斜板式液圧回転機のスリッパシューの製造方法およびスリッパシューの製造装置
【課題】 潤滑性とシール性をバランス良く両立し得るとともに、製造原価を節減する。
【解決手段】 スリッパシュー1に対し、ある距離に設置されたショットピーニングまたはショットブラスト用のノズル27より、メディアと呼ばれる硬質粒子28を圧縮空気によって噴射し、スリッパシュー1の摺動面1sに衝突させ、圧縮変形させることで凹状受圧面7が形成される。すなわち、空気と硬質粒子28の混相流29を高速で摺動面1sに衝突させることによって、凹状受圧面7を加工する。このとき、凹状受圧面7が形成されるだけでなく、凹状受圧面7表面に微小な凹状打痕(ディンプル)が形成される。
【解決手段】 スリッパシュー1に対し、ある距離に設置されたショットピーニングまたはショットブラスト用のノズル27より、メディアと呼ばれる硬質粒子28を圧縮空気によって噴射し、スリッパシュー1の摺動面1sに衝突させ、圧縮変形させることで凹状受圧面7が形成される。すなわち、空気と硬質粒子28の混相流29を高速で摺動面1sに衝突させることによって、凹状受圧面7を加工する。このとき、凹状受圧面7が形成されるだけでなく、凹状受圧面7表面に微小な凹状打痕(ディンプル)が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板式液圧回転機におけるピストンのスリッパシューの摺動面に凹状受圧面を形成する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アキシャルピストン型の油圧ポンプ、油圧モータに代表される斜板式液圧回転機は、回転軸と一体に回転するように、回転軸周囲に配置された複数のシリンダを有し、各シリンダのシリンダボア内に挿嵌されたピストンは、その突出端が斜板によって往復駆動される。そして、ピストンの突出端と斜板の間には、スリッパシューが配設され、ピストンを円滑にガイドしつつ、往復駆動し得る。
【0003】
このような液圧回転機を油圧ポンプとして用いる場合には、例えば原動機によって回転軸を回転駆動すると、シリンダブロックが回転軸と一体に回転することにより各シリンダボア内をピストンが往復動するように摺動変位し、ピストンの吸入行程ではシリンダボアに油液(作動油)を吸入しつつ、吐出行程ではシリンダボア内で加圧した圧油液を外部に吐出するものである。
【0004】
その際、斜板の表面側に形成した平滑な摺動面は、各ピストンの突出端側に設けた複数のスリッパシューが高速で円軌道を描くように摺動接触する。
【0005】
スリッパシュー上には、斜板と摺動接触するシールランド部が形成されており、シールランド部の中央には、油溜まり部が設けられる。そして回転軸による回転駆動時には、シールランド部と斜板との間に、油圧によって微小潤滑隙間が形成され、微小潤滑隙間を通って、油溜まり部に油液が圧送、貯留されることで油膜が形成される。これによって、斜板とスリッパシューとの摺動面の潤滑性、シール性が確保され、スリッパシューは静圧軸受として機能する。
【0006】
シールランド部と斜板との摺動面に形成される微小潤滑隙間は、油溜まり部から斜板にかかる受圧面積(静圧部の面積)に比例して決まり、受圧面積が過大であると微小隙間も過大となり、潤滑性は高いがシール性が損なわれ、油圧ポンプとしての効率が低下する。
【0007】
逆に、受圧面積が過小であると、潤滑性能が低下し、回転軸の極低速回転時や起動時において、焼きつきや摩耗による耐用寿命低下といった問題が発生する。
【0008】
潤滑性とシール性をバランス良く両立させると同時に斜板とスリッパシューとの間の接触面積低減を実現するため、スリッパシュー摺動面上に凹状の受圧面を形成することで受圧面積を拡大し、この凹状受圧面の形状を変化させることで必要充分な微小潤滑隙間の確保を可能とする方法が知られている(特許文献1参照)。
【0009】
なお、シールランド部および静圧ポケットはバイトやエンドミルなどを用いた切削加工によって加工形成されている(特許文献2および特許文献3参照)。
【0010】
このとき、シールランド部と静圧ポケットの形状寸法は、ピストンの直径などの幾つかの代表寸法、および斜板式液圧回転機が使用される圧力負荷領域に合わせて最適化されていなければ適正な潤滑効果を得ることができないということが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許 第3474796号
【特許文献2】特許 第254763号
【特許文献3】特開2000−257549号公報
【特許文献4】特開2006−17075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シールランド部および静圧ポケットは、高い寸法精度が要求されるが、加工難易度が非常に高く、加工のための段取り作業にも多くの時間と労力を要するため、製造原価が高価であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)請求項1の発明による斜板式液圧回転機に用いられるピストンスリッパシューの製造方法は、粒子噴射装置から前記スリッパシューの摺動面に硬質粒子を衝突させて前記スリッパシューの摺動面に凹状受圧面を形成する凹状受圧面形成工程と、前記凹状受圧面形成工程に先立って、前記スリッパシューの軸心を前記粒子噴射装置の粒子噴射軸心に軸合せる芯出し工程とを有し、前記凹状受圧面形成工程では、前記粒子噴射装置と前記スリッパシューとの相対位置関係を固定としたまま硬質粒子を前記摺動面に衝突させることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1のピストンスリッパシューの製造方法において、前記凹状受圧面形成工程は、前記粒子噴射装置から圧縮粒子を噴射して前記凹状受圧面を球面状に形成するか、または、前記粒子噴射装置から圧縮旋回粒子を噴射して前記凹状受圧面を円筒平底凹部に形成することを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2のスリッパシューの製造方法において、前記スリッパシューの摺動面をラップ加工して平坦面を形成する工程と、前記スリッパシューを治具にセットして軸合わせを行う工程と、前記粒子噴射装置から粒子を前記平坦面に向けて噴射する工程と、粒子噴射終了後、前記スリッパシューに付着する粒子をエアブローで除去する工程とを順番に行うことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項の製造方法でスリッパシューを製造する製造装置であって、前記粒子噴射装置と、前記粒子噴射装置の粒子噴射軸と軸合わせされた前記治具とを備えることを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項4のスリッパシューの製造装置において、前記粒子噴射装置の粒子噴射面は、前記スリッパシューの摺動面から一定距離に配置され、前記粒子噴射装置は、流体と硬質粒子の混相流を噴射するものであり、前記凹状受圧面を、硬質粒子照射領域中心部が最も深く、外側に向かうにつれて浅くなる凹状の略球面状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摺動面に凹状受圧面を有するスリッパシューを低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】斜板式アキシャルピストンポンプの断面図である。
【図2】本発明における第1の実施の形態による凹状受圧面形成方法を示した模式図である。
【図3】本発明における第1の実施の形態よって形成された凹状受圧面の表面形状の拡大図である。
【図4】図2の受圧面形成のために噴射される硬質粒子の密度分布を示す図である。
【図5】図2に示したスリッパシューが吸入負圧によって変形した状態を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施形態のスリッパシューを製造する製造方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。
【図7】図6の製造方法における、スリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図8】図6の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【図9】図8の製造方法において、スリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態において、マスキングによる凹状受圧面および平坦部の形成方法を示した模式図である。
【図11】図10に示す方法によって形成された凹状受圧面および平坦部の正面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態において、他の板状遮蔽物による凹状受圧面および平坦部の形成方法を示した模式図である。
【図13】本発明に係る製造方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図14】図13の製造方法におけるスリッパシューに対する遮蔽部材セット状態を示す縦断面図である。
【図15】図13の製造方法におけるスリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図16】図13の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【図17】図16の製造方法において、スリッパシューに対する遮蔽部材セット状態を示す縦断面図である。
【図18】図16の製造方法におけるスリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図19】本発明の第3の実施の形態において、硬質粒子の噴射気流が旋回気流である場合に形成される静圧ポケット形状の模式図である。
【図20】コアンダスパイラルフロー発生機構を有した噴射ノズルの断面図である。
【図21】図19の凹状受圧面の表面形状の拡大図である。
【図22】図21に示すスリッパシューが過大圧力負荷によって変形した状態を示す模式図である。
【図23】本発明の第4の実施の形態において、マスキングによる静圧ポケットおよび平坦部の形成方法を示した模式図である。
【図24】図23に示す方法によって形成された静圧ポケットおよび平坦部の外観図である。
【図25】本発明の第4の実施の形態において、他の板状遮蔽物による凹状受圧面および平坦部の形成方法を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
−第1の実施の形態−
以下、本発明の第1の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを、液圧回転機としての可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0017】
[スリッパシュー]
