説明

放射性核種のセシウムを捕捉する空気浄化方法

【課題】空気中に存在する放射性核種の中で、室内空間にある放射性核種セシウムを捕捉して、口、鼻、皮膚からの摂取による内部被爆を防止する手段の提供。
【解決手段】放射性核種セシウムの捕捉には、吸着材のベントナイト、バーミキュライトを使用するが、その特性を安定的に引き出すために紙材を支持体とした。なお、紙の支持体は軽量で柔軟性に富み加工性が優れている事から濾材として最適で目的を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気中に存在する放射性核種のセシウムを捕捉する機能を具備した空気浄化方法に関する。
【背景技術】
【先行技術文献】
【0002】
【特許文献1】特開平07−294698
【特許文献2】特開平07−270597
【特許文献3】特開平07−270597
【特許文献4】特開2007−190533
【特許文献5】特開平09−299809
【0003】
【非特許文献1】サイクル機構技術 No.23 2004.6 「ベントナイトコロイドに対するCsの収着挙動」
【非特許文献2】JAEA Research 2008−004 「海水系地下水中におけるベントナイト及び堆積岩に対するCsの吸着挙動」
【非特許文献3】畜産研究情報 No.1405 「牛乳中の放射性核種の濃度の推移とその低減化対策」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電所事故において放射性核種の飛散、漏洩が発生し、様々な場所に汚染が拡大している。特に空気中に浮遊して存在する放射性核種の除去は緊急課題である。
【0005】
動物は生存する上で酸素の取り入れのために呼吸を行うが、空気中や塵介等に放射性核種が混在していると、摂取の機会が増大し、外部被曝の危険はも勿論更に影響が大きいとされる内部被爆の危険が大きくなる。内部被爆は主に呼吸器からの吸引摂取、飲食物からの摂取、皮膚からの摂取があるが、いずれも目に見えない恐怖に晒されているのが現実である。
【0006】
放射性核種による汚染が広範多岐に渡る中、空気中に浮遊して存在する放射性核種の内、半減期が比較的長期であるセシウムを捕捉し、放射線被曝の危険から解放する汚染空気の浄化方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、上記の課題は次のような手段によって解決することがわかった。
即ち、放射性核種のセシウムで汚染された空気を浄化するために、ベントナイト或いはバーミキュライトで汚染空気中の放射性核種のセシウムを吸着捕捉し、不動態化させることにより汚染空気を浄化させる事で上記課題を解決できることがわかった。
【0008】
本発明で使用する空気浄化のための放射性核種セシウムの吸着剤としてはベントナイト或いはバーミキュライトを使用するが、該吸着材が水中に存在するセシウムを捕捉する事は既に知られている。但し、空気中に存在する放射性核種のセシウムを吸着して除去する事は、想定外の事実で知見が無かった。
【0009】
そこで、ベントナイト或いはバーミキュライトのセシウムに対する吸着反応を観ると、反応系の含水率が大きく関与している事が分かった。又、ベントナイトは水分の存在下では膨張して形状が崩れ、粘性が増加して目詰まりを起こすなど、取り扱いが難しい。一方、バーミキュライトは燐片状で比重が比較的軽い為に扱い難い。そこで、本発明は親水性、湿潤性、柔軟性に優れた固着剤と支持体を見出し、支持体に吸着材を保持する事を考案した。更に放射性核種を含有する物質が流出したり、飛散を防止するために、被覆用の容器に吸着材を収納する事で更なる安全を確保した。
【0010】
放射性核種のセシウムの吸着反応では、吸着材のベントナイト或いはバーミキュライトと汚染空気の接触時間を長くすること。又、親水性、湿潤性を保持する支持体、固着剤が好ましく、折り曲げ可能な支持体が望ましい。更に、吸着した放射性物質は長期隔絶保存を考慮しなければならないが、隔絶スペースを小さくするためにもコンパクトな放射性核種の捕捉器が好ましく、紙材の吸着支持体は軽量で柔軟性に富み望ましい態様である。
【0011】
