説明

断熱材

【課題】断熱材の断熱性能を向上させると共に所望の強度を確保することにより、この断熱材の厚さをより薄くできるようにし、かつ、断熱材に対し外部から高熱が与えられる場合において、断熱材における単位時間当りの温度変化(熱衝撃)が大きい場合でも、この断熱材にクラック等の欠損が生じないようにする。
【解決手段】セピオライト、および有機性の中空微粒子3とを含有する。ベントナイトを含有する。熱変形抑制材4としてタルクと雲母とのうち、少なくともいずれか一方を含有する。上記セピオライト:熱変形抑制材4の質量対比を、1:9−10:0.1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱を用いた電気加熱炉(以下誘導加熱炉と呼ぶ)の炉壁や、高熱雰囲気下で使用する機器の断熱対策などに使用する断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱炉における上記炉壁が有する目的は、炉内の被加熱物から加熱コイルへの輻射伝熱を抑制し、この加熱コイルが高熱により損傷する、ということを防止するものである。このため、上記炉壁には断熱材が用いられるが、上記加熱コイルの性質上、この加熱コイル近傍の炉壁を構成する断熱材に導電性材料を使用することはできない。このため、非導電性であるセラミックファイバー等を原料とした無機繊維断熱材、耐火断熱材(キャスタブル耐火物)、および耐火ボード等で上記断熱材を構成するのが一般的であった。
【0003】
上記炉壁を支持する構造として、従来、次のようなものが提案されている。第1に、縦型誘導加熱炉の場合では、無機繊維断熱材を耐火支柱にて支持する構造がある(特許文献1:実公昭53−39686)。第2に、耐火断熱材そのもので炉壁を支持する構造がある(特許文献2:特公昭53−9433)。また、第3に、横型誘導加熱炉の場合には、補強用グラスファイバー等により強度を上げた積層構造の耐火ボードやセラミックスで炉壁を支持する構造がある。
【0004】
また、高熱雰囲気下で使用される機器として、連続鋳造設備タンディッシュで使用される湯面レベル計や溶融金属の流速測定機器等がある。これら各機器の断熱対策としてセラミックス、カオール等の断熱材が使用されている。
【0005】
その他、断熱材には、冷凍室、冷凍コンテナ等の壁面に使用されるものがある(特許文献3:特開2006−26977)。また、断熱材には、無機素材を発砲させて製造される無機質、多孔質体等の無機断熱材(断熱レンガ)がある(特許文献4:特開平6−263556)。
【0006】
一方、発明者らは、誘導加熱を利用した板幅方向の均温性に優れた金属帯板の加熱装置の開発(特許文献5:特開2003−187951)と、電磁場技術を利用した溶融金属の流速測定方法および流速測定装置の開発(特許文献6:特開2006−78352)と等を行なってきた。
【0007】
上記各開発のうち、前者の開発は、加熱コイルのコンパクト化および高効率化を狙いとしているために、上、下加熱コイル間が数十mmの狭い間隔とされている。そして、これら上、下加熱コイルの間を700℃以上に加熱された鋼板が通過するため、加熱コイル保護用の薄膜断熱材が必要とされていた。
【0008】
また、後者の開発は、渦電流方式を利用して連続鋳造設備の鋳型下における鋳片内の溶融金属の流速を非接触で測定しようとするものである。この場合、鋳片表面温度が非常に高温(700−800℃)であるにもかかわらず、鋳片表面と、溶融金属の流速を検出するセンサーとの間隔は数十mm程度と狭くされている。このため、センサー保護用の薄膜断熱材が必要であった。なお、上記した鋳片表面とセンサーとの間隔を大きくすることは、次の理由により困難である。即ち、上記間隔を大きくすると磁場が生じ難くなるため、上記溶融金属の流速を測定できないからである。また、上記間隔を大きくすると、これに伴いセンサーのサイズを大きくする必要が生じるため、上記設備のコストが高価になってしまうからである。
【0009】
【特許文献1】実公昭53−39686号公報
【特許文献2】特公昭53−9433号公報
【特許文献3】特開2006−26977号公報
【特許文献4】特開平6−263556号公報
【特許文献5】特開2003−187951号公報
【特許文献6】特開2006−78352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、従来技術の断熱材である前述の無機繊維断熱材、耐火ボード、セラミックス板、キャスタブル耐火物等で実験を行ってみたが、以下の課題が発生した。