図1〜図4は本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、8は液圧回転機としての可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプ(以下、油圧ポンプ8という)で、油圧ポンプ8は、ケーシング9、回転軸10、シリンダブロック11、複数のピストン5、スリッパシュー1、斜板2、および弁板12を備える。
【0018】
図1に示すように、ケーシング9は、筒状のケーシング本体13と、ケーシング本体13の両端を閉塞するフロントケーシング14およびリヤケーシング15とを備え、油圧ポンプ8の外殻を構成する。リヤケーシング15には、一対の給排通路16A、16Bが設けられ、給排通路16A、16Bは、作動油の吸込側、吐出側の配管(いずれも図示せず)等に接続される。
【0019】
回転軸10は、フロントケーシング14に装着された軸受17と、リヤケーシング15に装着された軸受18とによって回転自在に支承されつつ、ケーシング9内に配置されている。回転軸10には、フロントケーシング14から軸方向に突出する連結部10Aが設けられ、例えばディーゼルエンジン等の駆動源(図示せず)に連結される。これによって、回転軸10は駆動源によって回転駆動される。
【0020】
シリンダブロック11は、回転軸10の外周にスプライン結合され、回転軸10と一体に回転する。シリンダブロック11は、その一端面11Aが後述の斜板2に対向して配置され、他端面11Bが後述の弁板12に摺接する。
【0021】
シリンダブロック11には、それぞれが回転軸10と平行な中心軸を有する、複数のシリンダボア19が形成され、各シリンダボア19は、回転軸10を中心にした円周上に、一定間隔で配列されている。シリンダボア19は、端面11A側の端部から端面11B側の端部に向かって穿たれ、その底部にはシリンダポート20Aが穿設されている。シリンダポート20Aは端面11Bにおいて開口しており、弁板12によって開閉される。弁板12がシリンダポート20Aを開放したときには、シリンダポート20Aは、リヤケーシング15に形成された給排通路16Aまたは16Bに連通される。
【0022】
各シリンダボア19にはピストン5が軸方向摺動可能に挿嵌され、ピストン5は、シリンダブロック11の回転に伴って、斜板2上を周回しつつ、斜板2によって案内されて、シリンダボア19内を往復動する。ピストン5がシリンダポート20Aから後退するとき、シリンダポート20Aを通じて、シリンダボア19内に油液(作動油)が吸込まれ、一方、ピストン5がシリンダポート20A方向に進出するとき、油液を高圧の圧油として、シリンダポート20Aから吐出する。
【0023】
各ピストン5の端面11A側の端部にはスリッパシュー1が揺動可能に装着され、スリッパシュー1は、斜板2の凹部に嵌入された環状の平滑板22に摺接している。回転軸10には、各スリッパシュー1に対応した孔21Aを有する円板状のシュー押え21が固着され、スリッパシュー1は、斜板2側から孔21A内に挿入され、シュー押え21によって、摺動面22Bに常に摺接するように保持されている。
【0024】
スリッパシュー1は、平滑板22に摺接するシールランド部3と、ピストン5に回転自在に組み付けられるボールジョイント部1Bとを有し、シールランド部3とボールジョイント部1Bとの間には、円柱状の中間部1Cが設けられている。
【0025】
フロントケーシング14には斜板支持体23が設けられ、斜板支持体23は、回転軸10を包囲するように斜板2の裏面側に固定されている。斜板支持体23には、回転軸10の半径方向に離間した一対の傾転摺動面23Aが設けられ、傾転摺動面23Aは、斜板2を傾転可能に支持するために、凹湾曲状の円弧面として形成されている。
【0026】
斜板2は、斜板本体24と、斜板本体24の表面側に固定して設けられた平滑板22とを有する。斜板2の中央部には、回転軸10が隙間をもって挿通される軸挿通穴22A、24Aが穿設されている。斜板本体24は、その裏面、すなわちフロントケーシング14側の背面24Bが、斜板支持体23の傾転摺動面23Aによって、傾転可能に支持されている。
【0027】
平滑板22は、シリンダブロック11と対向する摺動面22Bにおいてスリッパシュー1に摺接しつつ、スリッパシュー1を案内し、ピストン5を往復動させる。
【0028】
弁板12は、シリンダブロック11の端面11Bに摺接して、シリンダブロック11を回転可能に支持している。弁板12には、眉形状をなす一対の給排ポートが形成され、これら給排ポートは、給排通路16A、16Bと連通している。
【0029】
弁板12の給排ポートは、シリンダブロック11の回転時に、各シリンダボア19のシリンダポート19Aと間欠的に連通し、例えば一方の給排通路16Aから各シリンダボア19に吸込んだ油液(作動油)をピストン5により加圧させると共に、各シリンダボア19内で高圧状態となった圧油を他方の給排通路16Bから吐出させる。
【0030】
シリンダブロック11には、端面11Aから突出する、一対の傾転アクチュエータ25,26が設けられ、アクチュエータ25,26は斜板2を傾転駆動する。アクチュエータ25,26には、外部から傾転制御圧が給排され、この圧力に応じて斜板2の傾転角を制御する。ピストン5のストローク長は斜板2の傾転角に応じて自由に調節される。
【0031】
次に、第1の実施の形態の油圧ポンプ8の作動について説明する。
駆動源によって回転軸10を回転駆動すると、ケーシング9内でシリンダブロック11が回転軸10と一体に回転される。これにより、斜板2(平滑板22)の摺動面22Bに沿って各ピストン5がシリンダボア19内で往復動を繰り返す。
【0032】
シリンダブロック11が1回転する間に、各ピストン5はシリンダボア19内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰り返す。ピストン5の吸入行程では、例えば給排通路16Aからシリンダボア19内に作動油を吸込み、ピストン5の吐出行程では、ピストン5がシリンダボア19内の油液を高圧の圧油として給排通路16Bから吐出する。
【0033】
油圧ポンプ8の作動中には、スリッパシュー1は、摺動面22Bに沿って円軌道を描くように摺動変位を続けるため、両者の焼きつきや摩耗による耐用寿命低下を防止するため、潤滑性とシール性とをバランス良く両立させるような受圧面を形成する必要がある。
【0034】
このため、本実施の形態による斜板式液圧回転機のスリッパシュー1では、図2に示すような凹状受圧面7を設けている。この凹状受圧面7は次のように形成される。スリッパシュー1に対し、ある距離に設置されたショットピーニングまたはショットブラスト用粒子噴射装置のノズル27より、メディアと呼ばれる硬質粒子28を圧縮空気によって噴射し、スリッパシュー1の摺動面1sに衝突させ、摺動面1sを圧縮変形させることで凹状受圧面7が形成される。この明細書では、第1の実施形態におけるノズル27から噴射される粒子を圧縮粒子と呼ぶ。
【0035】
すなわち、空気と硬質粒子28の混相流29を高速で摺動面1sに衝突させることによって、凹状受圧面7を加工する。このとき、図3に示すように、凹状受圧面7が形成されるだけでなく、凹状受圧面7表面に微小な凹状打痕(ディンプル)が形成される。
なお混相流における空気は、他の気体あるいはその他の流体とすることも可能である。
【0036】
図4に示すように、混相流29における硬質粒子28の密度分布は、中心軸上で最も高く、外側に向かうにつれて低くなり、ノズル27の噴出口27Aからの距離が長くなるほど、密度分布範囲は放射状に拡がる。図4では模式的に、D1、D2、D3の3段階の濃淡で示しているが、密度分布は連続的である。
【0037】
混相流29がスリッパシュー1の表面に到達すると、噴射領域中心部に最も多く硬質粒子28が衝突するため、圧縮変形量が最大となり、外側に向かうにつれて硬質粒子28の衝突数が減少するため、圧縮変形量が減少し、最終的に略球形の凹状受圧面形状7が形成される。
【0038】
図3に示すように、凹状受圧面7の表面には、硬質粒子28の衝突によるディンプル30が形成され、ディンプル30は油液(作動油)保持機能を奏する。これによって、スリッパシュー1の潤滑性能が高められる。
【0039】
斜板式アキシャルピストンポンプ特有の挙動として、ピストンが上死点から下死点に移動する際、外部より油液が流入するのではなく、自吸する状態になるため、斜板2とスリッパシュー1との間で負圧が発生する。このとき、図5に示すように、油液の吸入負圧によってスリッパシュー1が変形し、凹状受圧面7が斜板2と固体接触し、平面と吸盤とによる吸着現象のような状態に陥る可能性がある。
【0040】
従来の斜板式アキシャルピストンポンプ、モータにおけるスリッパシューは、一般に、摺動面が、リン青銅や鉛青銅などの比較的軟質な銅合金を用いて形成され、斜板摺動面との間に相対硬度差をもたせ、摺動なじみを促進することで、円滑な摺動状態を定常的に実現し、且つ突発的に発生する高負荷による斜板とスリッパシューとの間の焼きつき現象を、自身が積極的に変形または摩耗することで回避させる。
【0041】
そのため、上記吸着現象によって斜板とスリッパシューが固体接触した状態で摺動動作を行った場合、軟質な銅合金材料の表面が塑性流動、異常摩耗してしまう可能性があった。
【0042】
これに対して、本実施の形態によるスリッパシュー1は、図5に示すように、斜板2とスリッパシュー1との間の吸着現象によってスリッパシュー1が変形し、斜板2と凹状受圧面7が接触した場合にも、ディンプル30の油溜まり効果によって、完全吸着状態を免れることができ、円滑な摺動状態を維持することが可能となる。
【0043】
スリッパシュー1への凹状受圧面7形成のためのショットピーニングまたはショットブラストのメディア噴射条件として、メディア粒径、メディア材質、噴射圧力、噴射距離、ノズル噴出口径、照射時間の6種類が挙げられる。
【0044】
上記照射条件のうち、メディア粒径およびメディア材質と形成される凹状受圧面7の形状との関係をみてみると、メディア粒径を大きく、メディア材質を高硬度且つ比重の大きいものにすることで、照射対象面への硬質粒子の衝突エネルギーが大きくなり、圧縮変形量が増大することで、形成される凹状受圧面7の凹部深さをより大きくすることができる。噴射圧力条件についても、高圧になるほど硬質粒子の衝突エネルギーが増大するため、同様に凹部深さを大きくすることができる。
【0045】
また、噴射距離、即ちノズル噴出口と噴射(照射)対象面との距離が長くなるほど、噴流29の拡がりは大きくなるため、照射対象面での粒子衝突面積が大きくなり、凹状受圧面7の直径を大きくすることができる。ノズル噴出口径についても、口径が大きくなるほど、噴流の拡がりは大きくなるため、同様に凹状受圧面の直径を大きくすることができる。
【0046】
さらに、照射対象面に対する硬質粒子の照射時間を長くすることで、粒子衝突領域において硬質粒子の衝突数が多い中心部付近では、硬質粒子28の衝突による加工硬化によって表面硬度が最大値に近づいていき、次第に圧縮変形量としては飽和傾向となるが、硬質粒子の衝突数が少ない外側の部分においてはその間も圧縮変形が進むため、結果的に形成される凹状受圧面7の輪郭形状、主にその曲率が変化する。
【0047】
これら6種類の噴射条件を目的に合わせて適宜調整することで、形成される凹状受圧面形状を自在に変化させることができる。
