説明

放射線治療装置

【課題】 高エネルギー電子線の繰り返し周波数を変化させることなく、電子線または放射線の線量率を制御することができる放射線治療装置を提供する。
【解決手段】 電子銃2からの低エネルギー電子線を加速管3で加速し、加速された高エネルギー電子線が照射部5に搬送されると、照射部5から電子線または放射線の照射を行う放射線治療装置1であって、加速管3で加速された高エネルギー電子線を照射部5へ搬送するか否かを切り換える偏向電磁石4を備え、照射部5から照射される電子線または放射線の線量率が所望のものとなるように切換制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病変部に電子線または放射線を照射して放射線治療を行うための放射線治療装置に係り、特に線量率を所望のものに制御しつつ電子線または放射線を照射する放射線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、患者の病変部へ電子線または放射線を照射する治療方法である。病変部の周辺正常組織の被曝を低く抑えながら病変部へ電子線または放射線を集中させるほど、少ない副作用で抗腫瘍効果の高い治療を行うことができる。病変部へ電子線または放射線を集中させる照射方法の一つに回転照射がある。この照射方法は、電子線または放射線の照射源を患者の周りを周回させ、かかる照射源から病変部へ向けて放射線を照射させて病変部の周囲から電子線または放射線を照射する方法である。
【0003】
かかる照射方法により電子線または放射線を照射して治療を行うための放射線治療装置としては、電子銃と、電子銃から供給された低エネルギー電子線を数MeVから十数MeVの高エネルギー電子線として出力する電子線加速器と、高エネルギー電子線をそのまま電子線として、または放射線に変換して病変部へ照射する照射部とを備えた構成のものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
かかる放射線治療装置では、電子銃から電子線加速器への低エネルギー電子線の供給は、トリガーパルス発振器からトリガーパルスを受け取った高電圧電源で電圧パルスを発生させ、この電圧パルスが電子銃に印可されたときに行われる。また、電子線加速器には、前記トリガーパルス発振器からトリガーパルスを受け取ったマイクロ波発生源から、マイクロ波が供給され、かかるマイクロ波が供給されている期間、電子銃から供給された低エネルギー電子線がマイクロ波の電界により加速され、電子線加速器から高エネルギー電子線として出力される。電子線加速器から出力された高エネルギー電子線は、照射部へと搬送され、照射部から、そのまま電子線として、または放射線に変換して照射される。
【0005】
病変部へ電子線または放射線を照射する照射部は、ガントリーに収められ、かかるガントリーを患者の周りを周回させながら前記照射部から電子線または放射線を照射し、病変部の周囲から電子線または放射線が照射される。
【0006】
このような放射線治療装置により、回転照射を行う場合、電子線または放射線をむらなく照射するため、角度あたりの電子線または放射線の線量を均一にする必要がある。ここで、前記照射部は、高エネルギー放射線を遮蔽したり、電子線または放射線の照射野を整形したり、照射野内の線量分布等を整えるため、重量物であり、かかる照射部を収めたガントリーも重量物となる。したがって、角度あたりの線量が均一になるように、ガントリーの回転速度を制御するのは、応答速度において限界がある。例えば、回転照射を開始した直後から、角度あたりの線量を均一にするために、ガントリーを一定速度で回転させることは、非常に困難である。
【0007】
このようなことから、角度あたりの電子線または放射線の線量を均一にするために、ガントリーの回転速度に応じ、照射部から照射される電子線または放射線の線量率を変化させる必要がある。そこで、ガントリーの回転速度に応じて電子線または放射線の線量率を変化させるため、トリガーパルスの繰り返し周波数を変化させることにより、電子線加速器から発生するパルス状の高エネルギー電子線の繰り返し周波数を変化させ、これによって前記線量率を制御する放射線治療装置がある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2001−9050号公報