吸着材のベントナイト、バーミキュライトは水分の存在下で反応が進行するため、反応系への水分補給が欠かせない。水分の補給は、空気流通路にあって吸着材の前方に位置する。補給方法には水車方式、気化方式、スチーム方式、超音波方式等から選択すればよい。
【0012】
水分補給用の水は一定期間貯留する事で、藻やカビが発生する。その対策として予め給水用の容器に殺菌剤を入れておくことが望ましい。殺菌剤としては、銀系の殺菌剤が好ましく、銀含有水ガラス、ヨウ化銀等が望ましい。又、支持体、固着剤にも同様の処置を施してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は空気中における放射性核種の除去を行うことで、放射線被曝の機会を大幅に低減できる。室内空間では空気清浄機に本機能を設置する事で、外気を室内へ取り入れる際は、取入れ口に本機能を保持する事で解決できる。また、土壌や水の放射性核種の除去と併せて行う事で、放射線被曝の危険からの解放が可能である。
【0014】
特に、乳幼児、児童や妊婦は放射線による被曝の影響が大きいとされる。福島の原子力発電所事故は、人類がいまだ経験した事のない生活圏の近くで起きた事故であり、実際には将来にわたる影響予測はできないのが現実である。家族の中で室内の生活時間が長く、影響が大きく将来のある子供達をはじめとして、生きている者を放射線からいかに守るかを考慮する上で本発明の寄与する点は大きい。
【0015】
本発明で使用する放射性核種セシウムの吸着材は、ベントナイト或いはバーミキュライトである。なお、吸着材と汚染空気の接触の場では、ベントナイトは水分含量が50〜80%を、バーミキュライトは水分含量が15〜35%の状態を維持できれば、吸着材の性能が発揮できた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 図1は本発明の放射性核種の吸着剤を具備した空気清浄機1を1,500mm×1,300mm×1,800mmの簡易密閉空間内で駆動させた。この時、地表から1,000mmの位置に放射線測定器を置いて空間中の放射線量の変化を測定した時の見取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ベントナイト或いはバーミキュライトのうち少なくともI種からなる放射性核種のセシウムを捕捉する吸着材である。該吸着材の特性を引き出すために、柔軟性と湿潤性を有し加工性に優れた紙を支持体とする吸着素材に関するものである。
以下、本発明を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の紙の抄造に添加したベントナイトは微分末の出雲ベントナイト(カサネン工業株式会社)で平均粒径10〜30μmである。
パルプは楮を用い、トロロ葵をバインダーとして準備した。
【0019】
上記ベントナイト、楮、トロロ葵は以下の割合で量り取り、これらと水を1:20の質量比で混合して抄紙スラリとする。
ベントナイト・・・・ 30質量%
楮 ・・・・ 65質量%
トロロ葵 ・・・・ 5質量%
こうして得られた抄紙スラリを用い、古典的な和紙の枚葉での抄紙を行う。大きさは300mm×300mm〜600mmを抄造した。抄紙スラリを流し漉きで網上に取り、圧搾脱水して網から剥がして更に鉄板蒸気乾燥してベントナイト紙が得られる。
【0020】
このようにして得たベントナイト紙100gを渦巻状にして、紙に包んで「図1」の空気清浄機の捕捉部内側に設置した。空気清浄機の空気取り入れ口には、水に濡らしたフィルターを置いて時折スプレーにて水を噴霧、加湿しながら空気中の放射線測定を行った。外気の相対湿度は75%で、測定は「図1」の簡易密閉空間内に空気清浄機を設置して行った。
【0021】
放射線測定条件は次の通りである。
測定日:2011年6月11日 11時15分〜14時40分
天 候:小雨後晴れ
場 所:福島市松浪町付近 民家軒先
空気清浄機:試作機 ファン性能 55m/h(日本電興株式会社製)
吸着材:出雲産ベントナイトを抄造した和紙
放射線測定器:デジタルガイガーカウンター TERRA MKS−05
(ウクライナECOTEST社)
【0022】
当日の測定地した場所の周辺での測定値は次の通りであった。

