説明

放射線治療装置の測定用の線量測定装置

標準的な三次元放射線治療、特に線量強度分布変調照射野による放射線治療(IMRT)で照射される放射線の品質を測定するための放射線検出器の列から成る測定エリアを有する線量測定装置(10)において、前記測定エリアは有限数の前記放射線検出器の列(70,71,80,81,90)と、電子線または光子線のエネルギ測定用の追加放射線検出器(52,62)とから成り、前記線量測定装置(10)はさらにエネルギ減衰部(53,63)を有する載置板(50,60)を備え、前記エネルギ減衰部(53,63)は放射線ビームに沿って前記追加放射線検出器(52,62)の上流に設けられることを特徴とする。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加速器の工場検収、試運転、承認、標準的な三次元放射線治療で照射される放射線の品質を測定するための品質管理(QA)や、画像診断または線量強度分布変調照射野による放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)における部分的な品質管理に用いられる線量測定装置と線量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線で患者を治療する際、癌専門医は疾病を治療または抑制するために、腫瘍には適正量の放射線量が正確に照射され、腫瘍の周囲の健康な組織については副作用が軽減されるように治療計画を立案する。従来の臨床治療結果や実験結果の報告によれば、一般に腫瘍と正常組織の放射線に対する反応は非常に多様である。さらに、治療用の照射線量の範囲内で腫瘍と正常組織の照射線量に対する応答カーブが急激に変化する場合がある。すなわち、照射線量のわずかな変化が、臨床的には大きな変化となることがある。さらに、腫瘍に対する照射線量は、その周囲の正常組織の許容照射線量によって制限される。このように、適正な治療が可能な範囲は狭いため、放射線を正確かつ一定に照射する必要がある。
【0003】
しかし、放射線を正確かつ一定に照射することは容易ではない。これは、放射線治療には、放射線治療を計画し放射線照射する際の種々の問題が複雑に関係しているためである。
【0004】
このため、治療用の放射線量の制御と(オンライン)測定を行なうための線量検査方法に関する一般的な基準が設けられている。
【0005】
通常この検査は、先ず、製造された放射線治療装置を出荷するときに行なわれる。次に、この装置を医療施設に設置したとき、要求される線量が実際に照射されるか確認するために行なわれる。この検査は、加速器の製造業者が製造後出荷するときと、その後の主なメンテナンスを行なうときに行なう。また、医療機関の医学科学者が、装置が公的機関によって定められた規格に適合することを確認するために装置の試運転と承認を行なうとき実施する。
【0006】
さらに、放射線治療装置の動作状況をチェックするために、ユーザーによって計画に従って定期検査が行われる。このとき、線量測定検査が行なわれる。これが品質管理である。このほか、品質管理のための検査の勧告が、MEDICAL PHYSICS, Volume 21, Issue 4, 1994から転載されAmerican Institute of PhysicsによってAmerican Association of Physicists in Medicineのために出版されたAAPM REPORT NO.46“Comprehensive QA for Radiation Oncology”に詳細に述べられている。
【0007】
ある種の線量測定検査を行なうためには、照射野のプロファイル(以後ビームプロファイルという)を測定できる装置が必要である。特に、多葉コリメータ(MLC)を用いるIMRTでは、多葉コリメータを構成する各リーフの周縁部の位置を測定することは重要である。
【0008】
照射野のプロファイルを測定するための装置の1つとして、「水ファントム」が広く知られている。この線量測定装置は、水タンクの形状であり、水中に浸漬され移動する1つの検出器が用いられ、三次元で照射線のプロファイルを記録する。この装置は照射線のプロファイルの記録をフレキシブルに行なえることから加速器の試運転、承認、定常の品質管理の優れた標準装置であるが、この装置での測定には手間と時間がかかる。これは、水タンクが重く嵩張り、準備に時間がかかること、通常は1つしか検出器がないためスキャンに時間がかかること等による。
【0009】
この他の線量測定装置は、測定を行なう放射線検出装置を複数備える装置であり、放射線検出装置はマトリックス状またはアレイ状に配列される。この種の放射線検出装置は、ダイオードを用いるものと、電離箱を用いるものとに大きく2分される。
