新規の選択的免疫ダウンレギュレーション(SIDR)媒介性移植プロセス、被験体における疾患を予防または処置するためのプロセス、およびSIDRを確立するために有用である、馴化またはプログラミングされた細胞、組織または器官を含む組成物
【課題】移植プロセス、および移植片対宿主拒絶に関する疾患への介在および予防における独特な免疫調節の適用、ならびに免疫およびワクチン接種から生じる所望されない免疫学的効果を除去することを提供すること。
【解決手段】本発明は、移植プロセス、および移植片対宿主拒絶に関する疾患への介在および予防における独特な免疫調節の適用、ならびに免疫およびワクチン接種から生じる所望されない免疫学的効果を除去することを提供する。クローン病、原発性硬化性胆管炎疾患、原発性胆管性肝硬変、粥状動脈硬化などを含む他の疾患の処置もまた提供される。本発明はまた、そのようなプロセスを実施するための独特な組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、移植プロセス、および移植片対宿主拒絶に関する疾患への介在および予防における独特な免疫調節の適用、ならびに免疫およびワクチン接種から生じる所望されない免疫学的効果を除去することを提供する。クローン病、原発性硬化性胆管炎疾患、原発性胆管性肝硬変、粥状動脈硬化などを含む他の疾患の処置もまた提供される。本発明はまた、そのようなプロセスを実施するための独特な組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学的調節の分野に関し、より詳細には、選択的免疫ダウンレギュレーションに関し、そして移植、疾患の予防および処置、ならびにそれらにおいて使用される組成物に適用可能である。
【0002】
本願において引用または記される全ての特許、特許出願、特許公開、科学論文などは、本発明が関する分野の技術水準をより詳細に記載するために、本明細書において参考としてその全体が援用される。
【背景技術】
【0003】
免疫手順は、疾患の拡散の進行を抑制するにおいて顕著な成功を収めており、そして天然痘の場合においては、それを完全に根絶させたことは周知であるが、免疫プロセス自体に問題がないわけではない。そうでなければ健康な個体において疾患を誘発し得る、免疫手順に対する有害反応についての関心は高まっている。これは実際、免疫の副作用について注意を集中させたこれらの手順の成功自体である。広汎な免疫プログラムは、以前に主要な健康問題であった、多数の病原体に曝露される確率を顕著に低減し、その結果、現在では、疾患を発症する危険因子よりも、その疾患を予防することによって発生する危険因子の方が重要となっている。実際、免疫手順を辞退した大きな人口集団が存在する。これは、そのこと自体において、これまで制御していたこれらの疾患の萌芽を可能にし得る。粗違って、免疫プロセスの有利な効果を可能にし得るが、免疫プロセスの潜在的な有害効果を改善し得る手順に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、免疫およびワクチン接種、移植、ならびに多くの免疫疾患および障害に関連する問題を含む、所望されない免疫学的反応および状態に関して予防的および治癒的手段を提供することによって、上記の問題および関心事に取り組む。本発明はまた、免疫調節のための独特な組成物、試薬、薬物およびプロセスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下を提供する。
【0006】
1.レシピエントにおける選択的な免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、
該レシピエントが、ドナー由来の免疫細胞、免疫組織、免疫器官またはその成分を含み、
ここで、SIDRが該レシピエントまたはその免疫学的等価物のネイティブまたは非ネイティブな抗原に対して、または該レシピエントまたはその免疫学等価物における該ドナーのネイティブまたは非ネイティブ抗原に対してあるいはその両方に対して確立されている、工程、
を包含する、移植プロセス。
【0007】
2.前記免疫細胞、免疫組織、免疫器官またはその成分が、T細胞、樹状細胞、リンパ球、末梢血細胞、NK細胞、造血幹細胞、骨髄およびそれらの組合せからなる群より選択される、項目1に記載の移植プロセス。
【0008】
3.前記選択的免疫ダウンレギュレーションが、前記ネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することにより前記レシピエントを経口的に寛容化することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、(a)該レシピエント由来の細胞、組織またはそのフラグメント、(b)該ドナー由来の細胞、組織またはそのフラグメント、(c)該レシピエント由来の抗体と複合体化された細胞、組織またはそのフラグメント、(d)該ドナー由来の抗体と複合体化された細胞、組織またはそのフラグメント、あるいは、(a)、(b)、(c)および(d)のいずれかの部分消化物由来、任意の免疫学的に等価な成分、および上記のいずれかの任意の組合せからなる群より選択されるか、または由来する、1以上の成分を含む、項目1に記載の移植プロセス。
【0009】
4.項目1の移植プロセスを使用して、レシピエントにおける移植片対宿主拒絶を予防または処置をするプロセス。
【0010】
5.前記ネイティブまたは非ネイティブな抗原が、前記レシピエント由来である、項目4に記載のプロセス。
【0011】
6.前記ネイティブまたは非ネイティブな抗原が、前記レシピエント由来であり、そして該レシピエントおよび前記ドナー由来のネイティブまたは非ネイティブ抗原を含む、項目4に記載のプロセス。
【0012】
7.前記ネイティブまたは非ネイティブ抗原が、T細胞、樹状細胞、リンパ球、末梢血細胞、NK細胞、造血幹細胞、骨髄およびそれらの組合せからなる群に由来する、項目4に記載の移植プロセス。
【0013】
8.前記ネイティブまたは非ネイティブ抗原が末梢血球を含む、項目7に記載のプロセス。
【0014】
9.被験体においてワクチン接種または免疫の所望されない免疫学的結果を処置または予防するためのプロセスであって、以下の工程:
ワクチン、免疫剤、アジュバントまたは免疫学的に等価な化合物、およびそれらのいずれかの任意の組合せとして使用された任意または全ての抗原に対して、該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程、
を包含する、プロセス。
【0015】
10.レシピエントに導入した場合に、該レシピエントにおいて選択的な免疫ダウンレギュレーションを提示または確立する、馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官を含有する、組成物。
【0016】
11.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が予め寛容化されている被験体に由来する、項目10に記載の組成物。
【0017】
12.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が前記レシピエントに対して同種異系である被験体に由来する、項目10に記載の組成物。
【0018】
13.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が前記レシピエントに対して異種である被験体に由来する、項目10に記載の組成物。
【0019】
14.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が前記被験体に導入される前に前記レシピエントの外側でインビトロで寛容化されている、項目10に記載の組成物。
【0020】
15.前記レシピエントに導入された場合、該レシピエントにおいて特定の抗原に対する寛容を提示または確立する細胞、組織または器官を含む、項目10に記載の組成物。
【0021】
16.被験体においてクローン病を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、クローン病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する工程、を包含する、プロセス。
【0022】
17.前記クローン病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分、またはその正常の標的が腸細胞を含む、項目16に記載のプロセス。
【0023】
18.被験体における原発性硬化性胆管炎疾患を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性硬化性胆管炎疾患に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0024】
19.被験体における原発性胆管性肝硬変を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性胆管性肝硬変に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0025】
20.被験体における原発性胆管性肝硬変を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性胆管性肝硬変に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0026】
21.被験体における原発性セリアック病(Celliac's diseaase)を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、セリアック病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0027】
22.被験体における原発性自己免疫活動性慢性肝炎を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性自己免疫活動性慢性肝炎に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0028】
23.被験体における慢性肝臓拒絶疾患を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、慢性肝臓拒絶疾患に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0029】
24.被験体における免疫媒介性肝臓線維症疾患を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、免疫媒介性肝臓線維症疾患に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0030】
25.被験体における免疫媒介性血管障害を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、免疫媒介性血管障害に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0031】
26.被験体における免疫媒介性筋肉障害を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、免疫媒介性筋肉障害に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0032】
27.前記免疫媒介性筋肉障害が、平滑筋、黄紋筋、血管筋、およびそれらのいずれかの組合せからなる群より選択される、筋肉メンバーに影響する、項目26に記載のプロセス。
【0033】
本発明は、移植プロセスを提供し、この移植プロセスは、レシピエントにおける選択的な免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、このレシピエントが、ドナー由来の免疫細胞、免疫組織、免疫器官またはその成分を含み、ここで、SIDRがそのレシピエントもしくはその免疫学的等価物のネイティブもしくは非ネイティブな抗原に対して、または上記レシピエントもしくはその免疫学等価物における上記ドナーのネイティブもしくは非ネイティブ抗原に対して、あるいはその両方に対して確立されている工程、を包含する。本発明によってまた、上記の移植プロセスを使用して、レシピエントにおける移植片対宿主拒絶を予防または処置するプロセスが提供される。
【0034】
本発明はさらに、被験体においてワクチン接種または免疫の所望されない免疫学的結果を処置または予防するためのプロセスを提供し、このプロセスは、ワクチン、免疫剤、アジュバントまたは免疫学的に等価な化合物、およびそれらのいずれかの任意の組合せとして使用された任意または全ての抗原に対して、この被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程、を包含する。
本発明はまた、レシピエントに導入された場合に、このレシピエントにおいて選択的な免疫ダウンレギュレーションを提示または確立する、馴化またはプログラムされた細胞、組織または器官を含有する、組成物を提供する。
本発明によってまた、被験体においてクローン病を処置するプロセスが提供される。このプロセスは、この被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対してこの被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、このレギュレーションは、クローン病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはクローン病の正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、このネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源、およびこのような供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する工程、を包含する。
【発明の効果】
【0035】
結論として、本発明は、以下を提供する:
本発明は、移植過程ならびに対宿主性移植片拒絶に指向される疾患の介入および予防、その上免疫化およびワクチン接種から生じる所望されない免疫学的効果の除去における独特の免疫調節の適用を提供する。他の疾患(クローン病、原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性肝硬変、アテローム硬化症(atheroschlerosis)などを含む)についての処置もまた提供される。本発明はまた、このような過程を実行するための独特な組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、レシピエントの脾細胞に対する、経口寛容の誘導を通じて移植片ドナーにおけるMLR応答の減少を示す。
【図2】図2は、レシピエントのリンパ球に対する、BMドナーにおける経口寛容の誘導が皮膚コラーゲンの生成を減少させたことを示す。皮膚の生検におけるコラーゲンα1(I)遺伝子発現(移植62日後に行い、そしてジゴキシゲニン標識化マウスコラーゲンα1(I)プローブとハイブリダイズした)を示す。
【図3】図3は、脾細胞移植後62日目の移植レシピエントにおける小腸の組織学的評価に対するドナーの寛容化の効果を示す。
【図4】図4は、脾細胞ドナーにおける、レシピエントのリンパ球に対する経口寛容誘導が、サイトカインプロフィールの逆転(Th1〜Th2の応答型)を誘導することを示す。
【図5】図5は、大腸炎および正常な結腸抽出タンパク質に対する寛容誘導の、実験的大腸炎を有するマウスの体重に対する効果を示す。
【図6】図6は、大腸炎の肉眼的類別に対する寛容化の効果を示す。
【図7】図7は、実験的大腸炎における腸粘膜の組織学的評価に対する寛容化の効果を示す。
【図8】図8は、実験的大腸炎の肉眼的類別に対する寛容化の効果を示す。
【図9】図9は、血清IL4(黒い棒)およびIFNγ(白抜きの棒)の血清レベルに対する経口寛容の効果を示す。寛容化マウスは、Th1からTh2の免疫応答サイトカイン分泌のシフトを示した。
【図10】図10は、末梢性免疫寛容誘導がNK1.1+LAL細胞傷害性機能を顕著に増強することを示す。
【図11】図11は、組換えBioHepBワクチンの3つの異なる用量のi.p.接種30日後の抗HBsAg抗体の血清レベルを示す。
【図12】図12は、ウイルス抗原に対する寛容誘導に対するHBVタンパク質の経口投与の効果を示す。
【図13】図13は、HBVに関する既存の免疫性を有するマウスにおけるB型肝炎に対する経口寛容誘導の効果を示す。
【図14】図14は、既存の抗HBV二次免疫応答に対する経口寛容誘導の効果を示す。
【図15】図15は、HBV接種後のTupaiaにおけるALTレベルの時間経過を示す。
【図16】図16は、正常なTupaiaおよびHBV感染Tupaiaの肝臓の組織形態を例証する顕微鏡写真である。
【図17】図17は、インサイチュPCR増幅後およびHBV RNAの検出後のTupaiaの肝臓切片を撮影した顕微鏡写真である。
【図18】図18は、HBV抗原に対する抗体のレベルにおける感染後の経口寛容化の効果を示す時間経過である。
【図19】図19は、HBV再チャレンジ後のHBV抗原に対する抗体のレベルにおける経口寛容化の効果を例証する。
【図20】図20は、HBV抗原に対する抗体のレベルに対する経口寛容化の前感染の誘導の効果を示す。
【図21】図21は、血清ALTレベルによって決定されるようなHBV誘導肝臓損傷に対する経口寛容化の前感染の誘導の効果を示す。
【図22】図22は、HBV再チャレンジ後のHBV誘導肝臓損傷に対する経口寛容化の効果を示す。
【図23】図23は、レチクリンで染色されたTupaia肝臓生検標本の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(発明の詳細な説明)
本発明は、所望でない免疫学的反応および状態(免疫およびワクチン接種に関連する免疫学的反応および状態、移植、ならびに多数の免疫学的疾患および障害を含む)に関する予防的および治癒的な手段を提供する。本発明はまた、免疫調節のための独特の組成物、試薬、薬物およびプロセスを提供する。予防に関して、本発明は、不適切な応答を誘導し得る免疫手順の任意の成分に対する経口寛容の誘導を可能にする。これらは、抗原とともに含まれる、アジュバントおよび化合物を含み得るがこれらに限定されない。治療的プロセスに関して、免疫手順からの不適切な応答の喚起は、SIDR、GIS、またはそれらの組合せにより処置され得る。SIDRは、免疫試薬中に所望の抗原成分とともに存在する成分に対する経口寛容化の誘導により達成され得るか、または所望の抗原自体もしくはその免疫学的等価物を含み得るかもしくはそれらからなり得る。前者の場合、所望の抗原以外の成分に対する免疫応答の低減が存在するが、所望の抗原に対する免疫応答の誘導が依然として可能である。後者の場合、免疫プロセス自体の一般的な排除または低減が存在する。GISは、物理的プロセスまたは試薬の投与のいずれかにより達成され得る。GISを誘導するために使用され得る物理的プロセスの1例は、放射線処置である。GISの誘導において有用である試薬は、免疫抑制剤であり得る。免疫抑制剤の例は、コルチコステロイド、シクロスポリンA、FK506、またはリファンピンのような化学物質であり得る。免疫抑制剤の例はまた、タンパク質性試薬(例えば、サイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、インターロイキン、リガンド、リガンドレセプター、および上記のいずれかに対する抗体、ならびに二次疾患の症状発現に関与するかまたは関連する任意の細胞(T細胞を含む)に対する抗体)であり得る。
【0038】
免疫系のダウンレギュレーションを用いてヒトの多数の疾患の症状が低減されているが、本発明の前には適切な候補であるとは認識されていなかった他の疾患が存在する。本発明の1つの局面では、SIDR、GIS、またはその任意の組合せが適用されて、以下の疾患の自己免疫性症状発現を軽減する:原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性肝硬変、セリアック(Ciliac)病、自己免疫性慢性活動性肝炎、慢性肝臓拒絶、免疫媒介肝臓線維症、免疫媒介性脈管障害、免疫媒介性脈管閉塞、免疫媒介筋障害(平滑筋および横紋筋ならびに血管筋を含む)。
【0039】
本発明は、病原体による感染の所望でない免疫の結果の関連性および処置を開示した。本発明の使用のさらなる例は、病原体の存在により媒介され得るかまたは関連し得る、ヒトにおける冠状動脈疾患を処置するための適用である。Mehta,J.L.ら,「Interactive role of infection,inflammation and traditional risk factors in atherosclerosis and coronary artery disease」,Journal of Am.Coll.Cardiol.5(6):1217−25(1998);およびOssei−Gerning,N.ら,「Helicobacter pylori infection is related to atheroma in patients undergoing coronary angiography」,Cardiovasc.Res.35(1):120−124(1997)を参照のこと。
【0040】
さらに詳述するために、経口寛容化が、この適用において同系の実験動物に養子移入される場合、同じ抗原に対する免疫化を誘導する、少なくとも末梢血単核細胞画分(PBMC)において存在するあるクラスの細胞の産生を導くことがここで実証されている。このことは、本発明者らがTs細胞と呼ぶ、あるクラスの細胞を同定する。このような細胞集団は、寛容化抗原の経口提示を用いて達成される寛容化を含む、寛容化の誘導によって、免疫能力のある動物(ヒトを含む)内で産生される。
【0041】
一般に、本発明はさらに、免疫細胞を、寛容化した免疫細胞を有するように以前にプログラムしたかまたは馴化したドナー由来のレシピエントに移入することにより、これらの細胞をレシピエント(DIDR)に移入することにより、レシピエントにおけるSIDRを、上記特異的抗原に対して付与し得ることを実証する。後者は、1997年2月28日出願の米国出願第08/808,629号に記載されている。レシピエントに対する移入によってSIDRを付与する細胞、組織、または器官(免疫成分)は、異種の、同種異系の、同系の、または自己の宿主またはドナーから得られ得る。ドナーが、レシピエントの免疫成分と免疫学的に適合性でなく、そしてレシピエントの免疫成分を宿主に運ぶかまたは免疫成分に対する宿主(代理ドナー(doneor))である必要がある場合の例では、レシピエントの免疫成分に対する代理ドナーの免疫応答を最少化するように、好ましくは、上記代理ドナーへのレシピエントの免疫成分の導入前に、代理ドナーが、免疫不全である、免疫抑制される、またはレシピエントの免疫成分に対して寛容化されることが所望される。代理ドナーにおけるレシピエントの免疫成分は、特定の抗原に対するSIDRを(例えば、経口寛容化によって)発達させるように馴化またはプログラムされる。この免疫成分は後に、レシピエントに移入され得、従って、上記レシピエントにSIDRを付与し得る。
【0042】
免疫レシピエントにおいてSIDRを付与し得る、免疫細胞、組織または器官(免疫成分)は、PBMC、造血幹細胞、肝臓細胞、T細胞、T細胞のいくつかのサブクラス、骨髄細胞、腸細胞、胸腺細胞、脾臓細胞、リンパ節由来の細胞、または上記の任意の組合せに由来し得る。このような細胞、組織、または器官は、特定の抗原に対する確立されたSIDRを既に有する、ドナーまたは代理ドナーのいずれかに由来し得る。SIDRプログラムされた細胞、組織、または器官を得るために代替的なアプローチは、このようなプログラムされた免疫細胞、組織、または器官(免疫成分)をインビトロまたはエキソビボで発達、増殖、および/または単離することである。このようなプロセスの1例では、既に寛容化されたドナーまたは代理ドナーの免疫成分は、取り出され、そして培養系に導入される。特異的な寛容化成分は、単離、分画、選択され得、そして/または特異的な寛容化成分を有する画分のみをレシピエントへの導入のために選択するように特異的な寛容化活性について富化される。この様式では、任意の所望されていないエピトープに対する寛容化免疫成分の反応または活性が、(所望の場合には)レシピエントへの導入前に回避され得る。
【0043】
免疫成分は、寛容化されていないレシピエントから入手または誘導され、次いでさらに、インビトロまたはエキソビボの系に供され、それを介して、この免疫成分は、特定の抗原に対するSIDRをレシピエントにおいて付与するためにさらに馴化またはプログラムされる。これらの成分は、レシピエントへ導入し戻す前にさらに増殖され得るか、または選択的に単離もしくは富化され得る。
【0044】
このような系における免疫応答細胞、組織、または器官の供給源は、このような抗原についての特異性を有する、抗体産生細胞、癌細胞もしくは細胞株、または免疫細胞であり得る。上記の抗体産生細胞は、モノクローナル抗体を提供するために単一の供給源に由来し得るか、またはポリクローナル抗体を提供するためにいくつかの供給源に由来し得る。
【0045】
インビトロまたは培養系は、合成の特徴付けられた培地、または特徴付けられていない天然成分(例えば、自己血清もしくは非自己血清)を含有する複雑な培地を含有し得る。インビトロまたは培養系はさらに、このような系における寛容化免疫成分の発達を容易にし得るおよび/またはこのような免疫成分の増殖を支持し得る、細胞または組織または器官またはそのフラグメントを含み得る。これらは、肝臓、腸、胸腺、脾臓、骨髄、または他のマトリックスに由来し得る。このようなインビトロ系はさらに、必要とされ得る場合、適切なリンホカインおよびサイトカインを含み得る。
【0046】
経口寛容化が、サプレッサーT細胞(Ts)と呼ばれる移入するクラスのT細胞、もしくは他のサブタイプのT細胞、または他のサブタイプのリンパ球(NK1.1 T細胞を含む)の産生を誘導することは可能である。同系実験マウスの例では、本発明は、マウス間で末梢血単核細胞を移入することにより、マウスからマウスへの寛容化の移入を記載する。この基準の意味は、特定のクラスの細胞が、適切な細胞、基質、および細胞因子の存在下で前駆体T細胞(ナイーブT細胞)から産生され得ること、および特定の抗原に対して寛容性を付与するのはこのクラスの細胞であることである。肝臓は、経口寛容化の誘導において役割を有すると示唆されているので、肝臓に関連するリンパ球のサブタイプ(例えば、NK1.1 T細胞)または肝臓内細胞の他のサブタイプは、寛容化プロセスに関連付けられている。免疫細胞のサブタイプが、他のサブタイプの免疫調節細胞または他の細胞への直接的または間接的な関連を介して、肝臓の環境におけるプログラミングに関与し得ることもまた示唆する。従って、これらの細胞が、寛容化が求められる被験体の身体外で処置され得るならば、次いでこれらの細胞は、有害な効果は最少にして、寛容性を誘導するために被験体の身体に注入して戻され得る(おそらく、精製後)。特定のTs細胞、またはさらにより一般的なTs細胞の亜集団のこの「馴化」は、インビトロで培養において行われ得るか、またはこの馴化は、適切な宿主生物の身体中で行われ得る。特定のまたはさらに一般的なTs細胞を馴化するために、抗原特異的寛容化細胞の選択的誘導および増殖のためにインビボで存在する環境に匹敵する、インビトロでの環境を確立することが必要である。馴化は、抗原特異的様式または抗原非特異的様式で免疫細胞の低減をもたらす、特定のサブタイプの細胞および/またはサイトカインを含み得る。例えば、インビトロで馴化される場合、これらは、リンパ節由来の、または骨髄由来の、または胸腺由来の、肝臓、あるいはこれらの3つの供給源の組み合わせまたは他の供給源由来の支質細胞の存在下または非存在下で、混合型リンパ球反応において馴化され得る。これらのTs細胞が動物において馴化または産生される場合、これらは、調製されたSCIDマウスまたは他の動物(これらは、マウスにおいて寛容化の誘導に必須であることが示されているので、おそらく、ヒト肝臓細胞を有する)において馴化され得る。これらは、細胞機能は維持するが細胞増殖を維持しないように免疫切除された動物において馴化され得る。この動物は、遺伝的に、または誘導されるかのいずれかでSCID状態を有し、そして必要な場合にはヒト肝臓細胞を受け入れ得る、齧歯動物または任意の動物であり得る。例えば、2つ挙げると(しかし、このリストに限定されない)、馴化は、全身が照射されたRAG2マウスまたはラットにおいて行われ得る。これらが馴化され、そしておそらくインビトロまたはインビボのいずれかで増幅された後、細胞は、自己に注入し戻され得るか、または同種異系のもしくは異種の宿主もしくはレシピエントへ注入し戻され得る。これらのいずれかの手順(インビトロまたはインビボにおける特異的または一般的なTs細胞の馴化または再教育)は、多数の自己免疫的性質の状態を管理し得る非侵襲性および無毒性のプロトコルの開発を導く。これらの細胞は、治療試薬として用いられて、免疫媒介病因を管理し得る。この手順は、自己免疫状態、および免疫応答(天然の体液性免疫、アレルギー応答、および細胞性免疫を含む)の影響を最少にすることが求められる他の状態の管理に適切である。
