説明

新規な核酸導入法

(a)核酸と細胞とを培地中で接触させる工程、および(b)前記(a)の工程の後、高濃度の金属塩溶液を前記(a)の培地と接触させる工程、を含む核酸導入法、ならびに固形金属塩または高濃度の金属塩溶液を成分として含有する核酸導入剤などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な核酸導入法に関する。より詳細には、本発明は、高濃度の金属塩溶液を利用した新規な核酸導入法に関する。
【背景技術】
ゲノムサイエンスの発展により新しい疾患関連遺伝子が数多く発見され、これらの遺伝子の機能解析が急務となっている。現在汎用されている遺伝子の機能解析手法であるDNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトームや酵母two−hybrid法では、直接培養細胞内における機能を解析することは困難である。このため、治療標的分子の同定および治療創薬への直接的な結びつけを可能とするための、細胞もしくは個体レベルでの遺伝子機能の網羅的な解析技術の確立が望まれている。細胞および固体レベルでの解析では、評価対象とする遺伝子の配列をもとに核酸を利用して遺伝子がコードするmRNAを細胞内で過剰発現もしくはノックダウンさせ、その結果生じる細胞の機能変化を解析する手法が利用される。近年、細胞の機能をマルチイメージアナライザーにより様々なパラメーターで解析する方法が確立され、これを用いることにより細胞レベルでの網羅的な遺伝子機能解析も可能となっていることから、遺伝子発現を調節する手段の確立は遺伝子の機能解析の重要な課題となっている。
遺伝子の発現を制御する核酸として、遺伝子過剰発現にはプラスミドDNA(pDNA)やウィルスベクターが、遺伝子のノックダウンにはアンチセンスDNA(AS−DNA)や短い干渉RNA(short interfering RNA;siRNA)などが用いられる。これら核酸と細胞膜は共にアニオン性を示し電気的に反発してしまうため、核酸を単独で直接細胞内に導入することは困難である。このため、細胞を用いた遺伝子機能解析では、ウィルスベクター法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、リポフェクション法、高分子ミセルベクター法など、これまでに開発された核酸の細胞内導入方法の利用が必要となる。
ウィルスベクター法(Mah C et al,Virus−based gene delivery systems.,Clin Pharmacokinet.2002;41(12):901−911)は、ウィルスベクター自体が細胞への感染能力を保持しているため、目的の遺伝子をウィルスベクターに挿入し細胞に添加するだけで遺伝子が細胞に導入され、高効率で目的とする遺伝子を発現することができる。しかし、この方法では感染により細胞内に核酸が導入されるため、感染に対する防御機構などが細胞に生じる結果、本来目的とする遺伝子の機能の検出にノイズが生じる恐れがある。また、ウィルスベクターに挿入可能な遺伝子の大きさに制限があること、遺伝子の導入およびウィルスの増幅と精製作業が煩雑であることなどから、多種類の遺伝子機能の網羅的な解析には適さない。
pDNA、AS−DNA、siRNAの細胞内への導入に関しては、上記のエレクトロポレーション法(Gehl J,Electroporation:theory and methods,perspectives for drug delivery,gene therapy and research.,Acta Phisiol scand.2003;117(4):437−47)、リン酸カルシウム共沈法(Batard P et al,Transfer of high copy number plasmid into mammalian cells by calcium phosphate transfrection.,Gene,2001;270:61−68)、DEAE−デキストラン法(Holter W et al,Efficient gene transfer by Sequential treatment of mammalian cells with DEAE−dextran and deoxyribonucleic acid.,Exp Cell Res.1989;184(2):546−551)、リポフェクション法(Rocha A et al,Improvement of DNA transfection with cationic liposomes.,L Physiol Biochem.2002;58(1):45−56)、または高分子ポリマーを用いた方法(De Smedt SC,et al,Cationic polymer Based Gene Delivery Systems.,Pharm.Res.2000;17(2):113−26)などの利用が必要となる。
エレクトロポレーション法は細胞を核酸溶液中に懸濁して直流高電圧のパルスをかけることで細胞の膜透過性を亢進させて導入する方法である。この方法は高効率で核酸を導入することができる反面、細胞へのダメージが大きいことを特徴としており、核酸導入後の細胞機能変化の解析を目的とする場合には適さない。
リン酸カルシウム共沈法は細胞の食作用を利用して核酸を導入する方法である。この方法は再現性が乏しく、また導入効率も悪い。そのため安定した遺伝子導入が必要となる遺伝子の機能解析には適さない。
