説明

放射体温計

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、体温計に関し、特に、鼓膜等の測定物体より発生される赤外線を検知する型の放射体温計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の放射体温計としては、例えば、特開平4−109928号公報、米国特許第5169235号明細書、米国特許第5024533号明細書、米国特許第4005605号明細書および米国特許第4602642号明細書に開示されたようなものがある。この種の放射体温計は、鼓膜等の測定物体から発生される赤外線を検知して体温を測定するものなので、原理的に非常に正確に体温を測定できるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この種の放射体温計においては、測定物体である鼓膜に対して赤外線センサが正しい位置に設置された状態でないと、正しい測定が行われない。前述したような従来の放射体温計のいずれも、赤外線センサが鼓膜等の測定物体に対して正しい位置に設置されたかいなかを確認する手段は設けられていなかった。したがって、従来の放射体温計においては、そのプローブを外耳道に挿入する際の方向を定めにくく、赤外線センサが正しく鼓膜を見ているかどうかの判断が難しく、赤外線センサが鼓膜に対して正確に設置されない状態で測定が行われてしまい、測定誤差を生ずる場合がしばしばであった。
【0004】本発明の目的は、前述したような従来技術の問題点を解消しうるような放射体温計を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、鼓膜等の測定物体より発生される赤外線を検知する型の放射体温計において、一端を前記測定物体に対して正しい位置に設置するとき他端へとその測定物体より発生される赤外線を伝播させる所定経路を定める伝播経路画定手段と、体温測定時に前記所定経路の前記他端に対向する位置に設置されて前記測定物体から所定の経路を通して伝播してくる赤外線を受けて体温を指示するための信号を発生させるための赤外線センサと、体温測定の準備段階として前記所定経路の前記一端が前記測定物体に対して正しい位置に設置されたかどうかを前記他端側から目視で確認できるようにするファインダ手段と、前記体温測定の準備段階においては前記ファインダ手段の視野外に前記赤外線センサを位置させておくが、前記体温測定時においては前記赤外線センサを前記所定経路の前記他端に対向する位置へと移動させるためのセンサ移動手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
【作用】本発明の放射体温計の構成によれば、ファインダ手段により、例えば、外耳道を観察しながら、その伝播経路画定手段を与えているプローブを挿入し、鼓膜を赤外線センサが正確にとらえうる状態にプローブが設置されたかどうかを目視にて確認した後に、赤外線センサを鼓膜に対して対向する位置へと移動させて、正確な体温測定を行うことができる。
【0007】
【実施例】次に、添付図面に基づいて、本発明の実施例について本発明をより詳細に説明する。
【0008】添付図面の図1は、本発明の一実施例としての放射体温計の正面図であり、図2は、その側面図である。また、図3は、図1および2の放射体温計の内部構成を詳細に示すための部分拡大断面図である。これら図1、図2および図3に示されるように、この実施例の放射体温計は、例えば、プラスチック等の材料にて成形された二つ割り部材からなる本体ケース2の上部の一方の側に、プローブ20が取り付けられ、このプローブ20には、プローブキャップ1が装着されるようになっている。
【0009】本体ケース2の他方の側には、ファインダ手段の一部を構成するファインダ窓3が設けられている。本体ケース2の正面側のほぼ中央部には、液晶ディスプレイ(LCD)4およびパワースイッチ6が設けられており、本体ケース2の正面側の下部には、電池蓋7が設けられている。本体ケース2の側面部のファイダ窓3の下方には、レバースイッチ5が設けられており、レバースイッチ5には、スイッチ作動部材5Aが連動するようにして設けられている。本体ケース2のその側面部の下端には、ハンドストラップ用金具8が設けられている。本体ケース2のプローブ20が設けられた側面部には、そのプローブ20のすぐ下に、キャップ排出ノブ9が設けられている。
【0010】図3によく示されているように、プローブ20および本体ケース2の内部を通してファインダ窓3の方へと延びて、伝播経路画定手段を構成する金メッキを施した銅パイプ10が設けられている。また、銅パイプ10のプローブ20とは反対側の端部には、そこを取り巻くようにして、ヒートシンク11が取り付けられている。銅パイプ10のヒートシンク11を取り付けた側の端部の直ぐ背後に位置する本体ケース2の内壁部には、シャッタ用スライド溝12が形成されており、その後方に所定の間隔を置いてセンサ移動板用スライド溝13が形成されていおり、さらに、これら溝12および13の間にセンサ用スライド溝14が形成されている。
