説明

放射線滅菌用樹脂組成物および成形品

【課題】本発明は、成形加工性や機械的物性を犠牲にすることなく、放射線照射による樹脂の着色と異臭とを防止したポリオレフィン樹脂組成物、その製造方法および該ポリオレフィン樹脂組成物から製造される成形品を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、疎水性ゼオライト0.1〜5質量部および加工安定剤0.01〜1質量部を配合してなることを特徴とする放射線滅菌用樹脂組成物。さらに、前記ポリオレフィン樹脂脂がメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする前記記載の放射線滅菌用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線滅菌用樹脂組成物およびそれから製造される成形品に関する。更に詳しくは、放射線滅菌用ポリオレフィン樹脂組成物およびそれから製造される成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンを始めとするポリオレフィン樹脂は様々な分野で用いられており、食品の包装容器、医療器具および医療器具の包装容器等しても有効に用いられている。前記用途に使用する場合、γ線や電子線などの放射線による滅菌が幅広く行なわれているが、ポリオレフィン樹脂には、放射線照射により、機械的強度の低下、変色および異臭発生を伴う問題がある。ポリエチレンは、ポリプロピレンに比べ耐放射線性が高いといわれているが、それでも変色や異臭の問題は避けられない。
【0003】
放射線照射による変色を避けるため一般的には、光安定剤、UV吸収剤等の添加剤を全く含まないポリオレフィン樹脂を使用することが推奨されている。しかしながら、このような完全無添加のポリオレフィン樹脂では変色は抑制できるが異臭には効果が期待できず、また、その添加剤による機能発現が期待できないため、添加剤を含まないことによる問題もあった。
【0004】
そこで、これまでポリオレフィン樹脂の耐放射線性を向上させる試みがなされてきた。
例えば、特許文献1には、特定のリン系化合物とヒンダートアミン系化合物をポリプロピレンに添加することによって、放射線照射後の着色を防止することが可能であると記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、密度が0.900〜0.925g/cm3 、n−ヘプタン抽出率が0.30wt%未満の低密度ポリエチレンもしくは直鎖状低密度ポリエチレンを押出成形したポリエチレンフィルムでは放射線照射後の異臭の発生が極めて少ないと記載されている。
【0006】
特許文献3には、熱可塑性樹脂にハイドロタルサイト類を0.001〜5重量%配合してなる熱可塑性樹脂組成物から成形した成形品が開示され、その成形品に物品を収容し、密封した後、放射線を照射して殺菌しても異臭を防止できると記載されている。
【0007】
特許文献1の効果は着色防止であり、特許文献2および特許文献3は異臭の防止である。そこで、特許文献4には、ポリオレフィン樹脂に、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、および少なくとも1種以上の化学的中和反応により脱臭機能を有する脱臭性組成物を添加してなる樹脂組成物が開示され、樹脂の着色防止と異臭防止とを達成できるとしている。
【0008】
【特許文献1】特開平5−209095号公報
【特許文献2】特開平8−337692号公報
【特許文献3】特開平7−145264号公報
【特許文献4】特開2000−136272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4は、着色と異臭とを同時に防止できるとなっているが、少なくとも4種類の添加物をポリオレフィン樹脂に添加しなければならず、これらを均一に混合するためには多大の労力が必要とされるばかりでなく、添加物によるコストアップも問題となる。また、多種類の添加物を混合したことによって、樹脂の機械的強度の低下や添加物そのものによる着色の問題が引き起こされる。
【0010】
さらに、放射線照射による変色を避けるためポリオレフィン樹脂に添加物を添加しない場合には、フィルム等の成形品に加工したときに当該樹脂の一部がゲル化することによってその成形品にブツが発生するなどの成形加工上の問題もあった。
【0011】
そこで、本発明は、成形加工性や機械的物性を犠牲にすることなく、放射線照射による樹脂の着色と異臭とを防止したポリオレフィン樹脂組成物、その製造方法および該ポリオレフィン樹脂組成物から製造される成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、疎水性ゼオライト0.1〜5質量部および加工安定剤0.01〜1質量部を配合してなることを特徴とする放射線滅菌用樹脂組成物である。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記ポリオレフィン樹脂脂がメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載の放射線滅菌用樹脂組成物である。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記加工安定剤がヒドロキシルアミン系加工安定剤であることを特徴とする請求項1または2記載の放射線滅菌用樹脂組成物である。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の放射線滅菌用樹脂組成物から製造される成形品である。
【0016】
