説明

放射線防護衣

【課題】重ね合わされた前身頃の面ファスナーによる貼り付け、固定が確実であるとともに着脱が容易であること、さらには、コート型の放射線防護衣におけるベルト(防護衣の上から絞めるアウターベルト)及びその使用を不要とすること。
【解決手段】上側に重ね合わされる前身頃2は、放射線防護衣1のウェストないし腰の位置において該前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから横方向に張り出す張り出し部2bを備え、かつ、放射線防護衣1のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部2bの内面とに、面ファスナー10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線防護衣、詳しくは、診療放射線従事者等が放射線防護のために着用する、放射線防護衣に関する。
【背景技術】
【0002】
診療放射線従事者は、放射線被曝による身体への健康被害を避けるため、高い遮蔽性を有する鉛等を含有した塩化ビニル樹脂等の放射線遮へいシートを用いて製作された放射線防護衣を着用して作業を行っている。
【0003】
従来、知られているコート型の放射線防護衣を図7に示す。この防護衣は、後身頃4と、重ね合わされる左右の前身頃2,3と、該重ね合わされる左右の前身頃を互いに固定するための面ファスナーとを備えており、さらに、ベルト通しに通されたベルトBを備えている。なお、脚の動きに支障を来たさないようにするため、面ファスナーは、裾部から腹部にかけては設けられていない。
着用に際し、上記ベルトBを使用し、絞めつけると、防護衣にシワがよりやすく、繰り返し使用によって、鉛を含有する放射線遮へいシートの劣化、損傷の原因となりやすい。また、着用時にベルトBを締める手間がかかる。また、ベルトBは防護衣本体から外すことができる部品であるため、紛失するおそれもあった。一方、ベルトBを使用せずに着用する場合もあるところ、その場合、作業中、脚を開き気味にしゃがんだとき等に、前身頃の重ね合わせ部分の裾部がはだけるとともに、ウェストないし腰付近に設けてある面ファスナーの固定部に負荷がかかり、重ね合わされて貼り付いていた前身頃が該部分で剥がれやすいという問題があった。
なお、コート型の放射線防護衣としては、特許文献1に記載のとおり、防護衣の内面にインナーベルトを設けたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3155268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の放射線防護衣の不都合を考慮してなされたもので、前記のような前身頃を重ね合わせて着用する放射線防護衣において、重ね合わされた前身頃の面ファスナーによる貼り付け、固定が確実であるとともに着脱が容易であること、さらには、コート型の放射線防護衣におけるベルト(防護衣の上から絞めるアウターベルト)及びその使用を不要とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)後身頃と、重ね合わされる左右の前身頃と、該重ね合わされる左右の前身頃を互いに固定するための面ファスナーとを備えた放射線防護衣であって、
(a)上側に重ね合わされる前身頃は、前記放射線防護衣のウェストないし腰の位置において該前身頃の縦端縁の基本ラインから横方向に張り出す張り出し部を備え、かつ、
(b)前記放射線防護衣のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃の縦端縁の基本ラインから脇部側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、前記張り出し部の内面とに、前記面ファスナーを備えている、
ことを特徴とする放射線防護衣である。
(2)前記上側に重ね合わされる前身頃の、少なくとも最内層及び最外層は、継目等の接続部を介することなくそのまま延びて前記張り出し部の最内層及び最外層を形成しているものである。
(3)前記放射線防護衣のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃の縦端縁の基本ラインから脇部側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、前記張り出し部の内面とに備えられた前記面ファスナーは、両内面間において連続する1枚の面ファスナーで構成されているものである。
(4)前記放射線防護衣は、コート型であるものである。
【発明の効果】
【0007】
