説明

放電管の製造方法

【課題】ガラスビードと電極との界面におけるボイドの発生を抑制し、且つガスリークの発生を防止することを可能とする放電管の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化処理を行った後に、真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で交流電源34から抵抗加熱部材32を通電し、前記抵抗加熱部材32の抵抗加熱によって発生した熱で電極14、16を加熱させる。これにより、酸化処理工程で酸化面24を形成した際に電極14、16に生成される化学結合の不安定な物質が気体として外部に放出される。ここで、前記加熱処理された電極14、16の酸化面24に対してガラスビード22を熱融着させると、前記気体の発生が抑制されるので、前記酸化面24と前記ガラスビード22との界面に残留するボイドの発生が抑制される。従って、放電管10における気密性や封止強度が向上し、ガスリークの発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を固定したガラスビードによりガラス管の両端部が封止された放電管の製造方法であって、一層詳細には、カメラのストロボ装置等の閃光放電管として好適に用いられる放電管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カメラのストロボ装置等の閃光放電管に用いられる放電管は、キセノン等の希ガス雰囲気中に配置されたガラス管の両端部に対して、電極を固定したガラスビードを用いて気密封止することにより製造される(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、前記電極の一端部は前記ガラス管内に突出し、その中央部は前記ガラスビードによって固定され、その他端部は外部に突出されている。ここで、前記中央部の表面は、前記ガラスビードとの密着性を向上させるために予め酸化処理が施されており、前記電極の酸化面に対して前記ガラスビードを熱融着させることにより、前記電極に対して前記ガラスビードを固定する。
【0004】
【特許文献1】実公平7−18123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術に係る放電管の製造方法では、電極に対してガラスビードを熱融着させる際に、該ガラスビードの熱によって前記電極の酸化面から気体が発生するので、前記ガラスビードが冷却して前記電極に対して前記ガラスビードを固定すると、前記気体がボイドとなって前記電極の酸化面と前記ガラスビードとの界面に残留するに至る。
【0006】
このようなボイドによって、前記ガラスビードと前記電極との間における前記放電管の気密性や封止強度が低下し、ガスリークを発生させるおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ガラスビードと電極との界面におけるボイドの発生を抑制し、且つガスリークの発生を防止することを可能とする放電管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る放電管の製造方法は、ガラス管と、前記ガラス管の両端部に各々配置される2つの電極と、前記各電極を固定し且つ前記ガラス管の両端部と熱融着して該ガラス管の内部を気密封止させる2つのガラスビードとを備える放電管の製造方法において、前記各ガラスビードによって固定される前記各電極の表面を酸化させた後に、真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記各電極に対する加熱処理を行うことを特徴とする。
【0009】
この場合、前記酸化処理を行った後に、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記電極に対する前記加熱処理を行うと、前記電極に付与された熱によって、前記酸化処理の際に形成された化学結合の不安定な物質が気体として外部に予め十分に放出されるので、前記電極の酸化面に対して前記ガラスビードを熱融着させた場合において前記気体の発生が抑制される。従って、前記ガラスビードが冷却されて前記電極に対して該ガラスビードを固定した際に、前記電極の酸化面と前記ガラスビードとの界面に残留するボイドの発生が抑制され、前記放電管における気密性や封止強度が向上し、ガスリークの発生が防止される。
【0010】
また、前記ボイドの発生が抑制されることにより、前記放電管が、外観上、美感に優れたものとなり、商品の品質が向上する。
【0011】
