説明

新規な石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂

【課題】 石油樹脂の特性を継承しつつ、未反応石油樹脂や低分子量樹脂の残存を極力低減した、耐ブロッキング性、インキにおけるミスチング良好な新規石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂の提供。
【解決手段】 シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物と、ロジンエステルを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジンとフェノール樹脂との反応生成物であるロジン変性フェノール樹脂は、その用途が広く、塗料や印刷インキ用のバインダー成分、又は接着剤成分として、或いはゴム・プラスチックの改質成分として従来から使用されている。特に、オフセット印刷インキ用樹脂としての性能が優れており、なお大量に使用されている。
【0003】
一方、石油分解留分を重合して得る石油樹脂は、サイズ剤、ゴム・プラスチックの改質成分、接着剤、さらには塗料或いは印刷インキのバインダー成分として利用されている。石油樹脂は、概して石油系溶媒への溶解性に富むうえ、カーボンブラックやその他の有機顔料に対する親和性が高いという利点を持つものの、概して分子量が低いために、ロジン変性フェノール樹脂ほどの汎用性を持たない。
こうした実情から、所望の物性を備えた新しい樹脂の開発を目指して、石油樹脂をロジン変性フェノール樹脂骨格へ導入、もしくはロジン変性フェノール樹脂に混合併用させる研究が続けられている。
【0004】
従来石油樹脂は、一般に、フェノール樹脂との反応性が不十分であるとされ、単純に石油樹脂をロジンとフェノール樹脂との反応系に添加するのみでは、石油樹脂をロジン変性フェノール樹脂骨格中に期待するほど導入できないばかりでなく、低反応性に起因して低分子量の樹脂が生成し、或いは生成物中に未反応石油樹脂が残存する憾みがあった。故にこの低分子量樹脂や未反応石油樹脂を含むロジン変性フェノール樹脂は、保存安定性に欠けるため、樹脂微粉末やこれを用いた製品でブロッキングを生じる虞があり、またこの樹脂をオフセット印刷インキのバインダー樹脂として用いる場合には、インキのミスチングを引き起こす心配があった。
【0005】
こうした不都合を解消する手段としては、石油樹脂を酸変性(不飽和カルボン酸又はその無水物を使用)して反応性を高め、これにフェノール樹脂(初期縮合物)を反応させて高分子量樹脂を取得する技術が提案されている(特許文献1及び同2参照)。また、上と同様に酸変性で反応性を高めた石油樹脂に、フェノール樹脂とロジンと多価アルコールを反応させること(特許文献3参照)や、フェノール樹脂とロジンエステルを反応させること(特許文献4参照)が提案されている。
【0006】
しかし、石油樹脂を酸変性することは、石油樹脂本来の特性を損うためか、上記の従来技術で得られる高分子量樹脂は、その一構成成分として石油樹脂を含んでいるにも拘わらず、石油樹脂由来の良好な顔料分散性や石油系溶媒への優れた溶解性を充分に継承していない。また、オフセット印刷インキのバインダーとして用いた場合には、その酸変性によってインキの乳化適性を損ねてしまう。
【特許文献1】特開昭55−60573号公報
【特許文献2】特開平11−21490号公報
【特許文献3】特公昭53−38113号公報
【特許文献4】特開平10−324727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる上記の欠点を完全に解消した、新規な石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、石油分解留分を重合させて得られる各種の石油樹脂の中にあって、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物を、カチオン重合させて得た石油樹脂は、これ以外の石油樹脂と比較して反応性が高く、酸変性を行なわなくてもフェノール樹脂(初期縮合物)と容易に反応することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)を酸変性することなく、ロジンエステル(B)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(C)との反応系に添加することで得ることができる。
【0009】
本発明の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、上記した3成分を、適当な溶媒の存在下又は無存在下に、140℃〜270℃の反応温度で反応させることにより容易に製造することができる。
反応に供せられる(A)成分と(B)成分との重量比は、9:1〜1:9の範囲で選ばれ、(C)成分の量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部当たり、20〜150重量部の範囲で選ばれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、その原料として使用する(A)成分が(C)成分との反応性に富むため、未反応原料成分をほとんど含まず、低分子量樹脂についても、これを最少量でしか含まない。これに加えて、本発明の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂には、(A)成分のシクロペンタジエン骨格が、そのまま持ち込まれるので、当該石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、カーボンブラックやその他の有機顔料に対する親和性が高く(顔料分散性に優れる)、石油系溶剤や植物油等に対する溶解性や分散性も高い。従って、本発明の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、オフセット印刷インキ用樹脂としての適性を備えているばかりでなく、これ以外の各種の用途にも幅広く使用できる汎用性を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る新規樹脂を取得するための製造原料の一つである(A)成分は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させることで取得することができ、この石油樹脂を、以下、カチオン重合DCPD石油樹脂と呼ぶ。