【0011】図3によく示すように、本体ケース2の内部には、レバースイッチ5と連結されていて、レバースイッチ5の移動につれて、センサ移動板用スライド溝13に沿って移動させられるようになったセンサ上下移動板15が配置されている。このセンサ上下移動板15の上部の前面には、例えば、打ち出し成形によって形成された係止突起部15Aが設けられており、この係止突起部15Aより上のセンサ上下移動板15の上端部は、ほぼコの字状とされており、そのコの字状部と係止突起部15Aとで、センサ用スライド溝14にそって移動可能とされた赤外線センサ16を保持できるようになっている。センサ上下移動板15のコの字状部の前面部は、シャッタ17を構成している。赤外線センサ16には、センサ受光窓22が設けられている他、室温センサ26が設けられている。シャッタ17は、赤外線センサ16がセンサ上下移動板15のコの字状部に保持された状態では、その赤外線センサ16のセンサ受光窓22を遮蔽するようになっている。
【0012】また、図3によく示されるように、プローブ20と銅パイプ10との間には、銅パイプ10を取り巻くようにして、両面黒塗装した断面ほぼ円錐台形状の透明アクリル樹脂の筒体19が設けられている。この透明アクリル樹脂筒体19の本体ケース2の内側の端部に近接して、照明用発光ダイオード(LED)18が配置されている。これら透明アクリル樹脂筒体19と照明用発光ダイオード18とは、一緒になって、照明手段を構成している。ここで、照明手段として、発光ダイオードを用いたのは、その放射光が、鼓膜等から放射される体温波長より短い波長を有しており、鼓膜等を加熱することがないからである。
【0013】本体ケース2内には、プリント回路基板(PCB)21が配置されており、このプリント回路基板21には、前述した赤外線センサ16および室温センサ26が電気的に接続され、照明用発光ダイオード18が実装接続されているほか、後述するような機能を果たすための照明用発光ダイオードスイッチ23、赤外線センサ定位置スイッチ24およびシャッタオープンスイッチ25が実装接続されている。さらにまた、プリント回路基板21には、後述するような制御、各種演算処理を行うためのCPU30(図9参照)を構成するマイクロコンピュータ(図示していない)が実装されている。
【0014】次に、前述したような構成の放射体温計の全体動作について、図4から図11を特に参照して説明する。
【0015】この放射体温計を用いて体温を測定しようとする場合には、パワースイッチ6を押し、液晶ディスプレイ4に、“READY ”表示(図1参照)が出た後、レバースイッチ5が図3に示すような位置にあるままにして、プローブキャップ1をかぶせたプローブ20を、図6R>6の概略図に示すように、外耳道27へ挿入する。この状態では、センサ上下移動板15のコの字状部に保持された赤外線センサ16は、銅パイプ10の他端の位置から外れており、外耳道27からの光は、例えばポリエチレン製の透明なプローブキャップ1の先端部を通過して銅パイプ10の中を伝わって、ファインダ窓3より直接見ることができる。
【0016】ところが、実際には、プローブキャップ1を挿入した状態では、外耳道27は暗く、ファインダ窓3を見ても外耳道27がよく判らないと考えられる。そこで、本発明の前述の実施例では、両面を黒く塗装した透明アクリル樹脂筒体19を設け、その端部に、照明用発光ダイオード18を配置しておき、プローブキャップ1が外耳道27へ挿入された後、レバースイッチ5を押すことにより、スイッチ作動部材5Aによって、発光ダイオードスイッチ23が閉じられ、照明用発光ダイオード18が点灯されるようにしている。発光ダイオード18から出た光は、透明アクリル樹脂筒体19の内部を反射しながら伝わっていき、プローブ部の先より外耳道27を照らし、ファインダ窓3から鼓膜28の位置がよく見えるようになる。このように、ファインダ窓3から鼓膜28が見える状態の一例を図7に略示している。こうして、鼓膜28がファインダ窓3の視界中央となるように本体ケース2を固定する。
【0017】次に、レバースイッチ5を押し上げることにより、センサ上下移動板15が、赤外線センサ16を保持した状態にて、一体となって、移動させられ、まず、シャッタ17が銅パイプ10の光の伝播経路を塞ぎ、赤外線センサ16がセンサ用スライド溝14の上端でその移動を阻止される。この時点で、赤外線センサ16のセンサ受光窓22は、銅パイプ10の延長線上に位置している。この位置状態となった時、赤外線センサ定位置スイッチ24がレバースイッチ5のスイッチ作動部材5Aによってオンとさせられて、このオン信号によって、後述するように本体ケース2に設けられたブザーB.Z(図9参照)によりブザー音が発生され、赤外線センサ16が伝播経路画定手段としての銅パイプ10を介して測定物体である鼓膜28に対して正しい位置となったことが知らされる。この状態を図4は示している。この状態で、レバースイッチ5を止め、シャッタ17が閉じた状態における赤外線センサ16からの信号の取り込みを行う。これらが完了した時点で再びブザー音が発せられ、シャッタ開放の準備終了が知らされる。