さらに、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記加熱処理が行われるので、加熱によって前記電極の他の部分が酸化されることを防止することが可能となる。
【0012】
なお、前記ボイドとは、前記放電管の気密性、封止強度やガスリークに影響を及ぼす0.15mm以上の直径を有するボイドをいう。
【0013】
ここで、前記加熱処理を抵抗加熱処理とすることにより、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記電極を容易に加熱することが可能となる。なお、前記抵抗加熱処理には、前記電極に接触する抵抗体を直接通電し、該抵抗体からのジュール発熱によって前記電極を直接加熱させる処理方法や、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中に抵抗体を配置し、該抵抗体によって該真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気の全体を加熱し、この熱で前記電極を加熱させる処理方法が含まれる。
【0014】
また、前記加熱処理における加熱温度は750℃〜840℃であり、その加熱時間は2分〜10分であることが好ましい。前記加熱温度が750℃未満であると、前記化学結合の不安定な物質の気化温度よりも低いので、前記気体を前記電極から十分に放出することができない。一方、840℃を越えると、前記化学結合の不安定な物質の気化温度よりも高くなるが、前記電極を構成する物質と、該電極の酸化面を形成する物質との結合構造(結晶構造)が変化して、前記ガラスビードと前記酸化面との密着性が低下し、前記界面における気密性が却って低下する。さらに、前記加熱時間が2分未満であると、前記電極に付与される熱量が少ないので、前記気体を前記電極から十分に放出することができない。
【0015】
さらにまた、前記加熱処理を行った後に、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記各電極の酸化面に前記各ガラスビードを熱融着させて、該各電極に対して前記各ガラスビードを固定することが好ましい。これにより、前記放電管の製造工数を削減して、製造コストを低減することが可能となる。
【0016】
さらにまた、前記各電極に対する前記各ガラスビードの固定処理を行った後に、前記各電極における前記各ガラスビードからの露呈部分に対して非酸化処理又は還元処理を行うことが好ましい。これにより、前記露呈部分では酸化膜が除去され、この結果、前記固定処理後に行われる前記各電極の外方の端部に対する半田付け作業の際に、該端部に対する半田の溶着性能が向上すると共に、前記ガラス管内での発光性能が向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る放電管の製造方法によれば、酸化処理を行った後に、真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で電極に対する加熱処理を行うと、前記電極に付与された熱によって、前記酸化処理の際に形成された化学結合の不安定な物質が気体として外部に予め十分に放出されるので、前記電極の酸化面に対してガラスビードを熱融着させた場合において前記気体の発生が抑制される。従って、前記ガラスビードが冷却されて前記電極に対して該ガラスビードを固定した際に、前記電極の酸化面と前記ガラスビードとの界面に残留するボイドの発生が抑制され、前記放電管における気密性や封止強度が向上し、ガスリークの発生が防止される。
【0018】
また、前記ボイドの発生が抑制されることにより、前記放電管が、外観上、美感に優れたものとなり、商品の品質が向上する。
【0019】
さらに、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記加熱処理が行われるので、加熱によって前記電極の他の部分が酸化されることを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る放電管の製造方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る放電管10(以下、本実施形態に係る放電管10と呼称する。)を示す断面図であり、図2は、電極14、16に対する第1の加熱処理工程に用いられる加熱処理容器30の断面図であり、図3は、前記電極14、16に対する第2の加熱処理工程に用いられる加熱処理容器50を示す断面図であり、図4は、図2に示す第1の加熱処理工程を利用して製造された放電管10に関する実験結果を示す表である。