【0048】
[製造方法]
次にスリッパシュー1の製造方法の第1の実施の形態を、図6のフローチャートに基づいて説明する。第1の実施の形態では、スリッパシュー1をピストン5にカシメ加工で組み付ける前に凹状受圧面を形成する。
【0049】
ステップS901:まず、スリッパシュー1の原形を作成する。原形は、鋼製の本体の端面に青銅等の摺動材を焼結して形成される。
【0050】
ステップS902:ステップS901に続いて、スリッパシュー1の原形をラッピング加工する。
【0051】
ステップS903:図7に示すように、ステップS902でラッピング加工された原形1pを、治具100にセットする。治具100には、原形1pの中間部1Cが略隙なく嵌入される収容部102が設けられ、収容部102の開放端には、ノズル27に対向する支持面104が形成されている。中間部1Cの外径をd、収容部102の内径をDとするとき、dはDよりもわずかに小さい。
【0052】
原形1pは、中間部1Cを収容部102に嵌入させつつ、シールランド部3を支持面104で支持することによって、ノズル27と同軸(中心軸をCLで示す。)に、かつ、ノズル27に対して所定の距離hに位置決めされる。ノズル27の端面27Aの位置は、原形1の加工面との距離がhになるように、支持面104からの距離がHになるように設定されている。また、ノズル27の軸心と治具100の軸心は予め所定の精度で芯出しされ、両軸心は同軸上に配列されている。
【0053】
このように、ノズル27の中心軸をスリッパシュー1の中心軸と一致させることによって、凹状受圧面7の中心をスリッパシュー摺動面1sの中央部とすることができる。実際に油液による圧力が作用した場合、正常且つ最適な油圧バランス(静圧バランス)を保つことが可能となる。
【0054】
ステップS904:ステップS903に続いて、ノズル27から空気と硬質粒子28との混相流を噴射し、凹状受圧面7を形成し、スリッパシュー1を形成する。
【0055】
ステップS905:ステップS904に続いて、エアブローによりスリッパシュー1に付着した硬質粒子28を除去する。混相流29として噴射された硬質粒子28、および、エアブローで除去された硬質粒子28は、回収し、分級して、破損した硬質粒子28を除去した後に、再利用する。
【0056】
ステップS906:ステップS905に続いて、カシメ加工によって、ボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0057】
なお、スリッパシュー1をピストン5にカシメ加工で組み付けた後に、ショットピーニングを行う場合には、図8に示すフローチャートの工程および図9の支持状態により加工を行う。図中、図6、図7と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0058】
ステップS1101:まず、ステップS901と同様に、スリッパシュー1の原形を作成する。
【0059】
ステップS1102:ステップS902と同様に、原形1pにラッピング加工を施す。
【0060】
ステップS1103:ステップS1102に続いて、ラッピング加工した原形1pのボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0061】
ステップS1104:図9に示すように、ピストン5に組み付けた原形1pを、ピストン5とともに治具100にセットする。治具100には、ピストン5が略隙なく嵌入される収容部102が設けられ、収容部102の開放端には、ノズル27に対向する支持面104が形成されている。ピストン5の外径をdp、収容部102の内径をDとするとき、dpはDよりもわずかに小さい。
このように、ピストン5に組み付けた状態では、必ずしもスリッパシュー1によって軸合わせを行う必要はなく、ピストン5による軸合わせも可能である。
【0062】
原形1pは、ノズル27と同軸に、かつ、ノズル27に対して所定の距離hに位置決めされる。
【0063】
ステップS1105:ステップS904と同様に、ショットピーニングにより、凹状受圧面7を形成する。
【0064】
ステップS1106:ステップS905と同様に、エアブローによりスリッパシュー1に付着した硬質粒子28を除去する。
【0065】
このように、第1の実施の形態におけるスリッパシュー摺動面加工方法では、硬質粒子噴射装置と、粒子噴射装置の粒子噴射軸と軸合わせされた治具とを備えるスリッパシューの加工装置を使用する。そして、粒子噴射装置の粒子噴射面は、スリッパシューの摺動面から一定距離に配置され、粒子噴射装置は、流体と硬質粒子の混相流を噴射する。このような加工装置によれば、凹状受圧面を、硬質粒子照射領域中心部が最も深く、外側に向かうにつれて浅くなる凹状の略球面状に形成することができる。
【0066】
したがって、従来の切削加工で必要であったツール移動動作や、それを行なうための複雑なNCプログラム、被削物の把握固定や精密位置出しなどを必要としないため、加工装置自体を簡素で安価、且つツール移動やワーク位置調整などの複雑な可動機構を有さない。メンテナンス性から見ても非常に堅牢なものとすることができる。
【0067】
また、硬質粒子の衝突によって形成された凹状受圧面7の最表面は、加工硬化によって表面硬度が上昇し、耐摩耗性が向上する。従って、斜板2と凹状受圧面7の固体接触状態での摺動においても、凹状受圧面7を形成する銅合金材表面の塑性流動、異常摩耗を防止し、油溜まり部4の損傷閉塞を防止することが可能となる。
【0068】
−第2の実施の形態−
次に、図10〜図12を参照して、本発明の第2の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを説明する。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0069】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態で示した硬質粒子の衝突領域の一部を、図10に示すマスキング31で覆うことによって、硬質粒子28の衝突による圧縮変形を妨げ、凹状受圧面7上に局部的に平坦部32を残すことが可能となる。
【0070】
図11に示すように、スリッパシュー1上の油溜まり部4を中心として、凹状受圧面7の外径よりも小さく、その同心円上に存在する略円環状平坦部32を形成することで、斜板2とスリッパシュー1との間に吸着現象が生じた場合にも、凹状受圧面7上に斜板との接触面が追加形成される。これによって、スリッパシュー1の変形を抑制することができ、斜板2とスリッパシュー1との固体接触を防止することが可能となる。
【0071】
マスキング31に用いる被覆材料としては、硬質粒子の衝突エネルギーを十分に吸収し、マスキング直下のスリッパシュー1表面に伝えない緩衝性能と、連続的な硬質粒子の衝突によって破損、剥離することのない強度と、噴射加工終了時までその効果を維持できるような耐久性とを有するものが好ましく、例えば耐摩耗性樹脂被膜などを使用して良好な結果を得ている。
【0072】
さらに、図12に示すように、硬質粒子衝突の阻止手段(マスキング33)を、噴射対象領域のみを切り抜いた形の板状遮蔽物としてもよい。このとき、板状遮蔽物33の材質としては、照射する硬質粒子28よりも遙かに高硬度で、かつ高耐摩耗性で、粒子衝突による削食に対して強い耐ブラストエロージョン性に優れる材質であることが望ましい。このような材料としては、例えば、工具鋼、超硬材等を用いることができる。
[製造方法]
【0073】
次にスリッパシュー1の製造方法の第2の実施の形態を、図13のフローチャートおよび図14、図15に基づいて説明する。図中、製造方法の第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0074】
ステップS1301:まず、ステップS901と同様に原形1pを作成する。
【0075】
ステップS1302:ステップS902と同様に、原形1pをラッピング加工する。
【0076】
ステップS1303:図14に示すように、原形1pにマスキング33をセットする。マスキング33には嵌合部33Aが形成され、嵌合部33Aにおいて、原形1pのシールランド部3に嵌合する。これによって、マスキング33は原形1pに対して同軸に設定される。
【0077】
ステップS1304:図15に示すように、マスキング33がセットされた原形1pを治具100にセットする。ステップS903と同様に、治具100にセットすることによって、原形1pはノズル27に対して、位置合わせされる。
【0078】
ステップS1305:ステップS905と同様にショットピーニングによって凹状受圧面7を形成する。但し、マスキング33をセットしたことによって、凹状受圧面7には平坦部32(図11)が形成される。
【0079】
ステップS1306:ステップS905と同様に、エアブローにより硬質粒子28を除去する。
【0080】
ステップS1307:ステップS906と同様に、カシメ加工によって、ボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0081】
なお、スリッパシュー1をピストン5にカシメ加工で組み付けた後に、ショットピーニングを行う場合には、図16に示すフローチャートの工程および図17、図18のセット状態により加工を行う。図中、第1の実施の形態の製造方法と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0082】
ステップS1601:まず、ステップS1101と同様に、スリッパシュー1の原形を作成する。
【0083】
ステップS1602:ステップS1102と同様に、原形1pにラッピング加工を施す。
【0084】
ステップS1603:ステップS1103と同様に、ラッピング加工した原形1pのボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0085】
ステップS1604:ステップS1303と同様に、原形1pにマスキング33をセットする。(図17)
【0086】
ステップS1605:図18に示すように、ステップS1304と同様に、マスキング33がセットされた原形1pを、ピストン5とともに治具100にセットする。
【0087】
ステップS1606:ステップS1305と同様に、ショットピーニングにより、凹状受圧面7を形成する。
【0088】
ステップS1607:ステップS1306と同様に、エアブローによりスリッパシュー1に付着した硬質粒子28を除去する。
【0089】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加えて、凹状受圧面7に略円環状平坦部32を形成することで、吸着現象が生じた場合にも、接触面が追加形成されて、スリッパシュー1の変形を抑制でき、斜板2とスリッパシュー1との固体接触を防止するという効果を奏する。
マスキング31,33に替えて、樹脂テープ等を使用することも可能である。
【0090】
−第3の実施の形態−
