説明

放射性医薬品の安定化

(i)18F標識化合物、
(ii)有効安定化量のゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩、
(iii)水性生体適合性担体媒質
を含んでなる安定化放射性医薬組成物であって、担体媒質中の18Fの放射能濃度は10〜100000MBq/mlの範囲であり、組成物のpHは4.0〜9.5の範囲である安定化放射性医薬組成物に関する。本発明は、そのような放射性医薬組成物を調製するための方法、及びゲンチシン酸又はその塩の新規の使用をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化18F標識放射性医薬組成物、その調製方法、及びゲンチシン酸又はその塩の新規使用に関する。
【背景技術】
【0002】
18Fの半減期は109.7分であり、これは、18F−放射性医薬品は、患者に送達する間の崩壊を考慮して、臨床で使用する場所に可能な限り近くで、及び相対的に大きいバッチで製造されることを意味する。オートクレーブサイクルを使用して放射性医薬品の最終的な滅菌を実施することにより、18F−放射性医薬品がさらに不安定になる。インビトロでの18F標識放射性医薬品の脱フッ素化の一般に認められた機構は、水溶液中での18F−造影剤の放射線分解である。水性媒質中では、放射性崩壊により、有機分子と反応する非常に反応性が高い酸素種が形成する。反応性種は、水溶媒の分解から生じ、例えばヒドロキシル又はスーパーオキシドフリーラジカルなどのフリーラジカルである。
【0003】
ゲンチシン酸は、例えば、米国特許第4497744号において、99mTc放射性医薬品の調製用凍結乾燥キットで使用するための安定剤として以前に開示されている。
【0004】
国際公開第02/04030号には、放射性医薬品(放射性同位体は、99mTc、131I、125I、123I、117mSn、111In、97Ru、203Pb、67Ga、68Ga、89Zr、90Y、177Lu、149Pm、153Sm、166Ho、32P、211At、47Sc、109Pd、105Rh、186Re、188Re、60Cu、62Cu、64Cu、及び67Cuから選択される)、並びに有効安定化量の置換芳香族化合物を含む安定な放射性医薬組成物が記載されている。
【0005】
放射ヨウ素放射性医薬品を安定化するためのゲンチシン酸及びその塩の使用が、国際公開第2007/007021号に記載されている。
【0006】
ヨードニウム塩の放射性フッ素化(radiofluoridation)における収率を改善するための、ゲンチシン酸などのラジカルトラップの使用が、国際公開第2005/061415号に開示されている。
【0007】
18F標識放射性医薬品の安定化製剤、特に放射線分解の問題に対処する2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース([18F]FDG)の安定化製剤が当技術分野において記載されている。例えば、国際公開第2004/043497号には、エチルアルコールを使用した[18F]FDG放射性医薬品の安定化が記載されており、国際公開第03/090789号には、緩衝液を添加することによって、1つ以上の物理的/化学的特性、例えば放射線分解の低減及び[18F]FDG溶液をオートクレーブする能力などを改善するための方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/099800号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
診療所における18F標識放射性医薬品の使用は、インビボイメージング法のポジトロン放出断層撮影(PET)の取込みとともに急速に増加中であり、特に、臨床研究又は診断目的用の放射性イメージング剤としての[18F]FDGの使用は近年著しく増加している。したがって、この高い要求を満たすために、[18F]FDGなどの18F標識放射性医薬品をより大きいバッチサイズで製造する必要があるが、これはひいては、規制当局によって要求される放射化学的純度(RCP)基準を満たすバッチを日常的に準備することをより困難にする(例えば、European Pharmacopoeia 01/2005:1325を参照されたい)。したがって、18F標識放射性医薬品、例えば、[18F]FDGを安定化するためのさらなる方法についての必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様では、本発明は、
(i)18F標識化合物、
(ii)有効安定化量のゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩、
(iii)水性生体適合性担体媒質