【0047】
本発明の新規な産物および手順を開発するために用いられた材料および方法ならびにプロトコルのさらなる説明については、Stites,D.P.およびTerr,A.I.(編),Basic and Clinical Immunology第7版の第1〜24章,Appleton & Lange, A Div.of Prentice Hall,New Jersey(1991)が参照される。
【0048】
例えば、適切な細胞、組織または器官は、重篤な複合免疫不全を有するマウスまたは他の動物(Rag2マウスまたはNOD/SCIDマウスなど)に注入または移植され得、次いで代理動物が、上記のように寛容化抗原の経口提示を通して、または経口寛容化に等価なレジメを通して寛容化される。寛容化は、マウスに、20%(v/v)ウシ胎児血清中の50ngの寛容化抗原を与えることにより、達成され得る。寛容化レジメの終了後、これらの細胞を白血球搬出により取り出し得、そして必要な場合は従来の分離手順(例えば、Ficol勾配)を用いて、代理動物から単離する。例えば、ヒトPBMCが、SCIDマウス内の機能的な特異的Tc細胞を含むように変更されること求められるならば、これらは、循環から単離され得、そしてヒト細胞特異的抗体パニング手順またはこのような手順の何らかの変法を用いて分離され得る。これらの寛容化細胞は、SDIRまたは選択的免疫調節を誘導するためにヒト被験体に注入し戻され得る。
【0049】
さらなる例として、1997年6月16日出願のBrownらの同時係属中の特許出願である米国特許出願第08/876,635号に記載されるようなヒト−マウスキメラ肝臓を含むRag2マウスには、寛容化されるべきヒト由来のPBMCが(またはCD45+でさえも)注入され得る。このマウスには、HCV抗原が与えられて、Ts細胞の複製を誘導し得る。ヒトT細胞は、取り出され、増殖され、そして上記の通りに被験体に注入し戻され得る。特異的Ts細胞の存在について試験するために、このマウスに、寛容化に続いてHCVをチャレンジし得る。肝臓内のヒト細胞におけるHCVの増殖の証拠の存在下ではヒト細胞病状が存在しないという観察は、寛容化の誘導の証拠である。
【0050】
さらなる例として、ラットのような動物は、優勢な造血細胞は複製しないが、それらの分化した表現型に従って機能する条件下で、全身照射により、または免疫消失化学物質(immunoablative chemical)を用いることにより、いずれかにより切除され得る。PBMCは、これらの切除した動物に注入または導入され得、そしてこの動物は、続いての、寛容化抗原の経口提示を通して、または上記の通りの経口寛容化に等価なレジメを通して寛容化され得る。さらに、寛容化レジメの完了後、これらの細胞を、切除した実験動物およびこの動物由来の免疫細胞から取り出し、そして必要に応じて精製し得る。
【0051】
選択的誘導および抗原特異的寛容化細胞の増殖に関してインビボに存在する環境に匹敵し得るインビトロ環境からなるなお別の例が作製される。Ts細胞は、インビトロでまたはドナーまたはレシピエントの身体外で産生される。これらの細胞は、抗原提示細胞の存在下で、ならびにリンパ節由来の、もしくは骨髄由来の、もしくは胸腺由来の、または肝臓、もしくはこれらの3つの供給源の組み合わせ、もしくは他の供給源由来の支質細胞の存在下または非存在下で混合型リンパ球反応において馴化される。
【0052】
Ts細胞の存在または非存在は、以下を含むいくつかのアッセイ方法を用いて決定される。
【0053】
(アッセイ1:51Cr放出細胞傷害性アッセイ)
これらの研究において用いられる標的細胞は、YAC−1細胞、10% FCSを有する補充したRPMIを用いて組織培養における連続増殖に適応させたリンパ腫細胞株、または任意の他の型の特化した(professional)標的細胞、または抗原特異的感作Bリンパ球もしくはTリンパ球であり得る。YAC−1細胞は、これらを、2×105細胞/mlの密度で、RPMI 10% FCSを有する25mフラスコ中に播種し、そしてそれらを24時間後に収集することにより調製され得る。細胞を、50mlチューブに懸濁し、そして収集し、そして1250rpmにて10分間、培地を用いて2回洗浄する。この手順は、エフェクター細胞による溶解の51Crでの効率的な標識および高い感度を保証する。標的細胞を、51Crで標識し、そして37℃にて90分間インキュベートする(300μl RPMI培地中、200mCi/2×106細胞)。細胞を、10分ごとに手で混合する。インキュベーション後、3mlの20% FCS RPMIを添加し、そして37℃にて30分間、再度インキュベートする。細胞を、RPMI 10% FCS中で3回洗浄し、そして計数する。標識効率の程度の決定のために、100μlの細胞を計数する。エフェクター細胞は、試験されるべきリンパ球の亜集団である。51Cr放出アッセイは、Costar 96ウェルプレート中で行われ得る。100μl中の計数された数のエフェクター細胞を、100μl中の5,000個の標識された標的細胞と混合する。エフェクターと標的との比(E:T比)は、50:1;25:1;および12.5:1である。各ウェルは、計200μlの容量で標的細胞およびエフェクター細胞を含む。5つのウェルを、各サンプルからの各比について試験し得る。自然放出の決定のために、6個のウェルの類似の数の標的細胞を、100μlのRPMI 10% FCSにプレーティングする。最大放出の決定のために、6ウェルの100μlの培地中の標的細胞を、100μlのTritonXと混合する。このプレートを500rpmにて2分間遠心分離し、続いて37℃にて5% CO2中で4時間、インキュベートする。次いで、このプレートを再度500rpmにて2分間遠心分離し、そして上清を回収し、そしてガンマカウンターを用いて計数する。結果は、以下の式を用いることにより算出される標的細胞の比溶解パーセントとして表される:細胞傷害性%=アッセイの平均cpm−自然放出からのcpm/TritonXで溶解させた標的からのcpm−自然放出からのcpm×100。
【0054】
(アッセイ2:抗原特異的サイトカイン放出細胞傷害性アッセイ)
血清由来の抗原特異的感作Bリンパ球もしくはTリンパ球、または器官特異的T細胞は、標的細胞として役立ち得る。血清由来の抗原特異的寛容化Bリンパ球もしくはTリンパ球、または器官特異的T細胞は、エフェクター細胞として役立ち得る。これらの2つのTリンパ球の亜集団を、専門抗原提示細胞(樹状細胞またはマクロファージ)とともに、および標的抗原とともにインキュベートする。ThI(例えば、IFNγ)またはTh2(例えば、IL4、IL10)のサイトカイン放出を、RT−PCRにより、またはELISA試験により、上清において測定する。サイトカインを介するT細胞誘導を用いて、サイトカイン放出を増大させ得る。
【0055】
(アッセイ3:寛容化活性の存在の尺度としての免疫細胞により産生される特異的抗体の量の低減の測定)
これらの細胞は、免疫媒介病因を管理するための治療試薬として用いられ得る。これらの抗原特異的Ts細胞は、寛容の逆養子移入(reverse adoptive ransfer)のために用いられ得る。これらの手順は、自己免疫の性質の多数の状態を管理するための非侵襲性および無毒性のプロトコルの開発を導き得る。
【0056】
これらの手順は、自己免疫に基づく種々の疾患または状態(いくつか挙げると、B型肝炎感染、C型肝炎感染、クローン病、および移植片対宿主病を含む)を管理するための新たな治療様式を作製し得る。この協力から開発された薬学的材料は、経口薬物として製造され得る。寛容化細胞の免疫プログラミングの場合、この材料は、特異的Ts細胞またはさらに特異的Ts細胞を含む同種異系もしくは異種の細胞(cefl)を含む自己細胞の注入として送達され得る。
【0057】
このクラスの細胞は、寛容化するように試みられる被検体の身体の外部において産生され得、そして悪影響を最小限にしながら、寛容を誘導するために被検体の身体に戻して注入(おそらく精製の後)され得る。Ts細胞の特定の(またはより一般的でさえある)サブ集団の「訓練」は、代用の動物中でインビボで、または培養物中でインビトロの両方で行われ得る。これらのTs細胞が動物中で訓練または産生される場合、これらTs細胞は、適切なSCIDマウスか、または他の動物(おそらくは、マウスにおいて寛容の誘導に必須であることが示されているヒト肝臓細胞を用いて)において訓練され得る。これらTs細胞は、免疫切除された動物中で訓練され得、そしてその細胞は、細胞機能を維持するが、分裂しない。代理宿主動物は、齧歯類、あるいは遺伝的にか、または誘導されたかのSCID状態を有し、そして必要に応じてヒト肝臓細胞を受容し得るいずれかの動物であり得る。例えば、訓練は、RAG2マウスか、または全身照射されたラット中で行われ得る(2つに言及するが、これらに限定されない)。特定のTs細胞が訓練され、そしておそらくインビトロまたはインビボにおいて増幅された後、この細胞は、自系に、あるいは、同種異系または異種の宿主もしくはレシピエントに戻して注入され得る。抗原特異的寛容化細胞(Ts)の選択的誘導および拡大のためにインビボに存在する環境に匹敵するインビトロ環境において、特異的なまたはより一般的なTs細胞を訓練するために、訓練される細胞、細胞を含有する組織または器官は、Ts細胞の産生を促進する条件下で抗原提示細胞と混合されなければならない。例えば、インビトロにおいて訓練する場合、これらは、リンパ節由来、または骨髄由来、または胸腺・肝臓由来、あるいはこれら3つの供給源または他の供給源の組み合わせ由来の支質細胞の存在下あるいは非存在下で、混合されたリンパ球反応において、訓練され得る。
【0058】
これら手順のいずれか(インビトロまたはインビボにおける特異的Ts細胞または一般的なTs細胞の訓練または再教育)は、自己免疫の性質の大多数の状態を管理する、非侵襲性および非毒性のプロトコールの開発をもたらす。これらの細胞は、免疫媒介性病因の管理のための治療的試薬として使用される。この手順は、天然における体液性免疫を含む免疫応答、アレルギー性応答、および細胞性免疫を含む免疫応答の所望されない効果を最小化することが求められる、自己免疫状態および他の状態の管理に適切である。
【0059】
本発明の他の実施態様および局面は、移殖に関連した以下の記載を含む。
【0060】
レシピエント被検体中に細胞、組織、器官またはその成分を移植する工程;および1つ以上のネイティブまたは非ネイティブの抗原あるいはネイティブ抗原または非ネイティブ抗原の混合物に対して、レシピエント移殖被検体において、選択的な免疫のダウンレギュレーションを確立する工程を包含する、レシピエント被検体中の免疫拒絶を予防するか減少するための移殖プロセス。そのようなネイティブまたは非ネイティブ抗原は、造血細胞を含み得る。そのような造血細胞は、幹細胞、T細胞、リンパ球、骨髄細胞、CD34+およびCD45+、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。上記のT細胞は、NK細胞またはNK.1抗原を発現する細胞を含み得る。
【0061】
ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、上記のレシピエント移殖被検体またはドナー、あるいはその両方に由来し得る。非ネイティブ抗原は、異種または同種異系であり得る。ネイティブの抗原は、レシピエント移殖被検体の幹細胞、T細胞、およびレシピエント抗原を発現する組織、またはこれらの任意の組み合わせから選択されるメンバーを含み得る。非ネイティブ抗原に関して、これらはドナー由来の幹細胞またはT細胞を含み得る。
【0062】
移殖プロセスにおいて、移殖工程は、骨髄移植を包含し得る。レシピエント移殖被検体中におけるSIDRの確立は、骨髄移殖または固形器官移殖の結果であり得る対宿主性移植片(GVH)拒絶を予防または減少し得る。
【0063】
レシピエント移殖被検体、あるいは細胞、組織もしくは器官またはそれらの組み合わせがそこから移殖されるドナー、あるいはその両者は、さらに1つ以上の免疫調節処置に供され得る。そのような免疫調節処置は、放射、化学剤、および生物学的因子、またはそれらの任意の組み合わせからからなる群から選択される手段によって行われ得る除去を含み得る。SIDR確立工程は、除去前、除去後、または除去の間に行われ得る。
【0064】
上記の生物学的因子は、サイトカインおよび抗体、またはその両者からなる群から選択される。免疫調節処置は、単回投与量、または反復する単回投与量として行われ得る。
【0065】
ネイティブまたは非ネイティブの抗原は、天然抗原、合成抗原、改変抗原、非改変抗原、全体としての抗原、および抗原フラグメントまたはこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。ネイティブ抗原または非ネイティブ抗原の群は、組織適合性決定基を含み得る。そのような組織適合性決定基は、順にMHC決定基IまたはII、あるいは両方を含み得る。ネイティブまたは非ネイティブ抗原はまた、タンパク質、糖タンパク質、酵素、抗体、組織適合性決定基、リガンド、レセプター、ホルモン、サイトカイン、細胞膜、細胞成分、ウイルス、ウイルス成分、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、細胞全体、組織および器官からなる群から選択される。組織適合性決定基は、上記のMHC決定基IまたはIIあるいはその両方である。
【0066】
また、看過されるべきでないものとして、被検体における感染性因子に対する所望されない免疫学的効果を予防または減少するためのプロセスにおける、本発明の使用がある。これは、感染因子またはネイティブ抗原、あるいはその両方の、成分または複数の成分またはフラグメントのいずれかに対する被検体における免疫調節の選択的ダウンレギュレーションの確立を包含する。所望されない免疫学的効果は、所望されない抗体の産生、細胞媒介性免疫反応、自己免疫、炎症性反応、リガンドレセプター結合、サイトカイン産生およびアポトーシス、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。所望されない免疫効果は、肝炎およびHIVからなる群から選択されるメンバーによって生じ得る。さらに、所望されない免疫学的効果は、HCV−およびHBV−関連クリオグロブリン血症、HCV−、HBV−およびHIV−関連自己免疫障害、HBV−およびHCV−関連非肝臓標的器官損傷からなる群から選択され得る。
【0067】
上記の成分または複数の成分またはフラグメントは、天然、合成、または免疫学的等価物であり得る。上記の移殖プロセスはさらに、サイトカイン、サイトカインに対する抗体、アポトーシス因子、抗感染因子、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される任意のメンバーを用いて被検体を処置する工程を包含し得る。
【0068】
ただいま上記に記載した移殖プロセスにおいて、被検体レシピエントは、1つ以上の特異的抗原に対して確立されたSIDRの結果として、バイスタンダー効果を示し得る。そのようなバイスタンダー効果は、場合によって、所望されてもされなくてもよい。
【0069】
以下の実施例は、本発明の種々の局面を説明するために提供される。この包含は、いかなる意味においても、いかなる方法によっても、特許請求の範囲によってより具体的に規定される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0070】
(好ましい実施態様の説明)
以下の実施例は、本発明の種々の局面、および本発明の価値の指標である。
【0071】
(実施例1;対宿主性移植片病での経口寛容誘導の効果)
レシピエント抗原または免疫学的等価物を用いるドナーの経口寛容化は、レシピエント中に移殖された場合に、ドナー免疫細胞からの慢性対宿主性移植片病(cGVHD)応答を妨げ得る。
【0072】
(材料および方法)
動物:ドナーマウスは、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME)から得た12週齢の雌B10.D2マウス(H−2d、mis−b)であった。レシピエントは、BALB/cマウス(同様にH−2d、mis−b)であった。マウスを、Hadassah−Hebrew University Medical SchoolのAnimal Coreにおいて、12時間の明/暗サイクルで飼育した。全ての動物実験は、Hebrew−University−Hadassah Institutional Committee for Care and Use of Laboratory Animalsの認証を得た。照射および脾細胞移殖に続き、マウスを層流アイソレーターに維持した。全ての動物に、定期的な実験固形飼料および適宜の飲料水を与えた。
【0073】
レシピエントの脾細胞の調製およびドナーへの投与:脾臓をBALB/cおよびB10.D2マウスから摘出し、そして脾細胞を機械的にホモジナイズした。40μmナイロン細胞ろ過器を通して濾過した後、残りのインタクトな細胞を遠心沈殿して、除去した。タンパク質をBiorad Proteinアッセイ試薬を使用して測定した。ドナーB10.D2マウスに、一日おきに(計5用量)、給餌カニューレを用いて50μgのタンパク質を含有するホモジネートした脾細胞タンパク質の給餌をした。使用した脾細胞の用量を、他者および本発明者らによって行われた初期の投与実験によって決定した(Ilanら、J.Clin.Invest.1997;99:108〜1106、Sayeghら、1992;53:163〜166、Sayeghら、Immunology 1996;89:7762〜7768)。50μgの用量が、低用量経口寛容範囲内であることが見出された。
【0074】
脾細胞ドナーおよびレシピエント群:各10匹の動物からなるマウスの2つの群を脾細胞ドナーとして使用した。経口寛容化群(群A’)において、B10.D2ドナーマウスを、レシピエント系統BALB/cマウス由来の脾細胞のホモジネートで給餌した。これらのマウス由来の脾臓細胞を群A BALB/cレシピエントマウス(n=10)中に移殖した。コントロール群(群B’)は、同系B10.D2マウス脾細胞から調製されたホモジネートを給餌したドナーB10.D2マウスからなり、そして群B BALB/cレシピエント(n=10)についての脾臓細胞ドナーとして役立てた。
【0075】
脾細胞移殖:慢性対宿主性移植片病(cGVHD)を誘導するために、B10.D2マウス由来の2.5×107の脾臓細胞を、移殖前に60Coの全身照射(6Gy)を受けた10匹のBALB/cレシピエントマウスの静脈内に注入した(Jaffe B.D.およびClaman H.N.、Cell Immunol.1985;94:73〜84)。
【0076】
一方向混合リンパ球反応(MLR)アッセイによるドナーマウス中に誘導された寛容の評価:ドナーB10.D2マウスにおける、レシピエントマウスの副組織適合性抗原に対する寛容の誘導を、一方向混合リンパ球反応(MLR)試験(Devanderら:Rose NR、Friedman H、Fahey JL、編、Manual of clinical laboratory immunology、3版、Washington、DC:American Society for Microbiology 1988:847〜852、Bisharaら、Transplantation 1994;57:1474〜1479)によって評価した。一方向MLR試験を、B10.D2脾細胞対BALB/c脾細胞において行った。B10.D2に応答して、脾細胞(1×106)を平底マイクロウェルプレート(Sterllin、カタログ番号、M29ARTL)中で、照射(30Gy)したBALB/c脾臓細胞(1×106)と共に、100μg/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、2mM L−グルタミンを補充し、5×10-5 2M−MEおよびマウス脾細胞に吸着させた10%熱非働化ヒトAB血清を有する総容量0.2mlのRPMI 1640培養培地中で培養した。この血清の組み合わせは、強力な一次および二次同種異系応答を生じ、そして低い非特異的なバックグラウンドを生じる。37℃加湿5%CO2インキュベーター中での72時間の後、1mCiの3H TdR(5 Ci/nmol、Nuclear Research Center、Negav、Israel)を各ウェルに添加した。細胞を、マルチプルサンプルハーベスター(Titertek Cell Harvester 530;Flow Laboratories、McClean、VA、22102)を使用して、16〜18時間後に紙のろ紙上に回収し、そして放射活性を液体シンチレーションカウンター中で決定した。寛容および非寛容B10.D2脾細胞のそれら自身に対して生じるバックグラウウンドを、差し引いた。
【0077】
慢性対宿主性移植片病(cGVHD)の評価:慢性対宿主性移植片病の評価を、以下のパラメーターを使用して脾細胞の移植の62日後に行った:全体重および脾臓重量、α1(I)型コラーゲンの遺伝子発現、ならびに肝臓および小腸の炎症応答。
【0078】
体重および脾臓重量:体重を、研究を通じて、毎週記録した。脾臓を、研究の終了時に、計量した。
【0079】
コラーゲンmRNAの皮膚含量のインサイチュハイブリダイゼーション:両方の群のマウスを脾細胞移殖の62日後に屠殺した。皮膚生検を、耳より得て、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に採集した。生検の標本をPBS中の4%パラホルムアルデヒド中で、4℃で、一晩固定化した。連続する5μm切片を、等級エタノール中でサンプルを脱水した後に調製し、クロロホルム中で明澄化し、Paraplast中に包埋した。ハイブリダイゼーションのために、切片をキシレン中で脱パラフィン化し、等級エタノール中で再水和し、5分間蒸留水でリンスし、そして2×SSC中で70℃、30分間インキュベートした。切片を再度蒸留水中でリンスし、そしてプロテイナーゼK(50mM Tris−HCl、5mM エチレンジアミン四酢酸、pH 7.5中に10μg/ml)で10分間処理した。消化の後、切片を0.2%グリシンでブロックし、蒸留水でリンスし、等級エタノールで迅速に脱水し、数時間風乾し、そしてPBS中の10%ホルマリンで後の固定(post−fix)をした。皮膚切片を、プラスミド(pUC18)から1600bpの挿入物を切り出し、pSafyre(B.E.Kream、University of Conneticut、CT、USAからの寛大な贈与物)中に挿入することにより生成した、ジゴキシゲニン標識したα1(I)型コラーゲンのプローブとハイブリダイズさせた。Garscon−Barreら、J Histochem Cytochem、1989;37:377〜81、Pinesら、Matrix Biol.1998;14:765〜81、Pinesら、J.Hepatol 1997;27:391〜398)。
【0080】
慢性対宿主性移植片病(cGVHD)の組織学的変化の等級付け:マウスを、脾細胞移植の62日後に屠殺した。肝臓および腸の炎症の程度の評価のために、組織を両群の全てのマウスから取り出し、10%ホルムアルデヒド中に維持した。各マウスからの5つの組織切片を、パラフィンに包埋し、切片化し、そして標準的な手順によって、ヘマトキシリン−エオシンを用いて染色した。以前に記載されたように、肝臓と小腸のコード化された顕微鏡切片の炎症の程度を、実験条件を知らない2人の経験のある病理学者によって、半定量的に0から4に等級付けした。
【0081】
(a)肝臓切片を、Howellら(Bone Marrow Transplantation 1995;16:139〜145)およびHowellら(Cell Immunol 1992;140:54〜66)に記載される標準的なスコア付け判定基準に従って、等級付けした。手短には;等級0:正常または30%未満の門脈炎症(炎症性細胞によって拡張される門脈道の割合に基づく)および正常の胆管上皮;等級1:30〜40%の門脈炎症および正常の胆管上皮;等級2:40〜60%の門脈炎症および異常な胆管上皮形態;等級3:60〜80%の門脈炎症および胆管のリンパ球浸潤;および等級4:80〜100%の門脈炎症、および胆管細胞の死滅または胆管の破損。
【0082】
(b)小腸の標本を、以下の尺度で等級付けした;等級0:正常の小腸粘膜;等級1:正常な量の粘膜細胞を有する絨毛細胞構築の中程度の変形、陰窩過形成の証拠をともなう陰窩の基底中の時折のアポトーシス細胞;等級2:絨毛細胞構築の部分的消失または平滑化、粘膜細胞枯渇、管腔内の上皮細胞の脱落、著しいアポトーシスおよび陰窩過形成および固有層内への単核細胞の浸潤および腺窩炎;等級3:等級2に加えて斑状かまたは全体的な粘膜の壊死または潰瘍化(Woodruffら、Trans Proc.1976;8:675〜684、Howellら、1995、前掲)。
【0083】
血清サイトカインレベル:プロ炎症性および抗炎症性サイトカインのバランスに対する経口寛容の効果の評価のために、TNFα、IFNγ、IL2、およびIL10血清レベルを、以前に記載されたように(Barakら、1995;17:169〜173、Naglerら、Transplantation 1995;60:943〜948)製造業者の指示に従い、高感度RIAまたは酵素免疫アッセイ(R&D System、USA)によって測定した。これらのキットは、アルカリホスファターゼ反応産物が発色レポーター系の形成の補酵素として役立つ増幅系を使用する。第2の酵素系は、アルコールデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(増幅剤)からなる。血清サイトカインレベルを、脾細胞移植の14日後、各群からの5匹のマウスにおいて測定した。
【0084】
統計学的分析:結果を、サイトカインアッセイについてスチューデントt検定により、そして組織学的等級付けについてMann−Whitneyランク合計試験により、分析した。
【0085】
(結果)
レシピエント脾細胞に対するドナー脾細胞のMLR応答:レシピエントBALB/c脾細胞抗原に対するドナーB10.D2マウスにおける寛容の誘導を、一方向MLR試験によって測定した。図1に示すように、寛容化されたB10.D2マウス由来の脾細胞への応答は、非寛容化B10.D2マウス由来の脾細胞への応答(23,732+2376cpm、n=3、p<0.005)と比較して、BALB/c標的脾細胞に対するMLR応答における顕著な減少を示した(8648+1142cpm、n=3)。
【0086】
脾細胞ドナーの経口寛容化による慢性対宿主性移植片病(cGVHD)の予防:
a.体重および脾臓重量:脾細胞移殖の21日後に、総体重は、群Bレシピエント(非寛容化コントロール由来の細胞を受容)におけるよりも、群Aマウス(寛容化ドナー由来の脾細胞を受容)において有意に重かった(18.35+1.11対15.68+0.98g、n=10、p<0.05)。しかし、62日目の研究の終了時において、いずれの群においても、体重の有意な差異はなかった(データをしめさず)。脾臓重量もまた、研究の終了時において、統計学的に差異がなかった(0.058+0.0099対0.456+0.014g、それぞれ、寛容化および非寛容化脾細胞のレシピエントにおいて、n=10)。
【0087】
b.脾細胞レシピエントにおけるα1(I)型コラーゲン遺伝子発現:レシピエント脾細胞ホモジネートに対して経口寛容化されたドナー由来の脾細胞のレシピエント(群A)は、非寛容化コントロールドナー由来の脾細胞のマウスレシピエント(群B)よりも少ない、肉眼で見える皮膚の肥厚化を維持した。皮膚のα1(I)型コラーゲンmRNA含量を、皮膚の切片とマウスのα1(I)型コラーゲンプローブとのインサイチュハイブリダイゼーションによって測定した(脾細胞移殖の62日後)。寛容化ドナー由来の脾細胞を移殖されたマウスは、非寛容ドナー由来の細胞を受容したマウスよりも、非常に少ないα1(I)型コラーゲン遺伝子発現を示した(図2、パネルAおよびB)。
【0088】
c.脾細胞ドナーの経口寛容化による慢性対宿主性移植片病(cGVHD)関連肝疾患の予防:非寛容化ドナー由来の脾細胞の移殖の62日後に行ったレシピエントの肝臓生検(群B)は、重篤な門脈炎症および胆管の破壊を示した。対照的に、寛容化ドナー由来の脾細胞のレシピエント(群A)は、4/10のマウスにおいて正常な肝臓組織学を示した。群Aの他の6匹のマウスは、軽度〜中程度の門脈炎症、リンパ球浸潤および/または肝臓内胆管の破損を示した。cGVHDにおける肝臓および胆管の関与についての標準的なスコアの等級付けを用いて、コントロール群Bにおける2.25+0.5と比較して、群Aレシピエントは、合計スコア0.2+0.05を達成した(n=10、p<0.005)。
【0089】
d.ドナーの経口寛容化による小腸cGVHDの軽減:非寛容化ドナー由来の脾細胞のレシピエントにおける研究の終了時に行った小腸生検は(群B)、粘膜損傷、絨毛細胞構築の変形、粘膜細胞数の減少および陰窩過形成、固有層内への単核細胞の浸潤および腺窩炎の証拠を示した(図3B)。全ての特徴は、寛容化ドナー由来の脾細胞のマウスレシピエントにおいて、有意に寛解していた(群A、図3A)。cGVHDにおける小腸の関与についての標準的なスコアの等級付けを用いて、群Aおよび群Bにおける小腸の関与の合計スコアは、それぞれ0.6+0.05対2.4+0.8(n=10、p<0.005)であった。
