説明

放射線測定装置

【課題】形状の異なる測定対象物の放射線強度を正確に測定することができる放射線測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象物1が収納される測定室3と、測定対象物1からの放射線によって生じた電離イオンを収集するイオン収集部5と、前記測定室3とイオン収集部5に気体を循環させる気体循環路6と、前記イオン収集部5に収集されたイオンのイオン電流値を測定するイオン電流測定部8とを有する放射線測定装置において、前記測定対象物1の形状データが入力される形状データ入力部9と、前記形状データに基づき前記測定対象物1の上流側端部から前記イオン収集部5までの電離イオンの移送時間を演算するイオン移送時間演算部10と、前記イオンが移送時間内に前記気体中のイオン再結合により減少するイオン数の割合と前記形状データからイオン電流値を補正するための補正係数を求める補正係数算出部11と、前記補正係数を用いて前記イオン電流値を放射線量に換算する放射線量換算部19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離作用を利用した放射線測定装置に関し、特に、測定対象物から放出される放射線によって電離されたイオンを測定する放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設において、施設内で発生した放射性廃棄物の放射能を観測して、放射能レベル毎に廃棄物を分別し保管管理したりするために放射線測定装置が用いられている。
【0003】
これら放射線測定装置においては、廃棄物等の測定対象物から放出される放射線によってその近傍の気体が電離されてイオンが生成されるが、そのイオンは数秒〜数十秒の寿命をもち、その間は測定対象物の近傍に存在する。この生成されるイオンを含む気体を吸引して電離箱まで移送し、気体に含まれるイオン数を電流として計測すれば、放射線の強度を求めることができる(特許文献1)。
【0004】
この電離作用で生成されるイオンの数は、放射線の強度と、測定対象物の形状に影響される電離空間の大きさなどで決まるため、予め、測定対象物の形状毎に放射線強度と電離電流の関係を対応させておくことで、測定した電流の大きさを放射線強度に換算することができる。
【0005】
例えば、特許文献2に示された放射線測定装置では、測定対象物が配管の場合、配管の長さ及び径によってα線の飛程及びイオンの再結合割合が変化するため、図6に示すような予め配管の長さ及び径と測定感度とを対応させた対応図を作成し、放射線強度を補正を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4131824号公報
【特許文献2】特開2007−263804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の放射線測定装置では、以下のような課題があった。
第1の課題として、測定対象物が放射線強度と電離電流の関係を予め取得しておいた形状に合致する場合は精度よく測定できるが、合致しない場合は、たとえ対応表に基づいて補完した値を用いても、計測電流に誤差が発生し、正確な放射線強度を求めることができない。また、測定対象物から放出される放射線の放出位置がスポット状などの分布である場合、放出位置によって吸引したイオンが電離箱まで到達する時間に変化が生じると、同様に正確な放射線強度を求めることができないという課題があった。
【0008】
第2の課題として、気体中のバックグラウンドイオン量が測定対象物を収納する測定室の容積に比例するため、測定室に比較して小型の測定対象物を測定した場合、測定対象物に適した容積の測定室よりもバックグラウンドが増大し、測定精度が低下する。したがって、測定対象物に合わせた容積の測定室を用意する必要がある。しかし、多種多様な形状に対応させるため複数の測定室を用意したり、大型の測定室を用意して仕切り板で測定室容積を小さくする方法などが考えられるが、装置が大型化し、また、気体の循環方向に測定室を仕切ることができないため測定室の形状に制限が生じてしまうという課題があった。
【0009】
第3の課題として、測定中に測定対象物表面の汚染が剥離して循環気流と共に対象物から離れてしまった場合、測定電流が大幅に変動してしまうため、このような測定の異常に対する手段が必要である。また、剥離した汚染が測定室内及び、電離箱内に付着した場合、新たな測定対象物の測定のときにはバックグラウンドが上昇してしまうため、このようなバックグラウンドの異常に対する対策を講じる必要があった。