【0022】
本実施形態に係る放電管10は、例えば、カメラのストロボ装置における閃光放電管として用いられ、図1に示すように、ガラス管12と、前記ガラス管12の一端部に配置された電極14と、前記ガラス管12の他端部に配置された電極16と、前記各電極14、16を固定し、且つ前記ガラス管12の両端部を封止するガラスビード22とから基本的に構成されている。
【0023】
前記ガラス管12は、電極14、16及びガラスビード22と略同一の熱膨張率を有するガラス材料から構成され、前記ガラスビード22によって封止された空間内には、キセノン等の希ガス18が気密封止されている。
【0024】
前記電極14、16は、コバール(ニッケル、鉄及びコバルトからなる合金)からなる金属棒であり、ガラスビード22内部を貫通することにより該ガラスビード22を介してガラス管12に支持されている。この場合、前記電極14、16の一端部はガラス管12内部に延在し、略中央部は前記ガラスビード22を介して前記ガラス管12に固定され、他端部は外部に突出している。また、前記電極14、16における前記中央部の表面は、前記ガラスビード22との密着性を向上させるために酸化処理が施された酸化面24とされている。ここで、前記電極14は放電管10の陽極とされる一方で、前記電極16は該放電管10の陰極とされ、その一端部には電子を放出するための陰極部材20が取り付けられており、前記放電管10は冷陰極管として機能する。
【0025】
ガラスビード22は、前記ガラス管12と同一のガラス材料から構成され、電極14、16の酸化面24に熱融着した後に冷却固化されることによって前記電極14、16に固定され、前記ガラス管12の両端部と熱融着することにより該ガラス管12内を気密封止させる。この場合、酸化面24が形成された電極14、16に対して後述する加熱処理を行ってから、前記加熱処理が施された酸化面24にガラスビード22を熱融着させて該ガラスビード22を冷却固化させる。
【0026】
次いで、本実施形態に係る放電管10の製造方法について説明する。
【0027】
前記放電管10の製造工程は、(1)電極14、16の略中央部の表面に対して酸化処理を行う工程と、(2)前記中央部の表面が酸化面24となった電極14、16に対して加熱処理を行う工程と、(3)前記加熱処理が施された電極14、16にガラスビード22を固定する工程と、(4)前記電極14、16に固定されたガラスビード22とガラス管12の両端部とを熱融着させて、該ガラス管12内を気密封止させる工程とから構成される。
【0028】
すなわち、(1)の工程では、電極14、16の両端部を図示しないクランプ部材で固定した状態で、該電極14、16に電流を流すことにより、前記電極14、16における略中央部がジュール熱で加熱され、この熱によって前記電極14、16を構成する鉄が空気中の酸素と反応して、該中央部の表面のみが酸化されて酸化面24を形成する。また、前記中央部の表面にレーザ光や赤外光を照射して加熱し、この熱によって該表面を酸化させることも可能である。さらに、前記中央部の表面を図示しないセラミックヒータによって非接触で加熱し、この熱で該表面を酸化させてもよい。さらにまた、前記中央部を囲曉するように配置されたコイルに高周波の交流電流を流すことにより、前記中央部の表面に誘導電流を発生させ、該誘導電流によるジュール熱で前記表面を加熱して酸化処理を行うようにしてもよい。
【0029】
また、(3)の工程では、ガラスビード22に電極14、16を貫通させて該ガラスビード22を前記電極14、16の酸化面24に位置決めさせた後に、前記電極14、16に対して前記ガラスビード22を熱融着させ、次いで、前記ガラスビード22を常温まで冷却させて前記電極14、16に対して前記ガラスビード22を固定する。また、前記電極14、16に対する前記ガラスビード22の位置決めを容易にするために、前記電極14、16の他端部と略中央部との間に図示しない突起部を設けてもよい。この場合、前記電極14、16の一端部から前記ガラスビード22を貫通させて、該ガラスビード22と前記突起部とを当接させることにより、前記ガラスビード22が位置決めされる。
【0030】
さらに、(4)の工程では、電極16の一端部に陰極部材20を取り付けてから、キセノン等の希ガス中に配置されたガラス管12の両端部に電極14、16を固定支持したガラスビード22を挿入させる。次いで、該ガラスビード22と前記ガラス管12の両端部とを加熱させて、この熱で前記ガラスビード22と前記ガラス管12の両端部とを熱融着させた後に、前記ガラスビード22と前記ガラス管12の両端部とを常温まで冷却させることにより、前記ガラス管12内が気密封止され、図1に示す放電管10が完成する。
