説明

放射線線量計用ゲル、及びそれを用いた放射線線量計

【課題】放射線照射により高感度に3次元線量分布を測定できるのみならず、標的部分の視認性に優れた放射線線量計用ゲルを提供すること。
【解決手段】放射線照射に伴い重合する2種類以上のモノマー(1)と高含水率ゲルの形成が可能なゲル化剤を含む溶液(2)を十分に混合しゲル化すること得られるゲルである。このゲルの内、所定線量より大きな特定の線量以上の放射線照射を受けて白濁するゲル部分(A)は、外部温度の低下にかかわらず白濁の状態を保持し、所定線量より大きな特定の線量未満の放射線照射を受けて白濁するゲル部分(B)は、外部温度の低下に伴い次第に白濁から透明の状態に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、人や動物に対して放射線治療を行う前に、人や動物の体の放射線照射位置の空間線量分布を正確に測定するために有用な放射線線量計用ゲル、及びそのゲルを用いた放射線線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療では、標的となるガン病巣には有効な線量を、そして病巣周囲の正常組織には放射線障害を起こさない最小限の線量の照射が要求されることから、様々な放射線治療法が開発されてきた。なかでも、ガンマナイフやサイバーナイフを用いた定位放射線治療や強度変調放射線治療は目覚ましい勢いで普及してきた。最近では、陽子線や重粒子線の照射による放射線治療技術が臨床現場に適応されてきている。
【0003】
放射線治療を行う際、一般には、予めX線CTやMRIなどによりガン病巣の部位や形状等を特定し、その得られた情報に基づいて、線量や照射方法など放射線治療計画が策定される。放射線治療計画装置の使用により3次元線量分布を計算・予測できるにもかかわらず、従来の電離箱線量計や固体線量計などでは、点(1次元)もしくは面(2次元)の線量分布しか得られず、連続した空間的な(3次元)線量分布を実際に測定することは困難であった。この空間線量分布を測定するための線量計として注目されているのがゲル線量計であり、近年、高精度な線量評価システムの構築を目指したゲル線量計の研究開発が盛んに行われている(特許文献1と2、非特許文献1乃至3)。
【0004】
3次元線量分布の測定が可能なゲル線量計として、フリッケゲル線量計やポリマーゲル線量計が報告されている。フリッケゲル線量計は、液体化学線量計として知られるフリッケ線量計の溶液(硫酸第一鉄を含む水溶液)を含むゲルであり、放射線照射に伴う2価から3価への鉄の酸化反応(着色)が、吸収線量に比例して増加することを利用している。鉄イオン(3価)の化学収率G値を上げるため、組成調整などの工夫が行われているが、ゲル内の鉄イオン(3価)が照射後の時間経過に伴い拡散してしまい、線量分布が経時的に不安定であることが問題となっている。一方のポリマーゲル線量計は、モノマーをゲル内に分散させたものであり、放射線照射すると線量に比例してポリマーが生成することから、その生成量(白濁度)を求めることで線量を見積もることができる。生成したポリマーはゲル内を拡散しにくく、白濁が経時的に安定しており、且つ白濁部分が透明なゲルの中に浮かんでいるように見えるため視覚的にも優れているのが特徴である。
【0005】
放射線照射位置・精度を正確に評価できるより高感度なゲル線量計は、高精度、且つ複雑化してきている放射線治療の品質を適切に管理するためにも、必要となってきている。このため、より低い線量でも白濁するように、モノマーの種類や組成調整、更には溶存酸素やフリーラジカルの捕捉剤が加えられるなどの様々な工夫が行われている(非特許文献1と2)。
【0006】
また、本発明で使用する後述の化合物のように、外部の温度変化に応答して可逆的な相転移挙動(白濁−透明)を示す化合物として、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA)のポリマーが知られている。そして、このNIPAをゲル線量計のモノマーとして使用した報告もある(非特許文献4)。しかし、ここでは低毒性化を目的としたモノマーの一つとして選択されているに過ぎず、上述の課題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−214354号
【特許文献2】米国特許第5,321,357号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Physics: Conference Series, 56, 23-34 (2006).
