説明

整復技術習得用の人体模型教材

【課題】実際に治療をおこなうことなく、橈骨遠位端骨折の整復技術を習得することができる整復技術習得用の人体模型教材を提供する。
【解決手段】整復技術習得用の人体模型教材が、少なくとも人体の手、前腕、上腕を備え、硬質の骨状部材と骨状部材を覆う軟質部材とからなり、人体の動作範囲と同じ可動範囲を有する整復技術習得用の人体模型教材であって、骨状部材の橈骨が、橈骨の遠位端側において、橈骨遠位端部材と橈骨近位端部材とに分離され、橈骨の背側と掌側間の断面において、橈骨近位端部材の掌側と分離線との角度が60〜90°であり、分離面が、丸みを帯びた頂点を有する三角形または半円であり、橈骨遠位端部材の、少なくとも橈骨近位端部材と隣接する部分が金属で形成され、橈骨近位端部材の、少なくとも橈骨遠位端部材と隣接する側に磁石を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折の整復技術習得用の人体模型教材に関する。さらに詳しくは、橈骨遠位端骨折(コーレス骨折、スミス骨折)を治療するための整復技術を習得することができる人体模型教材に関する。
【背景技術】
【0002】
レントゲン検査や麻酔技術のない古来より、骨折・脱臼の治療方法として柔道整復による治療が広く行なわれてきた。柔道整復は、東洋医学に属する医療行為であり、現在においても手術や入院の必要のない程度の骨折や、脱臼の治療技術として、その重要性は高い。また、柔道整復による治療は麻酔をしないので、治療時に痛みを伴うが、高い柔道整復技術を有する柔道整復師によれば、効率よく、迅速かつ丁寧に治療され、その痛みを最小限に抑えることができる。その技術は、スポーツ、事故、災害現場において、応急的な処置をおこなう上でも有効である。したがって、柔道整復は、医療施設内での医療機器、麻酔下での治療を前提とした西洋医学の整形外科的治療に劣らない優れた治療法である。
【0003】
代表的な整復技術の一例として、橈骨遠位端伸展型骨折(以下、コーレス骨折という)の治療方法について説明する。コーレス骨折は、手術をする観血的な治療でなく、非観血的な徒手整復による治療が可能であり、また発生の頻度が高いため、その整復技術の重要性は高い。
【0004】
図8に示されるように、橈骨(とうこつ)100とは、人間の左右の前腕に1本ずつ存在し、尺骨101とともに前腕構造を支持する骨である。橈骨100の上腕骨102側の端部は近位端103と呼ばれ、他方の端部、すなわち手側の端部は遠位端104と呼ばれる。橈骨100は、近位端103側では細長い構造をしているが、遠位端104に移行するにつれて太くなるという構造をしている。
【0005】
コーレス骨折とは、橈骨100の遠位端104側で生じる骨折であり、日常生活、交通事故、災害およびスポーツ時などに起こり得る。典型的な症状として、転倒時に手のひら(手掌)を下にして手をついたとき、橈骨100に大きな負荷がかかり、橈骨100の遠位端104側末梢骨片が上方向(背側)にスライドするように骨折することが挙げられる。コーレス骨折は通常、骨折した橈骨の遠位端104側末梢骨片が橈側、回外、短縮、背側という4つの転位を伴う。
【0006】
橈側とは、橈骨100が遠位端104側において、骨折分離した遠位端104側橈骨100末梢骨片が骨折切断面において親指側へスライドする状態をいう。回外とは、骨折により分離した近位端103側の橈骨100中枢骨片に対して、遠位端104側の橈骨100末梢骨片が、骨折切断面において、その親指側が手の甲側に盛り上がるように外方向(小指側)に回転し、ひねられる状態をいう。背側とは、橈骨100が手の平をついて骨折するため、骨折分離した遠位端104側橈骨100末梢骨片が外力および筋肉の収縮によって手の甲側(背側方向)へスライドすることをいう。短縮とは、背側と同時に、遠位端104側橈骨100末梢骨片が背側方向へ骨折切断面との接触が無くなるほどスライドし突き出る結果、遠位端104側橈骨100末梢骨片が近位端103側方向へスライドし、前腕の長さが短くみえる状態をいう。前記4つの転位を伴ったコーレス骨折は、西洋医学の整形外科手術によらず、柔道整復によって治療することができる。
【0007】