【0011】
即ち、上記繊維断熱材は強度が小さい。このため、この断熱材を炉壁として取り付ける場合は、従来の誘導加熱炉のように耐火支柱が必要となる。よって、これら支柱が邪魔になって、上記断熱材を狭い間隔で取り付けることは困難であった。上記耐火ボードは補強用グラスファイバーを使用しており、このため、所望強度は確保される。しかし、バインダーとして樹脂を使用しているため、耐熱が350℃程度しかない。よって、この耐火ボードを高熱雰囲気下で使用すると、表面が容易に炭化するなどして、所望の断熱効果は得られない。
【0012】
上記セラミックス板は単位時間当りの温度変化量(熱衝撃)に弱く、実験後直ちにクラックが入り破損してしまった。上記キャスタブル耐火物や断熱レンガは耐熱性には優れている。しかし、熱伝導率が大きいため、厚さが薄い場合には、断熱性能が悪く前記した加熱コイルやセンサーの保護は困難であった。また、冷凍室等に使用される断熱ボードは素材が有機性であって耐熱性が350℃程度しかないため、前記耐火ボードと同様に、使用できない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、断熱材の断熱性能を向上させると共に所望の強度を確保することにより、この断熱材の厚さをより薄くできるようにし、かつ、断熱材に対し外部から高熱が与えられる場合において、断熱材における単位時間当りの温度変化量(熱衝撃)が大きい場合でも、この断熱材にクラック等の欠損が生じないようにすることである。
【0014】
請求項1の発明は、セピオライト、および有機性の中空微粒子3を含有することを特徴とする断熱材である。
【0015】
請求項2の発明は、ベントナイトを含有することを特徴とする請求項1に記載の断熱材である。
【0016】
請求項3の発明は、上記セピオライト:ベントナイトの質量対比を、10:0.1−0.1:10としたことを特徴とする請求項2に記載の断熱材である。
【0017】
請求項4の発明は、上記中空微粒子3の有機固形分/セピオライトの質量比Rを0.01−1.2としたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の断熱材である。
【0018】
請求項5の発明は、熱変形抑制材4としてタルクと雲母とのうち、少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の断熱材である。
【0019】
請求項6の発明は、上記セピオライト:熱変形抑制材4の質量対比を、1:9−10:0.1としたことを特徴とする請求項5に記載の断熱材である。
【0020】
請求項7の発明は、上記断熱材1,9,10,14の表面層における単位体積あたりの上記中空微粒子3の質量を、上記断熱材の内部におけるそれよりも小さくしたことを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1つに記載の断熱材である。
【0021】
請求項8の発明は、請求項1に記載の上記断熱材1,9,10,14を所定形状に成形し、この断熱材1,9,10,14の加熱により成形されたことを特徴とする断熱材である。
【0022】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0023】
本発明による効果は、次の如くである。
【0024】
請求項1の発明は、セピオライト、および有機性の中空微粒子を含有している。
【0025】
ここで、上記成分を含有する断熱材はその完成品の材料に相当する中間成形品であり、この中間成形品を加熱して硬化させれば、それ自体所定強度と所定形状とを有する上記完成品としての断熱材が成形される。
【0026】
そして、上記中間成形品における上記中空微粒子は有機性であるため、この中間成形品を上記のように加熱すると、上記中空微粒子は熱分解して消失する。このため、上記完成品は、全て無機質となり、高熱雰囲気に耐えることができる。しかも、上記のように消失する中空微粒子や、この中空微粒子の内部空間により、上記完成品の内部には無数の空洞が成形される。このため、上記完成品の熱伝導率が低下し、高熱雰囲気における断熱性能が向上する。
【0027】
一方、上記したように、完成品の内部に無数の空洞が成形されると、その強度は低下しがちとなる。しかし、上記中間成形品に含有されるセピオライトは無機バインダー材として優れたものであるため、このセピオライトにより、上記完成品には所望の強度が確保される。