ここで「シクロペンタジエン系炭化水素」とは、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、これらのアルキル置換誘導体(例えば、メチルシクロペンタジエン)及びこれらの2量体(これには、例えば、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエンなどの共2量化物が含まれる)、3量体(例えば、トリシクロペンタジエン)などの多量体を指す。
【0012】
カチオン重合に供する炭化水素混合物は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有していることが、(A)成分を得るための要件であり、好ましくはシクロペンタジエン系炭化水素を50〜90重量%含有する。残余の炭化水素としては、石油分解留分に通常含まれる沸点範囲−10℃〜100℃の共役二重結合炭化水素(C5留分)、沸点範囲120℃〜260℃の芳香族不飽和炭化水素(C9留分)などを例示できる。
【0013】
上記炭化水素混合物のカチオン重合は、フリーデルクラフト触媒の存在下に、常法とおり実施することができ、フリーデルクラフト触媒としては、三フッ化ホウ素又はそのコンプレックス、塩化アルミニウムなどを使用可能である。重合を温度−30℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃で、10分〜20時間、好ましくは1時間〜15時間行なわせることにより、所望のカチオン重合DCPD石油樹脂を得ることができる。
【0014】
本発明で使用するカチオン重合DCPD石油樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が800以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、Mw/Mnが2以上であることが好ましい。
【0015】
本発明で使用するカチオン重合DCPD石油樹脂は、上記した重合法で製造することができるが、これを市販品で賄うこともできる。本発明で使用可能な市販カチオン重合DCPD石油樹脂を、商品名で例示すると、トーホーハイレジン PA−140、トーホーハイレジン #110T、トーホーコーポレックス #2100(以上、東邦化学工業株式会社製)などを挙げることができる。
【0016】
本発明に係る新規樹脂の原料となる(B)成分は、ロジンエステルであり、ロジン類及び/又はロジン誘導体を、多価アルコールにてエステル化することによって得ることができる。そのエステル化は無触媒或いは公知のエステル化触媒存在下、200℃〜300℃の反応温度で行なわれ、ロジン類及び/又はロジン誘導体と、多価アルコールとの反応比は、反応生成物であるロジンエステルの酸価が5〜100になるように選ばれる。
【0017】
反応に供するロジン類としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンなどの未変性ロジンが使用できるほか、不均化ロジン、重合ロジン、水素化ロジンなどの変性ロジンも使用できる。また、ロジン誘導体としては、上記ロジン類に(無水)マレイン酸、フマル酸、アクリル酸などの不飽和カルボン酸を反応させた不飽和カルボン酸変性ロジンなどが使用できる。多価アルコールとしては、2価以上のアルコール性水酸基を有するものであればいずれも使用可能であって、具体的には、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールなどが例示できる。
そして、反応生成物であるロジンエステルの具体例としては、トール油ロジンエステルやガムロジンエステルを挙げることができ、とりわけ、ガムロジンとペンタエリスリトール及び/又はグリセリンとの反応生成物であるガムロジンエステルが好ましい。
【0018】
本発明の(B)成分は、上記の如く合成することもできるが、これを市販品で賄うこともできる。(B)成分として使用可能な市販ロジンエステルには、テスポールTA−14−068(日立化成ポリマー株式会社製)、EP1200(理化ファインテク株式会社製)などがある。
本発明の(B)成分は、単一種のロジンエステルであっても、また、ロジンエステルの混合物であっても差し支えないが、いずれのロジンエステルでも、その酸価は5〜100の範囲であることが好ましく、10〜50の範囲であることが特に好ましい。
【0019】
本発明に係る新規樹脂の原料となる(C)成分は、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物であって、以下、これをPF初期縮合物と呼ぶ。
この(C)成分は、文字通り、フェノール類とホルムアルデヒドを公知の方法及び公知の反応条件で反応させることによって得ることができる。一般的には、フェノール類とホルムアルデヒドをアルカリ性触媒(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなど)又は酸性触媒(硫酸、p−トルエンスルホン酸など)の存在下、無溶剤又は溶剤中で反応させ、得られた反応混合物を、必要に応じて、中和及び/又は水洗することで得ることができる。反応に際して、ホルムアルデヒド/フェノール類のモル比は、1.0〜3.0の範囲で選ばれる。