を含んでなる安定化放射性医薬組成物であって、担体媒質中の18Fの放射能濃度は10〜100000MBq/mlの範囲であり、組成物のpHは4.0〜9.5の範囲である安定化放射性組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語「18F標識化合物」は、哺乳動物対象、適当にはヒト内で、PETイメージングによって検出するのに適した18F標識化合物を意味する。18F標識化合物は、非ペプチドであることが好ましい。用語「非ペプチド」とは、いずれのペプチド結合、即ち、2つのアミノ酸残基の間にアミド結合も含まない化合物を意味する。
【0012】
適当な18F標識化合物として、[18F]FDG、[18F]−フルオロ−DOPA、[18F]−フルオロエストラジオール、3’−[18F]−フルオロチミジン、5−[18F]フルオロウラシル、[18F]フルオロドーパミン、[18F]フルオロノルエピネフリン、2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]CFT)、N−[18F]−フルオロプロピル−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]FP−CIT)、2−(1−(6−((2−[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ)ナフタレン−2−イル)エチリデン)マロニトリル([18F]FDDNP)、2−(3−[18F]−フルオロ−4−メチルアミノ−フェニル)−ベンゾチアゾール−6−オール、2−(2−[18F]−フルオロ−4−メチルアミノ−フェニル)−ベンゾチアゾール−6−オール、(E)−4−(2−(6−(2−(2−(2−[18F]フルオロエトキシ)エトキシ)ピリジン−3−イル)ビニル)−N,N−ジメチルベンゼンアミン([18F]AV−19)、[18F][4−(2−{4−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−フェニル}−ビニル)−フェニル]−メチル−アミン、[18F]{4−[2−(4−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−フェニル)−ビニル]−フェニル}−メチル−アミン、[18F][(4−{2−[4−(2−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−エトキシ)−フェニル]−ビニル}−フェニル)−メチル−アミン、及び[18F][[4−(2−{4−[2−(2−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−エトキシ)−エトキシ]−フェニル}−ビニル)−フェニル]−メチル−アミンが挙げられる。一態様では、18F標識化合物は、[18F]FDG、[18F]−フルオロ−DOPA、[18F]−フルオロエストラジオール、3’−[18F]−フルオロチミジン、5−[18F]フルオロウラシル、[18F]フルオロドーパミン、[18F]フルオロノルエピネフリン、2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]CFT)、及びN−[18F]−フルオロプロピル−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]FP−CIT)から選択される。本発明の好適な態様では、18F標識化合物は[18F]FDGである。
【0013】
放射線分解のリスクが最大である18F標識化合物は、例えば、非放射性化合物が生物学的に活性でもあり、したがってインビボで18F標識化合物と競合することが予期される場合、最小量の非放射性担体化合物が存在する状態で使用されるものである。そのような担体がまったく添加されていないレベル、又は高い比活性レベルで、放射能濃度が相対的に高い場合、放射線分解のリスクは増大する。
【0014】
「ゲンチシン酸」とは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸を意味する。
【0015】
【化1】

【0016】
ゲンチシン酸、及びゲンチシン酸ナトリウムなどのその塩は、広範囲の供給業者、例えば、Sigma−Aldrich Ltd,UKから市販されている。
【0017】
用語「生体適合性カチオン」とは、イオン化された、負に帯電した基と塩を形成する正に帯電した対イオンを意味し、前記正に帯電した対イオンは、無毒性でもあり、したがって哺乳動物の体、特にヒトの体に投与するのに適している。適当な生体適合性カチオンの例には、アルカリ金属のナトリウム又はカリウム、アルカリ土類金属のカルシウム及びマグネシウム、並びにアンモニウムイオンが含まれる。好適な生体適合性カチオンはナトリウム及びカリウムであり、最も好ましくはナトリウムである。本発明の組成物は、ゲンチシン酸又はゲンチシン酸ナトリウムを含むことが好ましく、これは単独又は混合物で使用することができる。
【0018】
用語「有効安定化量」は、放射線分解に対して18F標識化合物を安定化させるのに有効な量を意味する。これは、ゲンチシン酸又はその塩が安定化の主な手段であることを意味する。しかし他の安定剤も組成物中に存在することができるが、ゲンチシン酸又はその塩が安定化の支配的な手段である。