コーレス骨折の整復は、助手に橈骨100近位端103側中枢骨片を把握保持させ、術者は橈骨100遠位端104側末梢骨片を把握する。そして、橈骨100末梢骨片を遠位端104側に牽引することで短縮転位を整復する。同時に、回外している遠位端104側橈骨100末梢骨片を逆回転、すなわち回内することにより回外転位を整復する。次に、親指側に突き出た遠位端104側橈骨100末梢骨片を押し戻す動作、すなわち尺屈により橈側転位を整復する。そして背側転位を手の平側に掌屈しながら骨折切断面を合わせるように背側転位を整復する。コーレス骨折は、通常上記した4つの転位があり、それぞれの転位を改善する整復技術を習得すれば、色々な程度のコーレス骨折の整復に応用することができる。
【0008】
上記のような柔道整復治療をおこなうことができる柔道整復師になるためには、柔道整復師を養成する専門学校などに通わなければならない。そして、整復技術は視覚、触覚などの感覚によるところが大きいため、臨床の現場において、実際に骨折、脱臼した患者に対する指導者の整復を見学したり、実習生自身が実際に整復をおこなうことにより、その高い技術を習得する。
【0009】
しかし、近年、規制緩和により柔道整復学校が増加し、学生が急増したことにより、臨床の現場において、実習生が実際の患者を治療する機会が減少している。その結果、十分な整復技術を習得できていない柔道整復師が増加しつつある。また、整復技術を有しない実習生が、実習として患者を治療する場合、患者に通常の治療以上の不安や苦痛を与えるおそれもある。
【0010】
以上のとおり、現在、柔道整復学校では、高い技術を有する柔道整復師を、いかにして育成するかということに苦慮しており、これは柔道整復学校だけの問題ではなく、柔道整復業界、ひいては日本の医療現場における重要な課題として顕在化しつつある。
【0011】
他方、西洋医学の分野では、実際の治療技術を習得するため、例えば、特許文献1に歯科実習用患者模型装置が提案されている。しかし、柔道整復などに代表される東洋医学の分野では、実際に骨折・脱臼した患者を治療するのと同じような体験をすることができ、適切な整復技術を習得することができる人体模型教材はこれまでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−337597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであり、実際の橈骨遠位端骨折(コーレス骨折、スミス骨折)の症状に限りなく近い症状を人体模型教材上に再現することにより、実習生が実際に治療をおこなうことなく、橈骨遠位端骨折の整復技術を習得することができる、整復技術習得用の人体模型教材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の整復技術習得用の人体模型教材は、少なくとも人体の手、前腕、上腕を備え、硬質の骨状部材と前記骨状部材を覆う軟質部材とからなり、人体の動作範囲と同じ可動範囲を有する整復技術習得用の人体模型教材であって、前記骨状部材の橈骨が、前記橈骨の遠位端側において、橈骨遠位端部材と橈骨近位端部材とに分離され、前記橈骨の背側と掌側間の断面において、橈骨近位端部材の掌側と前記分離線との角度が60〜90°であり、前記分離面が、丸みを帯びた頂点を有する三角形または半円であり、前記橈骨遠位端部材の、少なくとも橈骨近位端部材と隣接する部分が金属で形成され、前記橈骨近位端部材の、橈骨遠位端部材と隣接する側に磁石を設けてなることを特徴とする。
【0015】
また、前記橈骨の背側と掌側間の断面において、橈骨近位端部材の背側と前記分離線との角度が90〜120°であることが好ましい。
【0016】
また、軟質部材が透明なゴム素材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の整復技術習得用の人体模型教材は、実際の橈骨遠位端骨折に限りなく近い症状を人体模型教材上に再現することにより、実際の患者に対して整復することなく、実習生が橈骨遠位端骨折の整復技術を習得することができ、柔道整復師の整復技術を飛躍的に向上させることができる。また、本発明の整復技術習得用の人体模型教材は、実際の患者への治療と異なり、何度でも整復可能であるので、実際の患者に対する治療では一度きりしか体験できない動作を何度でも繰り返し練習することができ、これまで以上に柔道整復師の技術向上が期待できる。さらに、技術レベルの低い柔道整復師または実習生の整復によって生じる、患者の不安、苦痛を軽減または除去することができる。
【0018】
