説明

放射性セシウム汚染土壌の処理方法

【課題】短時間で処理を行うことができる土壌の処理方法を提供する。
【解決手段】放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法であって、土壌を閉鎖された擁壁内に挿入する工程、擁壁内に、電極及び電解液を収容し、多孔性の隔膜を有する電極槽を備える陽極と、陰極とを設置する工程、土壌を酸性化する工程、陽極及び陰極に、直流電流を印加する工程、及び、土壌中に溶出した放射性セシウムのイオンを含む陽イオンを、陽極の多孔性の隔膜を介して陽極の電極に向かって移動させ、陽イオンを陽極の電極槽に収容された電解液に回収する工程を含む、処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法に関する。特に、本発明は、短時間で処理を行うことができ、しかもいったん除去した放射性セシウムにより土壌が再度汚染されることのない、土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染土壌の処理方法のうち、重金属浄化法としては、従来、土壌洗浄法がひろく用いられていた。しかしながら、その主たる操作条件である分級操作は、土壌のアニオン性とカチオン性重金属の電気的中和により吸着する性質を利用、比表面積の大きい微粒子を分離することで、重金属の濃縮分離を図っている。但し、分級では完全に粒子の分離が出来るわけでなく粒子同士の固着もあり、水洗浄、酸洗浄を行っても、完全な分離は困難である。
【0003】
2011年8月31日付の産総研(独立行政法人産業技術総合研究所)によるプレスリリースには、放射性セシウム汚染土壌の浄化について、酸添加・加熱処理法(土壌酸浸漬・加熱処理・溶出・吸着法)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、提案されている酸性・加熱処理法は、セシウムの土壌からの溶離に有効だが、希硝酸の使用及び加熱処理について提示されている条件を見ると、濃度0.5mol/L、加熱温度95℃〜200℃、固液比200を必要としており、処理条件としては過酷で、材質的にも工夫が必要である。
【0005】
特許第4446267号公報に記載されている、電気的に改良された汚染土壌の原位置電気浄化方法は、従来の土壌洗浄法の問題点を解消すべく、土壌中に電極を挿入し、酸、アルカリ条件下で土壌中の汚染物質を溶出、イオン化し、更に直流電流を印加し、各イオンを相対する電極側に移動させ、隔膜を通して電極槽に回収することで、微粒子内部、表面に付着した不純物を回収することとしている。
この電気浄化方法は、重金属の浄化方法として優れており、重金属を対象とした発明であるが、他の元素についてはまったく検討がなされていない。
本発明者らは、これまで浄化方法について検討されていなかった、1,2属のアルカリ金属、アルカリ土類金属に着目、特にセシウムについて検討を行い、本発明にいたった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4446267号公報
【非特許文献1】2011年8月31日付の産総研プレスリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これまで提案されているような過酷かつ非効率的な処理方法ではなく、穏和な条件下でセシウムの回収を出来る方法を得ることを、その目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
土壌中に付着している汚染物質、特に陽イオンは、土壌自身が負に帯電していることから、電気的に強固に結合している。また、セシウムイオンは、アルカリ金属であって溶解性が高いにもかかわらず、原子量が大きく、特に土壌中でも粘土質の構成成分であるシリカ、アルミナの結晶構造にすっぽりと嵌め混まれてしまい、通常の水洗浄、煮沸洗浄等では効率よく洗浄分離する事が出来ない。
本発明者らは、酸による荷電中和法を利用することにより、酸性条件下で溶解度を向上させて、セシウムで汚染された土壌を浄化させることができることを見出した。