【0010】
ダイオードを用いる装置の例は米国特許第6125335号に記載されており、ビームプロファイルの検出器は、アレイ状に配列された46個のダイオードS1〜S46と、4個の配列軸から外れた水平方向に並ぶダイオードS48〜S51で構成されている。ビームプロファイル検出器の一例は、本願出願人であるメルボルンのSun Nuclear社によって製造された、市販の製品名Profiler Model 1170である。この検出器は5mm間隔で配列され、1秒ごとに更新される各データポイントをもとにリアルタイムにグラフィックイメージを生成する。46個のダイオードS1〜S46と、配列軸から外れたダイオードS48〜S51とから、照射された放射線のリアルタイムなプロファイルと、配列軸からのズレの情報が提供される。しかし、これらの装置の問題点は、ダイオードを用いていることにある。ダイオードは照射線量に対する応答が非直線的であるため、米国特許第6125335号に記載されているような複雑な校正が必要である。
【0011】
さらに、電離箱を用いる線量測定装置と比較すると、ダイオードを用いる装置は単位ピクセルあたりのコストが電離箱を用いる装置より高価である。
【0012】
別の線量測定装置として、ダイオードの代わりに電離箱をアレイ状に配列したものがある。
【0013】
最近、Boninらによって、高効率の電離箱アレイが開発され、“A pixel chamber to monitor the beam performance in hadron therapy”Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 519 (2004) 674-686に報告された。この報告によれば、この線量測定装置では1024個の電離箱が2次元平面内に32×32ピクセルのマトリクス状に配列されている。一般的な電離箱の原理は次の通りである。2つの電極の間に高電圧を印加する。2つの電極間の間にある気体(空気または窒素)が、そこを通過する放射線によって電離する。電場により、電離したイオンが電極に回収され、電荷が測定される。電子−イオン対の生成には、気体の種類と放射線の種類に依存する既知の平均エネルギが必要であるから、収集された電荷量は気体中に蓄積されたエネルギに正比例する。循環積分器(recycling integrator)回路が、検出された電荷に比例する16ビットの計数器に用いられる。循環積分器は、INFN(Istituto Nazionale di Fisica Nucleare, Torino)によって0.8μmCMOSチップ(TERA06)として開発された。
各チップは64チャンネルを提供する。電荷の検出可能最小値は、50fCから800fCの範囲で調整可能であり、直線領域におけるデータ取得速度は最大5MHzである。以上のように、この装置は7.5mmのピッチでマトリクス状に配列された32×32個の通気式電離箱ピクセルを備える。
【0014】
この装置の32×32個の電離箱ピクセルの配列は、IMRTの線量分布の測定には最適である。しかし、標準的な三次元放射線治療の場合には、通常主軸と対角線上のプロファイルしか必要とされないため、このような装置は複雑過ぎ、また高価である。さらに、このように多数の検出器とその出力線をマトリクス状に配列すると、装置の寸法に影響する。また、この寸法は、日常の品質管理や加速器の試運転や承認のときに検査する必要がある照射野の寸法を十分カバーすることはできない。
【0015】
また、電離箱または半導体検出器等の任意の放射線検出器を用いる線量測定装置が、米国特許第4988866号に開示されている。この装置では、特定の測定を行なうために所定の場所に配置された、限られた数の検出器を用いている。このため、この装置では任意のサイズの照射野の品質を推奨される品質管理指針に従って評価することはできない。さらに、1つの吸収体では、単一の放射線照射エネルギ(または非常に狭いエネルギ幅)しか測定できない。
【0016】
さらに別の任意の放射線検出器を用いる線量測定装置が、独国特許第101 43 609号に開示されている。この装置は、検出器(17)の数を増やすことなく測定時の空間分解能を向上させることを目的としている。この目的は、一組の検出器(17,17’,17”)をサポート(7)上に複数のライン(19)に沿って設けることで達成されている。サポート(7)はベアリング(18)の周囲を回転可能である。一本のライン上の検出器(17’)は、他のライン上の検出器(17”)とは異なる半径上に配置される。サポートは、1度または2度ずつ回転する。例えば88個の検出器を1ステップずつ100回動かせば、8800点の測定データが得られ、より高い空間分解能が得られる。しかしこの装置の場合、検出器を機械的に駆動する必要があり、測定に時間がかかる。さらに、連続する時間内に一連の測定を行なうためには、放射線源が一定で安定していなければならない。また、放射線ビームのエネルギを測定する手段は開示されていない。
