説明

放射性同位元素に汚染された表面近傍部位を非熱的レーザー剥離により再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染する方法とその装置

【解決課題】RIで汚染された表面固着皮膜に含まれているRIが表面固着層の下層の構造材内部に浸透、拡散して再汚染することなく、使用環境、有効性、適用対象、適用場所、適用条件に制限がほとんどなく、容易に、安価で、ほぼ完全な除染率を実現する非熱レーザー剥離による除染方法を提供する。
【解決手段】RIを含む表面固着層を有するステンレス鋼製コールド構造物1に、極短パルス非熱的レーザー2を照射すると同時に、レーザー照射箇所に流体吹き付け部3から除去用気体又は液体を吹き付けて、フェムト秒乃至ピコ秒極短パルス非熱的レーザー照射により剥離・切除された固着層破片3を吹き飛ばし、排気管4で吸引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加速器、原子炉、放射性同位元素製造工場、核燃料工場、核燃料再処理工場などの周辺において使用される数多くの放射性同位元素を取り扱う機器施設装置において、多くの放射性同位元素に汚染されている装置表面近傍部位を、パルス状レーザーのパルス持続時間幅が数百フェムト秒以下から数ピコ秒以下であって極めて短く、このレーザーを照射された物質の領域から近接する周辺に、レーザー及びレーザーに誘起され、あるいは加速され、あるいはエネルギーを与えられる電子などのエネルギー伝達とその熱による影響が伝達されるよりも十分に早く照射領域の物質蒸発あるいは物質除去が行われるレーザー照射による物質の剥離を「非熱的レーザー剥離」と呼び、これを用いて再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性同位元素に汚染されている装置等の表面近傍部の除去には、次の方法がとられている。
(1)その表面を物理的、機械的にサンドブラスト、グラインダー、表面研削工具などを用いて除去する方法
(2)放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜をキレート剤、酸など薬剤で化学的に腐食させて除去する方法
(3)連続波レーザー、長パルスレーザー、10ピコ秒より十分に長い間隔の短パルスレーザーを放射性同位元素を含む表面固着皮膜に照射し、溶融、熱蒸発させる方法
(4)放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜を電解研磨液に浸漬させ、電気化学的に電解研磨する方法
(5)放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜を塩素ガス雰囲気中でレーザー照射し,金属表面の汚染物質を酸化物から昇華性あるいは水溶性の塩化物に変換して除去する方法
(6)放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜にゲル除染剤を塗布してレーザーを照射し,レーザー誘起化学反応により汚染物質を除去する方法
(7)冷間加工の一種である気中、水中で研磨剤をいれたあるいは入れない水ジェットを用いて放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜を物理的機械的に除去する方法
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-61966号公報
【特許文献2】特開2003-17788号公報
【特許文献3】特開2001-116892号公報
【特許文献4】特開2000-346992号公報
【特許文献5】特開平9-281296号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】MINEHARA Eisuke J., JAERI FEL Applications in Nuclear Energy Industries, JAERI-Conf, 2005年,JAERI-Conf 2005-004,pp.48-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜を除去する方法は利用実績があり、広く用いられているが、対象物、場所、形状等の適用可能条件が厳しく、応用範囲がかなり限定され、100%除染できるわけで無く、半分以上は除染可能であるが、固着した放射性同位元素の大きな部分が残留し、その除染能力効果が限られており、次のような課題がある。
【0006】
