放射性廃棄物の固型化方法
【課題】固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度が低くなるように固化体を作製でき、しかも、扱う放射性廃棄物の容量が多くても容易に作製できるようにする。
【解決手段】硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加える不溶化処理と、その後、硬化材を加える固化処理又は酸を加えて中和した後に乾燥する固化処理を行うことで、容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、固化処理若しくは不溶化処理と固化処理を前記容器よりも容積の小さい小容器で実施し、固化体を収納した小容器を容器に定置する。アルカリ土類金属化合物の量と硬化材の材料・配合を適正にすることで、固化体に接した水のpHを12以下、硫酸イオン濃度を200ppm以下にできる。
【解決手段】硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加える不溶化処理と、その後、硬化材を加える固化処理又は酸を加えて中和した後に乾燥する固化処理を行うことで、容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、固化処理若しくは不溶化処理と固化処理を前記容器よりも容積の小さい小容器で実施し、固化体を収納した小容器を容器に定置する。アルカリ土類金属化合物の量と硬化材の材料・配合を適正にすることで、固化体に接した水のpHを12以下、硫酸イオン濃度を200ppm以下にできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や原子力関連施設から発生する硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を、容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする方法に関するものである。
【0002】
本発明は、特に現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物のうち、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を固型化するのに適した方法である。本発明が対象とする廃液又は廃棄物には、例えば原子力発電所における使用済みイオン交換樹脂を処理した際に発生する硫酸イオンを含有する放射性廃液がある。
【背景技術】
【0003】
原子力発電所や原子力関連施設から発生する低レベル放射性廃棄物のうち、現行の政令濃度上限値以下の放射性廃棄物は、固体状の放射性廃棄物(以下、固化体という)を容器に収納された状態の廃棄体とした後、コンクリートピットへ埋設する処理が既に実施されている。
【0004】
一方、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物については、一般的な地下利用に対して十分な余裕を持った深度に放射性核種閉じ込め機能を持った処分施設を設置し、その内部に廃棄体を埋設することが検討されている。その際、放射性核種の閉じ込め機能を有するベントナイト粘土やモルタルといった人工バリア材を廃棄体の周囲に配置することが最も有望視されている。
【0005】
廃棄体に含有されている放射性核種の人工バリア施設外部への漏洩は、以下のようにして起こるものと考える。容器が腐食により喪失したとき、施設内部に浸入した地下水と固化体とが接し、固化体から放射性核種が地下水に溶解する。放射性核種が溶存している地下水が人工バリア材内部を施設外部まで移動することで、放射性核種の人工バリア施設外部への漏洩が生じる。人工バリア材の放射性核種閉じ込め機能は、ベントナイト粘土やモルタルの透水性が小さいこと、即ち地下水の移動が著しく少ないという性質や、地下水が人工バリア材内部を移動する間に放射性核種を吸着するという性質を利用している。
【0006】
ベントナイト粘土やモルタルの上述の性質は、これらの化学的存在形態により得られるものであり、通常の地下環境ではベントナイト粘土やモルタルの化学的安定性は高く、長期に渡って放射性核種閉じ込め機能が期待できるとされている。しかし、ある種の条件下ではベントナイト粘土やモルタルは化学的に不安定であることが知られている。
【0007】
具体的には、人工バリア材のモルタル中にエトリンガイトが生成されると体積膨張を伴うためモルタルにひび割れ等が生じ、低透水性を期待できなくなる恐れがある。一般に、モルタルが硫酸イオン溶液に曝されると、モルタル成分であるアルミン酸カルシウム(3CaO・Al2O3)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)から式1に示す反応によりエトリンガイトが生成される。
【0008】
(式1)
3CaO・Al2O3+3Ca(OH)2+3SO42−+32H2O
→ 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O(エトリンガイト)+6OH−
このようなモルタルの放射性核種閉じ込め機能を低下させる可能性のある硫酸イオン溶液は、人工バリア施設に処分される放射性廃棄物に地下水が接することで生成される。例えば、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を単に固化処理した場合には、固化体に含まれる可溶性の硫酸化合物が、固化体に接している地下水に溶出する。従って、モルタルの化学的安定性の観点から、人工バリア施設に処分する硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の固化処理では、固化体からの硫酸イオンの溶出を抑制する工夫が必要となる。
【0009】
固化体からの硫酸イオン溶出の許容される程度としては、通常の地下水に含まれる硫酸イオン濃度である数十〜数百ppm、あるいは人工バリア材であるモルタルが少量ではあるが硫酸化合物を含有しているので、モルタルに接した水の硫酸イオン濃度即ち約200ppmが目安となる。
【0010】
ベントナイト粘土は高アルカリ溶液に接すると溶解性が高くなり、また、構成化合物に変化が生じる。ベントナイト粘土が溶解すると、粘土層内に空隙が生じるので地下水が移動し易くなり、低透水性を期待できなくなる恐れがある。また、構成化合物に変化が生じると、新たに生じた化合物の放射性核種の吸着能力が当初の化合物の吸着能力と同等である保証は無いため、本来のイオン交換能力を期待できなくなる恐れがある。
【0011】
このようなことから、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物は、固化体に接した水のpHが12以下で、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるように、固化処理することが好適である。このような固化体はこれまでに作製された例がないし、そのような固化体を作製する固型化方法も知られていない。
【0012】
現行の政令濃度上限値以下の放射性廃棄物について従来実施されている、固化体を容器に収納された状態の廃棄物としてコンクリートピットへ埋設する方法では、廃棄物は素掘り又は浅い地中のコンクリートピット施設に処分されるので、コンクリートの健全性を損なわないように固化体を作製すれば良い。即ち、上述したモルタルと同様の現象でコンクリートの健全性が損なわれないように固化体に接した水の硫酸イオン濃度を抑制して固化体を作製すれば良く、固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度の両者を抑制するような検討はされていない。
【0013】
特許文献1には、式2に示すように硫酸ナトリウムを含む放射性廃液に水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物を加えて硫酸イオンを難溶性の硫酸バリウムとし、次いで、式3に示すように酸化ケイ素化合物を添加して水ガラス(Na2O・nSiO2)を生成し、さらに水ガラスに硬化刺激剤を添加して固化体を作製する固化処理方法が記載されている。
【0014】
(式2)
Na2SO4+Ba(OH)2 → BaSO4(難溶性沈澱物)+2NaOH
(式3)
2NaOH+nSiO2 → Na2O・nSiO2(水ガラス)+H2O
この従来技術では、作製した固化体の圧縮強度と耐水性の観点からSiO2/Na2O比が1〜4の範囲となるように水ガラスを生成するのが好ましいとされているが、固化体と接した水のpHや硫酸イオン濃度については検討されていない。
【0015】
特許文献2には、放射性廃液の充填量を向上させる観点から、硫酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液にアルカリ土類金属の塩化物あるいは硝酸塩を添加して硫酸イオンを難溶性の硫酸バリウムや硫酸ストロンチウムとし、高炉水砕スラグと硬化刺激剤を用いて固化体を作製する固化処理方法が記載されている。この従来技術においても、作製した固化体の圧縮強度と耐水性の観点から、アルカリ土類金属の化合物を放射性廃液中の硫酸ナトリウムに対して1〜100mol%となるように添加するとされているが、その際の固化体と接した水のpHや硫酸イオン濃度については検討されていない。