本発明の土壌処理方法は、常温、常圧下、酸及び電気のみを用いて、セシウムの浄化を行うものである。本発明者らは、セシウムの土壌中、水中での移動速度が、重金属の数倍速く、ナトリウム、カリウムと同等であることを見出し、本発明の方法がセシウムの浄化に優れていることを確認した。従来の重金属の浄化は、重金属が微量でその移動速度がきわめて遅いため、その除去のためには溶解するイオンのすべてを除去しなければならず、必ずしも効率的な方法ではなかった。本発明者らは、セシウムがナトリウム、カリウムと同等の移動速度を有する事を実験で確認し、本発明の方法によれば、浄化時間の短縮、電力、薬品使用量の削減、汚染物質を含む電解液量の削減がはかれる事を確信した。
本発明の土壌処理方法は、環境に優しい穏和な条件下での浄化技術として、使用範囲の広い有効な浄化手段であると言える。
【0009】
すなわち、本発明は、放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法であって、
前記土壌を閉鎖された擁壁内に挿入する工程、
前記擁壁内に、電極及び電解液を収容し、多孔性の隔膜を有する電極槽を備える陽極と、陰極とを設置する工程、
前記土壌を酸性化する工程、
前記陽極及び前記陰極に、直流電流を印加する工程、及び、
前記土壌中に溶出した放射性セシウムのイオンを含む陽イオンを、前記陽極の多孔性の隔膜を介して前記陽極の電極に向かって移動させ、前記陽イオンを前記陽極の電極槽に収容された電解液に回収する工程、
を含む、処理方法である。
上記陽極と陰極とを設置する工程は、前記擁壁内に、多孔性の隔膜を有する陽極と、陰極の電極槽とを設置し、そこにそれぞれ電極及び電解液を収容することによって、行ってもよい。
【0010】
本発明はさらに、前記電流を印加する工程に先立ち、前記土壌に錯化剤又は電解質を添加する工程を含むことができる。
錯化剤の添加により、土壌中に溶出した放射性セシウムのイオンの溶出を向上させることが出来る。錯化剤又は電解質等の各種添加剤は、電極槽に供給する電解液に投入して、土壌に均一に分散させることができる。
【0011】
本発明はさらに、回収された前記陽イオンを含む電解液から、吸着剤に放射性セシウムを吸着させて、放射性セシウムを除去する工程を含んでいてもよい。
【0012】
上記本発明において、前記放射性セシウムを前記電解液から除去する工程に先立ち、回収された前記陽イオンを含む電解液を中和する工程を含むものとすることができる。
【0013】
本発明では、前記多孔性の隔膜が円筒形状を有し、前記陽極及び前記陰極がそれぞれ複数あり、前記陽極及び前記陰極が対向して配列されて管列を形成しているものとしてもよい。
【0014】
本発明では、前記多孔性の隔膜が焼結セラミック製フィルターであるのが好ましい。
また、セラミックフィルターに代えて、PVC―PE共重合体またはHDPEなどのプラスチック製の管などの形状を有するフィルターを用いるのも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の処理方法によれば、常温、常圧、酸性条件下で、短時間で効率よくセシウムを土壌から回収できる。また、本発明の場合、土壌を密閉容器に入れて処理する必要がなく、プールのような耐酸貯槽で大量に処理することが出来る。
また、本発明は、セシウムの移動速度が速いことを利用しているので、短期間で浄化が終了する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の方法を実施することができるシステムの一例を示す概念図である。
【図2】本発明の方法で使用することのできる陽極及び陰極の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
所謂電気修復法を利用した、本発明による放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法について、以下に説明する。
【0018】
本発明の処理方法ではまず、セシウム、特に放射性セシウムで汚染された土壌を、例えば原子力発電所の爆発事故で汚染された土壌などの場合、表層土壌を集積して、プール状の容器のような閉鎖された擁壁内に挿入することにより、搬入する。土壌を擁壁内に挿入する前、あるいはその後に、土壌を酸性化する。土壌の酸性化は、所定量の酸量を土壌に混練りすることにより、行うことができる。代わりに、電極を土壌に挿入・直流電流を印加することにより、土壌を酸性化しても良い。
【0019】
