説明

新規クローディン結合分子およびその利用

【課題】クローディン1指向性を有する新規クローディン結合分子を提供する。また、当該クローディン結合分子を利用する薬物送達システム、粘膜吸収促進剤、ウイルス性疾患治療剤、癌治療剤を提供する。
【解決手段】以下の(A)または(B)のタンパク質からなるクローディン結合分子は、クローディン1およびクローディン4に対して結合性を有している。
(A)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(B)(A)のアミノ酸配列の第305位のプロリン、第307位のアルギニンおよび第313位のヒスチジン以外の配列部分において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規クローディン結合分子およびその利用に関するものであり、詳細には、新規クローディン結合分子、および当該クローディン結合分子を含む薬物送達システム、粘膜吸収促進剤、ウイルス性疾患治療剤、癌治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上皮細胞は生体内外および組織内外を隔てる障壁として恒常性維持における中心的な役割を担っている。隣接する上皮細胞間隙は密着結合によりシールされており、上皮細胞層における物質透過および細胞増殖等が厳密に制御されている。クローディンは密着結合の構造的、機能的本体として同定された分子量約23kDaの4回膜貫通タンパク質であり、24種類の分子からなるファミリーを形成している。クローディンの発現およびバリア機能には組織特異性が認められており、クローディン1は、皮膚バリアを担っていること(非特許文献1)、大腸粘膜バリアを担っていること(非特許文献2)、大腸癌等で高発現していること(非特許文献3)、C型肝炎ウイルスの感染受容体であること(非特許文献4)などが報告されている。
【0003】
本発明者らは、クローディン4への指向性を有するウエルシュ菌エンテロトキシンのC末端断片(以下「C−CPE」という。)が、腸管、鼻、肺胞粘膜における薬物吸収促進活性を有することを見出し、粘膜吸収促進剤として利用できることを報告している(非特許文献5、特許文献1)。しかしながら、C−CPEにはクローディン1への指向性がないため、クローディン1を標的とした薬物送達システムに利用できず、クローディン1への指向性を有する新たなクローディン結合分子の創製が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2009/005000号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Furuse, M. Hata, K. Furuse, Y. Yoshida, A. Haratake, Y. Sugitani, T. Noda, A. Kubo, S. Tsukita, Claudin-based tight junctions are crucial for the mammalian epidermal barrier: a lesson from claudin-1-deficient mice, J Cell Biol, 156 (2002) 1099-1111.
【非特許文献2】R. Mennigen, K. Nolte, E. Rijcken, M. Utech, B. Loeffler, N. Senninger, M. Bruewer, Probiotic mixture VSL#3 protects the epithelial barrier by maintaining tight junction protein expression and preventing apoptosis in a murine model of colitis, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol, 296 (2009) G1140-G1149.
【非特許文献3】S.L. Kominsky, Claudins: emerging targets for cancer therapy, Expert Rev Mol Med, 8 (2006) 1-11.
【非特許文献4】M.J. Evans, T. von Hahn, D.M. Tscherne, A.J. Syder, M. Panis, B. Wolk, T. Hatziioannou, J.A. McKeating, P.D. Bieniasz, C.M. Rice, Claudin-1 is a hepatitis C virus co-receptor required for a late step in entry, Nature, 446 (2007) 801-805.
【非特許文献5】M. Kondoh, A. Masuyama, A. Takahashi, N. Asano, H. Mizuguchi, N. Koizumi, M. Fujii, T. Hayakawa, Y. Horiguchi, Y. Watanbe, A novel strategy for the enhancement of drug absorption using a claudin modulator, Mol Pharmacol, 67 (2005) 749-756.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、クローディン1指向性を有する新規クローディン結合分子を提供するとともに、当該クローディン結合分子を利用する薬物送達システム等の優れた用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]以下の(A)または(B)のタンパク質からなるクローディン結合分子。
(A)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(B)(A)のアミノ酸配列の第305位のプロリン、第307位のアルギニンおよび第313位のヒスチジン以外の配列部分において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質