流し付近が特に値が高い。屋根や洗浄物等から集まって高い放射線の値になっていると推察される。
【0023】
簡易密閉空間内でのベントナイト紙を用いた空気清浄機による放射線の推移は次の通りである。

バックグランドの値が0.5275、測定地で0.7〜0.71であった。簡易密閉空間の10分後の値が0.64であるから、実際に空間内に浮遊している放射性核種は0.06μSv/h、約9%が捕捉できたと考えられる。
【実施例2】
【0024】
楮とトロロ葵だけの構成で作成した和紙に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2%水溶液200mlにバーミキュライト(約200メッシュ)20gを懸濁させ、和紙上に片面塗り延ばして和紙をその上に重ねて自然乾燥させた。やや結着が弱かったが、バーミキュライト10g(和紙で30cm×65cm)を丁寧に渦巻状にして空気清浄機の捕捉部に収納した。
「図1」の簡易密閉空間にて「実施例1」と同条件下にて試験を行った。

初期の値から10分後の値が0.13μSv/h下がっているが、実験数が少ないので「実施例1」のベントナイトよりバーミキュライトの方が捕捉能力が高いとまでは言えないが、捕捉能力は同等以上と言える。
【実施例3】
【0025】
楮とトロロ葵だけの構成で作成した和紙に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2%水溶液200mlにベントナイト5gとバーミキュライト10gを懸濁させ、和紙(30cm×65cm)上に片面塗り延ばし、塗布面に和紙を重ねて自然乾燥し、全て渦巻状にして、空気清浄機の捕捉部に収納した。「図1」の簡易密閉空間にて「実施例1」と同条件下にて試験を行った。

先の実施例と同様に測定から1分後には値が下がり、その後は安定した数値で推移している。浮遊している放射性の核種はセシウムと思われるが、空気清浄機のファンの能力(55m/h)と密閉空間(約3m)を考えると浮遊物の殆どが1〜2分で捕捉されたものと推測される。2種の吸着材の捕捉能力は不明であるが、捕捉はできる事が分かった。
【0026】
実施例2と3で使用したヒドロキシプロピルメチルセルローズはMETOLOSE(商品名)で信越化学工業株式会社のものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
放射性核種セシウムの捕捉器中に本発明の吸着材を保持し、該捕捉器中を汚染空気が通過する間に放射性物質を捕捉することで、主に室内空間の空気中の放射線からの危険を回避できる。
【0028】
室内空間の大きな施設等では、空間の大きさに対応して設置すれば良いので利用価値が高い。つまり、外出時以外の室内に設置する事で、浴びる放射線量を大幅に低減できる。
【0029】
また、外気の取り入れ時には、該捕捉器を取入れ口に設置する事で安心できる空気を確保できて、目に見えない恐怖から解放される精神的安心も計り知れない。。
【符号の説明】
【0030】
1 :空気清浄機
1−1 :放射性核種捕捉部
1−2 :空気清浄機のファン
1−3 :台(地上から1m)
2 :デジタルガイガーカウンタ
3 :テント
3−1 :テント出入り口(ジッパー式)
4 :ポリエチレンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種のセシウムで汚染された空気をベントナイトとバーミキュライトのうち少なくとも1種からなる吸着材に接触させ、汚染空気中の放射性核種のセシウムを吸着し、不動態化させることにより汚染空気を浄化する事を特徴とする空気浄化方法。
【請求項2】
請求項1の吸着材はカルボキシメチルセルローズ、メチルセルローズ、ヒドロキシプロピルメチルセルローズ、ヒドロキシエチルメチルセルローズ、ガラクタン(寒天)、アルギン酸ナトリウム、トロロアオイ、ゼラチン、キサンタンガム、ポリ酢酸ビニル、酢ビ・アクリル系共重合体のうち少なくとも1種からなる固着剤で支持体上に結着させて放射性核種のセシウム吸着層を形成した事を特徴とする空気浄化方法。
【請求項3】
請求項2記載の空気浄化方法で、吸着材を固着剤で保持するための支持体はパルプを原料とした紙である事を特徴とする空気浄化方法。
【請求項4】
請求項3記載の空気浄化方法で、吸着材を固着した紙は不織布、紙、布のうち少なくとも1種からなる容器に収容されている事を特徴とする空気浄化方法。
【請求項5】
請求項I、2、3又は4に記載した空気浄化方法で、汚染空気と吸着材を接触させる際のベントナイトは水分含量が50〜80%、バーミキュライトは水分含量が15〜35%とする事を特徴とする空気浄化方法。
【請求項6】
請求項5に記載したの空気浄化方法で、水分含量調整用の補給水に殺菌剤を含有する事を特徴とする空気浄化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−3131(P2013−3131A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148654(P2011−148654)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(595123081)有限会社レイノ (7)
【出願人】(511149337)