説明

新規キチン誘導体

【課題】生体に適した溶解性を有し、かつ、接着性に優れるキチン誘導体、ならびに該誘導体を含有する医療用接着剤及び医療用被覆剤を提供すること。
【解決手段】式(I):


(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、親水性基、ラジカル重合性基、又はラジカル重合性基を有する親水性基を示し、m及びnは、m+n=1を満たし、かつ、0≦m≦1、0≦n≦1であり、但し、R、R、R、R及びRは、特定の関係を満たすものである)で表わされるキチン誘導体、又は式(I)で表されるユニットがR、R、R、R及びRの少なくともいずれかに導入されてなる分岐型のキチン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規キチン誘導体に関する。さらに詳しくは、ラジカル重合性官能基を有するキチン誘導体、ならびに該誘導体を含有する医療用接着剤及び医療用被覆剤に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷、外科手術部位の処置方法としては、一般的な縫合糸を用いた縫合、ステープラーを用いた縫合や、シアノアクリレート系接着剤、フィブリングルー系接着剤、キトサン系接着剤等の生体用接着剤を使用する方法が挙げられる。これらについて、技術的難易度、所要時間、適用範囲、ウィルス感染等の危険性の観点から、比較を行った結果を表1に示す。
【0003】
【表1】

【0004】
縫合糸を用いた縫合は、細かな操作の難易度が高く、内視鏡などを用いる手術では不可能に近い。ステープラーを用いる場合はその操作から適用可能範囲が限られる。シアノアクリレート系接着剤は水分により硬化が開始されるので、失敗した場合にはやり直しが困難である。また、合成品であるため生体適合性が無いという欠点もある。また、フィブリングルー系接着剤は血液製剤由来であるために生体適合性を有するが、ウィルス感染などの危険性が問題視されている。これに対して、キトサン系接着剤はカニ殻、エビ殻由来のキチン、キトサンを原料とするため、ウィルス感染などの危険性が無い。また、キチン、キトサンは創傷治癒剤や生体内充填剤として有用であることが知られており(特許文献1、特許文献2参照)、生体適合性の高い材料である。
【0005】
キチンは、N−アセチルグルコサミンを繰り返しユニットとする天然由来のムコ多糖の一つである。一方、キトサンも天然由来のムコ多糖の一つであるが、工業的にはキチンの脱アセチル化により製造されている。キチン、キトサンの材料特性は、分子量分布、N−アセチル基の置換度の他、化学修飾により導入した機能性置換基により制御されることが知られている。
【0006】
例えば、特許文献3のキトサン誘導体は、紫外線硬化性官能基が導入された誘導体であって、紫外線照射により硬化させて使用するものであり、毒性が低く、生体適合性に優れているという効果を有するものである。
【0007】
また、非特許文献1では、紫外線硬化性官能基が導入されたキトサン誘導体のマウスへの埋設試験が行われ組織検査を行ったところ、良好な生体適合性を示すことが報告されている。非特許文献2では、アジド基を導入したキトサン誘導体は、短時間の紫外線照射により不溶性のハイドロゲルを生じ、該ハイドロゲルは創傷部を被覆して保護するとともに、治癒を促進するものであることが報告されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、還元性末端を持つ糖類の導入により生理的pHでの溶解性が向上し、光反応性官能基の導入により光照射による自己架橋性が得られ、両親媒性基の導入により含水性が向上した不溶性ハイドロゲルを形成することが可能となり、グリコサミノグリカン類の導入により創傷治癒促進や抗血栓性が得られるという、機能性キトサン誘導体が開示されている。なお、これらの置換基は、グルコサミン単位(キトサンユニット)の2位のアミノ基への導入が主であり、両親媒性基のみ、グルコサミン単位(キトサンユニット)またはアセチルグルコサミン単位(キチンユニット)の3位及び6位の水酸基に導入してもよいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2714621号公報
【特許文献2】特許第2579610号公報
【特許文献3】特開2005−154477号公報
【特許文献4】国際公開第00/27889号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Biomacromol., 6, 2385-2388, 2005.