【0019】
ゲンチシン酸又はその塩が、放射性医薬組成物内に存在する唯一の安定剤であることが好ましい。ゲンチシン酸又はその塩は、0.01〜10.0mg/ml、好ましくは0.1〜5.0mg/ml、最も好ましくは0.5〜5.0mg/mlの濃度で使用されることが適当であり、2.5mg/mlが特に好適である。ゲンチシン酸の濃度を増大させると、組成物のpHを低下させる傾向になるので、pHの調節又は緩衝液を使用することが、より高いゲンチシン酸濃度で必要となる場合がある。
【0020】
「水性生体適合性担体媒質」は、流体、特に液体であり、その中に18F標識化合物が懸濁又は溶解しており、その結果組成物は、生理的に耐容可能であり、即ち、毒性又は過度の不快感を伴うことなく哺乳動物の体に投与することができる。水性生体適合性担体媒質は、滅菌した、発熱物質を含まない注射用水などの注射用担体液体;食塩水などの水溶液(これは、注射用の最終生成物が等張性であるか、低張性でないようにバランスを取ることができることが有利である);1つ以上の張性調節物質(例えば、プラズマカチオンの生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース若しくはスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール若しくはマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)、又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール)などの水溶液であることが適当である。本発明の放射性医薬組成物については、静脈内注射に適する、適当な水性生体適合性担体媒質を使用して、適当には、4.0〜9.5、より適当には4.5〜8.5、好ましくは4.5〜7.0、最も好ましくは4.5〜6.3の範囲で組成物のpHを制御することが適当である。
【0021】
放射性医薬品が[18F]FDGである場合、水性生体適合性担体媒質は、最大5%(v/v)のエタノールの混合水性溶媒溶液であり、残りの割合は、リン酸緩衝液などの欧州薬局方によって要求される水性緩衝液であることが好ましい。
【0022】
媒質中の18Fの放射能濃度(RAC)は、10〜100000MBq/mlの範囲である。RACは、10〜25000MBq/mlの範囲であることが好ましい。RACが高いほど、放射線分解のリスクが大きく、したがって本発明の有効な安定剤の重要性が大きい。通例では、RACは、生成の時点で最高であり、放射性崩壊とは、RACが製剤、検査、包装及び顧客への分配が行われたときまでに相当に低くなることを意味する。
【0023】
本発明の放射性医薬組成物は、臨床グレードのシリンジ又は容器で供給されることが適当であり、これは、滅菌完全性を維持すると同時に、皮下針を用いた1回以上の穿刺に適したシール(例えば、クリンプオン式セプタムシール蓋)を備える。そのような容器は、単一用量(「単位用量」)又は複数の患者用量を含むことができる。適当な容器は密閉容器を含み、これは、滅菌完全性及び/又は放射能安全性を維持することを可能にすると同時に、シリンジによって溶液を添加及び吸引することを可能にする。好適なそのような容器は、セプタムシールバイアルであり、気密性蓋は、オーバーシール(一般にアルミニウム製)を用いてクリンプされる。そのような容器は、必要に応じて、例えば、ヘッドスペースガスを変化させるか、又は溶液を脱気するために、蓋が真空に耐え得るというさらなる利点を有する。
【0024】
放射性医薬品が複数回用量容器で供給されるとき、好適なそのような容器は、複数の患者用量に十分な放射性医薬品を含む1つのバルクバイアル(例えば、10〜30cmの体積)を含む。したがって、単位患者用量を、バルクバイアル製剤の存続可能な寿命の間に、様々な時間間隔で臨床グレードのシリンジ中に吸引することによって、臨床的状況に適合させることができる。
【0025】
したがって、単回ヒト用量、又は「単位用量」を含むように設計された放射性医薬品シリンジは、臨床用途に適した使い捨て、又は他のシリンジであることが好ましい。そのようなシリンジは、放射線量からオペレーターを保護するためのシリンジシールドを適宜備えることができる。適当なそのような放射性医薬品シリンジシールドは、当技術分野で知られており、様々な設計物が市販されており、鉛又はタングステンのいずれかを含むことが好ましい。
【0026】
放射性医薬組成物は、追加の成分、例えば、抗菌性保存剤、pH調整剤又は充填剤などを適宜さらに含むことができる。用語「抗菌性保存剤」とは、潜在的に有害な微生物、例えば、細菌、酵母又はカビなどの増殖を阻害する作用剤を意味する。抗菌性保存剤は、用量に応じて何らかの殺菌性も示すことができる。本発明の抗菌性保存剤(複数も)の主な役割は、放射性医薬組成物中のそのようないずれの微生物の増殖をも阻害することである。適当な抗菌性保存剤(複数も)として、パラベン、即ち、メチル、エチル、プロピル若しくはブチルパラベン、又はこれらの混合物;ベンジルアルコール;フェノール;クレゾール;セトリマイド及びチオマーサルが挙げられる。好適な抗菌性保存剤(複数も)はパラベンである。
