説明

斜面歩行器具

【課題】
解決しようとする課題は、急勾配での法面や土手などの斜面において、草刈機を用い草刈作業をする場合、滑落の危険を防止でき、疲労を軽減し作業効率を上げることと、平地でも器具をつけやすい斜面歩行具を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、靴等に装着する器具であって、弾力性のある基板の底部に、略45度の角度を設けた接地板が爪先側と踵側それぞれに取付けられ、接地板の折り曲げ部付近に、接地板の高さと同等な長さのスパイクピンが取り付けられ、爪先側の接地板の接地面が爪先方向へ角度を設けて取り付けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勾配のある法面や土手などで草刈機を使い草刈作業をする場合、滑落防止と軸足となる谷足をほぼ水平に保ち、安全確保と疲労を軽減させる器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面は、切土と盛土などの違いはあるが、概ね勾配角度は約30度から45度で設計されている。このような急勾配での草刈機を使った草刈作業において、軸足となる谷足の足底が法面や土手の勾配角度に合わせ滑落しないよう立つため、足首が法面や土手の角度に合わせ曲がることになる。その結果、谷足の軸足にほぼ全体重の90%以上が掛かることとなり、滑落する危険と疲労の原因となっている。そのため、急勾配での草刈作業に掛かる時間は、平地での作業と比べると3倍から5倍の時間を要するだけでなく、毎年起こる急勾配での事故は深刻な問題となっている。
【0003】
一般的に、急勾配の法面の草刈作業において用いられているスパイク付きの履物や、履物に取り付けるすべり止めなどが知られている。例えば実用新案登録第3047434号においては、鉄等の平板を直角に繋ぎ又は折り曲げ、45度程度の斜面であっても平行を保つ保護具が記載されている。この場合、保護具で形成した45度の面を常に斜面に当てる必要があり、保護具自体も重く長時間の作業においては疲労が蓄積し作業効率が低下することが予想される。
【0004】
実用新案登録第3107610号では、底部にスパイクを設け側面に高さ調整可能なアイゼンを設けることで、斜面に対応する角度を保つスパイク装具が記載されている。この場合は、アイゼンの先端形状が鋭利であり、アイゼン自体も薄くアイゼンが斜面に刺さるように飲み込まれ平行を維持できないこと、及びアイゼンの取り付け位置が足の中心部のみであるため安定性及び安全性が欠けることが予想される。
【0005】
特開2004−147939号においては、足を乗せるステップ部とステップ部底部に金属製の棒で構成された斜面に対応する角度を保つ構造が記載されている。この場合も、斜面を捉える脚部で形成した45度の面を常に斜面に当てる必要があり、足又は靴を固定する部分は金属製であるため、足の位置が常に固定され、下駄を履いているような状態となり、長時間の作業においては疲労が蓄積し作業効率が低下することが予想される。
【0006】
草刈機の歯は反時計回りに回転するため、法面や土手などの斜面で草刈作業を行う場合、基本的に法面や土手などに向かって右から左に刈って行くことになるため、軸足となる谷足は左足となり、この左足を安定して水平に近い状態に保つことが、安全性及び作業効率上において要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3047434号(図1、図2)
【特許文献2】実用新案登録第3107610号(図1)
【特許文献3】特開2004−147939号(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、人間の足が外側に向けて開く習性があること、法面や土手等の斜面での作業はおのずと谷足に体重が掛かり、足が外側に向けて開いた方が力が入り易いこと、及び法面や土手等の斜面は、普段は人や車両等の往来がないため柔らかいことに着目し、急勾配での法面や土手などの斜面において、草刈機を用い草刈作業をする場合、滑落の危険を防止でき、疲労を軽減し作業効率を上げることと、平地でも器具をつけやすい斜面歩行具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、靴等に装着する器具であって、弾力性のある基板の底部に、略45度の角度を設けた接地板が爪先側と踵側それぞれに取付けられ、接地板の折り曲げ部付近に、接地板の高さと同等な長さのスパイクピンが取り付けられ、爪先側の接地板の接地面が爪先方向へ角度を設けて取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の斜面歩行具は爪先側の接地板が斜面の角度に合わせ密着して斜面を面として捉え、弾力性のある基板が足の動きに追従し、滑落の危険を防止した安全な作業が可能であると同時に、疲労が少なく作業効率を大幅に改善することが可能である。
【0011】
スパイクピンにより、斜面での滑落を防止でき、靴へ装着時には歩行器具が平行を保たれ、装着し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一例の平面図
【図2】本発明の一例の底面図
【図3】本発明の一例の左側面図
【図4】本発明の一例の右側面図
【図5】本発明の一例の正面図
【図6】本発明の一例の背面図
【図7】本発明のAから見た基板から下部の一例の平面図
【図8】靴に取り付けた場合の一例の左側面図
【図9】爪先側接地板可動構造の一例の平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の詳細について、図面を引用して説明する。
【実施例1】
【0014】
弾力性があり元の位置への復元性のある素材にて略足形に形取りした基板1と、基板1の爪先側の両端に爪先部固定用フラップ3を設け、爪先固定用フラップ3にはベルト4を取り付け、ベルト4には面ファスナー5が取り付けられ、基板1の踵側には踵固定用フラップ2を取り付ける。ベルト4の代わりに紐やファスナーを用いてもよい。図1は本発明の一例の平面図である。
【0015】