【0031】
次に、(2)の工程について図2及び図3を参照しながら説明する。前記(2)の工程では、以下に説明する第1の加熱処理工程(図2参照)又は第2の加熱処理工程(図3参照)のいずれかの工程が選択されて、電極14、16に対する加熱処理が行われる。
【0032】
第1の加熱処理工程に用いられる加熱処理容器30の内部には、図2に示すように、カーボン材料からなる板状の抵抗加熱部材32が配置され、前記中央部の表面が酸化面24として形成された複数の電極14、16が、前記抵抗加熱部材32に設けられた孔に嵌合保持される。また、前記加熱処理容器30内には、前記抵抗加熱部材32の両端部をクランプし、且つ導電材料からなるクランプ部材33と、交流電源34と前記クランプ部材33とを電気的に接続する接続部材36とが配置されている。
【0033】
前記第1の加熱処理工程では、電極14、16を抵抗加熱部材32により保持した状態で、先ず、バルブ38を開放して、図示しない真空ポンプを用いて、加熱処理容器30に連通する排気路40から該加熱処理容器30内の真空引きを行う。これにより、前記加熱処理容器30内の酸素が排気される。この場合、加熱処理容器30の内部は、例えば、0.05Torr以下の気圧になるまで真空引きが行われる。
【0034】
加熱処理容器30内の真空度が0.05Torr以下に到達した場合、バルブ38を閉塞し、前記加熱処理容器30内を真空の状態に維持するか、あるいは、窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガス等の希ガスの雰囲気に置換する。前記加熱処理容器30内を真空から前記窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガス等の希ガスの雰囲気に置換するためには、該加熱処理容器30内に連通する図示しない気体導入路から前記窒素ガス又は前記希ガスを導入する。この場合、前記加熱処理容器30内における前記窒素ガスの気圧は、例えば、300Torr以下とすることが好ましく、アルゴンガス等の前記希ガスでも、例えば、300Torr以下の気圧とすることが好ましい。
【0035】
次いで、交流電源34から接続部材36及びクランプ部材33を介して抵抗加熱部材32に交流電流を流すと、抵抗加熱部材32の抵抗加熱によって発生する熱が電極14、16に伝えられ、前記電極14、16を加熱する。これにより、(1)の工程で酸化面24を形成した際に前記電極14、16内に生成される化学結合の不安定な物質が気化されて、前記酸化面24から前記加熱処理容器30内に放出される。
【0036】
この場合、前記抵抗加熱部材32に前記交流電流を流す時間、すなわち、抵抗加熱部材32及び電極14、16の加熱時間は、2分〜10分であることが好ましい。また、前記電極14、16の加熱温度は、750℃〜840℃であることが好ましい。
【0037】
前記加熱温度が750℃未満であると、前記化学結合が不安定な物質を気化させるために必要な温度よりも低くなるので、前記気体を電極14、16から十分に放出することができない。
【0038】
一方、840℃を越えると、この温度は、前記化学結合が不安定な物質を気化させるために必要な温度よりも高いので、前記気体を放出させるという作用が得られるが、前記電極14、16を構成するコバールに含まれる鉄と、該電極14、16の酸化面24を構成する酸素との化学結合、すなわち、結晶構造が変化する。この場合、酸化面24を構成する物質の結晶構造が変化することにより、前記(3)の工程において、前記電極14、16の酸化面と前記ガラスビード22とを熱融着させ、前記ガラスビード22を常温まで冷却させて前記電極14、16を前記ガラスビード22で固定支持させた際に、前記ガラスビード22と前記酸化面との密着性が低下するという問題がある。
【0039】
さらに、前記加熱時間が2分未満であると、前記電極14、16に付与される熱量が少ないので、前記気体を前記電極14、16から十分に放出することができない。
【0040】
次いで、電極14、16を2分〜10分加熱した後に、交流電源34から抵抗加熱部材32に対する通電を停止し、前記加熱処理容器30内を前記真空、窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガス等の希ガスの雰囲気としたままで、前記電極14、16を常温まで冷却させる。
【0041】
次いで、前記加熱処理容器30の内部が真空の状態である場合には真空抜きを行い、その内部が窒素ガスの雰囲気又は希ガスの雰囲気である場合には、ガス抜きを行ってから前記加熱処理が施された電極14、16を取り出す。これにより、第1の加熱処理工程が完了する。