次に、図19〜図22を参照して、本発明の第3の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを説明する。第1の実施の形態では、混相流の噴流40は、ノズル27の中心軸に略沿った流れであったが、第3の実施の形態は、噴流40を、ノズル27中心軸回りの旋回流としている。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0091】
図19に示すように、スリッパシュー1は、第1の実施の形態と同様、スリッパシュー1に対して所定位置に配置されたノズル27により噴射される混相流によって、ショットピーニングまたはショットブラストの加工が施される。
但し、第1の実施の形態と異なり、混相流の噴流40は混相流の中心軸に沿って収束する形の旋回流である。これによって、第1の実施の形態に比較して、より狭小領域に硬質粒子28を集中することが可能であり、より尖鋭な加工を行うことができる。
図19の凹状受圧面7は、尖鋭な加工特性によって、周縁に略直角の隅部が形成されている。
【0092】
図20に示すように、旋回流の混相流40は、「コアンダスリット」と呼ばれる環状細隙から空気を流入する粒子噴射用ノズルによって生成される。
【0093】
図20において、粒子噴射用ノズルは空気と硬質粒子28との混相流Mを送給する吸入管42と、噴流40を噴射する流路管(ノズル)27とを備え、吸入管42は流路管27の基端部27Bに所定長挿入されている。基端部27Bはチャンバ45内に収容されており、基端部27Bとチャンバ内面との隙間はコアンダスリット44になっている。
【0094】
チャンバ45は、基端部27B周囲に形成された環状空間であり、チャンバ45には、流路管27の半径方向外側から、チャンバ45内に圧縮空気Aを送給する送入管41が設けられている。また、基端部27B内面には傾斜面部43が形成されている。
送入管41から送給された圧縮空気Aは、コアンダスリット44から吸入管42周囲に流入し、さらに傾斜面部43に案内されて、基端部27B内に円滑に流入する。コアンダスリット44からの流入に際して、圧縮空気Aは混相流Mの中心軸回り速度成分を得る。これによって旋回する噴流(旋回流)40が生成される。
【0095】
この旋回流は「コアンダスパイラルフロー」と呼ばれ、噴射気流中心軸に沿って旋回しながら収束する特徴を持っており、その発生原理や流体力学的特性は特許文献2等によって確認されている。
【0096】
上記旋回流発生機構を有した噴射ノズルを用い、予め平坦に仕上げられたスリッパシュー1の摺動面1sに対して硬質粒子10を旋回気流12によって噴射衝突させることで、スリッパシュー1の摺動面1sが尖鋭に、削食または圧縮変形加工され、加工領域全域が均一な深さの円形凹状の凹状受圧面7が形成される。
これによって、第1の実施の形態に比較して、同一直径の凹状受圧面7において、より大きな容量を確保し得る。
【0097】
図21に示すように、凹状受圧面7の表面には、硬質粒子衝突によるディンプル30が形成され、第1の実施の形態と同様、潤滑性能が高められる。
【0098】
これによって、図22に示すように、突発的な過大圧力負荷の発生によって斜板2表面と凹状受圧面7が変形接触した場合にも、ディンプル30に油液が保持されていることにより、完全固体接触状態を免れることができ、円滑な摺動状態を維持することが可能となる。
【0099】
ここに、第1の実施の形態同様、ショットピーニングおよびショットブラストの照射条件として、メディア粒径、メディア材質、噴射圧力、噴射距離、ノズル噴出口径、照射時間の6種類が挙げられるが、これらのパラメータを目的に合わせて適宜調整することで、硬質粒子の照射面積、硬質粒子の衝突エネルギー、照射気流中の硬質粒子密度を変化させ、形成される凹状受圧面7の深さおよび直径寸法を自在に変化させることが可能となる。
【0100】
第3の実施の形態のスリッパシュー1は、第1の実施の形態と同様の図6の工程において、ショットピーニング加工(ステップS904)を旋回流の噴流40に置き換えた工程によって加工し得る。
【0101】
さらに、第3の実施の形態のスリッパシュー1を、ピストン5に組み付けた後に加工する場合には、第1の実施の形態と同様の図8の工程において、ショットピーニング加工(ステップS1105)を旋回流の噴流40に置き換えた工程によって加工し得る。
【0102】
第3の実施の形態によれば、粒子噴射装置から圧縮旋回粒子を噴射して凹状受圧面を円筒平底凹部に形成する。この第3の実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加え、スリッパシュー1がより尖鋭な形状を有し、またより尖鋭な形状に加工し得るという効果を奏する。
【0103】
−第4の実施の形態−
次に、図23〜図25を参照して、本発明の第4の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを説明する。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0104】
第4の実施の形態における製造方法では、第2の実施の形態と同様のマスキング31を用い、第3の実施の形態と同様の旋回流40によりショットピーニングを行う。すなわち、図23に示すように、硬質粒子28の衝突領域の一部をマスキング31で遮蔽された状態でショットピーニングを行う。これにより、第3の実施の形態で説明したスリッパシューの尖鋭な凹状受圧面7上に、第2の実施の形態と同様に局部的に平坦部32を残すことが可能となる。
【0105】
図24に示すように、スリッパシュー1上の凹状受圧面7を中心とし、凹状受圧面7の外径よりも小さく、その同心円上に存在する略円環状の平坦部32を形成することで、第2の実施の形態と同様、スリッパシュー1の変形を抑制することができる。
【0106】
図25に示すように、第2の実施の形態と同様に、硬質粒子28衝突の阻止手段を、照射対象領域のみを切り抜いた形の板状遮蔽物33としてもよい。
【0107】
第4の実施の形態は、第1、第3の実施の形態両者の効果を奏する。
【0108】
第1〜第4の実施の形態の特徴的な作用効果をまとめると以下のとおりである。
【0109】
(1)図2に示すように、スリッパシュー1に対し、空気と硬質粒子28の混相流29を高速で摺動面1sに衝突させることによって、凹状受圧面7を加工する。このとき、凹状受圧面7が形成されるだけでなく、図3に示すように、凹状受圧面7の表面にはディンプル30が形成され、油液(作動油)保持機能を奏することができる。これによって、スリッパシュー1の潤滑性能が高められ、斜板2とスリッパシュー1との間の吸着現象によってスリッパシュー1が変形し、斜板2と凹状受圧面7が接触した場合にも、円滑な摺動状態を維持することが可能となる。
【0110】
(2)スリッパシュー1への凹状受圧面7の形成のためのショットピーニングまたはショットブラストのメディア噴射条件として、メディア粒径、メディア材質、噴射圧力、噴射距離、ノズル噴出口径、照射時間の6種類が挙げられるが、これらの噴射条件を目的に合わせて適宜調整することで、形成される凹状受圧面形状を自在に変化させることができる。
【0111】
(3)図7に示すように、凹状受圧面7の中心をスリッパシュー摺動面1sの中央部とすることによって、実際に油液による圧力が作用した場合、正常且つ最適な油圧バランス(静圧バランス)を保つことが可能となる。
【0112】
(4)ノズル27とスリッパシュー1の相対位置関係を固定したまま硬質粒子をスリッパシュー1の摺動面に衝突させ、凹状受圧面7を形成するようにした。したがって、従来の切削加工で必要であったツール移動動作や、それを行なうための複雑なNCプログラム、被削物の把握固定や精密位置出しなどを必要としないため、加工装置自体を簡素で安価、且つツール移動やワーク位置調整などの複雑な可動機構を有さない、メンテナンス性から見ても非常に堅牢なものとすることができる。
【0113】
(5)硬質粒子の衝突によって形成された凹状受圧面7の最表面は、加工硬化によって表面硬度が上昇し、耐摩耗性が向上する。従って、斜板2と凹状受圧面7の固体接触状態での摺動においても、凹状受圧面7を形成する銅合金材表面の塑性流動、異常摩耗を防止し、油溜まり部4の損傷閉塞を防止することが可能となる。
【0114】
(6)図11に示すように、スリッパシュー1上の油溜まり部4を中心として、凹状受圧面7の外径よりも小さく、その同心円上に存在する略円環状平坦部32を形成することで、斜板2とスリッパシュー1との間に吸着現象が生じた場合にも、凹状受圧面7上に斜板との接触面が追加形成される。これによって、スリッパシュー1の変形を抑制することができ、斜板2とスリッパシュー1との固体接触を防止することが可能となる。
【0115】
(7)図19に示すように、混相流の噴流40を旋回流としてより尖鋭な加工を行うことによって、凹状受圧面には、略直角の隅部が形成される。これによって、同一直径の凹状受圧面7において、より大きな容量を確保し得る。
【0116】
本発明は、上述した実施の形態に限定されない。すなわち、粒子噴射装置とスリッパシューとの軸を合わせ、粒子噴射装置とスリッパシューとの相対位置関係を固定したまま、硬質粒子をスリッパシュー摺動面に衝突させて凹状受圧面を形成する方法および装置であれば、すべて本発明の製造方法および製造装置に相当する。
【符号の説明】
【0117】
10 スリッパシュー 1s 摺動受圧面
7 凹状受圧面 27 ノズル
28 硬質粒子 29、40 噴流
30 ディンプル 31、33 マスキング
32 平坦部
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板式液圧回転機におけるピストンのスリッパシューの摺動面に凹状受圧面を形成する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アキシャルピストン型の油圧ポンプ、油圧モータに代表される斜板式液圧回転機は、回転軸と一体に回転するように、回転軸周囲に配置された複数のシリンダを有し、各シリンダのシリンダボア内に挿嵌されたピストンは、その突出端が斜板によって往復駆動される。そして、ピストンの突出端と斜板の間には、スリッパシューが配設され、ピストンを円滑にガイドしつつ、往復駆動し得る。
【0003】
このような液圧回転機を油圧ポンプとして用いる場合には、例えば原動機によって回転軸を回転駆動すると、シリンダブロックが回転軸と一体に回転することにより各シリンダボア内をピストンが往復動するように摺動変位し、ピストンの吸入行程ではシリンダボアに油液(作動油)を吸入しつつ、吐出行程ではシリンダボア内で加圧した圧油液を外部に吐出するものである。
【0004】
その際、斜板の表面側に形成した平滑な摺動面は、各ピストンの突出端側に設けた複数のスリッパシューが高速で円軌道を描くように摺動接触する。
【0005】
スリッパシュー上には、斜板と摺動接触するシールランド部が形成されており、シールランド部の中央には、油溜まり部が設けられる。そして回転軸による回転駆動時には、シールランド部と斜板との間に、油圧によって微小潤滑隙間が形成され、微小潤滑隙間を通って、油溜まり部に油液が圧送、貯留されることで油膜が形成される。これによって、斜板とスリッパシューとの摺動面の潤滑性、シール性が確保され、スリッパシューは静圧軸受として機能する。