【非特許文献2】Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 331-341, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献3や非特許文献1のキトサン誘導体は、水溶性(水、生理食塩水、希DMSO水溶液等の生体に適した溶媒への溶解性)と機能性(硬化性、接着性)の両立が十分ではないことが判明した。
【0012】
本発明の課題は、生体に適した溶解性を有し、かつ、接着性に優れるキチン誘導体、ならびに該誘導体を含有する医療用接着剤及び医療用被覆剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
〔1〕 式(I):
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、親水性基、ラジカル重合性基、又はラジカル重合性基を有する親水性基を示し、m及びnは、m+n=1を満たし、かつ、0≦m≦1、0≦n≦1であり、但し、
(1) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基であり、
(2) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、又は
(3) R、R、R及びRの少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、
かつ、n個のR、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、m個のR及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
で表わされるキチン誘導体、又は式(I)で表されるユニットがR、R、R、R及びRの少なくともいずれかに導入されてなる分岐型のキチン誘導体、
〔2〕 キチン、キトサン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と親水性基を有する化合物とを塩基性条件下で反応させた後、得られた反応物とラジカル重合性基を有する化合物とをさらに塩基性条件下で反応させる工程を含む、前記〔1〕記載のキチン誘導体の製造方法、
〔3〕 キチン、キトサン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と親水性基を有する化合物とを塩基性条件下で反応させた後、得られた反応物とラジカル重合性基を有する化合物とをさらに塩基性条件下で反応させる工程を含む方法により得られる、親水性基とラジカル重合性基の導入されたキチン誘導体、
〔4〕 前記〔1〕又は〔3〕記載のキチン誘導体を含むことを特徴とする、医療用接着剤、ならびに
〔5〕 前記〔1〕又は〔3〕記載のキチン誘導体を含むことを特徴とする、医療用被覆剤
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のキチン誘導体は、生体に適した溶解性を有し、かつ、接着性に優れるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のキチン誘導体は、式(I):
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、親水性基、ラジカル重合性基、又はラジカル重合性基を有する親水性基を示し、m及びnは、m+n=1を満たし、かつ、0≦m≦1、0≦n≦1であり、但し、
(1) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基であり、
(2) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、又は
(3) R、R、R及びRの少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、
かつ、n個のR、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、m個のR及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
で表わされ、N−アセチルグルコサミンのユニット(以下、キチンユニットともいう)及びグルコサミンのユニット(以下、キトサンユニットともいう)を構成単位として含有する。本発明では、これらのユニットの3位及び6位の水酸基と、キトサンユニットの2位のアミノ基の少なくともいずれかに、特定の置換基が導入されたものであることが大きな特徴である。
【0020】
前記各ユニットの6位水酸基由来の官能基(-OR、-OR)は、立体障害が少ないため、同3位の水酸基由来の官能基(-OR、-OR)や2位のアミノ基(-NHR)に比べて反応性が高く、置換基が導入しやすい。例えば、ラジカル重合性基を誘導体に導入する場合、反応性の観点から、ラジカル重合性基は主として該6位水酸基由来の官能基に導入されるものと推定される。そして、ラジカル重合反応が生じて、架橋が形成され、誘導体に接着性が付与される。この際、3位の水酸基由来の官能基においても該6位の水酸基由来の官能基と同様の置換反応が可能であり、また、前記水酸基由来の官能基に比べて導入割合は低いながらも、2位のアミノ基においても同様の置換反応が可能である。よって、一部のラジカル重合性基が3位の水酸基由来の官能基や2位のアミノ基にも導入されて、より優れた接着性が得られることになる。一方、ラジカル重合性基を導入する際に、該水酸基由来の官能基又はアミノ基に予め親水性基を導入しておくことで、溶解性と接着性の両者をより向上することが可能になる。この場合、親水性基は反応性の観点から6位の水酸基由来の官能基に導入されやすいが、3位の水酸基由来の官能基や2位のアミノ基に導入されてもよい。本発明においては、親水性基とラジカル重合性基が誘導体に導入されるのであれば、これら置換基が、3位及び6位の水酸基由来の官能基や2位のアミノ基に、それぞれ単独で導入されても、両者が一緒になって、ラジカル重合性基を有する親水性基として導入されてもよい。なお、本明細書において、ラジカル重合性とは、可視光線、紫外線等の光線のみならず、X線等の電磁波やラジカル重合開始剤によっても硬化する性質のことである。また、「水溶性」とは、水、生理食塩水、希DMSO水溶液等の生体に適した溶媒への溶解性を意味し、本発明のキチン誘導体は、例えば、25℃における水に対して、好ましくは10mg/mL以上の溶解性を有する。
【0021】
前記式(I)で表される本発明の誘導体において、キトサンユニット及びキチンユニットは、ユニット比率の合計が1となる割合であれば、それぞれ独立した構成単位として存在するものであり、その配列は限定されず、末端単位となるユニットも特に限定されるものではない。従って、本発明のキチン誘導体には、キトサンユニットを含む誘導体も含まれることから、キチン・キトサン誘導体ともいう。なお、末端単位になりうるユニットのうち、グルコサミンの1位にヒドロキシ基が結合する残基は、6員環状態と開環した状態の平衡状態をとることから、還元末端残基として、キトサンユニットのアミノ基と反応することができる。
【0022】
式(I)のR、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、親水性基、ラジカル重合性基、又はラジカル重合性基を有する親水性基を示す。但し、
(1) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基であり、
(2) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、又は
