説明

新規な機能性ペプチド核酸およびその製法

【課題】リジンを使用した機能性ペプチド核酸オリゴマーおよびその中間体の新規な製造方法の提供。
【解決手段】機能性PNAオリゴマーを製造する方法において保護されたアデニン、グアニン、シトシンまたはチミンを有するPNAモノマーユニットを、Bocリジン(Fmoc)−OH或いはFmoc−リジン(Alloc)−OHと反応させてPNAオリゴマーを合成した後、該PNAオリゴマーに遊離カルボン酸を有する機能性分子を導入し、さらに前記保護基の脱保護を行うことを含む方法によって、コストパフォーマンスに優れ、かつ機能性分子を超高速に導入することが可能となり、しかも、当該方法によって合成される化合物および前駆体的PNAモノマーユニットとして機能するBocリジン(Fmoc)−OH或いはFmoc−リジン(Alloc)−OHを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リジンを使用した機能性ペプチド核酸オリゴマーおよびその中間体の新規な
製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸は生物の遺伝情報を司るDNAおよびRNAである。これに対して、ペプチド核酸
(PNA)とは、核酸の糖リン酸骨格をN−(2−アミノエチル)グリシン骨格に変換し
た修飾核酸である(図1)。DNA/RNAの糖リン酸骨格は中性条件で負電荷を帯びて
いて相補鎖間の静電的な反発があるが、PNAの背骨構造はもともと電荷を持たないので
静電的な反発がない。そのためPNAは従来の核酸と4比較して、高い二重鎖形成能をも
ち、高い塩基配列認識能を持つ。さらにPNAは生体内ヌクレアーゼ・プロテアーゼに対
し非常に安定で分解されないので、アンチセンス分子として遺伝子治療に応用することが
検討されている。
【0003】
従来のDNAを媒体にしていた技術をPNA化することにより、これまで克服できなか
ったDNAの欠点を補うことが可能となった。例えば、遺伝情報の体系的な解析を高速に
且つ大量に行うための「DNAマイクロアレイ技術」および塩基配列を特異的に認識した
ことを蛍光発光により検出できるプローブとして最近開発された「モレキュラービーコン
」に応用することが可能である。これらはいずれも酵素耐性に乏しいDNAを媒体とする
ため、これらの技術を用いるに際しては厳密なサンプリングが要求される。この要求を満
たすことが、前記の技術を高度化する上での鍵となっている。
【0004】
一方PNAは酔素に対し完全な耐性を持つので、DNAマイクロアレイ技術およびモレ
キュラービーコンにおいてPNAをDNAに代用することによって、前記技術の欠点が克
服され、さらに長所が引き出されるものと期待されている。
【0005】
DNAマイクロアレイ技術およびモレキュラービーコン以外にもPNA化することによ
り発展が期待される分野は数多いが、それらにおいてはPNAの効率的な機能化、すなわ
ちPNAモノマーへの機能性分子の効率的な導入による新規なPNAモノマーの設計が必
要である。
【0006】
PNAオリゴマーの合成方法には通常の固相ペプチド合成法を用いるので、PNAモノ
マーユニットをPNAの背骨構造によって分類すると、Fmoc型PNAモノマーユニッ
トとBoc型PNAモノマーユニットの2種類が含まれる(図2)。
【0007】
Fmoc型PNAモノマーユニットの合成方法は既に確立されており、しかもそのオリ
ゴマーの合成は一般的なDNA自動合成機によって可能であるため、下記のルート
【0008】
【化4】

【0009】
(Xはグアニン、チミン、シトシンまたはアデニンを表す)
によって、少量スケールでの合成が可能となっている。
【0010】
なお、Fmocとは9−Fluorenylmethoxycarbonyl、Boc
とはtButoxycarbonyl、AllocとはAllyloxycarbony
lを指す。
【0011】
当初PNAには下記のようなBoc型PNAモノマーユニット
【0012】
【化5】

【0013】
が採用され、その後より効率のよい合成方法
【0014】
【化6】

【0015】
が確立された。しかし、前述したように取り扱いが容易なFmoc型が開発されたため、
Boc型の使用頻度は減少している。
【0016】
しかし、グアニン・チミン・シトシン・アデニン4種類の核酸塩基以外の機能性分子を
導入する際、例えば光機能性分子を導入する際には、導入する機能性分子がアルカリ条件
に不安定な場合が多いので、アルカリ条件を使用しないBoc型PNA背骨構造の有用性
は高い。「t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミン及びアミノ酸誘導体の製造方法」
に関しては、本発明者らが特願2000−268638として既に特許出願中である。
【0017】
これ以外にも、光機能性オリゴPNAのモノマーユニットの合成例は過去に5例が知ら
れている。これら全てが上記ルートを用いているが、その収率については記載がないか、
または極めて低いものでしかない(Peter E.Nielsen,Gerald H
aaiman,Anne B.Eldrup PCT Int.Appl.(1998)
WO 985295 A1 19981126,T.A.Tran,R.−H.Matt
ern,B.A.Morgan(1999)J.Pept.Res,53,134−14
5,Jesper Lohse et al.(1997)Bioconjugate
Chem.,8,503−509,Hans−georg Batz,Henrik F
rydenlund Hansen,et al.Pct Int.Appl.(199
8)WO 9837232 A2 19980827,Bruce Armitage,
Troels Koch,et al.(1998)Nucleic Acid Res
.,26,715−720)。また、用いられる化合物の構造がアルカリ性条件に比較的
安定であることが特徴的であるため、アルカリ性条件に不安定な発色団が付くと、前記従
来法と類似の方法、すなわち下記ルートA
【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
では効率良く合成できないと予想された。
【0021】
したがって、一般に光機能性分子等の機能性分子は高価な場合が多いため、より合目的
的な機能性PNAの合成方法、すなわち、(1)機能性PNAモノマーユニットの設計に
おける、機能性分子のPNA背骨構造への効率的な導入、(2)コストパフォーマンスを
考えた合成ルート、および(3)遺伝子診断薬としての応用へ適応させるための、これら
の機能性分子を超高速に導入する方法が探求された。
【0022】
上記課題に鑑み、本発明者らは、機能性PNAモノマーの新規製造方法として、下記ル
ートB
【0023】
【化9】