【0018】次に、レバースイッチ5を最上部まで押し上げる。完全に押し上げられたことは、スイッチ作動部材5Aによって、シャッタオープンスイッチ25がオンとさせられ、再び、そのことがブザー音にて知らされる。この動作により、赤外線センサ16は、センサ用スライド溝14の上端にてそれ以上の移動を阻止されているので、シャッタ17(センサ上下移動板15)のみが、シャッタ用スライド溝12およびセンサ移動板用スライド溝13にそって上方へ上がる。このとき、センサ上下移動板15の係止突起部15Aは、赤外線センサ16の背面に乗り上げるようにされ、赤外線センサ16の保持を解放することになる。こうして、シャッタ17が赤外線センサ16のセンサ受光窓22を開放することになり、赤外線センサ16は、銅パイプ10を伝わって来る鼓膜28からの赤外線を受光する。この状態を、図5に示している。
【0019】赤外線センサ16は、シャッタ17により覆われていた状態(図4の状態)と、シャッタ17が開放され、赤外線を受光した状態(図5の状態)とで、別々の電気信号を出力するので、これらの信号に基づいて、プリント回路基板21上に実装されたCPU30は、それ自体は公知である算出原理に従って、鼓膜温度を計算し、体温として液晶ディスプレイ4に表示させる。なお、この計算には、赤外線センサ16内に配置された室温センサ26からの信号も、体温の算出において室温の変化を補償するのに使用される。このような体温の算出方法については、公知の方法でよいので、これ以上詳述しない。
【0020】図8は、本発明の別の実施例として放射体温計のプローブの部分を拡大して示す図である。図8に示されるように、この実施例の放射体温計では、プローブ20内において、銅パイプ10と透明アクリル樹脂筒体19との間に、挿入センサ29が配置されている。この実施例の放射体温計の全体的な構成および動作は、図1R>1から図7に関して前述したような実施例の放射体温計と実質的に同じであるので、それらの点については繰り返し説明せず、異なる部分についてのみ以下説明する。
【0021】図1から図7に示した実施例においては、発光ダイオードスイッチ23をレバースイッチ5のスイッチ作動部材5Aによってオンオフさせることによって、照明用発光ダイオード18を点灯させるようにしているのであるが、図8の実施例では、本体ケース2のプローブキャップ1を被せたプローブ20の部分を外耳道へ挿入すると、自動的に照明用発光ダイオード18が点灯させられ、外耳道が照明されるようにしている。
【0022】例えば、挿入センサ29として、容量変化に応じた信号を出力するようなセンサを用いるならば、プローブ2の部分を外耳道内へ挿入すると、それにより容量変化が生ずるので、そのことを示す信号がセンサ29から出力され、この信号により、照明用発光ダイオード18が自動的に点灯させられるようにしておく。このようにしておくことにより、図1から図7の実施例において必要とされたような手動にて作動させられる発光ダイオードスイッチ23は不要とされ、その作動のためにレバースイッチ5を押し下げるような操作も不要とされる。
【0023】図9は、図8に示した実施例の放射体温計の本体ケース2に設けられる電源として電池を接続するための電池コネクタ31と、本体ケース2に設けられる赤外線センサ16、室温センサ26、挿入センサ29、ブザーB.Z、液晶ディスプレイ4、照明用発光ダイオード18、パワースイッチ6、赤外線センサ定位置スイッチ24、シャッタオープンスイッチ25等と、本体ケース2内に配置されたプリント回路基板21上に実装されるCPU30、アナログ電源制御部32、アナログ回路部33等との接続関係を示す回路ブロック図である。
【0024】図10は、図8に示した実施例の放射体温計の動作シーケンスを示す図である。図10の(A)は、パワースイッチ6をオンし、オフするタイミングを示している。図10の(B)は、プローブの部分を外耳道へと挿入していくときに、照明用発光ダイオードが自動的にオンとされるタイミングを示している。図10の(C)は、外耳道が照明されているタイミングを示している。図10の(D)は、鼓膜位置を探る動作のタイミングを示す。図10の(E)は、レバースイッチを移動させるタイミングを示している。図10の(F)は、レバースイッチの移動とブザーの付勢のタイミングとの関係を示している。図10の(G)は、鼓膜温度による体温の表示のタイミングを示している。