[2]クローディンが、少なくともクローディン1およびクローディン4である前記[1]に記載のクローディン結合分子。
[3]毒性を発現しないことを特徴とする前記[1]または[2]に記載のクローディン結合分子。
[4]配列番号1で示されるアミノ酸配列の第1位〜第52位を欠失していることを特徴とする前記[3]に記載のクローディン結合分子。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のクローディン結合分子と薬物とを含むことを特徴とする薬物送達システム。
[6]薬物が、抗癌薬、抗ウイルス薬、炎症性腸疾患治療薬、肝疾患治療薬、腎疾患治療薬、脳疾患治療薬、心疾患治療薬、免疫抑制薬、アトピー性皮膚炎治療薬およびワクチンからなる群より選択されることを特徴とする前記[5]に記載の薬物送達システム。
[7]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のクローディン結合分子を含有する粘膜吸収促進剤。
[8]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のクローディン結合分子および抗ウイルス薬を含有するウイルス性疾患治療剤。
[9]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のクローディン結合分子または以下の(C)もしくは(D)のタンパク質からなるクローディン結合分子および抗癌薬を含有する癌治療剤。
(C)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(D)(C)のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クローディン1および4に指向性を有するクローディン結合分子を提供することができる。本発明のクローディン結合分子を利用すれば、クローディン1またはクローディン4が発現している部位を標的とする薬物送達システムを提供することができる。また、クローディン1またはクローディン4が発現している粘膜を標的とする粘膜吸収促進剤、クローディン1またはクローディン4が発現している細胞に感染するウイルスを標的とするウイルス性疾患治療剤、クローディン1またはクローディン4が発現している癌細胞を標的とする癌治療剤等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】C−CPE変異体ファージライブラリから取得したクローディン1結合性ファージクローンおよびその変異箇所のアミノ酸を示す図である。
【図2】C−CPE変異体19およびC−CPE変異体86のクローディン1結合性を解析した結果を示す図である。
【図3】クローディン1発現L細胞に対するC−CPE変異体19−PSIF、C−CPE変異体86−PSIFおよびC−CPE−PSIFの細胞毒性を観察した結果を示す図である。
【図4】(A)は、クローディン1発現L細胞とC−CPEまたはC−CPE変異体19をプレインキュベーションした後にC−CPE−PSIFまたはC−CPE変異体19−PSIFを添加して細胞毒性を観察した結果を示す図であり、(B)は、クローディン1発現L細胞とC−CPEまたはC−CPE変異体86をプレインキュベーションした後にC−CPE−PSIFまたはC−CPE変異体86−PSIFを添加して細胞毒性を観察した結果を示す図である。
【図5】C−CPE、C−CPE変異体19またはC−CPE変異体86の、野生型バキュロウイルス、クローディン1発現バキュロウイルスまたはクローディン4発現バキュロウイルスに対する結合性を解析した結果を示す図である。
【図6】ヒト腸管モデル細胞系であるCaco−2細胞の単層膜培養系を用いて、C−CPE変異体19の粘膜バリア制御活性を解析した結果を示す図である。
【図7】ラット腸管ループ法を用いて、C−CPE変異体19のデキストラン(分子量4000)吸収促進活性を解析した結果を示す図である。
【図8】C−CPE三置換体(S305P、S307R、S307H)の、野生型バキュロウイルスまたはクローディン1発現バキュロウイルスに対する結合性を解析した結果を示す図である。
【図9】クローディン1発現L細胞に対するC−CPE三置換体(S305P、S307R、S307H)の細胞毒性を観察した結果を示す図である。
【図10】クローディン4発現B16メラノーマ細胞の皮下移植により形成された腫瘍に対するC−CPE−PSIFの抗癌活性を解析した結果を示す図である。
【図11】クローディン4発現B16メラノーマ細胞の尾静脈投与により肺に転移した癌に対するC−CPE−PSIFの抗癌活性を解析した結果を示す図である。
【図12】マウス乳がん細胞株4T1細胞の皮下移植により形成された腫瘍に対するC−CPE−PSIFの抗癌活性を解析した結果を示す図である。
【図13】マウス乳がん細胞株4T1細胞の皮下移植後、肺に自然転移した細胞に対するC−CPE−PSIFの抗癌活性を解析した結果を示す図である。
【図14】マウス乳がん細胞株4T1細胞の皮下移植により形成された腫瘍に対するC−CPE−PSIFの抗癌活性をドキソルビシンの抗癌活性と比較した結果を示す図である。
【図15】マウス乳がん細胞株4T1細胞の皮下移植後、肺に自然転移した細胞に対するC−CPE−PSIFの抗癌活性をドキソルビシンの抗癌活性と比較した結果を示す図である。
【図16】C−CPE−PSIFを投与したマウスとドキソルビシンを投与したマウスの体重の変化を比較した図である。
【図17】C−CPE−PSIFを投与したマウスのASTおよびALTを測定した結果を示す図である。
【図18】C−CPE−PSIFを投与したマウスのBUNを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔クローディン結合分子〕