【0090】
(血清サイトカインレベル):レシピエント系統のリンパ球への脾細胞ドナーにおいて経口寛容を誘導することにより、サイトカイン分泌パターンに顕著な変化がもたらされた。血清TNFαレベル、血清IFNγレベル、および血清IL2レベルが、寛容化されたドナーから採取された脾細胞を移植されたマウス(群A)中では、寛容化されていないドナー由来の脾細胞を得た群Bのコントロールマウスと比較して減少した(TNFα、IFNγ、およびIL2について、それぞれ、2.5+0.86pg/ml対16.5+4.84pg/ml;10.1+2.6pg/ml対75.3+11.3pg/ml;および2.1+0.9pg/ml対22.1+5.55pg/ml、p<0.005、図4)。対照的に、血清IL−10レベルが、経口寛容化されたドナー由来の脾細胞を移植されたマウスにおいて、群B由来の脾細胞のレシピエントと比較して増加した(それぞれ、108.5+7.09pg/ml対46.5+4.9pg/ml、n=5、p<0.005、図4)。
【0091】
(まとめ)
レシピエントの同種異系抗原に対するドナーの経口寛容化により、cGVHDの発現と関連する多数の異なるマーカーおよび症状によって示されるように、病理学的病変が改善された。レシピエントの同種異系抗原は同じ遺伝子型を共有するレシピエントとは異なる被験体由来であったが、レシピエントの同種異系抗原(allogen)をレシピエント自身から調製し得たか、または任意の免疫学的に等価な抗原を使用し得たことが理解されるべきである。寛容化が、脾細胞のみのホモジネートを摂食することにより誘導されたが、移植されたリンパ球による、cGHVDの3つの主要な標的器官(すなわち、皮膚、肝臓および小腸)に対する免疫攻撃は予防された。本実施例は、寛容化剤が、その寛容化剤の供給源と同一原であるかまたは同一原でないかのいずれかである細胞および器官に寛容を提供し得ることを示す。
【0092】
(実施例2 GvH疾患に対する経口寛容の移植後誘導)
本実施例は、すでにドナーの免疫細胞を含むレシピエントにおける、経口寛容誘導の実証に関する。レシピエントの抗原または免疫学的等価物の経口投与は、そのレシピエントへ移植されたドナーの免疫細胞における経口寛容化を誘導し得る。本発明のこの局面は、cGVHDを改善するための経口寛容化の使用に関して、安全性の改善および有利な生存能力を提供する。本実施例において示される手段によって、ドナーの安全性は、免疫抑制されることによって必ずしも損われない。さらに、ドナーは、移植の必要性の原因であったレシピエント中のいかなる疾患因子にもさらされない。ドナーは、意図されるレシピエントにまた偶然存在し得る疾患または病原因子にさらされない。本発明の局面は、これにより、このような疾患または病原因子がドナーへ伝染する可能性、および/あるいはこのような疾患または病原因子に対してドナー中で経口寛容を誘導することを回避する。
【0093】
本実施例は、実施例1に前述されたように実行された。ただし、実施例1の例外として、B10.D2ドナー脾細胞の移植後、レシピエントBALB/cマウスにBALB/c脾細胞から抽出されたタンパク質(マウス1匹当たり50μg/日)を11日間摂食させて経口寛容を誘導した。ドナー免疫細胞における移植後寛容誘導の効果の評価を、前の実施例において記載したように実行した。B10.D2脾細胞を移植された寛容化BALB/cマウス由来のエフェクター脾細胞の、BALB/c標的脾細胞(32cpm)に対する混合リンパ球応答において、寛容化されていないコントロール(546cpm)と比較して有意な減少が存在した。経口寛容化は、cGVHDの肝臓の炎症および胆肝破壊および炎症性腸変化を改善した。寛容化されたレシピエントは、体重および皮下脂肪の減少を示し、そしてはるかにより少ない皮膚の肥厚およびコラーゲン沈着物を有した。コラーゲンα1(I)遺伝子発現の減少が、コラーゲンα1(I)プローブを用いたインサイチュハイブリダイゼーションにより示された。血清IL−10レベルは、コントロールにおけるよりも寛容化されたマウスにおいて有意に高かったが、レベルは有意に減少した。
【0094】
(実施例3 相互寛容化)
本発明のさらなる局面は、相互寛容化を実行し得ることである。本局面において、ドナー免疫細胞をレシピエント細胞およびレシピエント器官により提示される抗原に対して寛容化することによるcGVHDの排除に加えて、ドナー細胞またはドナー器官の存在に対するレシピエント免疫系の反応を下方調節する経口寛容の誘導が存在し得る。本発明において開示されるように、このことを、移植手順の間または前のいずれかに実行し得る。また、本発明において記載されるように、寛容化剤は、ドナー、レシピエント、ドナー細胞を有するレシピエント、前述のもののいずれかの免疫学的等価物、およびそれらの組合せに由来し得る。このことは、切除の必要性を排除するため、切除の量を減少させるため、または切断処置を誤って回避したレシピエント免疫細胞において引き起こされる、ドナー細胞に対する免疫反応を排除するために、役立ち得る。
【0095】
(実施例4 実験的結腸炎に対する経口寛容化の誘導効果)
本実施例は、経口寛容化を、結腸炎が誘導されると同時に使用し得るというさらなる実証である。本実施例はまた、正常なドナーならびに結腸炎のドナー由来の結腸抽出タンパク質を使用して経口寛容化を誘導し得るという実証としても役立つ。本実施例はまた、1つの種由来の結腸抽出タンパク質を使用して別の種において経口寛容を誘導し、そして結腸炎を緩和し得るという実証でもある。代替アレルゲンで経口寛容化の誘導することによって実験的結腸炎を緩和する能力は、ヒトの治療において有用である実行可能な方法論を生み出す。例えば、寛容供給源として罹患した組織を使用する必要性は、疾患誘導物質ならびに寛容化因子の転移の可能性を増加し得る。本発明における開示(寛容化タンパク質は必ずしも疾患を示すドナー由来である必要はない)により、この問題および他の潜在的問題が回避される。ヒトにおいて、寛容化剤として使用される物質の供給源として使用される種の性質もまた、倫理上の問題および道徳上の問題を持ち出すことになる。寛容化剤の供給源として異なる種を使用し得ることにより、ドナーが異種であり、それによりこのような問題を回避することが可能になる。同種異系由来の寛容化剤もまた、その薬剤中に存在する病原体または病原体のエピトープが存在し得、経口寛容化剤の投与もまたこの病原体の存在に対する寛容を導くという、内在的危険を有する。このことは、この寛容化剤中に生存可能な病原体が存在する場合、またはレシピエント中に生存可能な病原体が存在する場合に、寛容化時に疾患状態を誘発し得る。寛容化誘導時に生存可能な病原体が存在しない場合に、なお以下のような可能性が存在する。それは、病原体に対する誤った寛容化が、レシピエントが後の時点で病原体にさらされる場合に、疾患過程の誘導を可能にし得ることである。異種供給源または免疫学的に等価な供給源のいずれかを寛容化剤として使用し得ることにより、この事象の可能性を減少させるかまたは排除するかのいずれかが可能である。これらの考察が本発明の他の局面に対して同等に適用可能であることも理解される。
【0096】
(材料および方法)
(動物):正常な近交系BALB/c雄性マウス(2〜4ヶ月)をHarlan Laboratoriesから入手し、そしてHadassah−Hebrew University Medical SchoolのAnimal Coreにて養った。マウスを、標準的実験室食で養い、そして12時間の明/暗サイクル中に保った。全ての動物実験を、Hebrew−University−Hadassah Institutional Committeeの実験動物の保護および使用に関する指針に従って、同委員会の承認を得て実行した。
【0097】
(結腸炎の誘導):TNBS結腸炎を、Neurathら、J Exp Med 1995;182:1281〜1290に記載のように、100μlの50%エタノール中に溶解した2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)(1mg/マウス)の直腸滴注によって誘導した。
【0098】
(経口抗原およびバイスタンダー抗原の調製および投与)
結腸を、正常なマウス、ラット、ウサギおよびヒト検体から、またはマウス、ラット、ウサギおよびヒト検体のTNBS誘導性結腸炎の結腸から取り出して小さな細片とし、そして機械によりホモジナイズした。40μmのナイロン細胞濾過器を通して濾過した後、インタクトな細胞をスピンダウンして除去した。タンパク質を、タンパク質アッセイキット(Biorad)を使用して定量した。正常結腸抽出タンパク質(NCEP)および結腸炎抽出タンパク質(CEP)を、下記の実験群に、無外傷性給餌針を使用して1日おきに10日間(計6用量)経口投与した。ヒト結腸検体の調製のために、結腸サンプルを以前に記載されたように(Neurathら、1995;前出)TNBSにインビトロで曝露した。
【0099】
(実験群):9群のマウス(各々10匹の動物からなる)を以下の表1に示すように研究した。
【0100】
【表1】
全てのマウスを、研究1日目にTNBSで直腸にチャレンジした。全ての群のマウスに、結腸炎誘導日に開始して10日間、1日おきに給餌(50μg/マウス)した。群A〜Dは、結腸炎抽出タンパク質(CEP)を給餌されたマウスを含んだ。群Aのマウスには、マウス由来CEPを給餌した;群Bのマウスには、ラットCEPを給餌した;群Cのマウスには、ウサギCEPを給餌した;そして群Dのマウスには、ヒトCEPを給餌した。群E〜Hのマウスには、正常結腸抽出タンパク質(NCEP)を給餌した;群Eのマウスには、マウス由来NCEPを給餌した;群Fのマウスには、ラットNCEPを給餌した;群Gのマウスには、ウサギNCEPを給餌した;そして群Hのマウスには、ヒトNCEPを給餌した。群Iのコントロールマウスには、ウシ血清アルブミン(BSA)を給餌した。全ての群のマウスを、結腸炎誘導後12日で屠殺した。
【0101】
(実験的結腸炎モデルにおける寛容誘導に対する代替抗原の効果の評価):寛容誘導における代替抗原の役割を、結腸炎についての以下のパラメーターをモニタリングすることにより評価した:
(a)結腸炎の臨床的評価:この研究を通じて、毎日下痢を追跡した。
(b)結腸炎の肉眼検査スコア:結腸炎の評価を、結腸炎誘導後12日に標準的パラメーターを使用して12日間行った(Neurathら、1995前出)。4つの肉眼検査パラメーターを決定した。すなわち、結腸の潰瘍形成の程度;腸管および腹膜の癒着;壁の肥厚;および粘膜の水腫の程度。各パラメーターを、0(完全に正常)〜4(最も重篤)の尺度に、2人の老練で実験条件を知らない試験者により等級付けした。
(c)組織学的病変の等級付け:炎症の組織学評価のために、遠位の結腸組織(最後の10cm)を取り出し、そして10%ホルムアルデヒドに固定した。次に、各マウス由来の5つのパラフィン切片を標準的技術を使用してヘマトキシリンーエオシンで染色した。結腸の顕微鏡検査用切片上の炎症の程度を0〜4(Neurathら、1995、前出)に半定量的に等級付けした。等級0:炎症の徴候がなく正常;等級1:非常に低いレベルの白血球浸潤;等級2:低いレベルの白血球浸潤;および等級3:高い血管密度かつ腸壁肥厚を伴う高レベルの浸潤;等級4:杯細胞の損失、高い血管密度、壁肥厚、および正常な腸構造の破壊を伴う経壁浸潤。この等級付けは、2人の老練で実験条件を知らない病理学者が行った。
【0102】
(免疫寛容の誘導に関連する可能な指標の評価):血清IL4レベルおよび血清IFNγレベルを、Genzyme Diagnosticsキット(Genzyme Diagnostics、MA、USA)を製造者の指示に従って使用して、「サンドイッチ」ELISAにより測定した。全ての実験群およびコントロール群由来の全てのマウスの血清レベルを、結腸炎誘導の10日後に測定した。
【0103】
(NK1.1肝臓関連リンパ球に対する寛容誘導の効果の評価)
(a)肝臓リンパ球の単離:下大静脈を横隔膜の上で切断し、そして肝臓を、青白くなるまで5mlの冷たいPBSでフラッシュした。結合組織および胆嚢を除去し、そして肝臓を冷たい滅菌PBS中の10mlディッシュに配置した。肝臓をステンレスのメッシュ(サイズ60、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)を通して破砕した。細胞懸濁液を50mlチューブ中に3分間入れ、そして冷たいPBSで2回洗浄し(1250rpmで10分間)、そして破片を除去した。そして細胞をPBS中に再懸濁し、その懸濁液をPBSに浸しておいたナイロンメッシュに通した。結合しなかった細胞を回収した。細胞を45mlのPBSで2回洗浄した(室温で1250rpm)。肝臓リンパ球の単離のために、20mlのHistopaque 1077(Sigma Diagnostics、St.Louis、MO)を細胞の下にゆっくり注ぎ、そして50mlチューブ中で7mlのPBSに懸濁した。このチューブを室温で遠心分離(1640rpm、15分間)した。界面の細胞を収集し、50mlチューブ中で希釈し、そして氷冷PBSで2回洗浄した(1250rpmで10分間)。約1×106細胞/マウス肝臓を回収した。トリパンブルー染色による生存能力は、95%より高かった。
(b)NK1.1細胞除去の決定のためのフローサイトメトリー分析:リンパ球単離直後に、2連の2〜5×104細胞/500μl PBSを、4mlの1% BSAとともに10分間インキュベートされたFalcon 2052チューブに入れ、そして1400rpmで5分間遠心した。細胞を1:20のFITC−抗マウスNK1.1抗体(NKR−P1C、Pharmingen、USA)を含む10μlのFCS中に再懸濁し、30分間のうち10分ごとに混合した。細胞を1%BSAで2回洗浄し、0.5mlの1%パラホルムアルデヒドを添加し、そして読み取りまで4℃に保った。コントロール群については、1%BSAを5μlだけ添加した。分析的細胞ソーティングを、各群由来の1×104の細胞に対して、蛍光活性化セルソーター(FACSTAR plus、Becton Dickinson)を用いて実行した。生細胞のみを計数し、そして抗体処理していないリンパ球からのバックグラウンド蛍光を、得られたレベルから減じた。
(c)肝臓リンパ球細胞傷害アッセイ:これらの研究で使用された標的細胞はYAC−1細胞であった。これは、補充された、10%FCSを含むRPMIを使用して組織培養中で連続増殖するように適合化されたリンパ腫細胞株である。YAC−1細胞を、10%FCSを含むRPMIが存在する25mlフラスコ中に密度2×105細胞/mlで播種し、そして24時間後に収集することによって、NKアッセイ用に調製した。細胞を50mlチューブ中で懸濁および収集し、そして培地で2回洗浄(1250rpmで10分間)した。この手順により、51Crでの効率的な標識およびNK細胞による溶解の高感受性を確実にした。標的細胞を51Cr(New Life Science、Boston MA、Gamidor、Israel)で標識し、そして37℃で90分間インキュベートした(300μlのRPMI培地中200mCi/2×106細胞)。細胞を10分ごとに手動で混合した。インキュベーション後、3mlの20%FCS RPMIを添加し、そして37℃で30分間再びインキュベートした。細胞を10%FCS含有RPMIで3回洗浄し、そして計数した。標識効率の程度を決定するため、100μlの細胞を計数し、そして最低で0.8cpm/細胞を測定した。エフェクター細胞は、上記の群A〜H由来の肝臓から単離された肝臓リンパ球であった。51Cr放出アッセイを、Coster 96ウェルプレートにて実行した。段階的に数を変化させたエフェクター細胞(100μl中)を、5000の標識された標的細胞(100μl中)と、エフェクター対標的比(E:T比)が25:1で混合した。各ウェルは、総容量200μl中に標的細胞およびエフェクター細胞を含んだ。各サンプル由来の5つのウェルを、各比について試験した。自然発生的放出を決定するために、同様の標的細胞数である6つのウェルを、10%FCS含有RPMIとともにプレーティングした。最大の放出を決定するために、100μl培地中の6ウェルの標的細胞を100μlのTritonXと混合した。このプレートを2分間遠心分離(500rpm)し、次いで、37℃の5%CO2中で4時間インキュベートした。次いで、このプレートを再び2分間遠心分離し(500rpm)、そして上清を採取し、そしてγカウンターを使用して計測した。結果を、標的細胞の特異的溶解パーセントとして表した。これは、以下の等式を使用して算出した:細胞傷害パーセント=(アッセイの平均cpm−自然発生的放出由来のcpm)/(TritonXで溶解された標的由来のcpm−自然発生的放出由来のcpm)×100。
【0104】
(結果)
(結腸炎の臨床的評価):下痢の顕著な減少が、マウスCEPを給餌された群Aの寛容化されたマウスで観察された。同様の有益な効果が、群Eのマウス由来NCEPで処置されたマウスで観察された。対照的に、ウサギCEPまたはラット結腸由来のNCEP、ウサギ結腸由来のNCEP、もしくはヒト結腸由来のNCEPを給餌された、それぞれ群C、F、G、Hのマウス、ならびにBSAを給餌されたコントロール群Iのマウスは、重篤な下痢に罹患した。マウスの体重の追跡調査により、群Iのコントロールマウスと比較して群Aの寛容化されたマウスのうちで、統計的に有意な体重の増加が示された(それぞれ、11.7%対5.9%、P<0.005、図5)。同様な有益な効果が、マウス由来NCEPで処置された群Eのマウスで観察され、そしてそれらの体重は10.6%増加した(p<0.005)。有利な効果はまた、ラットCEPおよびヒトCEPを給餌されたマウスでも観察された(群BおよびDについての体重の増加は、それぞれ、8.5%および8.9%)。対照的に、ウサギCEPまたはラットNCEP、ウサギNCEP、もしくはヒトNCEPで処置された群C、F、G、Hのマウスでは、全く有意な体重の増加は見られず、そしてそれらの体重は、それぞれ、5.3%、6.1%、6.05%、および6.9%増加していた(図5)。
【0105】
(結腸炎の肉眼検査による等級付け):マウス抽出の結腸炎由来タンパク質の摂食による経口寛容の誘導(群A)、またはマウスの正常結腸抽出タンパク質による経口寛容の誘導(群E)は、顕著に結腸炎の肉眼検査による等級付けを軽減した。試験された結腸炎の肉眼検査用パラメーターのスコアは以下であった:結腸の潰瘍形成の程度、腸管および腹膜の癒着、壁肥厚、および粘膜の水腫の程度。肉眼検査の総スコアは、非処置のコントロール群Iの3.3と比べて、群AおよびEのマウスで、それぞれ0.4および0.56であった(p<0.005、図6)。有利な効果はまた、ラット由来CEPおよびヒト由来CEPを給餌されたマウス(群BおよびD)でも観察された。それらの肉眼検査の総スコアは、それぞれ、0.8および0.7と測定された。対照的に、ウサギCEP、またはラット由来NCEP、ウサギ由来NCEP、もしくはヒト由来NCEPを給餌された、非寛容化マウス(それぞれ、群C、F、G、およびH)は、重篤な結腸炎に罹患し、そしてそれらの肉眼検査の総スコアは、それぞれ、1.9、2.75、1.85、3.25であった。非処置のコントロールマウスの総スコアは、3.3であった(群I、図6)。
【0106】
(組織学的病変の等級付け):腸組織の組織学的評価により、非寛容化マウス(群C、F、G、およびH)と比較して、そしてコントロールマウス(群I)と比較して、寛容化マウス(群AおよびE)における炎症応答および粘膜の潰瘍形成の顕著な減少が示された。群AおよびEのマウスにおいて、ほとんど正常な切片、すなわち最小のリンパ球浸潤のみが検出された(図7、パネルAおよびE)。対照的に、重篤な炎症反応(3〜4等級)が、非寛容化マウスから採取された腸検体で観察された(図7、パネルF)。部分的効果が、ラット由来CEPを給餌されたマウス(群B)およびヒト由来CEPを給餌されたマウス(群D)で観察された(図7、パネルB)。寛容化マウス(群AおよびE)における標準的病理学的試験の結果により、スコア0.4および0.8が得られた。対して、非寛容化マウス(群C、F、G、およびH)については、それぞれ2.2、3.25、2.25、および2.75であった(図8)。群Iのコントロールの非処置マウスは、肉眼検査により重篤な結腸炎を示し、病理学的スコアは3.1であった(示さず)。
【0107】
(血清IL4レベルおよび血清IFNγレベル):寛容化マウスは、Th1からTh2への免疫応答サイトカイン分泌のシフトを示した。マウス由来CEPの摂食により、結腸炎誘導の10日後に、IL4レベルの増加およびIFNγ血清レベルの減少が誘導され、それぞれ、22.4±5pg/mlおよび1.2±0.7pg/mlになった(コントロール群Iと比較した群A、p<0.005)。同様に、マウス由来NCEPの摂食により、Th1からTh2への免疫シフトが誘導され、IL4血清レベルおよびIFNγ血清レベルは、それぞれ25.4±5.7および3.5±0.9であった(群E、p<0.005、図9)。対照的に、非寛容化群C、F、G、Hおよびコントロール群I由来のマウスは、高いIFNγ血清レベルおよび低いIL4血清レベルを示した(それぞれ、17.4±3.7および3.1±0.9;22.1±4および4.3±1.1;18.4±3.8および2.1±0.8;16.3±2.9および2.7±0.7;19.5±4.2および1.9±0.4、図9)。
【0108】
(寛容誘導によりNK1.1+LAL細胞傷害機能が増強された):肝臓内リンパ球を、全ての群の処置マウスおよびコントロールマウスから単離した。分析的セルソーティングを、リンパ球単離後の各群由来の細胞に対して、FITC−抗マウスNK1.1抗体を使用して行った。マウス由来CEPの摂食およびマウス由来NCEPの摂食による寛容の誘導によって、NK1.1+LAL細胞傷害機能が顕著に増強された(特異的溶解アッセイにより測定)。YAC−1細胞を、これらの研究で標的細胞として、E:T比が25:1で使用した。群AおよびEの寛容化マウスから単離された肝臓リンパ球は、群Iの非寛容化コントロールマウスと比較して細胞傷害性の増加を示した(群AおよびE対群Iが、それぞれ35.6%および48.6%対10.7%、p<0.005、図10)。同様の効果が、群BおよびD由来のマウスで観察され、ここで、細胞傷害率が、それぞれ29.1%および26.9%と測定された。対照的に、群C、F、G、およびH由来の非寛容化マウスは、有意により低いNK1.1+LAL細胞傷害率を示した(それぞれ、17.6%、18.8%、22.1%、および11.9%、図10)。直腸へのTNBS滴注は、細胞傷害アッセイに対して何の効果を有さなかった(群I、10.7%)。
【0109】
(実施例5:経口寛容の大腸炎後の誘導)
経口寛容化が、大腸炎が被験体において確立された後でさえも、大腸炎の症状を制御するために使用され得ることをさらに実証した。本実施例を、以下を除いて、先の実施例に記載された同じ手順を使用して行った。
【0110】
実験群:各々10の動物からなる、マウスの6つの群を研究した(表1)。全てのマウスを、本研究の第1日目に直腸のTNBSでチャレンジした。A、B、およびE群のマウスに、大腸炎を誘導した日から始めの10日間、隔日で給餌させた。確立された実験的大腸炎に対する寛容誘導の効果の評価のために、C、D、およびF群のマウスに対する、類似の用量での給餌を、大腸炎の誘導後7日目に開始した。AおよびC群のマウスに、大腸炎抽出タンパク質(CEP)を給餌した。寛容誘導に対する代理の抗原の効果を評価するために、BおよびD群のマウスに、正常結腸抽出タンパク質(NCEP)を給餌した。コントロールのEおよびF群のマウスに、類似の用量のウシ血清アルブミン(BSA)を給餌した。全ての群のマウスを、大腸炎誘導後21日目に屠殺した。
【0111】
経口寛容誘導の効果の評価を、先の実施例に記載のように行った。
【0112】
(結果)
大腸炎の臨床評価:マウスCEPを給餌させたA群由来の寛容化マウスにおいて、顕著な下痢の減少が観察された。同様の有利な効果が、B群のマウス由来NCEPで処置したマウス(それらは、1日目に給餌を開始した)において観察された。部分的に有利な効果が、寛容を確立された大腸炎の存在下で誘導したマウス(CおよびD群)において観察された。対照的に、BSAを給餌させたコントロールのEおよびF群のマウスは、重篤な下痢を罹患した。マウス体重の経過観察により、E群のコントロールマウスと比較して、A群の寛容化マウスの間で、体重の統計的に有意な増加が明らかになった(それぞれ、4.2% 対 11.7%、p<0.005)。同様の有利な効果が、マウス由来NCEPで処置したB群由来のマウスにおいて観察され、そしてそれらの体重は、8.9%増加した(p<0.005)。有利な効果はまた、大腸炎の誘導後7日目に、CEPおよびNCEPでの給餌を開始させたマウスにおいても観察された(CおよびD群についての体重において、それぞれ9.3%および7.2%の増加)。対照的に、BSAで処置したマウスにおいては、体重の有意な増加が示されなかった。それらの体重は、EおよびF群のマウスについて、それぞれ4.2%および4.1%増加した。
【0113】
大腸炎の肉眼的分類:マウスから抽出された大腸炎由来タンパク質の給餌による経口寛容の誘導(A群)、またはマウス正常結腸から抽出されたタンパク質での経口寛容の誘導(B群)は、大腸炎の肉眼的分類を顕著に緩和した。試験した大腸炎の肉眼的パラメーターについてのスコアは:結腸の潰瘍化の程度、腸と腹膜の癒着、壁の厚さ、および粘膜水腫の程度であった。全肉眼的スコアは、AおよびB群のマウスでそれぞれ、0.4および0.7を測定したのに対して、EおよびF群の非処置のコントロールにおいては、3.3および3.1であった(p<0.005)。有利な効果はまた、大腸炎の誘導後7日目に、CEPでの給餌を開始したマウス(C群)においても観察された。それらの全肉眼的スコアは、1.2を測定した。部分的に有利な効果は、大腸炎の誘導後7日目に、NCEPでの給餌を開始したマウスにおいて示され、そしてそれらのスコアは1.9であった。
【0114】
組織学的病変の分類:腸組織の組織学的評価により、EおよびF群の非寛容化コントロールマウスと比較して、A、B、CおよびD群の寛容化マウスにおける炎症性応答および粘膜潰瘍化の顕著な減少が示された。AおよびB群のマウスにおいて、ほとんど正常な切片が検出されるか、またはごくわずかなリンパ球の浸潤が検出されるだけであった。対照的に、重篤な炎症性反応(グレード3〜4)が、非寛容化コントロールマウスから採取された腸の試料において観察された。部分的な効果が、大腸炎の誘導後7日目に、CEPまたはNCEPでの給餌を開始した、CおよびD群のマウスにおいて観察された。A、B、CおよびD群由来の寛容化マウスにおける標準的な病理学的試験の結果は、それぞれ、0.4、1.2、1.4および1.95のスコアを示した。EおよびF群におけるコントロールの非処置マウスは、重篤な肉眼的な大腸炎を示し、病理学的スコアはそれぞれ、3.1および3.25であった。
【0115】
血清IL4、およびIFNγレベル:寛容化マウスは、Th1からTh2免疫応答サイトカイン分泌への変化を示した。マウス由来CEPの給餌は、大腸炎誘導後10日で、IL4レベルの増加およびIFNγの血清レベルの減少を誘導した(それぞれ、22.4±5pg/mlへおよび1.2±0.7pg/mlへ)(A群、コントロールのE群と比較して、p<0.005)。同様に、マウス由来NCEPの給餌は、Th1からTh2への免疫変化を誘導し、IL4およびIFNγの血清レベルは、それぞれ、18.4±1.9および2.4±0.9であった(B群、p<0.005)。CEPまたはNCEPを給餌した、既存の疾患の存在下で寛容化された初回刺激を受けたマウスは、同様のサイトカイン系列を示し、そしてそれらのIL4レベルは、16.4±2.9および10.3±1.1に増加したが、IFNγ血清レベルは、6.3±0.9および7.3±1.1を測定した(それぞれ、CおよびD群)、対照的に、非寛容化コントロールのEおよびF群由来のマウスは、高いIFNγおよび低いIL4の血清レベルを示した(それぞれ、18.4±2.7および1.9±0.3;ならびに22.1±1および2.1±0.5)
(実施例6 マウスにおけるHBV抗原に対する経口寛容化の誘導)
本発明の局面の1つは、病原体による感染に関連する二次的発症の誘導を抑止するための、SIDRおよび/またはGISの適用である。これらの発症は、病原体の複製プロセスに直接的に関係しないという点で、その感染に対して二次的であると定義される。このような二次的発症の例示的な例は、細胞傷害性、誘導性自己免疫およびアポトーシスのような病理学的プロセスである。二次的発症がすでに存在している被験体において、本発明は、疾患症状のさらなる進行の防止または低減を導く。
【0116】
本発明の1つの局面において、SIDRまたはGIDS、あるいはそれらの任意の組み合わせを、病原体による感染の結果である所望しない免疫応答を軽減するために被験体に使用する。本開示は、本発明がHBV感染に関連する肝臓の損傷の予防および/または処置のための治療的アプローチとして有する、有用性を記載する。他の病原体の例としては、HCV、CMV、レトロウイルス(例えば、HIV)および細菌(例えば、Strepotomyces、Helicobacteria、およびChlamydia)が挙げられる。これらの病原体による感染は、自己免疫機能障害に由来し得る疾患に関与する。これらの疾患としては、肝炎、AIDS、アテローム性動脈硬化症、アテローム、血栓症、冠状動脈疾患および心筋梗塞が挙げられ得る(Mahtaら、J.Am Coll Cardiol 1998;31:1217−1225、GurfinkalおよびBozovich、Atherosclerosis 1998;140 Suppl 1:531−35、Ossel−Gerningら、Cardiovasc Res 1997;35:120−124、Andersonら、J Am Coll Cardiol 1998;32:35−41、Biasucclら、1999;99:855−860)。