(3) R、R、R及びRの少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、
かつ、n個のR、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、m個のR及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0023】
アルキル基としては、分子全体の親水性を損なわないという観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ジエチルアミノエチル基等が挙げられる
【0024】
親水性基としては、糖類、ポリエチレングリコール、ポリグリセロール等を有する官能基や極性基(カルボキシアルキル基等)を有する官能基が例示されるが、本発明においては、優れた水溶性を付与する観点から、カルボキシアルキル基が好ましい。
【0025】
カルボキシアルキル基としては、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、又はそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)等が挙げられるが、優れた水溶性を付与する観点から、カルボキシメチル基が好ましい。
【0026】
なお、本発明では、アミノ糖を構成成分とする多糖類のキチンやキトサン自身も糖類として用いることができる。本発明のキチン誘導体が式(I)におけるR、R、R、R及びRの少なくともいずれかに導入されることにより、式(I)で表わされるキチン誘導体は、前記位置において分岐した構造をとることになる。なお、導入されるキチン誘導体自身も前記のキチンユニットとキトサンユニットを構成単位とするため、R、R、R、R及びRの少なくともいずれかに別のキチン誘導体が導入されるなどして、式(I)で表わされるキチン誘導体が網目状の構造をとることもある。本明細書では、このような構造のキチン誘導体を、分岐型キチン誘導体ともいう。
【0027】
ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基、アリルエーテル基、シンナモイル基、アジド基、マレイミド基等を有する官能基が例示される。なかでも、キチンユニット、キトサンユニットとの反応性の観点から、(メタ)アクリロイル基を有する官能基が好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、メタクリロイル基とアクリロイル基を意味する。
【0028】
かかるラジカル重合性基としては、具体的に、式(II):
【0029】
【化3】

【0030】
で表わされる2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル基、3-アクリロイロキシ-2-ヒドロキシプロピル基、式(III):
【0031】
【化4】

【0032】
で表わされる2-メタクリロイロキシエチル基、(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)カルボニルメチル基、(3-アクリロイロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)カルボニルメチル基、(2-メタクリロイロキシエトキシ)カルボニルメチル基等が挙げられる。なかでも、式(II)及び式(III)で表わされる官能基は、前記3位及び6位の水酸基に導入可能であり、かつ、重合反応することにより硬化性を示すものである。また、反応原料が市販されていることから、大量合成が容易となり好適である。
【0033】
また、前記以外のラジカル重合性基としては、3,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンジル基、3,5-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンジル基、3-メトキシ-4-メタクリロイロキシベンジル基、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンジル基、3,4-ジメタクリロイロキシベンジル基、3,5-ジメタクリロイロキシベンジル基等が挙げられる。
【0034】
ラジカル重合性基を有する親水性基としては、前記親水性基に、前記ラジカル重合性基が付加したものであれば特に限定はない。例えば、後述の式(IV)の右端のC6位の置換基が例示される。
【0035】
また、式(I)のキチン誘導体の一つの態様として、上記の親水性基とラジカル重合性基を有するユニットを含有する態様が挙げられるが、前記2位のアミノ基がアセチル基に置換されたキチンユニットは取り扱い性を良好にすることから、キチンユニットがキトサンユニットと等量又はより多く含有される場合には水溶性を増大することができる。
【0036】
式(I)中のm及びnは、それぞれ、式(I)の全残基数(即ち、キチンユニットとキトサンユニットの総残基数)におけるキチンユニットの割合、キトサンユニットの割合を示し、また、mは誘導体のアセチル基置換度〔N-アセチル化度(DSAc)〕を意味する。これらは、m+n=1の関係を満足し、かつ、0≦m≦1、0≦n≦1である。アセチル基の置換度mが小さくなるほど、炎症性(炎症性細胞活性化能)が高くなるが不溶性が増大することから、また、mの値が大きいほど、反応性の高い2位アミノ基の存在割合が少なくなるため、親水性基やラジカル重合性基が3位及び6位の水酸基に導入されやすくなることから、m、nの値は、0.60≦m≦1、0≦n≦0.40が好ましく、0.80≦m≦1、0≦n≦0.20がより好ましく、0.90≦m≦1、0≦n≦0.10がさらに好ましい。mとnの値は、誘導体のアセチル化反応や脱アセチル化反応を行うことにより変化させることができる。なお、m及びnそれぞれの値は、プロトン核磁気共鳴分析及び元素分析によって、後述の実施例に記載の方法に従って算出することができる。
【0037】
かかる式(I)で表されるキチン誘導体の好適例としては、例えば、親水性基としてカルボキシメチル基、ラジカル重合性基として2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル基が導入された、式(IV):
【0038】
【化5】

【0039】
で表わされる化合物、式(V):
【0040】
【化6】

【0041】
で表わされる化合物が挙げられる。
【0042】
本発明のキチン誘導体は、キチン、キトサン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、親水性基を有する化合物ならびにラジカル重合性基を有する化合物とを反応させて得られる。なお、前記誘導体としては、キチンやキトサンを原料として用いた縮重合体やその置換体等が挙げられるが、これらはキチンユニットとキトサンユニットを任意の構成割合で含有するものであり、また、これらのユニットはアセチル化反応や脱アセチル化反応を行うことによって相互変換されることから、反応に供されるキチン、キトサン、及びそれらの誘導体をまとめて、反応に供されるキチン・キトサンと記載する。
【0043】
反応に供されるキチン・キトサンの重量平均分子量(Mw)は、取り扱い易さの観点から、5,000〜2,000,000が好ましく、8,000〜1,000,000がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、1,000〜1,500,000が好ましく、2,000〜700,000がより好ましい。なお、本明細書において、キチン・キトサン誘導体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0044】