ウエルシュ菌(学名:Clostridium perfringens)は、クロストリジウム属に属する嫌気性桿菌である。ヒトや動物の腸内細菌叢の構成菌であり、下水、河川、海、耕地などの土壌に広く分布する。ウエルシュ菌エンテロトキシン(以下「CPE」という。)はウエルシュ菌が産生する毒素の1つであり、感染性食中毒の原因となる。CPEは、細胞のタイトジャンクション構成タンパク質であるクローディン(Claudin)ファミリーのクローディン3、4、6、7、8および14と結合することが知られている(Fujita, K. et al., (2000) FEBS Letters 476, 258-261.)。CPEは配列番号2で表わされる319アミノ酸からなるタンパク質であり、これをコードする遺伝子は配列番号3で表わされる塩基配列を有する。CPEをコードする遺伝子(配列番号3)は、アクセッション番号:M98037として公知のデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されている。
本発明者らは、配列番号2のアミノ酸配列からなるCPEのC末端断片において、第305位のセリンがプロリンに、第307位のセリンがアルギニンに、第313位のセリンがヒスチジンにそれぞれ置換された三置換変異体が、CPEが本来有しているクローディン4結合性を維持しつつ、クローディン1結合性を獲得していることを見出した。
【0011】
本発明のクローディン結合分子は、以下の(A)または(B)のタンパク質からなるものであればよい。
(A)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(B)(A)のアミノ酸配列の第305位のプロリン、第307位のアルギニンおよび第313位のヒスチジン以外の配列部分において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質
配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、CPEのアミノ酸配列(配列番号2)において、第305位のセリンがプロリンに、第307位のセリンがアルギニンに、第313位のセリンがヒスチジンにそれぞれ置換されたCPE三置換変異体のアミノ酸配列である。
【0012】
本発明のクローディン結合分子は、換言すれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなるCPE三置換変異体のC末端断片である。本発明のクローディン結合分子は、少なくともクローディン1およびクローディン4に対する結合性を有していることが好ましい。もちろん、CPEが本来有している他のクローディン(3、6、7、8および14)に対する結合性が維持されていてもよいことは言うまでもなく、これら以外のクローディン結合性を獲得しているものでもよい。
CPE三置換変異体のC末端断片(以下「C−CPE三置換体」という。)は、CPEをコードする遺伝子(配列番号3)に基づいて、公知の変異導入法および公知の遺伝子組換え技術により、CPE三置換変異体のC末端断片をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターを構築し、これを適当な宿主に導入して発現させた組換えタンパク質を回収、精製して取得することができる。取得した組換えタンパク質(C−CPE三置換体)がクローディン結合性を有することは、例えば、クローディンを発現する細胞に結合することを公知の方法で確認すればよい。
【0013】
本発明のクローディン結合分子は、毒性を発現しないことが好ましい。毒性を発現しないとは、CPEが有する細胞毒性が消滅していることを意味する。CPEの毒性は、CPEのN末端側のアミノ酸領域に支配されていることが知られており、CPEのN末端から第44位までのアミノ酸が欠失したC−CPE(45−319)は毒性を発現するが、N末端から第52位までのアミノ酸が欠失したC−CPE(53−319)は毒性を発現しないことが報告されている(Kokai-Kun, J.F., et al. (1997) Clin. Infect. Dis. 25, Suppl. 2, 165-167.)。したがって、少なくとも配列番号1で表わされるアミノ酸配列の第1位〜第52位までのアミノ酸が欠失したC−CPE三置換体とすることで、毒性を発現しないC−CPE三置換体を取得することができる。また、配列番号1で表わされるアミノ酸配列の第52位より前の領域を有するC−CPE三置換体であっても、第45位〜第52位の領域に置換、欠失、挿入、修飾等の変異を誘導することにより、毒性を発現しないC−CPE三置換体を取得することも可能である。
【0014】
本発明のクローディン結合分子は、クローディン結合性を有する限り、第305位のプロリン、第307位のアルギニンおよび第313位のヒスチジン以外の配列部分において、変異を有するものでもよい。したがって、本発明のクローディン結合分子には、配列番号1で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質の第305位のプロリン、第307位のアルギニンおよび第313位のヒスチジン以外の配列部分において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質が含まれる。
【0015】
ここで「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0016】
本発明のクローディン結合分子の大きさ(アミノ酸残基数)は特に限定されないが、抗原性の点から小さいことが好ましい。好ましくは140アミノ酸以下、より好ましくは100アミノ酸以下、さらに好ましくは40アミノ酸以下、特に好ましくは30アミノ酸以下である。
【0017】
〔薬物送達システム〕
本発明の薬物送達システムは、上記本発明のクローディン結合分子と薬物とを含むものであればよい。本発明のクローディン結合分子は、クローディン1およびクローディン4への指向性を有しているので、本発明のクローディン結合分子を利用することにより、クローディン1またはクローディン4が発現している臓器や組織へ目的の薬物を送達するための優れた薬物送達システムを提供することができる。
【0018】
本発明の薬物送達システムは、クローディン結合分子と薬物とが一体化していない混合組成物の形態とすることも可能であるが、クローディン結合分子と薬物とが何らかの相互作用により一体化した形態とすることが好ましい。一体化のための手段は特に限定されないが、例えば、薬物を封入したリポソームとクローディン結合分子の結合体、薬物を担持したナノマテリアルとクローディン結合分子の結合体などの形態が挙げられる。また、薬物がタンパク質である場合は、薬物とクローディン結合分子との融合タンパク質が好適である。