請求項5に係る発明は、前記成形品がフィルムである請求項4記載の成形品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、成形加工性を犠牲にすることなく、γ線や電子線などの放射線を放射しても、機械的強度の低下、変色および異臭発生のないポリオレフィン樹脂組成物を提供できる。また、該樹脂組成物から製造されるフィルム等の成形品は、ブツがなく、γ線や電子線などの放射線による滅菌操作において、機械的強度の低下、変色および異臭発生がない。従って、これらの成形品は、滅菌を必要とする食品、医薬品、医療用具等の内容物を、該容器に収納した後に滅菌したり、滅菌した後に、該内容物を収納したりする滅菌容器として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0019】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられるが、ポリエチレンが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレン、中でもメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンが好適に用いられる。
【0020】
本発明で用いる疎水性ゼオライトは、SiO/Alのモル比が10以上のものである。例えば、ユニオン昭和株式会社製のハイシリカゼオライトを好適に用いることができる。疎水性ゼオライトの使用量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対し0.1〜5質量部である。0.1質量部未満では効果が不十分で、5質量部を越えると得られた樹脂組成物の機械的物性が低下するため好ましくない。
【0021】
ポリオレフィン樹脂に疎水性ゼオライトを均一に混合するには、予めポリオレフィン樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40質量%練り込んだマスターバッチを用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂に直接疎水性ゼオライトを混練するのは、均一に混合するためには多大な時間と労力を費やさなければならなかったり、長時間の混練により樹脂を劣化させたりする結果となるため好ましくない。
【0022】
本発明で用いる加工安定剤は、ヒドロキシルアミン系加工安定剤が好ましく、その添加量はポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.01〜1質量部である。0.01質量部未満では効果が不十分で、1質量部を越えるとその効果が飽和してしまう上、コストアップになるため好ましくない。 該ヒドロキシルアミン系加工安定剤は、N,N−ジアルキルヒドロキシルアミンであって、そのアルキル基の炭素数は8〜36が好適である。
【0023】
他の添加物として、ヒンダードアミン系の光安定剤は用いることができるが、リン系の酸化防止剤およびフェノール系の酸化防止剤は特に樹脂の変色を大きくする傾向があるので、使用しないほうが好ましい。
なお、市販のポリオレフィン樹脂には、多くの場合、酸化防止剤が添加されているので、注意が必要である。本発明の目的には、無添加のポリオレフィン樹脂を選択し、該樹脂に疎水性ゼオライトおよびヒドロキシアルミン系加工安定剤を添加するのが好ましい。
【0024】
ヒドロキシルアミン系加工安定剤等の添加剤をポリオレフィン樹脂に添加し、均一に混合するには、予めこれらの添加剤を高濃度に含有するマスターバッチを製造し、これをポリオレフィン樹脂に混練するのが好ましい。
【0025】
本発明の放射線滅菌用樹脂組成物は、成形品に加工されて、包装容器として用いられるが、成形性に優れ、放射線を照射しても強度が低下しないことから、薄物、特に、フィルム包装容器に好適に用いられる。これらの包装容器は、滅菌を必要とする食品、医薬品、医療用具等の内容物を、該容器に収納した後に滅菌したり、滅菌した後に、該内容物を収納したりして用いられる。なお、前記フィルム包装容器に使用されるフィルムとしては、厚さ8〜200μmのものが好適に用いられる。
【実施例】
【0026】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本発明で用いた材料を表1に示した。なお、以下の実施例および比較例において部と記載されているものは質量部を表す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明で用いる消臭剤、加工安定剤および酸化防止剤は、これらを高濃度に含有したマスターバッチとして使用した。
【0029】
「消臭剤マスターバッチの製造」
低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、ペトロセン204)70部および疎水性ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製、アブセンツ)30部を押出機で溶融混練して消臭剤マスターバッチを得た。
【0030】
「加工安定剤(IRGASTAB FS210FF)マスターバッチの製造」
低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン株式会社製、F522N)96部および加工安定剤(チバ・ジャパン株式会社、IRGASTAB FS210FF)4部を押出機で溶融混練して加工安定剤マスターバッチを得た。
【0031】
実施例および比較例で用いた他の加工安定剤および酸化防止剤についても、前記加工安定剤(IRGASTAB FS210FF)マスターバッチと同様の方法によりマスターバッチ化して使用した。
