合体を形成する際には、そのエポキシ化率が25%以下になるようにゴム状重合体のエポキシ化を行うことが望ましいことが分かった。
【0065】
・表1の「架橋性」に示すように、比較例1については、熱プレス後のゲル分率が0%であったのに対し、エポキシ化及び水素添加反応を行った実施例1〜9及び比較例3については、熱プレス後のゲル分率が上昇した。これにより、水素添加物中の水酸基を起点として架橋が形成されたことが示された。なお、表1に示すように、実施例2における熱プレス後の架橋密度が1.3×10−4(mol/cm)と算出されたことからも、架橋が形成されたことが確認できる。
【0066】
また、エポキシ化のみを行った比較例2についても、熱プレス後のゲル分率が上昇していた。これにより、エポキシ化ゴム状重合体に含まれるエポキシ基を基点として架橋が形成されたことが示された。
【0067】
【表2】

上記表2に示す結果により、以下のことが分かる。
【0068】
・表2の「耐候性」に示すように、水添率が80%未満である比較例1〜3については、各評価用サンプルに亀裂が入るまでの時間が2〜8時間であったのに対し、水添率が80%以上である実施例1〜9については、各評価用サンプルに亀裂が入るまでの時間が180時間であった。このことにより、これら実施例について耐候性(耐オゾン性)が向上したことが確認された。
【0069】
・表2の「結晶性」に示すように、水素添加のみを行った比較例6(水添率97%)について、結晶性「有」との結果が得られたのに対し、エポキシ化を行った後に水素添加を行った実施例4については、水添率が98.7%と高いにも関わらず、非晶性(結晶性:無)との結果が得られた。これにより、上記実施例4について、水添率が高いにも関わらず結晶化が進んでおらず、ゴム特性を保持していることが確認された。なお、水添率が93%である比較例5については非晶性(結晶性:無)との結果が得られていることや、発明者らによる他の実験等の結果から、耐候性を向上させるべく水添率を概ね95%以上にまで上昇させると、結晶化が進みゴム状弾性等のゴム特性が失われることが判明している。
【0070】
<評価結果2>
上記実施例1−2〜9−2、及び比較例1−2〜3−2を評価した結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

上記表3に示すように、架橋剤として無水フタル酸、ジアミン(ヘキサメチレンジアミンカーバメート)、ジイソシアネートのいずれを使用した場合であっても、エポキシ化及び水素添加を行った実施例1−2〜9−2及び比較例3−2について、熱プレス後におけるゲル分率が熱プレス前に比較して上昇した。これにより、水素添加物中の水酸基を起点として架橋が形成されたことが示された。なお、同表3に示す熱プレス前のゲル分率は、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドを使用した場合(表1)における熱プレス前のゲル分率(0%)と比較して高く算出された。これは、無水フタル酸、ジアミン又はジイソシアネートを架橋剤として使用した場合には、水素添加物と架橋剤とを混合した時点において、ある程度架橋が形成されたことが原因であると推察される。
【0072】
また、エポキシ化のみを行った比較例2−2についても、熱プレス後のゲル分率が上昇していた。このことにより、エポキシ化ゴム状重合体に含まれるエポキシ基を基点として架橋が形成されたことが示された。
【0073】
以上詳述した本実施例によれば、次の効果が得られる。
(1)本実施例におけるゴム状重合体(改質天然ゴム)の主鎖の二重結合は、20%未満に減少されているため、紫外線や空気中の酸素、オゾンなどが二重結合に対して作用することによる劣化を効果的に抑制することができ、改質天然ゴムの耐候性、耐オゾン性を向上させることができるようになる。
【0074】
(2)本実施例では、エポキシ化工程においてゴム状重合体の主鎖の二重結合の一部にエポキシ基を導入した後に、水素添加工程においてエポキシ基を開環させて水酸基を形成するようにしている。そのため、耐候性を向上させるべく水素添加によってゴム状重合体の主鎖の二重結合を減少させた場合であっても、形成される水素添加ゴム状重合体が結晶化することを抑制することができる。
【0075】
(3)また、エポキシ基を導入した後に水素添加を行うことにより水素添加ゴム状重合体を形成しているため、水素添加後にエポキシ化を行うことにより形成されたゴム状重合体と比較して、エポキシ基(水酸基)が水素添加ゴム状重合体の主鎖に均等に導入される。したがって、水素添加ゴム状重合体の結晶化、ひいては改質天然ゴムの結晶化を効果的に抑制することができる。
【0076】
(4)さらに、水素添加工程において形成された水素添加ゴム状重合体の主鎖には水酸基が導入されているため、その後の架橋工程において、水酸基を起点とした架橋を形成することができる。したがって、耐候性に優れるととともにゴム特性を保持するように改質された改質天然ゴムを製造することができるようになる。
【0077】
(5)エポキシ化工程において得られるエポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率を1〜25%としているため、ゴム特性及び耐候性に優れた改質天然ゴムを効率よく製造することができる。
【0078】
(6)本実施例において得られた改質天然ゴムは、ゴム特性及び耐候性を要する部品の原料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及び脱蛋白質化天然ゴムの少なくとも一方からなるゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合がエポキシ化及び水素添加により20%未満に減少されているとともに、
前記ゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合に導入されたエポキシ基が開環された水酸基を起点とする架橋構造を有する
ことを特徴とする改質天然ゴム。
【請求項2】
天然ゴム及び脱蛋白質化天然ゴムの少なくとも一方からなるゴム状重合体の主鎖の不飽和二重結合の一部にエポキシ基を導入してエポキシ化ゴム状重合体を形成するエポキシ化工程と、
前記エポキシ化ゴム状重合体の主鎖に残存する不飽和二重結合に水素添加するとともに前記エポキシ基の一部または全部を開環させて水酸基を形成することにより、主鎖の不飽和二重結合を20%未満に減少させた水素添加ゴム状重合体を形成する水素添加工程と、
前記エポキシ基及び前記水酸基を起点とする架橋を形成して改質天然ゴムを得る架橋工程とを有する
ことを特徴とする改質天然ゴムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の改質天然ゴムの製造方法において、
前記エポキシ化工程において形成される前記エポキシ化ゴム状重合体のエポキシ化率は1〜25%である
ことを特徴とする改質天然ゴムの製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の改質天然ゴムの製造方法において、
前記架橋工程は、ジヒドラジド、ジカルボン酸、ジアミン、及びジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種の架橋剤を用いることにより架橋を形成する
ことを特徴とする改質天然ゴムの製造方法。

【公開番号】特開2010−248388(P2010−248388A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100077(P2009−100077)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】