【0028】
よって、上記完成品である断熱材の断熱性能が向上すると共に所望の強度が確保されることから、この断熱材の厚さをより薄くでき、かつ、重量を軽減させることができる。この結果、上記断熱材が適用されるべき所定位置へのこの断熱材の取り付け作業が容易にできると共に、この断熱材の利用が安価にできて、実用上極めて有益である。
【0029】
請求項2の発明は、ベントナイトを含有している。
【0030】
ここで、上記ベントナイトは、比較的に入手が容易かつ安価な無機バインダー材であるため、上記ベントナイトを含有させることにより、上記断熱材は、より安価に成形される。
【0031】
請求項3の発明は、上記セピオライト:ベントナイトの質量対比を、10:0.1−0.1:10としている。
【0032】
ここで、上記質量対比の範囲において、セピオライトの対比量を、より多くすると、これに含有される二酸化ケイ素の対比量が減って水はけがよくなる。このため、上記成分を含有する断熱材をある程度大きい厚さにしたとしても、その後の乾燥は良好に達成されて、上記完成品により好ましい強度が確保される。一方、セピオライトの対比量を、より少なくすると、上記断熱材はより安価に成形できる。
【0033】
請求項4の発明は、上記中空微粒子の有機固形分/セピオライトの質量比を0.01−1.2としている。
【0034】
つまり、上記質量比を0.01未満にすると、上記中空微粒子の消失により完成品である断熱材の内部に成形される空洞の量が不足して、この完成品の断熱性能が不十分になりがちとなる。一方、上記質量比が1.2を越えると、上記空洞の量が過多になると共に、セピオライトの量が不足して、完成品の強度が不足しがちとなる。
【0035】
そこで、上記質量比を上記の範囲としたのであり、これにより、上記完成品としての断熱材の断熱性能が、より確実に向上すると共に所望の強度が確保されることから、この断熱材の厚さをより薄くでき、かつ、重量を軽減させることができる。
【0036】
請求項5の発明は、熱変形抑制材としてタルクと雲母とのうち、少なくともいずれか一方を含有している。
【0037】
ここで、上記熱変形抑制材によれば、第1に、上記断熱材を加熱することに基づくこの断熱材の膨張、収縮が抑制されて、より精度のよい所望形状の硬化した断熱材を得ることができる。また、第2に、この硬化した断熱材に対し外部から高熱が与えられる場合に、この断熱材における単位時間当りの温度変化量が大きい場合でも、上記熱変形抑制材により断熱材を加熱することに基づくこの断熱材の膨張、収縮が抑制される。このため、この断熱材にクラック等の欠損が生じることはより確実に防止され、もって、寿命の向上が達成される。
【0038】
よって、上記断熱材は、特に高熱雰囲気において大きい外力や大きい熱衝撃を与えられる各種炉の炉壁など、負荷的、かつ、熱的に厳しい条件下の断熱構造に適用できる。
【0039】
請求項6の発明は、上記セピオライト:熱変形抑制材の質量対比を、1:9−10:0.1としている。
【0040】
ここで、上記セピオライトを上記質量対比の範囲未満にすると、バインダー材としてのセピオライトの量が不足して、完成品の強度が不足すると共に、クラックが生じ易くなる。一方、上記範囲において、熱変形抑制材の対比量をより小さくすると、これにより、完成品の収縮量は大きくなりがちであるが、セピオライトの対比量が大きくなって、完成品の強度が向上し、クラックの発生を防止できる。
【0041】
そこで、上記質量対比を上記範囲としたのであり、これにより、上記完成品の強度を、より確実に向上させることができると共に、クラックの発生も防止できる。
【0042】
請求項7の発明は、上記断熱材の表面層における単位体積あたりの上記中空微粒子の質量を、上記断熱材の内部におけるそれよりも小さくしている。
【0043】
このため、上記断熱材を加熱することにより、上記中空微粒子を熱分解により消失させて完成品を成形した場合には、この完成品の表面層における空洞の量は、内部のそれよりも少なくなる。よって、この完成品の表面層に与えられる外力に対しての強度が向上し、この完成品の表面が上記外力により容易に欠損する、ということが防止される。そして、これは、この完成品の設置作業や、外観上の見栄えなどにおいて極めて有益である。
【0044】
一方、上記完成品の内部では空洞の量がより多くなって、熱伝導率がより低下するため、上記のように強度を向上させるようにしたものでありながら、良好な断熱性能が得られる。
【0045】