【0006】
シールランド部と斜板との摺動面に形成される微小潤滑隙間は、油溜まり部から斜板にかかる受圧面積(静圧部の面積)に比例して決まり、受圧面積が過大であると微小隙間も過大となり、潤滑性は高いがシール性が損なわれ、油圧ポンプとしての効率が低下する。
【0007】
逆に、受圧面積が過小であると、潤滑性能が低下し、回転軸の極低速回転時や起動時において、焼きつきや摩耗による耐用寿命低下といった問題が発生する。
【0008】
潤滑性とシール性をバランス良く両立させると同時に斜板とスリッパシューとの間の接触面積低減を実現するため、スリッパシュー摺動面上に凹状の受圧面を形成することで受圧面積を拡大し、この凹状受圧面の形状を変化させることで必要充分な微小潤滑隙間の確保を可能とする方法が知られている(特許文献1参照)。
【0009】
なお、シールランド部および静圧ポケットはバイトやエンドミルなどを用いた切削加工によって加工形成されている(特許文献2および特許文献3参照)。
【0010】
このとき、シールランド部と静圧ポケットの形状寸法は、ピストンの直径などの幾つかの代表寸法、および斜板式液圧回転機が使用される圧力負荷領域に合わせて最適化されていなければ適正な潤滑効果を得ることができないということが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許 第3474796号
【特許文献2】特許 第254763号
【特許文献3】特開2000−257549号公報
【特許文献4】特開2006−17075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シールランド部および静圧ポケットは、高い寸法精度が要求されるが、加工難易度が非常に高く、加工のための段取り作業にも多くの時間と労力を要するため、製造原価が高価であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)請求項1の発明による斜板式液圧回転機に用いられるピストンスリッパシューの製造方法は、粒子噴射装置から前記スリッパシューの摺動面に硬質粒子を衝突させて前記スリッパシューの摺動面に凹状受圧面を形成する凹状受圧面形成工程と、前記凹状受圧面形成工程に先立って、前記スリッパシューの軸心を前記粒子噴射装置の粒子噴射軸心に軸合せる芯出し工程とを有し、前記凹状受圧面形成工程では、前記粒子噴射装置と前記スリッパシューとの相対位置関係を固定としたまま硬質粒子を前記摺動面に衝突させることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1のピストンスリッパシューの製造方法において、前記凹状受圧面形成工程は、前記粒子噴射装置から圧縮粒子を噴射して前記凹状受圧面を球面状に形成するか、または、前記粒子噴射装置から圧縮旋回粒子を噴射して前記凹状受圧面を円筒平底凹部に形成することを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2のスリッパシューの製造方法において、前記スリッパシューの摺動面をラップ加工して平坦面を形成する工程と、前記スリッパシューを治具にセットして軸合わせを行う工程と、前記粒子噴射装置から粒子を前記平坦面に向けて噴射する工程と、粒子噴射終了後、前記スリッパシューに付着する粒子をエアブローで除去する工程とを順番に行うことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項の製造方法でスリッパシューを製造する製造装置であって、前記粒子噴射装置と、前記粒子噴射装置の粒子噴射軸と軸合わせされた前記治具とを備えることを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項4のスリッパシューの製造装置において、前記粒子噴射装置の粒子噴射面は、前記スリッパシューの摺動面から一定距離に配置され、前記粒子噴射装置は、流体と硬質粒子の混相流を噴射するものであり、前記凹状受圧面を、硬質粒子照射領域中心部が最も深く、外側に向かうにつれて浅くなる凹状の略球面状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摺動面に凹状受圧面を有するスリッパシューを低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】斜板式アキシャルピストンポンプの断面図である。
【図2】本発明における第1の実施の形態による凹状受圧面形成方法を示した模式図である。
【図3】本発明における第1の実施の形態よって形成された凹状受圧面の表面形状の拡大図である。
【図4】図2の受圧面形成のために噴射される硬質粒子の密度分布を示す図である。
【図5】図2に示したスリッパシューが吸入負圧によって変形した状態を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施形態のスリッパシューを製造する製造方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。
【図7】図6の製造方法における、スリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図8】図6の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【図9】図8の製造方法において、スリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態において、マスキングによる凹状受圧面および平坦部の形成方法を示した模式図である。
【図11】図10に示す方法によって形成された凹状受圧面および平坦部の正面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態において、他の板状遮蔽物による凹状受圧面および平坦部の形成方法を示した模式図である。
【図13】本発明に係る製造方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図14】図13の製造方法におけるスリッパシューに対する遮蔽部材セット状態を示す縦断面図である。
【図15】図13の製造方法におけるスリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図16】図13の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【図17】図16の製造方法において、スリッパシューに対する遮蔽部材セット状態を示す縦断面図である。
【図18】図16の製造方法におけるスリッパシューの治具へのセット状態を示す縦断面図である。
【図19】本発明の第3の実施の形態において、硬質粒子の噴射気流が旋回気流である場合に形成される静圧ポケット形状の模式図である。
【図20】コアンダスパイラルフロー発生機構を有した噴射ノズルの断面図である。
【図21】図19の凹状受圧面の表面形状の拡大図である。
【図22】図21に示すスリッパシューが過大圧力負荷によって変形した状態を示す模式図である。
【図23】本発明の第4の実施の形態において、マスキングによる静圧ポケットおよび平坦部の形成方法を示した模式図である。
【図24】図23に示す方法によって形成された静圧ポケットおよび平坦部の外観図である。
【図25】本発明の第4の実施の形態において、他の板状遮蔽物による凹状受圧面および平坦部の形成方法を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
−第1の実施の形態−
以下、本発明の第1の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを、液圧回転機としての可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0017】
[スリッパシュー]
図1〜図4は本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、8は液圧回転機としての可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプ(以下、油圧ポンプ8という)で、油圧ポンプ8は、ケーシング9、回転軸10、シリンダブロック11、複数のピストン5、スリッパシュー1、斜板2、および弁板12を備える。
【0018】
図1に示すように、ケーシング9は、筒状のケーシング本体13と、ケーシング本体13の両端を閉塞するフロントケーシング14およびリヤケーシング15とを備え、油圧ポンプ8の外殻を構成する。リヤケーシング15には、一対の給排通路16A、16Bが設けられ、給排通路16A、16Bは、作動油の吸込側、吐出側の配管(いずれも図示せず)等に接続される。
【0019】
回転軸10は、フロントケーシング14に装着された軸受17と、リヤケーシング15に装着された軸受18とによって回転自在に支承されつつ、ケーシング9内に配置されている。回転軸10には、フロントケーシング14から軸方向に突出する連結部10Aが設けられ、例えばディーゼルエンジン等の駆動源(図示せず)に連結される。これによって、回転軸10は駆動源によって回転駆動される。
【0020】
シリンダブロック11は、回転軸10の外周にスプライン結合され、回転軸10と一体に回転する。シリンダブロック11は、その一端面11Aが後述の斜板2に対向して配置され、他端面11Bが後述の弁板12に摺接する。
【0021】
シリンダブロック11には、それぞれが回転軸10と平行な中心軸を有する、複数のシリンダボア19が形成され、各シリンダボア19は、回転軸10を中心にした円周上に、一定間隔で配列されている。シリンダボア19は、端面11A側の端部から端面11B側の端部に向かって穿たれ、その底部にはシリンダポート20Aが穿設されている。シリンダポート20Aは端面11Bにおいて開口しており、弁板12によって開閉される。弁板12がシリンダポート20Aを開放したときには、シリンダポート20Aは、リヤケーシング15に形成された給排通路16Aまたは16Bに連通される。
【0022】
各シリンダボア19にはピストン5が軸方向摺動可能に挿嵌され、ピストン5は、シリンダブロック11の回転に伴って、斜板2上を周回しつつ、斜板2によって案内されて、シリンダボア19内を往復動する。ピストン5がシリンダポート20Aから後退するとき、シリンダポート20Aを通じて、シリンダボア19内に油液(作動油)が吸込まれ、一方、ピストン5がシリンダポート20A方向に進出するとき、油液を高圧の圧油として、シリンダポート20Aから吐出する。
【0023】
各ピストン5の端面11A側の端部にはスリッパシュー1が揺動可能に装着され、スリッパシュー1は、斜板2の凹部に嵌入された環状の平滑板22に摺接している。回転軸10には、各スリッパシュー1に対応した孔21Aを有する円板状のシュー押え21が固着され、スリッパシュー1は、斜板2側から孔21A内に挿入され、シュー押え21によって、摺動面22Bに常に摺接するように保持されている。
【0024】