【0019】
薬物を封入したリポソームとクローディン結合分子の結合体は、ペプチド、タンパク質、核酸、低分子化合物などの薬物を封入したリポソーム膜表面にクローディン結合分子を結合させたものであればよく、薬物の種類、リポソームの脂質組成やサイズ、およびクローディン結合分子との結合方法は特に限定されない。リポソームは、例えば、ホスファチジルコリン、コレステロール、ポリエチレングリコール結合脂質などを原料として公知の方法で作製することができる。また、クローディン結合分子との結合用に脂質末端カルボキシル基もしくはマレイミド基を有する脂質を使用することが好ましい。リポソーム内への薬物の封入は公知の凍結融解法、逆相蒸発法、水和法などにより行うことができる。作製した薬物内封リポソームにクローディン結合分子を加え、ペプチド縮合反応もしくはSH基反応系によりリポソームとクローディン結合分子との結合体を作製することができる。
【0020】
薬物を担持したナノマテリアルとクローディン結合分子との結合体は、特に限定されず、適当なナノマテリアルに薬物を担持させ、クローディン結合分子とさせればよい。例えば、公知の各種末端修飾ポリマーとクローディン結合分子のリジン、システインとの結合体を用いた自己組織化ナノマテリアルなどが挙げられる。
【0021】
タンパク性薬物とクローディン結合分子との融合タンパク質は、公知の遺伝子組換え技術により製造することができる。例えば、クローディン結合分子をコードする遺伝子と薬物をコードする遺伝子とを人工的に連結した融合遺伝子(ハイブリッド遺伝子)を作製し、当該融合遺伝子を、発現ベクターのプロモーターの下流に挿入し、適当な宿主細胞に導入して発現させることにより取得することができる。融合タンパク質において、クローディン結合分子と薬物との結合順序は限定されず、N末端が薬物でC末端側がクローディン結合分子としてもよく、逆にN末端がクローディン結合分子でC末端側が薬物としてもよい。
【0022】
本発明の薬物送達システムの標的部位は、本発明のクローディン結合分子が結合可能なクローディンが発現している臓器または組織であれば限定されない。好ましくは、クローディン1またはクローディン4が発現している臓器または組織である。具体的には、例えば、腸管粘膜組織(クローディン1および4が発現)、皮膚(クローディン1および4が発現)、肝臓(クローディン1および4が発現)、腎臓(クローディン1および4が発現)、脳(クローディン1が発現)、脾臓(クローディン1が発現)、心臓(クローディン1が発現)、癌細胞(クローディン1または4が発現)、C型肝炎ウイルス感染細胞(クローディン1がC型肝炎ウイルスの感染受容体)などが挙げられる。
【0023】
本発明の薬物送達システムにおいて用いられる薬物は、上記標的部位に送達することが好ましい薬物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、抗癌薬、抗ウイルス薬、炎症性腸疾患治療薬、肝疾患治療薬、腎疾患治療薬、脳疾患治療薬、心疾患治療薬、免疫抑制薬、アトピー性皮膚炎治療薬、ワクチンなどが挙げられる。
【0024】
〔粘膜吸収促進剤〕
本発明は、上記クローディン結合分子を含有する粘膜吸収促進剤を提供する。本発明者らは、変異を有しないC−CPEが腸管、鼻、肺胞粘膜における薬物吸収促進活性を有することを報告しているが(非特許文献5)、本発明のクローディン結合分子は、変異を有しないC−CPEと比較して2倍以上の粘膜バリア低下作用および粘膜吸収促進活性を有することが実験的に確認されていることから(実施例参照)、顕著に優れた粘膜吸収促進剤を提供することができる。
【0025】
〔ウイルス性疾患治療剤〕
本発明は、上記クローディン結合分子および抗ウイルス薬を含有するウイルス性疾患治療剤を提供する。治療対象のウイルス性疾患としては、クローディン1またはクローディン4が発現している細胞に感染するウイルスが原因となるウイルス性疾患が好ましい。特に好ましくはC型肝炎である。C型肝炎ウイルスは、クローディン1を感染受容体としていることが報告されている(非特許文献4)こと、本発明のクローディン結合分子はウイルス変異の影響を受けず、副作用が低いと予想されることから、未だ有効な治療法が存在しないC型肝炎ウイルスの高ウイルス量患者の治療薬として優れた効果を発揮することが期待される。
本発明のウイルス性疾患治療剤は、上述のように、抗ウイルス薬をリポソームに封入してクローディン結合分子と結合させる形態、抗ウイルス薬を担持したナノマテリアルをクローディン結合分子と結合させる形態、タンパク性抗ウイルス薬とクローディン結合分子との融合タンパク質とする形態が好ましい。
【0026】
〔癌治療剤〕
本発明は、上記クローディン結合分子および抗癌薬を含有する癌治療剤を提供する。本発明の癌治療剤は、上記本発明のクローディン結合分子の代わりに変異を有しないC−CPEを用いてもよい。変異を有しないC−CPEとしては、以下の(C)または(D)のタンパク質を好適に用いることができる。
(C)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(D)(C)のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質
【0027】
本発明の癌治療剤の対象となる癌種は、クローディン1、3、4、6、7、8、14が発現している癌であれば特に限定されない。好ましくはクローディン1または4が発現している癌である。具体的には、例えば、胃癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌、大腸癌、肝癌等の上皮由来の癌が挙げられる。
【0028】
本発明の癌治療剤に使用する抗癌薬は特に限定されない。既に臨床応用されている抗癌薬は、いずれも好適に使用することができる。具体的には、例えば、ジフテリアトキシン、緑膿菌エキソトキシン等のタンパク質性分子、タキソール、ドキソルビシン等の抗がん活性低分子などが挙げられる。