土壌を擁壁内に挿入する前、あるいはその後に、擁壁内に陽極と陰極とを設置する。本発明の方法で使用する陽極は、電極及び電解液を収容し、多孔性の隔膜、例えば、円筒形状のセラミックフィルターを有する電極槽を備えるものである。陰極も、陽極と同様に構成することができ、例えば電解槽を備えるものとすることができる。
電気修復法によって土壌を処理する場合、土壌と電極の電解液とを隔てる膈膜として、低膨潤性ベントナイトを使用することがあるが、溶出水中に溶解するイオン、あるいは後述のように電解質を添加することによって溶解するイオンにより、徐々にベントナイトが膨張し、透水速度の低下、汚染物質の回収率の著しい低下を招くこととなる。本発明者らは、セシウムの回収においては、ベントナイトの主成分であるシリカ、アルミナとアニオンに帯電している隔壁層により、電極に移行してきたイオンの捕捉がおき、電極槽にセシウムイオンを回収できないとの知見を得た。本発明者らは、鋭意工夫を凝らす中、セラミックフィルターがセシウムイオンの捕捉率が小さいことを見出し、これを電極槽に装着することで、セシウムを効率的に回収できることを見出した。セシウムが電極の膈膜を透過する速度は、その分子量からして、ナトリウム、カリウムより劣るが、従来の重金属より速く、処理系内に滞留しにくいと考えられる。このため、セラミックフィルターを有する電極槽を使用することは、土壌浄化における漏洩拡散防止にも大いに寄与することが期待される。
【0020】
多孔性フィルターとしては、低透水性であるものが好ましく、透水速度としては、10-7から10-5cm/sの範囲内であることが好ましい。
多孔性の隔膜に使用するフィルターの材質としては、焼結セラミック以外に、同様にセシウムを吸着しない、PVC−PE共重合体、HDPEなどのプラスチックを用いることもできる。
電極槽を備える陽極及び陰極を、それぞれ複数用意し、陽極及び陰極が対向して配列されて管列を形成する位置に土壌中に挿入することができる。例えば、図2に示すように陽極の電極槽及び陰極の電極槽を配置して、陽極及び陰極が配列されるようにすることができる。
次いで、陽極及び前記陰極に直流電流を印加する。
イオンを各電極に移動させ、土壌中に溶出した放射性セシウムのイオンを含む陽イオンを、セラミックフィルターなどの陽極の多孔性の隔膜を通して電極に向かって移動させ、陽極の電極槽に陽イオンである汚染イオンを回収する。
電流を印加するに先立ち、電極槽に電解液を供給する所定の電解液槽に、電解質、錯化剤を添加し、土壌に錯化剤、電解質が添加されるようにして、土壌のpHを制御することにより、イオンの溶離、移動を促進させるのが望ましい。
【0021】
上記処理により浄化が終了した酸性土壌は、水洗浄又は電気的中和により、原状回復を図る。
【0022】
セシウムを回収した電解液は中和して吸着剤の吸着能を上昇させ、ゼオライト(プルシアンブルー併用でも可)に吸着させることにより、濾液を無害化するのが望ましい。
【0023】
他方、溶出した放射性セシウムの浄化のため、回収された陽イオンを含む電解液から、吸着剤に放射性セシウムを吸着させて、放射性セシウムを除去するのが望ましい。このような浄化法としては、典型的なセシウム吸着剤であるプルシアンブルー法(東京工業大学原子力研)、ゼオライト吸着法(キュリオン社等)等の回収法の他、プルシアンブルー・ゼオライトを吸着したナノ粒子磁性鉄粉を利用した磁性鉄粉吸着法(慈恵医大)が報告されている。
【0024】
溶出したセシウムイオンの吸着剤としてのプルシアンブルー、ゼオライトは古くからよく知られている剤である。
【0025】
なお、上では、土壌が放射性セシウムで汚染されている場合の処理方法について記載したが、セシウムに限らず、本発明の方法を周期律表1、2族アルカリ、アルカリ土類金属で汚染された土壌の処理に適用することができ、その場合、汚染物質が放射性を有するか否かに係わらず、適用することが可能である。
【実施例】
【0026】
実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例において使用した土壌は、当初汚染物質が存在しないものであるため、試薬によって所定量の重金属等を添加して、汚染された土壌を調整した。
重金属等として、乾燥土壌1kgに対して、フッ化ナトリウムを120mg、酸化砒素を1mg、水酸化セシウムを2mg添加し、さらに市水を400ml添加して、ミキサーにて混合した。
また、本実施例では、土壌の酸性化のため、あらかじめ市水に適量の塩酸を加えたものを使用した。