また、本発明の整復技術習得用の人体模型教材は、柔道整復師の技術向上に資するのみならず、増加する実習生の整復技術向上に有効な指導方法を柔道整復学校に提供し、柔道整復教育の向上、および柔道整復業界の技術力向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、本発明の人体模型教材の橈骨の骨折状態を手の甲側から見た模式図、(b)は、本発明の人体模型教材の橈骨の骨折状態を親指側の側面から見た模式図である。
【図2】(a)は、本発明の人体模型教材の橈骨の整復された状態を手の甲側から見た模式図、(b)は、本発明の人体模型教材の橈骨の整復された状態を親指側の側面から見た模式図である。
【図3】本発明の橈骨の概略図である。
【図4】(a)は、本発明の人体模型教材の前腕部の縦断面図、(b)は、本発明の人体模型教材の前腕部の横断面図、(c)は、本発明の人体模型教材の前腕部の他の実施形態における横断面図である。
【図5】本発明の人体模型教材の軟質部材の第1の装着状態を示す模式図である。
【図6】本発明の人体模型教材の軟質部材の第2の装着方法を示す模式図である。
【図7】(a)は、本発明の人体模型教材のスペーサーの装着状態を示す模式図、(b)は、(a)の横断面図である。
【図8】人体右腕の骨格の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1aは、本発明の人体模型教材1の橈骨の骨折状態を手の甲側から見た模式図であり、図1bは、本発明の人体模型教材1の橈骨の骨折状態を親指側の側面から見た模式図であり、図2aは、本発明の人体模型教材1の橈骨の整復された状態を手の甲側から見た模式図であり、図2bは、本発明の人体模型教材1の橈骨の整復された状態を親指側の側面から見た模式図であり、図3は、本発明の橈骨10の概略図であり、図4aは本発明の人体模型教材1の前腕部の縦断面図であり、図4bは、本発明の人体模型教材1の前腕部の横断面図であり、図4cは、本発明の人体模型教材1の前腕部の他の実施形態を示す横断面図であり、図5は、本発明の人体模型教材1の軟質部材の第1の装着状態を示す模式図であり、図6は、本発明の人体模型教材1の軟質部材の第2の装着方法を示す模式図であり、図7aは、本発明の人体模型教材1のスペーサーの装着状態を示す模式図であり、図7bは、図7aの横断面図である。
【0022】
本発明の第1の実施形態では、整復技術習得用の人体模型教材1は、橈骨遠位端骨折の整復が上腕部および前腕部を固定しておこなう必要があるため、少なくとも人体の手、前腕および上腕を備える必要がある。しかし、実際の整復治療に近い状況を演出するためには、人体模型教材1は人体全体の模型であることが好ましい。
【0023】
また、人体模型教材1は、硬質の骨状部材2と前記骨状部材2を覆う軟質部材3とからなる。骨状部材2は、文字通り人骨の質感を再現する。骨状部材2の材質は、人骨の質感を再現できるものであれば特に限定されないが、人骨の形状に加工することが容易であるという理由からステンレス、鉄、銅およびアルミニウムなどの金属製であることが好ましく、また、軽量であるという理由からPVC(ポリ塩化ビニル)、FRPおよび木製であることが好ましい。
【0024】
また、人体模型教材1は、人体の動作範囲と同じ可動範囲を有する。これにより、人体と同じ動きを再現することが可能となり、より実際の整復治療に近い状況を作出することができる。人体の動作範囲と同じ可動範囲を有するために、骨状部材2の各部位は、人体の関節に相当する箇所において針金、バネまたはゴムなどで連結され、バネやゴムなどの弾性体の付勢力により人体と同じ動きおよび動きに対する抵抗感が再現される。
【0025】
図1〜2に示されるように、骨状部材2の橈骨10は、橈骨10の遠位端側において、橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12とに分離される。これにより、橈骨遠位端骨折の症状が人体模型教材1上に再現される。また、両者が分離されていることにより、橈側、回外、短縮および背側といったコーレス骨折の顕著な症状を人体模型教材1上に再現することができる。
【0026】
橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12との分離部分Aの位置は、実際の橈骨遠位端骨折の症状を再現するという観点から、橈骨遠位端部材11の遠位末端から近位端方向に1〜5cmの箇所であることが好ましく、より好ましくは1.5〜4cmであり、最も好ましくは2〜3cmである。
【0027】
橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12との分離部分Aは、橈骨10の背側と掌側間の縦断面において、橈骨近位端部材12の掌側と分離線との角度が60〜90°になるように形成されている。その理由は、通常のコーレス骨折において、前記角度は通常60〜90°であることが多いからである。
【0028】
また、橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12との分離部分Aは、橈骨10の背側と掌側間の縦断面において、橈骨近位端部材12の背側と分離線との角度が90〜120°になるように形成されていてもよい。その理由は、通常のスミス骨折において、前記角度は通常90〜120°であることが多いからである。
【0029】
橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12との分離部分Aの分離面は、丸みを帯びた頂点を有する三角形または半円である。これにより、人体の橈骨の断面形状が再現され、橈骨遠位端部材11の橈側、回外、短縮および背側といったコーレス骨折の顕著な転位状態を再現することができる。特に、分離した橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12との分離面の接触がなくなるほど顕著に背側および短縮転位した際の橈骨遠位端部材11の回外転位を再現するためには、橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12との分離部分Aの分離面は、人体の橈骨の横断面形状に近い丸みを帯びた頂点を有する三角形であることが好ましい。
【0030】
図3に示されるように、本発明の第1の実施形態では、橈骨遠位端部材11は全体が金属で形成される。これにより、後述の橈骨近位端部材12の磁石13と、その磁力により離間することなく磁気的な吸着状態が維持される。橈骨遠位端部材11は橈骨近位端部材12より形状が複雑であるので、橈骨遠位端部材11を磁石13にするとその加工が困難になる。したがって、橈骨遠位端部材11は、加工が容易な金属で形成され、好ましくは錆びにくいステンレスが用いられる。橈骨遠位端部材11の製造方法は特に限定されないが、安価な切削加工が好ましい。
【0031】
橈骨遠位端部材11は、橈骨近位端部材12と隣接する一部が金属であってもよい。これにより、橈骨遠位端部材11の全体を金属とする場合よりも金属の使用量を抑えることができ、他の部分をPVCなどに置き換えることができるのでコストを低減することができる。この場合、橈骨遠位端部材11の他の部分は、PVC、FRPまたは木材などで形成される。前記金属の厚さは、コーレス骨折の転位状態を再現することができるように1cm以上の厚さを有する必要がある。前記金属の橈骨遠位端部材11への固定方法は特に限定されないが、固定が容易であるという理由から接着剤またはネジによる固定が好ましい。
【0032】
橈骨近位端部材12は、磁石13ならびに金属および/またはPVCで形成される。橈骨近位端部材12は、橈骨遠位端部材11と隣接する側に磁石13が設けられ、磁石13の磁力により、橈骨近位端部材12は金属製の橈骨遠位端部材11と離間することなく磁気的な吸着状態が維持される。
【0033】
橈骨近位端部材12の磁石13は磁性を有するものであれば特に限定されないが、ネオジウム磁石であることが好ましい。また、金属の材質は特に限定されないが、整復動作で折れない強度を有するステンレスまたは鉄が好ましい。また、PVCはFRPや木などに代替することができる。
【0034】
図3に示されるように、本発明の第1の実施形態では、橈骨近位端部材12は、磁石13を収容することができるように橈骨遠位端部材11と隣接する部分が閉じられ、橈骨近位側に開口した有底筒状の筒状部材14と、筒状部材14内部に収容される磁石13と、筒状部材14の開口部にはめ込まれて固定されるPVC製の部材15とから構成される。
【0035】
磁石13の長さは特に限定されないが、橈骨遠位端部材11との吸着性を考慮して1〜6cmであることが好ましく、より好ましくは2〜5cmであり、最も好ましくは3.5〜4.5cmである。筒状部材14の長さは、助手または術者が整復時に把握固定するため、8〜12cmであることが好ましく、より好ましくは9〜11cmであり、最も好ましくは9.5〜10.5cmである。
【0036】