【0027】
用語「pH調整剤」は、放射性医薬組成物のpHが、ヒト又は哺乳動物への投与にとって許容できる限度(約pH4.0〜8.5)以内であることを保証するのに有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。適当なそのようなpH調整剤として、薬学的に許容できる緩衝液、例えば、トリシン、リン酸緩衝液又はトリス[即ち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]など、及び薬学的に許容できる塩基、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又はこれらの混合物などが挙げられる。[18F]FDGについては、好適な緩衝液はリン酸緩衝液である。
【0028】
用語「充填剤」とは、生成物生成の間の物質の取り扱いを容易にすることができる、薬学的に許容できる増量剤を意味する。適当な充填剤として、塩化ナトリウムなどの無機塩、及び水溶性の糖又は糖アルコール、例えば、スクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースなどが挙げられる。
【0029】
本発明の放射性医薬組成物は、無菌製造条件下で調製することによって、所望の滅菌した、発熱物質を含まない生成物を得ることができる。放射性医薬組成物は、非滅菌条件下で調製し、その後に例えば、γ−照射;高圧蒸気殺菌法;乾熱;膜濾過(時折滅菌濾過と呼ばれる);又は化学的処理(例えば、エチレンオキシドを用いた)を使用した最終的な滅菌法を続けることもできる。18F標識化合物は、前駆体から調製されることが適当である。「前駆体」は、その化学構造(Y)内で1つの要素を有する合成化合物の非放射性類似体を含むことが適当であり、18F放射性同位体の好都合な化学形態との化学反応がYで起こり、最小数の段階(理想的には1つの段階)で行うことができ、著しい精製の必要性を伴うことなく(理想的にはさらなる精製がない)、所望の放射性生成物を得るように設計される。そのような前駆体は、良好な化学的純度で得ることができることが好都合である。適当な前駆体及びその製剤は当技術分野で周知であり、例えば、Handbook of Radiopharmaceuticals,Radiochemistry and Applications、M.J.Welch及びC.S.Redvanly編、John Wiley and Sons Ltd、UK出版に概説されている。
【0030】
18Fの供給源は、[18F]フッ化物イオンであることが最も好ましいが、場合によっては、[18F]フッ素、又は[18F]−CHCOOF、又は[18F]−OFなどの18Fの求電子性供給源を使用することができる。[18F]FDGは、Hamacherら、Journal of Nuclear Medicine、27、(1986)、235〜283頁に記載されているものに基づく化学反応を使用してごく普通に製造される。しかし、18F標識化合物を製造する方法は、本発明の一部であるとみなされない。
【0031】
本発明による安定化放射性医薬組成物は、酸素ガスが除去された環境中で貯蔵されることが好ましい。
【0032】
語句「酸素ガスが除去された環境」とは、酸素濃度を絶対最小値に保持するために、適切な段階がとられたことを意味する。
(a)放射性医薬組成物が溶液中にある場合、酸素ガスは溶液から除かれ、溶液の上のヘッドスペースガスが無酸素に維持されることを保証する段階がとられる。これは、環境が溶液自体、及び溶液が接触するガス雰囲気の両方を包含するためである。
(b)放射性医薬組成物が調製されているとき、無酸素の溶液及び反応器が使用される。
【0033】
酸素ガス除去は、当技術分野で既知の様々な方法、例えば、いずれの溶解酸素も除去されるような、化学的に非反応性のガスを用いた生体適合性担体溶液の長期パージ;化学的に非反応性のガスを用いた生体適合性担体溶液の凍結融解脱ガス、又は使用される雰囲気がそのような非反応性ガスである場合、凍結乾燥によって実現することができる。
【0034】
用語「化学的に非反応性のガス」とは、当技術分野で知られている「不活性な雰囲気」を提供するために、化学反応において使用されるガスを意味する。そのようなガスは、容易な酸化又は還元反応(例えば、それぞれ酸素及び水素が起こすように)、又は有機化合物との他の化学反応(例えば、塩素が起こすように)を起こさず、したがってこのガスと接触して数時間又は数週間にもわたって長期間貯蔵されても、合成化合物と反応することなく、広範囲の合成化合物と適合する。適当なそのようなガスには、窒素、又はヘリウム若しくはアルゴンなどの不活性ガスが含まれる。化学的に非反応性のガスは、窒素又はアルゴンであることが好ましい。化学的に非反応性のガスは、空気より重いことが最も好ましく、これは、安定剤組成物に対してブランケット(blanket)を維持する。したがって、好適な化学的に非反応性のガスはアルゴンである。脱酸素された溶液中に酸素ガスが進入しないことを保証するために、安定剤上のヘッドスペースガスは、非反応性ガスの陽圧下に維持されるか、又は安定剤は、ヘッドスペースガスが化学的に非反応性のガスである気密性容器(上述したような)中に保持される。医薬品グレードの化学的に非反応性のガスは市販されている。