DEAE−デキストラン法、リポフェクション法および高分子ポリマーを用いた方法は、細胞膜との膜融合を利用して核酸を導入する方法である。これらの方法のなかでは、導入効率や簡便性、汎用性、再現性という点でリポフェクション法が最も優れている。しかしリポフェクション法では細胞毒性が高いことが知られているため、細胞のビアビリティが重要である遺伝子の機能解析には問題が残る。またリポフェクション法では、細胞への導入に先立ってリポソーム試薬と核酸を混合して複合体を形成させる必要があるが、再現性が高いとはいえ複合体調製時の微妙な差よって細胞への導入効率が異なってくることから、多数の核酸を取り扱う場合には個々の操作に細心の注意が必要となり、操作が煩雑となる。
以上から、細胞レベルで多数の遺伝子機能を網羅的に解析するためには、低細胞毒性でより簡便にかつ効率的に細胞内に核酸を導入する方法の開発が望まれている状況にあった。
【発明の開示】
本発明の目的は、低細胞毒性で簡便かつ高効率で細胞へ核酸を導入することのできる、新規な核酸導入法を提供することにある。
本発明者らは、核酸(単独)と細胞とを培地中で混合し、その後高濃度の塩化カルシウム溶液を培地に添加したところ、驚くべきことに、核酸が効率よく細胞に導入されその機能を発現できることを見出した。この新たな知見から、本発明者らは、塩化カルシウム、さらには金属塩全般について、新規な核酸導入剤として利用できるとの確信を得た。
本発明はこのような知見に基づき完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、下記に掲げるものである:
(1) 以下の工程(a)及び(b)を含む核酸導入法:
(a)核酸と細胞とを培地中で接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、高濃度の金属塩溶液を前記(a)の培地と接触させる工程、
(2) 核酸が一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、オリゴヌクレオチドまたはリボザイムである、前記(1)記載の核酸導入法、
(3) 二本鎖DNAまたは二本鎖RNAが、直鎖状または環状の形態である、前記(2)記載の核酸導入法、
(4) 環状二本鎖DNAが発現プラスミドの形態である、前記(3)記載の核酸導入法、
(5) オリゴヌクレオチドが、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド、2’−O−(2−メトキシ)エチル−修飾核酸(2’−MOE−修飾核酸)、短い干渉RNA(siRNA)、架橋型核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)またはモルフォリノ・アンチセンス核酸である、前記(2)記載の核酸導入法、
(6) 核酸が生体内分解性の物質または生体由来物質との複合体若しくは封入体の形態である、前記(1)〜(5)いずれか記載の核酸導入法、
(7) 生体由来物質がアテロコラーゲンである、前記(6)記載の核酸導入法、
(8) 工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の濃度が0.1M〜3.0Mの範囲内である、前記(1)〜(7)いずれか記載の核酸導入法、
(9) 工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の濃度が0.5M〜2.0Mの範囲内である、前記(8)記載の核酸導入法、
(10) 工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の量が、工程(a)の培地500μL当たり1μL〜20μLの範囲内である、前記(1)〜(9)いずれか記載の核酸導入法、
(11) 工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の量が、工程(a)の培地500μL当たり2μL〜10μLの範囲内である、前記(10)記載の核酸導入法、
(12) 金属塩溶液が二価金属の塩化物溶液である、前記(1)〜(11)いずれか記載の核酸導入法、
(13) 二価金属の塩化物溶液が塩化カルシウム溶液である、前記(12)記載の核酸導入法、
(14) 固形金属塩または高濃度金属塩溶液を成分として含有する核酸導入剤、
(15) 固形金属塩または高濃度金属塩溶液からなる核酸導入剤、
(16) 前記(1)〜(13)いずれか記載の核酸導入法のために用いられる、前記(14)または(15)記載の核酸導入剤、
(17) 高濃度金属塩溶液の濃度が0.1M〜6.0Mの範囲内である、前記(14)〜(16)いずれか記載の核酸導入剤、
(18) 高濃度金属塩溶液の濃度が0.5M〜4.0Mの範囲内である、前記(17)記載の核酸導入剤、
(19) 金属塩が二価金属の塩化物である、前記(14)〜(18)いずれか記載の核酸導入剤、
(20) 二価金属の塩化物が塩化カルシウムである、前記(19)記載の核酸導入剤、
(21) 前記(14)〜(20)いずれか記載の核酸導入剤を含有する核酸導入用キット、
(22) 前記(14)〜(21)いずれか記載の核酸導入剤またはキットの、核酸導入における使用、
(23) 以下の工程(a)及び(b)を含む核酸導入法:
(a)核酸と細胞とを培地中で接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、高濃度の塩化カルシウム溶液を前記(a)の培地と接触させる工程、
(24) 核酸が一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、オリゴヌクレオチドまたはリボザイムである、前記(23)記載の核酸導入法、