そして、筒状部材14とPVC製の部材15との固定方法は特に限定されないが、筒状部材14内部に磁石13を挿入した後、筒状部材14内部の残りの空間にPVC製の部材15を挿入し、はめ込むように固定する。また、両者の固定を容易かつ強固にするため、固定には接着剤、ネジまたはゴムバンドを用いることが好ましい。
【0037】
上記のように、橈骨遠位端部材11および橈骨近位端部材12の一部に金属または磁石13を設ける場合、橈骨遠位端部材11に磁石13を設け、橈骨近位端部材12に金属を設けてもよいし、橈骨遠位端部材11および橈骨近位端部材12の両方の一部を磁石13としてもよい。
【0038】
橈骨近位端部材12は、橈骨遠位端部材11と同様に切削加工などでその形状を形成した後、着磁することにより作成してもよい。この場合、橈骨近位端部材12全体が磁石13となる。
【0039】
橈骨近位端部材12の磁石13の磁力は特に限定されないが、人体における筋肉や腱の抵抗感と同程度の抵抗感を再現するという観点から、好ましくは1000〜6000ガウスであり、より好ましくは2000〜5000ガウスであり、最も好ましくは3500〜4500ガウスである。
【0040】
図4aに示されるように、整復技術習得用の人体模型教材1の軟質部材3は、人体の軟部組織を再現するものであり、前記骨状部材2を覆う。軟部組織とは、皮膚、皮下脂肪、筋肉、その他骨以外の人体の組織を含む概念である。軟質部材3は、人体の皮膚や筋肉の質感に近いものであれば特に限定されないが、感触が柔らかく、人体の軟部組織に近い触感のゴム素材でできていることが好ましい。
【0041】
図4aおよび図4bに示されるように、本発明の第1の実施形態では、軟質部材3は、人体模型教材1の手の甲側の背側部材3aと手の平側の掌側部材3bとに分離することができる。
【0042】
図5に示されるように、軟質部材3(背側部材3aと掌側部材3b)は、マジックテープ(登録商標)により、接着部分Bにおいて骨状部材2と着脱可能に接着することができる。これにより、骨状部材2を容易かつ迅速に軟質部材3内部に収容することができる。
【0043】
図3cに示されるように、軟質部材3は、背側部材3aと掌側部材3bとに分離せず、一体であってもよい。かかる場合、軟質部材3の内部は中空であり、任意の箇所に外部に通じる開口部4が設けられる。開口部4は、橈骨遠位端骨折の整復の際に軟質部材3内部の骨状部材2が開口部4から出てくることを防止するという観点から、橈骨の骨状部材2とは反対側の尺骨側に設けられていることが好ましい。
【0044】
本発明の第2の実施形態では、軟質部材3は、透明なゴム素材でできている。不透明なゴム素材の場合、内部の骨状部材2の状態を目視できないため、より実際の整復治療に近い状態で整復練習ができるという利点があるが、透明なゴム素材の場合、内部の骨状部材2の動きを確認することができ、整復の動作と骨の動きの関連性を学ぶことができる。したがって、コーレス骨折の患部に相当する分離部分A近傍の状態を目視で確認することができ、整復動作が正しいか否かを常時確認することができる。
【0045】
図6aに示されるように、本発明の第3の実施形態では、橈骨部材21と尺骨部材22との間に、スペーサー20が設置されている。スペーサー20は、人体における骨間膜の役割を果たすものであり、橈骨部材21と尺骨部材22とを一定間隔に維持する。また、スペーサー20は、橈骨部材21と接着剤23により固定されるが、尺骨部材22とは固定されず、分離しない程度に連結されている。これにより、整復練習の際に、橈骨部材21が尺骨部材22に接触することを防止し、より実際の整復治療に近い状況が再現される。
【0046】
図6bに示されるように、スペーサー20の形状は、横断面形状がX字状である。スペーサー20は、前記横断面形状両側にそれぞれ形成される凹部が、橈骨部材21と尺骨部材22とにはめ合わされることにより、両者を一定間隔に維持する。スペーサー20は弾性を有するゴム素材であることが好ましい。
【0047】
図7に示されるように、本発明の第4の実施形態では、軟質部材3は骨状部材2に手袋のように装着される。これにより、軟質部材3を分離したり、開口部4を設ける必要がなくなる。
【0048】