請求項8の発明は、請求項1に記載の上記断熱材1,9,10,14を所定形状に成形し、この断熱材1,9,10,14の加熱により断熱材20を成形している。
【0046】
このため、上記断熱材によれば、前記請求項1の断熱材の加熱後のものが生じる効果と同様の効果が生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の最良の形態に係る断熱材は、無機素材であるセピオライト、ベントナイト、有機性の中空微粒子、および熱変形抑制材を含有する。この場合、断熱材の中間成形品である粘土状の断熱材を所望形状に成形して、80−200℃で段階的に加熱し乾燥させれば、乾燥により硬化された断熱材が成形される。この乾燥された断熱材を800℃以上の高熱である1050℃−1350℃で再加熱処理(焼成)すれば、更に硬化した完成品である断熱材が成形される。
【0048】
上記中間成形品における上記中空微粒子は有機性であるため、この中間成形品を上記のように加熱すると、上記中空微粒子は熱分解して消失する。このため、上記完成品は、全て無機質となり、高熱雰囲気に耐えることができる。しかも、上記のように消失する中空微粒子や、この中空微粒子の内部空間により、上記完成品の内部には無数の空洞が成形される。このため、上記完成品の熱伝導率が低下し、高熱雰囲気における断熱性能が向上する。
【0049】
一方、上記したように、完成品の内部に無数の空洞が成形されると、その強度は低下しがちとなる。しかし、上記中間成形品に含有されるセピオライトは無機バインダー材として優れたものであるため、このセピオライトにより、上記完成品には所望の強度が確保される。
【0050】
よって、上記完成品である断熱材の断熱性能が向上すると共に所望の強度が確保されることから、この断熱材の厚さをより薄くでき、かつ、重量を軽減させることができる。この結果、上記断熱材が適用されるべき所定位置へのこの断熱材の取り付け作業が容易にできると共に、この断熱材の利用が安価にできて、実用上極めて有益である。
【0051】
また、上記熱変形抑制材によれば、第1に、上記断熱材を加熱することに基づくこの断熱材の膨張、収縮が抑制されて、より精度のよい所望形状の硬化した断熱材を得ることができる。また、第2に、この硬化した断熱材に対し外部から高熱が与えられる場合に、この断熱材における単位時間当りの温度変化量が大きい場合でも、上記熱変形抑制材により断熱材を加熱することに基づくこの断熱材の膨張、収縮が抑制される。このため、この断熱材にクラック等の欠損が生じることはより確実に防止され、もって、寿命の向上が達成される。
【0052】
また、この形態における断熱材を具体的事例に適用すれば、次のような作用効果を得るようにすることができる。即ち、前述した発明者らの開発品である誘導加熱の加熱効率低下防止によるコンパクト設計や、また、溶融金属の流速測定装置サイズのコンパクト設計等が可能となりコスト削減が可能となる。そして、従来の誘導加熱炉の炉壁に適用した場合においても同様に、炉壁を薄くできコンパクト設計が可能となることから初期施工費用を削減できる(従来のガス炉でも同様の効果を得ることができる)。また、上記誘導加熱炉における各加熱コイル同士の間隔を狭くできるため、加熱効率向上が狙え、電力使用量を低減でき省エネに寄与することができる。
【0053】
上記断熱材をより具体的に説明すると、この断熱材には、無機素材のバインダー材として、粘度の一種であるセピオライト、ベントナイトの他、セラミックス粉末、アルコキシアルミ、ジルコニア、シリカ等が含有される。
【0054】
上記セピオライトの化学構造式は、MgSi12O30(0H)(0H)・8HOであり、若干不純物を含有するが、主成分は質量%で、概略二酸化ケイ素(SiO)が50−60、アルミナ(AlO)が1−3、酸化鉄(FeO)が1−3、酸化カルシウム(CaO)が1−10、酸化マグネシウム(MgO)が15−25である。そして、上記セピオライトは、親水性が強く、水を容易に吸着し、また、固結性を有している。一方、上記ベントナイトの主成分は、二酸化ケイ素(SiO)が60−80、アルミナ(AlO)が10−20、酸化マグネシウム(MgO)が1−3等を含んでいる。
【0055】