本発明の癌治療剤は、上述のように、抗癌薬をリポソームに封入してクローディン結合分子と結合させる形態、抗癌薬を担持したナノマテリアルをクローディン結合分子と結合させる形態、タンパク性抗癌薬とクローディン結合分子との融合タンパク質とする形態が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実験方法において特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), "Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd edition)", Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001) や、F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore,J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley & Sons Ltd. などの、当該技術分野における標準的なプロトコール集に記載の方法、またはそれらを改変した方法を用いた。また、市販の試薬キットや装置は、それらに添付のプロトコールや取扱説明書に従って使用した。
【0030】
〔実施例1:C−CPE変異体の活性検討〕
1−1 実験方法
(1)C−CPE変異体ファージライブラリの作製
C−CPE(配列番号2の第184位〜第319位)をコードする遺伝子をpET−16bに挿入したpET−H10PER(J Cell Biol, 136, 1239-1247, 1997)を鋳型とし、C末端側6箇所(S304/S305/S307/N309/S313/K318)をNNS配列に置換したプライマーを用いてPCRを行った。PCR産物をファージミドに挿入し大腸菌TG1に導入した。この大腸菌にM13K07ヘルパーファージを添加後、37℃、30分静置し、さらに37℃、30分振とう培養した。その後3000×gで10分間遠心分離して大腸菌を回収し、抗生物質含有培地中37℃で振とう培養し、上清にPEG−NaCl溶液を添加後遠心操作によりファージを沈澱させた。この沈澱の懸濁液をC−CPE変異体ライブラリとして使用した。
【0031】
(2)クローディン1結合性ファージのスクリーニング
クローディン発現出芽バキュロウイルス(BV)は、Saekiら(R. Saeki, et al., A novel tumor-targeted therapy using a claudin-4-targeting molecule, Mol Pharmacol, 76 (2009) 918-926.)に記載の方法に準じてBac−to−Bac system(Invitrogen社)を用いて作製した。クローディン1発現出芽バキュロウイルス(クローディン1BV)をイムノチューブに添加し、4℃で一晩静置することで固相化し、これにC−CPE変異体ライブラリを添加した。イムノチューブをPBST(0.05% tween20含有PBS)およびPBSでそれぞれ15回ずつ洗浄し、100mM HCl 100μLを添加して、4℃で10分間作用させることでクローディン1BVに結合しているファージを解離させ、1M Tris−HCl 50μLを加えてHClを中和し、ファージ溶液を回収した。ファージ溶液を大腸菌TG1に感染させ培養した。M13K07ヘルパーファージを添加後、37℃、30分静置し、さらに37℃、30分振とう培養した。その後3000×gで10分間遠心分離して大腸菌を回収し、抗生物質含有培地中37℃で振とう培養し、上清にPEG−NaCl溶液を添加後遠心操作によりファージを沈澱させた。この操作を繰り返すことにより、クローディン1結合性を有するC−CPE変異体ファージをスクリーニングした。得られたファージクローンから、ファージミドを回収し、シークエンスを解析した。
【0032】
(3)C−CPE変異体の発現
目的のC−CPE変異体がコードされているファージミドを鋳型としてPCRによりC−CPE変異体をコードするDNAを増幅後、pET−16bに挿入し、C−CPE変異体発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターを大腸菌株BL21に導入し、アンピシリン含有LB培地で培養した。IPTG添加により融合タンパク質を発現誘導させた後、遠心分離により集菌し、菌体を超音波処理により破砕し、15000rpmの遠心分離後上清を回収した。回収した大腸菌溶解液をあらかじめ6M guanidine/EDTA、MilliQ、0.1M NiSO、bufferA(10mM Tris-HCl (pH8.0)、400mM NaCl、5mM MgCl2、0.1mM phenylmethane sulfonyl fluoride、1mM 2-mercaptoethanol、10% glycerol)により平衡化しておいたHiTrap Chelating HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加し、低濃度のイミダゾール溶液でカラムを洗浄後、高濃度のイミダゾール溶液で吸着したC−CPE変異体を溶出した。溶出液をPD−10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加して、溶媒をPBSバッファーに置換し、各種実験に使用した。
【0033】
(4)C−CPE変異体のクローディン結合性解析
96wellELISAプレート(Greiner Bio-One GmbH、Germany)に0.5μg/50μL TBS/wellで、野生型(WT)BV、クローディン1BV、クローディン4BVを4℃で一晩静置することで固相化した。翌日、BVをPBSで3回洗浄し、1.6%ブロックエース(DS PHARMA BIOMEDICAL、Japan)を用いて室温で2時間ブロッキング後、C−CPE変異体を0.2μg/well添加した。一次抗体に抗His−tag抗体(Zymed Laboratories Inc., Co、USA)、二次抗体にHRP標識抗マウスIgG抗体を用い、TMB試薬(Thermo Scientific, Rockford、IL)添加に伴う発色を波長450nmの吸光度として測定し、C−CPE変異体と各種BVとの結合を解析した。
【0034】
(5)C−CPE変異体−PSIF融合タンパク質の作製