親水性基を有する化合物としては、前記親水性基を有するものであれば特に限定はない。かかる化合物としては、市販品を用いても、公知の方法に従って合成したものを用いてもよい。
【0045】
ラジカル重合性基を有する化合物としては、前記ラジカル重合性基を有するものであれば特に限定はない。具体的には、メタクリル酸、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸無水物、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸、アクリル酸クロリド、アクリル酸無水物、アクリル酸グリシジル、グリセロールモノメタクリル酸エステル、アクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンジルアルコール、3,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンジルアルコール、3,5-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンジルアルコール、4-メタクリロイロキシ-3-メトキシベンジルアルコール、3,4-ジメタクリロイロキシベンジルアルコール、3,5-ジメタクリロイロキシベンジルアルコール等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、メタクリル酸グリシジル及びグリセロールモノメタクリル酸エステルが好ましい。なお、これらの化合物は、市販品を用いても、公知の方法に従って合成したものを用いてもよい。
【0046】
また、本発明においては、親水性基とラジカル重合性基をいずれも有する化合物を用いてもよく、前記親水性基とラジカル重合性基を有するものであれば、特に限定はない。かかる化合物としては、例えば、モノメタクリロイロキシ(ポリエチレングリコール)等が例示される。
【0047】
反応に供されるキチン・キトサンと、親水性基を有する化合物及びラジカル重合性基を有する化合物との反応は、同時に行っても、別々に行ってもよいが、ラジカル重合性基の反応性の観点から、反応に供されるキチン・キトサンと、親水性基を有する化合物との反応を行ってから、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに反応させてもよいし、その逆の順でも良い。
【0048】
反応に供されるキチン・キトサンと、親水性基を有する化合物との反応は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、反応に供されるキチン・キトサンに、モノクロロ酢酸を添加して、塩基性(好ましくはpH11〜14)の条件下で、好ましくは0℃〜室温の温度で、2〜24時間攪拌して反応させることができる。なお、N-アセチル化度(DSAc)、即ちmの値が大きいほど、親水性基の導入位置は、3位及び6位の水酸基になることから、前記反応は親水性基を有する化合物の種類に応じて、公知の方法に従って、適宜反応液の液性(例えば、pH2〜14)を調整することができる。
【0049】
得られた反応物(親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体)は、ラジカル重合性基を有する化合物とのさらなる反応に供されるが、本発明においては、かかる反応物として市販品を用いてもよい。好適な市販品としては、カルボキシメチルキチン(甲陽ケミカル社製)が挙げられる。
【0050】
次に、親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体と、ラジカル重合性基を有する化合物との反応を行う。該反応は公知の方法に従って、塩基性条件下で行うことができるが、以下に具体例を挙げて説明する。
【0051】
例えば、カルボキシメチルキチンを水に溶解し、ジメチルホルムアミド等の両親媒性の溶媒及びヨウ化テトラブチルアンモニウムを添加して、溶液を塩基性(好ましくはpH7〜8)とした後、メタクリル酸グリシジルを添加して、好ましくは0〜50℃で、2〜24時間攪拌して反応を行うことができる。反応後は、透析、凍結乾燥を行って、本発明のキチン誘導体を得ることができる。なお、得られたキチン誘導体は、公知の方法に従って精製してもよく、例えば、有機溶媒(例えば、アセトン)中で攪拌した後、吸引ろ過、減圧乾燥することにより精製することができる。なお、ラジカル重合性基の導入位置も親水性基の導入位置と同様に、N-アセチル化度(DSAc)、即ちmの値が大きいほど、3位及び6位の水酸基になることから、前記反応はラジカル重合性基を有する化合物の種類に応じて、公知の方法に従って、適宜反応液の液性(例えば、pH2〜14)を調整することができる。例えば、グリセロールモノメタクリル酸エステルを用いる場合には、pH6〜8でエステル反応させることが好ましい。
【0052】
反応に供されるキチン・キトサン、親水性基を有する化合物、及びラジカル重合性基を有する化合物の使用量としては、例えば、キチン・キトサンのユニット構成を調整することで溶解性が変化することから、親水性基を有する化合物の使用量は特に限定されない。また、ラジカル重合性基を有する化合物の使用量は、得られるキチン誘導体の架橋度(接着性)に影響を与えることから、目的とする接着性に応じて、ラジカル重合性基の置換度(各ユニットの水酸基がラジカル重合性基に置換された割合、DSPs)を適宜決定することができる。例えば、ラジカル重合性基を有する化合物の使用量を多くすると、ラジカル重合性基の置換度(DSPs)が大きくなり、接着性を向上することができる。本発明において、ラジカル重合性基の置換度は、0<DSPs≦3を満たすことが好ましく、例えば、DSPsが0.6である場合には、反応に供されるキチン・キトサンとラジカル重合性基のモル比(キチン・キトサン/ラジカル重合性基)が1/0.6になる割合で両者を反応させればよい。
【0053】
得られた反応物の同定は、赤外吸収スペクトル及びプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定することによって行うことができる。
【0054】
本発明の別の態様として、本発明のキチン誘導体の製造方法を提供する。具体的には、反応に供されるキチン・キトサン、親水性基を有する化合物、及びラジカル重合性基を有する化合物を反応させる工程を含む製造方法(態様1)と、反応に供されるキチン・キトサンと、親水性基を有する化合物とを反応させた後、得られた反応物とラジカル重合性基を有する化合物とをさらに反応させる工程を含む製造方法(態様2)が挙げられる。これらの態様における、反応に供されるキチン・キトサンと、親水性基を有する化合物やラジカル重合性基を有する化合物との反応は、親水性やラジカル重合性を調整する観点から、繰り返し行って前記官能基の導入量を調節することができる。なお、いずれの態様においても、反応に供されるキチン・キトサンがキトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有しない場合には、前記割合を調整する観点から、反応に供されるキチン・キトサンを脱アセチル化反応又はアセチル化反応させて前処理する工程を含んでもよい。
【0055】
態様1の製造方法としては、例えば、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するキチン・キトサンを水又は有機溶媒に分散し、ジメチルホルムアミド等の親水性溶媒を添加後、そこにラジカル重合性基を有する化合物の溶液と親水性基を有する化合物の溶液を同時に添加し、さらに、触媒(例、ヨウ化テトラブチルアンモニウム)を添加して、液性を塩基性(好ましくはpH7〜8)となる状態で、好ましくは0〜50℃の温度で、2〜24時間攪拌する工程を含む方法が好適である。
【0056】