【0010】
第4の課題として、気体中のバックグラウンドイオン量が環境依存で変動するため、予め測定したバックグラウンド量と測定中のバックグラウンド量に差が生じてしまうと、測定結果に影響し検出限界が悪くなる。また、予め測定直線に測定室に物を置かない状態でバックグラウンドを測定する必要があるため、バックグラウンド測定を含めたトータルでの測定時間が長くなってしまうという課題があった。
【0011】
本願発明は上記課題を解決するためになされたもので、形状の異なる測定対象物の放射線強度を正確に測定することができる放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る放射線測定装置は、測定対象物が収納される測定室と、測定対象物からの放射線によって生じた電離イオンを収集するイオン収集部と、前記測定室とイオン収集部に気体を循環させる気体循環路と、前記イオン収集部に収集されたイオンのイオン電流値を測定するイオン電流測定部とを有する放射線測定装置において、前記測定対象物の形状データが入力される形状データ入力部と、前記形状データに基づき前記測定対象物の上流側端部から前記イオン収集部までの電離イオンの移送時間を演算するイオン移送時間演算部と、前記イオンが移送時間内に前記気体中のイオン再結合により減少するイオン数の割合と前記形状データからイオン電流値を補正するための補正係数を求める補正係数算出部と、前記補正係数を用いて前記イオン電流値を放射線量に換算する放射線量換算部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、形状の異なる測定対象物の放射線強度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る放射線測定装置の全体構成図。
【図2】第2の実施形態に係る放射線測定装置の構成図。
【図3】第3の実施形態に係る放射線測定装置の構成図。
【図4】第4の実施形態に係る放射線測定装置の全体構成図。
【図5】第5の実施形態に係る放射線測定装置の全体構成図。
【図6】従来の放射線測定装置における配管の形状と測定感度の対応図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る放射線測定装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る放射線測定装置を図1により説明する。
(構成)
第1の実施形態の放射線測定装置は、測定対象物1とサンプル台2を収納した測定室3と、測定室3の出口側に設けられた気体収束ノズル4と、気体収束ノズル4に接続された流速測定部12及びイオン収集部5と、測定室3内の空気を気体循環路6を通して循環させるためのファン等からなる循環装置7とから構成される。
【0016】
また、放射線測定部は、イオン収集部5で収集されたイオンの電流値を測定するためのイオン電流測定部8と、測定したイオン電流を放射線量に換算する放射線量換算部19と、測定対象物1の形状データを入力するための形状データ入力部9と、測定室内で発生したイオンが空気と共にイオン収集部まで移動する時間を演算するイオン移送時間演算部10と、イオンが移動する間にイオンの再結合でイオン数が減少する割合を算出し、イオン収集部5での収集イオン量の補正係数算出部11と、循環される空気の流速を算出するための流速測定部12と、から構成される。
また、本第1の実施形態では、測定対象物1は略直線状の配管を対象とし、配管はサンプル台2上に測定室内を流れる空気流と略平行に載置されている。
【0017】
(作用)
上記のように構成された放射線測定装置の原理及び動作を説明する。
測定対象物1の表面等に付着したウランなどのα放射性核種からα線が放出されると、α線の飛程内で空気が電離されイオンが発生する。発生したイオンは循環装置7で送風され循環している空気と共に気体収束ノズル4を経てイオン収集部5まで移送される。さらに、空気は気体循環路6を通り測定室3まで一巡する。このときイオン数は時間と共に再結合により減少して消滅するか、循環装置7にフィルタが設置されている場合はそこで捕集される。
【0018】