【0016】
特許文献3には、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液の密度を測定し、密度から硫酸ナトリウム濃度を推定し、必要な固化剤の量を計算し、硫酸の不溶化や固化に必要な薬剤の投入量を決定することが記載されている。この従来技術には、廃棄体が水と接した際の浸出液が高pHになることを防止できると記載されているが、それ以上のことは記載されていない。
【0017】
さらに、廃棄体に利用される容器は、現行の政令濃度上限値以下の放射性廃棄物の場合は200Lドラム缶である。一方、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物の場合は、放射能の遮蔽能力を高めるために板厚が200Lドラム缶よりも厚く、収納効率を高めるために内容積が200Lドラム缶よりも大きい容器が検討されており、現行の200Lドラム缶を容器とした廃棄体と同様の方法で廃棄体を作製すると、1体の廃棄体を作製するために扱う放射性廃棄物の容量が容器の大きさに比例して多くなる。
【0018】
【特許文献1】特公平6−31850号公報
【特許文献2】特開平11−148998号公報
【特許文献3】特開2006−258719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上述べたように、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の固化体を作製する方法において、固化体に接した水のpHが12以下で、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるように固化体を作製するための固型化方法は見出されていない。
【0020】
また、廃棄体に利用される容器が大きくなり、扱う放射性廃棄物の容量が多くなると、容量が少ない場合に比べて、化学反応を生じさせるための反応温度を高くし、反応時間を長くすることで化学反応の収率を確保することになる。即ち、容器が大きくなると、単に扱う放射性廃棄物の容量に合わせて設備容量を大型化するだけでなく、設備能力を増強あるいは新たな設備を追加しなければならなくなり、1つの廃棄体を作るのに長い時間を要することになる。
【0021】
以上のことから、本発明の目的は、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物の固化体を作製する方法において、固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度が低くなるように固化体を作製でき、しかも、扱う放射性廃棄物の容量が多くても容易に作製できるようにした放射性廃棄物の固型化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製し、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とするものである。
【0023】
具体的には、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とする不溶化処理と、不溶化処理の後に混合物に硬化材を加える、または混合物に酸を加えて中和した後に乾燥する固化処理とを行うことで、固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、固化処理若しくは不溶化処理と固化処理の両方を小容器で実施し、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とするものである。
【0024】
小容器を用いた処理を同一のものにするためには、例えば容器の断面内の2軸方向をそれぞれ2分割、即ち小容器の外容積は容器の内容積を4等分に分割するとよい。断面内の2軸と垂直な軸方向も2分割すれば8等分に分割されることになる。2分割ではなく3分割以上にしても良い。即ち、小容器の外容積は容器内容積の1/4以下で同一であることが望ましい。
【0025】
本発明の好ましい方法の一つは、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を小容器に入れ、アルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とし、その後、当該混合物に硬化材を加えて固化して固化体とし、固化体の入った小容器を大きな容器に定置することである。この方法において、硬化材を加える代わりに、酸を加えて中和した後に乾燥させて固化体としてもよい。
【0026】
固化処理だけを小容器で行ってもよい。
【0027】
不溶化処理は、密閉状態で行い、温度70℃以上で反応させてアルカリ土類金属硫酸塩とすることが望ましい。アルカリ土類金属化合物の添加に関しては、少なくとも処理対象に含まれる硫酸イオンのモル量以上のアルカリ土類金属化合物を加えることが好ましい。また、アルカリ土類金属化合物としては、水酸化バリウムや塩化バリウムを用いることが好ましい。
【0028】
硬化材を加えて固化する場合の硬化材に関しては、少なくとも酸化ケイ素化合物が含まれ、ケイ素モル量が処理対象に含まれるアルカリ金属モル量に対して1.2以上となるように酸化ケイ素化合物を混合することが好ましい。酸化ケイ素化合物としては、シリカフュームを用いるのが良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度が低くなるような固化体を、扱う放射性廃棄物の容量が多くても容易に作製できるようになった。また、添加するアルカリ土類金属化合物の量と硬化材の材料・配合を適切にすることで、固化体に接した水のpHが12以下で、硫酸イオン濃度が200ppm以下となるように固化体を作製することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の固型化方法の概要と実験結果について説明する。但し、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
本発明の第一の実施例を図1から図10を用いて説明する。図1は硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の不溶化処理手順を示した図である。小容器1をベルトコンベア2に乗せて搬送して昇降機3へ移動させる。昇降機3を用いて小容器1を持ち上げ、小容器1の開口部にバルブ付き配管5を挿入する。硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液4を一定量だけバルブの操作により小容器1へ注入した後、昇降機3を操作して小容器1をベルトコンベア2の位置まで下げ、次の昇降機3まで小容器1を移動させる。次に、放射性廃液4を注入した場合と同様にして、アルカリ土類金属化合物6として水酸化バリウム8水和物を所定の量だけ小容器1に加え、その後、キャップ7を小容器1に取り付ける。本実施例では支持台8に取り付けたふた閉め機9の先端にキャップ7を爪で挟んで固定しておき、ふた閉め機9を回転させてキャップ7を小容器1の開口部まで下げて取り付けるようにした。開口部は雄ネジ、キャップ7は雌ネジの構造にすることでキャップ7を小容器1に固定した。この後、小容器1を更に移動させ、真空吸引式容器保持機10に取り付ける。真空吸引式容器保持機10は中空回転軸11の先端にあり、モータ支持台13に支持されたモータ12により小容器1を保持したまま回転する。このとき、赤外線ランプ14にて小容器1を加温する。これにより微細な硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物を得る。
【0032】
図2は不溶化処理後に固化材を加える手順を示した図である。図1で説明したのと逆の手順で小容器1のキャップ7を外して、硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物15に硬化材16を加える。硬化材にはシリカフュームと高炉スラグの混合物を用いた。
【0033】
図3は硬化材を加えた後に混練する手順を示した図である。図1で説明したのと同様の手順でキャップ7を取り付け、更に小容器1を真空吸引式容器保持機10に取り付けて回転させる。これによりペースト状の固化体を得る。
【0034】
図4は固化処理後に小容器を移動する手順を示した図である。本実施例ではキャップ7を取り外した後に固化体17の入った小容器1をベルトコンベア2の端まで移送する。
【0035】
図5は固化処理後の小容器を廃棄体容器21に定置する手順を示した図である。本実施例ではクレーンを用いている。小容器1に吸着盤18を取り付けてクレーンワイヤ19を巻き上げ、小容器1を持ち上げる。クレーン走行レール20を用いて廃棄体容器21の上方まで小容器1を水平移動させ、所定の位置で小容器1を廃棄体容器21の内部に定置する。
【0036】
図6は廃棄体容器21に廃棄体ふた22を取り付ける手順を示した図である。本実施例では図5のクレーンを用いている。廃棄体ふた22を持ち上げ、廃棄体容器21に廃棄体ふた22を定置する。これにより固化体17を内包した小容器1が内部に定置された廃棄体23を得る。