態様2の製造方法としては、例えば、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するキチン・キトサンをアルカリ水溶液(好ましくはpH11〜14)に分散させ、そこに親水性基を有する化合物の溶液を添加して、好ましくは0℃〜室温の温度で、2〜24時間攪拌して親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体を調製する。その後、得られた親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体を水に溶解し、そこにラジカル重合性基を有する化合物を添加して、触媒〔例、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド・塩酸塩〕の存在下で、好ましくは0〜50℃の温度で、2〜24時間攪拌する工程を含む方法が好適である。
【0057】
なお、上記方法は、反応物を得る工程の後に精製工程を含んでもよく、精製方法は、公知の方法に従うことができる。
【0058】
また、本発明の別の態様として、前記方法により得られる親水性基とラジカル重合性基の導入されたキチン誘導体を提供する。なかでも、態様2の製造方法により得られるキチン誘導体、即ち、キチン、キトサン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と親水性基を有する化合物とを塩基性条件下(好ましくはpH11〜14)で反応させた後、得られた反応物とラジカル重合性基を有する化合物とをさらに塩基性条件下(好ましくはpH7〜8)で反応させる工程を含む方法により得られる、親水性基とラジカル重合性基の導入されたキチン誘導体が好ましい。かかる方法により得られるキチン誘導体は、式(I)で表される構造を有するものとなる。
【0059】
本発明のキチン誘導体は、接着性と水溶性を両立することから、本発明はまた、本発明のキチン誘導体を含有する医療用接着剤、及び医療用被覆剤を提供する。
【0060】
本発明の医療用接着剤は、本発明のキチン誘導体以外に、ラジカル重合開始剤を含有するものであれば特に限定はない。
【0061】
ラジカル重合開始剤としては、光、電磁波、熱等によってラジカル種を発生する化合物であれば特に制限されるものではない。例えば、ヒドロキシケトン系、アミノケトン系、ビスアシルホスフィンオキシド系等が挙げられ、具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、アセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルフェニルプロパノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン等が挙げられる。また、例えば、エオジンY、クマリン、ローズベンガル、エリスロシン、カンファーキノン、9-フルオレノン、メタロセン系化合物、チタノセン化合物〔例えば、ビスシクロペンタジエニル-ビス(ジフルオロ-ピリル-フェニル)チタニウム〕等の可視光線による重合開始剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ラジカル重合開始剤の含有量は、目的、用途に応じて適宜決定されるが、接着剤中、0.5〜10重量%が好ましい。
【0062】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のキチン誘導体以外に、他のラジカル重合性化合物(ラジカル重合性樹脂等)を添加してもよく、その種類、添加量などは目的、用途に応じて適宜選択すればよい。本発明のキチン誘導体の含有量は、接着剤中、特に限定はない。
【0063】
本発明の医療用接着剤は、ジメチルスルホキシドや水等の溶媒に混合して、注射器等を用いて使用部位に注入する。その後、注入された接着剤に可視光線や紫外線等を照射してラジカル重合反応を開始させるが、ラジカル重合反応開始の条件は公知の方法によることができる。なお、前記溶媒は、本発明の医療用接着剤中に予め処方されていてもよく、また、水に代わって、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液などの緩衝液、或いは生理食塩水等を用いてもよく、pH調整剤を用いてもよい。
【0064】
本発明の医療用接着剤は、外科手術の際の組織接着に使用しても良く、皮膚、血管、臓器等の組織を接合するための接着剤として使用することもできる。
【0065】
本発明の医療用被覆剤は、上記接着剤と同様の構成であるが、使用部位に塗布して光照射することによって膜状の重合体として用いることができる。重合体を膜状に形成させることにより、細菌等の感染防止が可能な接着性を有する被覆剤として用いることができる。これは毒性が低く創傷治癒を阻害しないことから、創傷保護剤として用いてもよく、さらには殺菌性を有する薬剤を添加し、消毒剤として用いてもよい。また、血管カテーテル挿入部位のシーラーとして用いてもよい。さらに、サージカルドレープに適用し、基材の表面に塗布して使用することもできる。また、乳頭及び乳頭管をシールして細菌の侵入を防止するための被覆剤として用いることも可能である。
【0066】
本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤は、細菌の培地とならないために感染の危険性がない。また、ラジカル重合開始剤は別剤としてもよいが、予め本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤に混合されていてもよく、使用に際して、複数の薬剤を混合する必要がなく簡便に扱うことができる。
【0067】
本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤は、種々の形態に調製することができる。例えば、粉末として提供され、使用前に水やジメチルスルホキシドで溶解して用いてもよく、チューブに入れて処方されてもよい。本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤は、ラジカル重合性であるため、遮光性の密封容器に入れて処方するのが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。なお、本実施例において、特に断りのない限り、室温とは15〜25℃を意味する。
【0069】
実施例1
(キチン・キトサンのアセチル化)
カルボキシメチルキチン2.50g(全残基数11.2mmol)〔甲陽ケミカル社製、Lot No.30123RY、N-アセチル化度(DSAc) 0.64、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、重量平均分子量(Mw) 570,000、数平均分子量(Mn) 190,000〕を水30mLに加え、室温で10分間攪拌した。その後、メタノール40mL及び無水酢酸616mg(6.03mmol)を加え、室温でさらに24時間攪拌した後、テトラヒドロフラン300mLを加え、遠心分離により沈殿物を回収した。沈殿物をエタノール洗浄した後、水20mLに溶かし、0.5M KOH水溶液80mLを加えて室温で24時間攪拌した(反応液pH11〜13)。反応溶液にメタノール300mLを加え、遠心分離により沈殿物を回収した。沈殿物をメタノール洗浄した後、真空乾燥して、アセチル化度を調整したカルボキシメチルキチン2.42g(DSAc 0.87)を得た。得られたカルボキシメチルキチンのプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、D2O):δ2.06(NHCOCH3のCH3由来)、3.45-4.08(その他のH).