イオン収集部5は、通常、電圧が印加された電極構造となっており、イオンが電極に収集されることでイオン量に応じた電流が発生する。この電流をイオン電流測定部8で測定し、放射線量換算部19で測定した電流値を演算処理により放射線量に換算する。
【0019】
このときの演算処理の一般的な方法としては、測定対象物の形状毎に電流から放射線量へ換算する換算係数を予め校正試験で求めておいて、形状と換算係数の対応表を予め用意しておき、入力された形状データに対応した換算係数を参照して測定電流値から放射線量へ換算する。なお、換算係数は、基準となる換算係数に対する形状毎の感度補正係数の組み合わせの場合もある。
【0020】
この換算係数あるいは感度補正係数は、α線の電離作用で発生したイオンがイオン収集部5の電極に到達するまでにイオンの再結合により減少するため、イオンの発生位置から電極までのイオンの移動時間に依存する。
【0021】
イオンの再結合とイオン数の関係は、α線で発生したイオン数とバックグラウンドイオン数がそれぞれモデル化した次式で表される(特許文献2)。
【数1】

【0022】
ここで、測定対象物1が図1に示す配管の場合の換算係数とイオン数の関係を説明する。
通常、配管表面上のα線の発生位置は不明であるため、放射線管理区域からの搬出検査などで安全側に放射線量を評価する場合、最も感度が低くなると予測される位置での換算係数を用いる。図1ではaで示す測定対象物1の上流側端部に、α線発生位置すなわち汚染が存在すると仮定した換算係数が用いられる。aで発生したイオンがイオン収集部5の電極位置bに到達するまでに再結合で減少するイオン数は、イオンの移動速度が一定であればaからbまでの距離に依存し、aの位置が異なれば減少するイオン数も異なるため換算係数も変わる。
【0023】
このとき、換算係数の対応表に測定対象物1と同じ長さの同形状の換算係数があれば、aからbまでの距離は同一となるため正しい換算ができるが、対応表の中に同じ長さの換算係数がない場合は、従来の方法では、測定対象物1の長さに最も近い形状の換算係数を選択する。
【0024】
この場合、aからbまでの距離が選択した形状の長さとの差が大きければ正しい換算ができず誤差が増大する。また、対応表の補間により対象物と同じ長さの換算係数を算出することは可能であるが、誤差を小さく抑えるためには大量の換算係数を対応表に用意する必要がある。
【0025】
これに対して、本第1の実施形態では、まず、形状データ入力部9で測定対象物1の長さを入力する。入力手段はオペレータによる手入力、または、自動で長さを読み取る方法でもよい。入力された長さ情報はイオン移送時間演算部10に送られる。ここでは、最初に入力された測定対象物1の長さ情報を元にaからbまでの距離を算出する。なお、図1ではbをイオン収集部5の入口の位置で示しているが位置が一定であれば特に限定されない。
【0026】
次に、イオン移送時間演算部10で、循環装置7で循環される空気の流量から測定室3と気体収束ノズル4及び流速測定部12の流速を算出して、aからbまでのイオンの移動時間を演算する。流量は流速測定部12で計測された流速から求めるが、循環装置7で循環される空気の流量が予め一定に調整されている場合はその流量を用いればよい。
【0027】
次に、補正係数算出部11でイオンの移動時間からイオンの再結合によるイオン電流の減少割合を求め、放射線量換算部19で用いる換算係数の対応表から測定対象物1に最も近い形状を選定し、選定形状におけるイオンの再結合によるイオン電流減少割合を求め、測定対象物1でのイオン電流の減少割合との比率からイオン電流の補正係数を算出し、放射線量換算部19にこの補正係数を入力する。
【0028】
ここで用いられる換算係数の対応表は、測定対象物が配管の場合、基準長の長さの配管の径と測定感度とを対応させた対応表から求められる(図示せず)。なお、原子力プラント等で用いられる配管は複数の所定の径を有する配管が用いられることが通常であり、その径を用いて対応表を作成すれば、実際の配管に対応した換算係数を得ることができる。
また、イオン電流の補正係数ではなく、放射線量の換算係数の補正係数としても良い。
【0029】
次に、測定対象物1が測定室3に収納された状態として、循環装置7で空気を循環させる。循環された空気が測定対象物1から発生するα線で電離され、発生したイオンが空気と共にイオン収集部5まで移送されイオンが電極に収集される。イオン電流測定部8でイオン電流を測定し、放射線量換算部19に電流値を入力する。入力された電流値は対応表の形状データに補正係数算出部11から入力された補正係数で補正され、対応表の換算係数により放射線量に換算され表示または記録される。
