説明

改質木材、および改質木材を製造する方法

木材試料を改質する方法において、木材試料は容器内に重合性低分子量フラン誘導体を含む含浸溶液に浸漬され、その容器は5乃至29barの範囲の圧力で30乃至120分の範囲の時間だけ加圧され、その後、木材試料は60乃至600分の範囲の時間だけ0.01乃至0.5barの範囲の真空状態にされ、その含浸溶液が重合化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質木材、および改質木材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含浸化合物(impregnation compound)を用いて木材を改質するのが望ましいことが、しばしばある。含浸化合物の保持率または保持度(degree of retention)は、母材の木材の“重量増加百分率”(Weight Percent Gain:WPG、増加重量%)で表される。また、含浸化合物の保持率が低い(減少した)レベルであることが望ましいことが、ときどきある。従って、重合性(重合可能な)流体(液体)の保持率レベルを可変に(制御可能に)減少させることができるような、重合性流体(液体)を木材に含浸させる改善された方法に対するニーズ(必要性)が存在する。
【発明の概要】
【0003】
.
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、化学的吸収量(取込み量)と真空引き工程の持続時間の関係を示している。
【図2】図2および3は、半分に切断された2つのブロック(上側(図2)が端部シールされたもの。下側(図3)がEN252の杭。)を示している。
【図3】(図2で説明)
【図4】図4は、半分に切断された2つのマツ材ブロックを示している。上側が75%HW(心材)であり、下側が60%HW(心材)である。
【図5】図5は、エタノール10%を加えた場合の、化学的吸収量(取込み量)と真空引き工程の持続時間の関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0005】
フランポリマー修飾(modified:改質)木材の製造は、先ず、低分子量のフラン誘導体の重合性液体(溶液)、例えば、フルフラール、フルフリルアルコール ビスヒドロキシメチルフラン(bishydroxymethylfuran、BHF)またはこれらの組合せ、および任意成分として、含浸溶液の性質に応じて(依存して)、触媒、開始剤、低沸点アルコール、例えばエタノール、または含浸溶液の性質に応じてその他の化合物、のような適切な量の重合性(重合可能な)液体を、木材に含浸させることによって、行われる。その含浸の後、その木材を加熱し、それによって、その重合性化合物は重合化されてその木材細胞中でフランポリマーが形成される。
【0006】
本発明の一実施形態によれば、その重合性成分は、例えば水またはその他の溶媒(solvent:溶剤)のような希釈剤によって希釈されることなく、用いられる。その含浸は、先ず、少なくとも30分の時間期間だけ少なくとも5barの圧力下でその木材にその含浸液を適用する(含浸させる)ことによって行われる。この実施形態の別の特徴(観点)によれば、その圧力は少なくとも10barであり、この圧力下でのその含浸時間は30分乃至60分の範囲の時間である。
【0007】
この過圧(overpressure:加圧)の工程の後、延長された(長い時間の)真空引き(低圧力状態、真空排気)の工程が続く。その真空引き工程において、その含浸容器(impregnation vessel:含浸管)は、真空引きされ、その圧力は少なくとも4時間だけ低レベル(0.1bar)の低圧状態に維持される。この実施形態の別の特徴(観点)によれば、その真空引き(低圧力)状態は5乃至6時間だけ維持される。
【0008】
本発明の第2の実施形態によれば、その木材は、液体含浸が開始される前に、10乃至30分の時間期間(スパン)だけ2乃至6barの初期空気圧を受け、従って、含浸の前にその木材細胞体積(容積)のうちのより多く(の部分)が空気で満たされる。
【0009】
本発明のさらに別の特徴(観点)によれば、その含浸溶液は、さらに、例えば5乃至10%の量のエタノールのような低沸点アルコールを含んでいる。
【0010】
その含浸工程の後で、その含浸された木材は80乃至150℃の範囲の温度に加熱され、それによってその重合性成分が重合化されてその木材細胞中でフランポリマーが形成される。水が希釈剤として使用されないので、その木材をさらに乾燥させる必要はない。
【0011】