上記セピオライトとベントナイトとに水を混合して混練すれば、これは粘土状となって、自由な形状に成形可能である。そして、このように、セピオライトとベントナイトとを粘土状にする段階では酸化マグネシウム(MgO)は水に溶けアルカリ性を示す。このため、二酸化ケイ素(SiO)は溶けてケイ酸塩(シラノール基:ケイ素に水酸基が結合したもの)になる。但し、酸性の場合にはケイ酸塩は発生しない。上記ケイ酸塩につき100−150℃での加熱処理を施せば、脱水、縮合が発生し粘土状のものが生じる。そして、この粘土状のものを硬化させれば、中間成形品である断熱材を成形することが可能となる。セピオライトやベントナイトは入手が容易であって、かつ、安価であり、事前処理も必要とせずに容易に断熱材を成形することができる。
【0056】
上記断熱材における無機素材であるセピオライト:ベントナイトの質量対比は、10:0.1−0.1:10であることが好ましい。
【0057】
ここで、上記質量対比の範囲において、セピオライトの対比量を、より多くすると、これに含有される二酸化ケイ素の対比量が減って水はけがよくなる。このため、上記成分を含有する断熱材をある程度大きい厚さにしたとしても、その後の乾燥は良好に達成されて、上記完成品により好ましい強度が確保される。一方、セピオライトの対比量を、より少なくすると、上記断熱材はより安価に成形できる。
【0058】
上記中空微粒子は球状をなし、この中空微粒子は一般的には、バルーン材もしくはマイクロバルーンと言われている。上記中空微粒子の材質は有機性のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などである。
【0059】
ここで、上記中空微粒子は有機性であるため、前記したように、乾燥された中間成形品である断熱材を、高熱により加熱処理(焼成)して完成品である硬化した断熱材を得ようとする際には、上記中空微粒子は熱分解して消失する。
【0060】
このため、硬化した断熱材の内部における上記空洞の容量は、上記中空微粒子を無機素材で成形することに比べ、上記中空微粒子が消失した分、より大きくなって、上記断熱材の熱伝導率が更に低下する。よって、この断熱材の断熱性能が、より向上する。
【0061】
上記中空微粒子につき、より具体的に説明すると、この中空微粒子がアクリル樹脂である場合には、ほぼ160℃で分解し始め、その後の昇温で熱分解して消失する。上記中空微粒子がエポキシ樹脂やシリコン樹脂である場合には、ほぼ800℃で熱分解し始め、その後の昇温で熱分解して消失する。このように、中空微粒子がエポキシ樹脂などである場合には、中空微粒子が上記アクリル樹脂であることに比べて熱分解に時間を要する。
【0062】
上記有機性の中空微粒子には、例えば、マツモトマイクロスフェア(登録商標)として市販されているものがある。この中空微粒子の各粒子は、樹脂製の球形状殻と、この殻の内部に封入された炭化水素とを備えている。
【0063】
上記殻は、高分子で熱可塑性を有しており、具体的には、アクリル系コポリマー、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、メタクリレート、また、これらの合成材等のものが用いられている。上記バルーン材の粒子の粒子径は互いに不均一であり、その平均粒子径は3−110μmである。また、このバルーン材の耐圧性は300kg/cm以上であり、十分の機械強度を備えている。
【0064】
一方、上記中空微粒子の形態には、未膨張のものと、この未膨張のものを加熱して膨張させたことによる既膨張のものとがある。好ましくは既膨張のものを使用するが、未膨張のものを使用してもよい。その理由につき説明する。即ち、未膨張バルーン材の各粒子は、平均粒子径が3−45μm、殻厚さは2−15μmであり、真比重は0.02−0.05である。一方、既膨張のバルーン材3の各粒子5は、上記未膨張のバルーン材3を100℃−200℃で加熱することにより、体積を50−100倍にしたものであり、平均粒子外径は10−110μm、真比重は0.02−0.03である。このことから既膨張のものを使用することで未膨張のものを使用するときより膨張工程を1工程省略できるメリットがある。
【0065】
しかし、未膨張のものでも以下のメリットがあるので補足しておく。即ち、上記未膨張のバルーン材を加熱して既膨張のバルーン材にする場合、この工程は水中で行われる。このため、この工程の終了時、上記既膨張のバルーン材は85−95質量%の水を含有して、湿潤バルーン材とされる。この湿潤バルーン材は自由に飛散し難いため、その後の取り扱いが容易にできる。この湿潤バルーン材を乾燥させれば、0−5重量%の水を含有する既膨張の乾燥バルーン材が得られる。
【0066】
また、上記既膨張のバルーン材は、その殻の表面に炭酸カルシウムなどの無機金属塩や酸化チタンなどの無機金属酸化物の粉体を付着させたものであってもよい。