【0117】
以下の実施例は、HBV抗原に対する免疫寛容を誘導することが可能であること、および経口寛容が、HBV抗原に対する既存の免疫応答のダウンレギュレーションに使用され得ることの実証である。
【0118】
(材料および方法)
動物:正常な同系の、雌BALB/cマウス(25〜30グラム)を、Hadassah−Hebraw University Medical SchoolのAnimal Coreから得た。マウスを標準的な実験用固形飼料上で維持し、12時間の明/暗のサイクルで飼育した。全ての動物実験は、Hebraw−University−Hadassah Institutional Commitee for Care and Use of Laboratory Animalsのガイドラインに従って、委員会の承諾を得て行った。
【0119】
抗HBV免疫応答の誘導:BioHepB組換えB型肝炎ワクチン(BioTechnology General LTD、Israel)(B型肝炎ウイルスの3つの表面抗原:HBsAg、PreS1、およびpreS2を含む)を、抗HBV免疫応答の誘導のために使用した(Shouvalら、Vaccine 1994;12:1453−1459)。このワクチンは、他のワクチンに比べて免疫原性を改善することが以前に示されており、そして高いセロコンバージョンレベルおよび高い抗体力価(同書)を誘導することから、このワクチンを選択した。本発明者らは、効果的な抗ウイルス免疫応答の誘導のために必要とされる、最適なワクチン用量を試験した。それぞれ10匹の動物からなるマウスの3つの群を研究した。それぞれの群のマウスに、3つの用量のBioHspBワクチン:0.2、0.4、または0.8mcgのうちの1つを、腹腔内(i.p.)注射した。ワクチン接種後30日に、血清抗HBs抗体の力価についてマウスを追跡した。
【0120】
HBV抗原に対する経口寛容の誘導:組換え調製したHBsAg、およびPreS1、およびPreS2抗原(BioHepB、BioTechnology General LTD、Israel)を、本発明の末梢免疫寛容の誘導のための標的抗原として使用した。末梢寛容を、1mcg/給餌の低用量のHBV抗原(BioHepB)を、給餌用の非外傷性の針を使用して、10日間の隔日での経口投与(計5用量)により誘導した。コントロールの群に、同用量のウシ血清アルブミン(BSA)を給餌させた。
【0121】
実験群:それぞれ10匹の動物からなるマウスの8つの群を、以下の表2に示されるように研究した。
【0122】
【表2】
実験群A〜GをBioHepBワクチン(0.04mcg)を用いて、1ヶ月間隔で2回腹腔内(i.p.)接種した。コントロールA群のマウスを1日目および30日目に経口給餌を伴わないでワクチン接種した。そして30日目および60日目の各注射の30日後に、血清抗HBs抗体力価について追跡した。天然の動物における体液性抗HBV免疫応答に対する経口寛容誘導の効果を決定するために、B群およびC群のマウスを、それぞれ、HBVエンベロープタンパク質(BioHepB)またはウシ血清アルブミン(BSA)を給餌した。次いで、10日目および40日目にBioHepBワクチンを用いて2回の腹腔内接種を行った。各免疫後30日、すなわち40日目および70日目で、マウスを抗血清HB力価について追跡した。既存の抗HBV免疫応答に対する経口寛容誘導の効果を決定するために、D群およびE群のマウスをBioHepBワクチンを用いて腹腔内接種し、次いで、ワクチン接種日から実験D群のマウスにHBVエンベロープタンパク質(BioHepB)を経口投与するか、またはコントロールE群にBSAを経口投与した。両群のマウスを30日目にBioHepBワクチンを用いて再度免疫し、そして2回目の注射の30日後、60日目に、抗HBs抗体力価を測定した。経口寛容誘導の抗HBV免疫に対する効果のさらなる決定のために、F群およびG群のマウスを、1日目および30日目にBioHepBワクチンを用いて2回の腹腔内接種を行い、次いで、実験E群のマウスにHBVエンベロープタンパク質(BioHepB)を経口投与するか、またはコントロールG群にBSAを経口投与した。マウスを30日目の経口寛容誘導の前に抗HB力価について追跡し、次いで、60日目に寛容誘導を行った。HBVエンベロープタンパク質(BioHepB)経口投与の抗HBs力価に対する効果を決定するために、H群のマウスは、ワクチン接種を伴わないで5経口用量のHBV抗原を受けた。マウスを抗HB血清レベルの発現について30日後に追跡した。
【0123】
抗HBs体液性免疫応答の評価:HBsAgに対する抗体を、市販の固相ラジオイムノアッセイ(RIA,Auaab,Abbott Laboratories,North Chicago,IL)により検出した。世界保健機関の参考血清をRIAによる抗HBsの定量的なアッセイのために使用した。これは、ホリンガー公式を利用し、そしてmIU/ml/mlで表される。全ての実験群およびコントロール群のマウスを、本研究を通して、BioHepBワクチンの各接種の30日後に抗HBs抗体力価について追跡した。
【0124】
統計学的分析:標準的なスチューデントt検定を使用して分析した。
【0125】
(結果)
抗HBV免疫応答の誘導:3つの群のマウスを、異なる3用量のBioHepBワクチンを用いた接種後に抗HBs抗体力価について追跡した。0.4mcg用量および0.8mcg用量と比較した場合0.2mcg用量との間で有意な差違が観察された。0.2mcgを用いたワクチン接種は、それぞれ0.4および0.8mcgを用いた接種後の57.05±35.85および78.20±82.31mIU/mlと比較した場合12.66±7.28mIU/mlの抗HB力価を誘導した(0.4および0.8対0.2については、それぞれp<0.05およびp<0.03、ならびに0.4mcgと0.8mcgとの間の差違についてはP=0.2;図11)。その結果、本研究において、腹腔内に投与するワクチン接種用量は0.4mcgを使用した。
【0126】
寛容誘導の抗ウイルス体液性免疫応答に対する効果の評価:抗HBV末梢免疫寛容の誘導を、HBVワクチン接種より前に給餌されたマウスにおいて、抗HBs Ag抗体産生を月間隔で測定することによって評価した。BioHepBワクチン接種より前のHBVタンパク質の投与は、抗ウイルス体液性免疫応答を著しく下方制御した。ワクチンの初回接種の30日後の抗HBs抗体血清レベルは、非寛容化非給餌コントロール群(A群)、およびBSA給餌群(C群)のコントロールと比較した場合、寛容化HBVエンベロープタンパク質給餌群(B群)において、それぞれ、709±390および777±348対385±154mIU/mlであった(p<0.013、図12A)。さらに、BioHepBワクチンを用いた2回目の接種30日後の抗HBs抗体力価は、寛容化コントロール群対非寛容化コントロール群において、66495±44007mIU/ml対95257±78320および123807±78130mIU/mlであった(A群およびC群、p<0.05、図12B)。
【0127】
経口寛容誘導の既存の抗HBV免疫応答に対する効果の評価:既存の抗HBV免疫応答に対するHBVタンパク質側への寛容誘導の効果を、BioHepB抗原またはBSAを経口投与された抗HBV免疫化マウスにおける抗HBs抗体力価を測定することにより評価した。HBVワクチン接種への曝露直後のHBV抗原の給餌は、BioHepB接種60日後、抗HBs力価を、非寛容化(E群)コントロールの214776±148897mIU/mlと比較した場合、寛容化(D群)において114024±94097mIU/mlまで減少させた(p=0.15、図13)。さらに、ワクチンでの2回の免疫化の30日後のHBV抗原の給餌は、抗HBs抗体力価を、60日目(2回目の免疫の30日後)に測定した場合、寛容化HBVエンベロープタンパク質給餌対非寛容化BSA給餌コントロールにおいて57354±37873対98195±57256mIU/mlまで有意に減少した。(それぞれ、F群およびG群、p<0.01、図14)。免疫化を伴わないHBVエンベロープタンパク質の経口投与は、抗HB抗体力価に対して効果を有さず、そしてこれらの抗HB血清レベルは検出不可能であった(H群、未掲載)。
【0128】
(まとめ)
この実施例は、エンベロープタンパク質の経口投与が、HBVエピトープへの寛容を誘導し得ることを実証する。HBVエンベロープタンパク質のPreS1およびpreS2およびHBsAg組換え複合体の天然の動物への給餌は、ワクチン接種に際し抗HBV免疫応答を下方制御した(B群およびC群)。さらに、この実施例は、予め免疫したマウスへのHBVタンパク質の経口投与が、HBVエンベロープペプチド側への寛容を誘導したことを実証する(実験群DおよびE)。さらに、寛容誘導は、抗ウイルス体液性二次免疫応答を著しく下方制御した。2回のワクチン接種後の抗HBV免疫寛容の誘導は、抗HBS抗体産生を効果的に阻害した(実験群FおよびG)。
【0129】
(実施例7 TupaiaのHBV感染)
本実施例は、小動物モデルとしてTupaia belangeriを使用する。これは、同時係属出願の主題である(Brownら、1997年6月16日出願の米国特許出願番号08/876,636)。本実施例は、Tupaia belangeriにおいて、HBVによる感染の後に誘導される疾患症状の実証に関する。これを使用して治療的なレジメの有効性を測定し得る。
【0130】
(材料および方法)
(被験体)Tupaia belangeriをDuka University Vivarium,Durham NCから入手し、そしてAlbert Einstein College of Medicine,Animal Instituteにて飼育した。Tupaiaを70℃にて12時間の明期/暗期周期で、ネコのケージまたはリスザルのケージあたり2匹のトガリネズミの1匹または交配ペアで飼育し、そして新鮮な果物(ブドウ、バナナ、りんご、およびオレンジ)の食餌、乾燥したキャットフード、および水を与えた。各ケージはまた小さな巣箱を含んだ。
【0131】
(TupaiaのHBV感染)Tupaiaを、94:1のケタミン:キシラジン(Fort Dodge Animal Health,Fort Dodge,IowaからのKetaset(100mg/ml)およびBayer,Shawnee Mission,KansasからのRompus(20mg/ml))を使用して麻酔した。体重1グラムあたり0.001mlの用量で大腿へ筋内注射により投与した。HBV接種物は、10のHBV血清陽性(serpositive)の臨床試料のプールに由来した。感染のためにTupaiaの尾の毛を剃り、消毒し、次いで0.1mlのHBVプールを、27ゲージの蝶形針を使用して尾静脈に静脈注射した。
【0132】
(血清学)尾の裏面の毛を剃り、消毒した後、麻酔したTupaiaの尾静脈から、0.5〜1.0mlの血液サンプルを27ゲージの蝶形針を使用して収集した。Tupaiaからの血液サンプルをHBV接種前に収集し、そしてその後、毎週収集する。ポリクローナルHBsAg試験を使用する長期感染由来の一連のサンプル(Austral Biologicals,San Diego,CA)を除いて、HBVの血清学的な全ての試験をENZO Clinical
Laboratories(Farmingdale,NY)にて、臨床試料について使用されるものと同じ手順で行った。PBS中の血漿の連続希釈物を、Tupaia抗体レベルを試験の有益な範囲に対して滴定するために作製した。ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)レベルをSigma(St.Louis,MO)から購入した市販のキットにより長期間測定する場合、製造業者の指導書を使用する。
【0133】
(組織学)肝臓の経皮的なバイオプシーを、全身麻酔下で滅菌技術を使用して行った。腹部の垂直正中線小切開術(small vertical midline incision)を使用して肝臓を曝露し、パースライン縫合(テーパーニードルおよび絹を使用する)で肝臓部分を結紮した後、小さな楔形の肝臓バイオプシーを取り出した。バイオプシー組織を分割した:一部分を中性ホルマリン中に保存し、そして他の部分を−80°で凍結させた。ホルマリン固定組織をパラフィン包埋し、切片にし、そして組織学的検査のためにヘマトキシリン/エオシン(H&E染料)、コラーゲンのためにトリクローム染料、またはTupaiaコラーゲンを染色するレチクリン染料を用いて染色した。
【0134】
(HBV RNAのためのインサイチュPCR)プライマーおよびプローブ用にHBV特異的配列を使用したことを除いて、Liuら(1997;J.Vir.71:4079)に記載されるプロトコルに従って反応を行った。これらの配列は以下の通りである:
HBV A: 5’−TGCCTGAGTGC(T/A)GTATG−3’
HBV B: 5’−TAGGAGGCTGTAGGCAT−3’
HBプローブ: 5’−TTTATAAGGGTCGATGTCCAT−3’
(結果)
(TupaiaのHBV感染)HBV保有者血清を用いて接種されたTupaiaのHBV感染の証拠を以下の表3に示す。
【0135】
【表3】
HBV感染したTupaiaにおいて、HBV表面抗原(HBsAg)は、接種後2時間に検出され始め、24〜48時間でピークに達し、そして全ての処置されたTupaiaにおいて4〜6日間持続した(表3a)。より長い時点からのHBsAgの産生は、モノクローナルアッセイに対してネガティブであった。しかし、ポリクローナル抗体キットを代用した場合、HbsAgは、研究の経過時間を通じて検出され続けた(10ヶ月)。E−抗原(HBeAgとしてもまた知られる)は、ウイルスコアタンパク質の血清可溶性の改変であり、ヒトにおいて、活性ウイルスの複製についてのマーカーである。HBeAgは、HBV接種後に試験された、3匹全てのTupaiaからの血液サンプルにおいて検出された(表3b)。HBeAg分泌の検出は、継続的血液サンプルにおいて9〜24日に延長した。コントロールの未処置Tupaiaにおいて、HBVウイルス抗原は血液中で検出されなかった。同様に、HBV接種tupaia由来の前処理の血液サンプルにおいて、HBVは検出されなかった。このことは、用いられたTupaiaが以前にヒトHBVに曝露されていなかったことを示す。この血清学的データより、本発明者らは、HBVキャリア血清を接種されたTupaiaは感染し、そしてそれらはウイルスを複製すると結論づけた。
【0136】
HBV抗原に対するTupaiaの免疫学的応答。HBVに対する宿主免疫応答は、感染されたヒト肝臓における壊死炎症性反応において重要な構成要素であるため、HBV抗原がTupaiaにおける免疫応答を起こす能力を試験した。HBVウイルスタンパク質に対する血漿抗体レベルを、Tupaiaの感染後、HBVに対する体液性免疫応答を基準として測定した。HBsAgに対する抗体が未処置のTupaiaにおいて検出されず、HBVを接種する前のTupaiaから採取した血液サンプルにおいても検出されなかった。下の表4に示すように、抗体の検出を、各被験体について異なる時点で行った。
【0137】
【表4】
1匹の動物は、たった4週間後で検出可能なレベルを生じた。第2の被験体は、感染7週間後に検出可能なレベルを生じた。3匹全ての被験体に、2回目のHBVを接種した。試験したとき3匹全ての被験体は、抗体に対してポジティブであり、力価は二次免疫応答後、HBVが感染した個々のTupaiaについて2×103〜2×105の間で変化した。これらの結果は、HBV感染後に、Tupaiaが、このウイルスに対する体液性免疫応答を生じ得ることを示す。抗体産生のタイミングおよび規模における変化は、ヒト患者の間に見られるものと類似している。
【0138】
(HBVが感染したTupaiaにおける肝細胞死)HBVが感染したヒト肝臓組織において、ウイルス感染肝細胞に対する宿主の細胞性免疫応答は、肝細胞の死を引き起こすと考えられる。肝細胞の死の1つのマーカーは、溶解性肝細胞から血漿へのアミノトランスフェラーゼの放出である。血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルは、ウイルス肝炎における肝細胞の死および肝臓の損傷の標準的基準である。Tupaia血漿におけるATLレベルを、TupaiaへのHBVの接種前および後に測定した。正常で、未処置のTupaiaALTレベルは、13〜40単位/mlの範囲で、そして平均25単位/mlであり、正常なヒトALTレベルに類似していた。しかし、HBV接種後では、TupaiaにおけるALTのレベルは、図15に示されるように正常なレベルの2〜5倍に上昇した。この上昇は、ヒトにおいて見られるように、肝細胞の死を導くHBVに対する細胞性免疫応答が存在したことを示すと見なされ得る。ALTの上昇の持続期間は、個々のTupaia間で変化した(最大10ヶ月の持続期間)。6ヶ月以上の期間にわたる持続的または周期的なALTの上昇は、感染および破壊される肝細胞の連続的サイクルが存在するヒトにおける、慢性的な肝炎の特徴である。
【0139】
(肝炎およびHBV複製の組織学的証拠)
感染されたおよび非感染のTupaia由来の生検の例証的な写真を図16に示す。
【0140】
パネルA:ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した未処置の正常なTupaiaの肝臓切片(50×)は、門脈に隣接する単一の胆管、および予備リンパ球とともに、平凡な形態を示す。肝臓の構造は、正常なヒトの肝臓に匹敵する。
【0141】
パネルB:HBV感染2ヶ月後に得た生検由来のHBV感染Tupaiaの肝臓切片。H/E染色は、胆管の増殖を示す(50×)。示される視野は、この視野および肝臓組織の隣接切片に見られる多くの視野の代表である。
【0142】
パネルC:HBV感染2ヶ月後に得、そしてH/Eで染色した生検由来のHBV感染Tupaiaの肝臓切片(250×)は、変化した肝細胞形態を示す。いくつかの細胞の大きさを拡大した(バルーンニング(balooning))。門脈の炎症および門脈の周りに単核細胞が見られる。
【0143】
パネルD:HBV感染Tupaia(10ヶ月後の生検)のH/Eで染色した肝臓切片(50×)は、門脈周囲および小葉のリンパ球浸潤を示す。
【0144】
パネルE:HBV感染Tupaia(6ヶ月後生検)のトリクロームで染色した肝臓切片(50×)。肝臓の構造は、この視野においてはコラーゲンの鎖によって歪められる。ブルー染色コラーゲンの鎖が見られ、このコラーゲンの鎖は、少なくとも3つの門脈領域で連結する。完全に形成された硬変性小節は見られない。
【0145】
パネルF:HBV感染Tupaia、パネルDと同じ動物、H/Eで染色した10ヶ月後の肝臓生検(250×)。リンパ球が門脈三管構造から拡がり、そして断片的な壊死パターンにおける変性肝細胞を囲む。
【0146】
パネルG:レチクリンで染色された未処理のTupaia肝臓切片は、正常なヒトの肝臓に匹敵する正常な構造、網様構造を示す。
【0147】
パネルH:HBV感染Tupaia、(パネルEと同じ動物、HBV感染6ヶ月後、レチクリンで染色された)は、再生を示すレチクリンによって個々に囲まれていない肝細胞の群ならびにコラーゲンの沈着および肝細胞の崩壊を示す細胞外マトリクスの太い鎖を示す。
【0148】
HBV RNAのインサイチュPCR検出を図17に示す。上方左のパネルは、HBV感染6ヶ月後のTupaiaの肝臓におけるB型肝炎のRNAの分布を示す。より高い拡大率で、(上方右のパネル)感染された肝細胞および予備クップファー細胞を示し得る。ウイルスRNAは、図17の下方左のパネルに見られるように、非感染のコントロール動物において検出されなかった。対応するウイルス感染した肝臓のレチクリン染色は、中心静脈の領域まで拡張する門脈路の領域において、レチクリン線維の広汎性の増加を示す(図17の下方右パネル)。
【0149】
3匹のTupaiaの場合のまとめを、より詳細に以下に示す;1匹の感染されていないコントロールTupaiaならびにHBV接種6ヶ月後および10ヶ月後に試験した2匹のTupaia。各標本由来の肝臓切片を染色し、次いで2つの臨床的病状によって個々に分析した。
【0150】
(Tupaia#1)未処置の成体Tupaia。HおよびE染色は、正常な肝臓構造を示す。門脈路における炎症の形跡は存在せず、そして洞様毛細血管空間において単核細胞がまれに存在する。肝細胞および胆管は、平凡である。レチクリン染色(コラーゲン沈着について染色する)は、レチクリンの増加を全く示さない。それ故、この肝臓組織は、正常の範囲内にある。インサイチュPCR反応後のHBV RNAの存在についての形跡は見られなかった。
【0151】
(Tupaia#2)HBV接種6ヶ月後に得られた標本。HおよびE染色は、正常な肝臓の構造を示す。門脈路における中程度の、慢性的な炎症(門脈肝炎)の広範な形跡が存在する。これらの炎症性細胞の大部分は、リンパ球およびプラズマ細胞である。時折、炎症は境界板(limiting plate)を通り越す(小葉の肝炎)が、肝細胞壊死/断片的壊死は、明らかでない。洞様毛細血管空間において散乱した単核細胞が存在する。肝細胞は、拡散性および重篤な脂肪変性(脂肪変化)を示す。これは、HCV感染したヒト肝臓において共通に見出される。血清学的試験は、HCVに対し、ネガティブな結果を与えた。このことは、このTupaiaにおいて、脂肪変性が、混入にも先のHCV感染にも起因しないことを示す。まれな石灰沈着細胞(ground glass cell)が、明らかであり、これは、HBVに感染されたヒト肝臓に共通して見出され、そして肝細胞内でのHBsAgの蓄積から生じる。コラーゲン沈着についてのレチクリン染色は、レチクリン線維の拡散性および中程度の増加を示し、このレチクリン線維は門脈路に集中し、そしてまれに中心静脈の領域まで拡がる。これらの組織学的知見は、中程度に重篤な慢性的ウイルス肝炎と一致する。隣接する組織切片におけるHBV複製についての試験の結果、ウイルス性RNAが、RTインサイチュPCR技術を用いて予備的な肝細胞において検出された。ウイルス核酸は、核膜の領域に局在した。このことは、生検時の肝臓における活性なHBV複製を示す。
【0152】
(Tupaia#3)HBV接種10ヶ月後に得られた標本。HおよびE染色は、正常な肝臓の構造を示す。門脈路における慢性的な炎症(門脈肝炎)の最小の形跡が存在する。まれな単核細胞が洞様毛細血管空間に存在し、そして肝細胞は、平凡である。コラーゲンについてのレチクリン染色は、門脈路に集中するレチクリン線維の、限局的かつ穏やかな増加を示す。このことは、結合組織の細かい線維の沈着(門脈周囲線維症)を示す。これらの組織学的知見は、温和で、慢性的な肝炎と一致する。ウイルス性RNAは、生検時(接種10ヶ月後)には検出されなかった。
【0153】
(まとめ)
原始的で下等な霊長類、Tupaia belangeriは、HBVを感染され得、その結果、ヒトの疾患に類似する多くの特徴が観察され得る。これらの疾患症状は、治療的過程の有効性を決定するための有用なマーカーである。これらのマーカーのいくつか(例えば、HBsAgの存在)を使用して、進行中のウイルス複製の存在をモニターし得る。他のマーカー(例えば、ALTレベル)および炎症性応答についての組織学的試験は、感染の二次発現の程度の決定について用いられ得る。
【0154】
(実施例8 TupaiaにおけるHBV抗原に対する経口寛容化の誘導)
この実施例は、SIDRを使用して、ウイルス感染に関連する疾患の症状を緩和し得ることを実証する。この実施例において、経口寛容の誘導により、Tupaia belangeriのHBV感染後、先の実施例において記載された有害な免疫発現を緩和し得る。この実施例はまた、経口寛容の誘導が、病原体の抗原に対する抗体反応を選択的にダウンレギュレートするために使用され得ることのさらなる実証として役立つ。
【0155】
(材料および方法)
被験体、血清学および組織学は、先の実施例において記載されるとおりである。 経口寛容化の誘導。成体のtupaiaに30ngのHBsAgを、HBV感染ヒト血清での感染前または感染後に、1mgのウシ胎仔血清キャリアを含む溶液で与えた(10容量、隔日に与えた)。寛容体(tolerant)として使用されるHBsAgは、ヒト肝細胞株IHBV6.7から採取した細胞培養物の上清由来である。この細胞株の誘導および特徴付けは、同時係属中の特許出願(Brownら、米国特許出願第08/876/635号、1997年6月16日出願)に記載される。コンフルエントであるとき、IHBV6.7定常細胞は、90ng/mlのHBsAgを生成する。未処理のコントロールについては、成体のtupaiaに、1mgのBSAを、HBsAgなしで与えた。
【0156】
(結果)
(抗体のレベル)対のTupaiaにHBVを感染させた場合、表面抗原に対する、高いレベルの抗体を検出した(図18)。感染されたTupaiaの1匹に、感染6週間後にHBsAgを経口投与した場合、少なくとも2桁の規模で抗体レベルが減少したが、コントロールは、高いレベルの抗体を産生し続けた。これら2匹の動物に第2の接種を行った場合、コントロール被験体は、第2のコントロール動物が示したような二次免疫応答を示した(図19)。しかし、先に記載されるように経口寛容された被験体は、HBVチャレンジに対するいずれの応答も実証しなかった。HBV抗体の検出可能なレベルが、12週間にわたって検出されなかった。
【0157】
Tupaiaをまた、HBV感染の前に寛容化した。この実験の結果を図20に示す。HBsAgの経口投与によって処置された被験体は、コントロールより10倍低い初期応答を示した。感染8週間後に試験した場合、寛容化動物における抗体のレベルは、検出可能ではなく、そして再チャレンジが感染21週間後に投与されるまで、そのままであった。再チャレンジの後、抗体の応答レベルは、コントロールと比較して寛容化動物において400倍低かった。これはまた、すぐに検出可能でないレベルに戻った。
【0158】
(ALTレベル)図20に示される被験体をまた、血清ALTレベルの測定によって肝臓の損傷について試験した。これらのアッセイの結果を図21に示す。寛容化TupaiaおよびコントロールTupaiaの両方について、接種2日後に見られる初期ALTピークは、10日以内に正常なレベルまで戻る。コントロール動物において、ALTは、接種後24日目から60日目までに再び上昇しはじめる。このことは、継続する肝臓の損傷の診断法である。対照的に、寛容化被験体は、研究中、ALTの正常なレベルを維持した。
【0159】
図19に示される、二次免疫HBV注射した被験体をまた、肝臓の損傷について血清ALTレベルを測定することによって試験した。これらのアッセイの結果を図22に示す。コントロールのHBV感染Tupaiaは、第2の接種に対して高いALT応答を示すが、一方経口寛容化で処置した被験体は、ほとんど応答を示さない。
【0160】
(組織学)3匹のHBV感染し、BSAを与えられたコントロール由来の肝臓生検は、炎症および線維損場の程度の変化を示した(先の実施例からの図16)。対照的に、2匹のHBsAgを与えて感染したTupaiaおよび3匹の非感染のTupaiaは、炎症または線維症の形跡が欠けていた。この例を図23に示す(上のパネルが非感染Tupaia由来の正常な肝臓標本を示す)。対照的に中央のパネルは、HBV感染したTupaia由来の標本にみられる非健常組織を示す。中央のパネルにおける矢印は、感染10ヶ月後に存在する広範な線維症を示す。下のパネルは、感染後経口寛容誘導を行ったTupaiaにおいて、感染10ヶ月後に、疾患過程のいずれの徴候も存在しないことを示す。
【0161】
(まとめ)
これらのさらなる結果は、HBV抗原に対する経口寛容の治療が、肝臓の病状についてのこの動物モデルにおいて、HBV肝炎の肝性炎症を改善したことを示す。期待され得ることに反して、HBV表面抗原に対する免疫応答の抑止は、劇症性のウイルス血症の提示を導かなかった。tupaiaを感染の前にHBVの表面抗原に対して寛容化した場合、その表面抗原に対する抗体のレベルの劇的な減少が存在した。さらに、治療的効果が、非寛容化動物の肝臓において観察されるHBV感染に対する炎症性応答の損失の点において注目された。この効果は、自己の免疫応答を生じる、選択された抗原またはエピトープに関して、他の抗原またはエピトープに対する免疫応答を維持しながら、経口寛容化が実行され得るこの病原系および他の病原系における治療様式を可能にする。このことは、被験体による感染の天然的制御を可能にする。
【0162】
上記の本発明の発明の詳細な説明および実施例を鑑みて、多くの明らかな改変が当業者に示唆される。全てのこのような改変は、以下の特許請求の範囲によってより詳細に規定されるように、本発明の範囲および思想に十分に含まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学的調節の分野に関し、より詳細には、選択的免疫ダウンレギュレーションに関し、そして移植、疾患の予防および処置、ならびにそれらにおいて使用される組成物に適用可能である。
