説明

放射線遮蔽コンクリート

【課題】通常のコンクリートに比較して放射線に対する遮蔽性能に優れてその所要厚を軽減でき、しかも安価に製造し施工し得る有効適切な放射線遮蔽コンクリートを提供する。
【解決手段】コンクリートに鉛成分を含むガラス素材としての廃ブラウン管を粉砕して調製したガラスカレットを配合する。ガラスカレットを粗カレットおよび細カレットとして調製し、それら粗カレットおよび細カレットをそれぞれ粗骨材の一部および細骨材の一部として配合する。ガラスカレットを粉体カレットとして調製して混和材としても配合する。コンクリート全体に対するガラスカレット全体の総配合量を50〜65%の範囲に設定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線に対する遮蔽性能に優れるコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、コンクリートは基本的に放射線に対する遮蔽機能を有することから原子力関連施設や放射線を取り扱う各種施設において建屋の躯体や遮蔽壁の構成材料として広く使用されている。
しかし、通常のコンクリートはより高比重の遮蔽材料(鉛に代表される)に比較すれば遮蔽性能は十分ではないことから、所望の遮蔽性能を確保するためには所要厚が数十cmから1mにも及ぶことが通常であり、一般的な建物の躯体を施工する場合に比較して施工性やコストの点で問題も多い。
【0003】
そのため、コンクリートの遮蔽性能を高めるための手法として、たとえば特許文献1に示されるように鉛を重量骨材として配合したり、特許文献2に示されるように中性子に対する遮蔽性能を有する特殊な骨材を用いることが提案されており、これらによれば所要厚を多少は軽減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−38465号公報
【特許文献2】特開2008−39453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように骨材として鉛や特殊材料を用いることはかなりのコスト増となることが不可避であって現実的ではなく、広く普及するに至っていない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は通常のコンクリートに比較して放射線に対する遮蔽性能に優れてその所要厚を軽減し得るばかりでなく、安価に製造し施工し得る有効適切な放射線遮蔽コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、テレビ放送の地上デジタル化に伴って旧式のアナログテレビが多量に廃棄処分されること、および廃棄処分されるアナログテレビにおけるブラウン管には鉛を含有するガラスが使用されていることに着目してなされたものである。
すなわち、今後廃棄処分される旧式のアナログテレビは1800万台、廃棄物としての廃ブラウン管の総量は23万トンにも及ぶものと想定されており、それを処分するためには多大な費用を要することが社会的な問題ともなっているが、一方において、ブラウン管の素材としてのガラスには通常10数%〜25%程度の鉛成分が含まれていることから、資源の有効利用の観点からはそれを単に廃棄処分するのではなく鉛を回収して再利用(リサイクル)することが必要であると考えられている。
そのような事情から、本発明は廃ブラウン管を粉砕して調製される鉛成分を含む有用なガラス素材としてのガラスカレットを利用して、それをコンクリートに対して骨材や混和材として配合することによって遮蔽性能を向上させるようにしたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、鉛成分を含むガラス素材としての廃ブラウン管を粉砕して調製したガラスカレットを配合してなる放射線遮蔽コンクリートであって、前記ガラスカレットを粗カレットおよび細カレットとして調製し、それら粗カレットおよび細カレットをそれぞれ粗骨材の一部および細骨材の一部として配合してなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記ガラスカレットを粉体カレットとしても調製し、該粉体カレットを混和材としても配合することが考えられる。
【0010】
また、本発明においては、コンクリート全体に対する前記ガラスカレット全体の総配合量を50〜65%の範囲に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射線遮蔽コンクリートは、鉛成分を含むガラスカレットを骨材や混和材としてコンクリートに配合することによって、普通コンクリートに比べて遮蔽性能が向上したものとなり、同等の遮蔽性能を確保するための所要厚を削減することが可能である。
また、本発明の放射線遮蔽コンクリートは、廃棄物としての廃ブラウン管を粉砕したガラスカレットを骨材や混和材として利用するものであるので、骨材や混和材の一部ないし大半を安価に調達可能なガラスカレットに置換可能であり、また上記のように所要厚を削減可能であるから、全体としては普通コンクリートに比べてコストダウンを図ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示すもので、本実施形態の放射線遮蔽コンクリートの配合設計例(2例)および比較のための普通コンクリートの配合設計例を示す図である。