(25) 二本鎖DNAまたは二本鎖RNAが、直鎖状または環状の形態である、前記(24)記載の核酸導入法、
(26) 環状二本鎖DNAが発現プラスミドの形態である、前記(25)記載の核酸導入法、
(27) オリゴヌクレオチドが、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド、2’−O−(2−メトキシ)エチル−修飾核酸(2’−MOE−修飾核酸)、短い干渉RNA(siRNA)、架橋型核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)またはモルフォリノ・アンチセンス核酸である、前記(24)記載の核酸導入法、
(28) 核酸が生体内分解性の物質または生体由来物質との複合体若しくは封入体の形態である、前記(23)〜(27)いずれか記載の核酸導入法、
(29) 生体由来物質がアテロコラーゲンである、前記(28)記載の核酸導入法、
(30) 工程(a)の培地と接触させる高濃度塩化カルシウム溶液の濃度が0.1M〜3.0Mの範囲内である、前記(23)〜(29)いずれか記載の核酸導入法、
(31) 工程(a)の培地と接触させる高濃度塩化カルシウム溶液の濃度が0.5M〜2.0Mの範囲内である、前記(30)記載の核酸導入法、
(32) 工程(a)の培地と接触させる高濃度塩化カルシウム溶液の量が、工程(a)の培地500μL当たり1μL〜20μLの範囲内である、前記(23)〜(31)いずれか記載の核酸導入法、
(33) 工程(a)の培地と接触させる高濃度塩化カルシウム溶液の量が、工程(a)の培地500μL当たり2μL〜10μLの範囲内である、前記(32)記載の核酸導入法、
(34) 固形塩化カルシウムまたは高濃度塩化カルシウム溶液を成分として含有する核酸導入剤、
(35) 固形塩化カルシウムまたは高濃度塩化カルシウム溶液からなる核酸導入剤、
(36) 前記(23)〜(33)いずれか記載の核酸導入法のために用いられる、前記(34)または(35)記載の核酸導入剤、
(37) 高濃度塩化カルシウム溶液の濃度が0.1M〜6.0Mの範囲内である、前記(34)〜(36)いずれか記載の核酸導入剤、
(38) 高濃度塩化カルシウム溶液の濃度が0.5M〜4.0Mの範囲内である、前記(37)記載の核酸導入剤、
(39) 前記(34)〜(38)いずれか記載の核酸導入剤を含有する核酸導入用キット、ならびに
(40) 前記(34)〜(39)いずれか記載の核酸導入剤またはキットの、核酸導入における使用。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の核酸導入法を用いることにより、GFP発現プラスミドを293細胞へ導入した結果を示すグラフである。
図2は、予め塩化カルシウム溶液を添加した培地で293細胞を懸濁して播種した場合のGFPの発現効率を示すグラフである。
図3は、本発明の核酸導入法を用いることにより、GFP発現プラスミドをHeLa細胞へ導入した結果を示すグラフである。
図4は、本発明の核酸導入法を用いることにより、siRNAをNEC8細胞へ導入した結果を示すグラフである。
図5は、本発明の核酸導入法を用いることにより、GFP発現プラスミドとアテロコラーゲンとの複合体を293細胞およびHeLa細胞へ導入した結果を示すグラフである。
図6は、本発明の核酸導入法を用いることにより、siRNAとアテロコラーゲンとの複合体をPC−3M−Luc−C6細胞へ導入した結果を示すグラフである。A)はヒトenhancer of zeste homolog2(EZH2)に対するsiRNA導入の結果を、B)はphosphoinositide 3’−hydroxykinase p110−alpha subunit(p110−alpha)に対するsiRNA導入の結果を、それぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、少なくとも以下の工程(a)及び(b):
(a)核酸と細胞とを培地中で接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、高濃度の金属塩溶液を前記(a)の培地と接触させる工程、
を含む核酸導入法を提供する。
本発明の核酸導入法において導入に用いられる核酸は、方法の原理上、その種類に制限は無くどのような核酸であっても導入対象として用いることができる。すなわちポリヌクレオチド(DNA、RNA)、オリゴヌクレオチド、またはリボザイム等のいずれの核酸であっても良く、また一本鎖・二本鎖およびこれらの類縁体のいずれの形態であっても良い。すなわち本発明の核酸として具体的には、一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、オリゴヌクレオチドまたはリボザイム等が挙げられる。
本発明の核酸が二本鎖DNAまたは二本鎖RNAである場合、直鎖状または環状のいずれの形態であっても良い。さらに本発明の核酸が環状二本鎖DNAの場合、プラスミドの形態とすることができる。当該プラスミドは、発現プラスミドまたは非発現プラスミドのいずれの形態であっても良い。
本発明の核酸が一本鎖DNAまたは一本鎖RNAである場合、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれも用いることができる。