放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜を除去する物理的機械的な方法は、これらは本質的に冷間加工方法で、除去過程で基本的には表面固着皮膜と構造材の双方の表面とサンドブラスト、グラインダー、表面研削工具などの接触する粒子、刃物、工具の表面は局所的に千数百度以上に上昇し、機械的に亀裂や割れがこの除去作業中に発生し、進展している。このため表面固着皮膜の放射性同位元素は構造材の表面に局所的に、再溶融し、再拡散し、再汚染するので完全な除染が困難である。
【0007】
通常、表面固着皮膜の下層の構造材表面は製造時に不可避的に冷間加工されており、割れ感受性と引張残留応力が集中するので、除染以前の製造工程や運転中に割れがすでに進展しており、軽水腐食環境下でこの割れ感受性がある表面から応力腐食割れが長い年月にわたり深く進展し、この割れに沿って深い領域まで放射性同位元素が侵入している。除染時の酸などの薬剤によってもたらされる強い腐食環境下では応力腐食割れがさらに短時間に進展し、この割れに沿って広く深い領域まで放射性同位元素が侵入する、このため表面固着皮膜の放射性同位元素と同様に放射性同位元素は構造材の表面から内部に直接輸送され、浸透し、拡散し、再汚染するので完全な除染が困難である。
【0008】
そこでこの発明は、上記のように、すでに除染前に製造工程や運転中の応力腐食割れ等により深く広く浸透、拡散し、汚染していた放射性同位元素が除去できない恐れもなく、使用する酸などの薬剤によって表面の冷間加工跡が応力腐食割れによって割れ進展し、放射性同位元素が浸透、拡散し、再汚染する恐れもなく、使用環境、有効性、適用対象、適用場所、その他の適用条件に制限がほとんどない、容易に、安価で、通常の除染方法よりもはるかに高いほぼ完全な除染率を結果的に実現し、除染中の放射性同位元素の浸透や拡散を防ぎ、再汚染を無くす、あるいは最小にする、非熱レーザー剥離による除染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の「放射性同位元素に汚染された表面近傍部位を非熱的レーザー剥離を用いて再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染する方法とその装置」は、加速器、原子炉、放射性同位元素製造工場、核燃料工場、核燃料再処理工場など放射性同位元素に汚染された表面を持つ部品、構造物などを非熱的レーザー照射により、照射表面近傍に発生する熱がその周辺部に伝達されるよりも早く、レーザー照射された表面近傍部位を蒸発させ、除去するところの非熱的レーザー剥離を用いて再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにこの発明によれば、従来の技術では不可能であった、高除染効率を実現し、母材の放射化以外の放射性同位元素の残留の無いほぼ完全な除染が可能である、すなわち、非熱的レーザー剥離による除染であるために照射表面近傍部位に再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染することが可能である。更に、この発明には、下記のこの発明に特有な顕著な効果を生ずる。
(1)この発明によれば、人手によりあるいは自動機械によってサンドブラスト、グラインダー、表面研削工具などを用いて物理的、機械的に汚染を除去する必要がなく、容易に実行できる。
(2)この発明によれば、キレート剤、酸など化学的腐食薬剤を用いて汚染を除去する必要がなく、容易に実行できる。
(3)この発明によれば、周囲を腐食しやすい、有毒で危険で保存等に注意が必要な塩素ガス雰囲気中でレーザー照射し,金属表面の汚染物質を酸化物から昇華性あるいは水溶性の塩化物に変換して汚染を除去する必要がなく、容易に実行できる。
(4)この発明によれば、電気化学的に電解研磨液と電解研磨装置を用いて汚染を除去する必要がなく、容易に実行できる。
(5)この発明によれば、再溶融、再拡散、したがって再汚染が不可避に起こる、連続波レーザー、長パルスレーザー、10ピコ秒より十分に長い間隔の短パルスレーザーを放射性同位元素を含む表面固着皮膜に照射し、溶融、熱蒸発させる方法を用いて汚染を除去する必要がなく、容易に実行できる。
(6)この発明によれば、冷間加工の一種である気中、水中で研磨剤をいれたあるいは入れない水ジェットを用いて放射性同位元素で汚染された表面固着皮膜を物理的機械的に除去する必要がなく、容易に実行できる。
(7)この発明によれば、放射性廃棄物としての制限以外、対象物の重量、形状、化学的性質、周囲雰囲気、周囲環境、作業場所などによる制限はなく、大面積にわたって容易に安価に安全に実行できる。