【0067】
上記中間成形品である断熱材における中空微粒子の有機固形分/セピオライトの質量比Rは、0.01−1.2であることが好ましい。
【0068】
つまり、上記質量比Rを0.01未満にすると、上記中空微粒子の消失により完成品である断熱材の内部に成形される空洞の量が不足して、この完成品の断熱性能が不十分になりがちとなる。一方、上記質量比Rが1.2を越えると、上記空洞の量が過多になると共に、セピオライトの量が不足して、完成品の強度が不足しがちとなる。
【0069】
そこで、上記質量比Rを上記の範囲としたのであり、これにより、上記完成品としての断熱材の断熱性能が、より確実に向上すると共に所望の強度が確保されることから、この断熱材の厚さをより薄くでき、かつ、重量を軽減させることができる。
【0070】
なお、上記質量比Rは、0.1−0.35であることが、より好ましい。
【0071】
上記熱変形抑制材は、断熱材を加熱することに基づくこの断熱材の膨張、収縮を抑制するものである。この熱変形抑制材としてタルクが使用されるが、雲母を使用してもよい。このようにタルクや雲母を用いる理由につき説明する。即ち、タルクや雲母は、二次元に広がっているケイ酸イオン構造を有しており、薄片形状で、高温加熱されても、その面に沿った方向で膨張、収縮しない機能を有するものである。
【0072】
タルクは、微粉末状で親水性があって水に添加しやすく、安価で事前処理なしに市販品そのものを使用できる。断熱材は、機能的にはタルクと雲母とのうち、少なくともいずれか一方を含有していればよい。そして、このような熱変形抑制材は、断熱材を加熱することに基づくこの断熱材の膨張、収縮抑制はもちろんのこと、耐熱衝撃性という優れた効果を発揮し、部分的な偏熱が発生してもセラミックスのようにクラックなどの損傷を防止できる。
【0073】
上記セピオライト:熱変形抑制材の質量対比は1:9−10:0.1であることが好ましい。
【0074】
つまり、上記熱変形抑制材のタルクや雲母はバインダーとしての働きを有していない。このため、上記セピオライトを上記質量対比の範囲未満とすると、バインダー材としてのセピオライトの量が不足して、完成品の強度が不足しがちとなる。
【0075】
そこで、上記質量対比を上記範囲としたのであり、これにより、上記完成品は、より確実に所望の強度を確保でき、かつ、クラック等の欠損を防止できる。
【0076】
なお、上記質量対比は、2:8−8:2であることがより好ましく、3:7−6:4であることが更に好ましい。
【0077】
(製造方法その1)
前記中間成形品である1次−5次断熱材1,9,10,14,17および完成品である断熱材20の製造方法につき、図1、図2を用いて説明する。
【0078】
上記中間成形品は、無機素材2、前記未膨張の中空微粒子3、および熱変形抑制材4を含有している。なお、この中間成形品には、グラスファイバーやセラミックファイバーという無機繊維などで構成される補強材はほとんど、もしくは全く含有されていない。その理由は、上記1次断熱材1に上記補強材を含有させると、後述の高温焼成により完成品である断熱材20を成形する場合に、上記補強材の含有部分でクラックが生じがちとなるからである。
【0079】
まず、第1工程(混練・膨張工程)として、上記無機素材2、未膨張製品の中空微粒子3、および熱変形抑制材4に対し、水が添加されて、バッチ式や連続押出式のミキサー等により混練される。上記中空微粒子3は有機性である球形状殻6と、この殻6の内部に封入された炭化水素7とを備えている。そして、上記混練により、粘土状の1次断熱材1が成形される。この1次断熱材1は販売の対象物である最終製品8となり得るものである。次に、上記1次断熱材1が密閉圧力容器(図示なし)に収容され、100〜200℃で加熱される。すると、1次断熱材1における上記各中空微粒子3がそれぞれ膨張し、その冷却後には自由な形状に成形可能な粘土状の2次断熱材9が成形される。
【0080】
次に、第2工程(成形工程)として、上記2次断熱材9により、ブロックのような3次断熱材10が成形機により成形される。また、この3次断熱材10はタイル、レンガ、壁ユニットのように成形してもよい。
【0081】
次に、第3工程(整製工程)として、内面に離型紙が張設され密閉型13内に、上記3次断熱材10が封入させられた状態で、この密閉型13内の空気を抜きながらジャッキにより上記3次断熱材10に面圧力が与えられる。すると、厚さが均一な4次断熱材14が成形される。
【0082】