【0037】
本実施例では廃棄体容器21には内接辺が1.3mの容器を用い、小容器1には外接辺が0.42mの容器を用いたので、廃棄体23は27個の小容器を内部に収納している。小容器1の内容積は約74Lであるので、30Lの放射性廃液を小容器1内に移送した。本実施例の放射性廃液は硫酸ナトリウム飽和溶液(溶液比重1.25、濃度25wt%)であったので、この放射性廃液に含まれている硫酸イオンモル量は66モルである。このため、硫酸イオンの全量を硫酸バリウムとするには添加する水酸化バリウム8水和物が66モル以上必要となる。典型的な例ではバリウム/硫酸イオンモル比が1.3となる86モルの水酸化バリウム8水和物(27kg)を添加した。
【0038】
水酸化バリウム8水和物の添加量をバリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して1.0以上とする理由と効果について述べる。
【0039】
固化処理しようとする放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンの量は、本実施例のように予め判っている場合だけとは限らない。廃液中の硫酸イオン濃度を分析する場合や、放射性廃棄物の発生プロセスの検討から硫酸イオン濃度を算出評価する場合もある。そのような場合、求めた硫酸イオン量には分析誤差や評価誤差が重畳しており、求めた硫酸イオンモル量に対してバリウムモル量が1.0となるように水酸化バリウム8水和物を添加すると、時には誤差分だけバリウムが不足して未反応の硫酸ナトリウムが残留する場合が生じる。
【0040】
また、本実施例のように硫酸ナトリウム飽和溶液であることが予め判っている場合でも、バリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して1.0となるように作製した固化体では、固化体と接した水のpHは11〜13の範囲のばらつきが認められた。この原因は放射性廃液の計量誤差や添加する水酸化バリウム8水和物の重量測定誤差など様々な要因によると考えられる。勿論、非常に注意深く、慎重に計量や重量測定を行えば避けられる可能性もあるが、実際の固化処理では時間を要することはコスト増大に繋がる。このため、添加する水酸化バリウム8水和物はバリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して1.0より大きいことが望ましい。
【0041】
但し、バリウムモル量が過剰すぎると、過剰分のバリウムの一部は最終的に作製される固化体の中で水酸化バリウムとして存在し、これが固化体と接した水に溶解するため、固化体と接した水のpHは12を超えてしまう。水酸化バリウム8水和物の添加量を変えて多数の固化体を作製して、固化体に接した水のpHとバリウム/硫酸イオンモル比の関係を調べた。その結果を図7に示す。これから判るようにpH12以下となる条件はバリウム/硫酸イオンモル比2.7以下の場合である。
【0042】
上述したように硫酸イオン量の評価には誤差があるので誤差X%とすると、添加する水酸化バリウム8水和物の量はバリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して(1.0+X/100)〜(2.7−X/100)の範囲とすれば、誤差を考えてもバリウム/硫酸イオンモル比は1.0〜2.7に出来るので、作製した固化体と接した水のpHを確実に12以下に出来る。本実施例における硫酸イオン量の評価誤差は約20%であったので、バリウム/硫酸イオンモル比が1.2〜2.5の範囲となる。
【0043】
次に、シリカフュームと高炉水砕スラグの混合について説明する。これまでに説明した水酸化バリウム8水和物の添加によって式2の化学反応が生じ、固体状の硫酸バリウムと水酸化ナトリウム溶液の混合物が形成されており、その中のナトリウムイオン量は132モルである。典型的な例では、ケイ素モル量が300、即ち18kgのシリカフュームを添加し、硬化材であるシリカフュームと高炉水砕スラグの合計が36kgとなるように高炉水砕スラグを同時に添加した。
【0044】
シリカフュームのケイ素化合物は二酸化ケイ素であり、式3の化学反応が生じて水ガラスが形成される。水ガラスの水溶液は粘稠溶液で、それだけでは硬化しないが、アルカリ刺激硬化材として知られているシリカフュームと高炉水砕スラグの硬化反応により、ケイ酸カルシウム水和物が形成されて溶液中の水が無くなるに連れ、水ガラスも硬化する。本実施例では、シリカフュームと高炉水砕スラグをほぼ同時に添加したので、水ガラスの形成と高炉水砕スラグの硬化反応は平行して進行する。
【0045】
シリカフュームの添加量は、少なくとも水ガラス溶液自体のpHが12以下となるように十分な量を添加する必要がある。シリカフュームを加えないで高炉水砕スラグのみを添加して参照用の固化体を作製し、この固化体に接した水のpHを調べたところ、pH13以上となることが判った。即ち、シリカフュームを添加しないとpHを低く出来ない。シリカフュームの添加量を変えて固化体を作製して固化体に接した水のpHを調べた。シリカフュームは二酸化ケイ素が主な成分であるので、シリカフュームの添加量からケイ素/ナトリウムモル比を求め、これに対するpHの変化を図8に示す。これから判るようにpH12以下となる条件はケイ素/ナトリウムモル比1.2以上の場合である。従って、添加するシリカフュームの量は少なくともケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上にする必要がある。
【0046】
また、本実施例の不溶化反応は温度60℃、反応時間3時間としている。この温度と処理時間にした理由を以下で説明する。不溶化反応の処理時間と反応収率の関係を図9に示す。反応収率は式2の化学反応の進行度であり、廃液中の硫酸イオンのうち硫酸バリウムとなった割合を表す。温度以外の条件を同一にすると、温度が高いほど短い処理時間で反応が終了させられることが分かる。
【0047】
図7から図9までの結果はビーカスケールの処理容量、即ち容器として2Lガラスビーカを用いた場合の結果である。処理容量が多くなると、不溶化反応の反応収率が低下する。温度60℃、反応時間3時間の場合の結果を図10に示す。何れの場合も固化体と接する水の硫酸イオン濃度200ppm以下、pH12以下であることには違いないが、処理量が多くなると反応収率が低下して固化体と接する水の硫酸イオン濃度やpHが高くなることが分かる。前述したように、固化体と接する水の硫酸イオン濃度やpHは低いほど良いので、小容器に分割して不溶化処理と固化処理を行った本実施例は、廃棄体容器を用いて一括処理した場合よりも固化体と接する水の硫酸イオン濃度やpHは低く、高性能な固化体を得たことが分かる。仮に、廃棄体容器を用いて一括処理して本発明と同等の高性能な固化体を得ようとした場合には、反応温度を高めるために加熱能力の高いヒータを用いるか、反応時間を長時間にして単位時間当たりの処理能力を低下させねばならない。
【0048】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物にシリカフュームの量をケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上となるように添加して固化体を作製すれば、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作れることが確認された。
【0049】
なお、本実施例では硫酸バリウムを形成させるために水酸化バリウム8水和物を加えたが、本発明はこれに限るものではない。バリウム化合物であれば良く、無水水酸化バリウムや塩化バリウムなどを用いても良い。
【0050】
更に、本実施例ではシリカフューム以外の硬化材として高炉水砕スラグを加えたが、本発明はこれに限るものではない。アルカリ刺激反応でケイ酸カルシウム水和物を形成して硬化するものであれば良く、フライアッシュあるいは高炉水砕スラグとフライアッシュの混合物などを用いても良い。
【0051】
更に、本実施例では廃棄体内接辺1.3mと小容器外接辺0.42mの容器をそれぞれ用いたが、本発明の容器の大きさはこれに限るものではない。小容器の容器内容積2000Lまでなら、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。実用的な観点から、小容器の内容積は400L以下で、20L以上が好ましい。また、幾何学的な対象性から考慮して、小容器の大きさは廃棄体容器の内接辺を等分割して小容器の処理量を同一となるようにするのが良い。
【実施例2】
【0052】
本発明の第二の実施例を説明する。本実施例は実施例1の方法において、不溶化処理の反応温度を70℃、反応時間を2時間としたものである。図9から、反応温度を70℃、反応時間を2時間とした場合の不溶化反応の反応収率は、反応温度を60℃、反応時間を3時間とした場合と同等である。従って、実施例1より短い時間で処理することが出来る。
【0053】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物にシリカフュームの量をケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上となるように添加して固化体を作製すれば、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作ることが出来る。