本発明の核酸がオリゴヌクレオチドである場合、導入するオリゴヌクレオチドの種類に制限はなく、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチドまたはこれらの類縁体のいずれも用いることができる。具体的には、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、リボヌクレオチド(RNA)、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド、2’−O−(2−メトキシ)エチル−修飾核酸(2’−MOE−修飾核酸)、短い干渉RNA(small interfering RNA:siRNA)、架僑型核酸(Locked Nucleic Acid:LNA;Singh,et al,Chem.Commun.,455,1998)、ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid:PNA;Nielsen,et al.,Science,254,1497,1991)、またはモルフォリノ・アンチセンス核酸(Morpholino antisense;Summerton and Weller,Antisense & Nucleic Acid Drug Development,7,187,1997)などを例示することができる。
前記核酸は、通常の遺伝子導入に用いられる濃度(0.001〜1000μg/mL)で使用することができる。
前記核酸は、細胞培養に支障のない溶媒に溶解して導入に用いることができる。当該溶媒としては、例えば蒸留水、生理的食塩水、HEPES緩衝液(シグマ社)、TRIS緩衝液(シグマ社)、PBS緩衝液(Invitrogen社)、細胞培養培地等を挙げることができる。
前記核酸は、細胞毒性のない生体内分解性の物質や生体由来物質と複合体を形成した形態、あるいはこれらの物質に封入された形態であっても良い。ここで生体内分解性の物質としては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸およびこれらの共重合体やラクトン系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー等を挙げることができる。また生体由来物質としては、例えばキトサン、ゼラチン、コラーゲン、酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)、またはこれらの修飾物等を挙げることができる。核酸とこれら生体内分解性の物質や生体由来物質との複合体あるいは封入体の作製は、例えば文献、Panyman et al,Biodegradable nanoparticles for drug and gene delivery to cells ant tissue.,Adv Drug Deliv Rev.2003;55(3):329−47,Li XW et al,Sustained expression in mammalian cells with DNA complexed with chitosan nanoparticles.,Biochem Biophys Acta.2003;1630(1):7−18、WO 03/000297号公報などに従い行うことができる。
前記で生体由来物質としてはコラーゲンあるいは酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)が好ましく、その種類、由来、型等に特に制限はない。種類としては未修飾物あるいはその修飾物を挙げることができる。修飾物としては、側鎖アミノ基、カルボキシル基の化学修飾、あるいは化学的・物理的架橋物を用いることができる。
当該コラーゲン溶液の濃度は0.00001%〜3%(0.0001mg/mL〜30mg/mL)の範囲で使用することができ、好ましくは0.0001%〜0.3%、より好ましくは0.0005%〜0.1%の範囲で使用することができる。
前記生体内分解性の物質や生体由来物質と複合体あるいは封入体を形成することにより核酸は安定化されかつ徐放化されることから、当該複合体あるいは封入体を細胞内に導入することにより、核酸の効果の持続を図ることができる。
本発明の核酸導入法において用いられる細胞は、方法の原理上、適応細胞種に制限はない。具体的には、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経芽細胞、リンパ芽球、浮遊細胞、星状膠細胞、円形細胞、紡錘細胞、アメーバ様細胞などに対して本発明の核酸導入法を適用することができる。
本発明の核酸導入法において用いられる培地は、細胞が死滅せず、かつ本発明の核酸導入法による細胞内への核酸の取り込みに支障をきたさないような培地であれば、如何なる培地であっても良い。具体的には、通常の細胞培養に用いられる培養用培地、緩衝液、または血清をさらに含有する培養用培地や緩衝液が挙げられる。
ここで培養用培地としては、各々の細胞に合った培養用培地であればどのような培地であっても良い。例えばRPMI1640(Invitrogen社)、DULBECCO’S MODIFIED EAGLE MEDIA(Invitrogen社)、F−10 Nutrient Mixture(Invitrogen社)、F−12 Nutrient Mixture(Invitrogen社)、Iscove’s Modified Dulbecco’s Media(Invitrogen社)またはMINIMUM ESSENTIAL MEDIA(Invitrogen社)などが例示される。
また緩衝液としては、HEPES緩衝液(シグマ社)、TRIS緩衝液(シグマ社)、PBS緩衝液(Invitrogen社)などが例示される。
また血清としては、ウシ胎児血清、ウシ血清、仔ウシ血清、ウマ血清などが例示される。培地中の血清の濃度は、細胞培養に適した濃度であればどのような濃度であっても良い。好ましくは0〜20%(v/v)の範囲が挙げられ、より好ましくは5〜10%(v/v)の範囲が挙げられる。