【0017】
従来の装置には、厚みが異なる複数の載置板によりエネルギを測定するものもあるが、この場合、測定者は異なるエネルギに対応する載置板を用いて測定を行う都度、治療室に何回も出入りする必要がある。
【0018】
多葉コリメータの各リーフの位置を検出する方法が、Yang YとXing Lの“Using the volumetric effect of a finite sized detector for routine quality assurance of multi leaf collimator leaf positioning”Med. Phys. 30 433-441に開示されている。この方法によれば、電離箱等の有限サイズの検出器が、アイソセンタ(isocenter)を含む平面内に突き出すコリメータのリーフの位置に配置される。リーフの位置が正しくないと、検出器に対する照射量が増減する。従って、照射量の測定値と位置の誤差とが関係付けられる。しかし、放射線のエネルギ等の、他の測定を行なう方法は開示されていない。
【0019】
以上のように、公知の装置では、ビームプロファイルとエネルギ測定を容易かつ迅速に行なえる実用的な方法は提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
この発明は、従来技術の有する問題点の無い線量測定装置を提供することを目的とする。
【0021】
特に、この発明は必要な測定精度を確保しつつ有限数の放射線検出器を用い、容易かつ迅速に操作できる線量測定装置と、測定方法を提供することを目的とする。
【0022】
さらに、この発明は測定者が測定のために何度も治療室に出入りする必要の無い測定装置と方法を提供することを目的とする。
【0023】
またこの発明の別の目的は、電子線または光子線のエネルギを迅速かつ効率よく測定できる装置を提供することを目的とする。
【0024】
この発明はまた、加速器の工場検収、試運転、承認と品質管理に使用できる測定装置を提供することを目的とする。
【0025】
この発明はさらに、IMRTの品質管理で使用されるいくつかの測定方法を提供することを目的とする。
【0026】
また、この発明は安価な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この発明の第1の態様は、標準的な三次元放射線治療、特に線量強度分布変調照射野による放射線治療(IMRT)で照射される放射線の品質を測定するための線量測定装置に関し、この線量測定装置はビームプロファイル測定用の、有限数の放射線検出器の列を含む測定エリアを有する。測定エリアは、さらに電子線または光子線のエネルギ測定用の追加放射線検出器と、エネルギ減衰部を備える載置板とを含む。エネルギ減衰部は、放射線ビームに沿って追加放射線検出器の上流に設けられる。追加放射線検出器は、有限数の放射線検出器の列上に無いことが好ましい。
なお、有限数の列とは、少なくとも2列を意味する。
また、列とは各ピクセルが線状に配列されていることを意味する。
【0028】
この発明の第1の態様の好ましい実施態様では、放射線検出器は電離箱である。
【0029】
この発明の第1の態様の別の好ましい実施態様では、放射線検出器はダイオードである。
【0030】
この発明の第1の態様の実施態様では、有限数の列は、2列一組の放射線検出器で構成され、この2列は互いにほぼ直交する。
【0031】
より好ましくは、有限数の列は4列一組の放射線検出器で構成され、この4列はほぼ45度の角度で交差する。
【0032】
この発明の第1の態様の実施態様の一つでは、エネルギ減衰部は、載置板の隆起または異なる厚み、および/または異なる放射線吸収材のインサートを含む隆起または凹部で形成される。
【0033】
好ましくは、エネルギ減衰部は、放射線検出器の列で画成され四分割または八分割された測定エリア内にあって、前記列の交点の近傍に配置される。
【0034】
この発明の第1の態様の実施態様の一つでは、IMRT放射線治療装置の多葉コリメータの各リーフの位置検出に適用される。この実施態様では、放射線検出器の列は、IMRT放射線治療装置のアイソセンタに対する多葉コリメータの各リーフの突き出し位置を測定・検出するための放射線検出器の追加列をさらに含み、放射線検出器の追加列は、リーフが突き出す予想位置またはその近くに配置される。