【0035】
さらなる一態様では、本発明は、安定化放射性医薬組成物を調製するための方法であって、
(i)生体適合性担体媒質中の18F標識化合物を
(ii)有効安定化量のゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩
と混合することを含んでなり、担体媒質中の18Fの放射能濃度は、10〜100000MBq/mlの範囲であり、得られる組成物のpHは、4.0〜9.5の範囲である方法を提供する。
【0036】
ゲンチシン酸又はその塩を導入するタイミングは、18F標識化合物の生成後に可能な限り速やかに混合が起こるようにするべきであるが、これは、18F標識化合物が、安定剤の不在下で溶液中に長く存在するほど、放射線分解のリスクが大きいためである。
【0037】
ゲンチシン酸又はその塩は、酸素ガスが除外された環境中で提供されることが好適である。酸素ガスを除外するための方法は上述されている。生体適合性担体媒質中の18F標識化合物、及び放射性医薬品も酸素ガスが除外された環境中に適宜維持してもよい。
【0038】
さらなる一態様では、本発明は、滅菌する追加段階を含む、上述した安定化放射性医薬組成物を調製するための方法を提供する。滅菌段階は、安定化放射性医薬組成物を熱滅菌サイクルにかけることによって、又はγ−照射;高圧蒸気殺菌法;乾熱;膜濾過(時に滅菌濾過と呼ばれる);若しくは化学的処理(例えば、エチレンオキシドを用いて)によって行うことができる。
【0039】
さらなる一態様では、本発明は、上記に定義した水性生体適合性担体媒質中の18F標識化合物を含む放射性医薬組成物を、放射線分解に対して安定化するための、ゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩の使用であって、担体媒質中の18Fの放射能濃度は、10〜100000MBq/mlの範囲であり、得られる組成物のpHは、4.0〜9.5の範囲である使用を提供する。
【0040】
この使用は、放射性医薬品としてヒト投与に適した形態、即ち、上述した滅菌形態である、水性生体適合性担体媒質に特に有益である。
【0041】
本発明を実施例によってこれから例示する。
【実施例】
【0042】
18F]FDG組成物試料の放射化学的純度を、合成終了時(EOS)、及び満期つまり22℃±3℃で10時間貯蔵した後に求めることによって組成物の安定性を求めた。
【0043】
方法
緩衝液:
リン酸緩衝液、等張性、pH5.7。
【0044】
18F]FDG組成物の合成
18F]FDGを自動合成装置(TRACERlab Fx、GE Healthcare、ドイツ)で製造することによって、等張性リン酸緩衝液(pH5.7)中の[18F]FDGのバッチ溶液を形成した。2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−マンノース([18F]FDM)は、この合成の副生成物である。
【0045】
一連のバイアルに緩衝液中に溶解した一量の安定剤を添加した。次いで[18F]FDGのバッチ溶液を、これらのバイアル中に分注し、134℃で210秒間加熱滅菌した。
【0046】
安定性検査
薄層クロマトグラフィー(TLC)法
EOS(2時間以内)で、990μlの体積の注射用水に10μlの試料を添加することによって、100倍希釈の検査溶液を調製した。混合した後、2μl試料をTLCストリップに施した。
【0047】
合成して10時間後に、180μlの体積の注射用水に20μlの試料を添加することによって10倍希釈液を作製した。混合した後、3μlの試料をTLCストリップに施した。
【0048】
製造後1〜3時間以内に、放射化学的純度(RCP)をTLCによって求めた。バイアルを22℃±3℃で貯蔵し、合成して10時間後にRCPをTLCによって再び求めた。
【0049】
最初に、溶離液として0.1MのNaOHを使用して、Dionex Carbopacカラム上に20μlの試料を注入することにより、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってもRCPを測定した。
【0050】
追加の実施例(3〜6)では、RCPを求めるのにTLCのみを使用した。
【0051】
結果
実施例1
18F]FDGバッチ溶液のバッチサイズは、EOSで、19ml中45GBq(2370MBq/mlのRAC)であった。
【0052】
【表1】

【0053】
結論:アセトンは、わずかな安定化効果を有する。エタノール及びゲンチシン酸は、アセトンより良好な安定化効果を有する。
【0054】
実施例2、3及び4では、EOSで50GBq未満のバッチを使用して、様々な濃度のゲンチシン酸(GA)の安定化効果を探索した。
