説明

断熱容器およびその検査方法

【課題】 断熱容器に熱伝導率測定用の測定部位を設けることによって、前記断熱容器の熱伝導率評価を精度よく行い、高性能な断熱容器を安定して提供することにある。
【解決手段】 内部容器20の周囲に断熱材41、気体吸着材42を配し、測定部位55を形成する板材90を溶着により内側へ接着したシート状の外装材50で包み真空封止することにより、内部容器20の周囲を隙間なく真空断熱材で覆われた断熱空間40を備えた高性能な断熱容器10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液体を保温貯留する断熱容器に関するものであり、特に車両用エンジンの冷却水を保温貯留する断熱容器およびその検査に適用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として車両用エンジンの低燃費化が強く求められている。特に、エンジン始動直後の暖機運転時の燃費を向上させることは大きな課題となっている。この、車両用エンジン始動直後の燃費を向上させることを目的として、車両用エンジンの冷却水(ロング・ライフ・クーラント:以下「LLC」と記す)を保温貯留し、エンジン始動時に保温されたLLCをエンジンに循環させてエンジンの暖機を促進するために必要な断熱容器として、液体を貯留する内部容器と、周囲をシート状の外装材で包み、その内部容器と外装材の間に真空状態の断熱空間を形成する断熱容器が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、真空断熱材の検査方法として、熱抵抗を有する熱抵抗材と熱抵抗材の2個所の温度差を測定できる温度差測定装置と、熱抵抗材の表面に配置される熱発生装置を備えたセンサー(熱伝導率測定装置)を用い、被測定物の表面に熱発生装置が接するように熱抵抗材を配置し、熱抵抗材の2個所の温度差から被測定物の熱伝導率を求める手法が知られている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2008−105748号公報
【特許文献2】特開2002−131257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、真空断熱材は、断熱材乾燥不足等の製造上の不具合で規定圧力よりも高い圧力で真空封止されても外観からは確認することはできない。しかし、内部の圧力によって大きく熱伝導率が異なり断熱性能に影響を与えるため、製造品の全数検査は必要不可欠である。通常の熱伝導率の測定には1〜2時間を要するが、上記の検査法を用いると5〜6分程度で簡易測定が可能となるため、真空断熱材の検査工程では広く用いられている。
【0006】
上記の検査法は被測定物と熱抵抗材の間にある熱発生装置から一定のエネルギー量で発熱させ、熱抵抗材の上下に配置した示差熱電対の電圧値(起電力)を計測することによって、熱抵抗材側に流れる熱量の大小を評価する。熱抵抗材側に流れる熱量が大きければ被測定物の熱抵抗が大きい、すなわち熱伝導率が低いということになり、熱抵抗材の熱量が小さければ被測定物の熱伝導率が高いということになる。熱伝導率既知の真空断熱材における、熱伝導率と電圧値の検量線から熱伝導率を評価する方法である。
【0007】
この測定は、被測定物の材質、形状、測定時の気温、湿度等、さまざまな因子の影響を受けるが、特に被測定物(真空断熱材)の表面に凹凸があると、真空断熱層の熱伝導率が空気の熱伝導率より非常に小さいため(約1/5〜1/10)、熱発生装置から発生した熱が、凹凸に存在する空気を介して大気中に放熱し、大きな測定誤差因子になる問題がある。
【0008】
そして、特許文献1に記載した断熱容器の熱伝導率測定では、シート状の外装材を使用しているために生じる内封した断熱材の表面凹凸の影響や、立体形状の周囲にシート状の外装材を形成したために生じるシワの影響を受け、測定に誤差を生じていた。また、表面の凹凸の少ない箇所を目視で判断して、測定箇所を決定していたため、自動化が困難で製造コストが掛かる問題があった。
【0009】