IR(KBr):3600-3300、2930、1633、1593、1417、1377、1323、1109、1033cm-1.
【0070】
(親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体へのラジカル重合性基の導入)
アセチル化度を調整したカルボキシメチルキチン2.40g(全残基数10.3mmol)を水50mLに加え、室温で4時間攪拌した後、ジメチルホルムアミド300mL、ヨウ化テトラブチルアンモニウム1.90g(5.14mmol)、及びメタクリル酸グリシジル375mg(2.64mmol)を加え、室温でさらに24時間攪拌した(反応液pH7〜8)。その後、透析、凍結乾燥することにより、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化カルボキシメチルキチン2.73gを得た。各置換度は、N-アセチル化度(DSAc) 0.87、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化度(DSPs) 0.26であった。得られた誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、D2O):δ1.95(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.10(NHCOCH3のCH3由来)、3.0-4.5(糖残基のC(2),C(3),C(4),C(5),C(6)位のH及びグリセロール部分のH)、5.70及び6.12(C=CH2).
IR(KBr):3600-3300、2930、1633、1593、1417、1377、1323、1300、1109、1033cm-1.
【0071】
なお、各置換度は、以下のように算出した。まず、市販のカルボキシメチルキチン〔N-アセチル化度(DSAc) 0.64、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61〕をアセチル化した場合のキチン・キトサン誘導体全体のアセチル化度をaとした場合、グルコサミン残基(炭素数6、窒素数1)1個に対して、アセチル基(炭素数2、置換度a)、カルボキシメチル基(炭素数2、置換度0.61)が導入されていることから、炭素原子と窒素原子の重量比(C/N)は
C/N=12.01×(6+2×a+2×0.61)/14.01×1
と表わすことができる。一方、元素分析の結果より、C(重量%)40.85、N(重量%)5.32であったことから、上記式より、置換度(DSAc)a=0.87と算出することができる。これより、キチンユニットの割合が高く、2位アミノ基の存在割合が低いことが分かり、カルボキシメチル基やラジカル重合性基は6位水酸基に導入される割合が高いと推察される。
【0072】
次に、上記カルボキシメチルキチンに2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピルを反応させた場合の2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル度(DSPs)をbとした場合、グルコサミン残基(炭素数6、窒素数1)1個に対して、アセチル基(炭素数2、置換度0.87)、カルボキシメチル基(炭素数2、置換度0.61)、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル基(炭素数7、置換度b)が導入されていることから、炭素原子と窒素原子の重量比(C/N)は
C/N=12.01×(6+2×0.87+2×0.61+7×b)/14.01×1
と表わすことができる。一方、元素分析の結果より、C(重量%)42.26、N(重量%)4.58であったことから、上記式より、置換度(DSPs)b=0.26と算出することができる。
【0073】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルにおける、δ1.95(CH3CH=CH2のCH3由来)のピーク面積が2.71、δ2.10(NHCOCH3のCH3由来)のピーク面積が8.71であることから、前記より算出されたDSAc=0.87を用いると、DSPs=0.28と算出され、前記結果が支持されることが分かる。
【0074】
実施例2
(キチン・キトサンのアセチル化)
アセチル化に供するカルボキシメチルキチンの量を2.50g(全残基数11.2mmol)から2.51g(全残基数11.3mmol)に変更する以外は、実施例1と同様にして、アセチル化度を調整したカルボキシメチルキチン2.49g(DSAc 0.95)を得た(反応液pH11〜13)。得られたカルボキシメチルキチンのプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、D2O):δ2.06(NHCOCH3のCH3由来)、3.45-4.09(その他のH).
IR(KBr):3600-3300、2930、1633、1593、1417、1377、1323、1109、1033cm-1.