【0055】
実施例2
18F]FDGバッチ溶液のバッチサイズは、EOSで、10.9ml中36GBq(3300MBq/mlのRAC)であった。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例3
18F]FDGバッチ溶液のバッチサイズはEOSで17ml中43GBq(2500MBq/mlのRAC)であった。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例4
18F]FDGバッチ溶液のバッチサイズは、EOSで、17ml中40GBq(2350MBq/mlのRAC)であった。
【0060】
【表4】

【0061】
結論
3つの小さいバッチ(EOSで50GBq未満の総活性)において、漸増量のゲンチシン酸の効果を、0.1〜0.5mg/ml、0.5〜1mg/ml、及び1〜2mg/mlのゲンチシン酸の範囲を連続的に比較することによって探索した。すべての場合において、より高い量が、より有効であることが判明した。
【0062】
実施例5及び6を実施することによって、より大きいバッチサイズ及びより高い活性濃度でのゲンチシン酸の安定化効果を求めた。
【0063】
実施例5
18F]FDGバッチ溶液のバッチサイズは、EOSで、12.1ml中43.3GBq(3578MBq/mlのRAC)であった。
【0064】
【表5】

【0065】
結論
バイアル5及び6中の安定剤の絶対量は、ほぼ同じである(約2mg/ml)。EOS+10時間でのRCPは、GAについて1%高く、これは、GAはエタノールより良好な安定剤であることを示す。
【0066】
実施例6
18F]FDGバッチ溶液のバッチサイズは、EOSで、15.8ml中85.6GBq(5418MBq/mlのRAC)であった。
【0067】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)18F標識化合物、
(ii)有効安定化量のゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩、
(iii)水性生体適合性担体媒質
を含んでなる安定化放射性医薬組成物であって、前記担体媒質中の18Fの放射能濃度は10〜100000MBq/mlの範囲であり、前記組成物のpHは4.0〜9.5の範囲である安定化放射性医薬組成物。
【請求項2】
前記18F標識化合物が、[18F]FDG、[18F]−フルオロ−DOPA、[18F]−フルオロエストラジオール、3’−[18F]−フルオロチミジン、5−[18F]フルオロウラシル、[18F]フルオロドーパミン、[18F]フルオロノルエピネフリン、2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]CFT)、N−[18F]−フルオロプロピル−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]FP−CIT)、2−(1−(6−((2−[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ)ナフタレン−2−イル)エチリデン)マロニトリル([18F]FDDNP)、2−(3−[18F]−フルオロ−4−メチルアミノ−フェニル)−ベンゾチアゾール−6−オール、2−(2−[18F]−フルオロ−4−メチルアミノ−フェニル)−ベンゾチアゾール−6−オール、(E)−4−(2−(6−(2−(2−(2−[18F]フルオロエトキシ)エトキシ)ピリジン−3−イル)ビニル)−N,N−ジメチルベンゼンアミン([18F]AV−19)、[18F][4−(2−{4−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−フェニル}−ビニル)−フェニル]−メチル−アミン、[18F]{4−[2−(4−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−フェニル)−ビニル]−フェニル}−メチル−アミン、[18F][(4−{2−[4−(2−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−エトキシ)−フェニル]−ビニル}−フェニル)−メチル−アミン、及び[18F][[4−(2−{4−[2−(2−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−エトキシ)−エトキシ]−フェニル}−ビニル)−フェニル]−メチル−アミンから選択される、請求項1記載の放射性医薬組成物。
【請求項3】
前記18F標識化合物が[18F]FDGである、請求項1又は請求項2記載の放射性医薬組成物。
【請求項4】