反応に供するフェノール類としては、石炭酸、クレゾール、アミルフェノール、ビスフェノールA、p−アルキル置換されているフェノール類などが何れも使用できるが、なかでも炭素数4〜12のp−アルキル置換されているフェノール類である、p−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ドデシルフェノールの使用が好ましい。
【0020】
進んで、上記の(A)、(B)、(C)3成分を反応させて、本発明に係る新規樹脂を取得する態様について説明する。
反応に供せられる(A)成分と(B)成分との重量比は、9:1〜1:9の範囲で選ばれ、(C)成分の量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量部当たり、20〜150重量部の範囲で選ばれる。
(A)成分の量が上記の範囲であれば、得られる高分子量の反応生成物に、求められる物性に応じて石油樹脂由来の特性を効果的に付与することができる。また、(C)成分の量が上記の範囲であれば、未反応原料成分や低分子量反応生成物を極力低減しながら、求められる分子量の樹脂を得ることができ、かつ、反応生成物のゲル化を招く虞がない。
【0021】
上記3成分は、140℃〜270℃、好ましくは150℃〜240℃の温度で1時間〜20時間反応させる。(C)成分であるPF初期縮合物が、溶液又は分散液として反応系に供給できる場合は、反応器内の(A)成分及び(B)成分を140℃〜270℃に保持しながら、これに溶液状又は分散液状の(C)成分を1時間〜20時間掛けて滴下する方法を採用することができる。反応温度を140℃〜270℃とすることで、上記3成分の重合反応を最も効率よく進行させることができ、かつ反応生成物の分解を心配する必要もない。
【0022】
反応時間は、反応に供する上記3成分の個々の反応性と、反応生成物である石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂の用途に応じて、1時間〜20時間の範囲内で選択され、反応生成物の重量平均分子量で言えば、その値が5,000〜250,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲になるように反応時間が調節される。重量平均分子量の推移の監視は、常法通り、反応過程での反応混合物のサンプリングと、その分子量測定で行なうことができる。
【0023】
本発明の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、トナーなどのバインダー樹脂として、或いはゴムやホットメルト接着剤のタッキファイアとして、或いはゴムやプラスチックの改質剤としても使用できる。印刷インキを例に取ると、本発明の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、オフセット印刷インキ、凸版印刷インキ、グラビア印刷インキ含む各種印刷インキの樹脂成分として使用することができる。この場合、本発明の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、他のロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの1種または2種以上と併用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例を提示して本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例及び比較例で示す「部」及び「%」は、重量部及び重量%を意味する。
ロジンエステルの製造例
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ガムロジン4000部を仕込んで200℃まで加熱し、これにペンタエリスリトール360部を添加した。次いで水酸化カルシウム4部を添加し、4時間かけて270〜280℃まで昇温してガムロジンのエステル化を行なった。フラスコ内容物の酸価が25〜30になった時点で、フラスコ内を10mmHgで1時間減圧して揮発成分を留去した後、反応物を取り出し冷却して固形樹脂3700部を得た。
この樹脂の酸価は25.2、重量平均分子量は1,390であった。
【0025】
レゾール型初期縮合物の製造例
攪拌機、還流冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、トルエン1500部、p−ノニルフェノール2200部、92%パラホルムアルデヒド652.2部からなる混合物を収めて52〜57℃に加熱し、これに48%水酸化ナトリウム水溶液50部を添加した。発熱反応で反応混合物は昇温するが、これを水浴及び湯浴にて75℃に保持しながら6時間反応させた。反応終了後、反応器に濃塩酸63部、水200部を加えて攪拌し、冷却後反応器を静置した。上澄み層を分液ロートで分離し、不揮発分65%のレゾール型初期縮合物4300部を得た。
【0026】
ノボラック型初期縮合物の製造例
攪拌機、還流冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、トルエン1690部、p−ドデシルフェノール2620部、92%パラホルムアルデヒド228.3部からなる混合物を収めて52〜57℃に加熱し、次いで70%p−トルエンスルホン酸水溶液3.6部を添加した。発熱反応で反応物は昇温するが、これを水浴及び湯浴にて85℃に保持しながら3時間反応させて冷却し、92%パラホルムアルデヒド335部を添加後、48%水酸化ナトリウム水溶液83.1部を添加した。反応物は発熱反応で再び昇温するが、水浴及び湯浴にてこれを75℃に保持して4時間反応を続けた。