【特許文献2】特開平6−154349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、電子線加速器に供給されるマイクロ波の仕事率をW、電子線加速器での熱損をH、高エネルギー電子線の電流をI、電子線加速器に入射した電子線が受ける加速をVとすると、エネルギー保存の法則から、W(マイクロ波の仕事率)=H(熱損)+I・V(電子線加速)となる。ところで、高エネルギー電子線の繰り返し周波数を上げると、電子線加速器内の温度が上昇し、電子線加速器を構成する加速管内表面の抵抗値も上昇し、熱損Hもさらに増える。エネルギー保存の法則により、熱損Hが増えた分、加速に使用される仕事率I・Vが減る。加速に使用される仕事率I・Vが減った分、電子線が受ける加速Vすなわち出力される高エネルギー電子線のエネルギーと、電流値Iが低下する。逆に、高エネルギー電子線の繰り返し周波数を下げると、熱損Hが減少し、その分、高エネルギー電子線のエネルギー(電子線が受ける加速V)または電流値Iが増加する。すなわち、照射部から照射される電子線または放射線の線量率を制御するために、従来のようにトリガーパルスの繰り返し周波数を変化させると、高エネルギー電子線のエネルギーおよびその電流値Iが変化することになってしまう。
【0009】
このように高エネルギー電子線のエネルギーが変化した場合、照射される電子線または放射線の線量分布が所望のものとならず、効果的な治療を行うことが非常に困難となる。また、高エネルギー電子線の電流値Iが変化すると、線量率が変化するという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、高エネルギー電子線の繰り返し周波数を変化させることなく、電子線または放射線の線量率を制御することができる放射線治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電子線生成手段によって生成した電子線を加速手段で加速して照射手段に搬送し、該照射手段から電子線または放射線の形で照射を行う放射線治療装置であって、前記加速手段によって加速した電子線を前記照射手段へ搬送するか否かを切り換える偏向手段を設け、該偏向手段を、前記照射手段から照射される電子線または放射線の線量率が所望のものとなるように切換制御するようにしたことを特徴とする。
【0012】
このような請求項1に記載の発明では、電子線生成手段で生成した電子線が加速手段で加速され、加速された電子線が照射手段に搬送されると、該照射手段から電子線または放射線の形で照射が行われる。加速手段で加速された電子線は、偏向手段によって、照射手段へ搬送されるか否かが切り換えられる。偏向手段は、照射手段から照射される電子線または放射線の線量率が所望のものとなるように、切換制御を行う。これにより、照射手段からは、所望の線量率の電子線または放射線が照射される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の前記偏向手段は、電磁石またはコイルを備え、前記電磁石または前記コイルに、前記所望の線量率に対応した繰り返し周波数を有するパルス電流が供給されて前記切換制御を行うことを特徴とする。
【0014】
このような請求項2に記載の発明では、前記電磁石または前記コイルに、前記所望の線量率に対応した繰り返し周波数を有するパルス電流が供給されて切換制御が行われ、前記照射手段から、所望の線量率の電子線または放射線が照射される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、高エネルギー電子線の繰り返し周波数を変化させることなく、電子線または放射線の線量率を制御することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、電磁石またはコイルにより加速手段で加速された電子線の向きが切り換えられ、これにより、電子線または放射線の線量率を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。
図1は本発明の放射線治療装置の第一実施形態を示す図、図2は同期型V−F変換器に設定される放射線線量率設定値を示す図、図3は図1に示す放射線治療装置におけるパルスシーケンス図である。
【0018】
本例の放射線治療装置1は、電子線生成手段を構成する電子銃2と、電子銃2から供給された低エネルギー電子線を加速する加速手段としての加速管3と、偏向電磁石4と、放射線を照射する照射部5とを備えている。これら電子銃2、加速管3、偏向電磁石4、照射部5は、ガントリー(図示省略)内に収められている。
【0019】