本発明の核酸導入法において用いられる「金属塩溶液」は、細胞培養に影響しない範囲内であれば、如何なる金属塩溶液を用いても良い。細胞培養に影響するか否かは、細胞培養液に金属塩溶液を添加した場合としない場合とで細胞増殖速度(細胞密度)等を比較することにより、容易に調べることができる。
ここで金属塩とは、具体的には、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、マンガン、鉄、銅、または亜鉛等の金属の塩が挙げられる。当該金属の塩として、より具体的には、例えば前記金属の塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、または硝酸塩等が挙げられる。好ましくは前記金属の塩酸塩が挙げられ、より好ましくは二価金属の塩化物が挙げられる。
ここで二価金属の塩化物としては、具体的には塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化マンガン等が例示され、好ましくは塩化カルシウムが挙げられる。すなわち本発明の最も好ましい金属塩溶液は塩化カルシウム溶液である。
以上に示した金属塩は、単独で、若しくは2種以上を組み合わせることにより、本発明の金属塩溶液の成分とすることができる。
本発明の核酸導入法において用いられる金属塩溶液(好ましくは塩化カルシウム溶液)は、高濃度の金属塩溶液である。ここで「高濃度」とは、0.1M以上の濃度であることを指す。具体的には0.1M〜3.0Mの範囲が挙げられ、好ましくは0.3M〜3.0Mの範囲が、より好ましくは0.5M〜3.0Mの範囲が、さらに好ましくは0.5M〜2.5Mの範囲が、特に好ましくは0.5M〜2.0Mの範囲が、最も好ましくは1.0M〜2.0Mの範囲が挙げられる。
前記金属塩を溶解する溶媒は、細胞培養に支障のない溶媒であれば如何なるものでもよいが、例えば蒸留水、生理的食塩水、HEPES緩衝液(シグマ社)、TRIS緩衝液(シグマ社)、PBS緩衝液(Invitrogen社)、細胞培養培地等を用いることができる。
次に、本発明の核酸導入の方法について具体的に説明する。
まず、導入用の核酸と導入対象となる細胞とを培地中で接触させる。接触は、通常の細胞培養に適した培養容器中で行われる。ここで培養容器としては、細胞培養用ディッシュ、フラスコ、マルティプルウェルプレートなどが挙げられる。
核酸と細胞との接触方法としては、例えば、細胞懸濁培地に核酸を添加して細胞培養容器に播く方法、核酸を添加した培地で細胞を懸濁して細胞培養容器に播く方法、細胞を培養培地で懸濁して細胞培養容器に播き、その上に核酸を加える方法、核酸を予め細胞培養容器に添加しておき、その上に細胞を懸濁した培養培地を加える方法、核酸水溶液を予め細胞培養容器に添加して乾固又は吸着させ、その上に細胞を懸濁した培養培地を加える方法等がある。
ここで用いる核酸は、前述のように生体内分解性物質や生体由来物質との複合体あるいは封入体の形態であっても良い。特に、核酸水溶液を細胞培養容器に添加して乾固又は吸着させる方法において、当該複合体あるいは封入体が好適に用いられる。
具体的には、例えば核酸溶液とアテロコラーゲン水溶液との複合体溶液をマルティプルウェルプレートに添加して乾固させ、その上に細胞を懸濁した培養培地を加える方法が例示される。
接触させる核酸の量(濃度)および細胞数(密度)は、通常の遺伝子導入に用いられる程度であれば特に制限は無い。また接触の温度としては、0℃〜42℃の範囲が、より好ましくは室温〜37℃の範囲が挙げられる。
次に、前記核酸と細胞とを接触させた培地(以下、「工程(a)の培地」と称することもある)に対し、高濃度の金属塩溶液(好ましくは高濃度の塩化カルシウム溶液)を接触させる。接触方法としては、例えば、工程(a)の培地を含有する培養容器中に高濃度金属塩溶液を添加する方法や、高濃度金属塩溶液を予め細胞培養容器に添加しておき、そこに前記工程(a)の培地を添加する方法等が挙げられる。
高濃度金属塩溶液の接触(添加)の時期は特に制限されないが、細胞と核酸を接触後2時間以内、好ましくは30分以内、より好ましくは10分以内に高濃度金属塩溶液を接触させることが適当である。
高濃度金属塩溶液(好ましくは高濃度塩化カルシウム溶液)の接触(添加)量は、細胞への核酸導入が良好に行われる限り特に制限されないが、工程(a)の培地500μL当たり高濃度金属塩溶液1μL〜20μLを接触(添加)することが好ましい。また、工程(a)の培地500μL当たり高濃度金属塩溶液2μL〜10μLを接触(添加)することがより好ましく、工程(a)の培地500μL当たり高濃度金属塩溶液5μL〜10μLを接触(添加)することがさらに好ましい。
より具体的には、例えば24穴ウェルにおいては、1ウェルあたり500μL程度の工程(a)培地を含有するのが一般的であるため、1μL〜20μL/ウェル、より好ましくは2μL〜10μL/ウェル、さらに好ましくは5μL〜10μL/ウェルの高濃度金属塩溶液を添加することが適切である。
高濃度金属塩溶液を添加した後、金属塩が均一に工程(a)培地に混合されるように培養容器を攪拌し、1時間〜1日程度培養する。培養の条件は、細胞への核酸導入に支障をきたさない限り特に限定されないが、5%CO存在下、0℃〜42℃の範囲で、好ましくは室温〜37℃の範囲で、より好ましくは37℃にて行われる。
以上の操作により、核酸の導入が達成される。