【0032】
実施例1
メタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン株式会社製、ZM047)100部に対し、前記消臭剤マスターバッチ5.35部および前記FS210FFの加工安定剤マスターバッチ1.15部を添加し、押出機で溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0033】
実施例2〜6
表2の配合で実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0034】
比較例1〜9
表2の配合で、実施例1と同様の操作により樹脂組成物を得た。
【0035】
<変色性評価試験>
実施例1〜6および比較例1〜9で得られた樹脂組成物を、それぞれ1mmの厚さに熱プレスし、冷却後、γ線を照射して吸収線量30kGyにおける照射前後の色差を色差計(コニカ・ミノルタ株式会社製、SPECTROMETER CM− 3700d)で測定し、色差ΔEによって以下の3段階で評価した。その結果を表2に記載した。
○ (変色なし) ΔE 1.0未満
△ (軽度の変色) ΔE 1.0〜2.0
× (重度の変色) ΔE 2.0超
【0036】
<臭気試験>
実施例1〜6および比較例1〜9で得られた樹脂組成物を、それぞれインフレーション成形して厚さ50μmのフィルムを作成した。得られたフィルムにγ線を照射して吸収線量30kGyにおける照射後に、30cm×30cmの面積のフィルムを3cm四方の大きさに切り分け100mlのガラス製広口瓶に入れ、密閉した。30分放置後、広口瓶のフタを開け、その臭気の程度を3人のパネラーによる官能試験により評価した。すなわち、その臭気の程度を、0(未処理のフィルムと比べて臭気に殆ど変化がなかった)、1 (未処理のフィルムと比べて弱い臭気を感じた)、2 (未処理のフィルムと比べて臭気を感じた)の3段階で点数化し、3名のパネラーの点数を合算し、その結果を以下の3段階で評価し、その結果を表2に記載した。
○ (臭気なし) 0〜1
△ (弱い臭気) 2〜3
× (強い臭気) 4〜6
【0037】
<引張強度試験>
実施例1〜6および比較例1〜12で得られた樹脂組成物を、それぞれインフレーション成形して厚さ50μmのフィルムを作成した。得られたフィルムにγ線を照射して吸収線量30kGyにおける照射前後のフィルムの引張強度を株式会社インテスコ製の試験機インテスコ201Bを用いてJIS Z 1707に準じて測定した。γ線照射前後の強度の比(γ線照射後の引張強度MPa/γ線照射前の引張強度MPa)を求め、その値により引張強度を以下の3段階で評価し、その結果を表2に記載した。
○ (強度に変化なし) 0.9以上
△ (強度低下の傾向) 0.7以上0.9未満
× (強度大幅低下) 0.7未満
【0038】
<成形性試験>
実施例1〜6および比較例1〜9で得られた樹脂組成物を、それぞれインフレーション成形して厚さ50μmのフィルムを作成した。得られたフィルムの面積100cm中のフィルムに存在する0.1mm以上のブツ個数を測定し、次の基準で成形性を評価し、その結果を表2に記載した。
○ (成形性良好) ブツ個数5個未満
△ (成形性普通) ブツ個数5個以上10個未満
× (成形性不良) ブツ個数10個以上
【0039】
【表2】

【0040】
表2によると、実施例1〜5は何れもメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンに加工安定剤および消臭剤を添加したものであるが、放射線照射しても変色することなく、臭気も問題のないレベルにあり、機械的物性を保持し、成形性もブツがなく良好である。
また、実施例6は直鎖状低密度ポリエチレンに加工安定剤および消臭剤を添加したものであるが、わずかに着色しているものの、他(臭気、機械的物性、成形性)は良好である。
一方、直鎖状低密度ポリエチレンであっても比較例1のように消臭剤が入っていなかったり、比較例2のように酸化防止剤が入っていたりすると、問題が生じることが分かる。
また、比較例3〜6はメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンではあるが、消臭剤のみが入っている場合、加工安定剤は入っているが消臭剤が入っていない場合、或いは酸化防止剤が入っている場合には、何らかの問題があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、疎水性ゼオライト0.1〜5質量部および加工安定剤0.01〜1質量部を配合してなることを特徴とする放射線滅菌用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂脂がメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載の放射線滅菌用樹脂組成物。
【請求項3】
前記加工安定剤がヒドロキシルアミン系加工安定剤であることを特徴とする請求項1または2記載の放射線滅菌用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の放射線滅菌用樹脂組成物から製造される成形品。
【請求項5】
前記成形品がフィルムである請求項4記載の成形品。

【公開番号】特開2010−59295(P2010−59295A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225421(P2008−225421)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】