【図2】同、上記各配合によるコンクリート試料に対する圧縮強度試験結果および単位体積質量計測結果を示す図である。
【図3】同、上記各配合によるコンクリート試料に対する放射線遮蔽性能確認試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の放射線遮蔽コンクリートは、廃ブラウン管を粉砕して調製したガラスカレットを骨材や混和材としてコンクリートに配合することを基本とするものであり、ガラスカレットに含まれる鉛成分によって放射線に対する遮蔽性能を向上させたものである。
【0014】
具体的には、廃ブラウン管を粉砕してガラスカレットを調製する際に、粗骨材として利用可能な粒度分布(一般的には5〜20mm)の粗カレットと、細骨材として利用可能な粒度分布(一般的には5mm未満)の細カレットとに分離して、本発明の放射線遮蔽コンクリートを製造する際にそれら粗カレットおよび細カレットをそれぞれ粗骨材の一部および細骨材の一部としてコンクリートに配合することを基本とするものである。
また、粗カレットおよび細カレットを配合することに加えて、細カレットよりもさらに細かく粉体状に破砕した粉体カレットを調製してそれを混和材として配合することも好ましい。
【0015】
本発明の放射線遮蔽コンクリートの他の成分としては、通常のコンクリートと同様に結合材としてセメント(普通セメントあるいは早強セメント)を用いるとともに、必要に応じてフライアッシュその他の適宜の混和材および混和剤を配合すれば良い。
また、粗カレット以外の粗骨材としては砂利等の一般的な材料を使用し、細カレット以外の細骨材としては砂等の一般的な材料を使用すれば良い。
さらに、水/結合材比や空気量もコンクリートとしての基本的な仕様を満たす範囲内で適宜に設定すれば良いし、コンクリート製造のための混練その他の一連の作業もガラスカレットを配合することを除いて通常の普通コンクリートの製造手法により行えば良い。
【0016】
本発明の放射線遮蔽コンクリートの具体的な配合設計例を図1に示す。
図1において配合(1)として示すものは比較例としての普通コンクリートの配合設計例であり、配合(2)および配合(3)として示すものが本発明の実施形態である放射線遮蔽コンクリートとしての配合設計例である。
なお、配合(2)および配合(3)においては、粗骨材の一部として配合する粗カレットをGC1の記号で表示し、細骨材の一部として配合する細カレットをGC2の記号で表示し、混和材として配合する粉体カレットをGC3の記号で表示している
【0017】
配合(1)は、水結合材比(W/B)50.0%、空気量4.5%、各配合材料の単位量は水(W)160kg/m3、普通セメント(CN)272kg/m3、細骨材としての砂(S)776kg/m3、粗骨材としての砂利(G)1040kg/m3、混和材としてフライアッシュ(FA)48kg/m3としたものである。
【0018】
配合(2)は、水結合材比(W/B)40.0%、空気量4.5%、各配合材料の単位量は水(W)160kg/m3、早強セメント(CH)340kg/m3、細骨材としての砂(S)373kg/m3、粗骨材としての砂利(G)250kg/m3、混和材としてフライアッシュ(FA)60kg/m3としたうえで、細骨材としての細カレット(GC2)420kg/m3、粗骨材としての粗カレット(GC1)841kg/m3を配合したものである。
この場合、細骨材全体に対する細カレットの配合割合は 420/(373+420)=53.0% であり、粗骨材全体に対する粗カレットの配合割合は 841/(250+841)=77.1% であり、全骨材に対する細カレットと粗カレットの配合割合は (420+841)/(373+420+250+841)=66.9%である。
また、結合材(セメントおよび混和材)や水も含めたコンクリート全体に対するガラスカレット全体の配合割合は (420+841)/(160+340+373+420+250+841+60)=51.6%である。
【0019】
配合(3)は、水結合材比(W/B)40.0%、空気量4.5%、各配合材料の単位量は水(W)160kg/m3、早強セメント(CH)340kg/m3、細骨材としての砂(S)186kg/m3、粗骨材としての砂利(G)160kg/m3、混和材としてフライアッシュ(FA)60kg/m3としたうえで、細骨材としての細カレット(GC2)629kg/m3、粗骨材としての粗カレット(GC1)841kg/m3を配合し、さらに混和材として粉体カレット(GC3)100kg/m3を配合したものである。
この場合、細骨材全体に対する細カレットの配合割合は 629/(186+629)=77.2% であり、粗骨材全体に対する粗カレットの配合割合は 841/(160+841)=84.0% であり、全骨材に対する細カレットと粗カレットの配合割合は (629+841)/(186+629+160+841)=80.9%である。