ゲンチシン酸の量が、0.01〜10.0mg/ml、好ましくは0.1〜5.0mg/ml、最も好ましくは0.5〜5.0mg/mlであり、2.5mg/mlが特に好適である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物のpHが、4.5〜8.5、好ましくは4.5〜7.0、最も好ましくは4.5〜6.3の範囲である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項6】
前記担体媒質中の18Fの放射能濃度が10〜25000MBq/mlの範囲である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項7】
安定化放射性医薬組成物を調製するための方法であって、
(i)生体適合性担体媒質中の18F標識化合物を
(ii)有効安定化量のゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩と
混合することを含んでなり、前記担体媒質中の18Fの放射能濃度は、10〜100000MBq/mlの範囲であり、得られる組成物のpHは、4.0〜9.5の範囲である、方法。
【請求項8】
滅菌する追加段階を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記18F標識化合物が、[18F]FDG、[18F]−フルオロ−DOPA、[18F]−フルオロエストラジオール、3’−[18F]−フルオロチミジン、5−[18F]フルオロウラシル、[18F]フルオロドーパミン、[18F]フルオロノルエピネフリン、2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]CFT)、N−[18F]−フルオロプロピル−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]FP−CIT)、2−(1−(6−((2−[18F]フルオロエチル)(メチル)アミノ)ナフタレン−2−イル)エチリデン)マロニトリル([18F]FDDNP)、2−(3−[18F]−フルオロ−4−メチルアミノ−フェニル)−ベンゾチアゾール−6−オール、2−(2−[18F]−フルオロ−4−メチルアミノ−フェニル)−ベンゾチアゾール−6−オール、(E)−4−(2−(6−(2−(2−(2−[18F]フルオロエトキシ)エトキシ)ピリジン−3−イル)ビニル)−N,N−ジメチルベンゼンアミン([18F]AV−19)、[18F][4−(2−{4−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−フェニル}−ビニル)−フェニル]−メチル−アミン、[18F]{4−[2−(4−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−フェニル)−ビニル]−フェニル}−メチル−アミン、[18F][(4−{2−[4−(2−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−エトキシ)−フェニル]−ビニル}−フェニル)−メチル−アミン、及び[18F][[4−(2−{4−[2−(2−{2−[2−(2−フルオロ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−エトキシ)−エトキシ]−フェニル}−ビニル)−フェニル]−メチル−アミンから選択される、請求項7又は請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記18F標識化合物が[18F]FDGである、請求項7乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ゲンチシン酸の量が0.01〜10.0mg/ml、好ましくは0.1〜5.0mg/ml、最も好ましくは0.5〜5.0mg/mlであり、2.5mg/mlが特に好適である、請求項7乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記組成物のpHが4.5〜8.5、好ましくは4.5〜7.0、最も好ましくは4.5〜6.3の範囲である、請求項7乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記担体媒質中の18Fの放射能濃度が、10〜25000MBq/mlの範囲である、請求項7乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の放射性医薬組成物を、放射線分解に対して安定化するための、ゲンチシン酸又は生体適合性カチオンとのその塩の使用。

【公表番号】特表2011−503239(P2011−503239A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540084(P2010−540084)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064953
【国際公開番号】WO2009/059977
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(510117791)
【Fターム(参考)】