本発明の方法を実施するため、図1に示すようなシステムを準備した。約20Lの擁壁3を備えた樹脂製容器の両端に、φ50mmのセラミック製電極槽4、4’を設置し、1対の電極(陰極及び陽極)5、5’を、電極間距離が400mmとなるように挿入した。
セラミック製電極槽は、液を循環させるため、樹脂製のT字配管を上部に取り付けた。
セラミック製電極槽は、セラミックフィルターを内蔵し、フィルターは約7×10-7cm/sの低透水性のものである。
電極槽間に、前述の重金属を添加した土壌2を、空隙のないように詰め込んだ。
電極槽4、4’にそれぞれ電解液を供給する電解液槽6、6’に、市水と電解質からなる電解液を注入し、循環ポンプ7、7’にて、電解液槽と電極槽との間で電解液を循環させた。
薬液槽8、8’に別途電解液を準備し、電解質が不足した場合に薬液ポンプ9、9’にて追加できるようにした。
吸着塔12にセシウム吸着剤10gを充填した。
さらに、陽極槽4’から回収した電解液を、処理槽10で中和処理した後、送液ポンプ11にて吸着塔12に送った。
1対の電極5、5’間に、直流電流発生装置1から直流電流が印加されるようにした。
100日間通電した後、陽極・陰極の各電解液および土壌表面に湧き出した表面水を全量回収し、液量と液中のイオン濃度を分析した。
初期の汚染物質の量は、調整土壌を土壌汚染対策法の含有試験方法によって抽出した液を分析した。
分析は、ICP−MS(Agilent社製7500ce)、およびイオンクロマト(日本ダイオネクス社製ICS-2000)で実施した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

1:土壌由来の成分
2:電解液と表面水の合計
3:調整土壌に対する回収合計の割合
【0028】
陽極槽4’から回収した電解液について、吸着塔12通過液後のCs濃度を測定したところ、0.2ppbであった。
【符号の説明】
【0029】
1:直流電流発生装置
2:汚染土壌
3:擁壁
4:電極槽
5、5’:電極(陰極、陽極)
6、6’:電解液槽
7、7’:電解液循環ポンプ
8、8’、8”:薬液槽
9、9’、9”:薬液ポンプ
10:電解液処理槽
11:送液ポンプ
12:吸着搭
13:陽極電極槽
14:陰極電極槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法であって、
前記土壌を閉鎖された擁壁内に挿入する工程、
前記擁壁内に、電極及び電解液を収容し、多孔性の隔膜を有する電極槽を備える陽極と、陰極とを設置する工程、
前記土壌を酸性化する工程、
前記陽極及び前記陰極に、直流電流を印加する工程、及び、
前記土壌中に溶出した放射性セシウムのイオンを含む陽イオンを、前記陽極の多孔性の隔膜を介して前記陽極の電極に向かって移動させ、前記陽イオンを前記陽極の電極槽に収容された電解液に回収する工程、
を含む、前記処理方法。
【請求項2】
さらに、
前記電流を印加する工程に先立ち、前記土壌に錯化剤又は電解質を添加する工程、
を含む、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
さらに、
回収された前記陽イオンを含む電解液から、吸着剤に放射性セシウムを吸着させて、放射性セシウムを除去する工程、
を含む、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
さらに、前記放射性セシウムを前記電解液から除去する工程に先立ち、
回収された前記陽イオンを含む電解液を中和する工程、
を含む、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記多孔性の隔膜が円筒形状を有し、前記陽極及び前記陰極がそれぞれ複数あり、前記陽極及び前記陰極が対向して配列されて管列を形成している、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記多孔性の隔膜が焼結セラミック製フィルター又はプラスチック製フィルターである、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−104786(P2013−104786A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248977(P2011−248977)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)