(1)放射線防護衣のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃の縦端縁の基本ラインから脇部側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部の内面とに、面ファスナーを備えているため、該張り出し部の面積が増加する分、面ファスナーによる貼り付け力を増大させることができ、ウェストラインないし腰の位置における面ファスナーによる貼り付け、固定が確実となり、剥がれにくい。重量が重い放射線防護衣をウェストラインないし腰の位置において確実に支えることができるため、フィット感・ホールド感、着心地がよい。しかも、上記構造は、ウェストラインないし腰の位置におけるものであるため、種々の身体動作がしにくくなることはない。
また、張り出し部によって、服の着脱がしやすい。すなわち、張り出し部が、服を着る時は、張り出し部を掴んで腰部付近をしっかりホールドするように固定ができ、また、適正位置に前身頃を重ね合わせて固定する目安となり、脱ぐ時は、前身頃を手で掴んで剥がすためのとっかかりとなり、着脱が容易に行われる。
(2)上側に重ね合わされる前身頃の、少なくとも最内層及び最外層は、継目等の接続部を介することなくそのまま延びて張り出し部の最内層及び最外層を形成している構成により、張り出し部は前身頃の一部分であり、別部材としての張り出し部を付加して接続、取り付けるものではないため、部品が増えることもなく、製作しやすい。また、丈夫で、張り出し部が取れたり、緩んだりすることがなく、耐久性に優れる。張り出し部を別途取り付ける場合には生じる出っ張りがなく、邪魔にならず、外観のデザインも良好である。
(3)放射線防護衣のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃の縦端縁の基本ラインから脇部側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部の内面とに備えられた面ファスナーは、両内面間において連続する1枚の面ファスナーで構成されている構成により、製作が簡便であり、かつ、面ファスナーが張り出し部とその残余の部分とにまたがるため、張り出し部近傍を補強する効果を奏する。
(4)放射線防護衣は、コート型である構成により、しゃがんだ際に生じやすかった、ウェストラインないし腰の位置における前身頃の面ファスナーの剥がれを防ぐことができる。また、ウェストラインないし腰の位置における面ファスナーによる貼り付け、固定が確実となるため、ベルト(防護衣の上から絞めるアウターベルト)及びその使用が不要となり、これにより、ベルト締め付けによるシワが生じる原因もなくなり、ベルト着用において生じるおそれのある、繰り返し使用による放射線遮へいシートの劣化、損傷を防ぐことができ、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】放射線防護衣1の正面図である。
【図2】放射線防護衣1の上側に重ね合わされる前身頃を開いた状態の正面図である
【図3】放射線防護衣1の正面図である。
【図4】放射線防護衣1の上側に重ね合わされる前身頃を開いた状態の正面図である
【図5】放射線防護衣1の正面図である。
【図6】放射線防護衣1の上側に重ね合わされる前身頃を開いた状態の正面図であるである。
【図7】従来の放射線防護衣の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基いて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1はコート型の放射線防護衣1の正面図、図2は同放射線防護衣1の上側に重ね合わされる前身頃を開いた状態の正面図である。
放射線防護衣1は、前開きのコート型で、互いに重ね合わされる左右前身頃と、後身頃とを有し、裾部は膝近傍まで延びている。袖部はなく、アームホール部5を有している。
前身頃2,3及び後身頃4は、所定の放射線遮蔽性能を有する、鉛等を含有した塩化ビニル樹脂等の放射線遮へいシートを用いて形成され、例えば、該放射線遮へいシートを中間層に有するとともに、該中間層を保護する最内層及び最外層(塩化ビニル樹脂等のシート材)を有して形成される(図示省略)。
首周り部を含む前身頃2,3、後身頃4及びアームホール部5の各縁部は、通常、合成樹脂シート等の適宜素材を用いた縁取りテープによって、縫着等の手段で、補強を兼ねた縁取り処理がなされる。
【0011】
上側に重ね合わされる前身頃2は、放射線防護衣1のウェストないし腰(腰骨)の位置において該前身頃2の縦端縁(縦方向にまっすぐ延びる端縁部)の基本ライン2aから横方向に張り出す張り出し部2bを備えている(1箇所)。張り出し部2bの基本形状は、通常、矩形ないし台形、半円形、半小判形等である。張り出し部2bの大きさは、張り出し長さL1:6〜14cm、中間部における幅W:8〜14cm程度である。