(8)この発明によれば、除染後の放射線線量率が除染で期待できる最低まで減少するためにそれまで母材の放射化は少ないが表面汚染が完全に取れずに放射性廃棄物として処理しなければならなかった大部分の放射性廃棄物を一般廃棄物として再生利用できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】気中にて非熱的レーザーによるRIを含む表面固着皮膜を非熱的レーザーで剥離する説明。
【図2】水中での非熱的レーザー剥離照射により、RIを含む表面固着皮膜を熱伝達よりはやく非熱蒸発除去し、さらに気体など流体を吹き付け、剥離された固着層破片を排気管から吸引排気する非熱表面剥離除染する方法の説明。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最も高いキロワット級以上の平均出力を得ることができる唯一の数百フェムト秒以下から10ピコ秒以下の極短パルスkW級高平均出力レーザーである超伝導リニアック駆動自由電子レーザー装置を用いて、図1の様に照射し非熱的レーザー剥離により、再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染する。
【0013】
即ち、ステンレス鋼製コールド構造材1の表面に形成されたRI(放射性同位元素)を含む表面固着膜に、パルス持続時間幅が数百フェトム秒以下から数ピコ秒以下の極短パルス非熱的レーザー2を照射し、その表面固着層を切除する。同時に、除去用気体又は液体等の流体3をレーザー照射箇所に吹き付け、レーザー照射により切除された固着層破片を剥離し、その破片を排気管4に吸引して除去する。その剥離除染の程度を発光元素分析器又は放射線検出器6でモニターし、除染対象物であるステンレス鋼製界面5に溶融部分が無く、再汚染、再拡散が無いことを調査する。
【0014】
図2のように、水中での非熱的レーザー剥離照射により、RIを含む表面固着皮膜をレーザー照射によって発生する表面近傍の熱が周辺部に熱伝達されるよりはやく蒸発され、除去され、非熱的蒸発・除去が行われる。さらに気体など流体を吹き付け、剥離された固着層破片を効率よく、排気管から吸引排気され、非熱的に表面近傍から剥離され、除染される。
【0015】
即ち、加圧気体導入部、開放水封部8、伸縮耐圧部6及び半密閉式不完全水封部7が設けられたパイプ構造体を、ステンレス鋼製コールド構造材2の表面に形成されたRI(放射性同位元素)を含む表面固着膜3に、前記水封部を介し、伸縮耐圧部を伸縮して圧着する。次に、加圧気体を加圧気体導入部からパイプ構造体内に導入し、パイプ構造体内部の水を開放水封部8から排出してパイプ構造体内を加圧気体で満たし、加圧気体充填部を形成する。その後、ステンレス鋼製コールド構造材2の表面に形成されたRI(放射性同位元素)以下を含む表面固着膜3に、パルス持続時間幅が数百フェムト秒以下から数ピコ秒以下の極短パルス非熱的レーザー1を照射し、その表面固着層を破壊分解する。同時に、除去用流体4をレーザー照射箇所に吹き付け、レーザー照射により破壊された固着層破片を剥離し、その破片を排気管5に吸引して除去する。その剥離除染の程度を放射線検出器除染モニター9でモニターし、除染対象物であるステンレス鋼製界面に再汚染が無く、再拡散が無いことを調査する。
【0016】
又、剥離表面に対して垂直入射照射でない、より水平に近い浅い角度で照射し、剥離物質が反跳する方向がレーザー入射方向と大きく異なる方向とする事によって、衝撃剥離する残渣の自動的反跳除去が容易に実現するように、また高温の反跳残渣が照射面に堆積しない様にする。この近傍に排気管を剥離物の除去を容易にするように配置し、吸引する。
【0017】
比較的高温の残渣や照射面が空気中の酸素と反応して酸化し、高熱を発生しないように流体中の希ガス等の不活性ガスの噴射で空気を照射面から遮断隔離し、温度上昇を防ぎながら、照射面から残渣を流体噴射で吹き飛ばし高速で除去する。
【0018】
照射と流体遮断を容易にするために流体の流れとレーザー照射方向をできれば同軸あるいは概略同方向とする。また流体が照射面を覆いやすいように流れを妨げないように照射面とレーザー装置と流体吹き付け孔等全体を筒状の、或いは遮断流体噴流等で遮蔽隔離する。
【0019】
また噴射流体を断熱膨張させ液化気体の霧化噴射として用い、あるいは別種の霧状液体と気体の混合噴射を用いて、超音速、あるいは高速の残渣除去し易い噴射と照射面の冷却と効果的空気遮蔽を実現する。
【符号の説明】
【0020】
[図1]
1:ステンレス鋼製コールド構造材
2:フェムト秒ピコ秒極短パルス非熱的レーザー