【0035】
好ましくは、第1の態様では、放射線検出器の追加列は、線量測定装置の表面と裏面に在る少なくとも3列の互いに平行な放射線検出器の列を含む。
【0036】
この発明の第2の態様は、リーフまたは顎板を備える多葉コリメータを有する放射線治療装置における放射線ビームの対象線量を測定する方法に関する。
この方法は、1列以上の放射線検出器の列を有する線量測定装置を準備するステップと、多葉コリメータの各リーフまたは一枚の顎板を予め決められた位置に位置させるステップと、放射線を多葉コリメータまたは一枚の顎板を透過させて線量測定装置に照射するステップと、各リーフの周縁領域に沿って配置された放射線検知器の列の各放射線検知器に吸収される線量を測定するステップと、線量の測定値を照射野の形状を再現する関数にフィッティングさせ、各リーフで形成される周縁領域における対象線量を決定するステップとを含む。対象線量には、リーフまたは顎板の位置、周縁領域の位置および/または幅、ビームプロファイルがビームの中心における線量値に対し所定の割合(例えば20%または80%)となる位置、ビームの歪み、ビームの平坦性、放射線ビームの中心位置を含む。
この方法によれば、周縁領域で測定されたプロファイルの空間分解能を向上させることが可能になり、従って、照射野の中心軸の値に対しビームプロファイルが所定の割合となる位置での対象線量を、正確に求めることができる。
【0037】
この発明の第2の態様の方法の好ましい実施態様では、前記関数はフェルミ関数であり、リーフの位置を、フェルミ関数の50%の値となる位置と定義することができる。
【0038】
好ましくはこの発明の第2の態様において、周縁領域pを、Bを2〜3の間の係数としてp=B/aから求めることができる。線量が80%〜20%の領域を外周領域と定義した場合、Bは2.77である。
【0039】
この発明の第2の態様の好ましい実施態様では、放射線検出器の列を有する線量測定装置を準備するステップにおいて3列以上の放射線検出器の列を準備し、各列は互いに平行でリーフの移動方向に対し直交し、各列の各放射線検出器は多葉コリメータから突き出すリーフの下方に位置しており、各リーフの位置と周縁領域を同時に求めることが可能になる。
【0040】
この発明の第3の態様では、線量測定装置を本発明に係る測定方法に使用する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の1実施形態に係る線量測定装置の分解斜視図。
【図2】この発明の別の実施形態に係る線量測定装置の分解斜視図。
【図3】図1に示す線量測定装置の最下層の平面図。
【図4】図2に示す線量測定装置の最下層の平面図。
【図5】この発明の別の実施形態に係る装置の中間層の平面図。
【図6】1列の放射線検出器で測定しフェルミ関数にフィットさせて求めた周縁領域の照射野のプロファイルの一例。
【図7】図1に示す装置の電子線載置板に設けられたエネルギ減衰部の下にある8個の電離箱放射線検出器により、4〜22MeVの条件で測定した電子線エネルギ測定点ごとの測定結果。
【図8】種々の光子線エネルギを、水深を変数として測定した相対照射線量を示し、図1に示す装置の光子線載置板に設けられたエネルギ減衰部の下にある2個の電離箱放射線検出器により光子線エネルギを測定した例。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
添付の図面を参照ながら、この発明について電離箱を用いた実施形態を例に詳しく説明する。
【0043】
当業者であれば放射線検出器として電離箱の代わりにダイオードを用いる等、この発明を実施する他の方法を種々考え得るが、この発明の範囲は特許請求の範囲の記載によって定められる。
【0044】
図1はこの発明の好ましい実施態様に係る線量測定装置の分解斜視図であり、線量測定試験を行なうために電離箱を用いている。線量測定装置10は、主に3枚の平坦な構成部品が積み重ねられて成る。
1)電極の最上層を構成する最上層20。
2)ドリル孔31により電離箱の気体容積が決められる中間層30。
3)電極の一部であり、電子チップ41と、電離箱からの信号を電子チップ41に伝送する回路を備える最下層40。
4)取り外し可能でエネルギ減衰部51を有する電子線用の載置板50と、取り外し可能でエネルギ減衰部61を有する光子線用の載置板60のいずれか一方。
【0045】