そこで、本願発明は上記の問題を鑑み、測定部位を設けることによって、真空断熱材(断熱容器)の熱伝導率評価を精度よく行い、高性能の断熱容器を安定して提供することを目的とする。更に測定箇所を一定箇所とすることにより、検査工程を自動化し、製造コストを低減した断熱容器を提供することにもつながる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明は、液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入口及び流出口を備え液体を貯留する内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材が封入され減圧空間とされた断熱空間とを備え、前記外装材表面の少なくとも一箇所に、熱伝導率測定検査のために当接する熱伝導率測定装置の測定センサーの当接面に密接可能な平面状に形成された測定部位を備えたことを特徴とするものである。
ここで、「測定部位」とは、断熱容器の検査工程で、上述の測定器(熱伝導率測定装置)を用いて真空断熱層の熱伝導率を検査する際、測定器(熱伝導率測定装置)の測定センサーを置く場所を示す。
第2の発明は、前記測定部位の最大高低差が0.5mm以内、好ましくは0.2mm以内の範囲であることを特徴とする同断熱容器である。
第3の発明は、前記測定部位が、円形の板材を外装材内側(真空断熱層側)に接着して形成されたことを特徴とする同断熱容器である。
ここで、「円形の板材」としては、例えば、直径50〜80mmの円形、厚みが0.5〜5mmの板状物質を用いるとよい。
第4の発明は、前記測定部位が、外装材の外側に熱硬化性樹脂を円形状に塗膜して形成されたことを特徴とする同断熱容器である。
ここで、「円形状の塗膜」としては、例えば、直径50〜80mm、厚みが0.5〜5mmとなるようなものであるとよい。
第5の発明は、第1から第4の発明である断熱容器に備えた測定部位に、熱発生部材(ヒーター)と熱抵抗材と熱伝対からなる熱伝導率測定装置の測定センサーの当接面を押しあてて、測定部材と熱抵抗材の間に介在する熱発生部材(ヒーター)から熱を発生させて、熱発生部材(ヒーター)面に対して熱抵抗材の裏面温度を測定し、当該断熱容器の熱伝導率を検査する断熱容器の検査方法である。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)断熱容器(真空断熱層)表面に測定部位を設けることで、検査工程における熱伝導率の誤差を低減し、安定した検査が可能となる。
(2)測定部位の位置を決定することで、検査工程の自動化が可能となり、製造コストを低減することができる。
(3)測定部位を円形にすることで、外装材内側(真空断熱層側)に板材(板状物質)を接着しても外装材の破損を防止できる(板材外周と外装材の接する部分に均等に応力がかかり、局所的に応力がかかることがないため)。また、測定部位に円筒形状の熱伝導率測定器の測定センサーを確実に押しあてることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明に係る断熱容器の実施例を図1に示す。図1に示すように、本願発明では内部容器20の周囲に断熱材41、気体吸着材42を配し、測定部位55を形成する板材90を溶着により内側へ接着したシート状の外装材50で包み真空封止することにより、内部容器20の周囲を隙間なく真空断熱材で覆われた断熱空間40を備える高性能な断熱容器10としている。また、内部容器20は樹脂製で、射出成形法で作製することに加え、シート状の外装材50には柔軟性があるため、多種多様の形状に対応できる利点も備えている。なお、符号21は液体の流入口及び流出口となる流入出口部である。
【0013】
ここで、内部容器20の材質としては、射出成形が可能な樹脂であれば特に制限はなく、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリルニトリルスチレン共重合体(AS)、EEA樹脂(EEA)、エポキシ樹脂(EP)、エチレン酢酸ビニルポリマー(EVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、液晶ポリマー(LCP)、MBS樹脂(MBS)、メラミンホルムアルデヒド(MMF)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルポリマー(PFA)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレンポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、等から選択使用される。但し、樹脂材料は材料自体を透過する気体透過量が大きいため、長期間にわたって真空断熱層の真空度を維持するためには、気体透過を制御する必要がある。例えば、メッキ処理等によって樹脂表面に金属層を形成する、または後述するシート状のガスバリア層を含んだラミネートフィルムで、内部容器20を包む等の措置をとれば長期間に渡る真空度維持に効果が得られる。