【0054】
なお、不溶化処理における反応温度と反応時間は実施例1、実施例2の条件に限定されるものではない。反応温度を高くするほど反応時間を短く出来る。一般に、同一処理量の場合には反応温度を高くすることは加熱設備を高性能なものにする必要があるので、反応温度を高くする場合は小容器を小さくすることが好ましい。
【実施例3】
【0055】
図11、12を用いて第三の実施例を説明する。本実施例は実施例1の方法において、固化処理を乾燥処理に替えたものである。図11は不溶化処理後に中和剤24を加えて乾燥する手順を示した図である。中和剤には塩酸を用いている。硫酸以外の酸であれば、固化体に接した水の硫酸イオン濃度に影響することはない。実施例1とは異なりキャップ7を取り付けることなく、赤外線ランプ14で加熱して水分を蒸発させる。これにより乾燥物を得る。
【0056】
図12は乾燥処理後に小容器を移動する手順を示した図である。乾燥物25の入った小容器1をベルトコンベア2の端まで移送する。
【0057】
本実施例において、乾燥物と接した水の硫酸イオン濃度は実施例1と同じである。また、乾燥物と接した水のpHは水酸化ナトリウム溶液を塩酸で中和した値に一致する。即ち、pHは加える塩酸の量を調節することで所望の値に制御できる。
【0058】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物に硫酸以外の酸を加えて乾燥することで乾燥物に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作ることが出来る。
【実施例4】
【0059】
第四の実施例について説明する。本実施例は実施例1の不溶化処理を一つの大きな反応容器で一括して行う点が異なるだけなので、その他の説明は省略する。図13は一つの反応容器で不溶化処理を行う場合の設備構成を示している。アウトドラム混練機26に硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液を一定量だけバルブの操作により注入する。次いで、水酸化バリウム8水和物を所定量だけ加え、所定温度で加熱しながら所定時間だけ混練する。これにより微細な硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物15を得る。
【0060】
その後、前記の混合物を小容器1へ所定量だけ注入し、更に硬化材16を所定量加えて混練する。これによりペースト状の固化体17を内包した小容器1を得る。これを廃棄体容器に定置して廃棄体とする。
【0061】
本実施例において、固化体と接した水の硫酸イオン濃度は、不溶化処理の反応温度60℃、反応時間3時間の場合には図10に示した容器2000Lの場合と同じである。また、固化体と接した水のpHは固化処理を小容器で行っているので図10のビーカスケール(2L)の場合とほぼ同等である。
【0062】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物にシリカフュームの量をケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上となるように添加して固化体を作製すれば、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の不溶化処理手順を示した図である。
【図2】不溶化処理後に固化材を加える手順を示した図である。
【図3】硬化材を加えた後に混練する手順を示した図である。
【図4】固化処理後に小容器を移動する手順を示した図である。
【図5】固化処理後の小容器を廃棄体容器に定置する手順を示した図である。
【図6】廃棄体容器に廃棄体ふたを取り付ける手順を示した図である。
【図7】固化体に接した水のpHとバリウム/硫酸イオンモル比の関係を示した図である。
【図8】固化体に接した水のpHとケイ素/ナトリウムモル比の関係を示した図である。
【図9】不溶化処理時間と反応収率の関係を示した図である。
【図10】固化体に接した水の硫酸イオン濃度とpHと処理量の関係を示した図である。
【図11】中和剤を加えた後に乾燥する手順を示した図である。
【図12】乾燥処理後に小容器を移動する手順を示した図である。
【図13】一つの反応容器で不溶化処理を行う場合の設備構成を示した図である。
【符号の説明】
【0064】
1…小容器、2…ベルトコンベア、3…昇降機、4…放射性廃液、5…バルブ付き配管、6…アルカリ土類金属化合物、7…キャップ、8…支持台、9…ふた閉め機、10…真空吸引式容器保持機、11…中空回転軸、12…モータ、13…モータ支持台、14…赤外線ランプ、15…硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物、16…硬化材、17…固化体、18…吸着盤、19…クレーンワイヤ、20…クレーン走行レール、21…廃棄体容器、22…廃棄体ふた、23…廃棄体、24…中和剤、25…乾燥物、26…アウトドラム混練機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や原子力関連施設から発生する硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を、容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする方法に関するものである。
【0002】
本発明は、特に現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物のうち、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を固型化するのに適した方法である。本発明が対象とする廃液又は廃棄物には、例えば原子力発電所における使用済みイオン交換樹脂を処理した際に発生する硫酸イオンを含有する放射性廃液がある。
【背景技術】
【0003】
原子力発電所や原子力関連施設から発生する低レベル放射性廃棄物のうち、現行の政令濃度上限値以下の放射性廃棄物は、固体状の放射性廃棄物(以下、固化体という)を容器に収納された状態の廃棄体とした後、コンクリートピットへ埋設する処理が既に実施されている。
【0004】
一方、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物については、一般的な地下利用に対して十分な余裕を持った深度に放射性核種閉じ込め機能を持った処分施設を設置し、その内部に廃棄体を埋設することが検討されている。その際、放射性核種の閉じ込め機能を有するベントナイト粘土やモルタルといった人工バリア材を廃棄体の周囲に配置することが最も有望視されている。
【0005】
廃棄体に含有されている放射性核種の人工バリア施設外部への漏洩は、以下のようにして起こるものと考える。容器が腐食により喪失したとき、施設内部に浸入した地下水と固化体とが接し、固化体から放射性核種が地下水に溶解する。放射性核種が溶存している地下水が人工バリア材内部を施設外部まで移動することで、放射性核種の人工バリア施設外部への漏洩が生じる。人工バリア材の放射性核種閉じ込め機能は、ベントナイト粘土やモルタルの透水性が小さいこと、即ち地下水の移動が著しく少ないという性質や、地下水が人工バリア材内部を移動する間に放射性核種を吸着するという性質を利用している。
【0006】
ベントナイト粘土やモルタルの上述の性質は、これらの化学的存在形態により得られるものであり、通常の地下環境ではベントナイト粘土やモルタルの化学的安定性は高く、長期に渡って放射性核種閉じ込め機能が期待できるとされている。しかし、ある種の条件下ではベントナイト粘土やモルタルは化学的に不安定であることが知られている。
【0007】
具体的には、人工バリア材のモルタル中にエトリンガイトが生成されると体積膨張を伴うためモルタルにひび割れ等が生じ、低透水性を期待できなくなる恐れがある。一般に、モルタルが硫酸イオン溶液に曝されると、モルタル成分であるアルミン酸カルシウム(3CaO・Al2O3)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)から式1に示す反応によりエトリンガイトが生成される。
【0008】
(式1)
3CaO・Al2O3+3Ca(OH)2+3SO42−+32H2O
→ 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O(エトリンガイト)+6OH−
このようなモルタルの放射性核種閉じ込め機能を低下させる可能性のある硫酸イオン溶液は、人工バリア施設に処分される放射性廃棄物に地下水が接することで生成される。例えば、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を単に固化処理した場合には、固化体に含まれる可溶性の硫酸化合物が、固化体に接している地下水に溶出する。従って、モルタルの化学的安定性の観点から、人工バリア施設に処分する硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の固化処理では、固化体からの硫酸イオンの溶出を抑制する工夫が必要となる。