【0075】
(親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体へのラジカル重合性基の導入)
アセチル化度を調整したカルボキシメチルキチン2.41g(全残基数10.2mmol)を水50mLに加え、室温で4時間攪拌した後、ジメチルホルムアミド300mL、ヨウ化テトラブチルアンモニウム1.91g(5.17mmol)、及びメタクリル酸グリシジル386mg(2.71mmol)を加え、40℃で24時間攪拌した(反応液pH7〜8)。その後、透析、凍結乾燥することにより、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化カルボキシメチルキチン2.71gを得た。各置換度は、実施例1と同様にして算出したところ、N-アセチル化度(DSAc) 0.95、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化度(DSPs) 0.29であった。これより、キチンユニットの割合が高く、2位アミノ基の存在割合が低いことが分かり、カルボキシメチル基やラジカル重合性基は6位水酸基に導入される割合が高いと推察される。得られた誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、D2O):δ1.93(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.07(NHCOCH3のCH3由来)、3.0-4.5(糖残基のC(2),C(3),C(4),C(5),C(6)位のH及びグリセロール部分のH)、5.72及び6.10(C=CH2).
IR(KBr):3600-3300、2924、1639、1603、1415、1370、1323、1109、1043cm-1.
【0076】
実施例3
実施例2と同様にして得られた、アセチル化度を調整したカルボキシメチルキチン0.80g(全残基数3.39mmol)を水25mLに加え、室温で4時間攪拌した後、ジメチルホルムアミド100mL、ヨウ化テトラブチルアンモニウム0.32g(0.87mmol)、及びメタクリル酸グリシジル188mg(1.32mmol)を加え、室温で24時間攪拌した(反応液pH7〜8)。その後、透析、凍結乾燥することにより、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化カルボキシメチルキチン0.83gを得た。各置換度は、実施例1と同様にして算出したところ、N-アセチル化度(DSAc) 0.95、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化度(DSPs) 0.15であった。これより、キチンユニットの割合が高く、2位アミノ基の存在割合が低いことが分かり、カルボキシメチル基やラジカル重合性基は6位水酸基に導入される割合が高いと推察される。得られた誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz, D2O):δ1.95(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.10(NHCOCH3のCH3由来)、3.0-4.5(糖残基のC(2),C(3),C(4),C(5),C(6)位のH及びグリセロール部分のH)、5.75及び6.17(C=CH2).
【0077】
実施例4
実施例2と同様にして得られた、アセチル化度を調整したカルボキシメチルキチン0.80g(全残基数3.39mmol)を水25mLに加え、室温で4時間攪拌した後、ジメチルホルムアミド100mL、ヨウ化テトラブチルアンモニウム0.16g(0.43mmol)、及びメタクリル酸グリシジル94mg(0.66mmol)を加え、室温で24時間攪拌した(反応液pH7〜8)。その後、透析、凍結乾燥することにより、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化カルボキシメチルキチン0.77gを得た。各置換度は、実施例1と同様にして算出したところ、N-アセチル化度(DSAc) 0.95、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化度(DSPs) 0.05であった。これより、キチンユニットの割合が高く、2位アミノ基の存在割合が低いことが分かり、カルボキシメチル基やラジカル重合性基は6位水酸基に導入される割合が高いと推察される。得られた誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz, D2O):δ1.95(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.07(NHCOCH3のCH3由来)、3.0-4.5(糖残基のC(2),C(3),C(4),C(5),C(6)位のH及びグリセロール部分のH)、5.77及び6.18(C=CH2).
【0078】
実施例5
カルボキシメチルキチン2.50g(全残基数11.2mmol)〔甲陽ケミカル社製、Lot No.30123RY、N-アセチル化度(DSAc) 0.64、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、重量平均分子量(Mw) 570,000、数平均分子量(Mn) 190,000〕を水50mLに加え、室温で4時間攪拌した後、ジメチルホルムアミド350mL、塩化テトラブチルアンモニウム2.00g(7.20mmol)、及びメタクリル酸グリシジル10.42g(73.3mmol)を加え、室温(25℃)で24時間攪拌した(反応液pH7〜8)。その後、透析、凍結乾燥することにより、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化カルボキシメチルキチンのテトラブチルアンモニウム塩2.15gを得た。各置換度は、実施例1と同様にして算出したところ、N-アセチル化度(DSAc) 0.64、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化度(DSPs) 0.24であった。これより、キチンユニットの割合が高く、2位アミノ基の存在割合が低いことが分かり、カルボキシメチル基やラジカル重合性基は6位水酸基に導入される割合が高いと推察される。得られた誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz, D2O):δ0.95(Bu4N由来)、1.36(Bu4N由来)、1.66(Bu4N由来)、1.95(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.07(NHCOCH3のCH3由来)、3.0-4.5(Bu4N由来のN-CH2,糖残基のC(2),C(3),C(4),C(5),C(6)位のH及びグリセロール部分のH)、5.77及び6.18(C=CH2).