図2に示すように、この発明の特徴である、電子線のエネルギを測定するための追加放射線検出器52が設けられている。線量測定装置10の最上層20を覆い、電子線の測定に用いられる載置板50には、1組のエネルギ減衰部53が埋め込まれている。1組のエネルギ減衰部53は、減衰部毎に材料または厚みが異なっており、水等価厚が異なる。減衰部の材料と厚みの組み合わせにより、水等価厚が5〜100mmの範囲で増加することが好ましく、また、載置板は全ての電子線エネルギの照射野プロファイルを測定可能な厚みであることが好ましい(図1に示すこの実施形態では10mm)。エネルギ減衰部53は、電子線が放射線検出器の気体に到達する前に減衰部を通過するように、放射線検出器の上に設けられることはいうまでもない。
【0046】
以下に、一般的な電離箱の原理を再度説明する。
【0047】
電離箱を横切る放射線が、最上層と最下層の間にある気体を電離させる。2つの電極の間に高電圧を印加すると電場が形成され、電離したイオンが電極に収集されたとき発する信号を測定する。
【0048】
このような電離箱の製造には公知の技術を用いることができ、例えばBoninらが開示したいわゆるTERA electronicsを用いることができる。
【0049】
好ましい実施態様では、線量測定装置は、特に、以下の層を含む。
1)上部電極を構成する最上層:50μm厚のポリアミド(Pyralux(登録商標)AP 8525R)製プリント基板で、両面が25μmのカーボン層で被覆されている。内層は、中間層の孔の位置に対応した、例えば中間層の孔より径が0.1mm小さく丸い(直径2.8mm)構造を有する。カーボン層は電磁両立性(EMC:electro-magnetic compatibility)シールドとして機能する。
2)中間層:約5mm厚のポリカーボネートの板であり、例えば5mm間隔で設けられた複数の直径約3mmのドリル孔を有する。換気手段を設けることもできる。中間層は、最上層と、最下層の電極の一部とに、互いを離間させる作用も有するドット状の接着剤を介して積層される。
3)最下層:プリント基板の技術を用いて製造される層である。このような最下層の例は、本願出願人による2005年5月27日の米国出願に記載されており、この米国出願は参照として本願に組み入れられる。
【0050】
図3はこの発明の好ましい実施形態における測定エリアの構造を表す。測定エリアは各々が電離箱の各放射線検出器で構成される。全く同じ構造をダイオード放射線検出器に適用することもできる。
【0051】
この発明では、前記構造は少なくとも一組のほぼ直交する2列の放射線検出器で構成される。この列は測定エリアの中心で交差し、大部分の放射線検出器が測定エリア内にあることが好ましい。この場合、nとmを1以上の整数として、各列をn個とm個の放射線検出器で構成することができる。
【0052】
前記構造が少なくとも2組のほぼ直交する2列の放射線検出器で構成され、これらの列は測定エリアの中心で交差し、大部分の放射線検出器が測定エリア内にあることが、より好ましい。
【0053】
また、測定エリアの構造を、放射線検出器で構成される有限数の列とすることもできる。有限数の列とは、2列以上で、いずれかの列を構成する放射線検出器の数より小さいことをいう。列を構成する放射線検出器の数は整数であり、少なくとも3以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。
【0054】
さらに有限数の列は8列以下を意味し、好ましくは4列以下、より好ましくは2列である。
【0055】
しかし、この構造の放射線検出器は中間層の表面全体をカバーするものではない。この構造は、nとmを直交する2列に含まれる放射線検出器の数として、n×m個の放射線検出器がマトリクス状に配列される従来技術のものと同一視することはできない。
【0056】
この発明の放射線検出器の総数は、一次関数f(n+m)、またはn=mの場合にはf(n)となる。しかし、従来技術の(マトリクス構成)は関数f(n×m)、またはn=mの場合にはf(n)となる。
【0057】
また、この発明は次のように理解することもできる。すなわち、列で分割された測定エリア内にごく少数の放射線検出器が存在しており、2列で測定エリアを分割した場合には4分割された各エリアに、4列で測定エリアを分割した場合には8分割された各エリアに少数の放射線検出器が存在する。
【0058】
従来技術の装置とこの発明の装置の放射線検出器の数を比較すると、明らかにこの発明の方が放射線検出器の数が少なく、従って、低価格である。仮により多くの放射線検出器を有する装置、あるいは例えばBoninらの開示した32×32個の放射線検出器(1024個の放射線検出器)を有する装置を製造した場合、この発明の好ましい態様では各列が256個の放射線検出器で構成される2列2組の装置となる。このような装置は、Boninらが開示した装置と比較すると、ビームプロファイルの測定に関しより広い測定エリア(8倍になるが非現実的である)となるか、放射線検出器のピッチが狭い構造(8分の1になるが非現実的である)となりより正確な測定結果が得られる。