前記本発明による核酸導入法は、細胞レベルでの遺伝子能解析の他、遺伝子組換え細胞株の作出や、ex vivoの遺伝子治療における細胞への核酸導入にも適用することができる。
本発明は、前記本発明の核酸導入法のために用いられる核酸導入剤を提供する。
本発明の核酸導入剤は、固形金属塩または高濃度の金属塩溶液を成分として含有することを特徴とする。具体的には、固形金属塩または高濃度の金属塩溶液からなる核酸導入剤が例示される。
ここで「金属塩」とは、細胞培養に影響しない範囲内であれば、如何なる金属塩溶液を用いても良い。細胞培養に影響するか否かは、細胞培養液に金属塩溶液を添加した場合としない場合とで細胞増殖速度(細胞密度)を比較することにより、容易に調べることができる。
具体的には、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、マンガン、鉄、銅、または亜鉛等の金属の塩が挙げられる。当該金属の塩として、より具体的には、例えば前記金属の塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、または硝酸塩等が挙げられる。好ましくは前記金属の塩酸塩が挙げられ、より好ましくは二価金属の塩化物が挙げられる。
ここで二価金属の塩化物としては、具体的には塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化マンガン等が例示され、好ましくは塩化カルシウムが挙げられる。すなわち本発明の核酸導入剤の好ましい例として、本発明は、固形塩化カルシウムまたは高濃度塩化カルシウム溶液を成分として含有する核酸導入剤を提供する。より具体的には、固形塩化カルシウムまたは高濃度塩化カルシウム溶液からなる核酸導入剤が例示される。
以上に示した金属塩は、単独で、若しくは2種以上を組み合わせることにより、本発明の核酸導入剤の成分とすることができる。
本発明の核酸導入剤が高濃度の金属塩溶液を成分として含有する場合、その濃度は、0.1M以上であれば如何なる濃度であっても良い。
前記したように、工程(a)の培地と接触させる金属塩溶液の濃度としては0.1M〜3.0Mの範囲が挙げられ、好ましくは0.3M〜3.0Mの範囲が、より好ましくは0.5M〜3.0Mの範囲が、さらに好ましくは0.5M〜2.5Mの範囲が、特に好ましくは0.5M〜2.0Mの範囲が、最も好ましくは1.0M〜2.0Mの範囲が挙げられる。従って本発明の核酸導入剤における金属塩の濃度は、希釈により若しくはそのまま使用することにより前記の濃度となるように調製されている必要がある。
従って本発明の核酸導入剤が高濃度の金属塩溶液(好ましくは高濃度の塩化カルシウム溶液)を成分として含有する場合、その濃度は、0.1M以上であれば良く、好ましくは0.1M〜6.0Mの範囲が挙げられ、より好ましくは0.1M〜4.0Mの範囲が、さらに好ましくは0.5M〜4.0Mの範囲が挙げられる。
前記金属塩を溶解する溶媒は、細胞培養に支障のない溶媒であれば如何なるものでもよいが、例えば蒸留水、生理的食塩水、HEPES緩衝液(シグマ社)、TRIS緩衝液(シグマ社)、PBS緩衝液(Invitrogen社)、細胞培養培地等を挙げることができる。
以上のような本発明の核酸導入剤は、核酸導入用のキットの一成分とすることができる。当該キットは、前記本発明の核酸導入剤のみからなるキットであっても、また本発明の核酸導入剤と他の成分とを含むキットであっても良い。当該キット中の他の成分としては、蛍光標識オリゴヌクレオチド、ポジティブコントロールsiRNAなどが挙げられる。また当該キットが固形金属塩を成分として含有する場合は、これを溶解する溶媒として、蒸留水、生理的食塩水、HEPES緩衝液(シグマ社)、TRIS緩衝液(シグマ社)、PBS緩衝液(Invitrogen社)、細胞培養培地等をさらに含有していても良い。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
[実施例1]
核酸導入法の検討(1)
24ウェル細胞培養プレートの各ウェルに100μg/mLのGFP発現プラスミド水溶液を100μL添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥した。ヒト副腎由来上皮細胞である293細胞(ATCC:Cell Biology Collection)を10%ウシ血清(FBS)含有DMEM培地(Sigma)に懸濁し、1ウエルあたり2.5X10個(500μL)播種した。細胞播種後直ちに1.7M塩化カルシウム水溶液を0,1.5,2.5,3.5,5.0,6.5,8.0μL添加し、均一となるようにプレートを攪拌した。なお、培地中の最終塩化カルシウム濃度は1.8mM,7.1mM,10.2mM,14.2mM,19.5mM,24.8mM,30.1mMとなる。細胞播種後2日目に蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測し、導入効率を算出した。
結果を図1に示す。図1より明らかなように、高濃度(1.7M)の塩化カルシウムを添加することにより、効率良く細胞に遺伝子導入できることが示された。また細胞の形態変化や細胞死は認められなかった。用いた24ウェルプレートでは、各ウェルに添加する1.7M塩化カルシウム溶液の量が2.5〜8.0μLで優れた遺伝子発現効率が得られた。
[実施例2]
核酸導入法の検討(2)