【0009】
固化体からの硫酸イオン溶出の許容される程度としては、通常の地下水に含まれる硫酸イオン濃度である数十〜数百ppm、あるいは人工バリア材であるモルタルが少量ではあるが硫酸化合物を含有しているので、モルタルに接した水の硫酸イオン濃度即ち約200ppmが目安となる。
【0010】
ベントナイト粘土は高アルカリ溶液に接すると溶解性が高くなり、また、構成化合物に変化が生じる。ベントナイト粘土が溶解すると、粘土層内に空隙が生じるので地下水が移動し易くなり、低透水性を期待できなくなる恐れがある。また、構成化合物に変化が生じると、新たに生じた化合物の放射性核種の吸着能力が当初の化合物の吸着能力と同等である保証は無いため、本来のイオン交換能力を期待できなくなる恐れがある。
【0011】
このようなことから、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物は、固化体に接した水のpHが12以下で、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるように、固化処理することが好適である。このような固化体はこれまでに作製された例がないし、そのような固化体を作製する固型化方法も知られていない。
【0012】
現行の政令濃度上限値以下の放射性廃棄物について従来実施されている、固化体を容器に収納された状態の廃棄物としてコンクリートピットへ埋設する方法では、廃棄物は素掘り又は浅い地中のコンクリートピット施設に処分されるので、コンクリートの健全性を損なわないように固化体を作製すれば良い。即ち、上述したモルタルと同様の現象でコンクリートの健全性が損なわれないように固化体に接した水の硫酸イオン濃度を抑制して固化体を作製すれば良く、固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度の両者を抑制するような検討はされていない。
【0013】
特許文献1には、式2に示すように硫酸ナトリウムを含む放射性廃液に水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物を加えて硫酸イオンを難溶性の硫酸バリウムとし、次いで、式3に示すように酸化ケイ素化合物を添加して水ガラス(Na2O・nSiO2)を生成し、さらに水ガラスに硬化刺激剤を添加して固化体を作製する固化処理方法が記載されている。
【0014】
(式2)
Na2SO4+Ba(OH)2 → BaSO4(難溶性沈澱物)+2NaOH
(式3)
2NaOH+nSiO2 → Na2O・nSiO2(水ガラス)+H2O
この従来技術では、作製した固化体の圧縮強度と耐水性の観点からSiO2/Na2O比が1〜4の範囲となるように水ガラスを生成するのが好ましいとされているが、固化体と接した水のpHや硫酸イオン濃度については検討されていない。
【0015】
特許文献2には、放射性廃液の充填量を向上させる観点から、硫酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液にアルカリ土類金属の塩化物あるいは硝酸塩を添加して硫酸イオンを難溶性の硫酸バリウムや硫酸ストロンチウムとし、高炉水砕スラグと硬化刺激剤を用いて固化体を作製する固化処理方法が記載されている。この従来技術においても、作製した固化体の圧縮強度と耐水性の観点から、アルカリ土類金属の化合物を放射性廃液中の硫酸ナトリウムに対して1〜100mol%となるように添加するとされているが、その際の固化体と接した水のpHや硫酸イオン濃度については検討されていない。
【0016】
特許文献3には、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液の密度を測定し、密度から硫酸ナトリウム濃度を推定し、必要な固化剤の量を計算し、硫酸の不溶化や固化に必要な薬剤の投入量を決定することが記載されている。この従来技術には、廃棄体が水と接した際の浸出液が高pHになることを防止できると記載されているが、それ以上のことは記載されていない。
【0017】
さらに、廃棄体に利用される容器は、現行の政令濃度上限値以下の放射性廃棄物の場合は200Lドラム缶である。一方、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物の場合は、放射能の遮蔽能力を高めるために板厚が200Lドラム缶よりも厚く、収納効率を高めるために内容積が200Lドラム缶よりも大きい容器が検討されており、現行の200Lドラム缶を容器とした廃棄体と同様の方法で廃棄体を作製すると、1体の廃棄体を作製するために扱う放射性廃棄物の容量が容器の大きさに比例して多くなる。
【0018】
【特許文献1】特公平6−31850号公報
【特許文献2】特開平11−148998号公報
【特許文献3】特開2006−258719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上述べたように、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の固化体を作製する方法において、固化体に接した水のpHが12以下で、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるように固化体を作製するための固型化方法は見出されていない。
【0020】
また、廃棄体に利用される容器が大きくなり、扱う放射性廃棄物の容量が多くなると、容量が少ない場合に比べて、化学反応を生じさせるための反応温度を高くし、反応時間を長くすることで化学反応の収率を確保することになる。即ち、容器が大きくなると、単に扱う放射性廃棄物の容量に合わせて設備容量を大型化するだけでなく、設備能力を増強あるいは新たな設備を追加しなければならなくなり、1つの廃棄体を作るのに長い時間を要することになる。
【0021】
以上のことから、本発明の目的は、現行の政令濃度上限値を超える放射能レベルの比較的高い放射性廃棄物の固化体を作製する方法において、固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度が低くなるように固化体を作製でき、しかも、扱う放射性廃棄物の容量が多くても容易に作製できるようにした放射性廃棄物の固型化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製し、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とするものである。
【0023】
具体的には、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とする不溶化処理と、不溶化処理の後に混合物に硬化材を加える、または混合物に酸を加えて中和した後に乾燥する固化処理とを行うことで、固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、固化処理若しくは不溶化処理と固化処理の両方を小容器で実施し、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とするものである。
【0024】
小容器を用いた処理を同一のものにするためには、例えば容器の断面内の2軸方向をそれぞれ2分割、即ち小容器の外容積は容器の内容積を4等分に分割するとよい。断面内の2軸と垂直な軸方向も2分割すれば8等分に分割されることになる。2分割ではなく3分割以上にしても良い。即ち、小容器の外容積は容器内容積の1/4以下で同一であることが望ましい。
【0025】
本発明の好ましい方法の一つは、硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物を小容器に入れ、アルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とし、その後、当該混合物に硬化材を加えて固化して固化体とし、固化体の入った小容器を大きな容器に定置することである。この方法において、硬化材を加える代わりに、酸を加えて中和した後に乾燥させて固化体としてもよい。
【0026】
固化処理だけを小容器で行ってもよい。
【0027】
不溶化処理は、密閉状態で行い、温度70℃以上で反応させてアルカリ土類金属硫酸塩とすることが望ましい。アルカリ土類金属化合物の添加に関しては、少なくとも処理対象に含まれる硫酸イオンのモル量以上のアルカリ土類金属化合物を加えることが好ましい。また、アルカリ土類金属化合物としては、水酸化バリウムや塩化バリウムを用いることが好ましい。
【0028】
硬化材を加えて固化する場合の硬化材に関しては、少なくとも酸化ケイ素化合物が含まれ、ケイ素モル量が処理対象に含まれるアルカリ金属モル量に対して1.2以上となるように酸化ケイ素化合物を混合することが好ましい。酸化ケイ素化合物としては、シリカフュームを用いるのが良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、固化体に接した水のpHと硫酸イオン濃度が低くなるような固化体を、扱う放射性廃棄物の容量が多くても容易に作製できるようになった。また、添加するアルカリ土類金属化合物の量と硬化材の材料・配合を適切にすることで、固化体に接した水のpHが12以下で、硫酸イオン濃度が200ppm以下となるように固化体を作製することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の固型化方法の概要と実験結果について説明する。但し、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
