説明

放熱用シート材料およびその製造方法並びにそれを用いた放熱器

【課題】 限定された放熱用空間に応じた寸法形状に作成でき、かつ、効果的に放熱を行うことができる放熱用シート材料およびその製造方法並びにそれを用いた放熱器を提供する。
【解決手段】 放熱用シート材料は、接着材を介して複数枚の膨張黒鉛シートを相互に積層し、該積層された膨張黒鉛シートを加圧して高温加熱することにより接着材を炭化させることらより作成される。放熱器は、放熱用シート材料を切断または型抜きすることにより形成された放熱シート部により構成され、該放熱シート部は放熱すべき発熱体の寸法形状および/または放熱器用空間に対応した寸法形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器、より具体的にはコンピュータのCPUやパワートランジスタ等における放熱を行うための放熱用シート材料、その製造方法、並びにそれを用いた放熱器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、パーソナルコンピュータの普及は著しく、特にラップトップ型パーソナルコンピュータはそのコンパクト性や可搬性等の利便性によってパーソナルコンピュータの主流になりつつある。このため、より高性能でかつ種々のユニットをより高い集積度で組み込まれたモデルが次々と開発され、販売されている。
【0003】一方、電子機器において、放熱は電子素子の熱暴走を避けるために必須の要件である。これに対し、種々のユニットをより高い集積度で組み込んでいるために放熱器用の空間を確保することが困難になっており、外面に放熱フィンを備えた周知のアルミニウム合金製の放熱器では対応しきれなくなっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、限定された放熱用空間に応じた寸法形状に作成でき、かつ、効果的に放熱を行うことができる放熱用シート材料およびその製造方法並びにそれを用いた放熱器を提供することにある。
【0005】本発明の別の目的は、膨張黒鉛シートが有する良好な熱伝導特性を損なうことなく作成できる放熱用シート材料およびその製造方法並びにそれを用いた放熱器を提供することにある。
【0006】本発明のまた別の目的は、発熱体からの熱の分散および/または熱の放出を効果的に行わせ、それにより電子機器の内部に蓄熱されてしまうのを回避できる放熱器を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明において用いられる膨張黒鉛シートは、グラファイトシートやカーボンシートと称されている汎用のシート材料で、膨張黒鉛を加熱して高温加熱することによってシート状に成形されたものである。膨張黒鉛シートは層状結晶構造を有しており、面方向において、周知の放熱器に用いられるアルミニウム合金に匹敵する大きな熱伝導率を有する一方、厚さ方向における熱伝導率は面方向の約1/30という熱伝導特性を有するものである。汎用製品としての膨張黒鉛シートは、その製造時における歩留まりのために、板厚0.5〜1.0mm程度の相対的に薄厚のものが主流となっておりかつ安価に販売されている。それ故、本発明で用いられる膨張黒鉛シートは容易にかつ安価に入手できるこのような厚さの膨張黒鉛シートである。
【0008】本発明による放熱用シート材料は、複数枚の相互に積層された膨張黒鉛シートと、該積層された膨張黒鉛シート間に介在された接着剤を炭化処理することにより形成された炭化接着層とから構成される。本放熱用シート材料は、炭化接着層により、積層された膨張黒鉛シート間における良好な熱伝導を行わせることができ、そして、膨張黒鉛シートの積層体により構成されていることにより、コンピュータのCPUやパワートランジスタ等のような発熱体からの熱を放熱するのに十分な能力を備えることができ、かつ、汎用の膨張黒鉛シートによって安価に作成することができる。
【0009】本発明による放熱用シート材料はまた、積層された膨張黒鉛シート間に炭化接着層と共にカーボン繊維を介在させてもよい。本放熱用シート材料は、カーボン繊維が介在されていることにより、強度や面方向における寸法安定性等を向上させることができる。
【0010】次に、本発明による放熱用シート材料の製造方法は、接着剤を介して複数枚の膨張黒鉛シートを相互に積層し、次いで、積層された膨張黒鉛シートを高温加熱することで接着剤を炭化させて炭化接着層を作成することにより遂行される。これにより、膨張黒鉛シートは炭化接着層により相互に結合されて一体化すると共に、膨張黒鉛シート間における熱伝導を良好に遂行させることができる。