スリッパシュー1は、平滑板22に摺接するシールランド部3と、ピストン5に回転自在に組み付けられるボールジョイント部1Bとを有し、シールランド部3とボールジョイント部1Bとの間には、円柱状の中間部1Cが設けられている。
【0025】
フロントケーシング14には斜板支持体23が設けられ、斜板支持体23は、回転軸10を包囲するように斜板2の裏面側に固定されている。斜板支持体23には、回転軸10の半径方向に離間した一対の傾転摺動面23Aが設けられ、傾転摺動面23Aは、斜板2を傾転可能に支持するために、凹湾曲状の円弧面として形成されている。
【0026】
斜板2は、斜板本体24と、斜板本体24の表面側に固定して設けられた平滑板22とを有する。斜板2の中央部には、回転軸10が隙間をもって挿通される軸挿通穴22A、24Aが穿設されている。斜板本体24は、その裏面、すなわちフロントケーシング14側の背面24Bが、斜板支持体23の傾転摺動面23Aによって、傾転可能に支持されている。
【0027】
平滑板22は、シリンダブロック11と対向する摺動面22Bにおいてスリッパシュー1に摺接しつつ、スリッパシュー1を案内し、ピストン5を往復動させる。
【0028】
弁板12は、シリンダブロック11の端面11Bに摺接して、シリンダブロック11を回転可能に支持している。弁板12には、眉形状をなす一対の給排ポートが形成され、これら給排ポートは、給排通路16A、16Bと連通している。
【0029】
弁板12の給排ポートは、シリンダブロック11の回転時に、各シリンダボア19のシリンダポート19Aと間欠的に連通し、例えば一方の給排通路16Aから各シリンダボア19に吸込んだ油液(作動油)をピストン5により加圧させると共に、各シリンダボア19内で高圧状態となった圧油を他方の給排通路16Bから吐出させる。
【0030】
シリンダブロック11には、端面11Aから突出する、一対の傾転アクチュエータ25,26が設けられ、アクチュエータ25,26は斜板2を傾転駆動する。アクチュエータ25,26には、外部から傾転制御圧が給排され、この圧力に応じて斜板2の傾転角を制御する。ピストン5のストローク長は斜板2の傾転角に応じて自由に調節される。
【0031】
次に、第1の実施の形態の油圧ポンプ8の作動について説明する。
駆動源によって回転軸10を回転駆動すると、ケーシング9内でシリンダブロック11が回転軸10と一体に回転される。これにより、斜板2(平滑板22)の摺動面22Bに沿って各ピストン5がシリンダボア19内で往復動を繰り返す。
【0032】
シリンダブロック11が1回転する間に、各ピストン5はシリンダボア19内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰り返す。ピストン5の吸入行程では、例えば給排通路16Aからシリンダボア19内に作動油を吸込み、ピストン5の吐出行程では、ピストン5がシリンダボア19内の油液を高圧の圧油として給排通路16Bから吐出する。
【0033】
油圧ポンプ8の作動中には、スリッパシュー1は、摺動面22Bに沿って円軌道を描くように摺動変位を続けるため、両者の焼きつきや摩耗による耐用寿命低下を防止するため、潤滑性とシール性とをバランス良く両立させるような受圧面を形成する必要がある。
【0034】
このため、本実施の形態による斜板式液圧回転機のスリッパシュー1では、図2に示すような凹状受圧面7を設けている。この凹状受圧面7は次のように形成される。スリッパシュー1に対し、ある距離に設置されたショットピーニングまたはショットブラスト用粒子噴射装置のノズル27より、メディアと呼ばれる硬質粒子28を圧縮空気によって噴射し、スリッパシュー1の摺動面1sに衝突させ、摺動面1sを圧縮変形させることで凹状受圧面7が形成される。この明細書では、第1の実施形態におけるノズル27から噴射される粒子を圧縮粒子と呼ぶ。
【0035】
すなわち、空気と硬質粒子28の混相流29を高速で摺動面1sに衝突させることによって、凹状受圧面7を加工する。このとき、図3に示すように、凹状受圧面7が形成されるだけでなく、凹状受圧面7表面に微小な凹状打痕(ディンプル)が形成される。
なお混相流における空気は、他の気体あるいはその他の流体とすることも可能である。
【0036】
図4に示すように、混相流29における硬質粒子28の密度分布は、中心軸上で最も高く、外側に向かうにつれて低くなり、ノズル27の噴出口27Aからの距離が長くなるほど、密度分布範囲は放射状に拡がる。図4では模式的に、D1、D2、D3の3段階の濃淡で示しているが、密度分布は連続的である。
【0037】
混相流29がスリッパシュー1の表面に到達すると、噴射領域中心部に最も多く硬質粒子28が衝突するため、圧縮変形量が最大となり、外側に向かうにつれて硬質粒子28の衝突数が減少するため、圧縮変形量が減少し、最終的に略球形の凹状受圧面形状7が形成される。
【0038】
図3に示すように、凹状受圧面7の表面には、硬質粒子28の衝突によるディンプル30が形成され、ディンプル30は油液(作動油)保持機能を奏する。これによって、スリッパシュー1の潤滑性能が高められる。
【0039】
斜板式アキシャルピストンポンプ特有の挙動として、ピストンが上死点から下死点に移動する際、外部より油液が流入するのではなく、自吸する状態になるため、斜板2とスリッパシュー1との間で負圧が発生する。このとき、図5に示すように、油液の吸入負圧によってスリッパシュー1が変形し、凹状受圧面7が斜板2と固体接触し、平面と吸盤とによる吸着現象のような状態に陥る可能性がある。
【0040】
従来の斜板式アキシャルピストンポンプ、モータにおけるスリッパシューは、一般に、摺動面が、リン青銅や鉛青銅などの比較的軟質な銅合金を用いて形成され、斜板摺動面との間に相対硬度差をもたせ、摺動なじみを促進することで、円滑な摺動状態を定常的に実現し、且つ突発的に発生する高負荷による斜板とスリッパシューとの間の焼きつき現象を、自身が積極的に変形または摩耗することで回避させる。
【0041】
そのため、上記吸着現象によって斜板とスリッパシューが固体接触した状態で摺動動作を行った場合、軟質な銅合金材料の表面が塑性流動、異常摩耗してしまう可能性があった。
【0042】
これに対して、本実施の形態によるスリッパシュー1は、図5に示すように、斜板2とスリッパシュー1との間の吸着現象によってスリッパシュー1が変形し、斜板2と凹状受圧面7が接触した場合にも、ディンプル30の油溜まり効果によって、完全吸着状態を免れることができ、円滑な摺動状態を維持することが可能となる。
【0043】
スリッパシュー1への凹状受圧面7形成のためのショットピーニングまたはショットブラストのメディア噴射条件として、メディア粒径、メディア材質、噴射圧力、噴射距離、ノズル噴出口径、照射時間の6種類が挙げられる。
【0044】
上記照射条件のうち、メディア粒径およびメディア材質と形成される凹状受圧面7の形状との関係をみてみると、メディア粒径を大きく、メディア材質を高硬度且つ比重の大きいものにすることで、照射対象面への硬質粒子の衝突エネルギーが大きくなり、圧縮変形量が増大することで、形成される凹状受圧面7の凹部深さをより大きくすることができる。噴射圧力条件についても、高圧になるほど硬質粒子の衝突エネルギーが増大するため、同様に凹部深さを大きくすることができる。
【0045】
また、噴射距離、即ちノズル噴出口と噴射(照射)対象面との距離が長くなるほど、噴流29の拡がりは大きくなるため、照射対象面での粒子衝突面積が大きくなり、凹状受圧面7の直径を大きくすることができる。ノズル噴出口径についても、口径が大きくなるほど、噴流の拡がりは大きくなるため、同様に凹状受圧面の直径を大きくすることができる。
【0046】
さらに、照射対象面に対する硬質粒子の照射時間を長くすることで、粒子衝突領域において硬質粒子の衝突数が多い中心部付近では、硬質粒子28の衝突による加工硬化によって表面硬度が最大値に近づいていき、次第に圧縮変形量としては飽和傾向となるが、硬質粒子の衝突数が少ない外側の部分においてはその間も圧縮変形が進むため、結果的に形成される凹状受圧面7の輪郭形状、主にその曲率が変化する。
【0047】
これら6種類の噴射条件を目的に合わせて適宜調整することで、形成される凹状受圧面形状を自在に変化させることができる。
【0048】
[製造方法]
次にスリッパシュー1の製造方法の第1の実施の形態を、図6のフローチャートに基づいて説明する。第1の実施の形態では、スリッパシュー1をピストン5にカシメ加工で組み付ける前に凹状受圧面を形成する。
【0049】
ステップS901:まず、スリッパシュー1の原形を作成する。原形は、鋼製の本体の端面に青銅等の摺動材を焼結して形成される。
【0050】
ステップS902:ステップS901に続いて、スリッパシュー1の原形をラッピング加工する。
【0051】
ステップS903:図7に示すように、ステップS902でラッピング加工された原形1pを、治具100にセットする。治具100には、原形1pの中間部1Cが略隙なく嵌入される収容部102が設けられ、収容部102の開放端には、ノズル27に対向する支持面104が形成されている。中間部1Cの外径をd、収容部102の内径をDとするとき、dはDよりもわずかに小さい。
【0052】
原形1pは、中間部1Cを収容部102に嵌入させつつ、シールランド部3を支持面104で支持することによって、ノズル27と同軸(中心軸をCLで示す。)に、かつ、ノズル27に対して所定の距離hに位置決めされる。ノズル27の端面27Aの位置は、原形1の加工面との距離がhになるように、支持面104からの距離がHになるように設定されている。また、ノズル27の軸心と治具100の軸心は予め所定の精度で芯出しされ、両軸心は同軸上に配列されている。
【0053】
このように、ノズル27の中心軸をスリッパシュー1の中心軸と一致させることによって、凹状受圧面7の中心をスリッパシュー摺動面1sの中央部とすることができる。実際に油液による圧力が作用した場合、正常且つ最適な油圧バランス(静圧バランス)を保つことが可能となる。
【0054】
ステップS904:ステップS903に続いて、ノズル27から空気と硬質粒子28との混相流を噴射し、凹状受圧面7を形成し、スリッパシュー1を形成する。
【0055】
ステップS905:ステップS904に続いて、エアブローによりスリッパシュー1に付着した硬質粒子28を除去する。混相流29として噴射された硬質粒子28、および、エアブローで除去された硬質粒子28は、回収し、分級して、破損した硬質粒子28を除去した後に、再利用する。
【0056】
ステップS906:ステップS905に続いて、カシメ加工によって、ボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0057】
なお、スリッパシュー1をピストン5にカシメ加工で組み付けた後に、ショットピーニングを行う場合には、図8に示すフローチャートの工程および図9の支持状態により加工を行う。図中、図6、図7と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0058】
ステップS1101:まず、ステップS901と同様に、スリッパシュー1の原形を作成する。
【0059】
ステップS1102:ステップS902と同様に、原形1pにラッピング加工を施す。