前記電子銃2は、低エネルギー電子線を前記加速管3に入射するようになっている。電子銃2は、高電圧電源6から電圧パルスが印可されると低エネルギー電子線を出力するようになっている。高電圧電源6は、トリガーパルス発振器7から、トリガーパルス(図3参照)を受けると電圧パルスを発生し、この電圧パルスが電子銃2に印可されると、電子銃2から、図3に示すようにパルス状に低エネルギー電子線が出力されるようになっている。すなわち、電子銃2からは、トリガーパルス発振器7からのトリガーパルスに同期して、低エネルギー電子線がパルス状に出力されるようになっている。
【0020】
電子銃2から加速管3に入射された低エネルギー電子線は、加速管3内において加速されるようになっている。具体的には、加速管3には、マイクロ波発振器8から、パルス状のマイクロ波(図3参照)が供給され、かかるマイクロ波により、加速管3において低エネルギー電子線が加速されて、加速管3から高エネルギー電子線が出力されるようになっている。前記マイクロ波発振器8は、トリガーパルス発振器7からトリガーパルスを受けて前記パルス状のマイクロ波を発振するようになっている。
【0021】
前記偏向電磁石4は、加速管3で加速された高エネルギー電子線を照射部5へ搬送するか否かを切り換える偏向手段を構成している。かかる偏向電磁石4により、照射部5から照射される放射線の線量率が所望のものとなるように切換制御が行われるようになっている。
【0022】
前記切換制御について以下詳しく説明する。偏向電磁石4は、電流源9からパルス状の偏向電流(パルス電流)を受けて通電状態にあるときに、加速管3から出力された高エネルギー電子線の向きを照射部5の方向へ偏向させるようになっている。一方で、偏向電磁石4は、非通電状態にあるときには、加速管3から出力された高エネルギー電子線の向きを、ガントリー内における照射部5とは異なる位置に設けられた遮蔽材10の方向へ偏向させるようになっている。すなわち、加速管3から出力された高エネルギー電子線は、偏向電磁石4により、照射部5の方向と遮蔽材10の方向とに切り換えられるようになっている。
【0023】
前記遮蔽材10は、入射した高エネルギー電子線を減速し、阻止し、発生する制動X線も遮蔽するようになっている。そして、かかる遮蔽材10へ高エネルギー電子線が偏向されているとき(偏向電磁石4の非通電時)には、照射部5からは放射線が照射されず、照射部5へ偏向されているとき(偏向電磁石4の通電時)に放射線が照射されるようになっている。
【0024】
偏向電磁石4への通電について詳しく説明すると、この偏向電磁石4は、電流源9からパルス状の偏向電流を受けて通電されるようになっている。この電流源9は、同期型V−F変換器11から、偏向パルス(図3参照)が出力されたときに、この偏向パルスを受けてパルス状の偏向電流を出力するようになっている。
【0025】
前記同期型V−F変換器11は、トリガーパルス発振器7からのトリガーパルスを受け、これを所定の繰り返し周波数を有する偏向パルスとして電流源12へ出力するようになっている。この所定の繰り返し周波数は、予め同期型V−F変換器11に設定された所定の放射線線量率設定値に対応したものである。
【0026】
ここで、同期型V−F変換器11に設定される放射線線量率設定値について説明する。この放射線線量率設定値は、照射部5から照射させたい所望の放射線の線量率である。同期型V−F変換器11には、例えば、図2に示すように時間の経過とともに変化する放射線線量率設定値が設定される。この放射線線量率設定値は、ガントリーの回転速度に対応して、放射線の照射対象における角度あたりの線量が均一となるような設定値である。この設定値についてさらに詳しく説明すると、ガントリーの回転速度は、回転を始めると徐々に速くなってやがて一定となり、回転を止める場合には徐々に回転速度が遅くなって止まるようになっている。したがって、放射線線量率設定値は、このようなガントリーの回転速度に応じ、ガントリーの回転開始後に徐々に上昇した後一定となり、ガントリーの回転が止まるときに、徐々に下降するような設定値となっている。
【0027】
同期型V−F変換器11は、トリガーパルス発振器7からのトリガーパルスを受け、上述のような放射線線量率設定値に応じた繰り返し周波数の偏向パルスを出力する。かかる偏向パルスの繰り返し周波数は、放射線線量率設定値に応じ、ガントリーの回転開始直後から次第に高くなった後一定となり、ガントリーの回転が止まるときに徐々に低くなるよう変化する。
【0028】