【0042】
なお、前記第1の加熱処理工程において、電極14、16を2分〜10分加熱して酸化面24から前記化学結合の不安定な物質を十分に気化させ、且つ交流電源34から抵抗加熱部材32に対する通電を継続した状態で、ガラスビード22を前記電極14、16に貫通させ、前記抵抗加熱部材32からの熱をそのまま利用して(3)の工程を行ってもよい。
【0043】
次に、第2の加熱処理工程について、図3を参照しながら説明する。なお、第1の加熱処理工程(図2参照)と同じ構成要素については、同一の参照符号を付して説明する。
【0044】
第2の加熱処理工程に用いられる加熱処理容器50の内部には、図3に示すように、支持部材54によって該加熱処理容器50内に支持されたセラミックス製の受皿52に、酸化面24が形成された複数の電極14、16が配置され、この受皿52の近傍に交流電源34と電気的に接続された2つのヒータ56が配置されている。
【0045】
前記第2の加熱処理工程では、受皿52に電極14、16を配置した状態で、先ず、バルブ38を開放し、前記真空ポンプを用いて排気路40から該加熱処理容器30内の真空引きを行って前記加熱処理容器30内の酸素を排気させ、加熱処理容器50の内部を、例えば、0.05Torr以下の気圧になるまで真空引きを行う。
【0046】
加熱処理容器50内の真空度が0.05Torr以下に到達した場合、バルブ38を閉塞し、前記加熱処理容器50内を真空の状態に維持するか、あるいは、窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガス等の希ガスの雰囲気に置換する。前記加熱処理容器30内を真空から前記窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガス等の希ガスの雰囲気に置換するためには、該加熱処理容器30内に連通する図示しない気体導入路から前記窒素ガス又は前記希ガスを導入する。この場合、前記加熱処理容器30内における前記窒素ガスの気圧は、例えば、300Torr以下とすることが好ましく、アルゴンガス等の前記希ガスでも、例えば、300Torr以下の気圧とすることが好ましい。
【0047】
次いで、交流電源34から各ヒータ56に交流電流を流すと、ヒータ56の抵抗加熱によって発生する熱で前記加熱処理容器50の内部全体が加熱され、この熱によって前記電極14、16が加熱される。これにより、(1)の工程で酸化面24を形成した際に前記電極14、16内に生成される前記化学結合の不安定な物質が気化されて、前記酸化面24から前記加熱処理容器30内に放出される。
【0048】
この場合、前記抵抗加熱部材32に前記交流電流を流す時間、すなわち、抵抗加熱部材32及び電極14、16の加熱時間は、第1の加熱処理工程と同様に、2分〜10分であり、前記電極14、16の加熱温度は、750℃〜840℃であることが好ましい。
【0049】
次いで、電極14、16を2分〜10分加熱した後に、交流電源34からヒータ56に対する通電を停止し、前記真空、窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガス等の希ガスの雰囲気としたままで、加熱処理容器30内及び前記電極14、16を常温まで冷却させる。
【0050】
次いで、前記加熱処理容器30の内部が真空である場合には真空抜きを行い、その内部が窒素ガスの雰囲気又はアルゴンガスの雰囲気である場合にはガス抜きを行ってから、加熱処理が施された電極14、16を取り出す。これにより、第2の加熱処理工程が完了する。
【0051】
ここで、1つの実験例について図4を参照しながら説明する。この実験例は、前記第1の加熱処理工程(図2参照)における電極14、16の加熱温度を3パターン(700℃、800℃及び850℃)に設定し、これらの各パターンで加熱処理が施された電極14、16を用いて製造された放電管10(図1参照)について、前記電極14、16の酸化面24とガラスビード22との界面におけるボイドの有無と、ガスリークが発生した放電管10の個数(ガスリーク発生数)とを比較したものである。
【0052】
なお、前記加熱処理工程では、加熱処理容器30(図2参照)の内部を0.05Torrの気圧になるまで真空引きを行ってから、窒素ガスの雰囲気に置換し、その気圧を300Torr以下に設定している。また、前記電極14、16の加熱時間は、前記各パターンとも2分に設定している。
【0053】