本発明の第一の実施例を図1から図10を用いて説明する。図1は硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の不溶化処理手順を示した図である。小容器1をベルトコンベア2に乗せて搬送して昇降機3へ移動させる。昇降機3を用いて小容器1を持ち上げ、小容器1の開口部にバルブ付き配管5を挿入する。硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液4を一定量だけバルブの操作により小容器1へ注入した後、昇降機3を操作して小容器1をベルトコンベア2の位置まで下げ、次の昇降機3まで小容器1を移動させる。次に、放射性廃液4を注入した場合と同様にして、アルカリ土類金属化合物6として水酸化バリウム8水和物を所定の量だけ小容器1に加え、その後、キャップ7を小容器1に取り付ける。本実施例では支持台8に取り付けたふた閉め機9の先端にキャップ7を爪で挟んで固定しておき、ふた閉め機9を回転させてキャップ7を小容器1の開口部まで下げて取り付けるようにした。開口部は雄ネジ、キャップ7は雌ネジの構造にすることでキャップ7を小容器1に固定した。この後、小容器1を更に移動させ、真空吸引式容器保持機10に取り付ける。真空吸引式容器保持機10は中空回転軸11の先端にあり、モータ支持台13に支持されたモータ12により小容器1を保持したまま回転する。このとき、赤外線ランプ14にて小容器1を加温する。これにより微細な硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物を得る。
【0032】
図2は不溶化処理後に固化材を加える手順を示した図である。図1で説明したのと逆の手順で小容器1のキャップ7を外して、硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物15に硬化材16を加える。硬化材にはシリカフュームと高炉スラグの混合物を用いた。
【0033】
図3は硬化材を加えた後に混練する手順を示した図である。図1で説明したのと同様の手順でキャップ7を取り付け、更に小容器1を真空吸引式容器保持機10に取り付けて回転させる。これによりペースト状の固化体を得る。
【0034】
図4は固化処理後に小容器を移動する手順を示した図である。本実施例ではキャップ7を取り外した後に固化体17の入った小容器1をベルトコンベア2の端まで移送する。
【0035】
図5は固化処理後の小容器を廃棄体容器21に定置する手順を示した図である。本実施例ではクレーンを用いている。小容器1に吸着盤18を取り付けてクレーンワイヤ19を巻き上げ、小容器1を持ち上げる。クレーン走行レール20を用いて廃棄体容器21の上方まで小容器1を水平移動させ、所定の位置で小容器1を廃棄体容器21の内部に定置する。
【0036】
図6は廃棄体容器21に廃棄体ふた22を取り付ける手順を示した図である。本実施例では図5のクレーンを用いている。廃棄体ふた22を持ち上げ、廃棄体容器21に廃棄体ふた22を定置する。これにより固化体17を内包した小容器1が内部に定置された廃棄体23を得る。
【0037】
本実施例では廃棄体容器21には内接辺が1.3mの容器を用い、小容器1には外接辺が0.42mの容器を用いたので、廃棄体23は27個の小容器を内部に収納している。小容器1の内容積は約74Lであるので、30Lの放射性廃液を小容器1内に移送した。本実施例の放射性廃液は硫酸ナトリウム飽和溶液(溶液比重1.25、濃度25wt%)であったので、この放射性廃液に含まれている硫酸イオンモル量は66モルである。このため、硫酸イオンの全量を硫酸バリウムとするには添加する水酸化バリウム8水和物が66モル以上必要となる。典型的な例ではバリウム/硫酸イオンモル比が1.3となる86モルの水酸化バリウム8水和物(27kg)を添加した。
【0038】
水酸化バリウム8水和物の添加量をバリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して1.0以上とする理由と効果について述べる。
【0039】
固化処理しようとする放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンの量は、本実施例のように予め判っている場合だけとは限らない。廃液中の硫酸イオン濃度を分析する場合や、放射性廃棄物の発生プロセスの検討から硫酸イオン濃度を算出評価する場合もある。そのような場合、求めた硫酸イオン量には分析誤差や評価誤差が重畳しており、求めた硫酸イオンモル量に対してバリウムモル量が1.0となるように水酸化バリウム8水和物を添加すると、時には誤差分だけバリウムが不足して未反応の硫酸ナトリウムが残留する場合が生じる。
【0040】
また、本実施例のように硫酸ナトリウム飽和溶液であることが予め判っている場合でも、バリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して1.0となるように作製した固化体では、固化体と接した水のpHは11〜13の範囲のばらつきが認められた。この原因は放射性廃液の計量誤差や添加する水酸化バリウム8水和物の重量測定誤差など様々な要因によると考えられる。勿論、非常に注意深く、慎重に計量や重量測定を行えば避けられる可能性もあるが、実際の固化処理では時間を要することはコスト増大に繋がる。このため、添加する水酸化バリウム8水和物はバリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して1.0より大きいことが望ましい。
【0041】
但し、バリウムモル量が過剰すぎると、過剰分のバリウムの一部は最終的に作製される固化体の中で水酸化バリウムとして存在し、これが固化体と接した水に溶解するため、固化体と接した水のpHは12を超えてしまう。水酸化バリウム8水和物の添加量を変えて多数の固化体を作製して、固化体に接した水のpHとバリウム/硫酸イオンモル比の関係を調べた。その結果を図7に示す。これから判るようにpH12以下となる条件はバリウム/硫酸イオンモル比2.7以下の場合である。
【0042】
上述したように硫酸イオン量の評価には誤差があるので誤差X%とすると、添加する水酸化バリウム8水和物の量はバリウムモル量が硫酸イオンモル量に対して(1.0+X/100)〜(2.7−X/100)の範囲とすれば、誤差を考えてもバリウム/硫酸イオンモル比は1.0〜2.7に出来るので、作製した固化体と接した水のpHを確実に12以下に出来る。本実施例における硫酸イオン量の評価誤差は約20%であったので、バリウム/硫酸イオンモル比が1.2〜2.5の範囲となる。
【0043】
次に、シリカフュームと高炉水砕スラグの混合について説明する。これまでに説明した水酸化バリウム8水和物の添加によって式2の化学反応が生じ、固体状の硫酸バリウムと水酸化ナトリウム溶液の混合物が形成されており、その中のナトリウムイオン量は132モルである。典型的な例では、ケイ素モル量が300、即ち18kgのシリカフュームを添加し、硬化材であるシリカフュームと高炉水砕スラグの合計が36kgとなるように高炉水砕スラグを同時に添加した。
【0044】
シリカフュームのケイ素化合物は二酸化ケイ素であり、式3の化学反応が生じて水ガラスが形成される。水ガラスの水溶液は粘稠溶液で、それだけでは硬化しないが、アルカリ刺激硬化材として知られているシリカフュームと高炉水砕スラグの硬化反応により、ケイ酸カルシウム水和物が形成されて溶液中の水が無くなるに連れ、水ガラスも硬化する。本実施例では、シリカフュームと高炉水砕スラグをほぼ同時に添加したので、水ガラスの形成と高炉水砕スラグの硬化反応は平行して進行する。
【0045】
シリカフュームの添加量は、少なくとも水ガラス溶液自体のpHが12以下となるように十分な量を添加する必要がある。シリカフュームを加えないで高炉水砕スラグのみを添加して参照用の固化体を作製し、この固化体に接した水のpHを調べたところ、pH13以上となることが判った。即ち、シリカフュームを添加しないとpHを低く出来ない。シリカフュームの添加量を変えて固化体を作製して固化体に接した水のpHを調べた。シリカフュームは二酸化ケイ素が主な成分であるので、シリカフュームの添加量からケイ素/ナトリウムモル比を求め、これに対するpHの変化を図8に示す。これから判るようにpH12以下となる条件はケイ素/ナトリウムモル比1.2以上の場合である。従って、添加するシリカフュームの量は少なくともケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上にする必要がある。
【0046】
また、本実施例の不溶化反応は温度60℃、反応時間3時間としている。この温度と処理時間にした理由を以下で説明する。不溶化反応の処理時間と反応収率の関係を図9に示す。反応収率は式2の化学反応の進行度であり、廃液中の硫酸イオンのうち硫酸バリウムとなった割合を表す。温度以外の条件を同一にすると、温度が高いほど短い処理時間で反応が終了させられることが分かる。