次に、橈骨10の整復動作の一実施態様について説明する。図1aおよび図1bに示されるように、橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12とは、分離部分Aにおいて分離しているが、橈骨近位端部材12の磁石13の磁力により両者は離間せず磁気的に吸着している。この磁力により、橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12とは、人体と同様の自由度をもって離間することなく動かすことができ、人体の筋肉の抵抗感が再現される。
【0049】
整復技術習得用の人体模型教材1上には、コーレス骨折の症状が再現される。図1aに示されるように、分離部分Aは小指側から親指側に直線となり、橈骨近位部材12が小指側へ転位し、同時に回内(内側へひねられる)し、これに対して橈骨遠位部材11が親指側に突き出る橈側転位が再現され、また同時に回外(外側へひねられる)転位が再現される。
【0050】
分離部分Aは、橈骨10の背側と掌側間の縦断面において、橈骨近位端部材12の掌側と分離線との角度が60〜90°になるように形成される。これにより、橈骨遠位端部材11は、橈骨近位端部材12に対して手の甲側に持ち上がるかたちとなり、短縮および背側転位が再現される。
【0051】
このようにしてコーレス骨折の転位状態が再現された整復技術習得用の人体模型教材1は、整復治療の動作を施すことにより正常な位置状態に戻すことができる。整復治療の動作は、牽引、回内、尺屈、掌屈の順番でおこなわれる。その結果、図2aおよび図2bに示されるように、橈骨遠位端部材11と橈骨近位端部材12とが、分離部分Aにおいてお互いが一致するように磁力により吸着される。磁力の抵抗感と軟質部材3のゴム素材による抵抗感とが、実際のコーレス骨折治療の際の筋肉の抵抗感を再現し、実際のコーレス骨折に限りなく近い症状を人体模型教材1上に再現することができる。
【0052】
上記のとおり、本発明の人体模型教材1は、その橈骨遠位端部材11に、橈骨遠位端骨折に限りなく近い橈骨の転位状態を再現することができ、人体模型教材1を用いた整復実習をすることができるので、柔道整復師の技術向上を図ることができ、増加する実習生の整復技術向上に有効な指導方法を柔道整復学校に提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 (整復技術習得用の)人体模型教材
2 骨状部材
3 軟質部材
3a 背側部材
3b 掌側部材
4 開口部
10 (骨状部材の)橈骨
11 橈骨遠位端部材
12 橈骨近位端部材
13 磁石
14 筒状部材
15 PVC製の部材
20 スペーサー
21 橈骨部材
22 尺骨部材
23 接着剤
100 橈骨
101 尺骨
102 上腕骨
103 橈骨近位端
104 橈骨遠位端
A (橈骨遠位端部材と橈骨近位端部材との)分離部分
B (骨状部材と軟質部材との)接着部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも人体の手、前腕および上腕を備え、硬質の骨状部材と前記骨状部材を覆う軟質部材とからなり、人体の動作範囲と同じ可動範囲を有する整復技術習得用の人体模型教材であって、
前記骨状部材の橈骨が、前記橈骨の遠位端側において、橈骨遠位端部材と橈骨近位端部材とに分離され、
前記橈骨の背側と掌側間の断面において、橈骨近位端部材の掌側と前記分離線との角度が60〜90°であり、
前記分離面が、丸みを帯びた頂点を有する三角形または半円であり、前記橈骨遠位端部材の、少なくとも橈骨近位端部材と隣接する部分が金属で形成され、
前記橈骨近位端部材の、橈骨遠位端部材と隣接する側に磁石を設けてなる
整復技術習得用の人体模型教材。
【請求項2】
前記橈骨の背側と掌側間の断面において、橈骨近位端部材の背側と前記分離線との角度が90〜120°である請求項1記載の整復技術習得用の人体模型教材。
【請求項3】
軟質部材が透明なゴム素材である請求項1または2記載の整復技術習得用の人体模型教材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−133909(P2011−133909A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78332(P2011−78332)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3144317号
【原出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(508179660)
【出願人】(508179671)
【Fターム(参考)】