【非特許文献2】Journal of Physics: Conference Series, 56, 35-44 (2006).
【非特許文献3】Journal of Applied Clinical Medical Physics, 7, 13-21 (2006).
【非特許文献4】Physics in Medicine and Biology, 51, 3301-3314 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ゲル線量計の高感度化を追求した結果、低線量域から高線量域まで正確な3次元線量分布を得ることができるようになってきたが、標的部分(A,ガン組織に相当する部分)が白濁するだけでなく、その周辺部(B,正常組織に相当する部分)にもうっすらと濁りが生じてしまい、光学的・視覚的に標的部分の形状を認識することが非常に困難であるという問題がある。
【0010】
上述したように、ポリマーゲル線量計はより高感度に3次元線量分布を測定できるようになると標的部分の視認性低下が問題となる。本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、放射線照射により高感度に3次元線量分布を測定できるのみならず、標的部分の視認性に優れた放射線線量計用ゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、放射線の標的部分は、外部温度変化にかかわらず白濁状態のまま変化せず、その周辺部のみが、外部温度変化に伴い可逆的に透明と白濁を繰り返すような構成を採ることで、上記目的を達成するようにしている。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、放射線照射に伴い重合する2種類以上のモノマーの組合せを熟考して調製したモノマー溶液(1)と高含水率ゲルの形成が可能なゲル化剤を含む溶液(2)を十分に混合し、ゲル化することで、放射線照射により白濁する照射位置中心部(標的部分)と、放射線照射によって白濁するものの、外部温度変化により可逆的に透明と白濁を繰り返すことができる周辺部から成るを形成するような放射線線量計用ゲルが作製できることを見出した。
【0013】
本発明の1つの観点に係る放射線線量計用ゲルは、所定線量の放射線照射を受けたとき白濁するゲルであって、該ゲルの内、前記所定線量より大きな特定の線量以上の放射線照射を受けて白濁するゲル部分(A)は、外部温度の低下にかかわらず前記白濁の状態を保持し、前記所定線量より大きな特定の線量未満の放射線照射を受けて白濁するゲル部分(B)は、外部温度の低下に伴い次第に白濁から透明の状態に変化する。外部温度の変化範囲として、実用的には0℃から50℃の範囲が好ましい。最も簡単には、例えば、ゲルを充填した容器全体を、一定時間冷蔵庫に入れるなどして、容易に外部温度を下げることができる。
【0014】
本発明の他の観点に係る放射線線量計は、最も簡単には、上述のゲルを放射線を透過させる透明な容器に充填することにより作製できる。例えば、直方体の透明容器に上述のゲルを充填することにより、簡単に体の一部のファントムを構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る放射線線量計用ゲルは、高感度に3次元線量分布を測定できるのみならず、従来にない温度応答機能により標的部分を明瞭に提示できることから、治療計画に関するインフォームドコンセントに役立つ。医師側は、患者側に放射線治療計画を説明しやすくなり、一方、患者側は明瞭な照射領域を提示されることで、放射線治療をイメージできるようになり、放射線治療に対する安心感を得られる。更に、本発明に係るポリマーゲル線量計用ゲルは、多糖類等をゲル化剤とした高含水率ゲルであり、且つゲルのサイズや形状を任意で簡便に調節できることから、患者の体型に合わせたテーラーメイドの水等価ファントム(生体組織等価ファントム)にも活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で作製した放射線線量計用ゲルの照射後の写真である。
【図2】実施例2で作製した放射線線量計用ゲルの、白濁状態と透明状態間の変化の温度応答性を説明するためのグラフである。
【図3】比較例1で作製した放射線線量計用ゲルの照射後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明においては、まず、2種類以上のモノマーを混合した溶液(1)、及びゲル形成可能なゲル化剤を含む溶液(2)を調製する。次いで、(1)と(2)を十分に混合した後、所定の容器に分注し、静置・保管することで放射線線量計用ゲルを得ることができる。このようにして得られたゲルは、高感度に3次元線量分布を測定でき、且つ照射標的部分の周辺部が、外部温度変化に応答して白濁と透明を繰り返す特性(温度応答性)を示す。さらに、溶液(1)中のモノマーの種類や組成比などを細かく調節することで、相転移する温度(白濁−透明に変化する温度)、及び放射線感受性(線量に応じた白濁度)を制御することができる。