【0011】また、本発明による放熱用シート材料の製造方法は、接着剤の炭化処理を加圧状態で行い、そして、炭化処理された膨張黒鉛シートを冷却させたのちにこの加圧状態を取り除いてもよい。これにより、接着剤の炭化処理時に発生するガスや膨張黒鉛シート中の空気の熱膨張等によって膨張黒鉛シートの寸法形状に歪みが発生するのを防止することができる。
【0012】更に、本発明による放熱用シート材料の製造方法は、接着剤の炭化処理を非加圧状態で行うこともできる。積層された膨張黒鉛シートに圧力を加えていない状態での炭化処理は、加圧状態に比べてその処理時間を相対的に短縮でき、かつ、膨張黒鉛シートを押圧するための冶具等を必要としないため、冷却時間も短縮できる利点を有する。その反面、接着剤の炭化処理時の発生ガスや膨張黒鉛シート中の空気の熱膨張等によって膨張黒鉛シートの寸法形状に歪みが発生する虞を完全になくすことはできない。そのため、炭化処理後に、膨張黒鉛シートをプレス機やローラープレス等で圧縮することにより膨張黒鉛シートの寸法形状の歪みを整形している。
【0013】本発明による放熱器は、上述の如く構成または製造される放熱用シート材料を切断または型抜きすることにより形成された放熱シート部により構成される。放熱シート部は放熱すべき発熱体の寸法形状および/または放熱器用空間に対応した寸法形状を有している。本発明の放熱器は、膨張黒鉛シートの積層体を切断または型抜きすることにより作成されるため、CPUやパワートランジスタ等の発熱体の放熱に十分な放熱能力を備えることができ、更に、汎用の膨張黒鉛シートを用いることによって安価に作成できるだけでなく、発熱体の寸法形状および/または放熱器用空間に応じた寸法形状に適宜に形成することができる。
【0014】また、本発明による放熱器は、放熱シート部に、熱伝導性の良好な金属材料により形成された少なくとも1本の柱状または管状の放熱柱状部を備え、そして、少なくとも積層された膨張黒鉛シートの各々に接合するように放熱柱状部を埋設させてもよい。これにより、面方向に対して相対的に熱伝導率の低い厚さ方向における膨張黒鉛シートの熱伝導を放熱柱状部を介して行うことができ、より効果的な放熱を行うことができる。
【0015】更に、本発明による放熱器は、放熱柱状部の少なくとも一端を放熱シート部から外方に突出するように放熱柱状部を立柱させてもよく、これにより、放熱フィンとしての機能を遂行させることができる。また、この放熱柱状部はその表面をローレット加工、腐食処理またはその他の適当な手段によって粗面化し、そして、この粗面化された表面に黒鉛またはカーボンの粉末或いは膨張黒鉛シートからなる熱伝導層を付着してもよく、これにより、放熱柱状部と各膨張黒鉛シートの間の熱伝導を確実に遂行させることができる。
【0016】更に、本発明による放熱器は、放熱されるべき発熱体の発熱中心位置に対応した位置および/または外部への放熱位置の近傍に放熱柱状部を配設することもできる。発熱体からの熱はその発熱中心位置でただちに各膨張黒鉛シートへ伝導される一方、外部への放熱位置で各膨張黒鉛シートへ伝導されることにより、より効率の良い放熱を行うことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明の実施例による放熱用シート材料は、図1に示すように、複数枚の相互に積層された膨張黒鉛シート1と、積層された膨張黒鉛シート1間に介在される炭化接着層2とから構成される。
【0018】膨張黒鉛シート1には、前述した安価な汎用製品としての薄厚の膨張黒鉛シートを用いている。積層する膨張黒鉛シート1の枚数は、コンピュータのCPUやパワートランジスタ等のような発熱体M(図6〜7参照)からの熱を放熱するのに十分な能力を備えるように適宜に選定される。
【0019】膨張黒鉛シート1間に設けられる炭化接着層2は接着剤を炭化処理することにより形成される。より具体的には、炭化接着層2は、エポキシ系、ポリエステル系、アクリル系またはゴム系接着剤を膨張黒鉛シート1に塗布し、高温加熱処理して接着剤を炭化させることによって形成される。この接着剤の塗布は、炭化処理後の厚さが均一となるように、膨張黒鉛シート1の表面に均等に塗布するのが好ましい。
【0020】本実施例の放熱用シート材料は、炭化接着層2が接着剤を炭化処理したものであることにより、膨張黒鉛シート1間が機械的にも熱的にも連続され、熱伝導を効率良く行うことができる。また、膨張黒鉛シート1に汎用の安価な膨張黒鉛シートの積層体により構成されているため、放熱用シート材料の製造コストを低減することができ、かつ、要求される放熱能力に応じていかなる厚さをも有する放熱用シート材料に作成することができる。