【0025】図11は、図1から図7に関して説明した実施例と、図8から図10に関して説明した別の実施例とに共通の、それらの操作および動作を示すフローチャートである。
【0026】
【発明の効果】本発明の放射体温計の構成によれば、赤外線センサが鼓膜に対向する位置を目視にて確認できるので、鼓膜温度を正確に測定でき、体温を正確に測定でき、測定誤差を生ずる恐れがない。
【0027】また、プローブを外耳道へ挿入すると、自動的に外耳道が照明されるようにすることもでき、この場合には、外耳道を楽に見ることができ、鼓膜に対して赤外線センサが正しく設定される位置を容易に探し出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例としての放射体温計の正面図である。
【図2】図1の放射体温計の側面図である。
【図3】図1および2の放射体温計の内部構成を詳細に示すための部分拡大断面図である。
【図4】図1および図2の放射体温計の図3とは異なる操作状態を示す部分断面図である。
【図5】図1および図2の放射体温計のさらに別の操作状態を示す部分断面図である。
【図6】図1の放射体温計のプローブ部分を外耳道へ挿入した状態を例示する概略図である。
【図7】図6の状態において放射体温計のファインダ窓の視野内に鼓膜の位置が目視できる例を示す図である。
【図8】本発明の別の実施例としての放射体温計のプローブの部分の拡大概略断面図である。
【図9】図8に示した実施例の放射体温計の各構成部分の接続関係を示す回路ブロック図である。
【図10】図8に示した実施例の放射体温計の動作シーケンスを示す図である。
【図11】図1から図7に関して説明した実施例と、図8から図10に関して説明した別の実施例とに共通の、それらの操作および動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 プローブキャップ
2 本体ケース
3 ファインダ窓
4 液晶ディスプレイ
5A スイッチ作動部材
5 レバースイッチ
6 パワースイッチ
7 電池蓋
8 ハッドストラップ用金具
9 キャップ排出ノブ
10 銅パイプ
11 ヒートシンク
12 シャッタ用スライド溝
13 センサ移動板用スライド溝
14 センサ用スライド溝
15 センサ上下移動板
15A 係止突起部
16 赤外線センサ
17 シャッタ
18 照明用発光ダイオード
19 透明アクリル樹脂筒体
20 プローブ
21 プリント回路基板
22 センサ受光窓
23 発光ダイオードスイッチ
24 赤外線センサ定位置スイッチ
25 シャッタオープンスイッチ
26 室温センサ
27 外耳道
28 鼓膜
29 挿入センサ
30 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鼓膜等の測定物体より発生される赤外線を検知する型の放射体温計において、一端を前記測定物体に対して正しい位置に設置するとき他端へとその測定物体より発生される赤外線を伝播させる所定経路を定める伝播経路画定手段と、体温測定時に前記所定経路の前記他端に対向する位置に設置されて前記測定物体から所定の経路を通して伝播してくる赤外線を受けて体温を指示するための信号を発生させるための赤外線センサと、体温測定の準備段階として前記所定経路の前記一端が前記測定物体に対して正しい位置に設置されたかどうかを前記他端側から目視で確認できるようにするファインダ手段と、前記体温測定の準備段階においては前記ファインダ手段の視野外に前記赤外線センサを位置させておくが、前記体温測定時においては前記赤外線センサを前記所定経路の前記他端に対向する位置へと移動させるためのセンサ移動手段とを備えることを特徴とする放射体温計。
【請求項2】 前記ファインダ手段は、前記測定物体を照明するための照明手段を含んでいる請求項1記載の放射体温計。
【請求項3】 前記照明手段は、発光ダイオードである請求項2記載の放射体温計。
【請求項4】 前記照明手段は、前記センサ移動手段の移動に連動してオンオフされる請求項2または3記載の放射体温計。
【請求項5】 前記照明手段は、前記伝播経路画定手段が前記測定物体に対峙させられたことを感知するセンサの信号によってオンオフされる請求項2または3記載の放射体温計。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【特許番号】第2632125号
【登録日】平成9年(1997)4月25日
【発行日】平成9年(1997)7月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−194683
【出願日】平成5年(1993)8月5日
【公開番号】特開平7−47057
【公開日】平成7年(1995)2月21日
【出願人】(390005049)ヒロセ電機株式会社 (383)
【参考文献】
【文献】特許2537033(JP,B2)