【0014】
次に、外装材50の一例を模式図(図2)に示す。シート状の外装材50は複数のフィルムを積層したラミネートフィルム80である。表面の保護層81は、ガスバリア層への孔、亀裂等の欠陥発生防止が主な目的である。接着層85を熱溶着する際は、接着層85どうしを相対させて表面の保護層81側から熱をかけるため、保護層81の融点は少なくとも接着層85の融点より50℃以上高いことが望ましく、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンが好適に使用できる。次にガスバリア層83は気体透過制御を目的としているため、金属箔が望ましい。安価なアルミニウム箔が好適に使用でき、厚みは5〜30μmであればよく、7〜12μmがより望ましい。また、接着層85は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアルコール等が好適に使用でき、厚みは30〜50μmが望ましい。
【0015】
また、測定部位55を形成する板材(板状物質)90は、断熱空間(真空断熱層)40の表面凹凸を制御するため、表面の最大高低差が0.5mm以下、さらには0.2mm以下であることが望ましい。また、測定部位55上に外装材50のシワ発生を制御するために、板材(板状物質)90を前記外装材50の内側(接着層85)に貼り合せる必要がある。この時、接着剤を使用すると、接着剤の成分が気化して、断熱空間(真空断熱層)40の圧力を上昇させる可能性があるため、板材(板状物質)90は接着剤と同質の材料からなり、熱溶着法によって貼り合せることが望ましい。例えば、接着層85がポリエチレンの場合、板材(板状物質)90もポリエチレンで形成し、接着層85がポリプロピレンの場合、板材(板状物質)90もポリプロピレン、接着層85がエチレンビニルアルコールの場合、板材(板状物質)90もエチレンビニルアルコールとすれば、熱溶着により強固に貼り合せることができる。
【0016】
なお、外装材50を形成する前に予め、熱硬化性樹脂を塗布して測定部位を形成することもできる。熱硬化性樹脂は低収縮であるアクリル、エポキシ樹脂などが好適に使用できる。
立体形状の断熱容器10に対して、板材(板状物質)90の貼り合せ位置は特に指定するものではないが、図示省略する測定センサーの自重が測定時の荷重となるため、検査時に上側で重力方向に対し垂直な平面となることが望ましい。図3〜図5(図3は斜視図、図4は6面図、図5は断面図)に測定部位55の一例を示す。そして、この測定部位55の位置は、同一規格(サイズ)の断熱容器10にあっては共通させることが重要である。測定部位55の位置を共通化させることによって、検査工程の自動化が可能となるからである。
【0017】
内包する断熱材41は、グラスウール、ロックウール、セラミックファイバーのいずれかの無機繊維からなり、特に平均繊維径が5μm以下で、高温雰囲気で吸着水分を除去したグラスウールを使用することが望ましい。
また、断熱空間(真空断熱層)40は長期使用すると、断熱材41から発生するガス、接合部樹脂を透過するガス等により真空度が低下するおそれがあり、それを防ぐために断熱空間(真空断熱層)40内部のガスを吸着するための気体吸着剤42が不可欠である。気体吸着剤42は主に水分を吸着する酸化カルシウム、主に酸素、窒素を吸着するバリウム/リチウム合金、主に水素を吸着する酸化コバルトが望ましい。但し、それぞれの吸着剤を単独で封入した場合、バリウム/リチウム合金は断熱材41から発生する水分を吸着し、目的である酸素、窒素の吸着能力が低下する問題があるため、バリウム/リチウム合金層を中間層とする、酸化カルシウム層、酸化コバルト層からなる3層構造とすることが好適である(図示省略)。
【0018】
次に、製造品の全数検査工程における熱伝導率の測定構造及び測定方法について説明する。図6に「断熱容器10の測定部位55」及び「熱伝導率測定装置の測定センサー」の断面図を示す。
測定時は恒温恒湿室で温度、湿度ともに制御された空間で行う。更に、被測定物である断熱容器10も同じ環境下で少なくとも2時間以上放置し、表面温度が測定室の温度と同等になった時点で測定を開始する。また、空調機から出る風の影響を受けないために、被測定物(断熱容器10)および、測定センサー91をアクリル製カバーで被い、静止空気空間とする。
【0019】