反応終了後、反応器に濃塩酸102.5部、水200部を加えて攪拌し、冷却後静置した。上澄み層を分液ロートで分離し、不揮発分65%のノボラック型初期縮合物4810部を得た。
【0027】
下記の実施例及び比較例で得られた各樹脂の重量平均分子量、亜麻仁油ワニス粘度、ヘプタントレランス、及び色調は、それぞれ次の方法で測定した。
重量平均分子量:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリスチレン換算の分子量を測定する。装置名:東ソー株式会社製のHLC−8120、カラム:15cm2本組み、東ソー株式会社製のTSK gel スーパーHM−H×2、移動相:THF
亜麻仁油ワニス粘度:亜麻仁油と樹脂とを重量比65:35で混合し、220℃で30分加熱溶解したものを、落球粘度計で測定。測定粘度:25℃
ヘプタントレランス:樹脂2g/トルエン4g溶液を入れた100mlの三角フラスコにヘプタンを少量ずつ添加していき、下に敷いた新聞紙の文字が読めなくなるまでの添加ヘプタン量(ml)から、樹脂1gあたりの白濁に要するヘプタン量(ml)を算出する。値が高いものほど溶解性良好。
色調:作製した樹脂の50%トルエン溶液をガードナー比色計で測定。
【0028】
実施例1
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、(A)としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)800部を、(B)として上記の製造例で得たロジンエステル200部を、(C)として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液659部を仕込んで加熱し、6時間かけて200℃まで昇温させた。しかる後、フラスコ内を10mmHgで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1280部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は39,200、亜麻仁油ワニス粘度95ps、ヘプタントレランスは12.1ml/g、色調は13−14であった。
【0029】
実施例2
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーコーポレックス #2100、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約60重量%含有)500部を、(B)成分として実施例1と同様なロジンエステル500部を、(C)成分として実施例1と同様なレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液434部を仕込んで加熱し、6時間かけて200℃まで昇温させた。しかる後、フラスコ内を10mmHgで1時間減圧して揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1160部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は82,000、亜麻仁油ワニス粘度83ps、ヘプタントレランスは19.5ml/g、色調は10であった。
【0030】
実施例3
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分として実施例1と同様なカチオン重合DCPD石油樹脂200部を、(B)成分としてロジンエステル(商品名:テスポールTA−14−068、日立化成ポリマー株式会社製)800部を、(C)成分として実施例1と同様なレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液385部を仕込んで加熱し、6時間かけて220℃まで昇温させた。しかる後、フラスコ内を10mmHgで1時間減圧して揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1080部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は66,100、亜麻仁油ワニス粘度は110ps、ヘプタントレランスは9.7ml/g、色調は10−11であった。
【0031】
実施例4
実施例1と同様のフラスコに、(A)として実施例2で使用したカチオン重合DCPD石油樹脂を、別のカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン #110T、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約55重量%含有)に変更した以外は、実施例2とまったく同様の手法を繰り返して1120部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は55,300、亜麻仁油ワニス粘度64ps、ヘプタントレランスは10.2ml/g、色調は10であった。
【0032】
実施例5
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分として実施例4と同様なカチオン重合DCPD石油樹脂250部を、(B)成分としてロジンエステル(商品名:EP1200、理化ファインテク株式会社製)250部を、(C)成分として上記の製造例で得たノボラック型初期縮合物の65%トルエン溶液1154部を仕込んで加熱し、10時間かけて180℃まで昇温させた。しかる後、フラスコ内を10mmHgで1時間減圧して溶剤分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1120部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は53,500、亜麻仁油ワニス粘度62ps、ヘプタントレランスは50ml/g以上、色調は12−13であった。