【0060】
ステップS1103:ステップS1102に続いて、ラッピング加工した原形1pのボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0061】
ステップS1104:図9に示すように、ピストン5に組み付けた原形1pを、ピストン5とともに治具100にセットする。治具100には、ピストン5が略隙なく嵌入される収容部102が設けられ、収容部102の開放端には、ノズル27に対向する支持面104が形成されている。ピストン5の外径をdp、収容部102の内径をDとするとき、dpはDよりもわずかに小さい。
このように、ピストン5に組み付けた状態では、必ずしもスリッパシュー1によって軸合わせを行う必要はなく、ピストン5による軸合わせも可能である。
【0062】
原形1pは、ノズル27と同軸に、かつ、ノズル27に対して所定の距離hに位置決めされる。
【0063】
ステップS1105:ステップS904と同様に、ショットピーニングにより、凹状受圧面7を形成する。
【0064】
ステップS1106:ステップS905と同様に、エアブローによりスリッパシュー1に付着した硬質粒子28を除去する。
【0065】
このように、第1の実施の形態におけるスリッパシュー摺動面加工方法では、硬質粒子噴射装置と、粒子噴射装置の粒子噴射軸と軸合わせされた治具とを備えるスリッパシューの加工装置を使用する。そして、粒子噴射装置の粒子噴射面は、スリッパシューの摺動面から一定距離に配置され、粒子噴射装置は、流体と硬質粒子の混相流を噴射する。このような加工装置によれば、凹状受圧面を、硬質粒子照射領域中心部が最も深く、外側に向かうにつれて浅くなる凹状の略球面状に形成することができる。
【0066】
したがって、従来の切削加工で必要であったツール移動動作や、それを行なうための複雑なNCプログラム、被削物の把握固定や精密位置出しなどを必要としないため、加工装置自体を簡素で安価、且つツール移動やワーク位置調整などの複雑な可動機構を有さない。メンテナンス性から見ても非常に堅牢なものとすることができる。
【0067】
また、硬質粒子の衝突によって形成された凹状受圧面7の最表面は、加工硬化によって表面硬度が上昇し、耐摩耗性が向上する。従って、斜板2と凹状受圧面7の固体接触状態での摺動においても、凹状受圧面7を形成する銅合金材表面の塑性流動、異常摩耗を防止し、油溜まり部4の損傷閉塞を防止することが可能となる。
【0068】
−第2の実施の形態−
次に、図10〜図12を参照して、本発明の第2の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを説明する。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0069】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態で示した硬質粒子の衝突領域の一部を、図10に示すマスキング31で覆うことによって、硬質粒子28の衝突による圧縮変形を妨げ、凹状受圧面7上に局部的に平坦部32を残すことが可能となる。
【0070】
図11に示すように、スリッパシュー1上の油溜まり部4を中心として、凹状受圧面7の外径よりも小さく、その同心円上に存在する略円環状平坦部32を形成することで、斜板2とスリッパシュー1との間に吸着現象が生じた場合にも、凹状受圧面7上に斜板との接触面が追加形成される。これによって、スリッパシュー1の変形を抑制することができ、斜板2とスリッパシュー1との固体接触を防止することが可能となる。
【0071】
マスキング31に用いる被覆材料としては、硬質粒子の衝突エネルギーを十分に吸収し、マスキング直下のスリッパシュー1表面に伝えない緩衝性能と、連続的な硬質粒子の衝突によって破損、剥離することのない強度と、噴射加工終了時までその効果を維持できるような耐久性とを有するものが好ましく、例えば耐摩耗性樹脂被膜などを使用して良好な結果を得ている。
【0072】
さらに、図12に示すように、硬質粒子衝突の阻止手段(マスキング33)を、噴射対象領域のみを切り抜いた形の板状遮蔽物としてもよい。このとき、板状遮蔽物33の材質としては、照射する硬質粒子28よりも遙かに高硬度で、かつ高耐摩耗性で、粒子衝突による削食に対して強い耐ブラストエロージョン性に優れる材質であることが望ましい。このような材料としては、例えば、工具鋼、超硬材等を用いることができる。
[製造方法]
【0073】
次にスリッパシュー1の製造方法の第2の実施の形態を、図13のフローチャートおよび図14、図15に基づいて説明する。図中、製造方法の第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0074】
ステップS1301:まず、ステップS901と同様に原形1pを作成する。
【0075】
ステップS1302:ステップS902と同様に、原形1pをラッピング加工する。
【0076】
ステップS1303:図14に示すように、原形1pにマスキング33をセットする。マスキング33には嵌合部33Aが形成され、嵌合部33Aにおいて、原形1pのシールランド部3に嵌合する。これによって、マスキング33は原形1pに対して同軸に設定される。
【0077】
ステップS1304:図15に示すように、マスキング33がセットされた原形1pを治具100にセットする。ステップS903と同様に、治具100にセットすることによって、原形1pはノズル27に対して、位置合わせされる。
【0078】
ステップS1305:ステップS905と同様にショットピーニングによって凹状受圧面7を形成する。但し、マスキング33をセットしたことによって、凹状受圧面7には平坦部32(図11)が形成される。
【0079】
ステップS1306:ステップS905と同様に、エアブローにより硬質粒子28を除去する。
【0080】
ステップS1307:ステップS906と同様に、カシメ加工によって、ボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0081】
なお、スリッパシュー1をピストン5にカシメ加工で組み付けた後に、ショットピーニングを行う場合には、図16に示すフローチャートの工程および図17、図18のセット状態により加工を行う。図中、第1の実施の形態の製造方法と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0082】
ステップS1601:まず、ステップS1101と同様に、スリッパシュー1の原形を作成する。
【0083】
ステップS1602:ステップS1102と同様に、原形1pにラッピング加工を施す。
【0084】
ステップS1603:ステップS1103と同様に、ラッピング加工した原形1pのボールジョイント部1Bをピストン5に組み付ける。
【0085】
ステップS1604:ステップS1303と同様に、原形1pにマスキング33をセットする。(図17)
【0086】
ステップS1605:図18に示すように、ステップS1304と同様に、マスキング33がセットされた原形1pを、ピストン5とともに治具100にセットする。
【0087】
ステップS1606:ステップS1305と同様に、ショットピーニングにより、凹状受圧面7を形成する。
【0088】
ステップS1607:ステップS1306と同様に、エアブローによりスリッパシュー1に付着した硬質粒子28を除去する。
【0089】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加えて、凹状受圧面7に略円環状平坦部32を形成することで、吸着現象が生じた場合にも、接触面が追加形成されて、スリッパシュー1の変形を抑制でき、斜板2とスリッパシュー1との固体接触を防止するという効果を奏する。
マスキング31,33に替えて、樹脂テープ等を使用することも可能である。
【0090】
−第3の実施の形態−
次に、図19〜図22を参照して、本発明の第3の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを説明する。第1の実施の形態では、混相流の噴流40は、ノズル27の中心軸に略沿った流れであったが、第3の実施の形態は、噴流40を、ノズル27中心軸回りの旋回流としている。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0091】
図19に示すように、スリッパシュー1は、第1の実施の形態と同様、スリッパシュー1に対して所定位置に配置されたノズル27により噴射される混相流によって、ショットピーニングまたはショットブラストの加工が施される。
但し、第1の実施の形態と異なり、混相流の噴流40は混相流の中心軸に沿って収束する形の旋回流である。これによって、第1の実施の形態に比較して、より狭小領域に硬質粒子28を集中することが可能であり、より尖鋭な加工を行うことができる。
図19の凹状受圧面7は、尖鋭な加工特性によって、周縁に略直角の隅部が形成されている。
【0092】
図20に示すように、旋回流の混相流40は、「コアンダスリット」と呼ばれる環状細隙から空気を流入する粒子噴射用ノズルによって生成される。
【0093】
図20において、粒子噴射用ノズルは空気と硬質粒子28との混相流Mを送給する吸入管42と、噴流40を噴射する流路管(ノズル)27とを備え、吸入管42は流路管27の基端部27Bに所定長挿入されている。基端部27Bはチャンバ45内に収容されており、基端部27Bとチャンバ内面との隙間はコアンダスリット44になっている。
【0094】
チャンバ45は、基端部27B周囲に形成された環状空間であり、チャンバ45には、流路管27の半径方向外側から、チャンバ45内に圧縮空気Aを送給する送入管41が設けられている。また、基端部27B内面には傾斜面部43が形成されている。
送入管41から送給された圧縮空気Aは、コアンダスリット44から吸入管42周囲に流入し、さらに傾斜面部43に案内されて、基端部27B内に円滑に流入する。コアンダスリット44からの流入に際して、圧縮空気Aは混相流Mの中心軸回り速度成分を得る。これによって旋回する噴流(旋回流)40が生成される。
【0095】
この旋回流は「コアンダスパイラルフロー」と呼ばれ、噴射気流中心軸に沿って旋回しながら収束する特徴を持っており、その発生原理や流体力学的特性は特許文献2等によって確認されている。
【0096】
上記旋回流発生機構を有した噴射ノズルを用い、予め平坦に仕上げられたスリッパシュー1の摺動面1sに対して硬質粒子10を旋回気流12によって噴射衝突させることで、スリッパシュー1の摺動面1sが尖鋭に、削食または圧縮変形加工され、加工領域全域が均一な深さの円形凹状の凹状受圧面7が形成される。
これによって、第1の実施の形態に比較して、同一直径の凹状受圧面7において、より大きな容量を確保し得る。
【0097】
図21に示すように、凹状受圧面7の表面には、硬質粒子衝突によるディンプル30が形成され、第1の実施の形態と同様、潤滑性能が高められる。
【0098】
これによって、図22に示すように、突発的な過大圧力負荷の発生によって斜板2表面と凹状受圧面7が変形接触した場合にも、ディンプル30に油液が保持されていることにより、完全固体接触状態を免れることができ、円滑な摺動状態を維持することが可能となる。