次に、第4工程(乾燥工程)として、上記密閉型13から上記4次断熱材14が取り出される。そして、この4次断熱材14は、1次乾燥として、乾燥炉16にて40℃程度にまで加熱乾燥される。この場合、4次断熱材14におけるベントナイトは自然乾燥の方が好ましいが、セピオライトは水はけがよく、上記40℃の加熱乾燥ではクラックは生じず、50℃ではクラックが生じがちとなる。また、自然乾燥をした場合、乾燥に1週間を要するが、上記40℃の加熱乾燥によれば、48時間(2日間)で足りる。そこで、これらを総合判断して、上記40℃による加熱乾燥を採用した。
【0083】
また、上記乾燥後の4次断熱材14は、2次乾燥として、乾燥炉16により90℃、200℃各1時間をかけて加熱乾燥される。このように段階的に加熱して乾燥することにより硬化させられ、完全に脱水、縮合された状態の5次断熱材17が成形される。この5次断熱材17は、それ自体、強度と剛性とを十分に有し、所定形状に保持される。
【0084】
ここで、上記したように、4次断熱材14を40℃まで一旦加熱する理由は、次の如くである。即ち、一般に、上記4次断熱材14には、5次断熱材17を成形する上で必要な結合水以外に余分の水分が含まれている。このため、仮に、上記4次断熱材14を一気に90℃以上まで加熱すると、上記した余分の水分が突沸し断熱材にクラックが生じるおそれがある。そこで、それを防止する目的で、上記したように段階的に加熱して乾燥を行う。なお、上記4次断熱材14を80℃で乾燥させたとしても、上記クラックが生じる場合には、このクラックの発生を防止するために、上記乾燥を自然乾燥にしてもよい。また、上記4次断熱材14に、予め、セルロースを混入させて、水分蒸発を抑制させながら乾燥させてもよい。
【0085】
次に、第5工程(焼成工程)として、上記5次断熱材17は加熱炉19により800℃以上(1100℃、1240℃、1300℃のいずれか)の焼成温度で焼成されて、完成品であって最終製品8である断熱材20が成形される。この加熱の際、上記中空微粒子3は熱分解により消失する。このため、上記断熱材20の内部には無数の空洞22が成形される。
【0086】
なお、上記1次断熱材1や完成品である断熱材20はもとより、上記各工程段階で成形される2次〜5次断熱材9,10,14,17は、いずれを最終製品8としてもよい。
【0087】
(製造方法その2)
次に、中間成形品としての断熱材が既膨張製品の中空微粒子3を含有する場合の断熱材の製造方法につき説明する。
【0088】
上記方法では、上記第2,3,4,5工程は同様であるが、この方法では、既膨張製品の中空微粒子3を使用しているので、上記第1工程の膨張工程を省略することが可能である。
【0089】
但し、上記2次断熱材9を最終製品8とする場合、この2次断熱材9は、例えば、図2に示すように加熱炉の炉壁の金属製外壁板21に沿って延設される。この場合、この2次断熱材9により上記第2工程のように、3次断熱材10を成形して、第3工程に進んでもよい。一方、第2,3工程を経ることなく、第4工程に進んでもよい。
【0090】
そして、上記第4工程で、上記炉壁の2次断熱材9もしくは3次断熱材10が乾燥されて、5次断熱材17が成形される。次に、上記第5工程のように、炉の熱により上記5次断熱材17が加熱されて、これが完成品である断熱材20とされ、これにより、耐熱性の炉壁が成形される。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例1−19として、多数行った実験例の一部を示す。これら実験では、次の方法により断熱材を成形した。
【0092】
まず、セピオライトと熱変形抑制材であるタルクとを混合する。なお、上記各実施例では、無機バインダー材であるベントナイトは用いていない。
【0093】
次に、上記混合物に中空微粒子を混合する。この中空微粒子として、松本油脂製薬株式会社製のマイクロバルーンF−80E(平均粒子外径90−110μm、既膨張品)を用いた。このマイクロバルーンの有機固形分は15%とした。
【0094】
次に、上記混合物に純水である水を混合し、よく混練して前記第1工程の終了時における2次断熱材を成形する。なお、上記水は一般水道水であってもよい。
【0095】
次に、内面に離型紙が張設された密閉型内に上記2次断熱材を入れ、ジャッキにより上記2次断熱材に面圧を加え、前記第3工程の終了時における4次断熱材を成形する。この4次断熱材は、本実験の「実験用ブロック」であって、偏平な直方体形状とされ、平面視は正方形をなしている。
【0096】