【0024】
に示すように、PNA背骨構造にt−ブトキシカルボニルアミノエチルアミン誘導体6を
用いて1のペンタフルオロフェニル基を含む活性エステル体5と縮合してほぼ定量的に光
機能性PNAモノマー4を合成する方法を見出した。
【0025】
また、本発明者らは、機能性PNAモノマーを合成する別法として、PNA背骨構造に
上記t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミン誘導体6の代わりにベンジルオキシカル
ボニル−ω−アミノ酸誘導体を用いる方法(ルートC)を見出した。これらの方法につい
ては、既に特許出願がなされている。
【0026】
したがって、最終的に機能性PNAを合成するための方法として、上記ルートBおよび
ルートCのいずれかを用いる方法によって機能性PNAモノマーを合成した後に、それら
を重合する方法が工業的にも確立されつつある。すなわち、現在までの機能性PNAの合
成法によってPNAブロープとして用いられる機能性PNAを工業的に大量合成すること
は可能になりつつある。
【0027】
一方、コストパフォーマンスの向上および機能性分子を超高速に導入することを目的と
した、機能性PNAを合成方法の改良もなされている。例えば、前記機能性PNAモノマ
ーユニットを用いる方法とは異なるアプローチとして、下記の前駆体的PNAモノマーユ
ニットを利用することによって、ポスト合成的に機能性分子をPNAオリゴマーに導入す
る方法が報告されている(Oliver Seitz;Tetrahedron Let
ters 1999,40,4161−4164.)。
【0028】
【化10】

【0029】
当該方法は、前記前駆体的PNAモノマーユニットをPNAオリゴマーに導入した後、
さらに機能性分子を導入することによって機能性PNAを合成するものである。
【0030】
しかし、当該方法においては、導入できる機能性分子の種類が限定される等の欠点があ
る。
【0031】
例えば、下図に示すように、市販されている光機能性分子のsuccinimideエ
ステルを導入することはできず、導入するためにはFmoc−Gly等のリンカーをまず
導入する必要があるが、結果として上記化合物は使用しにくいものになっている。
【0032】
【化11】

【0033】
ところが、本発明者らは、前駆体的PNAモノマーユニットの構造を最適化することに
よって、驚くべきことに、従来法における前記課題を克服し、コストパフォーマンスに優
れ、かつ機能性分子を超高速に導入することができる、極めて広範にわたる機能性PNA
を合成できることを見出した。
【0034】
すなわち、保護基によって保護されたアデニン、グアニン、シトシンまたはチミンを有
するPNAモノマーユニットを、下図に示すFmoc−ω−アミノ酸−BocPNA−O
H(IV)と反応させてPNAオリゴマーを合成した後、該PNAオリゴマーに遊離カル
ボン酸を有する機能性分子をポスト合成的に導入することに成功した。
【0035】
【化12】

【0036】
(式中、nは1〜15までの整数を表す)
前記合成方法は、機能性分子を導入した後に、さらに別異の機能性分子の導入を行うこ
とができる。また、導入される機能性分子が、、光応答性機能分子、膜透過性機能分子、
臓器選択性機能分子、殺菌性機能分子、分子破壊性機能分子、癒着性機能性分子、或いは
分子認識性機能分子から選択されることを特徴とする。
【0037】
また、導入する機能性分子として市販のsuccinimideエステルを使用する必
要がなく、カルボン酸を有する化合物であれば問題なく利用でき且つ定量的に導入できる
ので、前記合成方法はコストパフォーマンスに極めて優れている。
【0038】
さらに、前記前駆体的PNAモノマーユニットを機能性PNAオリゴマーに導入した後
にレジンを分割することにより、それぞれのレジンに異なった機能性分子を導入すること
ができるので、極めて高速な機能性PNAオリゴマーの合成手法を開発することが可能と
なる。
【0039】
この方法によって効率的な合成が可能になる機能性PNAオリゴマーの例として、下記
一般式(V)
【0040】
【化13】