ここで、前記ボイドは、0.15mm以上の直径を有するボイドであり、このような大きさのボイドは、ガラスビード22によってガラス管12内に気密封止されたキセノン等の希ガスを前記ボイドを介して外部にリークさせる原因となっている。この場合、前記ボイドの有無は、顕微鏡で観察することにより確認した。
【0054】
また、前記ガスリーク発生数とは、前述した条件で製作された400個(N=400)の放電管10のうち、電極14、16に電圧を印加した際に、ガスリークによって発光しない放電管10の個数であり、前記発光しない放電管10の個数をガスリークが発生した放電管10の個数としている。
【0055】
加熱温度が700℃の場合、製造された全ての放電管10について、前記電極14、16の酸化面24とガラスビード22との界面において、0.15mm以上の直径を有するボイドが確認された。この場合、前記ボイドによって、前記電極14、16の酸化面24とガラスビード22との界面における封止部分の気密性及び封止強度が低下し、ガラス管12内から外部へのガスリークが発生する。これは、加熱処理温度(700℃)が、前記化学結合の不安定な物質が気化する温度よりも低いので、電極14、16の酸化面24から前記物質が気体として十分に放出されないためであると考えられる。なお、700℃の加熱温度条件では、全ての放電管10で0.15mmの直径を有するボイドが確認されたので、電極14、16に電圧を印加して、発光しない放電管10の個数を調査する実験は特に行っていない。
【0056】
次に、800℃の加熱温度条件では、製造された全ての放電管10について、前記電極14、16の酸化面24とガラスビード22との界面で、0.15mm以上の直径を有するボイドは確認されなかった。また、前記各放電管10について、電極14、16に電圧を印加すると、全ての放電管10が発光し、従って、ガスリークの発生した放電管10は存在しなかった。これは、加熱処理温度(800℃)が、前記化学結合の不安定な物質を気化させる温度よりも高いので、前記加熱処理工程において、前記電極14、16の酸化面24から前記物質が気体として十分に放出されるためであると考えられる。
【0057】
また、850℃の加熱温度条件では、製造された全ての放電管10について、前記電極14、16の酸化面24とガラスビード22との界面で、0.15mm以上の直径を有するボイドは確認されなかった。しかしながら、前記各放電管10について、電極14、16に電圧を印加すると、400個の放電管10のうち4個の放電管10が発光せず、従って、ガスリークの発生した放電管10の個数は4個であった。これは、加熱処理温度(850℃)が、前記化学結合の不安定な物質を気化させる温度よりも高いが、前記加熱処理温度によって、酸化面24を構成する酸素と、前記電極14、16に含まれる鉄との結合構造(結晶構造)が変化するので、前記酸化面24とガラスビード22との密着性が低下し、前記界面における気密性が却って低下するためであると考えられる。
【0058】
このように、本実施形態に係る放電管10の製造方法では、酸化処理を行った後に、真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で電極14、16に対する加熱処理を行うと、前記電極14、16に付与された熱によって、前記酸化処理の際に形成された化学結合の不安定な物質が気体として外部に予め十分に放出される。これにより、前記電極14、16の酸化面24に対してガラスビード22を熱融着させた場合において、前記気体の発生が抑制される。従って、前記ガラスビード22が冷却させて前記電極14、16に対して該ガラスビード22を固定した際に、前記電極14、16の酸化面24と前記ガラスビード22との界面に残留するボイドの発生が抑制され、前記放電管10における気密性や封止強度が向上して、ガスリークの発生が防止される。
【0059】
また、前記ボイドの発生が抑制されることにより、前記放電管10が、外観上、美感に優れたものとなり、商品の品質が向上する。
【0060】
さらに、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記加熱処理が行われるので、加熱によって前記電極14、16の他の部分が酸化されることを防止することが可能となる。
【0061】
ここで、前記加熱処理を、抵抗加熱部材32による抵抗加熱処理(第1の加熱処理工程)又はヒータ56による抵抗加熱処理(第2の加熱処理工程)とすることにより、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記電極14、16を容易に加熱させることが可能となる。
【0062】
また、前記加熱処理における加熱温度を750℃〜840℃とし、その加熱時間を2分〜10分とすることにより、前記気体を前記電極14、16から十分に放出することが可能となる。