予め塩化カルシウム溶液を添加した培地で細胞を懸濁しウェルに播種する以外は実施例1と同様にして、遺伝子導入効率の検討を行った。24ウェル細胞培養プレートに100μg/mLのGFP発現プラスミド水溶液を100μL添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥した。塩化カルシウム濃度がそれぞれ1.8mM,7.1mM,10.2mM,14.2mM,19.5mM,24.8mM,30.1mMとなるように培地に予め塩化カルシウム溶液を添加しておき、それぞれの培地を用いて293細胞を懸濁し、1ウェルあたり2.5X10個(500μL)播種した。細胞播種後2日目に蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測し、導入効率を算出した。
結果を図2に示す。実施例1の結果(図1)と異なり、予め塩化カルシウム溶液を添加した培地で細胞を懸濁しプレートに播種した場合は、遺伝子を導入することが出来なかった。これら実施例1および実施例2の結果から、細胞内への遺伝子導入促進効果は培地中の塩化カルシウム濃度の増加ではなく、塩化カルシウム溶液の加え方に起因することが示された。すなわち、細胞と遺伝子とをあらかじめ混合した後に高濃度の塩化カルシウムと接触させることが重要であることが明らかとなった。
[実施例3]
本発明の核酸導入法を用いたHeLa細胞への遺伝子導入
実施例1と異なる細胞においても本発明の遺伝子導入法が適用できるかどうか検討した。
24ウェル細胞培養プレートに100μg/mLのGFP発現プラスミド水溶液を100μL添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥した。ヒト子宮頸癌由来上皮細胞であるHeLa細胞(ATCC:Cell Biology Collection)を10%FBS含有DMEM培地(Sigma)に懸濁し、1ウエルあたり1.5X10個(500μL)播種した。細胞播種後直ちに1.7M塩化カルシウム水溶液を0,1.5,2.5,3.5,5.0,6.5,8.0μL添加し均一となるようにプレートを攪拌した。細胞播種後4日目に蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測し、導入効率を算出した。
結果を図3に示す。HeLa細胞においても1.7Mの塩化カルシウム溶液を細胞播種後にウェルに添加することにより遺伝子を効率よく細胞に導入できた。また細胞の形態変化や細胞死も認められなかった。このことから、本発明の方法が細胞種に依らないことが示された。
[実施例4]
本発明の核酸導入法を用いたsiRNAの導入
発現プラスミド以外の核酸も本発明の遺伝子導入法により導入できるかどうか検討した。
ヒトFGF−4のmRNAを特異的に抑制するsiRNA(以下hEx3−1と称する)を導入用核酸として用いた。またヒトFGF−4タンパクを強発現する細胞株であるヒト精巣腫瘍由来上皮細胞NEC8(ATCC:Cell Biology Collection)を導入用細胞として用いた。
6ウェル細胞培養プレートに10μg/mLのhEx3−1水溶液を350μL添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥した。NEC8細胞を10%FBS含有DMEM培地(Sigma)に懸濁し、1プレートあたり3.75X10個(1.5mL)播種した。細胞播種後直ちに1.7M塩化カルシウム水溶液を20μL添加し、プレートを攪拌して均一とした。対照群としてhEx3−1を塗布乾燥していないウェルで同様の操作を行った。細胞播種後3日目に培地を回収して培地中のFGF−4濃度をELISA(Human FGF−4 Quantikine ELISA kit;R&D Systems)で定量した。またウェル中の細胞を回収してタンパク量をBradford法(Bio−Rad Protein Assay;BioRad)で定量した。培地中のFGF−4濃度を得られたタンパク量で徐して、各ウェル中でのFGF−4産生量を算出した。
結果を図4に示す。hEx3−1の導入により培地中へのFGF−4の産生が抑制された。すなわちNEC8細胞内にsiRNAが効率よく導入され、siRNAが目的とする作用を良好に発揮することが示された。この結果から本発明の核酸導入法が核酸の種類に依らないことが示された。
[実施例5]
本発明の核酸導入法を用いた遺伝子−生体由来物質複合体の導入
遺伝子の安定化効果および徐放効果を持つ生体由来物質と遺伝子との複合体が本発明の核酸導入法により導入できるか検討した。
生体由来物質としてはアテロコラーゲン((株)高研)を用いた。
200μg/mLのGFP発現プラスミド水溶液と0.016%のアテロコラーゲン水溶液を等量で混合し、複合体溶液を調製した。24ウェル細胞培養プレートの各ウェルに複合体溶液を100μL添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥した。ヒト副腎由来上皮細胞である293細胞およびヒト子宮頸癌由来上皮細胞であるHeLa細胞(ATCC:Cell Biology Collection)を10%ウシ血清(FBS)含有DMEM培地(Sigma)に懸濁し、1ウエルあたり2.5X10個(500μL)播種した。細胞播種後直ちに1.7M塩化カルシウム水溶液を5.0μL添加し、均一となるようにプレートを攪拌した。細胞播種後2日目に蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測し、導入効率を算出した。
結果を図5に示す。図5から明らかなように、1.7Mの塩化カルシウム溶液を細胞播種後にウェルに添加することにより細胞にアテロコラーゲン複合体を導入できた。このことは複合体として核酸を導入することにより核酸の作用持続が図れることを示すものである。
[実施例6]