【0059】
実際の装置では、放射線検出器の総数を減らしながら、測定エリアの面積を増やし、隣接する放射線検出器間のピッチを減らすことができる。
【0060】
図3に示すように、測定エリアの軸線(縦軸と横軸)は第1組の2つの列70,71で構成され、測定エリアの対角線が第2組の2つの列80,81で構成され、いずれの列も中心点Oを通過する。測定エリアの形状は、例えば200×200mmから400×400mmのほぼ正方形である。
【0061】
各列70,71,80,81は少なくとも50個の放射線検出器を備え、放射線検出器間のピッチは7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下である。
【0062】
実施態様の一つでは、軸線と対角線における放射線検出器のピッチは同一である。
【0063】
別の好ましい実施態様では、軸線と対角線における放射線検出器のピッチは異なる。例えば対角線上のピッチを、軸線上のピッチの√2倍にすることができる。
【0064】
ここで、放射線検出器の「列」、「行」、「カラム」とは、各放射線検出器は一定幅(できるだけ狭いほうがよい)の直線または蛇行線に沿って配置され、「列」、「行」、「カラム」は少なくとも3個、好ましくは10個、より好ましくは20個の放射線検出器で構成される。
【0065】
好ましい実施態様によれば、照射野の周縁部や勾配の測定の際の空間分解能を、放射線検出器間の間隔についてフェルミ関数によるデータ内挿法を適用することによって改善することができる。
【0066】
【数1】

【0067】
図6に示すように、照射野の照射線量が一様な部分を1に規格化し、規格化された線量の50%となる位置をxとすると、20%から80%の距離にあたる部分(一般に周縁部に相当する)は、a=2.4/pと見積もることができる。このように内挿することで、照射野の周縁部、照射野の幅や、全ての周縁部における照射野に関する量を特定する際の精度が、5mmの間隔が1mm間隔に細分されることにより向上する。
【0068】
各放射線検出器は列に配列されているので、一度の測定で照射野のプロファイルを知ることが可能であり、線量測定装置を移動させたり操作したりする必要はない。また、測定は瞬時に行なわれる。電子部品の応答が速いことにより、この線量測定装置を「リアルタイム」測定装置として用いることができるため、プロファイルの変化を観察しながら加速器の調整操作をすることが可能になる。
【0069】
さらに、放射線検出器は列に配列されており、測定エリアの全てをカバーしていないので、線量測定装置の電子部品のコスト、ひいては線量測定装置のコストが削減される。
【0070】
この発明の別の態様では、測定エリアより大きい照射野をカバーするために、線量測定装置にフレームを取り付け、線源−軸距離を100cm以下にすることができる。
【0071】
また、IMRTの品質管理のため、より詳しくは多葉コリメータを用いる場合の品質管理のために、図1,2,4,5に示すように、1つ以上で横向きの(垂直の)放射線検出器の帯域90を異なる場所に設けることもできる。各帯域は、放射線検出器からなる複数(通常3から5)の列またはカラムで構成される。各放射線検出器は、測定面の縦方向(すなわち、図1,2,4,5の水平方向、またはリーフの移動方向に直交する方向)において、リーフの幅に相当する0.5または1cmの間隔で配列され、横方向(すなわち、図1,2,4,5の水平方向、またはリーフの移動方向に平行な方向)は2から8mmのピッチで配列される。中心から+/−10cmの位置に2つの帯域があるときは、放射線検出器はアイソセンタに設けられ、数枚のリーフが放射線検出器に対し20×20cmの照射野を形成するように配置される。放射線検出器からなる各横方向の列により、測定された周縁部のデータをフェルミ関数にフィッティングさせ、空間分解能1mm間隔でリーフの位置を測定することができる。
【0072】
他の実施の態様では、放射線検出器から成る1つの列(図1,3,5)のみを用い、放射線検出器の列からなる帯域内に位置するリーフの測定に用いられる。この場合、各放射線検出器からの信号の相対値を比較することにより、各リーフの相対位置を検出する。この構成により、所定の位置に配置され照射平面に突き出す多葉コリメータの各リーフの位置確認ができる。
【0073】
図2に示す好ましい態様では、20×20cmの照射野内において、8ヶ所のエネルギ減衰部53と、これらに対応する放射線検出器52とが、円周上に間隔を置いて配置されている。エネルギ減衰部53は、照射野のプロファイルの同時測定を妨げないために、照射野のプロファイル測定用の複数列の放射線検出器52に近すぎないように配置されることは言うまでもない。