【0021】図2は、本発明の別の実施例による放熱用シート材料を示す図で、前述した積層された膨張黒鉛シート1間に炭化処理された炭化接着層2と共にカーボン繊維3が介在されている点を除き、前記実施例と同様に構成される。カーボン繊維3は良好な熱伝導手段として機能すると共に、放熱用シート材料の面方向における強度および寸法安定性を向上させている。
【0022】次に、本発明の実施例による放熱用シート材料の製造方法について以下説明する。
【0023】図3に示すように、複数枚の汎用の膨張黒鉛シート1を、その相互に対面することになる面の少なくとも一方に接着剤2aを塗布したのち、相互に積層する。このとき、図2に示す実施例の放熱用シート材料を製造する場合、接着剤2aを塗布したのちおよび/または塗布する前にカーボン繊維3を配置し、膨張黒鉛シート1を相互に積層する。接着剤2aにはエポキシ系、ポリエステル系、アクリル系またはゴム系接着剤が使用される。
【0024】次いで、図4に示すように、積層された膨張黒鉛シート1の面方向に所定の圧力を加え、所定の温度で所定時間だけ加熱することにより、接着剤2aを炭化させて炭化接着層2を作成する。この炭化のための処理条件は、主として接着剤2aの材質および塗布量によって決定される。
【0025】炭化処理が行われたのち、積層された膨張黒鉛シート1に加えられている圧力は、積層された膨張黒鉛シート1が冷却するまで保持されるのが好ましい。この冷却は、炭化処理中に生じる接着剤2aからのガスおよび/または膨張黒鉛シート1の層状結晶構造中にある空気の熱膨張によって膨張黒鉛シート1および/または炭化接着層2が変形するのを防止できる。
【0026】ここにおいて、接着剤2aの炭化処理は、膨張黒鉛シート1を加圧することなしに加熱処理することにより行うこともできる。非加圧状態で炭化処理を行うことは、膨張黒鉛シート1および/または炭化接着層2の変形を防止することができない反面、炭化処理時間を相対的に短縮でき、加圧装置と加熱装置を併設することによる装置の複雑化およびそれによる装置価格の高騰を回避できる。このため、膨張黒鉛シート1および/または炭化接着層2の変形は、工程の増加を伴うが、炭化処理後に、積層された膨張黒鉛シートをプレス機やローラープレス等で圧縮することにより整形される。
【0027】図5は、本発明の実施例による放熱器を示す図で、本放熱器は、図1または図2の実施例で述べた放熱用シート材料(図示の場合、図1の実施例の放熱用シート材料)を切断または型抜きすることにより形成された放熱シート部4により構成される。放熱シート部4は放熱すべき発熱体Mの寸法形状および/または放熱器用空間(図示なし)に対応した寸法形状を有している。放熱シート部4が放熱用シート材料を切断または型抜きすることによって形成されるため、要求されるいかなる寸法形状、例えば、発熱体Mの寸法形状や放熱器用空間の寸法形状に随意に対応することができる。
【0028】図6は、本発明の別の実施例による放熱器を示す図で、本実施例の放熱器は、少なくとも1本の柱状または管状の放熱柱状部5が放熱シート部4に設けられている点を除き、図5の実施例と同様に構成されている。放熱柱状部5は熱伝導性の良好な金属材料により形成されており、少なくとも積層された膨張黒鉛シート1の各々に接合するように埋設されている。
【0029】埋設された放熱柱状部5は、各膨張黒鉛シート1に厚さ方向へ連続する熱伝導経路を付与することになり、これにより、面方向に対して相対的に熱伝導率の低い厚さ方向における膨張黒鉛シート1の熱伝導を放熱柱状部5を介して行うことができ、より効果的な放熱が可能となる。
【0030】好ましくは、放熱柱状部5は、図6に1点鎖線で示すように、各膨張黒鉛シート1を貫通する孔にその一端を埋設され、他端を放熱シート部4から外方へ適当な高さまで突出するよう設けられる。放熱シート部4から立柱した放熱柱状部5の部分は、外部へ放熱するための放熱フィンとして機能し、より効果的な放熱を行うことができる。
【0031】放熱シート部4上における放熱柱状部5の配設位置は、均等に分布するように配置してもよいが、放熱されるべき発熱体Mの発熱中心位置に対応した位置および/または外部への放熱位置の近傍に配置するのが好ましい。これにより、発熱体Mからの熱はその発熱中心位置でただちに各膨張黒鉛シート1へ伝導され、膨張黒鉛シート1の良好な面方向の熱伝導性によって発熱中心から拡散される一方、外部への放熱位置で各膨張黒鉛シート1へ伝導されることにより、より効率の良い放熱を行うことができる。
【0032】図7は、本発明の更に別の実施例による放熱器を示す図で、本実施例の放熱器は、放熱柱状部5に黒鉛またはカーボンの粉末或いは膨張黒鉛シートの熱伝導層6が設けられている点を除き、図6の実施例と同様に構成されている。