【0041】
(式中、Bは、互いに独立し、同一または異なって、アデニン、グアニン、シトシンまた
はチミンであり、Rは、互いに独立し、同一または異なって、Fmoc基または機能性カ
ルボン酸誘導体であり、Rは、水素原子または機能性カルボン酸誘導体であり、a〜h
は0〜10の整数であり、x1〜x3、y1、y2およびz1〜z5はいずれも0以上の整数であり、x1+x2+x3≧0であり、y1+y2>0であり、z1+z2+z3+z4+z5≧0である。ただし、x1+x2+x3およびz1+z2+z3+z4+z5が同時に0であることはなく、x1+x2+x3=0の場合、Rは機能性カルボン酸誘導体である。)で表される化合物において、z1+z2+z3+z4+z5=0であり、Rが水素原子である化合物を挙げることができる。
【0042】
ところで、細胞中に導入するためのに蛍光プローブとして、これまでDNAオリゴマー
・RNAオリゴマー・PNAオリゴマーが利用されているが、これらを細胞中に導入する
ためには、当然ながら細胞膜を通過させなければならない。しかし、細胞膜は膜表面が負
電荷を帯びているため、元々負に帯電しているDNA/RNAオリゴマーを導入するのは
非常に困難である。
【0043】
一方PNAオリゴマーは電気的に中性であるが、膜透過しにくいという結果が得られて
いる。したがって、PNAオリゴマーを細胞内に導入するに際しては、膜表面を前処理し
てその導入をしやすくしたり、あるいはトランスフェクション試薬を用いて導入せざるを
得ないのが現状である。
【0044】
しかし、そのような処理を施してPNAオリゴマーを導入した場合においてプローブの
機能が発揮されたとしても、本来生体が示す挙動を正確に表現していることは必ずしも保
証されない。しかも、これは細胞1個の場合であり、多細胞(個体)での利用に至っては
到底不可能である。
【0045】
このような現状および観点から、膜透過性機能を有する蛍光PNAプローブの開発が有
用であると考えられている。
【0046】
なお、膜透過性機能を有する蛍光PNAプローブは既に存在する。例えば、(1)膜透過性機能を有するオリゴペプチドをPNAに結合させたもの、(2)膜透過性機能を有するリン脂質をPNAに結合させたものが挙げられる。しかしながら、これらは膜透過した後細胞内においてプロテアーゼ等の酵素によりPNA以外の部分が分解され、細胞内に滞留してしまうことが予想される。このことは、ターゲットを捕捉出来なかった過剰なPNAプローブが膜透過性機能を失い、その後の洗浄過程で細胞外に出にくくなることにつながるため、本来細胞が持っている遺伝子発現系を正確に表現できないことを意味する。
【0047】
ところが、本発明者らは、Fmoc−ω−アミノ酸−BocPNA−OHを含有した前
駆体的PNAオリゴマーを用いて、膜透過性機能を有するアミノ酸誘導体をポスト合成的
に導入することにより、煩雑な前処理・後処理を含まない、すなわち生きた細胞をそのま
ま用いて遺伝子発現系を正確に分析できる新規蛍光PNAプローブの設計に成功した。
【0048】
しかし、この前駆体的PNAオリゴマーはFmoc−ω−アミノ酸−BocPNA−O
Hのみが有効であるわけでなく、必須アミノ酸であるリジン誘導体でもその役割を代行す
ることが可能で、扱いやすさ・入手のしやすさを考慮に入れた新規蛍光PNAプローブの
設計が今後必要になってくると予想される。
【0049】
したがって、本発明は、コストパフォーマンスに優れ、かつ機能性分子を超高速に導入
することができる、機能性PNAの新規合成方法およびそれに用いる化合物、ならびに新
規機能性PNAを提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0050】
上記課題に鑑み研究を重ねた結果、本発明者らは、前駆体的PNAモノマーユニットの
構造を最適化することによって、驚くべきことに、従来法における前記課題が克服され、
かつ極めて広範にわたる機能性PNAを合成できることを見出し、以下のような本発明を
完成するに至った。
【0051】
(1).機能性PNAオリゴマーを製造する方法であって、保護基によって保護された
アデニン、グアニン、シトシンまたはチミンを有するPNAモノマーユニットを、一般式
(I)によるBoc−リジン(Fmoc)−OH(尚、Fmocとは9−Fluoren
ylmethoxycarbonylを示す。)、或いは下記の一般式(II)によるF
moc−リジン(Alloc)−OH(尚、Fmocとは9−Fluorenylmet
hoxycarbonyl、BocとはtButoxycarbonyl、Allocと
はAllyloxycarbonylを示す。)と反応させてPNAオリゴマーを合成し
た後、該PNAオリゴマーに遊離カルボン酸を有する機能性分子を導入し、さらに前記保
護基の脱保護を行うことを含む、前記方法。
【0052】
(2).機能性PNAオリゴマーを製造する方法は、機能性分子を導入した後に、さら
に別異の機能性分子の導入を行うことを特徴とする前記(1)の方法。
【0053】
(3).導入される機能性分子が、光応答性機能分子、膜透過性機能分子、臓器選択性
機能分子、殺菌性機能分子、分子破壊性機能分子、癒着性機能性分子、或いは分子認識性
機能分子から選択されることを特徴とする前記(1)の方法。
【0054】
(4).導入される機能性分子が、光機能性分子および膜透過性機能分子を含むことを
特徴とする前記(2)、(3)の方法。
【0055】
(5).光機能性分子が、下記のCy3、Cy5、Bodipy、pyrene、na
phthalimide、naphthaldiimide、FAM、FITC、ROX
、TAMRAまたはDabcylであり、膜透過性機能分子が水溶性アミノ酸誘導体であ
ることを特徴とする前記(4)の方法。
【0056】
【化14】

【0057】
【化15】

【0058】
【化16】

【0059】
【化17】

【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
【化20】

【0063】
【化21】

【0064】
【化22】

【0065】
【化23】

【0066】
(6).アデニン、グアニン、シトシンまたはチミンを保護する保護基が、ベンジルオ
キシカルボニル基(Z基)であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかの方法

【0067】
(7).PNAオリゴマーの合成が、Boc法用及びFmoc法用固相担体を用いたP
NA鎖における縮合・伸長を含むことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかの方法