そして、偏向電磁石4には、このような偏向パルスの繰り返し周波数と同じ繰り返し周波数を有するパルス状の偏向電流が入力するようになっている。これにより、加速管3から出力された高エネルギー電子線は、前記のように照射部5の方向へ偏向され、照射部5からは、放射線が、図3に示すようにパルス状に照射されるようになっている。照射部5から照射される放射線の線量率は、前記偏向パルスの繰り返し周波数に比例し、前記放射線線量率設定値と等しい。言い換えれば、同期型V−F変換器11からは、照射部5から照射される放射線の線量率が所望のものとなるような繰り返し周波数の偏向パルスが出力されるようになっている。
【0029】
前記照射部5は、図示しないが、ターゲット、平坦化フィルター、照射野限定器(コリメータ)等を備えて構成されている。かかる照射部5は、加速管3から出力され偏向電磁石4によって偏向させた高エネルギー電子線が入射されると、この高エネルギー電子線を、例えば高原子番号材料のターゲットでX線に変換し、平坦化フィルターにより線量分布を平坦化し、照射野限定器により照射野を限定して放射線を出力するようになっている。ただし、照射部5は、入射された高エネルギー電子線をそのまま電子線として出力するものであってもよい。
【0030】
次に、このように構成された放射線治療装置1の作用について説明する。
本例の放射線治療装置1においては、トリガーパルス発振器7から発振されるトリガーパルスに同期して電子銃2から低エネルギー電子線がパルス状に出力されて加速管3に入射されるとともに加速管3にパルス状のマイクロ波が入力される。電子銃2からの低エネルギー電子線の出力は、トリガーパルス発振器7からトリガーパルスを受け取った高電圧電源6が電圧パルスを発生し、この電圧パルスが電子銃2に印可されると行われる。また、加速管3に入力されるマイクロ波は、トリガーパルス発振器7からトリガーパルスを受け取ったマイクロ波発振器8から発振される。
【0031】
低エネルギー電子線が入射した加速管3では低エネルギー電子線がマイクロ波によって加速され、加速管3から高エネルギー電子線が出力される。加速管3から出力された高エネルギー電子線は、照射部5または遮蔽材10のいずれかの方向へと向かう。
【0032】
高エネルギー電子線の方向の切り換えは、偏向電磁石4によって行う。具体的には、同期型V−F変換器11から偏向パルスが出力され、電流源から偏向電流が出力されて偏向電磁石4が通電状態にある場合には、高エネルギー電子線は照射部5へと偏向される。そして、高エネルギー電子線が入射された照射部5からは、放射線が照射される。一方、同期型V−F変換器11から偏向パルスが出力されず、偏向電磁石4が非通電の状態にある場合には、高エネルギー電子線は遮蔽材10へと偏向される。このとき、照射部5からは放射線が照射されない。偏向パルスは、前記放射線線量率設定値に応じた繰り返し周波数で出力され、これにより、照射部5からは、放射線線量率設定値と等しい線量率の放射線が照射される。すなわち、照射部5から照射される放射線の線量率は、図2に示すように、ガントリーの回転開始から徐々に上昇した後一定となり、ガントリーの回転が止まるときに徐々に下降し、これにより、放射線の照射対象における角度あたりの線量が均一となる。
【0033】
トリガーパルス、低エネルギー電子線、マイクロ波、偏向パルス、放射線のパルスシーケンスについて図3を参照して説明する。図3は、ガントリーが回転を開始してから一定の回転速度となるまでのトリガーパルス、低エネルギー電子線、マイクロ波、偏向パルス、放射線のパルスシーケンスを示している。図において、トリガーパルス発振器7から発振されるトリガーパルスに同期して、パルス状に高エネルギー電子線が出力されるとともに、パルス状のマイクロ波が発振されている。また、トリガーパルスに同期して、偏向パルスも出力されるが、偏向パルスの繰り返し周波数は、同期型V−F変換器11に設定された放射線線量率設定値に対応して変化する。図3においては、偏向パルスは、低周波数から高周波数に変化した後、一定の周波数となっている。照射部5からは、トリガーパルス、低エネルギー電子線、マイクロ波、偏向パルスの全てが出力されたときに、放射線が照射部5からパルス状に照射されるようになっている。照射される放射線の線量率は、徐々に大きくなった後、一定となる。
【0034】
このような本例の放射線治療装置1によれば、偏向パルス、偏向電流の繰り返し周波数を変化させることで、照射部5から照射される放射線の線量率を制御することができる。そして、ガントリーの回転速度に応じて照射部5から照射される放射線の線量率を制御することで、照射対象における角度あたりの線量を均一にすることができる。
【0035】