本発明のさらに別の特徴(観点)によれば、上述の方法(プロセス、処理)によって得ることができる製品は、30乃至100%の範囲の母材の木材の“重量増加百分率”(WPG)で表現され、乾燥密度が増加した、広範囲のフランポリマー保持率を有することができる。本発明のさらに別の特徴(観点)によれば、その製品は、30乃至80%の範囲のWPGを示すことができ、さらに別の特徴(観点)によれば、70%以下のWPGを示すことができる。
【0012】

材料および方法
木材試料
I.スウェーデン、ウプサラ(Uppsala)、外部、ハルスジョー・ブラドガルド(Hallsjoe braedgard)から入手可能な、断面28×125mmおよび長さ200mmの純粋な(pure)ヨーロッパ・アカマツ(Scots pine)(学名Pinus sylvestris)の複数の辺材(sapwood)板材(boards)。
【0013】
IIおよびIII.スウェーデン、ヴァルベリ(Varberg)、ヴァルベリ・ティンバー(Varberg Timber)から入手可能な、2つのグループ(群)のヨーロッパ・アカマツ(Scots pine)、断面28×125mmおよび長さ200mmの、それぞれ約60%および約75%の心材(HW)含有率(content:量、体積)(保存(防腐)処理木材の製造の標準品質)。
【0014】
IVおよびV.スウェーデン、東南部、ウナレッド・ソーミル(Unnared Sawmill)から入手可能な、純粋なヨーロッパ・アカマツ(Scots pine)のEN252杭(stakes)(25×50×500mm)およびEN113ブロック(15×25×50mm)。
【0015】
VI. WPTから入手可能な、種々の断面積および長さ200mmの、複数のブナ(beech)(学名:Fagus sylvatica)板材(boards)。
【0016】
全て長さ200mmの木材ブロックが、シカシール(Sicaseal)のプライマ(primer:下塗り、下地調整液、下塗液、下塗剤)とその後にシカシール(Sicaseal)の建築用シリコーンによって、繊維組織(木目)露出端シール(封止)された(endgrain-sealed)。野外用の杭(field stakes)(25×50×500mm)は、繊維組織露出端シール(封止)されなかった。
【0017】
処理混合物
FAはフルフリルアルコール(furfuryl alcohol)を表す。“FA100”混合物(ミックス)は、触媒を添加した未希釈のフルフリルアルコールをベースとする(based on:を基材又は基剤とする、に基づく)ものである。“FA40”混合物は、触媒および安定化用化合物を添加した約28%のフルフリルアルコールを含む水性(waterborne:ウォーターボーン)フルフリルアルコール溶液(またはフルフリルアルコール水溶液)である。“FA50”混合物(ミックス)は、触媒および安定化用化合物を添加した約32%のフルフリルアルコールを含む水性(waterborne)フルフリルアルコール溶液(フルフリルアルコール水溶液)である。そのFA100混合物は、ウッド ポリマー テクノロジーズASA(WPT、現在のケボニーASA)によって開発された商業用の処法(レシピ)に基づくものである。そのFA100混合物に対する変形(modification:修正)が、10%のエタノール(最終混合物をベース(基準)とするm/m(質量/質量、質量比、重量比))を加えることによる第1組の複数のテストの後で、行われた。
【0018】
含浸処理(プロセス)
例1: 対照(比較例)−FA100処理混合物を用いた標準ローリー法(Lowry process:プロセス)。90分間の12bar圧力(加圧)と、それに続く60分間の後真空引(post-vacuum:後真空、後真空排気、後低圧)状態。
【0019】
例2: FA100処理混合物。45分間の12bar圧力と、それに続く6時間の後真空引き状態(中間にその各試料の計量(weighting:重量計量)を含むそれぞれ2時間の期間に分割される)。
【0020】
例3: エタノールを加えることによって変形(修正)を施したFA100処理混合物。60分間の12bar圧力と、それに続く6時間の後真空引き状態(中間にその各試料の計量(重量計量)を含むそれぞれ2時間の期間に分割される)。
【0021】
また、例2、例3は、各試料の計量(重量計量)なしでも行われた。
その含浸の期間において、全ての端部シール(封止)(end-sealed)はそれらの機能(端部シール機能)を達成すると思われる。
【0022】
硬化
繊維組織露出端シール(封止)された1つの試料(オーブン内に直接置かれたもの)以外は、全ての試料の表面をきれいに拭いた。次いで、それらの試料を、アルミ箔で包んで、温度103℃のオーブン内に一晩朝まで(over night)(約12時間)置いた。朝、そのアルミ箔を取り外して、それらの試料をそのオーブン内に戻した。2時間後、その温度を120℃に上昇させて1時間の間置き、次いで再び103℃に冷却し、その後、それらの試料を取り出した。硬化の期間において、その繊維組織露出端シール被覆(コーティング)に膨れ(blisters)が出現した。