また、結合材(セメントおよび混和材)や水も含めたコンクリート全体に対するガラスカレット全体の配合割合は (629+841+100)/(160+340+186+629+160+841+100+60)=63.4%である。
【0020】
図2(a)は上記各配合例のコンクリート試料に対する圧縮強度試験結果を示す。いずれの場合もほぼ同等の圧縮強度を有しているが、配合(1)の普通コンクリートよりもガラスカレットを配合した配合(2)および配合(3)のものの方が若干強度が高くなっていることがわかる。
図2(b)は上記各配合例のコンクリート試料の単位体積質量計測結果を示す。これもほぼ同等であるが、ガラスカレットを配合した配合(2)および配合(3)では配合(1)の普通コンクリートに比べて単位体積質量(比重)が10%程度高くなっていることがわかる。
【0021】
図3は上記各配合によるコンクリート壁体および鉛板材に対する放射線遮蔽性能確認試験結果を示す。
図3から、透過率0.01を満足するに必要な所要厚は鉛板材の場合には約10cm程度であり、配合(1)の普通コンクリートによる場合には約50cmであるのに対し、配合(2)および配合(3)とした本発明の放射線遮蔽コンクリートによる場合には約44cmであり、普通コンクリートと同等の遮蔽性能を確保するための所要厚を10%以上も軽減し得ることが確認できた。
【0022】
以上のように、本発明の放射線遮蔽コンクリートは、鉛成分を含むガラスカレットを骨材や混和材の一部としてコンクリートに配合したことによって普通コンクリートに比べて遮蔽性能が向上したものとなり、したがって同等の遮蔽性能を確保するための所要厚を削減することが可能である。
また、本発明の放射線遮蔽コンクリートは、本来は廃棄物としての廃ブラウン管を粉砕したガラスカレットを骨材や混和材として利用するものであるので、特許文献1や特許文献2に示されるように特殊な骨材を使用する従来の遮蔽コンクリートのように大きくコストアップすることはなく、寧ろ、粗骨材や細骨材、混和材の一部ないし大半を安価なリサイクル品として調達可能なガラスカレットに置換可能であるし、上記のように所要厚を削減できることから、全体としては普通コンクリートに比べてコストダウンを図ることも可能である。
以上のことから、本発明はコンクリートの遮蔽性能を向上させつつコストダウンを図ることが可能であるばかりでなく、廃ブラウン管の処分コストの削減にも寄与し得るし、さらに有用な鉛資源のリサイクルも促進できるものであるから、本発明は放射線遮蔽技術としてもまた資源リサイクル技術としても極めて有効である。
【0023】
なお、本発明において用いるガラスカレットは廃ブラウン管からのリサイクル品であることから、その鉛含有量を厳密に管理し難い場合もあり、また市販の骨材に比べれば粒度分布その他の仕様にも多少のばらつきがあることは不可避である。そのため、本発明の放射線遮蔽コンクリートの最適配合は一概には決定し難く、配合設計に当たっては実際に使用するガラスカレットにおける鉛含有量や粒度分布その他の仕様を事前に十分に調査して、それに応じてコンクリートとしての基本性能を損なうことなく所望の遮蔽性能が得られるような最適な配合設計を行うべきである。
いずれにしても、上記実施形態のように粗カレットおよび細カレットの双方を配合することとしたうえで、必要に応じて粉体カレットも配合するようにして、それらの配合量を適切に設定すれば良い。そのためには上記実施形態において例示した配合例を目安として、全細骨材に対する細カレットの配合割合をたとえば50〜80%程度、全粗骨材に対する粗カレットの配合割合をたとえば80〜85%程度とし、全骨材に対する細カレットと粗カレットの配合割合をたとえば65〜85%程度とすることが好ましいと考えられ、さらに、コンクリート全体に対するガラスカレット全体の配合割合をたとえば50〜65%程度とすることが好適であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分を含むガラス素材としての廃ブラウン管を粉砕して調製したガラスカレットを配合してなる放射線遮蔽コンクリートであって、
前記ガラスカレットを粗カレットおよび細カレットとして調製し、それら粗カレットおよび細カレットをそれぞれ粗骨材の一部および細骨材の一部として配合してなることを特徴とする放射線遮蔽コンクリート。
【請求項2】
請求項1記載の放射線遮蔽コンクリートであって、
前記ガラスカレットを粉体カレットとして調製し、該粉体カレットを混和材として配合してなることを特徴とする放射線遮蔽コンクリート。
【請求項3】
請求項1または2記載の放射線遮蔽コンクリートであって、
コンクリート全体に対する前記ガラスカレット全体の総配合量を50〜65%の範囲に設定してなることを特徴とする放射線遮蔽コンクリート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−79876(P2013−79876A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220286(P2011−220286)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】