目的のC−CPE変異体がコードされているファージミドを鋳型としてPCRによりC−CPE変異体をコードするDNAを増幅後、pET−PSIF(pET16bに緑膿菌エキソトキシン由来のタンパク質合成阻害因子(PSIF)をコードするDNAを挿入したベクター、上記Saekiら参照)に挿入し、C−CPE変異体−PSIF融合タンパク質発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターを大腸菌株BL21に導入し、アンピシリン含有LB培地で培養した。IPTG添加により融合タンパク質を発現誘導させた後、遠心分離により集菌し、菌体を超音波処理により破砕し、15000rpmの遠心分離後上清を回収した。回収した大腸菌溶解液をあらかじめ6M guanidine/EDTA、MilliQ、0.1M NiSO、bufferAにより平衡化しておいたHiTrap Chelating HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加し、低濃度のイミダゾール溶液でカラムを洗浄後、高濃度のイミダゾール溶液で吸着したC−CPE変異体−PSIF融合タンパク質を溶出した。溶出液をPD−10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加して、溶媒をPBSバッファーに置換した。
【0035】
(6)C−CPE変異体のクローディン1リガンド活性解析
マウス繊維芽細胞(L細胞)またはクローディン1安定発現L細胞を96wellプレート(FALCON)に播種し、一晩培養後C−CPE変異体−PSIF融合タンパク質等を添加し、48時間後にWST−8試薬(NACALAI TESQUE, Inc., Kyoto)により細胞生存率を測定した。
また、拮抗阻害実験では、クローディン1安定発現L細胞を96wellプレートに播種し、一晩培養後C−CPEまたはC−CPE変異体を添加し、添加から3時間後にC−CPE変異体−PSIF融合タンパク質を加え、48時間後にWST−8試薬により生細胞数率を測定した。
【0036】
(7)C−CPE変異体の粘膜バリア制御活性解析
BD BioCoat腸管上皮分化エンバイロメント(BD Biosciences, USA.)を用い、ヒト腸管モデル細胞であるCaco−2細胞1×10個/500μL/wellをapical側に、Seeding Basal Medium 1mLをbasal側に添加した。24時間培養後、培地をSupplemented Enterocyte Differentiation Mediumに交換し、72時間さらに培養した。その後、apical側を無血清Seeding Basal Medium 500μL、basal側をHEPESバッファー(155mM NaCl, 3mM KCl, 2mM CaCl2, 3mM NaH2PO4, 5mM HEPES, 1%BSA, 10mM Glucose(pH7.4))1mLに置換した。24時間後、basal側から100μLずつバッファーを抜き取りC−CPEまたはC−CPE変異体19を最終濃度25または50μg/wellとなるように添加した。薬液添加後、12および18時間後に経上皮電気抵抗(TER:transepithelial electric resistance)を測定した。18時間後のTER測定後、Seeding Basal Mediumによって洗浄し、薬液を除去した。薬液洗浄24時間後TERを測定した。なお、TER測定にはMillicell−ERS(Millipore Corp., USA)を用い、0時間のTERを基準として相対的な値として算出した。
【0037】
(8)C−CPE変異体の腸管粘膜吸収促進活性解析
モデル薬物として蛍光標識された分子量4000のデキストラン(FD−4、Sigma-Aldrich)を使用した。なお、FD−4は最終濃度40mg/mLとなるように調製した。Wisrar系雄性ラットにチアミラールナトリウム(イソゾール注射液(商品名))を腹腔内投与し麻酔下で背位に固定し、頸静脈を確保した。空腸の総胆管開口部の下とそこから約5cm下部を縫合糸で緩く縛り、作製したループの両端にはさみで切り込みを入れた。切り込みからpH6.5のPBSを50mL注入し腸管腔内を洗浄した後、空気を送り余分なPBSを除いた。下端をきつく縛りFD−4とC−CPEとの混合液を200μL投与後、上端を結紮し、腸管を腹腔におさめ、一定時間毎に頸静脈より約350μLずつ採血した。血液は12000rpm、20分間遠心分離を行い、血漿を分取し測定試料とした。分取した血漿50μLをpH6.5のPBS200μLにて希釈した後、蛍光強度を測定した(励起波長485nm、蛍光波長538nm)。得られた血漿中FD−4濃度−時間曲線より台形則にて、試液投与後0時間から6時間目までの血中濃度下面積(AUC)を算出した。
【0038】
1−2 実験結果
(1)クローディン1結合性ファージクローンの取得
C−CPEのC末端側6箇所(S304/S305/S307/N309/S313/K318)をランダムなアミノ酸に変異させたC−CPE変異体を提示したファージライブラリを作製し、本ライブラリを用いてクローディン1BVに結合性を示すファージクローンを複数取得した。取得したファージクローンおよびその変異箇所のアミノ酸を図1に示した。
【0039】
(2)クローディン1結合分子の取得
クローディン1結合性ファージクローンのシークエンスデータに基づいて、組換えC−CPE変異体を作製し、クローディンBVを用いてクローディン1結合性を解析した。図2に示したように、C−CPE変異体19(以下「変異体19」という。)およびC−CPE変異体86(以下「変異体86」という。)は野生型BVに結合性を示さずクローディン1BVに特異的に結合した。この結果から、変異体19および変異体86はクローディン1結合分子であることが明らかとなった。
【0040】
(3)クローディン1リガンド特性の解析
変異体19および変異体86のクローディン1リガンド特性を解析するために、緑膿菌エキソトキシン由来のタンパク質合成阻害因子(PSIF)との融合タンパク質を作製した。変異体19−PSIF、変異体86−PSIFまたはC−CPE−PSIFをクローディン1発現L細胞に添加して細胞毒性を観察した。結果を図3に示した。図3から明らかなように、変異体19−PSIF、変異体86−PSIFを添加した場合に添加濃度依存的な細胞毒性が観察された。