【0033】熱伝導層6は、ローレット加工、腐食処理またはその他の適当な手段によって粗面化された放熱柱状部5の表面に付着される。放熱柱状部5の粗面化された表面は熱伝導層6との接触面積を大きくすることにより、熱伝導層6との間の機械的な付着力を大きくできると同時に、両者間をより大きな熱容量で伝導させることができる。この熱伝導層6の付着は、粗面化された放熱柱状部5の表面との間の機械的な結合以外に、炭化接着層2による膨張黒鉛シート1の結合と同様に、放熱柱状部5の表面(必ずしも粗面化する必要はない。)に接着剤を塗布し、その上にカーボンの粉末或いは膨張黒鉛シートを接着させたのち、接着剤を炭化させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例による放熱用シート材料を示す部分断面斜視図である。
【図2】本発明の別の実施例による放熱用シート材料を示す部分断面斜視図である。
【図3】本発明の実施例による放熱用シート材料の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図4】本発明の実施例による放熱用シート材料の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施例による放熱器を示す部分断面斜視図である。
【図6】本発明の別の実施例による放熱器を示す断面図である。
【図7】本発明の更に別の実施例による放熱器を示す断面図である。
【符号の説明】
1 膨張黒鉛シート
2 炭化接着層
3 カーボン繊維
4 放熱シート部
5 放熱柱状部
6 熱伝導層
M 発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数枚の相互に積層された膨張黒鉛シートと、該積層された膨張黒鉛シート間に介在された接着剤を炭化処理することにより形成された炭化接着層とから構成されることを特徴とする放熱用シート材料。
【請求項2】 前記膨張黒鉛シート間には炭化接着層と共にカーボン繊維が介在されていることを特徴とする請求項1記載の放熱用シート材料。
【請求項3】 接着剤を介して複数枚の膨張黒鉛シートを相互に積層し、該積層された膨張黒鉛シートを高温加熱することにより前記接着剤を炭化させて炭化接着層を作成することを特徴とする放熱用シート材料の製造方法。
【請求項4】 前記接着剤の炭化処理は積層された膨張黒鉛シートを所定の圧力で加圧した状態で行われ、該加圧圧力は炭化処理の行われた膨張黒鉛シートが冷却したのちに取り除かれることを特徴とする請求項3記載の放熱用シート材料の製造方法。
【請求項5】 前記接着剤の炭化処理は非加圧状態で行われ、炭化処理の行われた膨張黒鉛シートは所定の圧力で加圧して所定の寸法形状に整形されることを特徴とする請求項3記載の放熱用シート材料の製造方法。
【請求項6】 前記膨張黒鉛シートは接着剤と共にカーボン繊維を介在させて相互に積層されることを特徴とする請求項3、4または5記載の放熱用シート材料の製造方法。
【請求項7】 請求項1または2記載の放熱用シート材料或いは請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法により製造された放熱用シート材料を切断または型抜きすることにより形成された放熱シート部により構成され、該放熱シート部は放熱すべき発熱体の寸法形状および/または放熱器用空間に対応した寸法形状を有することを特徴とする放熱器。
【請求項8】 前記放熱シート部は熱伝導性の良好な金属材料により形成された少なくとも1本の柱状または管状の放熱柱状部を備えており、該放熱柱状部は少なくとも積層された膨張黒鉛シートの各々に接合するように埋設されていることを特徴とする請求項7記載の放熱器。
【請求項9】 前記放熱柱状部はその少なくとも一端が放熱シート部から外方に突出するように立柱されていることを特徴とする請求項8記載の放熱器。
【請求項10】 前記放熱柱状部の表面はローレット加工、腐食処理またはその他の適当な手段によって粗面化されており、該粗面化された表面には黒鉛またはカーボンの粉末或いは膨張黒鉛シートからなる熱伝導層が付着されていることを特徴とする請求項8または9記載の放熱器。
【請求項11】 前記放熱柱状部は放熱されるべき発熱体の発熱中心位置に対応した位置および/または外部への放熱位置の近傍に配設されていることを特徴とする請求項8、9または10記載の放熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−91453(P2000−91453A)
【公開日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−272462
【出願日】平成10年9月10日(1998.9.10)
【出願人】(592012351)株式会社石野コーポレーション (1)