【0018】
本発明に係る放射線線量計用ゲルを得るためのモノマーとしては、放射線の作用により重合可能な炭素−炭素不飽和結合を有するものであれば特に限定されないが、2種類以上のモノマーの重合から得られる共重合体ポリマーが、温度応答性を示す必要がある。温度応答機能の発現には、ポリマー中の親水性と疎水性のバランスが重要であるため、本発明に係るモノマーの組合せ及び組成比には熟考を要する。
【0019】
使用可能なモノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−メトキシメチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、N−ビニルピロリドン、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、メタクリロイル−L−アラニンメチルエステル、アクリロイル−L−プロリンメチルエステルなどが挙げられる。
【0020】
また、放射線照射後に生成したポリマーがゲル中を拡散・移動しないように、1分子中に不飽和結合を2つ以上有するモノマーが少なくとも1種類含まれることが好ましい。このような多官能性モノマーとしては、メチレンビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。エチレングリコールのユニット数は、1,2,3,4,9,14,23のものがあり、中でも、好ましいのは、溶解性の観点からユニット数が9以上の水溶性のものである。上述のモノマーの中には、水に溶解し難いものもあるが、ゲル中に均一に分散していて、放射線照射前のゲル全体が透明であればよい。さらに均一分散性を高めるためには、アルコールなどの有機溶剤を5%以下であれば添加してもよい。
【0021】
本発明に係る放射線線量計用ゲルを得るためのゲル化剤としては、アガロース、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ゼラチン等の天然高分子が挙げられる。天然高分子の分子量は、溶液(2)の調製し易さ、形成するゲルの安定性などを考えると、1,000〜1,000,000程度が好ましい。ゲルを形成するための結合としては、共有結合、クーロン力結合、水素結合、配位結合、及び物理的絡み合いなどがあるが、いずれの結合方法でもよく、ゲルに放射線を照射したあとの温度変化に対し安定した結合であればよい。
【0022】
本発明では更に、放射線重合反応を促進して放射線感受性を高めるために、溶液(1)に、アスコルビン酸やテトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロリド(THPC)などの脱酸素剤を添加することが望ましい。さらにまた、ゲル化剤として使用する天然高分子の種類に応じて、大容量の均一なゲルを形成させるために、(1)と(2)の混合溶液中のpHを緩やかに中性から酸性に変化させるグルコノ−δ−ラクトンなどのpH調整剤を添加することが好ましい。
【0023】
尚、本発明の実施に際して、着色剤、ハイドロキノン等のフリーラジカル捕捉剤、グアイアズレン等の紫外線吸収剤が必要に応じて用いられる。
【0024】
本発明の線量計用ゲルは、容器に充填して放射線線量計、例えばファントムとすることができる。容器はMRIに感応せず、放射線を透過し、耐溶剤性、気密性等を有していれば特に制限はなく、その材質はガラス、アクリル樹脂、ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが好ましい。容器が透明であれば、MRIのみならず、白濁度の3次元計測が可能な光学CTを使用することで、3次元線量分布を測定できる。また、容器に充填した後、窒素ガス等で置換してもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ここでは、ゲル化剤として、食品添加物の多糖類であり、ゲル化温度とゲル融解温度の差が大きい脱アシル型ジェランガム(伊那食品化学工業製)を用いて作製したが、本発明はこれら下記実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0026】
2gのメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA、和光純薬工業製)、2gのトリエチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート(TGMEMA、Polysciences製)、2gのポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール数が9つ、9G、新中村化学工業製)、0.114gのテトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロリド(THPC、和光純薬工業製)、0.356gのグルコノ−δ−ラクトン(GL、和光純薬工業製)を43.53gの脱イオン水に溶解し、溶液(1)を調製した。また、0.4gのジェランガムを49.6gの脱イオン水に95℃で溶解し、溶液(2)を調製した。約40℃まで徐冷した溶液(2)を溶液(1)と十分に混合した後、100mLのPETボトルに流し入れ、冷暗所に置いてゲル化させた。得られた放射線線量計用ゲルに、放射線治療装置「サイバーナイフ」を用いて、サンプル中央付近に球状(直径10mm)の標的領域を設定し、X線を照射した。
【0027】
ここで、図1を参照する。図1は、実施例1で作製した放射線線量計用ゲルの照射後の写真を示す。左側の写真は、室温で保管した状態のゲルである。右側の写真は、10℃で保管した状態のゲルである。室温では、10Gy以上の標的領域が白濁、その周辺部(10Gy未満の線量域)がうっすらと白くなっていることを目視で確認できた。MRI測定により、想定した線量分布と標的領域の一致を確認した。次に、本照射サンプルを10℃の冷蔵庫内に30分保管すると、10Gy以上の標的領域が白濁、その周辺部(10Gy未満の線量域)が透明になっていることを目視で確認できた。室温(25℃)に放置しておくと、上記周辺部は、再びうっすらと白くなった。
<実施例2>
【0028】
2.2gのHEMA、0.8gのTGMEMA、3gの9G、0.114gのTHPC、0.356gのGLを43.53gの脱イオン水に溶解し、溶液(1)を調製した。また、0.4gのジェランガムを49.6gの脱イオン水に95℃で溶解し、溶液(2)を調製した。実施例1と同様の手順でゲル化させた後、放射線照射を行った。
【0029】
室温では、10Gy以上の標的領域が白濁、その周辺部(10Gy未満の線量域)がうっすらと白くなっていることを目視で確認できた。MRI測定により、想定した線量分布と標的領域(白濁領域)の一致を確認した。次に、本照射サンプルを10℃の冷蔵庫内に30分保管すると、10Gy以上の標的領域が白濁、その周辺部(10Gy未満の線量域)が透明になっていることを目視で確認できた。室温(25℃)に放置しておくと、上記周辺部は、再びうっすらと白くなった。
【0030】
次に、上述の実施例2を基に、白濁状態と透明状態間の変化の温度応答性について、図2を参照して説明する。図2は、実施例2と同じ条件で調製した溶液を分光高度測定用セルに流し込みゲル化させた後、γ線を照射したサンプルの10℃と40℃での透過率(波長660nm)を光学密度に変換し、プロットしたグラフである。
【0031】
実施例2と同じ条件で調製した溶液(溶液(1)と(2)の混合溶液)を光路長1cmの分光光度測定用セルに流し込みゲル化させた後、コバルト60線源からのγ線を所定線量照射した。次いで、照射後のゲルの透過率(波長660nm)を10℃と40℃で測定した。そして、透過率を光学密度に変換し、線量に対してプロットした。図2から理解されるように、10℃におけるゲルの光学密度は、3Gyで0.1、5Gyで0.25を示した後、線量増加に伴い急激に増加し、10Gyで約3に達した。一方、40℃におけるゲルの光学密度は、わずか1Gyから増加し始め、7Gyで3に達した。光学密度が高いほど、ゲルが白濁していることを示しており、10℃では、7Gyより高い線量のゲルが、40℃では2Gyより高線量のゲルが白濁した。従って、7Gy以下の線量を照射したゲルは、10℃で透明状態、40℃で白濁状態を示す、温度応答性ゲルであることが分かった。このように線量を調節することで、外部温度の変化に追従して可逆的な白濁と透明を示す温度応答性ゲルを形成できたため、図1の写真に見られるような視認性の変化が発現した。
<実施例3>
【0032】
2gのTGMEMA、0.5gの9G、0.114gのTHPC、0.356gのGLを46.53gの脱イオン水に溶解し、溶液(1)を調製した。また、0.4gのジェランガムを49.6gの脱イオン水に95℃で溶解し、溶液(2)を調製した。実施例1と同様の手順でゲル化させた後、放射線照射を行った。
【0033】
室温では、10Gy以上の標的領域が白濁、その周辺部(10Gy未満の線量域)がうっすらと白くなっていることを目視で確認できた。MRI測定により、想定した線量分布と標的領域(白濁領域)の一致を確認した。次に、本照射サンプルを10℃の冷蔵庫内に30分保管すると、10Gy以上の標的領域が白濁、その周辺部(10Gy未満の線量域)が透明になっていることを目視で確認できた。室温(25℃)に放置しておくと、上記周辺部は、再びうっすらと白くなった(いずれも図示せず)。