【0030】
(効果)
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、実際の測定対象物の長さを用いることにより、形状の異なる測定対象物の放射線強度を正確かつ効率的に測定することができる。
【0031】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る放射線測定装置を図2により説明する。
(構成)
第2の実施形態の放射線測定装置は測定室3の前後にそれぞれイオン収集部5−1と5−2を配置し、循環装置7の送風方向を逆転させるための制御部13を設けている。なお、図2では放射線測定部は省略している。
【0032】
(作用)
上記のように構成された放射線測定装置の動作を説明する。
まず、循環装置7で送風される方向が点線矢印で示す順方向とする。この状態では、図1で示す構成と同様の状態となり、用いる換算係数はイオンがaからbへ移動する時間をもとに校正されたものとなる。なお、イオン流体移送式測定では測定室内の空気を一括してイオン収集部まで移送して測定するため、測定対象物表面上のα線の発生位置は検知できない。
【0033】
ここで、α線発生位置が測定物1の下流側端部cにあると仮定すると、cで発生したイオンは、上流側端部aよりも短い距離でイオン収集部5−1のbまで到達するため、イオンの再結合による消滅量が少なく、測定されるイオン電流は大きくなり換算される放射線量は過大評価となる。
【0034】
本実施形態では、イオン収集部5−1で放射線強度を測定した後、制御部13により循環装置7の送風方向を反転させることで、送風方向は実線矢印で示すように順方向と反対方向の逆方向となる。制御部13は循環装置7を反転させる方法でも気体循環路6の接続方向を弁で切り替える方法でもよい。
【0035】
これにより、cで発生したイオンはイオン収集部5−2のb´に移動することになるため、その移動距離c−b´はc−bより長くなり、例えば測定対象物1の配置が測定室3の中央に配置されていれば、イオンの再結合による消滅量がaからbへ移動したときと同等になる。
【0036】
空気の循環方向が点線矢印の順方向のときイオン収集部5−1で、及び循環方向が逆方向の実線矢印のときイオン収集部5−2で測定したそれぞれのイオン電流を演算処理、例えば電流値を平均するなどして放射線量に換算することにより、aの位置で校正された換算定数でcの位置で発生したイオンにより放射線量を換算する場合、点線矢印で示した順方向送風のみの測定電流値に比べ、逆方向送風での測定電流値も併せて演算処理することで過大評価の割合が小さくなり誤差を低減することができる。
【0037】
(効果)
本第2の実施形態によれば、測定対象物の任意の位置にスポット状の汚染が存在しても、過大評価による誤差を低減することができるため、測定対象物の放射線強度をさらに正確かつ効率的に測定することができる。
【0038】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る放射線測定装置を図3により説明する。
(構成)
第3の実施形態の放射線測定装置は、測定室3に収納された測定対象1の上流側に、イオン吸着フィルタ14を配置している。なお、図3では放射線測定部は省略している。
【0039】
(作用)
上記のように構成された放射線測定装置の動作を説明する。
測定室3内で発生するバックグラウンドイオンは、自然環境に存在するラドンによるものと、その他天然核種による環境γ線及び、宇宙線からの影響で生じるものがある。このバックグラウンドイオン量は、測定室3の容積に依存する。測定対象物1が小型の場合、測定対象物1に比較して測定室3は大きな容積となる。
【0040】
そこで、本第3の実施形態では、測定対象物1よりも空気流の上流側にイオン吸着フィルタ14を配置することで、イオン吸着フィルタよりも上流側で発生したバックグラウンドイオンが吸着されるため、見かけ上測定室3の容積は小さくなり発生するバックグラウンドイオンが低減された状態で、測定対象物1で発生したα線による電離イオンと共にイオン収集部5まで移送される。
これにより、イオン吸着フィルタ14を配置しないときよりもバックグラウンドノイズが低減されるため、より低い信号レベルまで測定することが可能となる。