拮抗阻害実験の結果を図4(A)および(B)に示した。(A)は変異体19−PSIFの結果であり、(B)は変異体86−PSIFの結果である。図4(A)および(B)から明らかなように、C−CPEの前処理では変異体19−PSIFおよび変異体86−PSIFの細胞毒性が抑制されなかったのに対して、変異体19−PSIFまたは変異体86−PSIFの前処理ではいずれも濃度依存的な細胞毒性の抑制が観察された。これらの結果から、変異体19および変異体86はクローディン1リガンドとして応用できることが明らかとなった。
【0041】
(4)クローディン1結合性の解析
野生型BV、クローディン1BV、クローディン4BVに対する結合性を解析した結果を図5に示した。図5から明らかなように、変異体19および変異体86はいずれもクローディン1結合性のみならずクローディン4結合性を有していた。この結果から、変異体19および変異体86はクローディン1およびクローディン4結合性分子であることが示された。
【0042】
(5)変異体19の粘膜バリア制御活性解析
ヒト腸管モデル細胞系であるCaco−2細胞の単層膜培養系を用いて、変異体19の粘膜バリア制御活性を解析した結果を図6に示した。図6から明らかなように、C−CPEまたは変異体19の添加により、添加濃度依存的な粘膜バリア低下作用が観察された。また、変異体19の粘膜バリア低下作用はC−CPEの約2倍の値を示した。
【0043】
(6)変異体19の腸管粘膜吸収促進活性解析
薬物の粘膜吸収測定系であるラット腸管ループ法を用いて、変異体19のデキストラン(分子量4000)吸収促進活性を解析した結果を図7に示した。図7から明らかなように、変異体19はC−CPEと比較して約2倍の粘膜吸収促進活性を有していた。C−CPEはペプチド性医薬品の腸管・鼻・肺胞粘膜吸収促進活性を有していることから、変異体19は経口・経鼻・経肺吸収促進技術への応用が期待される。
【0044】
(7)クローディン1結合配列の同定
変異体19、変異体86の他に変異体36もクローディン1特異的な結合性を有していた。これら3種類の変異体に共通のアミノ酸変異はSer305Pro、Ser307Arg、Ser313Hisの3か所であることから(図1参照)、これら3か所のみが変異したC−CPE三置換体を作製し、野生型BVおよびクローディン1BVを用いて結合性を解析した。結果を図8に示した。図8から明らかなように、C−CPE三置換体は変異体19と同程度のクローディン1結合性を有していた。
さらに、C−CPE三置換体とPSIFとの融合タンパク質を作製し、クローディン1発現L細胞に対する細胞毒性を解析した。結果を図9に示した。図9から明らかなように、C−CPE三置換体−PSIFは濃度依存的な細胞毒性を示した。
これらの結果から、第305位のプロリン、第307位のアルギニン、第313位のヒスチジンを有するC−CPEの変異体は、クローディン1リガンドとして機能することが明らかとなった。
【0045】
〔実施例2:C−CPEを利用した癌治療剤〕
2−1 実験方法
(1)C−CPE−PSIFおよびPSIFの作製
pET16bにC−CPE(配列番号2の第184位〜第319位)をコードする遺伝子およびその下流に緑膿菌エキソトキシン由来のタンパク質合成阻害因子(PSIF)をコードするDNAを挿入したpET−C−CPE−PSIF、ならびに、pET16bにPSIFをコードするDNAを挿入したpET−PSIFを使用した。
pET−C−CPE−PSIFまたはpET−PSIFを大腸菌株BL21に導入し、アンピシリン含有LB培地で培養した。IPTG添加により融合タンパク質を発現誘導させた後、遠心分離により集菌し、菌体を超音波処理により破砕し、15000rpmの遠心分離後上清を回収した。回収した大腸菌溶解液をあらかじめ6M guanidine/EDTA、MilliQ、0.1M NiSO、bufferA(10mM Tris-HCl (pH8.0)、400mM NaCl、5mM MgCl2、0.1mM phenylmethane sulfonyl fluoride、1mM 2-mercaptoethanol、10% glycerol)により平衡化しておいたHiTrap Chelating HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加し、100mMのイミダゾール溶液でカラムを洗浄後、400mMのイミダゾール溶液で吸着したC−CPE−PSIFまたはPSIFを溶出した。溶出液をPD−10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加して、溶媒をPBSバッファーに置換し、各種実験に使用した。
【0046】
(2)クローディン4発現B16細胞に対する抗癌活性解析
実験的肺転移モデルとして汎用されているB16メラノーマ細胞にクローディン4発現プラスミドを導入し、クローディン4発現B16細胞を作製した。
7週齢雌性C57BL/6マウスの皮下に、クローディン4発現B16細胞(1×10個)を移植した。移植後週3回C−CPE−PSIFを静脈内投与し、経日的に腫瘍体積を計測した。腫瘍体積は以下の式により算出した。
腫瘍体積=最小径×最大径×最大径/2
また、7週齢雌性C57BL/6マウスの尾静脈からクローディン4発現B16細胞(1×10個)を投与し、投与後週3回C−CPE−PSIFを静脈内投与した。細胞投与14日目に肺を回収し、顕微鏡下で肺に転移した細胞数(肺転移結節数)を計測した。
【0047】
(3)マウス乳がん細胞株4T1細胞に対する抗癌活性解析
7−8週齢雌性BALB/cマウスの皮下に、4T1細胞(1×10個)を移植した。移植後週3回C−CPE−PSIFまたはドキソルビシン(Dox)を静脈内投与し、経日的に腫瘍体積を計測した。腫瘍体積は上記の式により算出した。また、細胞移植35日後に肺を回収し、顕微鏡下で肺転移した細胞数(肺転移結節数)を計測した。
【0048】
(4)C−CPE−PSIFの安全性