【0074】
この発明の別の特徴的構成は、光子線エネルギを測定するための追加放射線検出器62を備えることである。また、線量測定装置10の上層20を覆い光子線測定に用いられる載置板60に、複数の追加エネルギ減衰部63が照射野(図1では20×20cm)内に設けられている。各エネルギ減衰部は、5から200mmの異なる水等価厚を有する(図1では、2つの水等価厚はそれぞれ10cmと20cmである)。載置板60は測定される最大光子線エネルギのDmaxと同じか、より大きい厚みを有する(図1では水等価厚50mm)。減衰部は追加放射線検出器62の上に配置されており、電子線は追加エネルギ減衰部63を通過してから追加放射線検出器62で検出される。
【0075】
エネルギ測定用の検出器の寸法は、列70,71,80,81にある検出器とは異なる。
【0076】
減衰部の水等価厚を変え、エネルギ吸収能を変えるために3つの方法がある。
1)載置板に異なる厚みの隆起部を設ける。
2)載置板に異なる材質と厚みの隆起部を設けるか、異なる材質と厚みの凹部を設ける。
3)上記の方法の組み合わせ。
【0077】
また、載置板に設けられた複数のエネルギ減衰部は、線量測定装置と載置板を移動させたり操作したりすることなく、エネルギ測定と照射野のプロファイル測定とを1回の操作で同時に行なうことを可能にする。従って、ユーザーは載置板を交換するために治療室に入る必要はない。
【0078】
8箇所のエネルギ減衰部を用いたエネルギ測定結果をもとに、図7に例示した各電子エネルギ測定結果の傾斜部にある2以上の測定点から、各ビームエネルギを求めることができる。
【0079】
図7は、8箇所のエネルギ減衰部に対応する8点の水等価深さにおける4,6,8,9,10,12,15,18,20,22MeVのエネルギの電子深部量百分率(Percent Depth Dose)の側定例を表している。
【0080】
同様にして、光子線エネルギ減衰部を用いたエネルギ測定結果をもとに、図8に例示した各光子線エネルギ測定結果の傾斜部にある2以上の測定点から各ビームエネルギを求めることができる。
【0081】
図8は、種々の光子線エネルギについて、水深(Zmm)を変数として相対照射線量(%)を測定した例である。図8は、2箇所のエネルギ減衰部(100mmと150mmであり、2本の垂直な点線で示している)に対応する2点の水等価深さにおける4,6,8,9,10,12,15,18,20,25MeVのエネルギの光子深部量百分率の側定例を表している。
【0082】
以上の記載は例示であり、この発明の範囲はこれらに限定されない。例えば、多葉コリメータのリーフの位置の検出方法を、一枚のリーフ、すなわち顎板を用いた多葉コリメータにも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準的な三次元放射線治療、特に線量強度分布変調照射野による放射線治療(IMRT)で照射される放射線の品質を測定するための放射線検出器の列から成る測定エリアを有する線量測定装置(10)において、前記測定エリアは有限数の前記放射線検出器の列(70,71,80,81,90)と、電子線または光子線のエネルギ測定用の追加放射線検出器(52,62)とを含み、前記線量測定装置(10)はさらにエネルギ減衰部(53,63)を有する載置板(50,60)を含み、前記エネルギ減衰部(53,63)は放射線ビームに沿って前記追加放射線検出器(52,62)の上流に配置されることを特徴とする線量測定装置。
【請求項2】
前記放射線検出器が電離箱であることを特徴とする請求項1に記載の線量測定装置(10)。
【請求項3】
前記放射線検出器がダイオードであることを特徴とする請求項1に記載の線量測定装置(10)。
【請求項4】
前記有限数の列は2列一組(70,71または80,81)の放射線検出器であり、この2列は互いにほぼ直交することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の線量測定装置(10)。
【請求項5】
前記有限数の列は4列一組(70,71,80,81)の放射線検出器であり、前記4列は互いにほぼ45度の角度で交差することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の線量測定装置(10)。
【請求項6】
前記エネルギ減衰部(53,63)は、前記載置板(50,60)の隆起または異なる厚み、および/または異なる放射線吸収材のインサートである隆起または凹部であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の線量測定装置(10)。