【0002】
本願において引用または記される全ての特許、特許出願、特許公開、科学論文などは、本発明が関する分野の技術水準をより詳細に記載するために、本明細書において参考としてその全体が援用される。
【背景技術】
【0003】
免疫手順は、疾患の拡散の進行を抑制するにおいて顕著な成功を収めており、そして天然痘の場合においては、それを完全に根絶させたことは周知であるが、免疫プロセス自体に問題がないわけではない。そうでなければ健康な個体において疾患を誘発し得る、免疫手順に対する有害反応についての関心は高まっている。これは実際、免疫の副作用について注意を集中させたこれらの手順の成功自体である。広汎な免疫プログラムは、以前に主要な健康問題であった、多数の病原体に曝露される確率を顕著に低減し、その結果、現在では、疾患を発症する危険因子よりも、その疾患を予防することによって発生する危険因子の方が重要となっている。実際、免疫手順を辞退した大きな人口集団が存在する。これは、そのこと自体において、これまで制御していたこれらの疾患の萌芽を可能にし得る。粗違って、免疫プロセスの有利な効果を可能にし得るが、免疫プロセスの潜在的な有害効果を改善し得る手順に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、免疫およびワクチン接種、移植、ならびに多くの免疫疾患および障害に関連する問題を含む、所望されない免疫学的反応および状態に関して予防的および治癒的手段を提供することによって、上記の問題および関心事に取り組む。本発明はまた、免疫調節のための独特な組成物、試薬、薬物およびプロセスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下を提供する。
【0006】
1.レシピエントにおける選択的な免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、
該レシピエントが、ドナー由来の免疫細胞、免疫組織、免疫器官またはその成分を含み、
ここで、SIDRが該レシピエントまたはその免疫学的等価物のネイティブまたは非ネイティブな抗原に対して、または該レシピエントまたはその免疫学等価物における該ドナーのネイティブまたは非ネイティブ抗原に対してあるいはその両方に対して確立されている、工程、
を包含する、移植プロセス。
【0007】
2.前記免疫細胞、免疫組織、免疫器官またはその成分が、T細胞、樹状細胞、リンパ球、末梢血細胞、NK細胞、造血幹細胞、骨髄およびそれらの組合せからなる群より選択される、項目1に記載の移植プロセス。
【0008】
3.前記選択的免疫ダウンレギュレーションが、前記ネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することにより前記レシピエントを経口的に寛容化することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、(a)該レシピエント由来の細胞、組織またはそのフラグメント、(b)該ドナー由来の細胞、組織またはそのフラグメント、(c)該レシピエント由来の抗体と複合体化された細胞、組織またはそのフラグメント、(d)該ドナー由来の抗体と複合体化された細胞、組織またはそのフラグメント、あるいは、(a)、(b)、(c)および(d)のいずれかの部分消化物由来、任意の免疫学的に等価な成分、および上記のいずれかの任意の組合せからなる群より選択されるか、または由来する、1以上の成分を含む、項目1に記載の移植プロセス。
【0009】
4.項目1の移植プロセスを使用して、レシピエントにおける移植片対宿主拒絶を予防または処置をするプロセス。
【0010】
5.前記ネイティブまたは非ネイティブな抗原が、前記レシピエント由来である、項目4に記載のプロセス。
【0011】
6.前記ネイティブまたは非ネイティブな抗原が、前記レシピエント由来であり、そして該レシピエントおよび前記ドナー由来のネイティブまたは非ネイティブ抗原を含む、項目4に記載のプロセス。
【0012】
7.前記ネイティブまたは非ネイティブ抗原が、T細胞、樹状細胞、リンパ球、末梢血細胞、NK細胞、造血幹細胞、骨髄およびそれらの組合せからなる群に由来する、項目4に記載の移植プロセス。
【0013】
8.前記ネイティブまたは非ネイティブ抗原が末梢血球を含む、項目7に記載のプロセス。
【0014】
9.被験体においてワクチン接種または免疫の所望されない免疫学的結果を処置または予防するためのプロセスであって、以下の工程:
ワクチン、免疫剤、アジュバントまたは免疫学的に等価な化合物、およびそれらのいずれかの任意の組合せとして使用された任意または全ての抗原に対して、該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程、
を包含する、プロセス。
【0015】
10.レシピエントに導入した場合に、該レシピエントにおいて選択的な免疫ダウンレギュレーションを提示または確立する、馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官を含有する、組成物。
【0016】
11.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が予め寛容化されている被験体に由来する、項目10に記載の組成物。
【0017】
12.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が前記レシピエントに対して同種異系である被験体に由来する、項目10に記載の組成物。
【0018】
13.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が前記レシピエントに対して異種である被験体に由来する、項目10に記載の組成物。
【0019】
14.前記馴化またはプログラミングした細胞、組織または器官が前記被験体に導入される前に前記レシピエントの外側でインビトロで寛容化されている、項目10に記載の組成物。
【0020】
15.前記レシピエントに導入された場合、該レシピエントにおいて特定の抗原に対する寛容を提示または確立する細胞、組織または器官を含む、項目10に記載の組成物。
【0021】
16.被験体においてクローン病を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、クローン病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する工程、を包含する、プロセス。
【0022】
17.前記クローン病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分、またはその正常の標的が腸細胞を含む、項目16に記載のプロセス。
【0023】
18.被験体における原発性硬化性胆管炎疾患を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性硬化性胆管炎疾患に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0024】
19.被験体における原発性胆管性肝硬変を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性胆管性肝硬変に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0025】
20.被験体における原発性胆管性肝硬変を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性胆管性肝硬変に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0026】
21.被験体における原発性セリアック病(Celliac's diseaase)を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、セリアック病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0027】
22.被験体における原発性自己免疫活動性慢性肝炎を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、原発性自己免疫活動性慢性肝炎に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0028】
23.被験体における慢性肝臓拒絶疾患を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、慢性肝臓拒絶疾患に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0029】
24.被験体における免疫媒介性肝臓線維症疾患を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、免疫媒介性肝臓線維症疾患に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0030】
25.被験体における免疫媒介性血管障害を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、免疫媒介性血管障害に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0031】
26.被験体における免疫媒介性筋肉障害を処置するプロセスであって、以下の工程:
該被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対して該被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、該レギュレーションは、免疫媒介性筋肉障害に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはその正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、該ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源および該供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する、工程を包含する、プロセス。
【0032】
27.前記免疫媒介性筋肉障害が、平滑筋、黄紋筋、血管筋、およびそれらのいずれかの組合せからなる群より選択される、筋肉メンバーに影響する、項目26に記載のプロセス。
【0033】
本発明は、移植プロセスを提供し、この移植プロセスは、レシピエントにおける選択的な免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、このレシピエントが、ドナー由来の免疫細胞、免疫組織、免疫器官またはその成分を含み、ここで、SIDRがそのレシピエントもしくはその免疫学的等価物のネイティブもしくは非ネイティブな抗原に対して、または上記レシピエントもしくはその免疫学等価物における上記ドナーのネイティブもしくは非ネイティブ抗原に対して、あるいはその両方に対して確立されている工程、を包含する。本発明によってまた、上記の移植プロセスを使用して、レシピエントにおける移植片対宿主拒絶を予防または処置するプロセスが提供される。
【0034】
本発明はさらに、被験体においてワクチン接種または免疫の所望されない免疫学的結果を処置または予防するためのプロセスを提供し、このプロセスは、ワクチン、免疫剤、アジュバントまたは免疫学的に等価な化合物、およびそれらのいずれかの任意の組合せとして使用された任意または全ての抗原に対して、この被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程、を包含する。
本発明はまた、レシピエントに導入された場合に、このレシピエントにおいて選択的な免疫ダウンレギュレーションを提示または確立する、馴化またはプログラムされた細胞、組織または器官を含有する、組成物を提供する。
本発明によってまた、被験体においてクローン病を処置するプロセスが提供される。このプロセスは、この被験体における罹患した細胞、組織または器官のネイティブまたは非ネイティブ抗原に対してこの被験体において選択的免疫ダウンレギュレーションを確立する工程であって、このレギュレーションは、クローン病に罹患した細胞、組織、器官もしくはその成分に由来する材料か、またはクローン病の正常の標的を含むネイティブまたは非ネイティブ抗原を投与することによって確立され、このネイティブまたは非ネイティブ抗原は、同種異系供給源、異種供給源、自己供給源、およびこのような供給源の組合せ、および免疫学的に等価な化合物、ならびにそれらのいずれかの組合せに由来する工程、を包含する。
【発明の効果】
【0035】
結論として、本発明は、以下を提供する:
本発明は、移植過程ならびに対宿主性移植片拒絶に指向される疾患の介入および予防、その上免疫化およびワクチン接種から生じる所望されない免疫学的効果の除去における独特の免疫調節の適用を提供する。他の疾患(クローン病、原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性肝硬変、アテローム硬化症(atheroschlerosis)などを含む)についての処置もまた提供される。本発明はまた、このような過程を実行するための独特な組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、レシピエントの脾細胞に対する、経口寛容の誘導を通じて移植片ドナーにおけるMLR応答の減少を示す。
【図2】図2は、レシピエントのリンパ球に対する、BMドナーにおける経口寛容の誘導が皮膚コラーゲンの生成を減少させたことを示す。皮膚の生検におけるコラーゲンα1(I)遺伝子発現(移植62日後に行い、そしてジゴキシゲニン標識化マウスコラーゲンα1(I)プローブとハイブリダイズした)を示す。
【図3】図3は、脾細胞移植後62日目の移植レシピエントにおける小腸の組織学的評価に対するドナーの寛容化の効果を示す。
【図4】図4は、脾細胞ドナーにおける、レシピエントのリンパ球に対する経口寛容誘導が、サイトカインプロフィールの逆転(Th1〜Th2の応答型)を誘導することを示す。
【図5】図5は、大腸炎および正常な結腸抽出タンパク質に対する寛容誘導の、実験的大腸炎を有するマウスの体重に対する効果を示す。
【図6】図6は、大腸炎の肉眼的類別に対する寛容化の効果を示す。
【図7】図7は、実験的大腸炎における腸粘膜の組織学的評価に対する寛容化の効果を示す。
【図8】図8は、実験的大腸炎の肉眼的類別に対する寛容化の効果を示す。
【図9】図9は、血清IL4(黒い棒)およびIFNγ(白抜きの棒)の血清レベルに対する経口寛容の効果を示す。寛容化マウスは、Th1からTh2の免疫応答サイトカイン分泌のシフトを示した。
【図10】図10は、末梢性免疫寛容誘導がNK1.1+LAL細胞傷害性機能を顕著に増強することを示す。
【図11】図11は、組換えBioHepBワクチンの3つの異なる用量のi.p.接種30日後の抗HBsAg抗体の血清レベルを示す。
【図12】図12は、ウイルス抗原に対する寛容誘導に対するHBVタンパク質の経口投与の効果を示す。
【図13】図13は、HBVに関する既存の免疫性を有するマウスにおけるB型肝炎に対する経口寛容誘導の効果を示す。
【図14】図14は、既存の抗HBV二次免疫応答に対する経口寛容誘導の効果を示す。
【図15】図15は、HBV接種後のTupaiaにおけるALTレベルの時間経過を示す。
【図16】図16は、正常なTupaiaおよびHBV感染Tupaiaの肝臓の組織形態を例証する顕微鏡写真である。
【図17】図17は、インサイチュPCR増幅後およびHBV RNAの検出後のTupaiaの肝臓切片を撮影した顕微鏡写真である。
【図18】図18は、HBV抗原に対する抗体のレベルにおける感染後の経口寛容化の効果を示す時間経過である。
【図19】図19は、HBV再チャレンジ後のHBV抗原に対する抗体のレベルにおける経口寛容化の効果を例証する。
【図20】図20は、HBV抗原に対する抗体のレベルに対する経口寛容化の前感染の誘導の効果を示す。
【図21】図21は、血清ALTレベルによって決定されるようなHBV誘導肝臓損傷に対する経口寛容化の前感染の誘導の効果を示す。
【図22】図22は、HBV再チャレンジ後のHBV誘導肝臓損傷に対する経口寛容化の効果を示す。
【図23】図23は、レチクリンで染色されたTupaia肝臓生検標本の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(発明の詳細な説明)
本発明は、所望でない免疫学的反応および状態(免疫およびワクチン接種に関連する免疫学的反応および状態、移植、ならびに多数の免疫学的疾患および障害を含む)に関する予防的および治癒的な手段を提供する。本発明はまた、免疫調節のための独特の組成物、試薬、薬物およびプロセスを提供する。予防に関して、本発明は、不適切な応答を誘導し得る免疫手順の任意の成分に対する経口寛容の誘導を可能にする。これらは、抗原とともに含まれる、アジュバントおよび化合物を含み得るがこれらに限定されない。治療的プロセスに関して、免疫手順からの不適切な応答の喚起は、SIDR、GIS、またはそれらの組合せにより処置され得る。SIDRは、免疫試薬中に所望の抗原成分とともに存在する成分に対する経口寛容化の誘導により達成され得るか、または所望の抗原自体もしくはその免疫学的等価物を含み得るかもしくはそれらからなり得る。前者の場合、所望の抗原以外の成分に対する免疫応答の低減が存在するが、所望の抗原に対する免疫応答の誘導が依然として可能である。後者の場合、免疫プロセス自体の一般的な排除または低減が存在する。GISは、物理的プロセスまたは試薬の投与のいずれかにより達成され得る。GISを誘導するために使用され得る物理的プロセスの1例は、放射線処置である。GISの誘導において有用である試薬は、免疫抑制剤であり得る。免疫抑制剤の例は、コルチコステロイド、シクロスポリンA、FK506、またはリファンピンのような化学物質であり得る。免疫抑制剤の例はまた、タンパク質性試薬(例えば、サイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、インターロイキン、リガンド、リガンドレセプター、および上記のいずれかに対する抗体、ならびに二次疾患の症状発現に関与するかまたは関連する任意の細胞(T細胞を含む)に対する抗体)であり得る。
【0038】
免疫系のダウンレギュレーションを用いてヒトの多数の疾患の症状が低減されているが、本発明の前には適切な候補であるとは認識されていなかった他の疾患が存在する。本発明の1つの局面では、SIDR、GIS、またはその任意の組合せが適用されて、以下の疾患の自己免疫性症状発現を軽減する:原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性肝硬変、セリアック(Ciliac)病、自己免疫性慢性活動性肝炎、慢性肝臓拒絶、免疫媒介肝臓線維症、免疫媒介性脈管障害、免疫媒介性脈管閉塞、免疫媒介筋障害(平滑筋および横紋筋ならびに血管筋を含む)。
【0039】
本発明は、病原体による感染の所望でない免疫の結果の関連性および処置を開示した。本発明の使用のさらなる例は、病原体の存在により媒介され得るかまたは関連し得る、ヒトにおける冠状動脈疾患を処置するための適用である。Mehta,J.L.ら,「Interactive role of infection,inflammation and traditional risk factors in atherosclerosis and coronary artery disease」,Journal of Am.Coll.Cardiol.5(6):1217−25(1998);およびOssei−Gerning,N.ら,「Helicobacter pylori infection is related to atheroma in patients undergoing coronary angiography」,Cardiovasc.Res.35(1):120−124(1997)を参照のこと。
【0040】
さらに詳述するために、経口寛容化が、この適用において同系の実験動物に養子移入される場合、同じ抗原に対する免疫化を誘導する、少なくとも末梢血単核細胞画分(PBMC)において存在するあるクラスの細胞の産生を導くことがここで実証されている。このことは、本発明者らがTs細胞と呼ぶ、あるクラスの細胞を同定する。このような細胞集団は、寛容化抗原の経口提示を用いて達成される寛容化を含む、寛容化の誘導によって、免疫能力のある動物(ヒトを含む)内で産生される。
【0041】
一般に、本発明はさらに、免疫細胞を、寛容化した免疫細胞を有するように以前にプログラムしたかまたは馴化したドナー由来のレシピエントに移入することにより、これらの細胞をレシピエント(DIDR)に移入することにより、レシピエントにおけるSIDRを、上記特異的抗原に対して付与し得ることを実証する。後者は、1997年2月28日出願の米国出願第08/808,629号に記載されている。レシピエントに対する移入によってSIDRを付与する細胞、組織、または器官(免疫成分)は、異種の、同種異系の、同系の、または自己の宿主またはドナーから得られ得る。ドナーが、レシピエントの免疫成分と免疫学的に適合性でなく、そしてレシピエントの免疫成分を宿主に運ぶかまたは免疫成分に対する宿主(代理ドナー(doneor))である必要がある場合の例では、レシピエントの免疫成分に対する代理ドナーの免疫応答を最少化するように、好ましくは、上記代理ドナーへのレシピエントの免疫成分の導入前に、代理ドナーが、免疫不全である、免疫抑制される、またはレシピエントの免疫成分に対して寛容化されることが所望される。代理ドナーにおけるレシピエントの免疫成分は、特定の抗原に対するSIDRを(例えば、経口寛容化によって)発達させるように馴化またはプログラムされる。この免疫成分は後に、レシピエントに移入され得、従って、上記レシピエントにSIDRを付与し得る。
【0042】
免疫レシピエントにおいてSIDRを付与し得る、免疫細胞、組織または器官(免疫成分)は、PBMC、造血幹細胞、肝臓細胞、T細胞、T細胞のいくつかのサブクラス、骨髄細胞、腸細胞、胸腺細胞、脾臓細胞、リンパ節由来の細胞、または上記の任意の組合せに由来し得る。このような細胞、組織、または器官は、特定の抗原に対する確立されたSIDRを既に有する、ドナーまたは代理ドナーのいずれかに由来し得る。SIDRプログラムされた細胞、組織、または器官を得るために代替的なアプローチは、このようなプログラムされた免疫細胞、組織、または器官(免疫成分)をインビトロまたはエキソビボで発達、増殖、および/または単離することである。このようなプロセスの1例では、既に寛容化されたドナーまたは代理ドナーの免疫成分は、取り出され、そして培養系に導入される。特異的な寛容化成分は、単離、分画、選択され得、そして/または特異的な寛容化成分を有する画分のみをレシピエントへの導入のために選択するように特異的な寛容化活性について富化される。この様式では、任意の所望されていないエピトープに対する寛容化免疫成分の反応または活性が、(所望の場合には)レシピエントへの導入前に回避され得る。
【0043】
免疫成分は、寛容化されていないレシピエントから入手または誘導され、次いでさらに、インビトロまたはエキソビボの系に供され、それを介して、この免疫成分は、特定の抗原に対するSIDRをレシピエントにおいて付与するためにさらに馴化またはプログラムされる。これらの成分は、レシピエントへ導入し戻す前にさらに増殖され得るか、または選択的に単離もしくは富化され得る。
【0044】
このような系における免疫応答細胞、組織、または器官の供給源は、このような抗原についての特異性を有する、抗体産生細胞、癌細胞もしくは細胞株、または免疫細胞であり得る。上記の抗体産生細胞は、モノクローナル抗体を提供するために単一の供給源に由来し得るか、またはポリクローナル抗体を提供するためにいくつかの供給源に由来し得る。
【0045】
インビトロまたは培養系は、合成の特徴付けられた培地、または特徴付けられていない天然成分(例えば、自己血清もしくは非自己血清)を含有する複雑な培地を含有し得る。インビトロまたは培養系はさらに、このような系における寛容化免疫成分の発達を容易にし得るおよび/またはこのような免疫成分の増殖を支持し得る、細胞または組織または器官またはそのフラグメントを含み得る。これらは、肝臓、腸、胸腺、脾臓、骨髄、または他のマトリックスに由来し得る。このようなインビトロ系はさらに、必要とされ得る場合、適切なリンホカインおよびサイトカインを含み得る。
【0046】
経口寛容化が、サプレッサーT細胞(Ts)と呼ばれる移入するクラスのT細胞、もしくは他のサブタイプのT細胞、または他のサブタイプのリンパ球(NK1.1 T細胞を含む)の産生を誘導することは可能である。同系実験マウスの例では、本発明は、マウス間で末梢血単核細胞を移入することにより、マウスからマウスへの寛容化の移入を記載する。この基準の意味は、特定のクラスの細胞が、適切な細胞、基質、および細胞因子の存在下で前駆体T細胞(ナイーブT細胞)から産生され得ること、および特定の抗原に対して寛容性を付与するのはこのクラスの細胞であることである。肝臓は、経口寛容化の誘導において役割を有すると示唆されているので、肝臓に関連するリンパ球のサブタイプ(例えば、NK1.1 T細胞)または肝臓内細胞の他のサブタイプは、寛容化プロセスに関連付けられている。免疫細胞のサブタイプが、他のサブタイプの免疫調節細胞または他の細胞への直接的または間接的な関連を介して、肝臓の環境におけるプログラミングに関与し得ることもまた示唆する。従って、これらの細胞が、寛容化が求められる被験体の身体外で処置され得るならば、次いでこれらの細胞は、有害な効果は最少にして、寛容性を誘導するために被験体の身体に注入して戻され得る(おそらく、精製後)。特定のTs細胞、またはさらにより一般的なTs細胞の亜集団のこの「馴化」は、インビトロで培養において行われ得るか、またはこの馴化は、適切な宿主生物の身体中で行われ得る。特定のまたはさらに一般的なTs細胞を馴化するために、抗原特異的寛容化細胞の選択的誘導および増殖のためにインビボで存在する環境に匹敵する、インビトロでの環境を確立することが必要である。馴化は、抗原特異的様式または抗原非特異的様式で免疫細胞の低減をもたらす、特定のサブタイプの細胞および/またはサイトカインを含み得る。例えば、インビトロで馴化される場合、これらは、リンパ節由来の、または骨髄由来の、または胸腺由来の、肝臓、あるいはこれらの3つの供給源の組み合わせまたは他の供給源由来の支質細胞の存在下または非存在下で、混合型リンパ球反応において馴化され得る。これらのTs細胞が動物において馴化または産生される場合、これらは、調製されたSCIDマウスまたは他の動物(これらは、マウスにおいて寛容化の誘導に必須であることが示されているので、おそらく、ヒト肝臓細胞を有する)において馴化され得る。これらは、細胞機能は維持するが細胞増殖を維持しないように免疫切除された動物において馴化され得る。この動物は、遺伝的に、または誘導されるかのいずれかでSCID状態を有し、そして必要な場合にはヒト肝臓細胞を受け入れ得る、齧歯動物または任意の動物であり得る。例えば、2つ挙げると(しかし、このリストに限定されない)、馴化は、全身が照射されたRAG2マウスまたはラットにおいて行われ得る。これらが馴化され、そしておそらくインビトロまたはインビボのいずれかで増幅された後、細胞は、自己に注入し戻され得るか、または同種異系のもしくは異種の宿主もしくはレシピエントへ注入し戻され得る。これらのいずれかの手順(インビトロまたはインビボにおける特異的または一般的なTs細胞の馴化または再教育)は、多数の自己免疫的性質の状態を管理し得る非侵襲性および無毒性のプロトコルの開発を導く。これらの細胞は、治療試薬として用いられて、免疫媒介病因を管理し得る。この手順は、自己免疫状態、および免疫応答(天然の体液性免疫、アレルギー応答、および細胞性免疫を含む)の影響を最少にすることが求められる他の状態の管理に適切である。
【0047】
本発明の新規な産物および手順を開発するために用いられた材料および方法ならびにプロトコルのさらなる説明については、Stites,D.P.およびTerr,A.I.(編),Basic and Clinical Immunology第7版の第1〜24章,Appleton & Lange, A Div.of Prentice Hall,New Jersey(1991)が参照される。
【0048】
例えば、適切な細胞、組織または器官は、重篤な複合免疫不全を有するマウスまたは他の動物(Rag2マウスまたはNOD/SCIDマウスなど)に注入または移植され得、次いで代理動物が、上記のように寛容化抗原の経口提示を通して、または経口寛容化に等価なレジメを通して寛容化される。寛容化は、マウスに、20%(v/v)ウシ胎児血清中の50ngの寛容化抗原を与えることにより、達成され得る。寛容化レジメの終了後、これらの細胞を白血球搬出により取り出し得、そして必要な場合は従来の分離手順(例えば、Ficol勾配)を用いて、代理動物から単離する。例えば、ヒトPBMCが、SCIDマウス内の機能的な特異的Tc細胞を含むように変更されること求められるならば、これらは、循環から単離され得、そしてヒト細胞特異的抗体パニング手順またはこのような手順の何らかの変法を用いて分離され得る。これらの寛容化細胞は、SDIRまたは選択的免疫調節を誘導するためにヒト被験体に注入し戻され得る。
