説明

放射性核種セシウムの除染剤

【課題】原子力発電所災害で放射性核種の漏洩、飛散で、放射線被曝からの危険回避が緊急課題である。あらゆる物を汚染している放射性核種セシウムを捕捉して、放射線による被曝から解放する手段の提供が求められていた。
【解決手段】本発明は課題を解決するために、放射性核種セシウムを吸着・捕捉することである。放射性核種セシウムの捕捉には、吸着材のベントナイトを使用するが、その特性を安定、効果的に引き出すためにpH緩衝液と粘着剤と界面活性剤を共存させることで課題を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性核種セシウムで汚染した非除染物の浄化のための除染剤に関する。
【背景技術】
【先行技術文献】
【0002】
【特許文献1】特開平11−101894
【特許文献2】特開2006−78336
【特許文献3】特開2009−52955
【0003】
【非特許文献1】EUROPA放射性セシウムの恐怖「除去を諦めたロシア」
【非特許文献2】サイクル機構技術 No.23 2004.6「ベントナイトコロイドに対するCsの吸着挙動」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電所事故において放射性核種の飛散、漏洩が発生し、様々な場所に汚染が拡大している。特に至る所に降り積もって放射線を出し続ける放射性核種の除去は一刻を争う緊急課題である。
【0005】
土やコンクリート、植物或いは汚泥・塵介等に放射性核種が付着や混在している状況では、放射線被曝の機会が大きく危険である。しかも、目に見えない放射性核種と放射線の恐怖に晒されて、毎日の生活を送らなければならない当地の人達が存在するというのが現実である。
【0006】
放射性核種による汚染が広範多岐に渡る中、コンクリート、木材等の建築材、土壌や植物等の汚染浄化は生活圏の安全を確保をする上で重要なことである。特に、半減期が比較的長期である放射性核種セシウムは反応性が高く、吸着すると剥がし取る事が不可能だと言われている。このことは、ロシアのチェルノブイリ原発の爆発事故の後、放射性核種セシウムの浄化を断念した事で有名である。しかし、該放射性核種セシウムの除去をせずして放射線被曝の危険から解放する手段は無く、放射性核種セシウムの除染剤発明は緊急課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、上記の課題は次のような手段によって解決することがわかった。
即ち、放射性核種セシウムで汚染された非除染物を浄化するために、ベントナイトを除染剤として放射性核種セシウムと接触させて吸着捕捉し、不動態化させることにより非除染物を浄化させる事で上記課題を解決できることがわかった。
【0008】
本発明で使用する放射性核種セシウムの吸着剤としてはベントナイトを使用するが、該吸着材が水中に存在するセシウムを捕捉する事は既に知られている。但し、放射性核種セシウムが、非除染物に吸着・結合している場合の除染は不可能であると言われていた。(非特許文献1、2)この度の福島原発事故については想定外の事であって、対応策が全く準備されていないし、知見も少なく先行技術も存在しない状態である。
【0009】
そこで、ベントナイトのセシウムに対する吸着性能に着目して検討を重ねた。その結果、吸着反応では除染剤と非除染物の接触時間、反応系の含水率とpHをある領域に保持する事が重要である。ベントナイトは水分の存在下で反応性は高まるが、膨張して形状が崩れ、粘性が増加して取り扱いが難しい。そこで、本発明は親水性、湿潤性、柔軟性に優れた粘着剤と共存させて、除染剤を非除染物に一定時間保持させる事を考案した。
【0010】
さらに、ベントナイトの反応領域とpH変動の関係は、許容幅が比較的狭いために、反応系のpHが反応効率に大きく作用する。この為に、pH緩衝液を使用することで、多少の酸、アルカリが系に入っても、反応の安定化とその維持を確保できた。
放射性核種セシウムの吸着反応では、除染剤のベントナイトと非除染物とは、水分を保持して接触時間を長くすることとpHの変動が小さい事が重要である。
【0011】
除染作業の最終工程は水洗であるが、洗った度合いが目視で判断できるように水溶性の色素を除染剤に含ませる事で解決した。
【0012】
更に、吸着した放射性物質は長期隔絶保存を考慮しなければならないが、除染した放射性核種セシウムを吸着した除染剤ベントナイトは不溶化の形態で、二次汚染の発生がし難い態様となっている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は放射性核種に汚染されたあらゆる物体を被除染物として、ベントナイト除染剤で放射性核種の除去を行うことで、放射線被曝の機会を大幅に低減できる。生活圏の中で、コンクリート材で構成するビルの屋上、壁、土間、塀や水回り、その他、瓦、樋,庇などの除染を行った。土壌や水等の除染と併せて本発明で行うことにより放射性核種の不動態化(不溶化)する事が出来る。つまり、捕捉した放射性核種は放射線の放出は抑えることはできないが、核種が再び移動したり反応を起こすことは無いので、正常な管理のもとでは二次汚染の発生は起き得ない。様々な場所で本発明の除染を行う事で、放射線被曝の危険からの解放が可能である。
【0014】
特に、乳幼児、児童や妊婦は放射線による被曝の影響が大きいとされる。福島の原子力発電所事故は、人類がいまだ経験した事のない生活圏の近くで起きた事故であり、実際には将来にわたる影響予測はできないのが現実である。放射線の影響を大きく受ける将来のある子供達をはじめとして、生きている者を放射線からいかに守るかを考慮する上で本発明の貢献は非常に大きい。
【0015】
本発明で使用する放射性核種セシウムの除染剤は、ベントナイトである。なお、吸着の為の除染剤と汚染された被除染物の接触の場では、水分の存在とpHのコントロールが重要である。この条件を確保できれば、吸着材ベントナイトの性能を発揮する事ができて、効率の良い除染作業を行う事が出来た。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、吸着材のベントナイトで放射性核種のセシウムを捕捉する除染剤である。該吸着材の特性を引き出すために、pH変動に対応するための緩衝材と吸着時間を保持するための粘着剤に関するものである。
以下、本発明を実施例を用いて説明する。
但し、本発明は以下の実施例に束縛されるものではない。
【実施例1】
【0017】
本発明のベントナイトは微分末の出雲ベントナイト(カサネン工業株式会社)で平均粒径10〜30μmである。pH緩衝剤としてはリン酸緩衝液(pH5.8〜8.0)を用いた。
リン酸緩衝液は次のようにして作成した。
▲1▼ リン酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.156.01):1.56g
▲2▼ リン酸水素二ナトリウム12水和物(M.W.358.14):3.58g
▲1▼と▲2▼を2Lの水に溶解し、先のベントナイト300gを投入・拡はんして除染剤とした。
【0018】
上記ベントナイト除染剤を用いてコンクリートの除染テストを行った。
測定日:2011年7月2日
場所: 福島県飯坂町字中ノ内付近 ホテルの庭及び側溝
放射線測定器:デジタルガイガーカウンター MIRION社 RDS−30
(スウェーデン製)
測定方法:
除染対象物としてコンクリート約1mとした。まず周辺の放射線量を測定し、次いで除染対象物を水洗い、ブラッシング後放射線量を測定し(除染後1)、発明品で除染対象物を洗浄して放射線を測定して(除染後2)その減量を観察した。
結果は「実施例2」「実施例3」「実施例4」と同時に表にして示した。
【実施例2】
【0019】
実施例1の2Lの水に0.2%のヒドロキシプロピルメチルセルローズ(商品名:METOROSE信越化学工業株式会社)を溶解し、界面活性剤として0.01%のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(ニューポールPE78:三洋化成株式会社)を投入し、後は実施例1と同じとした。
【実施例3】
【0020】
実施例2の処方に研磨剤(商品名:ホーミング 花王株式会社)5g/2Lを添加して先と同様の処理を行った。
【実施例4】
実施例2の処方中、pH緩衝液をクエン酸−リン酸として、pH5.0付近にて除染作業を行った。この際、青色1号の色素を微量添加してブラッシングと洗浄の目安としたが、ブルーの色が目印となって、作業の進捗が良く分かって効果的である。
「結果」は次の通りである。
【0021】
当日の測定地した場所の周辺での測定値は次の通りであった。(測定地の300m圏)