【0068】
(8).Boc法用固相担体が固相Boc法でペプチド合成に使用するmethylb
enzhydrylamine樹脂(MBHA)であることを特徴とする、前記(1)〜
(7)のいずれかに記載の方法。
【0069】
(9).Fmoc法用固相担体がMBHA、ポリスチレンをクロロメチル化した樹脂(
Merrifield樹脂)、4−ヒドロキシベンジルアルコールで修飾したMerri
field樹脂(Wang樹脂)、Boc−アミノ酸−リンカーを結合させたアミノメチ
ル樹脂(PAM樹脂)、N−Fmoc−N−メトキシ−リンカーを結合させたアミノメチ
ル樹脂(Weinreb樹脂)、ポリスチレンにp−ニトロベンゾフェノンオキシムを結
合させた樹脂(Oxime樹脂)、ポリスチレンを利用してトリチル化した樹脂(Tri
tyl樹脂)であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
【0070】
(10).遊離カルボン酸を有する機能性分子の導入が、Boc法におけるFmoc基
をピペリジン処理によって或いはFmoc法におけるAlloc基を亜鉛酢酸溶液処理に
よって、選択的に脱保護して得られた1級アミノ基との脱水縮合によって行われることを
特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
【0071】
(11).下記a)〜d):
a)Boc−リジン(Fmoc)−OHをPNAオリゴマー中に導入する工程において
、PNAモノマーユニットを、Boc−リジン(Fmoc)−OHと反応させてPNAオ
リゴマーを製造すること;
b)前記PNAオリゴマーから機能性PNAオリゴマーを製造する工程において、PN
Aオリゴマーへの機能性分子の導入が、Fmoc基をピペリジン処理によって選択的に脱
保護して得られた1級アミノ基との脱水縮合によって行われること、の1または2以上を
含むこと;
c)Fmoc−リジン(Alloc)−OHをPNAオリゴマー中に導入する工程にお
いて、PNAモノマーユニットを、Fmoc−リジン(Alloc)−OHと反応させて
PNAオリゴマーを製造すること;および
d)前記PNAオリゴマーから機能性PNAオリゴマーを製造する工程において、PN
Aオリゴマーへの機能性分子の導入が、Alloc基を亜鉛酢酸溶液処理によって選択的
に脱保護して得られた1級アミノ基との脱水縮合によって行われること、の1または2以
上を含むことを特徴とする前記(2)記載の方法。
【0072】
(12).下記一般式(III)
【0073】
【化24】

【0074】
(式中、Bは、互いに独立し、同一または異なって、アデニン、グアニン、シトシンまた
はチミンであり、Rは、互いに独立し、同一または異なって、Fmoc基または機能性カ
ルボン酸誘導体であり、Rは、水素原子または機能性カルボン酸誘導体であり、R
、水素原子、アミノ基、水酸基、チオール基を含む誘導体または機能性カルボン酸誘導体
であり、a〜fは0〜∞の整数であり、x1〜x3、y1、y2およびz1〜z6はいずれも0以上の整数であり、x1+x2+x3≧0であり、y1+y2>0であり、z1+z2+z3+z4+z5≧0である。ただし、x1+x2+x3およびz1+z2+z3+z4+z5が同時に0であることはなく、x1+x2+x3=0の場合、Rは機能性カルボン酸誘導体である。)で表される化合物。
【0075】
(13).x1+x2+x3=3であり、y1+y2=15であることを特徴とする、
前記(12)記載の化合物。
【0076】
(14).x1=3であり、y1=15であることを特徴とする、前記(13)記載の
化合物。
【0077】
(15).RまたはRが細胞膜透過性機能分子誘導体であることを特徴とする、前記
(14)記載の化合物。
【0078】
(16).Rが機能性カルボン酸誘導体であることを特徴とする、前記(15)記載
の化合物。
【0079】
(17).x1=z1=1であることを特徴とする、前記(15)または(16)記載の化合物。
【0080】
(18).y1≧2であり、z2=1であることを特徴とする、前記(15)〜(17)のいずれかに記載の化合物。
【0081】
(19).a≦6であり、b≦4であり、f≦6であることを特徴とする、前記(15
)〜(18)のいずれかに記載の化合物。
【0082】
(20).Rが光機能性カルボン酸誘導体であることを特徴とする、前記(15)〜
(19)のいずれかに記載の化合物。
【0083】
本発明は、Boc−リジン(Fmoc)−OH或いはFmoc−リジン(Alloc)
−OHをPNAオリゴマーに導入した後、機能性分子をポスト合成的に導入することによ
り、ほぼ定量的に光機能性PNAオリゴマーを合成できることに成功したものである。
【0084】
尚、Fmoc、Boc、Allocの各趣旨については、証拠を説明する前記(1)に
おいて示した通りである。
【0085】
上記特徴により、本発明の製造方法においては、導入する機能性分子として市販のsu
ccinimideエステルを使用する必要がなく、カルボン酸を有する化合物であれば
問題なく利用でき且つ定量的に導入できる。そのため、本発明による製造方法はコストパ
フォーマンスに極めて優れている。
【0086】
また、前記前駆体的PNAモノマーユニットを機能性PNAオリゴマーに導入した後に
レジンを分割することにより、それぞれのレジンに異なった機能性分子を導入することが
できる。したがって、本発明による製造方法によれば、極めて高速な機能性PNAオリゴ
マーの合成手法を開発することが可能となる。
【0087】
本発明の方法によって効率的な合成が可能になる機能性PNAオリゴマーの例として、
下記一般式(III)
【0088】
【化25】