【0023】
例および結果
例1:対照(比較例)−標準ローリー法(90分間の加圧+60分間の後真空引き(post-vacuum)状態)。
【0024】
【表1】

【0025】
表1には、最初のローリー法による含浸のデータが示されている。完全な浸透(full penetration)が得られたが、後真空引き工程による化学的吸収の減少量は、676kg/mのうちの50kg/mだけであり、結果として得られたWPG(重量増加百分率)は87%(最終含有率(content:含有量、体積)に基づく保持量は404kg/m)であった。アルミ箔で包まなかった木材ブロックはそのグループ中で最高のWPGを持っていたが、含浸の後でより高い吸収量を有していたので、包んだその他のものよりもフルフリルアルコールを12%多く(12%より多く)失った。
【0026】
その吸収量(率)は不必要に高いと思われたので、その加圧工程を半分に短くすることを決断した。さらに、後真空引き工程の後でその新しい液体がその表面から流出することに気がつき、従って、その真空引き工程を長くすることを決断した。
【0027】
例2:45分加圧+360分真空引き状態
これらの含浸において、加圧工程の期間における吸収率が加圧期間の短縮によって減少した。繊維組織露出端シール(封止)された辺材ブロックの吸収率は10%低くなり、EN252杭の吸収率は22%低くなった。さらに、6時間の期間の後真空引きの後におけるそれぞれの吸収率は、例1における2時間(2h)と比較すると、それぞれ12%および9%だけ減少した(合計で、それぞれ22%および31%の減少)。
【0028】
図1に後真空引き状態の時間に対する化学的吸収(取込み)量の関係がプロットされており、その時間延長された真空引き工程によって、除去された量が2倍になった(50kg/mの代わりに約100kg/mとなった)。
【0029】
結果として得られたWPG(重量増加率)は、繊維組織露出端シールされたマツ辺材ブロックについて、70%であり(315kg/m)、また、シールされていないEN252杭について約50〜60%(260〜300kg/m)であった。これとほぼ同じWPGレベルが、2005年6月に開始されたEN252テスト用の最高のWPGレベルの調合のウッド ポリマー テクノロジーズで使用された水性(waterborne)FA50混合物を用いて達成された。
【0030】
【表2】

【0031】
繊維組織(木目)露出端シールされた純粋な辺材ブロックおよびEN252杭の“中央切断”による断面を見ると、その繊維組織(木目)露出端シールされたブロックには勾配(gradient:傾斜)が存在するようであるが、EN252杭には勾配は存在しないように思われる(図2および3を参照)。
【0032】
繊維組織(木目)露出端シールされたブナ材ブロックは、WPG(重量増加率)35%だけ(195kg/m)を達成したが、その断面には明確な勾配が存在した。しかし、ブナ材について半径方向(radial)および接線方向(tangential)の浸透は低く(小さく)、長手方向の浸透は極端に大きい(4mの板材では、繊維組織露出端を通して(まで)完全に浸透するであろう)。
【0033】
60%および70%の心材率(content:含有量、体積)を有するマツ材試料について、図4から分かるように、その心材における僅かな浸透が明確に存在した(ローリー法を用いた水性防腐剤を含浸させたVindenおよびMcQuire(1981)およびJermer&Sebring(2006)によって発見されたものと同様である)。これによって、辺材領域におけるWPG(重量増加率)を計算するのは難しくなるが、全体のWPGは、それぞれ39%および28%(163および123kg/m)であった。
【0034】
図4の上側の標本は、中心に節(knot)を有し、その節の周囲の領域において浸透量が明らかに増加した。
【0035】
図4から、その辺材のその効果が、心材のものと比較してより持続的に(永続的に)膨張することが、明らかに分かる(僅かな“I形梁”(I-beam)の効果が導かれる)。
【0036】
また、6時間の真空引き状態の後、さらに2時間後にも同じ傾向が見られた。5分間置いた(放置した)とき、その表面から新しい液体が流出し続けた。従って、エタノールを10%加えることによって粘度または粘性(viscosity)をより低くしようと試みることを決断して、それによって真空引き工程の後における吸収量がより大きく減少することを期待した。
【0037】
例3:60分加圧+360分真空引き状態