【0099】
ここに、第1の実施の形態同様、ショットピーニングおよびショットブラストの照射条件として、メディア粒径、メディア材質、噴射圧力、噴射距離、ノズル噴出口径、照射時間の6種類が挙げられるが、これらのパラメータを目的に合わせて適宜調整することで、硬質粒子の照射面積、硬質粒子の衝突エネルギー、照射気流中の硬質粒子密度を変化させ、形成される凹状受圧面7の深さおよび直径寸法を自在に変化させることが可能となる。
【0100】
第3の実施の形態のスリッパシュー1は、第1の実施の形態と同様の図6の工程において、ショットピーニング加工(ステップS904)を旋回流の噴流40に置き換えた工程によって加工し得る。
【0101】
さらに、第3の実施の形態のスリッパシュー1を、ピストン5に組み付けた後に加工する場合には、第1の実施の形態と同様の図8の工程において、ショットピーニング加工(ステップS1105)を旋回流の噴流40に置き換えた工程によって加工し得る。
【0102】
第3の実施の形態によれば、粒子噴射装置から圧縮旋回粒子を噴射して凹状受圧面を円筒平底凹部に形成する。この第3の実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加え、スリッパシュー1がより尖鋭な形状を有し、またより尖鋭な形状に加工し得るという効果を奏する。
【0103】
−第4の実施の形態−
次に、図23〜図25を参照して、本発明の第4の実施の形態による製造方法で製造されるスリッパシューを説明する。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0104】
第4の実施の形態における製造方法では、第2の実施の形態と同様のマスキング31を用い、第3の実施の形態と同様の旋回流40によりショットピーニングを行う。すなわち、図23に示すように、硬質粒子28の衝突領域の一部をマスキング31で遮蔽された状態でショットピーニングを行う。これにより、第3の実施の形態で説明したスリッパシューの尖鋭な凹状受圧面7上に、第2の実施の形態と同様に局部的に平坦部32を残すことが可能となる。
【0105】
図24に示すように、スリッパシュー1上の凹状受圧面7を中心とし、凹状受圧面7の外径よりも小さく、その同心円上に存在する略円環状の平坦部32を形成することで、第2の実施の形態と同様、スリッパシュー1の変形を抑制することができる。
【0106】
図25に示すように、第2の実施の形態と同様に、硬質粒子28衝突の阻止手段を、照射対象領域のみを切り抜いた形の板状遮蔽物33としてもよい。
【0107】
第4の実施の形態は、第1、第3の実施の形態両者の効果を奏する。
【0108】
第1〜第4の実施の形態の特徴的な作用効果をまとめると以下のとおりである。
【0109】
(1)図2に示すように、スリッパシュー1に対し、空気と硬質粒子28の混相流29を高速で摺動面1sに衝突させることによって、凹状受圧面7を加工する。このとき、凹状受圧面7が形成されるだけでなく、図3に示すように、凹状受圧面7の表面にはディンプル30が形成され、油液(作動油)保持機能を奏することができる。これによって、スリッパシュー1の潤滑性能が高められ、斜板2とスリッパシュー1との間の吸着現象によってスリッパシュー1が変形し、斜板2と凹状受圧面7が接触した場合にも、円滑な摺動状態を維持することが可能となる。
【0110】
(2)スリッパシュー1への凹状受圧面7の形成のためのショットピーニングまたはショットブラストのメディア噴射条件として、メディア粒径、メディア材質、噴射圧力、噴射距離、ノズル噴出口径、照射時間の6種類が挙げられるが、これらの噴射条件を目的に合わせて適宜調整することで、形成される凹状受圧面形状を自在に変化させることができる。
【0111】
(3)図7に示すように、凹状受圧面7の中心をスリッパシュー摺動面1sの中央部とすることによって、実際に油液による圧力が作用した場合、正常且つ最適な油圧バランス(静圧バランス)を保つことが可能となる。
【0112】
(4)ノズル27とスリッパシュー1の相対位置関係を固定したまま硬質粒子をスリッパシュー1の摺動面に衝突させ、凹状受圧面7を形成するようにした。したがって、従来の切削加工で必要であったツール移動動作や、それを行なうための複雑なNCプログラム、被削物の把握固定や精密位置出しなどを必要としないため、加工装置自体を簡素で安価、且つツール移動やワーク位置調整などの複雑な可動機構を有さない、メンテナンス性から見ても非常に堅牢なものとすることができる。
【0113】
(5)硬質粒子の衝突によって形成された凹状受圧面7の最表面は、加工硬化によって表面硬度が上昇し、耐摩耗性が向上する。従って、斜板2と凹状受圧面7の固体接触状態での摺動においても、凹状受圧面7を形成する銅合金材表面の塑性流動、異常摩耗を防止し、油溜まり部4の損傷閉塞を防止することが可能となる。
【0114】
(6)図11に示すように、スリッパシュー1上の油溜まり部4を中心として、凹状受圧面7の外径よりも小さく、その同心円上に存在する略円環状平坦部32を形成することで、斜板2とスリッパシュー1との間に吸着現象が生じた場合にも、凹状受圧面7上に斜板との接触面が追加形成される。これによって、スリッパシュー1の変形を抑制することができ、斜板2とスリッパシュー1との固体接触を防止することが可能となる。
【0115】
(7)図19に示すように、混相流の噴流40を旋回流としてより尖鋭な加工を行うことによって、凹状受圧面には、略直角の隅部が形成される。これによって、同一直径の凹状受圧面7において、より大きな容量を確保し得る。
【0116】
本発明は、上述した実施の形態に限定されない。すなわち、粒子噴射装置とスリッパシューとの軸を合わせ、粒子噴射装置とスリッパシューとの相対位置関係を固定したまま、硬質粒子をスリッパシュー摺動面に衝突させて凹状受圧面を形成する方法および装置であれば、すべて本発明の製造方法および製造装置に相当する。
【符号の説明】
【0117】
10 スリッパシュー 1s 摺動受圧面
7 凹状受圧面 27 ノズル
28 硬質粒子 29、40 噴流
30 ディンプル 31、33 マスキング
32 平坦部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板式液圧回転機に用いられるピストンスリッパシューの製造方法において、
粒子噴射装置から前記スリッパシューの摺動面に硬質粒子を衝突させて前記スリッパシューの摺動面に凹状受圧面を形成する凹状受圧面形成工程と、
前記凹状受圧面形成工程に先立って、前記スリッパシューの軸心を前記粒子噴射装置の粒子噴射軸心に軸合せる芯出し工程とを有し、
前記凹状受圧面形成工程では、前記粒子噴射装置と前記スリッパシューとの相対位置関係を固定としたまま硬質粒子を前記摺動面に衝突させることを特徴とするスリッパシューの製造方法。
【請求項2】
請求項1のスリッパシューの製造方法において、
前記凹状受圧面形成工程は、前記粒子噴射装置から圧縮粒子を噴射して前記凹状受圧面を球面状に形成するか、または、前記粒子噴射装置から圧縮旋回粒子を噴射して前記凹状受圧面を円筒平底凹部に形成することを特徴とするスリッパシューの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のスリッパシューの製造方法において、
前記スリッパシューの摺動面をラップ加工して平坦面を形成する工程と、
前記スリッパシューを治具にセットして軸合わせを行う工程と、
前記粒子噴射装置から粒子を前記平坦面に向けて噴射する工程と、
粒子噴射終了後、前記スリッパシューに付着する粒子をエアブローで除去する工程とを順番に行うことを特徴とするスリッパシューの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項の製造方法でスリッパシューを製造する製造装置であって、
前記粒子噴射装置と、
前記粒子噴射装置の粒子噴射軸と軸合わせされた前記治具とを備えることを特徴とするスリッパシューの製造装置。
【請求項5】
請求項4のスリッパシューの製造装置において、
前記粒子噴射装置の粒子噴射面は、前記スリッパシューの摺動面から一定距離に配置され、前記粒子噴射装置は、流体と硬質粒子の混相流を噴射するものであり、前記凹状受圧面を、硬質粒子照射領域中心部が最も深く、外側に向かうにつれて浅くなる凹状の略球面状に形成することを特徴とするスリッパシューの製造装置。
【請求項1】
斜板式液圧回転機に用いられるピストンスリッパシューの製造方法において、
粒子噴射装置から前記スリッパシューの摺動面に硬質粒子を衝突させて前記スリッパシューの摺動面に凹状受圧面を形成する凹状受圧面形成工程と、
前記凹状受圧面形成工程に先立って、前記スリッパシューの軸心を前記粒子噴射装置の粒子噴射軸心に軸合せる芯出し工程とを有し、
前記凹状受圧面形成工程では、前記粒子噴射装置と前記スリッパシューとの相対位置関係を固定としたまま硬質粒子を前記摺動面に衝突させることを特徴とするスリッパシューの製造方法。
【請求項2】
請求項1のスリッパシューの製造方法において、
前記凹状受圧面形成工程は、前記粒子噴射装置から圧縮粒子を噴射して前記凹状受圧面を球面状に形成するか、または、前記粒子噴射装置から圧縮旋回粒子を噴射して前記凹状受圧面を円筒平底凹部に形成することを特徴とするスリッパシューの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のスリッパシューの製造方法において、
前記スリッパシューの摺動面をラップ加工して平坦面を形成する工程と、
前記スリッパシューを治具にセットして軸合わせを行う工程と、
前記粒子噴射装置から粒子を前記平坦面に向けて噴射する工程と、
粒子噴射終了後、前記スリッパシューに付着する粒子をエアブローで除去する工程とを順番に行うことを特徴とするスリッパシューの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項の製造方法でスリッパシューを製造する製造装置であって、
前記粒子噴射装置と、
前記粒子噴射装置の粒子噴射軸と軸合わせされた前記治具とを備えることを特徴とするスリッパシューの製造装置。
【請求項5】
請求項4のスリッパシューの製造装置において、
前記粒子噴射装置の粒子噴射面は、前記スリッパシューの摺動面から一定距離に配置され、前記粒子噴射装置は、流体と硬質粒子の混相流を噴射するものであり、前記凹状受圧面を、硬質粒子照射領域中心部が最も深く、外側に向かうにつれて浅くなる凹状の略球面状に形成することを特徴とするスリッパシューの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−222979(P2010−222979A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68057(P2009−68057)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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