【0041】
(効果)
本第3の実施形態によれば、測定室の容積に対し小型の測定対象物を測定する場合であっても、バックグラウンドを低減させることができるので、検出感度を向上させることが可能となり、測定対象物の放射線強度をさらに正確かつ効率的に測定することができる。
【0042】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る放射線測定装置を図4により説明する。
(構成)
第4の実施形態の放射線測定装置は、イオン電流測定部8で測定したイオン電流値を順次記憶しておくイオン電流値記憶部15と、記憶したイオン電流値を読み出し、イオン電流値の変化から測定の異常を検知するイオン電流値変動検知部16と、イオン電流測定部8で測定したバックグラウンド電流(BG電流)値を順次記憶しておくBG電流値記憶部17と、記憶したBG電流値を読み出し、BG電流値の変化からバックグラウンドの異常を検知するBG電流値変動検知部18を追加した構成としている。
【0043】
(作用)
上記のように構成された放射線測定装置の動作を説明する。
まず、測定対象物1を測定室3に収納する前に、予めBG電流を測定する。これは、後で測定対象物1を収納して測定した電流値からBG電流値を差し引くことで正味のα線による電離イオン電流値を算出するためのものである。測定したBG電流値は順次BG電流測定値記憶部15に記憶されていく。BG測定のタイミングおよび記憶する期間や測定数は、BG電流の変化が検知できれば特に限定されない。例えば、ある測定対象物の測定前にBG電流を測定した後、測定対象物1を測定室3に収納し測定を開始する。
【0044】
このとき、測定対象物1の表面に付着していた放射性物質が剥離しサンプル台2に付着したり、剥離した放射性物質が空気と共にイオン収集部5まで移送されイオン収集部5が汚染された場合、次のBG測定ではこの汚染によりBG電流が増加する。通常、1度のBG電流測定で複数の測定を行い変動誤差を求めるが、予め誤差が評価されていれば1個の測定値でもかまわない。
【0045】
次に、イオン電流測定値変動検知部16で記憶されたBG電流値を読み出し比較を行う。例えば、最新のBG電流値とそのひとつ前のBG電流値を読み出し、誤差に対し有意な変動となる値を閾値として、この閾値とBG電流の変動幅を比較し、変動幅が閾値を超えた場合アラームを出力または表示する。また、ひとつ前のBG電流ではなく、任意の一定の期間のBG電流値を読み出し、BG電流の変動が平坦な部分の電流値または、一定期間の平均電流値との比較としてもよい。
【0046】
次に、測定室3に測定対象物1を収納して本測定を行う。イオン電流測定部8で測定されたイオン電流値は電流計が行うサンプリング毎の数値としてイオン電流測定値記憶部に記憶される。イオン電流値を記憶しておくサンプリング時間やサンプリング数は、イオン電流の変動が検知できれば特に限定しない。
【0047】
ある時点での本測定のとき、測定対象物1の表面に付着していた放射性物質が剥離し、循環気流と共に測定室外に流され気体循環路6などに付着してしまった場合、測定中にイオン電流値が大きく減少する。通常、一回の測定時間は数10秒程度であり、この期間の平均電流を求めている。前記電流計によるサンプリング測定はこれよりも短い時間で行われ、このときの変化が記録される。
【0048】
次に、イオン電流値変動検知部16で、記録したサンプリング毎の電流値が読み出され、任意の区間で平均する。各区間を比較して区間平均値の変動の誤差に対し有意な変動が検知された場合、アラームを出力または表示する。
【0049】
(効果)
本第4の実施形態によれば、測定中の測定対象物表面の汚染の剥離などによる二次汚染が発生した場合の異常を検知することができるため、測定対象物の放射線強度をさらに正確かつ効率的に測定することができる。
【0050】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に係る放射線測定装置を図5により説明する。
(構成)
第5の実施形態の放射線測定装置は、測定室3と、気体収束ノズル4と、イオン収集部5を複数設け、各イオン収集部に個別のイオン電流測定部8を設けた構成である。
【0051】
(作用)
上記のように構成された放射線測定装置の動作を説明する。