【0049】
さらなる例として、1997年6月16日出願のBrownらの同時係属中の特許出願である米国特許出願第08/876,635号に記載されるようなヒト−マウスキメラ肝臓を含むRag2マウスには、寛容化されるべきヒト由来のPBMCが(またはCD45+でさえも)注入され得る。このマウスには、HCV抗原が与えられて、Ts細胞の複製を誘導し得る。ヒトT細胞は、取り出され、増殖され、そして上記の通りに被験体に注入し戻され得る。特異的Ts細胞の存在について試験するために、このマウスに、寛容化に続いてHCVをチャレンジし得る。肝臓内のヒト細胞におけるHCVの増殖の証拠の存在下ではヒト細胞病状が存在しないという観察は、寛容化の誘導の証拠である。
【0050】
さらなる例として、ラットのような動物は、優勢な造血細胞は複製しないが、それらの分化した表現型に従って機能する条件下で、全身照射により、または免疫消失化学物質(immunoablative chemical)を用いることにより、いずれかにより切除され得る。PBMCは、これらの切除した動物に注入または導入され得、そしてこの動物は、続いての、寛容化抗原の経口提示を通して、または上記の通りの経口寛容化に等価なレジメを通して寛容化され得る。さらに、寛容化レジメの完了後、これらの細胞を、切除した実験動物およびこの動物由来の免疫細胞から取り出し、そして必要に応じて精製し得る。
【0051】
選択的誘導および抗原特異的寛容化細胞の増殖に関してインビボに存在する環境に匹敵し得るインビトロ環境からなるなお別の例が作製される。Ts細胞は、インビトロでまたはドナーまたはレシピエントの身体外で産生される。これらの細胞は、抗原提示細胞の存在下で、ならびにリンパ節由来の、もしくは骨髄由来の、もしくは胸腺由来の、または肝臓、もしくはこれらの3つの供給源の組み合わせ、もしくは他の供給源由来の支質細胞の存在下または非存在下で混合型リンパ球反応において馴化される。
【0052】
Ts細胞の存在または非存在は、以下を含むいくつかのアッセイ方法を用いて決定される。
【0053】
(アッセイ1:51Cr放出細胞傷害性アッセイ)
これらの研究において用いられる標的細胞は、YAC−1細胞、10% FCSを有する補充したRPMIを用いて組織培養における連続増殖に適応させたリンパ腫細胞株、または任意の他の型の特化した(professional)標的細胞、または抗原特異的感作Bリンパ球もしくはTリンパ球であり得る。YAC−1細胞は、これらを、2×105細胞/mlの密度で、RPMI 10% FCSを有する25mフラスコ中に播種し、そしてそれらを24時間後に収集することにより調製され得る。細胞を、50mlチューブに懸濁し、そして収集し、そして1250rpmにて10分間、培地を用いて2回洗浄する。この手順は、エフェクター細胞による溶解の51Crでの効率的な標識および高い感度を保証する。標的細胞を、51Crで標識し、そして37℃にて90分間インキュベートする(300μl RPMI培地中、200mCi/2×106細胞)。細胞を、10分ごとに手で混合する。インキュベーション後、3mlの20% FCS RPMIを添加し、そして37℃にて30分間、再度インキュベートする。細胞を、RPMI 10% FCS中で3回洗浄し、そして計数する。標識効率の程度の決定のために、100μlの細胞を計数する。エフェクター細胞は、試験されるべきリンパ球の亜集団である。51Cr放出アッセイは、Costar 96ウェルプレート中で行われ得る。100μl中の計数された数のエフェクター細胞を、100μl中の5,000個の標識された標的細胞と混合する。エフェクターと標的との比(E:T比)は、50:1;25:1;および12.5:1である。各ウェルは、計200μlの容量で標的細胞およびエフェクター細胞を含む。5つのウェルを、各サンプルからの各比について試験し得る。自然放出の決定のために、6個のウェルの類似の数の標的細胞を、100μlのRPMI 10% FCSにプレーティングする。最大放出の決定のために、6ウェルの100μlの培地中の標的細胞を、100μlのTritonXと混合する。このプレートを500rpmにて2分間遠心分離し、続いて37℃にて5% CO2中で4時間、インキュベートする。次いで、このプレートを再度500rpmにて2分間遠心分離し、そして上清を回収し、そしてガンマカウンターを用いて計数する。結果は、以下の式を用いることにより算出される標的細胞の比溶解パーセントとして表される:細胞傷害性%=アッセイの平均cpm−自然放出からのcpm/TritonXで溶解させた標的からのcpm−自然放出からのcpm×100。
【0054】
(アッセイ2:抗原特異的サイトカイン放出細胞傷害性アッセイ)
血清由来の抗原特異的感作Bリンパ球もしくはTリンパ球、または器官特異的T細胞は、標的細胞として役立ち得る。血清由来の抗原特異的寛容化Bリンパ球もしくはTリンパ球、または器官特異的T細胞は、エフェクター細胞として役立ち得る。これらの2つのTリンパ球の亜集団を、専門抗原提示細胞(樹状細胞またはマクロファージ)とともに、および標的抗原とともにインキュベートする。ThI(例えば、IFNγ)またはTh2(例えば、IL4、IL10)のサイトカイン放出を、RT−PCRにより、またはELISA試験により、上清において測定する。サイトカインを介するT細胞誘導を用いて、サイトカイン放出を増大させ得る。
【0055】
(アッセイ3:寛容化活性の存在の尺度としての免疫細胞により産生される特異的抗体の量の低減の測定)
これらの細胞は、免疫媒介病因を管理するための治療試薬として用いられ得る。これらの抗原特異的Ts細胞は、寛容の逆養子移入(reverse adoptive ransfer)のために用いられ得る。これらの手順は、自己免疫の性質の多数の状態を管理するための非侵襲性および無毒性のプロトコルの開発を導き得る。
【0056】
これらの手順は、自己免疫に基づく種々の疾患または状態(いくつか挙げると、B型肝炎感染、C型肝炎感染、クローン病、および移植片対宿主病を含む)を管理するための新たな治療様式を作製し得る。この協力から開発された薬学的材料は、経口薬物として製造され得る。寛容化細胞の免疫プログラミングの場合、この材料は、特異的Ts細胞またはさらに特異的Ts細胞を含む同種異系もしくは異種の細胞(cefl)を含む自己細胞の注入として送達され得る。
【0057】
このクラスの細胞は、寛容化するように試みられる被検体の身体の外部において産生され得、そして悪影響を最小限にしながら、寛容を誘導するために被検体の身体に戻して注入(おそらく精製の後)され得る。Ts細胞の特定の(またはより一般的でさえある)サブ集団の「訓練」は、代用の動物中でインビボで、または培養物中でインビトロの両方で行われ得る。これらのTs細胞が動物中で訓練または産生される場合、これらTs細胞は、適切なSCIDマウスか、または他の動物(おそらくは、マウスにおいて寛容の誘導に必須であることが示されているヒト肝臓細胞を用いて)において訓練され得る。これらTs細胞は、免疫切除された動物中で訓練され得、そしてその細胞は、細胞機能を維持するが、分裂しない。代理宿主動物は、齧歯類、あるいは遺伝的にか、または誘導されたかのSCID状態を有し、そして必要に応じてヒト肝臓細胞を受容し得るいずれかの動物であり得る。例えば、訓練は、RAG2マウスか、または全身照射されたラット中で行われ得る(2つに言及するが、これらに限定されない)。特定のTs細胞が訓練され、そしておそらくインビトロまたはインビボにおいて増幅された後、この細胞は、自系に、あるいは、同種異系または異種の宿主もしくはレシピエントに戻して注入され得る。抗原特異的寛容化細胞(Ts)の選択的誘導および拡大のためにインビボに存在する環境に匹敵するインビトロ環境において、特異的なまたはより一般的なTs細胞を訓練するために、訓練される細胞、細胞を含有する組織または器官は、Ts細胞の産生を促進する条件下で抗原提示細胞と混合されなければならない。例えば、インビトロにおいて訓練する場合、これらは、リンパ節由来、または骨髄由来、または胸腺・肝臓由来、あるいはこれら3つの供給源または他の供給源の組み合わせ由来の支質細胞の存在下あるいは非存在下で、混合されたリンパ球反応において、訓練され得る。
【0058】
これら手順のいずれか(インビトロまたはインビボにおける特異的Ts細胞または一般的なTs細胞の訓練または再教育)は、自己免疫の性質の大多数の状態を管理する、非侵襲性および非毒性のプロトコールの開発をもたらす。これらの細胞は、免疫媒介性病因の管理のための治療的試薬として使用される。この手順は、天然における体液性免疫を含む免疫応答、アレルギー性応答、および細胞性免疫を含む免疫応答の所望されない効果を最小化することが求められる、自己免疫状態および他の状態の管理に適切である。
【0059】
本発明の他の実施態様および局面は、移殖に関連した以下の記載を含む。
【0060】
レシピエント被検体中に細胞、組織、器官またはその成分を移植する工程;および1つ以上のネイティブまたは非ネイティブの抗原あるいはネイティブ抗原または非ネイティブ抗原の混合物に対して、レシピエント移殖被検体において、選択的な免疫のダウンレギュレーションを確立する工程を包含する、レシピエント被検体中の免疫拒絶を予防するか減少するための移殖プロセス。そのようなネイティブまたは非ネイティブ抗原は、造血細胞を含み得る。そのような造血細胞は、幹細胞、T細胞、リンパ球、骨髄細胞、CD34+およびCD45+、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。上記のT細胞は、NK細胞またはNK.1抗原を発現する細胞を含み得る。
【0061】
ネイティブまたは非ネイティブ抗原は、上記のレシピエント移殖被検体またはドナー、あるいはその両方に由来し得る。非ネイティブ抗原は、異種または同種異系であり得る。ネイティブの抗原は、レシピエント移殖被検体の幹細胞、T細胞、およびレシピエント抗原を発現する組織、またはこれらの任意の組み合わせから選択されるメンバーを含み得る。非ネイティブ抗原に関して、これらはドナー由来の幹細胞またはT細胞を含み得る。
【0062】
移殖プロセスにおいて、移殖工程は、骨髄移植を包含し得る。レシピエント移殖被検体中におけるSIDRの確立は、骨髄移殖または固形器官移殖の結果であり得る対宿主性移植片(GVH)拒絶を予防または減少し得る。
【0063】
レシピエント移殖被検体、あるいは細胞、組織もしくは器官またはそれらの組み合わせがそこから移殖されるドナー、あるいはその両者は、さらに1つ以上の免疫調節処置に供され得る。そのような免疫調節処置は、放射、化学剤、および生物学的因子、またはそれらの任意の組み合わせからからなる群から選択される手段によって行われ得る除去を含み得る。SIDR確立工程は、除去前、除去後、または除去の間に行われ得る。
【0064】
上記の生物学的因子は、サイトカインおよび抗体、またはその両者からなる群から選択される。免疫調節処置は、単回投与量、または反復する単回投与量として行われ得る。
【0065】
ネイティブまたは非ネイティブの抗原は、天然抗原、合成抗原、改変抗原、非改変抗原、全体としての抗原、および抗原フラグメントまたはこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。ネイティブ抗原または非ネイティブ抗原の群は、組織適合性決定基を含み得る。そのような組織適合性決定基は、順にMHC決定基IまたはII、あるいは両方を含み得る。ネイティブまたは非ネイティブ抗原はまた、タンパク質、糖タンパク質、酵素、抗体、組織適合性決定基、リガンド、レセプター、ホルモン、サイトカイン、細胞膜、細胞成分、ウイルス、ウイルス成分、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、細胞全体、組織および器官からなる群から選択される。組織適合性決定基は、上記のMHC決定基IまたはIIあるいはその両方である。
【0066】
また、看過されるべきでないものとして、被検体における感染性因子に対する所望されない免疫学的効果を予防または減少するためのプロセスにおける、本発明の使用がある。これは、感染因子またはネイティブ抗原、あるいはその両方の、成分または複数の成分またはフラグメントのいずれかに対する被検体における免疫調節の選択的ダウンレギュレーションの確立を包含する。所望されない免疫学的効果は、所望されない抗体の産生、細胞媒介性免疫反応、自己免疫、炎症性反応、リガンドレセプター結合、サイトカイン産生およびアポトーシス、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。所望されない免疫効果は、肝炎およびHIVからなる群から選択されるメンバーによって生じ得る。さらに、所望されない免疫学的効果は、HCV−およびHBV−関連クリオグロブリン血症、HCV−、HBV−およびHIV−関連自己免疫障害、HBV−およびHCV−関連非肝臓標的器官損傷からなる群から選択され得る。
【0067】
上記の成分または複数の成分またはフラグメントは、天然、合成、または免疫学的等価物であり得る。上記の移殖プロセスはさらに、サイトカイン、サイトカインに対する抗体、アポトーシス因子、抗感染因子、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される任意のメンバーを用いて被検体を処置する工程を包含し得る。
【0068】
ただいま上記に記載した移殖プロセスにおいて、被検体レシピエントは、1つ以上の特異的抗原に対して確立されたSIDRの結果として、バイスタンダー効果を示し得る。そのようなバイスタンダー効果は、場合によって、所望されてもされなくてもよい。
【0069】
以下の実施例は、本発明の種々の局面を説明するために提供される。この包含は、いかなる意味においても、いかなる方法によっても、特許請求の範囲によってより具体的に規定される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0070】
(好ましい実施態様の説明)
以下の実施例は、本発明の種々の局面、および本発明の価値の指標である。
【0071】
(実施例1;対宿主性移植片病での経口寛容誘導の効果)
レシピエント抗原または免疫学的等価物を用いるドナーの経口寛容化は、レシピエント中に移殖された場合に、ドナー免疫細胞からの慢性対宿主性移植片病(cGVHD)応答を妨げ得る。
【0072】
(材料および方法)
動物:ドナーマウスは、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME)から得た12週齢の雌B10.D2マウス(H−2d、mis−b)であった。レシピエントは、BALB/cマウス(同様にH−2d、mis−b)であった。マウスを、Hadassah−Hebrew University Medical SchoolのAnimal Coreにおいて、12時間の明/暗サイクルで飼育した。全ての動物実験は、Hebrew−University−Hadassah Institutional Committee for Care and Use of Laboratory Animalsの認証を得た。照射および脾細胞移殖に続き、マウスを層流アイソレーターに維持した。全ての動物に、定期的な実験固形飼料および適宜の飲料水を与えた。
【0073】
レシピエントの脾細胞の調製およびドナーへの投与:脾臓をBALB/cおよびB10.D2マウスから摘出し、そして脾細胞を機械的にホモジナイズした。40μmナイロン細胞ろ過器を通して濾過した後、残りのインタクトな細胞を遠心沈殿して、除去した。タンパク質をBiorad Proteinアッセイ試薬を使用して測定した。ドナーB10.D2マウスに、一日おきに(計5用量)、給餌カニューレを用いて50μgのタンパク質を含有するホモジネートした脾細胞タンパク質の給餌をした。使用した脾細胞の用量を、他者および本発明者らによって行われた初期の投与実験によって決定した(Ilanら、J.Clin.Invest.1997;99:108〜1106、Sayeghら、1992;53:163〜166、Sayeghら、Immunology 1996;89:7762〜7768)。50μgの用量が、低用量経口寛容範囲内であることが見出された。
【0074】
脾細胞ドナーおよびレシピエント群:各10匹の動物からなるマウスの2つの群を脾細胞ドナーとして使用した。経口寛容化群(群A’)において、B10.D2ドナーマウスを、レシピエント系統BALB/cマウス由来の脾細胞のホモジネートで給餌した。これらのマウス由来の脾臓細胞を群A BALB/cレシピエントマウス(n=10)中に移殖した。コントロール群(群B’)は、同系B10.D2マウス脾細胞から調製されたホモジネートを給餌したドナーB10.D2マウスからなり、そして群B BALB/cレシピエント(n=10)についての脾臓細胞ドナーとして役立てた。
【0075】
脾細胞移殖:慢性対宿主性移植片病(cGVHD)を誘導するために、B10.D2マウス由来の2.5×107の脾臓細胞を、移殖前に60Coの全身照射(6Gy)を受けた10匹のBALB/cレシピエントマウスの静脈内に注入した(Jaffe B.D.およびClaman H.N.、Cell Immunol.1985;94:73〜84)。
【0076】
一方向混合リンパ球反応(MLR)アッセイによるドナーマウス中に誘導された寛容の評価:ドナーB10.D2マウスにおける、レシピエントマウスの副組織適合性抗原に対する寛容の誘導を、一方向混合リンパ球反応(MLR)試験(Devanderら:Rose NR、Friedman H、Fahey JL、編、Manual of clinical laboratory immunology、3版、Washington、DC:American Society for Microbiology 1988:847〜852、Bisharaら、Transplantation 1994;57:1474〜1479)によって評価した。一方向MLR試験を、B10.D2脾細胞対BALB/c脾細胞において行った。B10.D2に応答して、脾細胞(1×106)を平底マイクロウェルプレート(Sterllin、カタログ番号、M29ARTL)中で、照射(30Gy)したBALB/c脾臓細胞(1×106)と共に、100μg/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、2mM L−グルタミンを補充し、5×10-5 2M−MEおよびマウス脾細胞に吸着させた10%熱非働化ヒトAB血清を有する総容量0.2mlのRPMI 1640培養培地中で培養した。この血清の組み合わせは、強力な一次および二次同種異系応答を生じ、そして低い非特異的なバックグラウンドを生じる。37℃加湿5%CO2インキュベーター中での72時間の後、1mCiの3H TdR(5 Ci/nmol、Nuclear Research Center、Negav、Israel)を各ウェルに添加した。細胞を、マルチプルサンプルハーベスター(Titertek Cell Harvester 530;Flow Laboratories、McClean、VA、22102)を使用して、16〜18時間後に紙のろ紙上に回収し、そして放射活性を液体シンチレーションカウンター中で決定した。寛容および非寛容B10.D2脾細胞のそれら自身に対して生じるバックグラウウンドを、差し引いた。
【0077】
慢性対宿主性移植片病(cGVHD)の評価:慢性対宿主性移植片病の評価を、以下のパラメーターを使用して脾細胞の移植の62日後に行った:全体重および脾臓重量、α1(I)型コラーゲンの遺伝子発現、ならびに肝臓および小腸の炎症応答。
【0078】
体重および脾臓重量:体重を、研究を通じて、毎週記録した。脾臓を、研究の終了時に、計量した。
【0079】
コラーゲンmRNAの皮膚含量のインサイチュハイブリダイゼーション:両方の群のマウスを脾細胞移殖の62日後に屠殺した。皮膚生検を、耳より得て、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に採集した。生検の標本をPBS中の4%パラホルムアルデヒド中で、4℃で、一晩固定化した。連続する5μm切片を、等級エタノール中でサンプルを脱水した後に調製し、クロロホルム中で明澄化し、Paraplast中に包埋した。ハイブリダイゼーションのために、切片をキシレン中で脱パラフィン化し、等級エタノール中で再水和し、5分間蒸留水でリンスし、そして2×SSC中で70℃、30分間インキュベートした。切片を再度蒸留水中でリンスし、そしてプロテイナーゼK(50mM Tris−HCl、5mM エチレンジアミン四酢酸、pH 7.5中に10μg/ml)で10分間処理した。消化の後、切片を0.2%グリシンでブロックし、蒸留水でリンスし、等級エタノールで迅速に脱水し、数時間風乾し、そしてPBS中の10%ホルマリンで後の固定(post−fix)をした。皮膚切片を、プラスミド(pUC18)から1600bpの挿入物を切り出し、pSafyre(B.E.Kream、University of Conneticut、CT、USAからの寛大な贈与物)中に挿入することにより生成した、ジゴキシゲニン標識したα1(I)型コラーゲンのプローブとハイブリダイズさせた。Garscon−Barreら、J Histochem Cytochem、1989;37:377〜81、Pinesら、Matrix Biol.1998;14:765〜81、Pinesら、J.Hepatol 1997;27:391〜398)。
【0080】
慢性対宿主性移植片病(cGVHD)の組織学的変化の等級付け:マウスを、脾細胞移植の62日後に屠殺した。肝臓および腸の炎症の程度の評価のために、組織を両群の全てのマウスから取り出し、10%ホルムアルデヒド中に維持した。各マウスからの5つの組織切片を、パラフィンに包埋し、切片化し、そして標準的な手順によって、ヘマトキシリン−エオシンを用いて染色した。以前に記載されたように、肝臓と小腸のコード化された顕微鏡切片の炎症の程度を、実験条件を知らない2人の経験のある病理学者によって、半定量的に0から4に等級付けした。
【0081】
(a)肝臓切片を、Howellら(Bone Marrow Transplantation 1995;16:139〜145)およびHowellら(Cell Immunol 1992;140:54〜66)に記載される標準的なスコア付け判定基準に従って、等級付けした。手短には;等級0:正常または30%未満の門脈炎症(炎症性細胞によって拡張される門脈道の割合に基づく)および正常の胆管上皮;等級1:30〜40%の門脈炎症および正常の胆管上皮;等級2:40〜60%の門脈炎症および異常な胆管上皮形態;等級3:60〜80%の門脈炎症および胆管のリンパ球浸潤;および等級4:80〜100%の門脈炎症、および胆管細胞の死滅または胆管の破損。
【0082】
(b)小腸の標本を、以下の尺度で等級付けした;等級0:正常の小腸粘膜;等級1:正常な量の粘膜細胞を有する絨毛細胞構築の中程度の変形、陰窩過形成の証拠をともなう陰窩の基底中の時折のアポトーシス細胞;等級2:絨毛細胞構築の部分的消失または平滑化、粘膜細胞枯渇、管腔内の上皮細胞の脱落、著しいアポトーシスおよび陰窩過形成および固有層内への単核細胞の浸潤および腺窩炎;等級3:等級2に加えて斑状かまたは全体的な粘膜の壊死または潰瘍化(Woodruffら、Trans Proc.1976;8:675〜684、Howellら、1995、前掲)。
【0083】
血清サイトカインレベル:プロ炎症性および抗炎症性サイトカインのバランスに対する経口寛容の効果の評価のために、TNFα、IFNγ、IL2、およびIL10血清レベルを、以前に記載されたように(Barakら、1995;17:169〜173、Naglerら、Transplantation 1995;60:943〜948)製造業者の指示に従い、高感度RIAまたは酵素免疫アッセイ(R&D System、USA)によって測定した。これらのキットは、アルカリホスファターゼ反応産物が発色レポーター系の形成の補酵素として役立つ増幅系を使用する。第2の酵素系は、アルコールデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(増幅剤)からなる。血清サイトカインレベルを、脾細胞移植の14日後、各群からの5匹のマウスにおいて測定した。
【0084】
統計学的分析:結果を、サイトカインアッセイについてスチューデントt検定により、そして組織学的等級付けについてMann−Whitneyランク合計試験により、分析した。
【0085】
(結果)
レシピエント脾細胞に対するドナー脾細胞のMLR応答:レシピエントBALB/c脾細胞抗原に対するドナーB10.D2マウスにおける寛容の誘導を、一方向MLR試験によって測定した。図1に示すように、寛容化されたB10.D2マウス由来の脾細胞への応答は、非寛容化B10.D2マウス由来の脾細胞への応答(23,732+2376cpm、n=3、p<0.005)と比較して、BALB/c標的脾細胞に対するMLR応答における顕著な減少を示した(8648+1142cpm、n=3)。
【0086】
脾細胞ドナーの経口寛容化による慢性対宿主性移植片病(cGVHD)の予防:
a.体重および脾臓重量:脾細胞移殖の21日後に、総体重は、群Bレシピエント(非寛容化コントロール由来の細胞を受容)におけるよりも、群Aマウス(寛容化ドナー由来の脾細胞を受容)において有意に重かった(18.35+1.11対15.68+0.98g、n=10、p<0.05)。しかし、62日目の研究の終了時において、いずれの群においても、体重の有意な差異はなかった(データをしめさず)。脾臓重量もまた、研究の終了時において、統計学的に差異がなかった(0.058+0.0099対0.456+0.014g、それぞれ、寛容化および非寛容化脾細胞のレシピエントにおいて、n=10)。
【0087】
b.脾細胞レシピエントにおけるα1(I)型コラーゲン遺伝子発現:レシピエント脾細胞ホモジネートに対して経口寛容化されたドナー由来の脾細胞のレシピエント(群A)は、非寛容化コントロールドナー由来の脾細胞のマウスレシピエント(群B)よりも少ない、肉眼で見える皮膚の肥厚化を維持した。皮膚のα1(I)型コラーゲンmRNA含量を、皮膚の切片とマウスのα1(I)型コラーゲンプローブとのインサイチュハイブリダイゼーションによって測定した(脾細胞移殖の62日後)。寛容化ドナー由来の脾細胞を移殖されたマウスは、非寛容ドナー由来の細胞を受容したマウスよりも、非常に少ないα1(I)型コラーゲン遺伝子発現を示した(図2、パネルAおよびB)。
【0088】
c.脾細胞ドナーの経口寛容化による慢性対宿主性移植片病(cGVHD)関連肝疾患の予防:非寛容化ドナー由来の脾細胞の移殖の62日後に行ったレシピエントの肝臓生検(群B)は、重篤な門脈炎症および胆管の破壊を示した。対照的に、寛容化ドナー由来の脾細胞のレシピエント(群A)は、4/10のマウスにおいて正常な肝臓組織学を示した。群Aの他の6匹のマウスは、軽度〜中程度の門脈炎症、リンパ球浸潤および/または肝臓内胆管の破損を示した。cGVHDにおける肝臓および胆管の関与についての標準的なスコアの等級付けを用いて、コントロール群Bにおける2.25+0.5と比較して、群Aレシピエントは、合計スコア0.2+0.05を達成した(n=10、p<0.005)。
【0089】
d.ドナーの経口寛容化による小腸cGVHDの軽減:非寛容化ドナー由来の脾細胞のレシピエントにおける研究の終了時に行った小腸生検は(群B)、粘膜損傷、絨毛細胞構築の変形、粘膜細胞数の減少および陰窩過形成、固有層内への単核細胞の浸潤および腺窩炎の証拠を示した(図3B)。全ての特徴は、寛容化ドナー由来の脾細胞のマウスレシピエントにおいて、有意に寛解していた(群A、図3A)。cGVHDにおける小腸の関与についての標準的なスコアの等級付けを用いて、群Aおよび群Bにおける小腸の関与の合計スコアは、それぞれ0.6+0.05対2.4+0.8(n=10、p<0.005)であった。
【0090】
(血清サイトカインレベル):レシピエント系統のリンパ球への脾細胞ドナーにおいて経口寛容を誘導することにより、サイトカイン分泌パターンに顕著な変化がもたらされた。血清TNFαレベル、血清IFNγレベル、および血清IL2レベルが、寛容化されたドナーから採取された脾細胞を移植されたマウス(群A)中では、寛容化されていないドナー由来の脾細胞を得た群Bのコントロールマウスと比較して減少した(TNFα、IFNγ、およびIL2について、それぞれ、2.5+0.86pg/ml対16.5+4.84pg/ml;10.1+2.6pg/ml対75.3+11.3pg/ml;および2.1+0.9pg/ml対22.1+5.55pg/ml、p<0.005、図4)。対照的に、血清IL−10レベルが、経口寛容化されたドナー由来の脾細胞を移植されたマウスにおいて、群B由来の脾細胞のレシピエントと比較して増加した(それぞれ、108.5+7.09pg/ml対46.5+4.9pg/ml、n=5、p<0.005、図4)。
【0091】
(まとめ)