【比較例】
【0034】
<比較例1>
(周囲に白濁が発生せず、紛らわしいため、もともとの<比較例1>は削除しました。)
【0035】
2gのHEMA、0.2gの9G、0.114gのTHPC、0.356gのGLを43.53gの脱イオン水に溶解し、溶液(1)を調製した。また、0.4gのジェランガムを49.6gの脱イオン水に95℃で溶解し、溶液(2)を調製した。実施例1と同様の手順でゲル化させた後、放射線照射を行った。
【0036】
図3に、比較例1で作製した放射線線量計用ゲルの照射後の写真を示す。10℃〜40℃で目視上の変化なく、うっすらと白濁した状態のままであった。室温では、10Gy以上の標的領域が白濁、及びその周辺部(10Gy未満の線量域)もうっすらと白濁していることを目視で確認できた。MRI測定により、想定した線量分布と標的領域の一致を確認した。図3の紙面に向かって右側の写真からわかるように、本照射サンプルは、10℃の冷蔵庫内に30分保管しても、40℃まで昇温しても、上記周辺部はうっすらと白濁したままであった。なお、10℃では、写真の背景の関係で、室温の状態よりも全体が白っぽく見えているが、実際は室温の状態とさほど変化がなかった。
【0037】
実施例1乃至3、及び比較例1から明らかなように、選択するモノマーの種類及び組成比を制御することで、本発明に係る放射線線量計用ゲルを得ることができた。従って、本発明に係る放射線線量計用ゲルは、高感度に3次元線量分布を測定できるのみならず、温度応答機能により標的部分及びその周辺部分の視認性を制御できる新規なポリマーゲル線量計となる。なお、以上の説明において使用される溶液(1)、溶液(2)の表現は、特に限定的に使用されない限り、それぞれ、単に2種類以上のモノマーを混合した溶液、ゲル形成可能なゲル化剤を含む溶液を分かり易く区別するために使用したものであり、特定の化合物を含む意味ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定線量の放射線照射を受けたとき白濁するゲルであって、該ゲルの内、前記所定線量より大きな特定の線量以上の放射線照射を受けて白濁するゲル部分(A)は、外部温度の低下にかかわらず前記白濁の状態を保持し、前記所定線量より大きな特定の線量未満の放射線照射を受けて白濁するゲル部分(B)は、外部温度の低下に伴い次第に白濁から透明の状態に変化することを特徴とする放射線線量計用ゲル。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線線量計用ゲルにおいて、前記ゲルは、放射線照射に伴い重合可能な2種類以上のモノマーを含む溶液(1)と、高含水率ゲルの形成が可能なゲル化剤を含む溶液(2)から調製されたものであることを特徴とする放射線線量計用ゲル。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線線量計用ゲルにおいて、前記2種類以上のモノマーの重合反応から得られる共重合体ポリマーが、0℃〜50℃の範囲の外部温度変化に伴い水の存在下で相転移を示すことを特徴とする放射線線量計用ゲル。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の放射線線量計用ゲルにおいて、前記モノマーを含む溶液(1)は、炭素−炭素不飽和結合を1つ以上有する化合物を2種類以上含み、溶媒に溶解した溶液であることを特徴とする放射線線量計用ゲル。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の放射線線量計用ゲルにおいて、ゲル化剤を含む溶液(2)は、1種類又は2種類以上の天然有機高分子を溶媒に、ゲル化可能な濃度で溶解した溶液であることを特徴とする請求項1〜3に記載の放射線線量計用ゲル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の放射線線量計用ゲルにおいて、前記ゲルに、少なくとも脱酸素剤及びpH調整剤のいずれか一方が添加されていることを特徴とする放射線線量計用ゲル。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の放射線線量計用ゲル、及び該ゲルを充填可能な透明容器から成る放射線線量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−2669(P2012−2669A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137991(P2010−137991)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(591031430)株式会社千代田テクノル (22)
【Fターム(参考)】