7−8週齢雌性BALB/cマウスにC−CPE−PSIFまたはPSIFを週3回、2週間静脈内投与し、投与72時間後に採血し、血中のAST(aspartate aminotransferase)、ALT(alanine aminotransferase)およびBUN(血中尿素窒素)を測定した。ASTおよびALTの測定にはトランスアミナーゼCIIテストワコー(和光純薬)、BUNの測定には、尿素窒素Bテストワコー(和光純薬)を用いた。
【0049】
2−2 実験結果
(1)クローディン4発現B16細胞に対する抗癌活性解析
皮下移植により形成された腫瘍に対する抗癌活性の解析結果を図10に示した。図10から明らかなように、C−CPE−PSIFを5μg/kgで週3回投与することにより、腫瘍体積の増加が有意に抑制された。
尾静脈投与により肺に転移した癌に対する抗癌活性の解析結果を図11に示した。図11から明らかなように、C−CPE−PSIFを5μg/kgで週3回投与することにより、肺転移が有意に抑制された。
これらの結果から、C−CPE−PSIFがクローディン4を発現する癌の原発巣における退縮効果および転移抑制効果を有することが示された。
【0050】
(2)マウス乳がん細胞株4T1細胞に対する抗癌活性解析
皮下移植により形成された腫瘍に対する抗癌活性の解析結果を図12に示した。図12から明らかなように、C−CPE−PSIFを5μg/kgで週3回投与することにより、腫瘍体積の増加が有意に抑制された。
4T1細胞の皮下移植35日目に、肺に自然転移した細胞数(肺転移結節数)を測定した結果を図13に示した。図13から明らかなように、C−CPE−PSIFを2または5μg/kgで週3回投与することにより、肺転移が有意に抑制された。
これらの結果から、C−CPE−PSIFは、原発巣における退縮効果および転移抑制効果を有することが示された。
【0051】
(3)ドキソルビシン(Dox)との比較
C−CPE−PSIFの抗腫瘍活性を、代表的な抗癌性抗生物質であるドキソルビシン(Dox)と比較した。
4T1細胞の皮下移植により形成された腫瘍に対する抗癌活性の解析結果を図14に示した。図14から明らかなように、Doxの2mg/kg投与はC−CPE−PSIFの5μg/kg投与より強い抗癌活性を有していた。
肺への自然転移に対する抗癌活性の解析結果を図15に示した。図15から明らかなように、C−CPE−PSIFの5μg/kg投与はDoxの4mg/kg投与と同等の転移抑制効果を有することが示された。
抗癌剤の副作用の指標である体重減少を解析した結果を図16に示した。図16から明らかなように、Doxの2または4mg/kg投与では顕著な体重減少が観察されたが、C−CPE−PSIFの5μg/kg投与では全く体重減少が観察されなかった。
【0052】
(4)肝臓および腎臓に及ぼす影響
肝障害の指標であるASTおよびALTを測定した結果を図17に示した。また、腎障害の指標であるBUNを測定した結果を図18に示した。いずれの結果においても、抗癌活性が認められたC−CPE−PSIFの5μg/kg投与では、測定値の上昇は認められなかった。
【0053】
以上の結果から、C−CPE−PSIFは副作用を伴うことなく、原発巣癌および転移癌に対する抗癌活性を発揮することが明らかとなった。
【0054】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)または(B)のタンパク質からなるクローディン結合分子。
(A)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(B)(A)のアミノ酸配列の第305位のプロリン、第307位のアルギニンおよび第313位のヒスチジン以外の配列部分において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質
【請求項2】
クローディンが、少なくともクローディン1およびクローディン4である請求項1に記載のクローディン結合分子。
【請求項3】
毒性を発現しないことを特徴とする請求項1または2に記載のクローディン結合分子。
【請求項4】
配列番号1で示されるアミノ酸配列の第1位〜第52位を欠失していることを特徴とする請求項3に記載のクローディン結合分子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のクローディン結合分子と薬物とを含むことを特徴とする薬物送達システム。
【請求項6】
薬物が、抗癌薬、抗ウイルス薬、炎症性腸疾患治療薬、肝疾患治療薬、腎疾患治療薬、脳疾患治療薬、心疾患治療薬、免疫抑制薬、アトピー性皮膚炎治療薬およびワクチンからなる群より選択されることを特徴とする請求項5に記載の薬物送達システム。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のクローディン結合分子を含有する粘膜吸収促進剤。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のクローディン結合分子および抗ウイルス薬を含有するウイルス性疾患治療剤。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のクローディン結合分子または以下の(C)もしくは(D)のタンパク質からなるクローディン結合分子および抗癌薬を含有する癌治療剤。
(C)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の部分配列からなり、少なくとも第304位〜第319位のアミノ酸を含むタンパク質
(D)(C)のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクローディンと結合するタンパク質

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−162466(P2011−162466A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25259(P2010−25259)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、「関西広域バイオメディカルクラスター構想(大阪北部(彩都)地域)に伴う研究委託業務」に係る再委託契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】