放射線防護衣1を、放射線遮へいシートを中間層に有するとともに、該中間層を保護する最内層及び最外層を有して形成する場合、上側に重ね合わされる前身頃2の、少なくとも最内層及び最外層は、継目等の接続部を介することなくそのまま延びて張り出し部2bの最内層及び最外層を形成している構成が望ましい。この場合、張り出し部2bには、上記中間層の放射線遮へいシートを配置してもしなくてもよいが、配置しない方が、該張り出し部2b又はその残余の部分との境界付近における上記中間層の傷みを生じることがないので、望ましい。
【0012】
放射線防護衣1のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部2bの内面とには、面ファスナー10が設けられている。この面ファスナー10は、上側に重ね合わされる前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部2bの内面の、両内面間において連続する1枚の面ファスナーで10で構成されている。該面ファスナー10は、前記最内層に縫い付けることにより固定されている。該面ファスナー10は、全体として横長の矩形状で、通常、縦方向長さ(幅):8〜12cm、前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けての長さL2:8〜15cm程度である。
下側に重ね合わされる前身頃3の外面には、上記面ファスナー10に対応して、これと貼り合わされる面ファスナー10aが、前記最外層に縫い付けることにより固定されている。該面ファスナー10aは、全体として横長の矩形状で、前身頃3の縦端縁の基本ライン3aから脇部6近傍まで延びている。
また、前記面ファスナー10の上方(防護衣の内面)には、上側に重ね合わされる前身頃2の縦端縁の基本ライン2aに沿って帯状をなす面ファスナー11が設けられ、下側に重ね合わされる前身頃3の外面には、該面ファスナー11に対応して、これと貼り合わされる面ファスナー11a,11bが、縦方向に複数段、前記最外層に縫い付けることにより固定されている。面ファスナー11a、11bは、夫々全体として横長の矩形状でその横方向長さは、前記面ファスナー11の幅よりも大であり、このため、種々の着用者の体型に対応しやすいようになっている。
【0013】
なお、上記放射線防護衣1の内面側には、登録実用新案公報第3155268号公報の図1,5,9に記載されているようなインナーベルトを設けることができる。
すなわち、例えば、「放射線防護衣の内面側である、後身頃のウェストラインの位置に、前身頃と後身頃の境界付近となる各脇部において両端部を縫い付けて固定した背面インナーベルトと、
前身頃と後身頃の境界付近となる各脇部において両端部を固定した(又は着脱自在に取り付けた)前面インナーベルトと、を備えた」構成を採用することができる。
このようなインナーベルトを設けると、よりフィット感、ホールド感を向上させることができる。
【実施例2】
【0014】
図3は巻スカート型の放射線防護衣1の正面図、図4は同放射線防護衣1の上側に重ね合わされる前身頃を開いた状態の正面図である。
放射線防護衣1は、前開きの巻スカート型で、互いに重ね合わされる左右前身頃と、後身頃とを有し、裾部は膝近傍まで延びている。
以下、実施例1との相違点を主に説明する。
【0015】
上側に重ね合わされる前身頃2は、放射線防護衣1のウェストないし腰(腰骨)の位置である上端縁部において該前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから横方向に張り出す張り出し部2bを備えている(1箇所)。張り出し部2bの基本形状は、通常、矩形ないし台形、半円形、半小判形等である。張り出し部2bの大きさは、張り出し長さL1:6〜14cm、中間部における幅W:8〜14cm程度である。
【0016】
面ファスナー10は、上側に重ね合わされる前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部2bの内面の、両内面間において連続する1枚の面ファスナーで10で構成されている。該面ファスナー10は、防護衣1の上端縁部に沿って、前記最内層に縫い付けることにより固定されている。該面ファスナー10は、全体として横長の矩形状で、通常、縦方向長さ(幅):8〜12cm、前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けての長さL2:20〜35cm程度である。