【0089】
(式中、Bは、互いに独立し、同一または異なって、アデニン、グアニン、シトシンまた
はチミンであり、Rは、互いに独立し、同一または異なって、Fmoc基または機能性カ
ルボン酸誘導体であり、Rは、水素原子または機能性カルボン酸誘導体であり、R
、水素原子、アミノ基、水酸基、チオール基を含む誘導体または機能性カルボン酸誘導体
であり、a〜fは0〜∞の整数であり、x1〜x3、y1、y2およびz1〜z6はいずれも0以上の整数であり、x1+x2+x3≧0であり、y1+y2>0であり、z1+z2+z3+z4+z5≧0である。ただし、x1+x2+x3およびz1+z2+z3+z4+z5が同時に0であることはなく、x1+x2+x3=0の場合、Rは機能性カルボン酸誘導体である。)で表される化合物において、z1+z2+z3+z4+z5=0であり、Rが水素原子である化合物を挙げることができる。
【0090】
本発明によれば、前記一般式(I)で表される化合物において同一または異なる機能性
分子を、任意の複数の位置に導入することも可能となる。すなわち、前記前駆体的PNA
モノマーユニットsを用いてPNAオリゴマーを導入した後、ピペリジン処理或いは亜鉛
酢酸溶液処理のいずれかと機能性分子のポスト合成的導入を一括して行うことによるもの
であるが、これはPNAオリゴマーの細胞膜透過機能を向上させるアンテナペデイアを高
速に設計する上で、欠かせないものである。この点においても、本発明による方法は極め
て優れたものである。
【0091】
このように製造される化合物の例として、前記一般式(I)において、z1+z2+z3+z4+z5>0であり、Rが細胞膜透過性分子誘導体であり、Rが機能性カルボン酸誘導体であるものが挙げられる。
【0092】
このプローブは大きく蛍光標識領域・細胞膜透過性機能領域・分子認識領域の3つに分
けることができ、それぞれをリンカー部位(z1〜z5の添字付きで表される部分)を介して結合させた形をしている。
【0093】
蛍光標識化合物は市販のものも、既に本発明者らがPCT出願を行った新規蛍光標識化
PNAモノマーユニットも用いることができる。
【0094】
分子認識部位は市販のPNAユニットを用いて合成する。このものの特徴は、機能性分
子をポスト合成的に導入するために前駆体ユニットとしてBoc−リジン(Fmoc)−
OH或いはFmoc−リジン(Alloc)−OHを膜透過性機能領域部に用いているこ
とである。該前駆体ユニットは市販されており、これを複数個並べて導入した後、前記し
たように同一機能性分子を一括導入できることを特徴としている。
【0095】
したがって、本発明によれば、光機能性分子に限定されることない、多種多様な機能性
分子を、PNA中に容易かつ極めて効率的に導入することができるようになる。
【0096】
このような機能性分子として、Cy3型、Cy5型、Bodipy型、Naphtha
limide型、Naphthaldiimide型、Flavin型、Dabcyl型
、Biotin型、FAM型、Rhodamine型、TAMRA型、ROX型、HAB
A型、Pyrene型、Coumarine型等の光機能性モノマーユニット、膜透過性
機能分子、臓器選択性機能分子、殺菌性機能分子、分子破壊性機能分子、癒着性機能性分
子、或いは分子認識性機能分子等が挙げられる。
【0097】
すなわち、本発明における「機能性」の語は、光機能性のみならず、膜透過性、臓器選
択性、殺菌性、分子破壊性、癒着性、或いは分子認識性等を含む、ある特定の修飾を行う
ことによって化合物に新たに付与される種々の機能の全てを意味するものである。
【0098】
さらに、本発明における「機能性PNA」の語は、PNAモノマー同士が2−(N−ア
ミノエチル)グリシン骨格によって直接結合したもののみならず、その間にリンカーとし
ての炭化水素鎖と機能性分子を導入する前駆体的なリジン骨格等を含むものも意味するも
のである。
【0099】
ここで、本発明による方法の特徴を更に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0100】
本発明によるオリゴPNAを合成するルートは、典型的には、下図
【0101】
【化26】

【0102】
【化27】

【0103】
に示すとおりである。
【0104】
尚、MBHAは、固相Bocでペプチド合成に使用するmethylbenzhydr
ylamine樹脂のことであり、Wangは、4−ヒドロキシベンジルアルコールで修
飾したMerrifield樹脂のことである。
【0105】
次に、[化26]に関わる製造工程のうち、下図
【0106】
【化28】

【0107】
に示すように、Boc−リジン(Fmoc)−OHを用いて、オリゴマーIaを合成する
。具的には、Z基(N−ベンジルオキシカルボニル基)等で保護されたアデニン、グアニ
ン、シトシンまたはチミンを有するPNAモノマーユニットを、前駆体的PNAモノマー
ユニットと反応させ、Boc法用固相担体を用いてPNA鎖を逐次縮合・伸長せしめる。
【0108】
PNA鎖の縮合においては、予めBoc基を脱離しておく必要があるが、その方法に制
限はなく、一般的な方法が用いられる。それに続く縮合には、HATU、HBTUおよび
BOP等の一般的な縮合剤が用いられる。
【0109】
また、固相担体に関しては、Boc法用のものであれば特に制限はないが、特にMBH
Aが好適に用いられる。
【0110】
次に、[化26]に関わる製造工程のうち、下図
【0111】
【化29】

【0112】
に示すように、ピペリジン処理によってFmoc基を選択的に脱保護してアミノ基とし、
Ibを得て、さらに、下図
【0113】
【化30】

【0114】
に示すように、該Ibの前記アミノ基に遊離カルボン酸を有する機能性分子を脱水縮合し
てIcを得る。
【0115】
前記カルボン酸として特に制限はないが、反応性の点においては脂肪族カルボン酸が芳
香族カルボン酸を上回るため、脂肪族カルボン酸を用いると製造の効率が高く好ましい。
【0116】
また、ピペリジン処理によるFmoc基の脱保護は、ある程度の時間をかけることによ
って好適に行われる。特に、20〜40分が好適であり、最も好適には30分であった。
【0117】
縮合剤の種類に特に制限はなく、前記PNA鎖の縮合と同様に、HATU、HBTUお
よびBOP等の一般的な縮合剤が用いられる。
【0118】
なお、機能性分子の導入は、Boc−リジン(Fmoc)−OHを縮合した後、直ちに
行ってもよく、あるいは、Boc−リジン(Fmoc)−OHを含む全てのPNAモノマ
ーユニットを逐次縮合した後に行ってもよい。
【0119】
最後に、[化26]に関わる製造工程のうち、下図
【0120】
【化31】