本発明の核酸導入法を用いたsiRNA−生体由来物質複合体の導入
ヒトenhancer of zeste homolog2(EZH2)又はphosphoinositide 3’−hydroxykinase p110−alpha subunit(p110−alpha)に対するsmall interfering RNA(siRNA)の300nM水溶液と、0.016%アテロコラーゲン水溶液を等量で混合し、複合体溶液を調製した。6ウェル細胞培養プレートの各ウェルに複合体溶液を250μL添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥した。ヒト前立腺がん由来細胞である、PC−3M−Luc−C6細胞(Xenogen Corp.)を1ウェルあたり5X10個播種した。細胞播種直後直ちに1.7M塩化カルシウム水溶液を20μL添加した。細胞播種後4日目にRNA抽出及びcDNA合成を行い、標的遺伝子のmRNAの発現量を、定量的PCR法にて解析した。なお結果は、内部標準として用いたGAPDHの発現量で補正した。
結果を図6に示す。図6から明らかなように、1.7Mの塩化カルシウム溶液を細胞播種後にウェルに添加することにより、細胞にsiRNAを導入することができた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、新規な核酸導入法が提供される。本発明の核酸導入法は簡便かつ低細胞毒性で導入効率が高く、しかもローコストである。また細胞や核酸の種類を問わず、幅広く用いることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)及び(b)を含む核酸導入法:
(a)核酸と細胞とを培地中で接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、高濃度の金属塩溶液を前記(a)の培地と接触させる工程。
【請求項2】
核酸が一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、オリゴヌクレオチドまたはリボザイムである、請求項1記載の核酸導入法。
【請求項3】
二本鎖DNAまたは二本鎖RNAが、直鎖状または環状の形態である、請求項2記載の核酸導入法。
【請求項4】
環状二本鎖DNAが発現プラスミドの形態である、請求項3記載の核酸導入法。
【請求項5】
オリゴヌクレオチドが、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド、2’−O−(2−メトキシ)エチル−修飾核酸(2’−MOE−修飾核酸)、短い干渉RNA(siRNA)、架橋型核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)またはモルフォリノ・アンチセンス核酸である、請求項2記載の核酸導入法。
【請求項6】
核酸が生体内分解性の物質または生体由来物質との複合体若しくは封入体の形態である、請求項1〜5いずれか記載の核酸導入法。
【請求項7】
生体由来物質がアテロコラーゲンである、請求項6記載の核酸導入法。
【請求項8】
工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の濃度が0.1M〜3.0Mの範囲内である、請求項1〜7いずれか記載の核酸導入法。
【請求項9】
工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の濃度が0.5M〜2.0Mの範囲内である、請求項8記載の核酸導入法。
【請求項10】
工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の量が、工程(a)の培地500μL当たり1μL〜20μLの範囲内である、請求項1〜9いずれか記載の核酸導入法。
【請求項11】
工程(a)の培地と接触させる高濃度金属塩溶液の量が、工程(a)の培地500μL当たり2μL〜10μLの範囲内である、請求項10記載の核酸導入法。
【請求項12】
金属塩溶液が二価金属の塩化物溶液である、請求項1〜11いずれか記載の核酸導入法。
【請求項13】
二価金属の塩化物溶液が塩化カルシウム溶液である、請求項12記載の核酸導入法。
【請求項14】
固形金属塩または高濃度金属塩溶液を成分として含有する核酸導入剤。
【請求項15】
請求項1〜13いずれか記載の核酸導入法のために用いられる、請求項14記載の核酸導入剤。
【請求項16】
高濃度金属塩溶液の濃度が0.1M〜6.0Mの範囲内である、請求項14または15記載の核酸導入剤。
【請求項17】
高濃度金属塩溶液の濃度が0.5M〜4.0Mの範囲内である、請求項16記載の核酸導入剤。
【請求項18】
金属塩が二価金属の塩化物である、請求項14〜17いずれか記載の核酸導入剤。
【請求項19】
二価金属の塩化物が塩化カルシウムである、請求項18記載の核酸導入剤。
【請求項20】
請求項14〜19いずれか記載の核酸導入剤を含有する核酸導入用キット。
【請求項21】
請求項14〜20いずれか記載の核酸導入剤またはキットの、核酸導入における使用。

【国際公開番号】WO2005/061717
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516500(P2005−516500)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019160
【国際出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)
【Fターム(参考)】