【0063】
さらにまた、前記第1の加熱処理工程において、加熱処理を行った後に、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で電極14、16の酸化面24にガラスビード22を熱融着させて、該電極14、16を前記ガラスビード22に固定させることにより、前記放電管10の製造工数を削減して、製造コストを低減することが可能となる。
【0064】
本実施形態では、(1)の酸化処理工程において、図示しない炉の中に電極14、16を配置し、該電極14、16の表面全体を酸化処理することも可能である。この場合、上記した(3)の工程において、前記各電極14、16に対してガラスビード22を固定した後に、該電極14、16における前記ガラスビード22からの露呈部分、すなわち、前記電極14、16の両端部側の表面に対して非酸化処理又は還元処理を行い、最後に(4)の気密封止処理を行う。
【0065】
前述した非酸化処理又は還元処理によって、ガラスビード22で被覆されていない電極14、16の両端部側では酸化膜が除去され、この結果、(4)の工程後に行われる前記各電極14、16の他端部に対する半田付け作業の際に、該他端部に対する半田の溶着性能が向上すると共に、前記各電極14、16の一端部が延在するガラス管12内での発光性能が向上することが可能となる。
【0066】
なお、本発明に係る放電管の製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態に係る製造方法で製造される放電管の概略縦断面図である。
【図2】第1の加熱処理工程に用いられる加熱処理容器の概略縦断面図である。
【図3】第2の加熱処理工程に用いられる加熱処理容器の概略縦断面図である。
【図4】図2に示す第1の加熱処理工程を適用して得られた実験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0068】
10…放電管 12…ガラス管
14、16…電極 18…希ガス
20…陰極部材 22…ガラスビード
24…酸化面 30、50…加熱処理容器
32…抵抗加熱部材 33…クランプ部材
34…交流電源 36…接続部材
38…バルブ 40…排気路
52…受皿 54…支持部材
56…ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管と、前記ガラス管の両端部に各々配置される2つの電極と、前記各電極を固定し、且つ前記ガラス管の両端部と熱融着して該ガラス管の内部を気密封止させる2つのガラスビードとを備える放電管の製造方法において、
前記各ガラスビードによって固定される前記各電極の表面を酸化させた後に、真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記各電極に対する加熱処理を行う
ことを特徴とする放電管の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の放電管の製造方法において、
前記加熱処理は抵抗加熱処理である
ことを特徴とする放電管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の放電管の製造方法において、
前記加熱処理における加熱温度は750℃〜840℃であり、その加熱時間は2分〜10分である
ことを特徴とする放電管の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放電管の製造方法において、
前記加熱処理を行った後に、前記真空、窒素ガスの雰囲気又は不活性ガスの雰囲気中で前記各電極の酸化面に前記各ガラスビードを熱融着させて、該各電極に対して前記各ガラスビードを固定する
ことを特徴とする放電管の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の放電管の製造方法において、
前記各電極に対する前記各ガラスビードの固定処理を行った後に、前記各電極における前記各ガラスビードからの露呈部分に対して非酸化処理又は還元処理を行う
ことを特徴とする放電管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−260918(P2006−260918A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76186(P2005−76186)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)