そして、本例の放射線治療装置1によれば、従来のように、高エネルギー電子線の繰り返し周波数を変化させることなく、放射線の線量率を制御することができるので、高エネルギー電子線のエネルギーが変化することはなく、所望の線量分布を得ることができ、これにより効果的な治療を行うことができる。また、高エネルギー電子線の電流値が変化することもないので線量率が変化することもない。
【0036】
以上説明した本実施形態では、同期型V−F変換器11に設定される放射線線量率設定値は、図2に示すように、ガントリーの回転速度に合わせ、徐々に上昇した後一定となり、その後下降するようになっているが、これに限られるものではなく、例えば、患者の脊髄など、放射線の照射をできるだけ控えたいような部分には放射線を照射しないようにするなど、治療計画に合わせて、照射される放射線の線量率が上下するように設定してもよい。
【0037】
次に、本発明に係る放射線治療装置の第二実施形態について説明する。図4は第二実施形態の放射線治療装置の要部を示す図である。
本例の放射線治療装置20は、マイクロトロン電子加速器21を備え、かかるマイクロトロン電子加速器21で加速された高エネルギー電子線が、照射部(図示省略)に搬送されると、放射線に変換されて照射されるようになっている。照射部は、第一実施形態と同様、ターゲット、平坦化フィルター、照射野限定器等を備えて構成され、ガントリー(図示省略)内に収められている。ただし、照射部は、電子線を照射するものであってもよい。
【0038】
前記マイクロトロン電子加速器21は、前記ガントリーとは別体となっていてもよいし、前記ガントリー内に収められていてもよい。マイクロトロン電子加速器21の構成について詳しく説明すると、このマイクロトロン電子加速器21は、一様磁場を作る一様磁場コイル22を備え、この一様磁場コイル22内に、加速空洞23が設けられている。加速空洞23には、対向する壁面に、それぞれ電子線透過孔24,25が設けられているとともに、電子銃26が設けられている。
【0039】
電子銃26は、上記第一実施形態と同様、トリガーパルス発振器(図示省略)からのトリガーパルスを受けた高電圧電源(図示省略)で発生した電圧パルスが印可されると低エネルギー電子線をパルス状に出力するようになっている。電子銃26から出力された低エネルギー電子線は、加速空洞23から出力されると、一様磁場コイル22による一様磁場により周回して加速空洞23へ戻ってくるようになっている。加速空洞23には、上記第一実施形態と同様、トリガーパルス発振器(図示省略)からのトリガーパルスを受けたマイクロ波発振器27からパルス状のマイクロ波が供給され、このマイクロ波により、加速空洞23において低エネルギー電子線が加速されるようになっている。
【0040】
符号28は一様磁場コイル22内で加速された高エネルギー電子線を取り出すための取り出しパイプである。取り出しパイプ28は、一様磁場を遮蔽するようになっている。この取り出しパイプ28から取り出された高エネルギー電子線は、前記照射部へと搬送され、かかる高エネルギー電子線が搬送された照射部から、放射線に変換されて照射されるようになっている。
【0041】
加速空洞23の周囲には、補正コイル29が設けられている。この補正コイル29は、前記高エネルギー電子線を前記照射部へ搬送するか否かを切り換える偏向手段を構成している。かかる補正コイル29により、照射部から照射される放射線の線量率が所望のものとなるように切換制御が行われるようになっている。
【0042】
かかる切換制御は、上記第一実施形態と同様、パルス状の偏向電流により行われるようになっている。具体的には、補正コイル29には、電流源30からパルス状の偏向電流が通電されるようになっている。そして、補正コイル29にパルス状の偏向電流が通電されているときには、一様磁場内の高エネルギー電子線は、図中実線で示すように、取り出しパイプ28から取り出され、前記照射部から放射線が照射されるようになっている。一方、補正コイル29が非通電の場合には、一様磁場内の高エネルギー電子線は、図中一点鎖線で示すように取り出しパイプ28に衝突し、取り出しパイプ28から取り出されないようになっている。 電流源30は、上記第一実施形態と同様、同期型V−F変換器(図示省略)からの偏向パルスを受けて前記偏向電流を出力するようになっている。この同期型V−F変換器は、上記第一実施形態と同様、前記トリガーパルス発振器からトリガーパルスを受け、予め設定された所定の放射線線量率設定値に対応した所定の繰り返し周波数の偏向パルスを出力するようになっている。この放射線線量率設定値は、例えば、図2に示すものであり、本例においても、上記第一実施形態と同様放射線線量率設定値に応じて前記偏向パルスの繰り返し周波数を変化させることにより、かかる繰り返し周波数と同じ繰り返し周波数を有する前記偏向電流が出力されて補正コイル29への通電、非通電が切り換えられ、照射部から照射される放射線の線量率を制御することができるようになっている。