下側に重ね合わされる前身頃3の外面には、上記面ファスナー10に対応して、これと貼り合わされる面ファスナー10aが、防護衣1の上端縁部に沿って、前記最外層に縫い付けることにより固定されている。該面ファスナー10aは、全体として横長の矩形状で、前身頃3の縦端縁の基本ライン3aから脇部6近傍まで延びている。該面ファスナー10aは、通常、縦方向長さ(幅):8〜12cm、前身頃3の縦端縁の基本ライン3aから脇部6側に向けての長さ:25〜40cm程度である。
【実施例3】
【0017】
図5はベスト型(ないしハーフコート型)の放射線防護衣1の正面図、図6は同放射線防護衣1の上側に重ね合わされる前身頃を開いた状態の正面図である。
放射線防護衣1は、前開きのベスト型(ないしハーフコート型)で、互いに重ね合わされる左右前身頃と、後身頃とを有し、裾部は腰部よりやや下方で停止している。
以下、実施例1との相違点を主に説明する。
【0018】
上側に重ね合わされる前身頃2は、放射線防護衣1のウェストないし腰(腰骨)の位置(防護衣の下端縁部(裾部)よりやや上方)において該前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから横方向に張り出す張り出し部2bを備えている(1箇所)。張り出し部2bの基本形状は、通常、矩形ないし台形、半円形、半小判形等である。張り出し部2bの大きさは、張り出し長さL1:6〜14cm、中間部における幅W:8〜14cm程度である。
【0019】
面ファスナー10は、上側に重ね合わされる前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、張り出し部2bの内面の、両内面間において連続する1枚の面ファスナーで10で構成されている。該面ファスナー10は、防護衣1の下端縁部に沿って、前記最内層に縫い付けることにより固定されている。該面ファスナー10は、全体として横長の矩形状で、通常、縦方向長さ(幅):8〜12cm、前身頃2の縦端縁の基本ライン2aから脇部6側に向けての長さL2:14〜22cm程度である。
下側に重ね合わされる前身頃3の外面には、上記面ファスナー10に対応して、これと貼り合わされる面ファスナー10aが、防護衣1の下端縁部に沿って、前記最外層に縫い付けることにより固定されている。該面ファスナー10aは、全体として横長の矩形状で、前身頃3の縦端縁の基本ライン3aから脇部6に向けて延びている。該面ファスナー10aは、通常、縦方向長さ(幅):8〜12cm、前身頃3の縦端縁の基本ライン3aから脇部6側に向けての長さ:17〜25cm程度である。
【符号の説明】
【0020】
1 放射線防護衣
2 前身頃
2a 前身頃2の縦端縁の基本ライン
2b 張り出し部
3 前身頃
4 後身頃
5 アームホール部
6 脇部
10 面ファスナー
10a 面ファスナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後身頃と、重ね合わされる左右の前身頃と、該重ね合わされる左右の前身頃を互いに固定するための面ファスナーとを備えた放射線防護衣であって、
(a)上側に重ね合わされる前身頃は、前記放射線防護衣のウェストないし腰の位置において該前身頃の縦端縁の基本ラインから横方向に張り出す張り出し部を備え、かつ、
(b)前記放射線防護衣のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃の縦端縁の基本ラインから脇部側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、前記張り出し部の内面とに、前記面ファスナーを備えている、
ことを特徴とする放射線防護衣。
【請求項2】
前記上側に重ね合わされる前身頃の、少なくとも最内層及び最外層は、継目等の接続部を介することなくそのまま延びて前記張り出し部の最内層及び最外層を形成している、請求項1に記載の放射線防護衣。
【請求項3】
前記放射線防護衣のウェストラインないし腰の位置において、上側に重ね合わされる前身頃の縦端縁の基本ラインから脇部側に向けて所定長さ延びる領域の内面と、前記張り出し部の内面とに備えられた前記面ファスナーは、両内面間において連続する1枚の面ファスナーで構成されている、請求項1又は2に記載の放射線防護衣。
【請求項4】
前記放射線防護衣は、コート型である請求項1,2又は3記載の放射線防護衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−132127(P2012−132127A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286770(P2010−286770)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(591014008)株式会社マエダ (2)
【Fターム(参考)】