まず、測定部位55上に熱伝導率測定装置の測定センサー91を置き、熱発生部材(ヒーター)92に一定時間、一定電力で発熱させる。そして、測定センサー91内部にある熱抵抗材93の上下に設置した示差熱電対94の電圧値を読み取ることにより、熱発生部材(ヒーター)92から熱抵抗材93側に流れた熱量を比較評価することができる。この時、測定部位55は、測定センサー91の当接面(熱発生部材92)に密接可能な平面状に形成されているので、測定部位55と熱発生部材(ヒーター)92の間に介在する空気を極力抑制し、熱発生部材(ヒーター)92から発生した熱が当該空気を介して大気中に放熱されて大きな測定誤差因子になることを防止できる。その結果、断熱容器10の真空断熱に関する安定した検査が可能となる。また、測定部位55の位置を特定の位置に決定することで、検査工程の自動化が可能となる。その結果、検査時間の短縮および製造コストの低減を実現することができる。
【0020】
ここで、断熱容器10の真空断熱に関する上記検査は、熱伝導率既知の真空断熱材における、熱伝導率と電圧値の検量線から熱伝導率を算出し、合否判定を行う。なお、本願発明に係る測定部位55は表面平滑性があり、測定センサー91との接触が良好であるため、測定に無関係な方向(図6で横方向)に流れる熱量は常に一定に保たれ、再現性のある測定ができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本願発明によれば、液体を保温貯留する断熱容器として利用でき、特に車両用エンジンのLLCを保温貯留する断熱容器に適用するものである。その他に、電気ポットなどの保温容器あるいは液化ガスなどの保冷容器にも利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明に係る断熱容器例を示す断面図。
【図2】外装材であるラミネートフィルムの断面図。
【図3】測定部位の配置例を示す説明図(斜視図)。
【図4】測定部位の配置例を示す説明図(6面図)。
【図5】測定部位の配置例を示す説明図(断面図)。
【図6】測定部位とセンサーを示す断面図。
【符号の説明】
【0023】
10 断熱容器
20 内部容器
21 流入出口部
40 断熱空間
41 断熱材
42 気体吸着材(ゲッター剤)
50 外装材
55 測定部位
80 ラミネートフィルム
81 保護層
83 ガスバリア層
85 接着層
90 板材(板状物質)
91 測定センサー
92 熱発生部材(ヒーター)
93 熱抵抗材
94 示差熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保温貯留する断熱容器であって、液体の流入口及び流出口を備え液体を貯留する内部容器と、内部容器を収容するシート状の外装材と、内部容器と外装材との間に断熱材が封入され減圧空間とされた断熱空間とを備え、前記外装材表面の少なくとも一箇所に、熱伝導率測定検査のために当接する熱伝導率測定装置の測定センサーの当接面に密接可能な平面状に形成された測定部位を備えたことを特徴とする断熱容器。
【請求項2】
前記測定部位の最大高低差が0.2mm以内の範囲であることを特徴とする請求項1記載の断熱容器。
【請求項3】
前記測定部位が、円形の板材を外装材内側に接着して形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の断熱容器。
【請求項4】
前記測定部位が、外装材の外側に熱硬化性樹脂を円形状に塗膜して形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の断熱容器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の断熱容器に備えた測定部位に、熱発生部材と熱抵抗材と熱伝対からなる熱伝導率測定装置の測定センサーの当接面を押しあてて、測定部材と熱抵抗材の間に介在する熱発生部材から熱を発生させて、熱発生部材面に対して熱抵抗材の裏面温度を測定し、当該断熱容器の熱伝導率を検査する断熱容器の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−143602(P2010−143602A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321483(P2008−321483)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】