【請求項7】
前記エネルギ減衰部(53,63)は、前記放射線検出器の列(70,71および/または80,81)で画成され四分割または八分割された測定エリア内にあって、前記列の交点の近傍に配置されることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の線量測定装置(10)。
【請求項8】
IMRT放射線治療装置の多葉コリメータの各リーフまたは顎板の位置検出に適用される線量測定装置(10)であって、前記有限数の放射線検出器の列(70,71,80,81,90)は、IMRT放射線治療装置のアイソセンタに対する多葉コリメータの各リーフまたは顎板の突き出し位置を測定し検出するための放射線検出器の追加列(90)を1列以上含み、放射線検出器の前記追加列(90)は、前記リーフまたは前記顎板が突き出す予想位置またはその近くに配置されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の線量測定装置(10)。
【請求項9】
前記放射線検出器の追加列(90)は、線量測定装置の対向面における少なくとも3列の互いに平行な放射線検出器の列を含むことを特徴とする請求項8に記載の線量測定装置(10)。
【請求項10】
リーフまたは顎板を備える多葉コリメータを含む放射線治療装置における放射線ビームの対象線量を測定する方法において、
1列以上の放射線検出器の列(70,71,80,81,90)を含む線量測定装置(10)を準備するステップと、
多葉コリメータの各リーフまたは顎板を予め決められた位置に位置させるステップと、
放射線を、前記多葉コリメータを透過させて線量測定装置に照射するステップと、
各リーフまたは顎板の周縁領域に沿って配置された放射線検知器の列の各放射線検知器に吸収される線量を測定するステップと、
線量の測定値を関数にフィッティングさせて対象線量を決定するステップと
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項11】
前記対象線量には、リーフまたは顎板の位置と、
周縁領域の位置および/または幅と、
ビームプロファイルがビームの中心における線量値に対し所定の割合となる位置と、
ビームの歪みと、
ビームの平坦性と、
放射線ビームの中心位置と
が含まれることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リーフまたは顎板の位置が、前記関数の50%の値となる位置に相当することを特徴とする請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記関数が下式で表されるフェルミ関数(F(x))において、
【数1】

Aが定数であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
周縁領域pを、Bを2〜3の間の係数としてp=B/aから求めることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
放射線検出器の列を有する線量測定装置(10)を準備することを含むステップであって、3列以上の放射線検出器の列(90)を含む線量測定装置(10)を準備し、前記各列(90)は互いに平行でリーフの移動方向に対し直交し、前記各列の各放射線検出器は前記多葉コリメータから突き出すリーフの下方に位置しており、各リーフの位置および/または各リーフの周縁領域を同時に求めることが可能であることを特徴とする請求項10から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から9のいずれか1項に記載の線量測定装置(10)の、請求項10から15のいずれか1項に記載の測定方法への使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−502263(P2009−502263A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523080(P2008−523080)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/BE2006/000085
【国際公開番号】WO2007/012147
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502017227)
【出願人】(508024289)
【出願人】(508024290)ディパルティメント ディ フィジカ スペリメンターレ,ユニベルシタ デリ ストューディ (1)
【Fターム(参考)】