レシピエントの同種異系抗原に対するドナーの経口寛容化により、cGVHDの発現と関連する多数の異なるマーカーおよび症状によって示されるように、病理学的病変が改善された。レシピエントの同種異系抗原は同じ遺伝子型を共有するレシピエントとは異なる被験体由来であったが、レシピエントの同種異系抗原(allogen)をレシピエント自身から調製し得たか、または任意の免疫学的に等価な抗原を使用し得たことが理解されるべきである。寛容化が、脾細胞のみのホモジネートを摂食することにより誘導されたが、移植されたリンパ球による、cGHVDの3つの主要な標的器官(すなわち、皮膚、肝臓および小腸)に対する免疫攻撃は予防された。本実施例は、寛容化剤が、その寛容化剤の供給源と同一原であるかまたは同一原でないかのいずれかである細胞および器官に寛容を提供し得ることを示す。
【0092】
(実施例2 GvH疾患に対する経口寛容の移植後誘導)
本実施例は、すでにドナーの免疫細胞を含むレシピエントにおける、経口寛容誘導の実証に関する。レシピエントの抗原または免疫学的等価物の経口投与は、そのレシピエントへ移植されたドナーの免疫細胞における経口寛容化を誘導し得る。本発明のこの局面は、cGVHDを改善するための経口寛容化の使用に関して、安全性の改善および有利な生存能力を提供する。本実施例において示される手段によって、ドナーの安全性は、免疫抑制されることによって必ずしも損われない。さらに、ドナーは、移植の必要性の原因であったレシピエント中のいかなる疾患因子にもさらされない。ドナーは、意図されるレシピエントにまた偶然存在し得る疾患または病原因子にさらされない。本発明の局面は、これにより、このような疾患または病原因子がドナーへ伝染する可能性、および/あるいはこのような疾患または病原因子に対してドナー中で経口寛容を誘導することを回避する。
【0093】
本実施例は、実施例1に前述されたように実行された。ただし、実施例1の例外として、B10.D2ドナー脾細胞の移植後、レシピエントBALB/cマウスにBALB/c脾細胞から抽出されたタンパク質(マウス1匹当たり50μg/日)を11日間摂食させて経口寛容を誘導した。ドナー免疫細胞における移植後寛容誘導の効果の評価を、前の実施例において記載したように実行した。B10.D2脾細胞を移植された寛容化BALB/cマウス由来のエフェクター脾細胞の、BALB/c標的脾細胞(32cpm)に対する混合リンパ球応答において、寛容化されていないコントロール(546cpm)と比較して有意な減少が存在した。経口寛容化は、cGVHDの肝臓の炎症および胆肝破壊および炎症性腸変化を改善した。寛容化されたレシピエントは、体重および皮下脂肪の減少を示し、そしてはるかにより少ない皮膚の肥厚およびコラーゲン沈着物を有した。コラーゲンα1(I)遺伝子発現の減少が、コラーゲンα1(I)プローブを用いたインサイチュハイブリダイゼーションにより示された。血清IL−10レベルは、コントロールにおけるよりも寛容化されたマウスにおいて有意に高かったが、レベルは有意に減少した。
【0094】
(実施例3 相互寛容化)
本発明のさらなる局面は、相互寛容化を実行し得ることである。本局面において、ドナー免疫細胞をレシピエント細胞およびレシピエント器官により提示される抗原に対して寛容化することによるcGVHDの排除に加えて、ドナー細胞またはドナー器官の存在に対するレシピエント免疫系の反応を下方調節する経口寛容の誘導が存在し得る。本発明において開示されるように、このことを、移植手順の間または前のいずれかに実行し得る。また、本発明において記載されるように、寛容化剤は、ドナー、レシピエント、ドナー細胞を有するレシピエント、前述のもののいずれかの免疫学的等価物、およびそれらの組合せに由来し得る。このことは、切除の必要性を排除するため、切除の量を減少させるため、または切断処置を誤って回避したレシピエント免疫細胞において引き起こされる、ドナー細胞に対する免疫反応を排除するために、役立ち得る。
【0095】
(実施例4 実験的結腸炎に対する経口寛容化の誘導効果)
本実施例は、経口寛容化を、結腸炎が誘導されると同時に使用し得るというさらなる実証である。本実施例はまた、正常なドナーならびに結腸炎のドナー由来の結腸抽出タンパク質を使用して経口寛容化を誘導し得るという実証としても役立つ。本実施例はまた、1つの種由来の結腸抽出タンパク質を使用して別の種において経口寛容を誘導し、そして結腸炎を緩和し得るという実証でもある。代替アレルゲンで経口寛容化の誘導することによって実験的結腸炎を緩和する能力は、ヒトの治療において有用である実行可能な方法論を生み出す。例えば、寛容供給源として罹患した組織を使用する必要性は、疾患誘導物質ならびに寛容化因子の転移の可能性を増加し得る。本発明における開示(寛容化タンパク質は必ずしも疾患を示すドナー由来である必要はない)により、この問題および他の潜在的問題が回避される。ヒトにおいて、寛容化剤として使用される物質の供給源として使用される種の性質もまた、倫理上の問題および道徳上の問題を持ち出すことになる。寛容化剤の供給源として異なる種を使用し得ることにより、ドナーが異種であり、それによりこのような問題を回避することが可能になる。同種異系由来の寛容化剤もまた、その薬剤中に存在する病原体または病原体のエピトープが存在し得、経口寛容化剤の投与もまたこの病原体の存在に対する寛容を導くという、内在的危険を有する。このことは、この寛容化剤中に生存可能な病原体が存在する場合、またはレシピエント中に生存可能な病原体が存在する場合に、寛容化時に疾患状態を誘発し得る。寛容化誘導時に生存可能な病原体が存在しない場合に、なお以下のような可能性が存在する。それは、病原体に対する誤った寛容化が、レシピエントが後の時点で病原体にさらされる場合に、疾患過程の誘導を可能にし得ることである。異種供給源または免疫学的に等価な供給源のいずれかを寛容化剤として使用し得ることにより、この事象の可能性を減少させるかまたは排除するかのいずれかが可能である。これらの考察が本発明の他の局面に対して同等に適用可能であることも理解される。
【0096】
(材料および方法)
(動物):正常な近交系BALB/c雄性マウス(2〜4ヶ月)をHarlan Laboratoriesから入手し、そしてHadassah−Hebrew University Medical SchoolのAnimal Coreにて養った。マウスを、標準的実験室食で養い、そして12時間の明/暗サイクル中に保った。全ての動物実験を、Hebrew−University−Hadassah Institutional Committeeの実験動物の保護および使用に関する指針に従って、同委員会の承認を得て実行した。
【0097】
(結腸炎の誘導):TNBS結腸炎を、Neurathら、J Exp Med 1995;182:1281〜1290に記載のように、100μlの50%エタノール中に溶解した2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)(1mg/マウス)の直腸滴注によって誘導した。
【0098】
(経口抗原およびバイスタンダー抗原の調製および投与)
結腸を、正常なマウス、ラット、ウサギおよびヒト検体から、またはマウス、ラット、ウサギおよびヒト検体のTNBS誘導性結腸炎の結腸から取り出して小さな細片とし、そして機械によりホモジナイズした。40μmのナイロン細胞濾過器を通して濾過した後、インタクトな細胞をスピンダウンして除去した。タンパク質を、タンパク質アッセイキット(Biorad)を使用して定量した。正常結腸抽出タンパク質(NCEP)および結腸炎抽出タンパク質(CEP)を、下記の実験群に、無外傷性給餌針を使用して1日おきに10日間(計6用量)経口投与した。ヒト結腸検体の調製のために、結腸サンプルを以前に記載されたように(Neurathら、1995;前出)TNBSにインビトロで曝露した。
【0099】
(実験群):9群のマウス(各々10匹の動物からなる)を以下の表1に示すように研究した。
【0100】
【表1】
全てのマウスを、研究1日目にTNBSで直腸にチャレンジした。全ての群のマウスに、結腸炎誘導日に開始して10日間、1日おきに給餌(50μg/マウス)した。群A〜Dは、結腸炎抽出タンパク質(CEP)を給餌されたマウスを含んだ。群Aのマウスには、マウス由来CEPを給餌した;群Bのマウスには、ラットCEPを給餌した;群Cのマウスには、ウサギCEPを給餌した;そして群Dのマウスには、ヒトCEPを給餌した。群E〜Hのマウスには、正常結腸抽出タンパク質(NCEP)を給餌した;群Eのマウスには、マウス由来NCEPを給餌した;群Fのマウスには、ラットNCEPを給餌した;群Gのマウスには、ウサギNCEPを給餌した;そして群Hのマウスには、ヒトNCEPを給餌した。群Iのコントロールマウスには、ウシ血清アルブミン(BSA)を給餌した。全ての群のマウスを、結腸炎誘導後12日で屠殺した。
【0101】
(実験的結腸炎モデルにおける寛容誘導に対する代替抗原の効果の評価):寛容誘導における代替抗原の役割を、結腸炎についての以下のパラメーターをモニタリングすることにより評価した:
(a)結腸炎の臨床的評価:この研究を通じて、毎日下痢を追跡した。
(b)結腸炎の肉眼検査スコア:結腸炎の評価を、結腸炎誘導後12日に標準的パラメーターを使用して12日間行った(Neurathら、1995前出)。4つの肉眼検査パラメーターを決定した。すなわち、結腸の潰瘍形成の程度;腸管および腹膜の癒着;壁の肥厚;および粘膜の水腫の程度。各パラメーターを、0(完全に正常)〜4(最も重篤)の尺度に、2人の老練で実験条件を知らない試験者により等級付けした。
(c)組織学的病変の等級付け:炎症の組織学評価のために、遠位の結腸組織(最後の10cm)を取り出し、そして10%ホルムアルデヒドに固定した。次に、各マウス由来の5つのパラフィン切片を標準的技術を使用してヘマトキシリンーエオシンで染色した。結腸の顕微鏡検査用切片上の炎症の程度を0〜4(Neurathら、1995、前出)に半定量的に等級付けした。等級0:炎症の徴候がなく正常;等級1:非常に低いレベルの白血球浸潤;等級2:低いレベルの白血球浸潤;および等級3:高い血管密度かつ腸壁肥厚を伴う高レベルの浸潤;等級4:杯細胞の損失、高い血管密度、壁肥厚、および正常な腸構造の破壊を伴う経壁浸潤。この等級付けは、2人の老練で実験条件を知らない病理学者が行った。
【0102】
(免疫寛容の誘導に関連する可能な指標の評価):血清IL4レベルおよび血清IFNγレベルを、Genzyme Diagnosticsキット(Genzyme Diagnostics、MA、USA)を製造者の指示に従って使用して、「サンドイッチ」ELISAにより測定した。全ての実験群およびコントロール群由来の全てのマウスの血清レベルを、結腸炎誘導の10日後に測定した。
【0103】
(NK1.1肝臓関連リンパ球に対する寛容誘導の効果の評価)
(a)肝臓リンパ球の単離:下大静脈を横隔膜の上で切断し、そして肝臓を、青白くなるまで5mlの冷たいPBSでフラッシュした。結合組織および胆嚢を除去し、そして肝臓を冷たい滅菌PBS中の10mlディッシュに配置した。肝臓をステンレスのメッシュ(サイズ60、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)を通して破砕した。細胞懸濁液を50mlチューブ中に3分間入れ、そして冷たいPBSで2回洗浄し(1250rpmで10分間)、そして破片を除去した。そして細胞をPBS中に再懸濁し、その懸濁液をPBSに浸しておいたナイロンメッシュに通した。結合しなかった細胞を回収した。細胞を45mlのPBSで2回洗浄した(室温で1250rpm)。肝臓リンパ球の単離のために、20mlのHistopaque 1077(Sigma Diagnostics、St.Louis、MO)を細胞の下にゆっくり注ぎ、そして50mlチューブ中で7mlのPBSに懸濁した。このチューブを室温で遠心分離(1640rpm、15分間)した。界面の細胞を収集し、50mlチューブ中で希釈し、そして氷冷PBSで2回洗浄した(1250rpmで10分間)。約1×106細胞/マウス肝臓を回収した。トリパンブルー染色による生存能力は、95%より高かった。
(b)NK1.1細胞除去の決定のためのフローサイトメトリー分析:リンパ球単離直後に、2連の2〜5×104細胞/500μl PBSを、4mlの1% BSAとともに10分間インキュベートされたFalcon 2052チューブに入れ、そして1400rpmで5分間遠心した。細胞を1:20のFITC−抗マウスNK1.1抗体(NKR−P1C、Pharmingen、USA)を含む10μlのFCS中に再懸濁し、30分間のうち10分ごとに混合した。細胞を1%BSAで2回洗浄し、0.5mlの1%パラホルムアルデヒドを添加し、そして読み取りまで4℃に保った。コントロール群については、1%BSAを5μlだけ添加した。分析的細胞ソーティングを、各群由来の1×104の細胞に対して、蛍光活性化セルソーター(FACSTAR plus、Becton Dickinson)を用いて実行した。生細胞のみを計数し、そして抗体処理していないリンパ球からのバックグラウンド蛍光を、得られたレベルから減じた。
(c)肝臓リンパ球細胞傷害アッセイ:これらの研究で使用された標的細胞はYAC−1細胞であった。これは、補充された、10%FCSを含むRPMIを使用して組織培養中で連続増殖するように適合化されたリンパ腫細胞株である。YAC−1細胞を、10%FCSを含むRPMIが存在する25mlフラスコ中に密度2×105細胞/mlで播種し、そして24時間後に収集することによって、NKアッセイ用に調製した。細胞を50mlチューブ中で懸濁および収集し、そして培地で2回洗浄(1250rpmで10分間)した。この手順により、51Crでの効率的な標識およびNK細胞による溶解の高感受性を確実にした。標的細胞を51Cr(New Life Science、Boston MA、Gamidor、Israel)で標識し、そして37℃で90分間インキュベートした(300μlのRPMI培地中200mCi/2×106細胞)。細胞を10分ごとに手動で混合した。インキュベーション後、3mlの20%FCS RPMIを添加し、そして37℃で30分間再びインキュベートした。細胞を10%FCS含有RPMIで3回洗浄し、そして計数した。標識効率の程度を決定するため、100μlの細胞を計数し、そして最低で0.8cpm/細胞を測定した。エフェクター細胞は、上記の群A〜H由来の肝臓から単離された肝臓リンパ球であった。51Cr放出アッセイを、Coster 96ウェルプレートにて実行した。段階的に数を変化させたエフェクター細胞(100μl中)を、5000の標識された標的細胞(100μl中)と、エフェクター対標的比(E:T比)が25:1で混合した。各ウェルは、総容量200μl中に標的細胞およびエフェクター細胞を含んだ。各サンプル由来の5つのウェルを、各比について試験した。自然発生的放出を決定するために、同様の標的細胞数である6つのウェルを、10%FCS含有RPMIとともにプレーティングした。最大の放出を決定するために、100μl培地中の6ウェルの標的細胞を100μlのTritonXと混合した。このプレートを2分間遠心分離(500rpm)し、次いで、37℃の5%CO2中で4時間インキュベートした。次いで、このプレートを再び2分間遠心分離し(500rpm)、そして上清を採取し、そしてγカウンターを使用して計測した。結果を、標的細胞の特異的溶解パーセントとして表した。これは、以下の等式を使用して算出した:細胞傷害パーセント=(アッセイの平均cpm−自然発生的放出由来のcpm)/(TritonXで溶解された標的由来のcpm−自然発生的放出由来のcpm)×100。
【0104】
(結果)
(結腸炎の臨床的評価):下痢の顕著な減少が、マウスCEPを給餌された群Aの寛容化されたマウスで観察された。同様の有益な効果が、群Eのマウス由来NCEPで処置されたマウスで観察された。対照的に、ウサギCEPまたはラット結腸由来のNCEP、ウサギ結腸由来のNCEP、もしくはヒト結腸由来のNCEPを給餌された、それぞれ群C、F、G、Hのマウス、ならびにBSAを給餌されたコントロール群Iのマウスは、重篤な下痢に罹患した。マウスの体重の追跡調査により、群Iのコントロールマウスと比較して群Aの寛容化されたマウスのうちで、統計的に有意な体重の増加が示された(それぞれ、11.7%対5.9%、P<0.005、図5)。同様な有益な効果が、マウス由来NCEPで処置された群Eのマウスで観察され、そしてそれらの体重は10.6%増加した(p<0.005)。有利な効果はまた、ラットCEPおよびヒトCEPを給餌されたマウスでも観察された(群BおよびDについての体重の増加は、それぞれ、8.5%および8.9%)。対照的に、ウサギCEPまたはラットNCEP、ウサギNCEP、もしくはヒトNCEPで処置された群C、F、G、Hのマウスでは、全く有意な体重の増加は見られず、そしてそれらの体重は、それぞれ、5.3%、6.1%、6.05%、および6.9%増加していた(図5)。
【0105】
(結腸炎の肉眼検査による等級付け):マウス抽出の結腸炎由来タンパク質の摂食による経口寛容の誘導(群A)、またはマウスの正常結腸抽出タンパク質による経口寛容の誘導(群E)は、顕著に結腸炎の肉眼検査による等級付けを軽減した。試験された結腸炎の肉眼検査用パラメーターのスコアは以下であった:結腸の潰瘍形成の程度、腸管および腹膜の癒着、壁肥厚、および粘膜の水腫の程度。肉眼検査の総スコアは、非処置のコントロール群Iの3.3と比べて、群AおよびEのマウスで、それぞれ0.4および0.56であった(p<0.005、図6)。有利な効果はまた、ラット由来CEPおよびヒト由来CEPを給餌されたマウス(群BおよびD)でも観察された。それらの肉眼検査の総スコアは、それぞれ、0.8および0.7と測定された。対照的に、ウサギCEP、またはラット由来NCEP、ウサギ由来NCEP、もしくはヒト由来NCEPを給餌された、非寛容化マウス(それぞれ、群C、F、G、およびH)は、重篤な結腸炎に罹患し、そしてそれらの肉眼検査の総スコアは、それぞれ、1.9、2.75、1.85、3.25であった。非処置のコントロールマウスの総スコアは、3.3であった(群I、図6)。
【0106】
(組織学的病変の等級付け):腸組織の組織学的評価により、非寛容化マウス(群C、F、G、およびH)と比較して、そしてコントロールマウス(群I)と比較して、寛容化マウス(群AおよびE)における炎症応答および粘膜の潰瘍形成の顕著な減少が示された。群AおよびEのマウスにおいて、ほとんど正常な切片、すなわち最小のリンパ球浸潤のみが検出された(図7、パネルAおよびE)。対照的に、重篤な炎症反応(3〜4等級)が、非寛容化マウスから採取された腸検体で観察された(図7、パネルF)。部分的効果が、ラット由来CEPを給餌されたマウス(群B)およびヒト由来CEPを給餌されたマウス(群D)で観察された(図7、パネルB)。寛容化マウス(群AおよびE)における標準的病理学的試験の結果により、スコア0.4および0.8が得られた。対して、非寛容化マウス(群C、F、G、およびH)については、それぞれ2.2、3.25、2.25、および2.75であった(図8)。群Iのコントロールの非処置マウスは、肉眼検査により重篤な結腸炎を示し、病理学的スコアは3.1であった(示さず)。
【0107】
(血清IL4レベルおよび血清IFNγレベル):寛容化マウスは、Th1からTh2への免疫応答サイトカイン分泌のシフトを示した。マウス由来CEPの摂食により、結腸炎誘導の10日後に、IL4レベルの増加およびIFNγ血清レベルの減少が誘導され、それぞれ、22.4±5pg/mlおよび1.2±0.7pg/mlになった(コントロール群Iと比較した群A、p<0.005)。同様に、マウス由来NCEPの摂食により、Th1からTh2への免疫シフトが誘導され、IL4血清レベルおよびIFNγ血清レベルは、それぞれ25.4±5.7および3.5±0.9であった(群E、p<0.005、図9)。対照的に、非寛容化群C、F、G、Hおよびコントロール群I由来のマウスは、高いIFNγ血清レベルおよび低いIL4血清レベルを示した(それぞれ、17.4±3.7および3.1±0.9;22.1±4および4.3±1.1;18.4±3.8および2.1±0.8;16.3±2.9および2.7±0.7;19.5±4.2および1.9±0.4、図9)。
【0108】
(寛容誘導によりNK1.1+LAL細胞傷害機能が増強された):肝臓内リンパ球を、全ての群の処置マウスおよびコントロールマウスから単離した。分析的セルソーティングを、リンパ球単離後の各群由来の細胞に対して、FITC−抗マウスNK1.1抗体を使用して行った。マウス由来CEPの摂食およびマウス由来NCEPの摂食による寛容の誘導によって、NK1.1+LAL細胞傷害機能が顕著に増強された(特異的溶解アッセイにより測定)。YAC−1細胞を、これらの研究で標的細胞として、E:T比が25:1で使用した。群AおよびEの寛容化マウスから単離された肝臓リンパ球は、群Iの非寛容化コントロールマウスと比較して細胞傷害性の増加を示した(群AおよびE対群Iが、それぞれ35.6%および48.6%対10.7%、p<0.005、図10)。同様の効果が、群BおよびD由来のマウスで観察され、ここで、細胞傷害率が、それぞれ29.1%および26.9%と測定された。対照的に、群C、F、G、およびH由来の非寛容化マウスは、有意により低いNK1.1+LAL細胞傷害率を示した(それぞれ、17.6%、18.8%、22.1%、および11.9%、図10)。直腸へのTNBS滴注は、細胞傷害アッセイに対して何の効果を有さなかった(群I、10.7%)。
【0109】
(実施例5:経口寛容の大腸炎後の誘導)
経口寛容化が、大腸炎が被験体において確立された後でさえも、大腸炎の症状を制御するために使用され得ることをさらに実証した。本実施例を、以下を除いて、先の実施例に記載された同じ手順を使用して行った。
【0110】
実験群:各々10の動物からなる、マウスの6つの群を研究した(表1)。全てのマウスを、本研究の第1日目に直腸のTNBSでチャレンジした。A、B、およびE群のマウスに、大腸炎を誘導した日から始めの10日間、隔日で給餌させた。確立された実験的大腸炎に対する寛容誘導の効果の評価のために、C、D、およびF群のマウスに対する、類似の用量での給餌を、大腸炎の誘導後7日目に開始した。AおよびC群のマウスに、大腸炎抽出タンパク質(CEP)を給餌した。寛容誘導に対する代理の抗原の効果を評価するために、BおよびD群のマウスに、正常結腸抽出タンパク質(NCEP)を給餌した。コントロールのEおよびF群のマウスに、類似の用量のウシ血清アルブミン(BSA)を給餌した。全ての群のマウスを、大腸炎誘導後21日目に屠殺した。
【0111】
経口寛容誘導の効果の評価を、先の実施例に記載のように行った。
【0112】
(結果)
大腸炎の臨床評価:マウスCEPを給餌させたA群由来の寛容化マウスにおいて、顕著な下痢の減少が観察された。同様の有利な効果が、B群のマウス由来NCEPで処置したマウス(それらは、1日目に給餌を開始した)において観察された。部分的に有利な効果が、寛容を確立された大腸炎の存在下で誘導したマウス(CおよびD群)において観察された。対照的に、BSAを給餌させたコントロールのEおよびF群のマウスは、重篤な下痢を罹患した。マウス体重の経過観察により、E群のコントロールマウスと比較して、A群の寛容化マウスの間で、体重の統計的に有意な増加が明らかになった(それぞれ、4.2% 対 11.7%、p<0.005)。同様の有利な効果が、マウス由来NCEPで処置したB群由来のマウスにおいて観察され、そしてそれらの体重は、8.9%増加した(p<0.005)。有利な効果はまた、大腸炎の誘導後7日目に、CEPおよびNCEPでの給餌を開始させたマウスにおいても観察された(CおよびD群についての体重において、それぞれ9.3%および7.2%の増加)。対照的に、BSAで処置したマウスにおいては、体重の有意な増加が示されなかった。それらの体重は、EおよびF群のマウスについて、それぞれ4.2%および4.1%増加した。
【0113】
大腸炎の肉眼的分類:マウスから抽出された大腸炎由来タンパク質の給餌による経口寛容の誘導(A群)、またはマウス正常結腸から抽出されたタンパク質での経口寛容の誘導(B群)は、大腸炎の肉眼的分類を顕著に緩和した。試験した大腸炎の肉眼的パラメーターについてのスコアは:結腸の潰瘍化の程度、腸と腹膜の癒着、壁の厚さ、および粘膜水腫の程度であった。全肉眼的スコアは、AおよびB群のマウスでそれぞれ、0.4および0.7を測定したのに対して、EおよびF群の非処置のコントロールにおいては、3.3および3.1であった(p<0.005)。有利な効果はまた、大腸炎の誘導後7日目に、CEPでの給餌を開始したマウス(C群)においても観察された。それらの全肉眼的スコアは、1.2を測定した。部分的に有利な効果は、大腸炎の誘導後7日目に、NCEPでの給餌を開始したマウスにおいて示され、そしてそれらのスコアは1.9であった。
【0114】
組織学的病変の分類:腸組織の組織学的評価により、EおよびF群の非寛容化コントロールマウスと比較して、A、B、CおよびD群の寛容化マウスにおける炎症性応答および粘膜潰瘍化の顕著な減少が示された。AおよびB群のマウスにおいて、ほとんど正常な切片が検出されるか、またはごくわずかなリンパ球の浸潤が検出されるだけであった。対照的に、重篤な炎症性反応(グレード3〜4)が、非寛容化コントロールマウスから採取された腸の試料において観察された。部分的な効果が、大腸炎の誘導後7日目に、CEPまたはNCEPでの給餌を開始した、CおよびD群のマウスにおいて観察された。A、B、CおよびD群由来の寛容化マウスにおける標準的な病理学的試験の結果は、それぞれ、0.4、1.2、1.4および1.95のスコアを示した。EおよびF群におけるコントロールの非処置マウスは、重篤な肉眼的な大腸炎を示し、病理学的スコアはそれぞれ、3.1および3.25であった。
【0115】
血清IL4、およびIFNγレベル:寛容化マウスは、Th1からTh2免疫応答サイトカイン分泌への変化を示した。マウス由来CEPの給餌は、大腸炎誘導後10日で、IL4レベルの増加およびIFNγの血清レベルの減少を誘導した(それぞれ、22.4±5pg/mlへおよび1.2±0.7pg/mlへ)(A群、コントロールのE群と比較して、p<0.005)。同様に、マウス由来NCEPの給餌は、Th1からTh2への免疫変化を誘導し、IL4およびIFNγの血清レベルは、それぞれ、18.4±1.9および2.4±0.9であった(B群、p<0.005)。CEPまたはNCEPを給餌した、既存の疾患の存在下で寛容化された初回刺激を受けたマウスは、同様のサイトカイン系列を示し、そしてそれらのIL4レベルは、16.4±2.9および10.3±1.1に増加したが、IFNγ血清レベルは、6.3±0.9および7.3±1.1を測定した(それぞれ、CおよびD群)、対照的に、非寛容化コントロールのEおよびF群由来のマウスは、高いIFNγおよび低いIL4の血清レベルを示した(それぞれ、18.4±2.7および1.9±0.3;ならびに22.1±1および2.1±0.5)
(実施例6 マウスにおけるHBV抗原に対する経口寛容化の誘導)
本発明の局面の1つは、病原体による感染に関連する二次的発症の誘導を抑止するための、SIDRおよび/またはGISの適用である。これらの発症は、病原体の複製プロセスに直接的に関係しないという点で、その感染に対して二次的であると定義される。このような二次的発症の例示的な例は、細胞傷害性、誘導性自己免疫およびアポトーシスのような病理学的プロセスである。二次的発症がすでに存在している被験体において、本発明は、疾患症状のさらなる進行の防止または低減を導く。
【0116】
本発明の1つの局面において、SIDRまたはGIDS、あるいはそれらの任意の組み合わせを、病原体による感染の結果である所望しない免疫応答を軽減するために被験体に使用する。本開示は、本発明がHBV感染に関連する肝臓の損傷の予防および/または処置のための治療的アプローチとして有する、有用性を記載する。他の病原体の例としては、HCV、CMV、レトロウイルス(例えば、HIV)および細菌(例えば、Strepotomyces、Helicobacteria、およびChlamydia)が挙げられる。これらの病原体による感染は、自己免疫機能障害に由来し得る疾患に関与する。これらの疾患としては、肝炎、AIDS、アテローム性動脈硬化症、アテローム、血栓症、冠状動脈疾患および心筋梗塞が挙げられ得る(Mahtaら、J.Am Coll Cardiol 1998;31:1217−1225、GurfinkalおよびBozovich、Atherosclerosis 1998;140 Suppl 1:531−35、Ossel−Gerningら、Cardiovasc Res 1997;35:120−124、Andersonら、J Am Coll Cardiol 1998;32:35−41、Biasucclら、1999;99:855−860)。
【0117】
以下の実施例は、HBV抗原に対する免疫寛容を誘導することが可能であること、および経口寛容が、HBV抗原に対する既存の免疫応答のダウンレギュレーションに使用され得ることの実証である。
【0118】
(材料および方法)
動物:正常な同系の、雌BALB/cマウス(25〜30グラム)を、Hadassah−Hebraw University Medical SchoolのAnimal Coreから得た。マウスを標準的な実験用固形飼料上で維持し、12時間の明/暗のサイクルで飼育した。全ての動物実験は、Hebraw−University−Hadassah Institutional Commitee for Care and Use of Laboratory Animalsのガイドラインに従って、委員会の承諾を得て行った。
【0119】