【0033】
比較例1
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分として実施例1で使用したカチオン重合DCPD石油樹脂を、別のカチオン重合DCPD樹脂(サンプル名:SD−217R、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約30重量%含有)に代替させた以外は、実施例2とまったく同様にして固形樹脂1300部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は8,900、亜麻仁油ワニス粘度20ps、ヘプタントレランスは12.4ml/g、色調は12−13であった。
【0034】
比較例2
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分として実施例2で使用したカチオン重合DCPD石油樹脂を、熱重合DCPD石油樹脂(商品名:クィントン1325、日本ゼオン株式会社製)に変更した以外は、実施例2とまったく同様にして固形樹脂1100部を得た。樹脂中にはテトラヒドロフランに不溶なミクロゲルが存在していた。
この樹脂の重量平均分子量は14,500、亜麻仁油ワニス粘度は26ps、ヘプタントレランスは13.1ml/g、色調は11であった。
【0035】
比較例3
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分として実施例2で使用したカチオン重合DCPD石油樹脂を、C5系石油樹脂(商品名:マルカレッツT−100A、丸善石油化学株式会社製)に変更した以外は、実施例2とまったく同様にして固形樹脂1080部を得た。樹脂中にはテトラヒドロフランに不溶なミクロゲルが存在していた。
この樹脂の重量平均分子量は65,300、亜麻仁油ワニス粘度41ps、ヘプタントレランスは14.0ml/g、色調は10−11であった。
【0036】
比較例4
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分として実施例2で使用したカチオン重合DCPD石油樹脂を、C9系石油樹脂(商品名:日石ネオポリマー140、新日本石油化学株式会社製)に変更した以外は、実施例2とまったく同様にして固形樹脂1120部を得た。樹脂中にはテトラヒドロフランに不溶なミクロゲルが存在していた。
この樹脂の重量平均分子量は40,400、亜麻仁油ワニス粘度59ps、ヘプタントレランスは8.3ml/g、色調は10であった。
【0037】
比較例5
実施例1と同様のフラスコに、熱重合DCPD石油樹脂(商品名:クィントン1325、日本ゼオン株式会社製)500部と、無水マレイン酸20部を仕込み、230℃で6時間反応させ、酸変性石油樹脂510部を得た。
この酸変性石油樹脂500部と、上記製造例で得たロジンエステル500部と、上記製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液434部を、実施例1と同様のフラスコに仕込んで加熱し、6時間かけて200℃まで昇温させた。しかる後、フラスコ内を10mmHgで1時間減圧して揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1154部を得た。
この樹脂の重量平均分子量は78,500、亜麻仁油ワニス粘度98ps、ヘプタントレランスは5.8ml/g、色調は13−14であった。
【0038】
各実施例及び比較例で用いた石油樹脂の性状を表1に、各実施例及び比較例で得られた固形樹脂の性状を表2に示す。なお、ブロッキング試験は、各実施例、比較例で得られた固形樹脂を微粉砕し、140メッシュ金網ふるいにかけた樹脂微粉末を試料として、容器底から3〜5mm程度になるように充填し、その上から試料表面に均等に荷重がかかるよう金属板を被せて錘を載せ、温度60℃、荷重1kg/cmなる条件下で24時間放置した後の、樹脂微粉末同士のブロッキング状態を目視で観察した。評価は、◎:ブロッキングなし、○:指先で潰せば軽くほぐれる程度のブロッキング、△:一部ブロッキングが認められる、×:全体的にブロッキングが認められる。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
インキ用ゲルワニスの調製例
上記の実施例及び比較例で得られた固形樹脂のそれぞれを印刷インキ用樹脂に用い、樹脂成分だけが異なる複数種の印刷インキを次に示す方法で調製した。
攪拌機、水分離冷却器及び温度計付きセパラブルフラスコに、印刷インキ用樹脂43部、大豆油30部、非芳香族石油系溶剤(商品名:AF6号ソルベント、新日本石油株式会社製)30部を仕込み、窒素気流下220℃で1時間混合した後、135℃まで冷却し、次いでこれにゲル化剤であるアルミニウムキレート(商品名: ALCH、川研ファインケミカル株式会社製)をゲルワニス粘度が700〜900ps程度になるように0.05〜1.0部添加して160℃まで加熱して30分間保持することでインキ用ゲルワニス(実施例:G−1〜G−5、比較例:H−1〜H−5)を得た。
【0042】
印刷インキ(黄)の調製