3:除去用気体液体などの流体吹き付け部
4:剥離された固着層破片を吸入する排気管
5:ステンレス鋼製界面にて溶融部分は無く、再汚染、再拡散が無い
6:剥離除染の程度をモニターする発光元素分析器、あるいは放射線検出器
[図2]
1:非熱的レーザー
2:ステンレス構造材
3:RIを含む表面固着皮膜
4:除去用吹付け配管と除去流体
5:剥離されたRIを含む表面固着皮膜破片を吸引する排気管
6:伸縮耐圧部
7:半密閉式不完全水封部
8:開放水封部
9:除染モニター用発光元素分析器あるいは放射線検出器
10:水中環境

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状レーザーのパルス持続時間幅が数百フェムト秒以下から数ピコ秒以下である極めて短いレーザーが照射された物質の領域から近接する周辺に、レーザーによるエネルギー伝達と、そのレーザーに誘起され、加速され又はエネルギーを与えられる電子などによるエネルギー伝達と、そのエネルギー伝達で生ずる熱による影響とが発生するよりも十分に早い時期に、照射領域から物質蒸発又は物質除去が行われることにより、レーザー照射面で照射された物質の再溶融も再拡散も無く、且つ再汚染も無いレーザー照射による物質の剥離を行う非熱的レーザー剥離を用いることを特徴とする、放射性同位元素に汚染された表面近傍部位を除染する方法。
【請求項2】
除去したあるいは蒸発した放射性同位元素を含む物質が再度照射領域に戻ることがないように、パルス状レーザーと同時、非同時、時間的に連動させ又は非同期で連動させて気体、液体、縣濁液噴霧、霧状噴霧気体若しくは液体と気体との混合物からなる流体、又は固体微粒子を単独にて、若しくは固体微粒子と流体との混合物を吹き付け、これらレーザーとレーザー以外の物質の融合作用により力学的に照射物質を切削、単に移動させ、又は複合的に巻き込んで、レーザー照射領域の近接部位に配置した排気管で回収分別することによって照射物質を照射領域から除くことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
化学反応及び/又は機械的手段と前記非熱的レーザー剥離とを併用し、又は最初から最後まで非熱的レーザー剥離のみで完全な除染が可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
原子炉圧力容器や保管容器などの水中において、レーザーの照射を妨げないように水を気体で加圧排水された領域を確保するために、下方向にサイホン構造を持って半開放された半密閉式不完全水封部を持ち、上記容器内壁を必要に応じて水封部当り面として利用する構造を持ち、また直径方向は水圧に耐える機械構造を持ち、且つレーザー照射面にほぼ垂直な方向に広い範囲で傾けることが可能な伸縮自在のベローズ様ダクト又は他の伸縮可能な部位を用いることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
水中において、放射性同位元素に汚染された表面近傍部位を非熱的レーザー剥離を用いて再溶融無く、再拡散無く、且つ再汚染無く除染する装置であって、放射性同位元素で汚染された原子炉圧力容器内外面、原子炉格納容器内外面およびこの内部の原子炉構造物などから付着した照射物質を水中で除去するためのパイプ構造体を備え、その構造体が、水中においてレーザーの照射を妨げないように水を加圧気体で加圧排水された、気体で充満された領域を確保するために、下方向に半開放された半密閉式不完全水封部を持ち、直径方向は水圧に耐える機械構造を持ち、且つレーザー照射面にほぼ垂直な方向に広い範囲でパイプ構造体を傾けることが可能な伸縮自在のベローズ様ダクト又は他の伸縮可能な部位を持つことを特徴する、装置。
【請求項6】
非熱的レーザー剥離による除去部位近傍において、又は剥離除去後、排気管で回収分別された放射性同位元素が集積される部分近傍において、放射線検出器又は分光元素検出器で除染過程を監視することを特徴とする、請求項5記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−102812(P2011−102812A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9821(P2011−9821)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【分割の表示】特願2006−147918(P2006−147918)の分割
【原出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)