抗HBV免疫応答の誘導:BioHepB組換えB型肝炎ワクチン(BioTechnology General LTD、Israel)(B型肝炎ウイルスの3つの表面抗原:HBsAg、PreS1、およびpreS2を含む)を、抗HBV免疫応答の誘導のために使用した(Shouvalら、Vaccine 1994;12:1453−1459)。このワクチンは、他のワクチンに比べて免疫原性を改善することが以前に示されており、そして高いセロコンバージョンレベルおよび高い抗体力価(同書)を誘導することから、このワクチンを選択した。本発明者らは、効果的な抗ウイルス免疫応答の誘導のために必要とされる、最適なワクチン用量を試験した。それぞれ10匹の動物からなるマウスの3つの群を研究した。それぞれの群のマウスに、3つの用量のBioHspBワクチン:0.2、0.4、または0.8mcgのうちの1つを、腹腔内(i.p.)注射した。ワクチン接種後30日に、血清抗HBs抗体の力価についてマウスを追跡した。
【0120】
HBV抗原に対する経口寛容の誘導:組換え調製したHBsAg、およびPreS1、およびPreS2抗原(BioHepB、BioTechnology General LTD、Israel)を、本発明の末梢免疫寛容の誘導のための標的抗原として使用した。末梢寛容を、1mcg/給餌の低用量のHBV抗原(BioHepB)を、給餌用の非外傷性の針を使用して、10日間の隔日での経口投与(計5用量)により誘導した。コントロールの群に、同用量のウシ血清アルブミン(BSA)を給餌させた。
【0121】
実験群:それぞれ10匹の動物からなるマウスの8つの群を、以下の表2に示されるように研究した。
【0122】
【表2】
実験群A〜GをBioHepBワクチン(0.04mcg)を用いて、1ヶ月間隔で2回腹腔内(i.p.)接種した。コントロールA群のマウスを1日目および30日目に経口給餌を伴わないでワクチン接種した。そして30日目および60日目の各注射の30日後に、血清抗HBs抗体力価について追跡した。天然の動物における体液性抗HBV免疫応答に対する経口寛容誘導の効果を決定するために、B群およびC群のマウスを、それぞれ、HBVエンベロープタンパク質(BioHepB)またはウシ血清アルブミン(BSA)を給餌した。次いで、10日目および40日目にBioHepBワクチンを用いて2回の腹腔内接種を行った。各免疫後30日、すなわち40日目および70日目で、マウスを抗血清HB力価について追跡した。既存の抗HBV免疫応答に対する経口寛容誘導の効果を決定するために、D群およびE群のマウスをBioHepBワクチンを用いて腹腔内接種し、次いで、ワクチン接種日から実験D群のマウスにHBVエンベロープタンパク質(BioHepB)を経口投与するか、またはコントロールE群にBSAを経口投与した。両群のマウスを30日目にBioHepBワクチンを用いて再度免疫し、そして2回目の注射の30日後、60日目に、抗HBs抗体力価を測定した。経口寛容誘導の抗HBV免疫に対する効果のさらなる決定のために、F群およびG群のマウスを、1日目および30日目にBioHepBワクチンを用いて2回の腹腔内接種を行い、次いで、実験E群のマウスにHBVエンベロープタンパク質(BioHepB)を経口投与するか、またはコントロールG群にBSAを経口投与した。マウスを30日目の経口寛容誘導の前に抗HB力価について追跡し、次いで、60日目に寛容誘導を行った。HBVエンベロープタンパク質(BioHepB)経口投与の抗HBs力価に対する効果を決定するために、H群のマウスは、ワクチン接種を伴わないで5経口用量のHBV抗原を受けた。マウスを抗HB血清レベルの発現について30日後に追跡した。
【0123】
抗HBs体液性免疫応答の評価:HBsAgに対する抗体を、市販の固相ラジオイムノアッセイ(RIA,Auaab,Abbott Laboratories,North Chicago,IL)により検出した。世界保健機関の参考血清をRIAによる抗HBsの定量的なアッセイのために使用した。これは、ホリンガー公式を利用し、そしてmIU/ml/mlで表される。全ての実験群およびコントロール群のマウスを、本研究を通して、BioHepBワクチンの各接種の30日後に抗HBs抗体力価について追跡した。
【0124】
統計学的分析:標準的なスチューデントt検定を使用して分析した。
【0125】
(結果)
抗HBV免疫応答の誘導:3つの群のマウスを、異なる3用量のBioHepBワクチンを用いた接種後に抗HBs抗体力価について追跡した。0.4mcg用量および0.8mcg用量と比較した場合0.2mcg用量との間で有意な差違が観察された。0.2mcgを用いたワクチン接種は、それぞれ0.4および0.8mcgを用いた接種後の57.05±35.85および78.20±82.31mIU/mlと比較した場合12.66±7.28mIU/mlの抗HB力価を誘導した(0.4および0.8対0.2については、それぞれp<0.05およびp<0.03、ならびに0.4mcgと0.8mcgとの間の差違についてはP=0.2;図11)。その結果、本研究において、腹腔内に投与するワクチン接種用量は0.4mcgを使用した。
【0126】
寛容誘導の抗ウイルス体液性免疫応答に対する効果の評価:抗HBV末梢免疫寛容の誘導を、HBVワクチン接種より前に給餌されたマウスにおいて、抗HBs Ag抗体産生を月間隔で測定することによって評価した。BioHepBワクチン接種より前のHBVタンパク質の投与は、抗ウイルス体液性免疫応答を著しく下方制御した。ワクチンの初回接種の30日後の抗HBs抗体血清レベルは、非寛容化非給餌コントロール群(A群)、およびBSA給餌群(C群)のコントロールと比較した場合、寛容化HBVエンベロープタンパク質給餌群(B群)において、それぞれ、709±390および777±348対385±154mIU/mlであった(p<0.013、図12A)。さらに、BioHepBワクチンを用いた2回目の接種30日後の抗HBs抗体力価は、寛容化コントロール群対非寛容化コントロール群において、66495±44007mIU/ml対95257±78320および123807±78130mIU/mlであった(A群およびC群、p<0.05、図12B)。
【0127】
経口寛容誘導の既存の抗HBV免疫応答に対する効果の評価:既存の抗HBV免疫応答に対するHBVタンパク質側への寛容誘導の効果を、BioHepB抗原またはBSAを経口投与された抗HBV免疫化マウスにおける抗HBs抗体力価を測定することにより評価した。HBVワクチン接種への曝露直後のHBV抗原の給餌は、BioHepB接種60日後、抗HBs力価を、非寛容化(E群)コントロールの214776±148897mIU/mlと比較した場合、寛容化(D群)において114024±94097mIU/mlまで減少させた(p=0.15、図13)。さらに、ワクチンでの2回の免疫化の30日後のHBV抗原の給餌は、抗HBs抗体力価を、60日目(2回目の免疫の30日後)に測定した場合、寛容化HBVエンベロープタンパク質給餌対非寛容化BSA給餌コントロールにおいて57354±37873対98195±57256mIU/mlまで有意に減少した。(それぞれ、F群およびG群、p<0.01、図14)。免疫化を伴わないHBVエンベロープタンパク質の経口投与は、抗HB抗体力価に対して効果を有さず、そしてこれらの抗HB血清レベルは検出不可能であった(H群、未掲載)。
【0128】
(まとめ)
この実施例は、エンベロープタンパク質の経口投与が、HBVエピトープへの寛容を誘導し得ることを実証する。HBVエンベロープタンパク質のPreS1およびpreS2およびHBsAg組換え複合体の天然の動物への給餌は、ワクチン接種に際し抗HBV免疫応答を下方制御した(B群およびC群)。さらに、この実施例は、予め免疫したマウスへのHBVタンパク質の経口投与が、HBVエンベロープペプチド側への寛容を誘導したことを実証する(実験群DおよびE)。さらに、寛容誘導は、抗ウイルス体液性二次免疫応答を著しく下方制御した。2回のワクチン接種後の抗HBV免疫寛容の誘導は、抗HBS抗体産生を効果的に阻害した(実験群FおよびG)。
【0129】
(実施例7 TupaiaのHBV感染)
本実施例は、小動物モデルとしてTupaia belangeriを使用する。これは、同時係属出願の主題である(Brownら、1997年6月16日出願の米国特許出願番号08/876,636)。本実施例は、Tupaia belangeriにおいて、HBVによる感染の後に誘導される疾患症状の実証に関する。これを使用して治療的なレジメの有効性を測定し得る。
【0130】
(材料および方法)
(被験体)Tupaia belangeriをDuka University Vivarium,Durham NCから入手し、そしてAlbert Einstein College of Medicine,Animal Instituteにて飼育した。Tupaiaを70℃にて12時間の明期/暗期周期で、ネコのケージまたはリスザルのケージあたり2匹のトガリネズミの1匹または交配ペアで飼育し、そして新鮮な果物(ブドウ、バナナ、りんご、およびオレンジ)の食餌、乾燥したキャットフード、および水を与えた。各ケージはまた小さな巣箱を含んだ。
【0131】
(TupaiaのHBV感染)Tupaiaを、94:1のケタミン:キシラジン(Fort Dodge Animal Health,Fort Dodge,IowaからのKetaset(100mg/ml)およびBayer,Shawnee Mission,KansasからのRompus(20mg/ml))を使用して麻酔した。体重1グラムあたり0.001mlの用量で大腿へ筋内注射により投与した。HBV接種物は、10のHBV血清陽性(serpositive)の臨床試料のプールに由来した。感染のためにTupaiaの尾の毛を剃り、消毒し、次いで0.1mlのHBVプールを、27ゲージの蝶形針を使用して尾静脈に静脈注射した。
【0132】
(血清学)尾の裏面の毛を剃り、消毒した後、麻酔したTupaiaの尾静脈から、0.5〜1.0mlの血液サンプルを27ゲージの蝶形針を使用して収集した。Tupaiaからの血液サンプルをHBV接種前に収集し、そしてその後、毎週収集する。ポリクローナルHBsAg試験を使用する長期感染由来の一連のサンプル(Austral Biologicals,San Diego,CA)を除いて、HBVの血清学的な全ての試験をENZO Clinical
Laboratories(Farmingdale,NY)にて、臨床試料について使用されるものと同じ手順で行った。PBS中の血漿の連続希釈物を、Tupaia抗体レベルを試験の有益な範囲に対して滴定するために作製した。ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)レベルをSigma(St.Louis,MO)から購入した市販のキットにより長期間測定する場合、製造業者の指導書を使用する。
【0133】
(組織学)肝臓の経皮的なバイオプシーを、全身麻酔下で滅菌技術を使用して行った。腹部の垂直正中線小切開術(small vertical midline incision)を使用して肝臓を曝露し、パースライン縫合(テーパーニードルおよび絹を使用する)で肝臓部分を結紮した後、小さな楔形の肝臓バイオプシーを取り出した。バイオプシー組織を分割した:一部分を中性ホルマリン中に保存し、そして他の部分を−80°で凍結させた。ホルマリン固定組織をパラフィン包埋し、切片にし、そして組織学的検査のためにヘマトキシリン/エオシン(H&E染料)、コラーゲンのためにトリクローム染料、またはTupaiaコラーゲンを染色するレチクリン染料を用いて染色した。
【0134】
(HBV RNAのためのインサイチュPCR)プライマーおよびプローブ用にHBV特異的配列を使用したことを除いて、Liuら(1997;J.Vir.71:4079)に記載されるプロトコルに従って反応を行った。これらの配列は以下の通りである:
HBV A: 5’−TGCCTGAGTGC(T/A)GTATG−3’
HBV B: 5’−TAGGAGGCTGTAGGCAT−3’
HBプローブ: 5’−TTTATAAGGGTCGATGTCCAT−3’
(結果)
(TupaiaのHBV感染)HBV保有者血清を用いて接種されたTupaiaのHBV感染の証拠を以下の表3に示す。
【0135】
【表3】
HBV感染したTupaiaにおいて、HBV表面抗原(HBsAg)は、接種後2時間に検出され始め、24〜48時間でピークに達し、そして全ての処置されたTupaiaにおいて4〜6日間持続した(表3a)。より長い時点からのHBsAgの産生は、モノクローナルアッセイに対してネガティブであった。しかし、ポリクローナル抗体キットを代用した場合、HbsAgは、研究の経過時間を通じて検出され続けた(10ヶ月)。E−抗原(HBeAgとしてもまた知られる)は、ウイルスコアタンパク質の血清可溶性の改変であり、ヒトにおいて、活性ウイルスの複製についてのマーカーである。HBeAgは、HBV接種後に試験された、3匹全てのTupaiaからの血液サンプルにおいて検出された(表3b)。HBeAg分泌の検出は、継続的血液サンプルにおいて9〜24日に延長した。コントロールの未処置Tupaiaにおいて、HBVウイルス抗原は血液中で検出されなかった。同様に、HBV接種tupaia由来の前処理の血液サンプルにおいて、HBVは検出されなかった。このことは、用いられたTupaiaが以前にヒトHBVに曝露されていなかったことを示す。この血清学的データより、本発明者らは、HBVキャリア血清を接種されたTupaiaは感染し、そしてそれらはウイルスを複製すると結論づけた。
【0136】
HBV抗原に対するTupaiaの免疫学的応答。HBVに対する宿主免疫応答は、感染されたヒト肝臓における壊死炎症性反応において重要な構成要素であるため、HBV抗原がTupaiaにおける免疫応答を起こす能力を試験した。HBVウイルスタンパク質に対する血漿抗体レベルを、Tupaiaの感染後、HBVに対する体液性免疫応答を基準として測定した。HBsAgに対する抗体が未処置のTupaiaにおいて検出されず、HBVを接種する前のTupaiaから採取した血液サンプルにおいても検出されなかった。下の表4に示すように、抗体の検出を、各被験体について異なる時点で行った。
【0137】
【表4】
1匹の動物は、たった4週間後で検出可能なレベルを生じた。第2の被験体は、感染7週間後に検出可能なレベルを生じた。3匹全ての被験体に、2回目のHBVを接種した。試験したとき3匹全ての被験体は、抗体に対してポジティブであり、力価は二次免疫応答後、HBVが感染した個々のTupaiaについて2×103〜2×105の間で変化した。これらの結果は、HBV感染後に、Tupaiaが、このウイルスに対する体液性免疫応答を生じ得ることを示す。抗体産生のタイミングおよび規模における変化は、ヒト患者の間に見られるものと類似している。
【0138】
(HBVが感染したTupaiaにおける肝細胞死)HBVが感染したヒト肝臓組織において、ウイルス感染肝細胞に対する宿主の細胞性免疫応答は、肝細胞の死を引き起こすと考えられる。肝細胞の死の1つのマーカーは、溶解性肝細胞から血漿へのアミノトランスフェラーゼの放出である。血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルは、ウイルス肝炎における肝細胞の死および肝臓の損傷の標準的基準である。Tupaia血漿におけるATLレベルを、TupaiaへのHBVの接種前および後に測定した。正常で、未処置のTupaiaALTレベルは、13〜40単位/mlの範囲で、そして平均25単位/mlであり、正常なヒトALTレベルに類似していた。しかし、HBV接種後では、TupaiaにおけるALTのレベルは、図15に示されるように正常なレベルの2〜5倍に上昇した。この上昇は、ヒトにおいて見られるように、肝細胞の死を導くHBVに対する細胞性免疫応答が存在したことを示すと見なされ得る。ALTの上昇の持続期間は、個々のTupaia間で変化した(最大10ヶ月の持続期間)。6ヶ月以上の期間にわたる持続的または周期的なALTの上昇は、感染および破壊される肝細胞の連続的サイクルが存在するヒトにおける、慢性的な肝炎の特徴である。
【0139】
(肝炎およびHBV複製の組織学的証拠)
感染されたおよび非感染のTupaia由来の生検の例証的な写真を図16に示す。
【0140】
パネルA:ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した未処置の正常なTupaiaの肝臓切片(50×)は、門脈に隣接する単一の胆管、および予備リンパ球とともに、平凡な形態を示す。肝臓の構造は、正常なヒトの肝臓に匹敵する。
【0141】
パネルB:HBV感染2ヶ月後に得た生検由来のHBV感染Tupaiaの肝臓切片。H/E染色は、胆管の増殖を示す(50×)。示される視野は、この視野および肝臓組織の隣接切片に見られる多くの視野の代表である。
【0142】
パネルC:HBV感染2ヶ月後に得、そしてH/Eで染色した生検由来のHBV感染Tupaiaの肝臓切片(250×)は、変化した肝細胞形態を示す。いくつかの細胞の大きさを拡大した(バルーンニング(balooning))。門脈の炎症および門脈の周りに単核細胞が見られる。
【0143】
パネルD:HBV感染Tupaia(10ヶ月後の生検)のH/Eで染色した肝臓切片(50×)は、門脈周囲および小葉のリンパ球浸潤を示す。
【0144】
パネルE:HBV感染Tupaia(6ヶ月後生検)のトリクロームで染色した肝臓切片(50×)。肝臓の構造は、この視野においてはコラーゲンの鎖によって歪められる。ブルー染色コラーゲンの鎖が見られ、このコラーゲンの鎖は、少なくとも3つの門脈領域で連結する。完全に形成された硬変性小節は見られない。
【0145】
パネルF:HBV感染Tupaia、パネルDと同じ動物、H/Eで染色した10ヶ月後の肝臓生検(250×)。リンパ球が門脈三管構造から拡がり、そして断片的な壊死パターンにおける変性肝細胞を囲む。
【0146】
パネルG:レチクリンで染色された未処理のTupaia肝臓切片は、正常なヒトの肝臓に匹敵する正常な構造、網様構造を示す。
【0147】
パネルH:HBV感染Tupaia、(パネルEと同じ動物、HBV感染6ヶ月後、レチクリンで染色された)は、再生を示すレチクリンによって個々に囲まれていない肝細胞の群ならびにコラーゲンの沈着および肝細胞の崩壊を示す細胞外マトリクスの太い鎖を示す。
【0148】
HBV RNAのインサイチュPCR検出を図17に示す。上方左のパネルは、HBV感染6ヶ月後のTupaiaの肝臓におけるB型肝炎のRNAの分布を示す。より高い拡大率で、(上方右のパネル)感染された肝細胞および予備クップファー細胞を示し得る。ウイルスRNAは、図17の下方左のパネルに見られるように、非感染のコントロール動物において検出されなかった。対応するウイルス感染した肝臓のレチクリン染色は、中心静脈の領域まで拡張する門脈路の領域において、レチクリン線維の広汎性の増加を示す(図17の下方右パネル)。
【0149】
3匹のTupaiaの場合のまとめを、より詳細に以下に示す;1匹の感染されていないコントロールTupaiaならびにHBV接種6ヶ月後および10ヶ月後に試験した2匹のTupaia。各標本由来の肝臓切片を染色し、次いで2つの臨床的病状によって個々に分析した。
【0150】
(Tupaia#1)未処置の成体Tupaia。HおよびE染色は、正常な肝臓構造を示す。門脈路における炎症の形跡は存在せず、そして洞様毛細血管空間において単核細胞がまれに存在する。肝細胞および胆管は、平凡である。レチクリン染色(コラーゲン沈着について染色する)は、レチクリンの増加を全く示さない。それ故、この肝臓組織は、正常の範囲内にある。インサイチュPCR反応後のHBV RNAの存在についての形跡は見られなかった。
【0151】
(Tupaia#2)HBV接種6ヶ月後に得られた標本。HおよびE染色は、正常な肝臓の構造を示す。門脈路における中程度の、慢性的な炎症(門脈肝炎)の広範な形跡が存在する。これらの炎症性細胞の大部分は、リンパ球およびプラズマ細胞である。時折、炎症は境界板(limiting plate)を通り越す(小葉の肝炎)が、肝細胞壊死/断片的壊死は、明らかでない。洞様毛細血管空間において散乱した単核細胞が存在する。肝細胞は、拡散性および重篤な脂肪変性(脂肪変化)を示す。これは、HCV感染したヒト肝臓において共通に見出される。血清学的試験は、HCVに対し、ネガティブな結果を与えた。このことは、このTupaiaにおいて、脂肪変性が、混入にも先のHCV感染にも起因しないことを示す。まれな石灰沈着細胞(ground glass cell)が、明らかであり、これは、HBVに感染されたヒト肝臓に共通して見出され、そして肝細胞内でのHBsAgの蓄積から生じる。コラーゲン沈着についてのレチクリン染色は、レチクリン線維の拡散性および中程度の増加を示し、このレチクリン線維は門脈路に集中し、そしてまれに中心静脈の領域まで拡がる。これらの組織学的知見は、中程度に重篤な慢性的ウイルス肝炎と一致する。隣接する組織切片におけるHBV複製についての試験の結果、ウイルス性RNAが、RTインサイチュPCR技術を用いて予備的な肝細胞において検出された。ウイルス核酸は、核膜の領域に局在した。このことは、生検時の肝臓における活性なHBV複製を示す。
【0152】
(Tupaia#3)HBV接種10ヶ月後に得られた標本。HおよびE染色は、正常な肝臓の構造を示す。門脈路における慢性的な炎症(門脈肝炎)の最小の形跡が存在する。まれな単核細胞が洞様毛細血管空間に存在し、そして肝細胞は、平凡である。コラーゲンについてのレチクリン染色は、門脈路に集中するレチクリン線維の、限局的かつ穏やかな増加を示す。このことは、結合組織の細かい線維の沈着(門脈周囲線維症)を示す。これらの組織学的知見は、温和で、慢性的な肝炎と一致する。ウイルス性RNAは、生検時(接種10ヶ月後)には検出されなかった。
【0153】
(まとめ)
原始的で下等な霊長類、Tupaia belangeriは、HBVを感染され得、その結果、ヒトの疾患に類似する多くの特徴が観察され得る。これらの疾患症状は、治療的過程の有効性を決定するための有用なマーカーである。これらのマーカーのいくつか(例えば、HBsAgの存在)を使用して、進行中のウイルス複製の存在をモニターし得る。他のマーカー(例えば、ALTレベル)および炎症性応答についての組織学的試験は、感染の二次発現の程度の決定について用いられ得る。
【0154】
(実施例8 TupaiaにおけるHBV抗原に対する経口寛容化の誘導)
この実施例は、SIDRを使用して、ウイルス感染に関連する疾患の症状を緩和し得ることを実証する。この実施例において、経口寛容の誘導により、Tupaia belangeriのHBV感染後、先の実施例において記載された有害な免疫発現を緩和し得る。この実施例はまた、経口寛容の誘導が、病原体の抗原に対する抗体反応を選択的にダウンレギュレートするために使用され得ることのさらなる実証として役立つ。
【0155】
(材料および方法)
被験体、血清学および組織学は、先の実施例において記載されるとおりである。 経口寛容化の誘導。成体のtupaiaに30ngのHBsAgを、HBV感染ヒト血清での感染前または感染後に、1mgのウシ胎仔血清キャリアを含む溶液で与えた(10容量、隔日に与えた)。寛容体(tolerant)として使用されるHBsAgは、ヒト肝細胞株IHBV6.7から採取した細胞培養物の上清由来である。この細胞株の誘導および特徴付けは、同時係属中の特許出願(Brownら、米国特許出願第08/876/635号、1997年6月16日出願)に記載される。コンフルエントであるとき、IHBV6.7定常細胞は、90ng/mlのHBsAgを生成する。未処理のコントロールについては、成体のtupaiaに、1mgのBSAを、HBsAgなしで与えた。
【0156】
(結果)
(抗体のレベル)対のTupaiaにHBVを感染させた場合、表面抗原に対する、高いレベルの抗体を検出した(図18)。感染されたTupaiaの1匹に、感染6週間後にHBsAgを経口投与した場合、少なくとも2桁の規模で抗体レベルが減少したが、コントロールは、高いレベルの抗体を産生し続けた。これら2匹の動物に第2の接種を行った場合、コントロール被験体は、第2のコントロール動物が示したような二次免疫応答を示した(図19)。しかし、先に記載されるように経口寛容された被験体は、HBVチャレンジに対するいずれの応答も実証しなかった。HBV抗体の検出可能なレベルが、12週間にわたって検出されなかった。
【0157】
Tupaiaをまた、HBV感染の前に寛容化した。この実験の結果を図20に示す。HBsAgの経口投与によって処置された被験体は、コントロールより10倍低い初期応答を示した。感染8週間後に試験した場合、寛容化動物における抗体のレベルは、検出可能ではなく、そして再チャレンジが感染21週間後に投与されるまで、そのままであった。再チャレンジの後、抗体の応答レベルは、コントロールと比較して寛容化動物において400倍低かった。これはまた、すぐに検出可能でないレベルに戻った。
【0158】
(ALTレベル)図20に示される被験体をまた、血清ALTレベルの測定によって肝臓の損傷について試験した。これらのアッセイの結果を図21に示す。寛容化TupaiaおよびコントロールTupaiaの両方について、接種2日後に見られる初期ALTピークは、10日以内に正常なレベルまで戻る。コントロール動物において、ALTは、接種後24日目から60日目までに再び上昇しはじめる。このことは、継続する肝臓の損傷の診断法である。対照的に、寛容化被験体は、研究中、ALTの正常なレベルを維持した。
【0159】
図19に示される、二次免疫HBV注射した被験体をまた、肝臓の損傷について血清ALTレベルを測定することによって試験した。これらのアッセイの結果を図22に示す。コントロールのHBV感染Tupaiaは、第2の接種に対して高いALT応答を示すが、一方経口寛容化で処置した被験体は、ほとんど応答を示さない。
【0160】
(組織学)3匹のHBV感染し、BSAを与えられたコントロール由来の肝臓生検は、炎症および線維損場の程度の変化を示した(先の実施例からの図16)。対照的に、2匹のHBsAgを与えて感染したTupaiaおよび3匹の非感染のTupaiaは、炎症または線維症の形跡が欠けていた。この例を図23に示す(上のパネルが非感染Tupaia由来の正常な肝臓標本を示す)。対照的に中央のパネルは、HBV感染したTupaia由来の標本にみられる非健常組織を示す。中央のパネルにおける矢印は、感染10ヶ月後に存在する広範な線維症を示す。下のパネルは、感染後経口寛容誘導を行ったTupaiaにおいて、感染10ヶ月後に、疾患過程のいずれの徴候も存在しないことを示す。
【0161】
(まとめ)
これらのさらなる結果は、HBV抗原に対する経口寛容の治療が、肝臓の病状についてのこの動物モデルにおいて、HBV肝炎の肝性炎症を改善したことを示す。期待され得ることに反して、HBV表面抗原に対する免疫応答の抑止は、劇症性のウイルス血症の提示を導かなかった。tupaiaを感染の前にHBVの表面抗原に対して寛容化した場合、その表面抗原に対する抗体のレベルの劇的な減少が存在した。さらに、治療的効果が、非寛容化動物の肝臓において観察されるHBV感染に対する炎症性応答の損失の点において注目された。この効果は、自己の免疫応答を生じる、選択された抗原またはエピトープに関して、他の抗原またはエピトープに対する免疫応答を維持しながら、経口寛容化が実行され得るこの病原系および他の病原系における治療様式を可能にする。このことは、被験体による感染の天然的制御を可能にする。
【0162】
上記の本発明の発明の詳細な説明および実施例を鑑みて、多くの明らかな改変が当業者に示唆される。全てのこのような改変は、以下の特許請求の範囲によってより詳細に規定されるように、本発明の範囲および思想に十分に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−63582(P2011−63582A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180634(P2010−180634)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【分割の表示】特願2000−215228(P2000−215228)の分割
【原出願日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【出願人】(500334070)エンゾー セラピューティクス, インコーポレイテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Enzo Therapeutics, Inc.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【分割の表示】特願2000−215228(P2000−215228)の分割
【原出願日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【出願人】(500334070)エンゾー セラピューティクス, インコーポレイテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Enzo Therapeutics, Inc.
【Fターム(参考)】
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