基板1の底面には金属製の平板を略45度に折り曲げた接地板を爪先側と踵側にそれぞれ固着し、接地板の折り曲げ部付近にはスパイクピン8を取り付ける。スパイクピン8の取り付け位置によっては、接地板にスパイクピン通過用の孔を開ける。接地板は左足の内側に接地板の折り曲げ部が来るように取り付け、爪先側接地板6は足の長さ方向に対して、図2に記載された角度θのごとく、接地面が爪先方向に25度から30度の角度を設けて取り付け、踵側接地板7は足の長さ方向に対して接地面を平行に取り付ける。図2は本発明の一例の底面図、図3は本発明の一例の左側面図、図4は本発明の一例の右側面図、図5は本発明の一例の正面図、図6は本発明の一例の背面図、図7は本発明の一例のAから見た基板から下部の平面図である。
【0016】
接地板の取り付けは、圧着ピン、ボルトとナット等で固定し、スパイクピンは接地板へ溶接等で固定するが、これに限定するものではない。スパイクピンの長さは接地板の高さと同程度とする。これにより、平らな面でも足首が曲がらず容易に装着できる。斜面ではスパイクピンは地面に吸収され滑落を抑制し、接地板の面が斜面に密着することで、足がほぼ水平を保ち足首が曲がらず、斜面歩行時の安定性を確保すると同時に疲労を抑制する。
【0017】
爪先側接地板6は足の長さ方向に対して、接地面を爪先方向に角度を設けてあることにより、元来人間の足先が外側へ向く習性に適応し、斜面歩行時には斜面に対して平行に面を捉えることができ、斜面歩行時の安定性を確保すると同時に、谷足となる左足に体重がかかるときや、力を加える作業でも安定して体を保持できる。
【0018】
基板1の素材は弾力性があり元の位置への復元性のある樹脂や金属が望ましい。装着状態での作業時に基板1が上下に撓むことにより、足の動きに追従できるため、本体と足が一体化し疲労抑制に繋がる。
【0019】
足への装着方法は、左足を踵固定用フラップ2に踵を入れ、爪先固定用フラップ3とベルト4で足に固定する。草刈機の歯は反時計回りに回転するため草刈作業は、斜面に向かって右から左方向に行うこととなり、斜面では必然的に左足を谷足として、草刈機を右上から左下に向けて移動しながら草刈作業を行う。
【0020】
谷足となる左足はほぼ水平を保たれ、平地での作業と同様の体の体制を保つことができる。更に、斜面であることから、右上方面から左下面へ刈る時のストロークが長く取れるため、平地での一ストロークの刈り取り面積より刈り取り面積が増えることと、刈られた草が重力により下へ落ちるため、平地での作業に比べ3割程度の作業効率が向上する。この器具を装着しない場合の斜面での草刈作業を比較した場合は、4割から5割の作業効率が向上する。
【0021】
爪先側の接地板の接地面を爪先方向へ角度を設けることは、十数回に及ぶ試作と実作業を繰り返してきた中で発案されたものであり、最終的にその角度は25度から30度が適切であることを見出してきた。1回あたり数時間に及ぶ斜面での草刈作業を繰り返す中で、その角度の重要性やその効果としての作業効率及び疲労度等を身をもって体験することで最終構造を完成させてきたものである。
【実施例2】
【0022】
この斜面歩行具の接地板とスパイクピンを、靴に取り付け斜面歩行靴とすることも可能であり、より装着感がよくなり安全性及び疲労の抑制に繋がる。図8は靴に取り付けた場合の一例の左側面図である。
【実施例3】
【0023】
爪先側接地板の角度を任意に変えることができるように、基板1に支点14と可動孔16を設け、爪先側接地板6を固定ボルト15で固定するようにしてもよい。また接地板中心部にラチェット構造を用いてもよい。図9は爪先側接地板可動構造の一例の平面図である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
急勾配の法面や土手の草刈作業は、住宅地 工業団地 道路 田畑 河川等ほとんどのところで草刈機による手作業で行われているが、平地で行われる草刈作業と違い滑落の危険が伴うことと、平地での作業と比べ疲労が大きく作業性が悪いため、これらの作業に従事する法面管理業者だけでなく、農家や一般人も含め利用が可能であり、部品点数が少ない事と構造が単純なため工業生産も可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 基板 7 踵側接地板 13 くつ底
2 踵固定用フラップ 8 スパイクピン 14 支点
3 爪先固定用フラップ 9 ボルト 15 固定ボルト
4 ベルト 10 ナット 16 可動孔
5 面ファスナー 11 留め金
6 爪先側接地板 12 靴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性と元の状態に復元する素材を使用した足型の基板に、爪先部と踵部に略45度の角度を設けた接地板が取り付けられ、接地板の折り曲げ部付近にスパイクピンが取り付けられ、爪先部の接地板が爪先方向へ角度を設けて取り付けられることを特徴とする斜面歩行具。
【請求項2】
靴に、爪先部と踵部に略45度の角度を設けた接地板が取り付けられ、接地板の折り曲げ部付近にスパイクピンが取り付けられ、爪先部の接地板が爪先方向へ角度を設けて取り付けられることを特徴とする斜面歩行具。
【請求項3】
爪先部の接地板の角度が略27度であることを特徴とする請求項1から2いずれか1項に記載の斜面歩行具。
【請求項4】
爪先部の接地板の角度を可変可能としたことを特徴とする請求項1から2いずれか1項に記載の斜面歩行具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−172647(P2010−172647A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21325(P2009−21325)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【特許番号】特許第4349593号(P4349593)
【特許公報発行日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(308015278)
【Fターム(参考)】