【0121】
に示すように、担体レジンからの切り出しとZ基の脱保護を同時に行うことによって、目
的とするPNAオリゴマーIdを得る。
【0122】
切り出しおよび脱保護は、Fmoc基の脱保護の後に行われる限りにおいてはその条件
に特に制限はない。例えば、TFA/TFMSA/p−Cresol/Thioanis
ole=60/25/10/10のような一般的な条件において好適に行われる。
【0123】
次に、[化27]に関わる製造工程のうち、下図
【0124】
【化32】

【0125】
に示すように、Fmoc−リジン(Alloc)−OHを用いて、オリゴマーIIaを合
成する。具的には、Boc基等で保護されたアデニン、グアニン、シトシンまたはチミン
を有するPNAモノマーユニットを、前駆体的PNAモノマーユニットと反応させ、Fm
oc法用固相担体を用いてPNA鎖を逐次縮合・伸長せしめる。
【0126】
PNA鎖の縮合においては、予めFmoc基を脱離しておく必要があるが、その方法に
制限はなく、一般的な方法が用いられる。それに続く縮合には、HATU、HBTUおよ
びBOP等の一般的な縮合剤が用いられる。
【0127】
また、固相担体に関しては、Fmoc法用のものであれば特に制限はないが、特にWa
ngが好適に用いられる。
【0128】
次に、[化27]に関わる製造工程のうち、下図
【0129】
【化33】

【0130】
に示すように、亜鉛酢酸溶液処理によってFmoc基を選択的に脱保護してアミノ基とし
、IIbを得て、さらに、下図
【0131】
【化34】

【0132】
に示すように、該IIbの前記アミノ基に遊離カルボン酸を有する機能性分子を脱水縮合
してIIcを得る。
【0133】
前記カルボン酸として特に制限はないが、反応性の点においては脂肪族カルボン酸が芳
香族カルボン酸を上回るため、脂肪族カルボン酸を用いると製造の効率が高く好ましい。
【0134】
また、亜鉛酢酸溶液処理によるAlloc基の脱保護は、ある程度の時間をかけること
によって好適に行われる。10分〜1時間が好適であった。
【0135】
縮合剤の種類に特に制限はなく、前記PNA鎖の縮合と同様に、HATU、HBTUお
よびBOP等の一般的な縮合剤が用いられる。
【0136】
なお、機能性分子の導入は、Fmoc−リジン(Alloc)−OHを縮合した後、直
ちに行ってもよく、あるいは、Fmoc−リジン(Alloc)−OHを含む全てのPN
Aモノマーユニットを逐次縮合した後に行ってもよい。
【0137】
最後に、[化27]に関わる製造工程のうち、下図
【0138】
【化35】

【0139】
に示すように、担体レジンからの切り出しとBoc基の脱保護を同時に行うことによって
、目的とするPNAオリゴマーIIdを得る。
【0140】
切り出しおよび脱保護は、Fmoc基の脱保護の後に行われる限りにおいてはその条件
に特に制限はない。例えば、TFA/p−Cresol=95/5のような一般的な条件
において好適に行われる。
【0141】
上記のように、本発明による方法においては、従来の機能性モノマー合成に用いる活性
エステル化の合成を要する方法とは異なり、機能性分子をそのまま利用できる。また一旦
IIaを合成した後に種々の機能性分子が導入可能であるため、従来困難であった高速か
つ多様な並列PNAプローブ合成が可能である。
【0142】
Boc−リジン(Fmoc)−OH或いはFmoc−リジン(Alloc)−OHとP
NA鎖を有する分子との反応を含む本発明による方法によれば、下記一般式(III)
【0143】
【化36】

【0144】
(式中、Bは、互いに独立し、同一または異なって、アデニン、グアニン、シトシンまた
はチミンであり、Rは、互いに独立し、同一または異なって、Fmoc基または機能性カ
ルボン酸誘導体であり、Rは、水素原子または機能性カルボン酸誘導体であり、R
、水素原子、アミノ基、水酸基、チオール基を含む誘導体または機能性カルボン酸誘導体
であり、a〜fは0〜∞の整数であり、x1〜x3、y1、y2およびz1〜z6はいずれも0以上の整数であり、x1+x2+x3≧0であり、y1+y2>0であり、z1+z2+z3+z4+z5≧0である。ただし、x1+x2+x3およびz1+z2+z3+z4+z5が同時に0であることはなく、x1+x2+x3=0の場合、Rは機能性カルボン酸誘導体である。)で表される化合物において、z1+z2+z3+z4+z5=0であり、Rが水素原子である化合物を挙げることができる。
【0145】
また、前記一般式(III)で表される化合物において、複数の機能性分子が導入され
たものとして、例えば、RまたはRが細胞膜透過性機能分子誘導体であるものが好適に
合成される。このような化合物は、典型的には、Rが細胞膜透過性機能分子誘導体等であ
り、Rが光機能性分子等の機能性カルボン酸誘導体等であるもの、すなわち、末端部を
含む複数部位に機能性分子が導入され、それらによって複数の機能が付与された化合物で
ある。このような化合物は、例えば下記のように模式化することができる。
【0146】
【化37】