次に、ハケにより上記「実験用ブロック」の表面仕上げをし、これを、「1次乾燥」として「自然」乾燥もしくは40℃にて加温により乾燥させる。
【0097】
更に、上記乾燥させた断熱材を、2次乾燥として、順次90℃、200℃にて各1時間ずつ加熱により「強制」乾燥させ、前記第4工程の終了時における5次断熱材を成形する。
【0098】
次に、上記5次断熱材を前記第5工程のように、1100℃、1240℃、1300℃のいずれかの「焼成温度」で焼成して、完成品である断熱材を成形する。
【0099】
上記各実験結果における収縮率(%)は、100−(1100℃焼成後の体積÷200℃乾燥後の体積×100)の値である。また、上記1100℃焼成後の体積の項における「−」は、焼成後の断熱材が、クラックなどによりそれ自体の形状を保ち難いために測定不能であることを示している。また、上記完成品である断熱材の「評価」は、断熱性能の良否、強度の良否、およびクラック等の欠損の有無を総合的に判断し、製品として、◎を最適、○を適、×を不適としたものであり、これらの各「評価」に基づき、本発明を前記のように特定した。
【0100】
上記実験の具体的内容は、下記[表1−1]、およびその続きとして[表1−2]に示す。
【0101】
上記表中の実験No.7−9について、セピオライトに対するタルクの割り合いを増やすと、収縮率を小さく抑えられると考えられるが、実際にはNo.9の3:7からNo.8の2:8、No.7の1:9にするに従い、収縮率が大きくなって好ましくない。このため、セピオライトの割り合いをある程度大きくすることがよいと考えられる。
【0102】
【表1−1】

【0103】
【表1−2】

【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】中間成形品である断熱材を順次乾燥、加熱して完成品である断熱材を成形する際のフローを示す図である。
【図2】中間成形品である断熱材の部分斜視断面図である。
【符号の説明】
【0105】
1 1次断熱材
2 無機素材
3 中空微粒子
4 熱変形抑制材
5 粒子
8 最終製品
9 2次断熱材
10 3次断熱材
14 4次断熱材
17 5次断熱材
20 断熱材
22 空洞
R 質量比(中空微粒子の有機固形分/セピオライト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セピオライト、および有機性の中空微粒子を含有することを特徴とする断熱材。
【請求項2】
ベントナイトを含有することを特徴とする請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
上記セピオライト:ベントナイトの質量対比を、10:0.1−0.1:10としたことを特徴とする請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
上記中空微粒子の有機固形分/セピオライトの質量比を0.01−1.2としたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の断熱材。
【請求項5】
熱変形抑制材としてタルクと雲母とのうち、少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の断熱材。
【請求項6】
上記セピオライト:熱変形抑制材の質量対比を、1:9−10:0.1としたことを特徴とする請求項5に記載の断熱材。
【請求項7】
上記断熱材の表面層における単位体積あたりの上記中空微粒子の質量を、上記断熱材の内部におけるそれよりも小さくしたことを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1つに記載の断熱材。
【請求項8】
請求項1に記載の上記断熱材を所定形状に成形し、この断熱材の加熱により成形されたことを特徴とする断熱材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−120446(P2009−120446A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297329(P2007−297329)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(593109584)伸栄産業株式会社 (8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】