コンクリートの下にあって、苔の部分は異常に高い値であった。特に屋根から落ちる雨が溜まる部分は値が高い。表中の8.45は異常な値であるので()に平均値を記した。
測定地周辺は放射線(γ線)値は高いが、場所による変動幅も大きい。
【0022】
実施例1〜4の結果は次の通りであった。

【0023】
実施例1では除染前の値から約39%の放射線減量になっているが、測定地周辺のブランク値がほぼ除染後2の値と同等である事から除染物の放射性核種は除去したものと思われる。実施例2は粘着剤が効果を出していると推定される。実施例3は放射線減量が研磨剤で多少のコンクリートを研削した事が好影響を与えている事が考えられる。また、実施例4は特に放射線量が高い場所を選んで行ったが、効果は実施例1、2、3と同等に発揮している。全体を通してpHは中性付近で捕捉効率が良く、粘着剤で接触時間を保有する事が望ましい。しかし、除染の実際の場では対象物によって使い分けていかざるを得ない。例えば、土壌の除染ではベントナイトと緩衝材の混合物を散布して、混合して土中に埋める事で放射線量を減らす事が可能である。この様にベントナイト除染剤は放射性核種セシウムを捕捉する優秀な素材である事があらためて立証された。この場合の洗浄液は基準限度以下であったので下水道に流して処理した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
放射性核種で汚染されたあらゆる物が被除染物であり膨大な量である。従前は不可能とされた放射性核種セシウムの除染剤を発明したことで、放射線からの解放の場が増えていくことになる。人間の安全な生活圏を確保する事は勿論、目に見えない恐怖からの解放という精神的な安心も大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベントナイトを吸着材とする除染剤を、放射性核種セシウムで汚染された非除染物に接触させ、放射性核種のセシウムを吸着、不動態化させて被除染物を浄化する事を特徴とする放射性核種セシウムの除染剤。
【請求項2】
請求項1記載の除染剤は放射性核種セシウムの吸着性能を広範に保持するために、pH緩衝液と共存させる事を特徴とする放射性核種セシウムの除染剤。
【請求項3】
請求項2記載の除染剤で、pH緩衝液はリン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、HEPES緩衝液、Britton−Pobinsonno緩衝液のうち少なくとも1種からなる事を特徴とする放射性核種セシウムの除染剤。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の除染剤で、粘着剤としてエチルセルローズ、ヒドロキシプロピルメチルセルローズ、ヒドロキシエチルメチルセルローズ、カルボキシメチルセルローズ、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ポリ酢酸ビニル、酢ビ・アクリル系共重合体のうち少なくとも1種からなる事を特徴とする放射性核種セシウムの除染剤。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載した除染剤で、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩、グリセリンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルのうち少なくとも1種からなる事を特徴とする放射性核種セシウムの除染剤。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5に記載した除染剤で、水に易溶の着色剤を有する事を特徴とする放射性核種セシウムの除染剤。

【公開番号】特開2013−19876(P2013−19876A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163659(P2011−163659)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(595123081)有限会社レイノ (7)
【出願人】(511149337)