これらの試行において、エタノール10%をFA100混合物に加え、その加圧時間を僅かに増加させて、45分に代えて60分としたが、それでも標準90分より短かくした。
【0038】
その結果、初期の吸収量は、例2の場合よりも僅かに多かったが、これは、エタノールの添加に起因し得るが、より長い加圧時間の効果でもあり得る。しかし、真空引き工程における減少は、例2のものと比較すると、僅かに少なくなり(図2におけるEN252杭と図4におけるものと比較)、2時間後には安定して横ばいになったように思われる。
【0039】
その結果、繊維組織露出端シールされた純粋な辺材のWPG(重量増加率)は僅かにより低くかったが、その他のグループのWPGはより高かった。特に、ブナ材について、およびマツ材における高いHW(心材)/SW(辺材)比率のものについて、吸収量の劇的な増加が見られた(ブナ材におけるおよびマツ材の心材領域中へのより良好な浸透)。
【0040】
EN252杭について、最終的なWPG(重量増加率)は、例1のものとほぼ同じ高さであり、これはあまり予期していなかったことであった。一つの理論は、真空引き工程の期間に主にエタノールが蒸発し、それによって、我々の希望に反してその木材中のFAの大部分を残す(leave)、というものである。それに対して、我々は、そのエタノールの助けによって、エタノールがない場合と比較して、FAのより多くの量が除去されることを望んだ。しかし、明らかにそのようなことはなかった。
【0041】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材試料を改質する方法であって、
a.前記木材試料を、容器内に重合性低分子量フラン誘導体を含む含浸溶液に浸漬する工程と、
b.前記容器を5乃至29barの範囲の圧力で30乃至120分の範囲の時間だけ加圧状態にする工程と、
c.その後、前記木材試料を、60乃至600分の範囲の時間だけ0.01乃至0.5barの範囲の真空状態にする工程と、
d.前記含浸溶液を重合化する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記木材を含浸溶液に浸漬する前に、前記木材試料を、2乃至6barの範囲の圧力の加圧空気中に10乃至30分の範囲の時間だけ置く、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重合性低分子量フラン誘導体は、フルフラール、フルフリルアルコール、ビスヒドロキシメチルフラン、またはそれらの組み合わせから選ばれるものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記容器は、10乃至29barの範囲の圧力で30乃至60分の範囲の時間だけ加圧状態にされるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
真空状態が0.1bar以下であり4乃至6時間の範囲の時間だけ適用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記木材試料が板材である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1の方法によって製造される木材製品。
【請求項8】
請求項2の方法によって製造される木材製品。
【請求項9】
請求項3の方法によって製造される木材製品。
【請求項10】
木材標本に含浸溶液を含浸させる方法であって、
前記含浸溶液の保持率のレベルが重量増加百分率(WPG)で30乃至80%で表され、
希釈剤で希釈されていない含浸溶液を用いて、前記木材標本を5乃至29barの範囲の圧力下で30乃至120分の範囲の時間だけ含浸し、その後、0.01乃至0.5barの範囲の真空状態に60乃至600分の範囲の時間だけ置く、
方法。
【請求項11】
前記含浸溶液が低分子量フラン誘導体を含む、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−526692(P2010−526692A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508324(P2010−508324)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/NO2008/000164
【国際公開番号】WO2008/140323
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509311805)ケボニー エーエスエー (2)
【氏名又は名称原語表記】KEBONY ASA
【住所又は居所原語表記】Her ya Industripark, Bygg 126, N−3908 Porsgrunn, Norway
【Fターム(参考)】