上記のワニス調製例で得たそれぞれのインキ用ゲルワニス(実施例:G−1〜G−5、比較例:H−1〜H−5)と、黄色顔料(商品名:ジスアゾイエロー693、大日精化株式会社製)と、非芳香族石油系溶剤(商品名:AF6号ソルベント、新日本石油株式会社製)を用い、印刷インキのタック値が8.5±1.0、フロー値(60秒)が40±1.0になるように、各成分の使用量を下記の範囲に調整しながら配合した。次いで、配合物を3本ロールで練肉して印刷インキ(黄)(実施例:I−1〜I−5、比較例:J−1〜J−5)を得た。
タック値は、印刷インキ1.3mlをインコメーター(東洋精機株式会社製)のロールに展色して400rpmで回転させ、回転開始後1分後の値を測定した。また、フロー値は、インキ約2ccをスプレッドメーター(安田精機株式会社製)の試料穴に入れ、インキの上面を固定板の上面と同一になるようへらでかきとり、荷重板を落下させた後、同心円状に広がったインキの60秒後の直径値を読み取った。
インキ用ゲルワニス 70〜79部
顔料 12部
AF6号ソルベント 9〜18部
【0043】
印刷インキの性能試験
上記のようにして調製された各印刷インキ(黄)の乳化性、流動性、ミスチング、及びブロッキングを次の方法で評価した。結果を表3に示す。
乳化性:インキ25gをステンレス容器にはかりとり、リソトロニック(Novocontrol社製)を使用し、攪拌1200rpm、温度40℃、水の滴下量 2ml/分の条件で、乳化率、トルク変化量を測定した。トルク変化量は、最大トルク値から初期トルク値を差し引いた値をトルク変化量とした。乳化率、トルク変化量ともに数字が小さいものが好ましい。
流動性:インキ1.3mlをガラス板にのせ、70度に傾け、1日後の流れた距離を読み取った。顔料分散が高いワニスほどチキソ性がなくなり、より流動するので、流動距離が長いものほど顔料分散がよい。
ミスチング:インキ2.4ccをインコメーター(東洋精機株式会社製)のロール上に展色し、1200rpmで3分回転させ、ロールの下に置いたアート紙へのインキの飛散度合いを肉眼測定した。飛散が少ない順に◎○×の3段階評価とした。
光沢:インキ0.4mlをRIテスター(石川島産業機械株式会社製)にてアート紙に展色、十分乾燥した後、60°の反射率を光沢計(株式会社堀場製作所製)にて測定した。光沢は数値が大きいほど良好である。
【0044】
【表3】

【0045】
印刷インキ(墨)の調製
黄色顔料を黒色顔料(商品名: カーボンブラック#32、三菱化学株式会社製)に置き換えた以外は、印刷インキ(黄)の場合と同様なインキ用ゲルワニスと、非芳香族石油系溶剤を使用し、印刷インキ(黄)の場合と同様な条件で印刷インキ(墨)(実施例:K−1〜K−5、比較例:L−1〜L−5)を得た。但し、ワニス、顔料及び溶剤の使用量は下記の範囲で調整した。
インキ用ゲルワニス 70〜79部
顔料 18部
AF6号ソルベント 3〜12部
得られた各印刷インキ(墨)の乳化性、流動性、ミスチング、及びブロッキングを印刷インキ(黄)の場合と同様な方法で評価した。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜実施例5で得られた石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂は、いずれもブロッキング試験結果が良好で、色調も問題なく、石油系溶剤や植物油等に対して高い溶解性を有している。また、各樹脂を用いて調製された印刷インキ(黄)と印刷インキ(墨)は、ともに表3及び表4に示す通り印刷インキとして良好な性状を保持している(評価例1〜10)。しかし、石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂を得るのに使用した石油樹脂が、本発明で規定するカチオン重合DCPD石油樹脂以外の石油樹脂である場合には、ブロッキングが発生し(比較例1〜4)、保存安定性に不安を有したり、また、テトラヒドロフランに不溶なミクロゲルを含有したりするか(比較例2〜4)、或いは酸変性の場合、溶解性が低下したりする(比較例5)。また、最終的に得られる印刷インキにおいても、前者(比較評価例1〜4、6〜9)はミスチングの面で、後者(比較評価例5、10)は乳化性、顔料分散性の面で満足する物性が得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、ロジンエステル(B)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(C)とを反応させて得た石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂。
【請求項2】
反応に供せられる(A)と(B)との重量比が、9:1〜1:9の範囲にある請求項1に記載の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂。
【請求項3】
反応に供せられる(C)の量が、(A)と(B)の合計量100重量部当たり、20〜150重量部の範囲である、請求項1に記載の石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂。
【請求項4】
シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、ロジンエステル(B)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(C)とを、温度140℃〜270℃の範囲で反応させる石油樹脂含有ロジン変性フェノール樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−138068(P2007−138068A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335721(P2005−335721)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】