【0043】
このように構成されるマイクロトロン電子加速器21を有する本例の放射線治療装置20の作用について説明する。
本例の放射線治療装置20におけるマイクロトロン電子加速器21では、トリガーパルスに同期して前記電子銃から低エネルギー電子線がパルス状に出力されると、加速空洞23内に導かれて加速され、一様磁場コイル22による一様磁場中で円軌道を描いて再び電子線透過孔24から加速空洞23内に入射する。ここで電子はさらに加速され、電子線透過孔25から一様磁場内へ出てより大きな円軌道を描き、再び加速空洞23内に入射する。この動作が繰り返され、低エネルギー電子線が所定のエネルギーになるまで加速される。
【0044】
一様磁場コイル22内における一様磁場中の電子線の軌道は、補正コイル29にパルス状の偏向電流が入力している場合には図中実線で示すものとなり、所定のエネルギーまで加速された後、高エネルギー電子線として取り出しパイプ28から取り出され、かかる高エネルギー電子線が前記照射部まで搬送されて、該照射部から放射線が照射される。一方、加速空洞23に、前記偏向電流が入力されない場合には、一様磁場コイル22内における一様磁場中の電子線の軌道は、図中一点鎖線で示す軌道となり、高エネルギー電子線は取り出しパイプ28に衝突して該取り出しパイプ28からは取り出されず、照射部からは放射線は照射されない。補正コイル29には、上記第一実施形態と同様、前記放射線線量率設定値に応じた繰り返し周波数の偏向電流が入力され、これにより、照射部5からは、放射線線量率設定値と等しい線量率の放射線が照射される。
【0045】
トリガーパルス、低エネルギー電子線、マイクロ波、偏向パルス、放射線のパルスシーケンスは、第一実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0046】
本例の放射線治療装置20においても、偏向パルス、偏向電流の繰り返し周波数を変化させることにより、照射部から照射される放射線の線量率を変化させることができ、これにより、上記第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の放射線治療装置の第一実施形態を示す図。
【図2】同期型V−F変換器に設定される放射線線量率設定値を示す図。
【図3】図1に示す放射線治療装置におけるパルスシーケンス図。
【図4】本発明の放射線治療装置の第二実施形態の要部を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1 放射線治療装置
2 電子銃
3 加速管
4 偏向電磁石
5 照射部
6 高電圧電源
7 トリガーパルス発振器
8 マイクロ波発振器
9 電流源
10 遮蔽材
11 同期型V−F変換器
20 放射線治療装置
21 マイクロトロン電子加速器
22 一様磁場コイル
23 加速空洞
24,25 電子線透過孔
26 電子銃
27 マイクロ波発振器
28 取り出しパイプ
29 補正コイル
30 電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線生成手段によって生成した電子線を加速手段で加速して照射手段に搬送し、該照射手段から電子線または放射線の形で照射を行う放射線治療装置であって、
前記加速手段によって加速した電子線を前記照射手段へ搬送するか否かを切り換える偏向手段を設け、
該偏向手段を、前記照射手段から照射される電子線または放射線の線量率が所望のものとなるように切換制御するようにした
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
前記偏向手段は、電磁石またはコイルを備え、前記電磁石または前記コイルに、前記所望の線量率に対応した繰り返し周波数を有するパルス電流が供給されて前記切換制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−51064(P2006−51064A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232918(P2004−232918)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】