図5に示す複数の測定室3の一方に測定対象物1を収納し、もう一方は測定対象物を収納しない状態とする。なお、測定室の数及び測定対象物が収納されている測定室の数は適宜増減できる。
【0052】
この状態で、循環装置7で送風して各測定室へ空気を送り込み、各イオン収集部5に接続されたイオン電流測定部で電流を測定する。測定された電流値は放射線量換算部19へ出力され、測定対象物1を収納した測定室3に接続されている側のイオン電流値から、測定対象物1を収納しない測定室3に接続されている側のイオン電流値を減算処理して正味電流値を求め、放射線量へ換算する。
【0053】
(効果)
本実施形態によれば、予めBG電流を測定することなく、本測定と同時にBG測定も実施し正味電流値を求めることができるため、測定対象物の放射線強度をさらに正確かつ効率的に測定することができる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…測定対象物、2…サンプル台、3…測定室、4…気体収束ノズル、5、5−1、5−2…イオン収集部、6…気体循環路、7…循環装置、8…イオン電流測定部、9…形状データ入力部、10…イオン移送時間演算部、11…補正係数算出部、12…流速測定部、13…循環方向逆転部、14…イオン吸着フィルタ、15…イオン電流値記憶部、16…イオン電流値変動検知部、17…BG電流値記憶部、18…BG電流値変動検知部、19…放射線量換算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物が収納される測定室と、測定対象物からの放射線によって生じた電離イオンを収集するイオン収集部と、前記測定室とイオン収集部に気体を循環させる気体循環路と、前記イオン収集部に収集されたイオンのイオン電流値を測定するイオン電流測定部とを有する放射線測定装置において、
前記測定対象物の形状データが入力される形状データ入力部と、前記形状データに基づき前記測定対象物の上流側端部から前記イオン収集部までの電離イオンの移送時間を演算するイオン移送時間演算部と、前記イオンが移送時間内に前記気体中のイオン再結合により減少するイオン数の割合と前記形状データからイオン電流値を補正するための補正係数を求める補正係数算出部と、前記補正係数を用いて前記イオン電流値を放射線量に換算する放射線量換算部と、を備えることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
前記測定対象物は略直線状の配管であり、前記形状データは当該配管の長さと径であることを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項3】
前記イオン電流測定部を測定室の上流側と下流側に設けるとともに、前記気体循環路に循環方向を正逆方向に切り替える切替手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の放射線測定装置。
【請求項4】
前記測定室の上流側にイオン吸着フィルタからなる仕切り板を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の放射線測定装置。
【請求項5】
前記イオン電流測定部で測定されたイオン電流値を順次記憶するイオン電流値記憶部と、所定区間毎に前記前記イオン電流値の平均値を求め、前記平均値の変動を監視するイオン電流値変動検知部を設けたことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項6】
前記測定室に測定対象物を収納しない状態で周期的に測定したバックグラウンド電流を記憶するバックグラウンド電流値記憶部と、前記バックグラウンド電流値の変動を監視するバックグラウンド電流値変動検知部を設けたことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項7】
前記測定室を複数設け、各測定室毎にイオン電流測部を設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127796(P2012−127796A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279366(P2010−279366)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】