【0147】
このような化合物は、例えば前記一般式(III)において、x1=z1=z2=1であり、かつy1≧2である化合物である。このような化合物は合成のしやすさおよび合成コストの面等において好適である。
【0148】
上記化合物において、a、bおよびfはそれぞれ0〜10の整数であれば特に限定され
ないが、例えばa≦6であり、b≦4であり、f≦6であるものであっても、合成上およ
び実用上のいずれにおいても支障はない。
【0149】
リンカー部位を導入することによって、個々の機能性部位および塩基配列認識領域の干
渉を防ぎ、分子の機能をより確実なものにすることができる。本明細書におけるPNA、
PNAモノマーおよびPNAオリゴマーの語には、リンカー部位をその末端および/また
は内部に含むものも包含される。
【0150】
これらの部位または領域間の相互干渉を防そための部位としては、前記リンカー部位の
みならず、一般式(III)におけるf〜hを、所望に応じて選択することによっても可
能である。
【0151】
リンカー部位を構成する基としては、直鎖状または分枝状の炭化水素およびそれらのエ
ーテル体等が挙げられるが、直鎖状炭化水素基は導入の容易さおよびコストなどの面から
好適であり、特に炭素数1〜6の直鎖状炭化水素基が好適である。また、エーテル体は、
その汎用性において好適である。
【0152】
前記複数の機能性分子が導入された化合物は、例えばKoch,T.;Hansen,
H.F.;Andersen,P.;Larsen,T.;Batz,H.G.;Ott
eson,K.;Orum,H.J.Peptide Res.1997,49,8
0−88.を利用して好適に合成される。
【0153】
塩基配列認識部位は、市販の各種PNAモノマーを用いて固相合成によりオリゴマー化
することができる。リンカー部位には、市販のBoc−7−アミノヘプタン酸、Boc−
6−アミノカプロン酸等を用いることができる。
【0154】
一般式(III)の機能性分子として光機能性分子を導入すれば、蛍光標識することが
可能であり、かつ他の機能も有する化合物を合成することができる。このような蛍光標識
部位として、市販のCy3、Cy5、Bodipy、pyrene、naphthali
mide、naphthaldiimide、FAM、FITC、ROX、TAMRAま
たはDabcyl等の市販の活性エステル型蛍光標識化合物を用いて、多様な蛍光発光波
長を選択することが可能であるが、導入される蛍光標識化合物はこれらに限定されるもの
ではない。
【0155】
本発明の化合物に導入し得る他の機能性の例としては、膜透過性機能が挙げられる。こ
のような膜透過性機能部位は、前回特許前記一般式(III)で表される化合物を用いる
ことにより、同様に導入することができる。膜透過性を向上させることができる機能性分
子としてアルギニンが挙げられるが、リシンおよびセリン等の他の水溶性アミノ酸も好適
に用いることができる。
【0156】
また、Boc−リジン(Fmoc)−OH或いはFmoc−リジン(Alloc)−O
Hを利用することによって、複数個のアミノ酸を導入することも可能である。その合成例
は実施例1に示した。しかしながら、上記化合物は本発明による膜透過性機能を有する蛍
光PNAプローブのモデル化合物であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0157】
これらのプローブの特徴は、「全てPNA型になっているので、完全な酵素耐性を有す
ること」である。すなわち、これまでの膜透過性機能を有するプローブは、PNAと膜透
過性機能を有するペプチド鎖あるいはリン脂質を共有結合させたものが主流であったが、
これらの既知のプローブは優れた膜透過性機能を有するものの、一旦細胞内に入ると酵素
群によりペプチド鎖あるいはリン脂質が分解されることが予想される。したがって、これ
らは、ターゲットを認識していない分解を受けたプローブを洗浄過程で完全に取り除くこ
とができないという欠点を有する。
【0158】
これに対して、今回設計したプローブは、細胞内においても酵素分解を受けないため、
ターゲットを認識していないプローブは洗浄過程で完全に取り除かれるため、正確な遺伝
子発現量の定量を可能とするものである。
【0159】
なお、これらの機能性を有する化合物以外にも、ラクトースやトリスエックス等の臓器
選択機能性分子、タナチンやセクロピン等の殺菌機能性分子およびビオローゲン等の分子
認識機能性分子、N−メチルヒドロキサム酸等の分子破壊性機能分子等も本発明によれば
制限なく導入することが可能であり、そのような化合物を、大量に低コストで実用に供す
ることが可能になる。
【実施例】
【0160】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限られ
るものではない。
(実施例1)膜透過性機能を有する蛍光PNAプローブの合成
【0161】
【化38】

【0162】
標準的Boc法(cf.Koch,T.;Hansen,H.F.;Andersen
,P.;Larsen,T.;Batz,H.G.;Otteson,K.;Oru
m,H.J.Peptide Res.1997,49,80−88.)に従い、まず、
固相担体MBHA(50mg)にチミンPNAモノマーユニット(7.7mg、20mm
ol)、縮合剤HBTU(7.6mg、20mmol)とDIEA(3.5mL、20m
L)を用いて逐次伸長反応を行った(塩基配列認識領域の設計)。
【0163】
次いで、リンカー用ω−アミノ酸−Boc−7−aminoheptanoic Ac
id(5.2mg、20mmol)、Fmoc−Ahx−BocPNA−OH(10.0
mg、20mmol)と再度Boc−7−aminoheptanoic Acidを、
縮合剤HBTU(7.6mg、20mmol)とDIEA(3.5mg、20mmol)
を用いて順次縮合させた(リンカー部位と膜透過性機能領域の設計)。
【0164】
全てのユニットを逐次縮合した後、ピペリジン処理(20%piperidine i
n DMF、室温3分)してFmoc基を脱保護した。次いで、機能性カルボン酸誘導体
として天然型Fmoc−Arg(Mts)−OH(23.1mg、40mmol)を縮合
剤HBTU(15.2mg、40mmol)とDIEA(7.0mL、40mmol)を
用いて縮合し目的の位置に機能性分子を導入した(膜透過性機能の導入)。
【0165】
これをピペリジン処理(20%piperidine in DMF、室温3分)して
Fmoc基を脱保護した後、再度天然型Fmoc−Arg(Mts)−OH(23.1m
g、40mmol)を縮合剤HBTU(15.2mg、40mmol)とDIEA(7.
0mL、40mmol)を用いて縮合し目的の位置に機能性分子を導入した。これをもう
一度繰り返した(膜透過性機能の追加導入)。
【0166】
TFA処理(95%TFA/5%m−cresol)によりBoc基を脱保護した後、
FITC(9.3mg、25mg)をDIEA(17.4mg、100mmol)存在下
、室温で12時間攪拌し蛍光標識化した(蛍光標識部位の設計)。
【0167】
最後にピペリジン処理(2哨piperidinein D肝、室温3分)して残るF
moc基を脱保護した後、常法(TFA/TFMSA/p−cresol/thioan
isol=60/25/10/10)により固相担体からの切り出しを行い、後処理して
、目的物を得た。MALDI−TOF MS:calcd.6373.0231(M+H
).
【0168】
(実施例2)膜透過性機能を有する蛍光PNAプローブの合成
【0169】
【化39】