【0079】
実施例6
(親水性基が導入されたキチン・キトサン誘導体へのラジカル重合性基の導入)
カルボキシメチルキチン2.51g(全残基数11.3mmol)〔甲陽ケミカル社製、Lot No.30123RY、N-アセチル化度(DSAc) 0.64、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、重量平均分子量(Mw) 570,000、数平均分子量(Mn) 190,000〕を水250mLに加え、室温で4時間攪拌した後、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド・塩酸塩2.57g(13.4mmol)及びグリセロールモノメタクリル酸エステル2.15g(13.4mmol)を加え、室温でさらに24時間攪拌した(反応液pH6〜8)。その後、透析、凍結乾燥することにより、カルボキシメチルキチンのカルボキシ基部分を2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピルエステル化した生成物 2.73gを得た。各置換度は、実施例1と同様にして算出したところ、N-アセチル化度(DSAc) 0.64、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.61、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロピル化度(DSPs) 0.50であった。これより、キチンユニットの割合が高く、2位アミノ基の存在割合が低いことが分かり、カルボキシメチル基やラジカル重合性基は6位水酸基に導入される割合が高いと推察される。得られた誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、D2O):δ1.95(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.06(NHCOCH3のCH3由来)、3.3-4.3(糖残基のその他のH)、5.75及び6.18(C=CH2).
IR(KBr):3450-3360、2945、1640、1593、1412、1381、1325、1109、1069cm-1.
【0080】
試験例1(バースト圧力による接着性の評価)
表2に示すキチン・キトサン誘導体0.70gに水0.3mLを加え、室温にて24時間攪拌後、光重合触媒のジメチルスルホキシド溶液0.07gを加え、24時間攪拌した。得られたサンプル溶液について、コラーゲン膜上での光重合を行って、バースト圧力を既存の方法(非特許文献2、Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 331-341, 2002.参照)に従って測定し、接着性の評価を行なった。バースト圧力が大きいほど接着性が高いことを意味する。結果を表2に示す。なお、表2に示すキトサン誘導体X-1及びX-2は、非特許文献1、Biomacromol., 6, 2385-2388, 2005.に記載の誘導体であり、ラジカル重合性官能基の4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンジル基がアミノ基に導入されている。誘導体X-1の置換度は、N-アセチル化度(DSAc) 0.40、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.00、ラジカル重合性基の置換度(DSPs) 0.60であった。誘導体X-2の置換度は、N-アセチル化度(DSAc) 0.00、カルボキシメチル化度(DSCM) 0.00、ラジカル重合性基の置換度(DSPs) 0.40であった。
【0081】
【表2】

【0082】
キトサン誘導体X-1、X-2は水溶性が低いため均一なサンプル溶液が調製できず、バースト圧力を測定できなかったのに対して、実施例の誘導体は高い溶解性を示し、得られたサンプル溶液は高いバースト圧力が観測され、良好な接着性能を示した。なかでも実施例2〜4は、N-アセチル化度が0.95と高く、ラジカル重合性基が6位に導入されやすいことが推察されるが、ラジカル重合性基の置換度が高い順に、接着性が良好であることが分かる。なお、実施例1の誘導体はラジカル重合性基の置換度が高いが、実施例2〜4の誘導体の方がN-アセチル化度が高いため、中性領域での水溶性が一層向上し、その分、接着性がさらに向上したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のキチン誘導体は、接着性及び水溶性を両立することから、医薬品の分野において、医療用接着剤や医療用被覆剤に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、親水性基、ラジカル重合性基、又はラジカル重合性基を有する親水性基を示し、m及びnは、m+n=1を満たし、かつ、0≦m≦1、0≦n≦1であり、但し、
(1) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基であり、
(2) R、R、R及びRの少なくともいずれかは親水性基であり、残りの基の少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、又は
(3) R、R、R及びRの少なくともいずれかはラジカル重合性基を有する親水性基であり、
かつ、n個のR、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、m個のR及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
で表わされるキチン誘導体、又は式(I)で表されるユニットがR、R、R、R及びRの少なくともいずれかに導入されてなる分岐型のキチン誘導体。
【請求項2】
ラジカル重合性基が、(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基、シンナモイル基、アジド基、及びマレイミド基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む基である、請求項1記載のキチン誘導体。
【請求項3】
親水性基がカルボキシアルキル基を含む基である、請求項1又は2記載のキチン誘導体。
【請求項4】
キチン、キトサン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と親水性基を有する化合物とを塩基性条件下で反応させた後、得られた反応物とラジカル重合性基を有する化合物とをさらに塩基性条件下で反応させる工程を含む、請求項1〜3いずれか記載のキチン誘導体の製造方法。
【請求項5】
キチン、キトサン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と親水性基を有する化合物とを塩基性条件下で反応させた後、得られた反応物とラジカル重合性基を有する化合物とをさらに塩基性条件下で反応させる工程を含む方法により得られる、親水性基とラジカル重合性基の導入されたキチン誘導体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか又は5記載のキチン誘導体を含むことを特徴とする、医療用接着剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか又は5記載のキチン誘導体を含むことを特徴とする、医療用被覆剤。
【請求項8】
医療用被覆剤が創傷保護剤である、請求項7記載の医療用被覆剤。
【請求項9】
医療用被覆剤が接着性を有する消毒剤である、請求項7記載の医療用被覆剤。
【請求項10】
医療用被覆剤が血管カテーテル挿入部位のシーラーである、請求項7記載の医療用被覆剤。
【請求項11】
医療用被覆剤が乳頭口及び乳頭管のシーラーである、請求項7記載の医療用被覆剤。

【公開番号】特開2011−160959(P2011−160959A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26542(P2010−26542)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】