【0047】
図7から図9までの結果はビーカスケールの処理容量、即ち容器として2Lガラスビーカを用いた場合の結果である。処理容量が多くなると、不溶化反応の反応収率が低下する。温度60℃、反応時間3時間の場合の結果を図10に示す。何れの場合も固化体と接する水の硫酸イオン濃度200ppm以下、pH12以下であることには違いないが、処理量が多くなると反応収率が低下して固化体と接する水の硫酸イオン濃度やpHが高くなることが分かる。前述したように、固化体と接する水の硫酸イオン濃度やpHは低いほど良いので、小容器に分割して不溶化処理と固化処理を行った本実施例は、廃棄体容器を用いて一括処理した場合よりも固化体と接する水の硫酸イオン濃度やpHは低く、高性能な固化体を得たことが分かる。仮に、廃棄体容器を用いて一括処理して本発明と同等の高性能な固化体を得ようとした場合には、反応温度を高めるために加熱能力の高いヒータを用いるか、反応時間を長時間にして単位時間当たりの処理能力を低下させねばならない。
【0048】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物にシリカフュームの量をケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上となるように添加して固化体を作製すれば、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作れることが確認された。
【0049】
なお、本実施例では硫酸バリウムを形成させるために水酸化バリウム8水和物を加えたが、本発明はこれに限るものではない。バリウム化合物であれば良く、無水水酸化バリウムや塩化バリウムなどを用いても良い。
【0050】
更に、本実施例ではシリカフューム以外の硬化材として高炉水砕スラグを加えたが、本発明はこれに限るものではない。アルカリ刺激反応でケイ酸カルシウム水和物を形成して硬化するものであれば良く、フライアッシュあるいは高炉水砕スラグとフライアッシュの混合物などを用いても良い。
【0051】
更に、本実施例では廃棄体内接辺1.3mと小容器外接辺0.42mの容器をそれぞれ用いたが、本発明の容器の大きさはこれに限るものではない。小容器の容器内容積2000Lまでなら、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。実用的な観点から、小容器の内容積は400L以下で、20L以上が好ましい。また、幾何学的な対象性から考慮して、小容器の大きさは廃棄体容器の内接辺を等分割して小容器の処理量を同一となるようにするのが良い。
【実施例2】
【0052】
本発明の第二の実施例を説明する。本実施例は実施例1の方法において、不溶化処理の反応温度を70℃、反応時間を2時間としたものである。図9から、反応温度を70℃、反応時間を2時間とした場合の不溶化反応の反応収率は、反応温度を60℃、反応時間を3時間とした場合と同等である。従って、実施例1より短い時間で処理することが出来る。
【0053】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物にシリカフュームの量をケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上となるように添加して固化体を作製すれば、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作ることが出来る。
【0054】
なお、不溶化処理における反応温度と反応時間は実施例1、実施例2の条件に限定されるものではない。反応温度を高くするほど反応時間を短く出来る。一般に、同一処理量の場合には反応温度を高くすることは加熱設備を高性能なものにする必要があるので、反応温度を高くする場合は小容器を小さくすることが好ましい。
【実施例3】
【0055】
図11、12を用いて第三の実施例を説明する。本実施例は実施例1の方法において、固化処理を乾燥処理に替えたものである。図11は不溶化処理後に中和剤24を加えて乾燥する手順を示した図である。中和剤には塩酸を用いている。硫酸以外の酸であれば、固化体に接した水の硫酸イオン濃度に影響することはない。実施例1とは異なりキャップ7を取り付けることなく、赤外線ランプ14で加熱して水分を蒸発させる。これにより乾燥物を得る。
【0056】
図12は乾燥処理後に小容器を移動する手順を示した図である。乾燥物25の入った小容器1をベルトコンベア2の端まで移送する。
【0057】
本実施例において、乾燥物と接した水の硫酸イオン濃度は実施例1と同じである。また、乾燥物と接した水のpHは水酸化ナトリウム溶液を塩酸で中和した値に一致する。即ち、pHは加える塩酸の量を調節することで所望の値に制御できる。
【0058】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物に硫酸以外の酸を加えて乾燥することで乾燥物に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作ることが出来る。
【実施例4】
【0059】
第四の実施例について説明する。本実施例は実施例1の不溶化処理を一つの大きな反応容器で一括して行う点が異なるだけなので、その他の説明は省略する。図13は一つの反応容器で不溶化処理を行う場合の設備構成を示している。アウトドラム混練機26に硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液を一定量だけバルブの操作により注入する。次いで、水酸化バリウム8水和物を所定量だけ加え、所定温度で加熱しながら所定時間だけ混練する。これにより微細な硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物15を得る。
【0060】
その後、前記の混合物を小容器1へ所定量だけ注入し、更に硬化材16を所定量加えて混練する。これによりペースト状の固化体17を内包した小容器1を得る。これを廃棄体容器に定置して廃棄体とする。
【0061】
本実施例において、固化体と接した水の硫酸イオン濃度は、不溶化処理の反応温度60℃、反応時間3時間の場合には図10に示した容器2000Lの場合と同じである。また、固化体と接した水のpHは固化処理を小容器で行っているので図10のビーカスケール(2L)の場合とほぼ同等である。
【0062】
以上のことから、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃液に水酸化バリウム8水和物をバリウムモル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように添加して固体状の硫酸バリウムとナトリウムイオンを含む溶液の混合物とし、この混合物にシリカフュームの量をケイ素モル量が溶液中のナトリウムイオンのモル量に対して1.2以上となるように添加して固化体を作製すれば、固化体に接した水のpHが12以下、かつ硫酸イオン濃度が200ppm以下となるようにできる。また、廃棄体に利用する容器の内容積よりも外容積が小さい小容器を用いて固化体を作製して、固化体を収納した小容器を容器内に定置して廃棄体とすることで簡便に素早く作ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物の不溶化処理手順を示した図である。
【図2】不溶化処理後に固化材を加える手順を示した図である。
【図3】硬化材を加えた後に混練する手順を示した図である。
【図4】固化処理後に小容器を移動する手順を示した図である。
【図5】固化処理後の小容器を廃棄体容器に定置する手順を示した図である。
【図6】廃棄体容器に廃棄体ふたを取り付ける手順を示した図である。
【図7】固化体に接した水のpHとバリウム/硫酸イオンモル比の関係を示した図である。
【図8】固化体に接した水のpHとケイ素/ナトリウムモル比の関係を示した図である。
【図9】不溶化処理時間と反応収率の関係を示した図である。
【図10】固化体に接した水の硫酸イオン濃度とpHと処理量の関係を示した図である。
【図11】中和剤を加えた後に乾燥する手順を示した図である。
【図12】乾燥処理後に小容器を移動する手順を示した図である。
【図13】一つの反応容器で不溶化処理を行う場合の設備構成を示した図である。
【符号の説明】
【0064】
1…小容器、2…ベルトコンベア、3…昇降機、4…放射性廃液、5…バルブ付き配管、6…アルカリ土類金属化合物、7…キャップ、8…支持台、9…ふた閉め機、10…真空吸引式容器保持機、11…中空回転軸、12…モータ、13…モータ支持台、14…赤外線ランプ、15…硫酸バリウム沈殿物と水酸化ナトリウム溶液の混合物、16…硬化材、17…固化体、18…吸着盤、19…クレーンワイヤ、20…クレーン走行レール、21…廃棄体容器、22…廃棄体ふた、23…廃棄体、24…中和剤、25…乾燥物、26…アウトドラム混練機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とする不溶化処理と、前記不溶化処理の後に混合物に硬化材を加えて固化する固化処理とを行うことで容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、前記容器の内容積よりも外容積が小さい小容器の内部に固体状の放射性廃棄物を形成し、固体状の放射性廃棄物を内部に収納した複数の小容器を前記容器に定置して全体を1つの容器に収納された固体状の放射性廃棄物とすることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項2】
硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とする不溶化処理と、前記不溶化処理の後に混合物を酸を加えて中和した後に乾燥して固化する固化処理とを行うことで容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、前記容器の内容積よりも外容積が小さい小容器の内部に固体状の放射性廃棄物を形成し、固体状の放射性廃棄物を内部に収納した複数の小容器を前記容器に定置して全体を1つの容器に収納された固体状の放射性廃棄物とすることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記固化処理を小容器の内部で行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記不溶化処理と前記固化処理の両方を小容器の内部で行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記不溶化処理を密閉状態で温度70℃以上で行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記小容器の外容積は前記容器の内容積の1/4以下の同一容積であることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記小容器の内容積400L以下であることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、アルカリ土類金属モル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0以上となるように前記アルカリ土類金属化合物を加えて前記不溶化処理を行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、アルカリ土類金属モル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように前記アルカリ土類金属化合物を加えて前記不溶化処理を行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記アルカリ土類金属化合物が水酸化バリウム若しくは塩化バリウムであることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項11】
請求項1、3から10の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記硬化材が酸化ケイ素化合物を含む硬化材であることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項12】
請求項11に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記酸化ケイ素化合物がシリカフュームであることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項13】
請求項11に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記酸化ケイ素を含む硬化材が酸化ケイ素化合物と高炉水砕スラグ又は/及びフライアッシュであることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項14】
請求項11に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、ケイ素モル量が放射性廃棄物に含まれるアルカリ土類金属モル量に対して1.2以上となるように前記酸化ケイ素化合物を加えることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項1】
硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とする不溶化処理と、前記不溶化処理の後に混合物に硬化材を加えて固化する固化処理とを行うことで容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、前記容器の内容積よりも外容積が小さい小容器の内部に固体状の放射性廃棄物を形成し、固体状の放射性廃棄物を内部に収納した複数の小容器を前記容器に定置して全体を1つの容器に収納された固体状の放射性廃棄物とすることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項2】
硫酸イオンを含有する放射性廃液若しくは可溶性の硫酸化合物を含有する放射性廃棄物にアルカリ土類金属化合物を加えて固体状のアルカリ土類金属硫酸塩とアルカリ金属イオンを含む放射性溶液の混合物とする不溶化処理と、前記不溶化処理の後に混合物を酸を加えて中和した後に乾燥して固化する固化処理とを行うことで容器に収納された固体状の放射性廃棄物とする固型化方法において、前記容器の内容積よりも外容積が小さい小容器の内部に固体状の放射性廃棄物を形成し、固体状の放射性廃棄物を内部に収納した複数の小容器を前記容器に定置して全体を1つの容器に収納された固体状の放射性廃棄物とすることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記固化処理を小容器の内部で行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記不溶化処理と前記固化処理の両方を小容器の内部で行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記不溶化処理を密閉状態で温度70℃以上で行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記小容器の外容積は前記容器の内容積の1/4以下の同一容積であることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記小容器の内容積400L以下であることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、アルカリ土類金属モル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0以上となるように前記アルカリ土類金属化合物を加えて前記不溶化処理を行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、アルカリ土類金属モル量が放射性廃棄物に含まれる硫酸イオンモル量に対して1.0〜2.7の範囲となるように前記アルカリ土類金属化合物を加えて前記不溶化処理を行うことを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記アルカリ土類金属化合物が水酸化バリウム若しくは塩化バリウムであることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項11】
請求項1、3から10の何れかに記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記硬化材が酸化ケイ素化合物を含む硬化材であることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項12】
請求項11に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記酸化ケイ素化合物がシリカフュームであることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項13】
請求項11に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、前記酸化ケイ素を含む硬化材が酸化ケイ素化合物と高炉水砕スラグ又は/及びフライアッシュであることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【請求項14】
請求項11に記載の放射性廃棄物の固型化方法において、ケイ素モル量が放射性廃棄物に含まれるアルカリ土類金属モル量に対して1.2以上となるように前記酸化ケイ素化合物を加えることを特徴とする放射性廃棄物の固型化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−145130(P2008−145130A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329514(P2006−329514)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
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