【0170】
標準的Boc法(cf.Koch,T.;Hansen,H.F.;Andersen
,P.;Larsen,T.;Batz,H.G.;Otteson,K.;Oru
m,H.J.Peptide Res.1997,49,80−88.)に従い、まず、
固相担体MBHA(50mg)にチミンPNAモノマーユニット(7.7mg、20mm
ol)、縮合剤HBTU(7.6mg、20mmol)とDIEA(3.5mL、20m
L)を用いて逐次伸長反応を行った(塩基配列認識領域の設計)。
【0171】
次いで、リンカー用ω−アミノ酸−Boc−7−aminoheptanoic Ac
id(5.2mg、20mmol)、Fmoc−Ahx−BocPNA−OH(10.0
mg、20mmol)と再度Boc−7−aminoheptanoic Acidを、
縮合剤HBTU(7.6mg、20mmol)とDIEA(3.5mg、20mmol)
を用いて順次縮合させた(リンカー部位と膜透過性機能領域の設計)。
【0172】
全てのユニットを逐次縮合した後、ピペリジン処理(20%piperidine i
n DMF、室温3分)してFmoc基を脱保護した。次いで、機能性カルボン酸誘導体
として非天然型Fmoc−Arg(Mts)−OH(23.1mg、40mmol)を縮
合剤HBTU(15.2mg、40mmol)とDIEA(7.0mL、40mmol)
を用いて縮合し目的の位置に機能性分子を導入した(膜透過性機能の導入)。
【0173】
これをピペリジン処理(20%piperidine in DMF、室温3分)して
Fmoc基を脱保護した後、再度非天然型Fmoc−Arg(Mts)−OH(23.1
mg、40mmol)を縮合剤HBTU(15.2mg、40mmol)とDIEA(7
.0mL、40mmol)を用いて縮合し目的の位置に機能性分子を導入した。これをも
う一度繰り返した(膜透過性機能の追加導入)。
【0174】
TFA処理(95%TFA/5%m−cresol)によりBoc基を脱保護した後、
FITC(9.3mg、25mg)をDIEA(17.4mg、100mmol)存在下
、室温で12時間攪拌し蛍光標識化した(蛍光標識部位の設計)。
【0175】
最後にピペリジン処理(2哨piperidinein D肝、室温3分)して残るF
moc基を脱保護した後、常法(TFA/TFMSA/p−cresol/thioan
isol=60/25/10/10)により固相担体からの切り出しを行い、後処理して
、目的物を得た。MALDI−TOF MS:calcd.6373.0231(M+H
).
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明によれば、光機能性分子に限定されることない多種多様な機能性分子を、PNA
中に容易かつ効率的に導入することができ、遺伝子治療などに用いられる種々のPNAの
構築が可能になるので、本発明は、広範な医療産業分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】図1は、DNAとPNAの構造および荷電の状況の違いを表す図である。
【図2】図2は、2種類のPNAモノマーユニットの構造を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(III)
【化3】

(式中、Bは、互いに独立し、同一または異なって、アデニン、グアニン、シトシンまた
はチミンであり、Rは、互いに独立し、同一または異なって、Fmoc基または機能性カ
ルボン酸誘導体であり、Rは、水素原子または機能性カルボン酸誘導体であり、R
、水素原子、アミノ基、水酸基、チオール基を含む誘導体または機能性カルボン酸誘導体
であり、a〜fは0〜∞の整数であり、x1〜x3、y1、y2およびz1〜z6はいずれも0以上の整数であり、x1+x2+x3≧0であり、y1+y2>0であり、z1+z2+z3+z4+z5≧0である。ただし、x1+x2+x3およびz1+z2+z3+z4+z5が同時に0であることはなく、x1+x2+x3=0の場合、Rは機能性カルボン酸誘導体である。)で表される化合物。
【請求項2】
x1+x2+x3=3であり、y1+y2=15であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
x1=3であり、y1=15であることを特徴とする、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
RまたはRが細胞膜透過性機能分子誘導体であることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
が機能性カルボン酸誘導体であることを特徴とする、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
x1=z1=1であることを特徴とする、請求項4または5に記載の化合物。
【請求項7】
y1≧2であり、z2=1であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに
記載の化合物。
【請求項8】
a≦6であり、b≦4であり、f≦6であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
が光機能性カルボン酸誘導体であることを特徴とする、請求項4〜8のいずれかに記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−204303(P2006−204303A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67965(P2006−67965)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【分割の表示】特願2005−505450(P2005−505450)の分割
【原出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(503280961)株式会社クレディアジャパン (10)
【Fターム(参考)】