説明

新規コスミドベクター

組換えアデノウイルスベクターの作製に有効に用いられる新規コスミドベクター等を提供すること。具体的には、以下の(1)〜(3):(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を含有する、という特徴を有するコスミドベクター、該コスミドベクターを利用した組換えアデノウイルスベクターの作製方法、前記コスミドベクターを成分として含有する組換えアデノウイルスベクター作製用試薬等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規コスミドベクターに関する。さらに詳しくは、本発明は、組換えアデノウイルスベクターの作製に有効に用いられる新規コスミドベクターに関する。
【背景技術】
組換えアデノウイルスは遺伝子治療のみならず基礎分野での遺伝子機能解析などにも有用性が認められることから、広く利用され始めている。第一世代アデノウイルスベクターの作製法としては、ウイルスゲノム全長を二つのプラスミドに分けてクローン化し、片方のプラスミドのE1遺伝子欠失部位に目的遺伝子の発現単位を組み込み、ゲノム配列が一部重複するもう一方のプラスミドとの相同組換えにより組換えアデノウイルスベクターを得るGrahamらの作製法(Bett,A.J.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:8802−8806(1994))、最近キット化された目的遺伝子の発現単位をクローン化された全長ウイルスゲノムに組み込むクローン化ゲノム導入法(特開平11−332560号公報、Berkner,K.L.et al.,Nuc.Acids Res.,11:6003−6020(1983)、Mizuguchi,H.et al.,Hum.Gene Ther.,10:2013−2017(1999)および水口裕之ら、実験医学、20:1799−1804(2002))、そして我々の開発した末端蛋白付きウイルスゲノムを用いるCOS−TPC法(特開平8−308585号公報およびMiyake S.et al.,Proc.Natl.Acad Sci.USA,93:1320−1324(1996))が知られている。
クローン化ゲノム導入法の原理は約20年前から知られており、作製法は簡便であるもののウイルス生成効率が劣るため実用的な方法とは考えられていなかった。我々の開発したCOS−TPC法は、ウイルスゲノムのほぼ全長をクローン化したコスミドベクターとEcoT22 Iなどの制限酵素で切断した末端蛋白付きウイルスゲノムDNA(DNA−TPC)との相同組換えの原理に基づいており、高効率に目的組換えウイルスを得ることができる。そのため、細胞への影響を有することが想定される目的遺伝子を発現するベクターの作製例も多数報告されており、非常に有用であると考えられてきた。しかし、生成効率がやや低くとも目的の組換えアデノウイルスベクターが作製できる場合にまで、煩雑なCOS−TPC法を用いる必要性は無い。この観点から簡便なクローン化ゲノム導入法が見直されている。しかしながらこれまでCOS−TPC法に用いてきたコスミドベクターは、アデノウイルスゲノムの両端に欠失部分が存在するため、ウイルスゲノム部分を切り出し直鎖化して細胞を形質転換してもウイルスの生成は不可能である。そのため、より作製法の応用範囲を広げるために、COS−TPC法、完全長クローン化ゲノム導入法の両方に応用可能であり(図1参照)、かつ簡便で実用性の高いコスミドベクターの作製が望まれている状況にあった。
【発明の開示】
本発明の目的は、組換えアデノウイルスベクターの作製に有効に用いられる新規コスミドベクターを提供することにある。すなわち本発明の目的は、COS−TPC法、完全長クローン化ゲノム導入法の両方に応用可能であり、かつ簡便で実用性の高いコスミドベクターを提供することにある。
さらに本発明の目的は、アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を複数含有することにより、より効率的な組換えアデノウイルスベクターを作製することの可能なコスミドベクターまたはプラスミドベクターを提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、COS−TPC法に用いられているコスミドベクターに存在していたアデノウイルスゲノム両端の欠失部分を完全長に修復し、さらにその外側にアデノウイルスゲノムを消化しない制限酵素の認識配列(TTCGAAなど)を導入した新規なコスミドベクターが、従来知られているコスミドベクターに比して種々の利点を有し、組換えアデノウイルスベクターの作製において極めて有効に使用出来ることを明らかにした。さらに本発明者らは、前記制限酵素認識配列は1つだけでなく複数導入できることを初めて明らかにした。
本発明は、かかる知見に基づき完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、
1) 以下の(1)〜(3)の特徴を有するコスミドベクター;
(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、
(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、
(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を含有する、
2) アデノウイルスゲノム以外に、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域を含有することを特徴とする、前記1)記載のコスミドベクター、
3) 薬剤耐性遺伝子および複製オリジンが、アデノウイルスゲノムの左端逆方向反復配列とスペーサー配列との間に位置することを特徴とする、前記2)記載のコスミドベクター、
4) アデノウイルスゲノムの左端逆方向反復配列の外側から右端逆方向反復配列に向け、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域をこの順序で含有することを特徴とする、前記3)記載のコスミドベクター、
5) アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列としてTTCGAAを含有する、前記1)〜4)いずれか記載のコスミドベクター、
6) TTCGAAを認識する制限酵素がCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iである、前記5)記載のコスミドベクター、
7) E1遺伝子領域欠失部位に外来遺伝子を挿入するための制限酵素認識配列を有する、前記1)〜6)いずれか記載のコスミドベクター、
8) 制限酵素がSwaIである前記7記載のコスミドベクター、
9) E1遺伝子領域欠失部位にさらにCAGプロモーターまたはEF−1αプロモーターを含有する、前記7)または8)記載のコスミドベクター、
10) 前記1)〜9)いずれか記載のコスミドベクターを制限酵素で消化し、該コスミドベクターで細胞を形質転換することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法、
11) 制限酵素がCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iである、前記10)記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法、
12) 前記1)〜9)いずれか記載のコスミドベクターを成分として含有する、組換えアデノウイルスベクター作製用試薬、
13) 以下の(1)〜(3)の特徴を有するコスミドベクターまたはプラスミドベクター;
(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、
(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、
(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を複数含有する、
14) アデノウイルスゲノムの両側において、(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGAT、から選択される少なくとも二種類の制限酵素認識配列を含有する、前記13)記載のベクター、
15) (a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAAを少なくとも含有する、前記14)記載のベクター、
16) (a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGATを少なくとも含有する、前記14)記載のベクター、
17) アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を二種類含有する、前記13)記載のベクター、
18) (a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGAT、から選択される二種類の制限酵素認識配列を含有する、前記17)記載のベクター、
19) (a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAAを含有する、前記18)記載のベクター、
20) (a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGATを含有する、前記18)記載のベクター、
21) アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を三種類含有する、前記13)記載のベクター、
22) (a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGATの三種類の制限酵素認識配列を含有する、前記21)記載のベクター、
23) E1遺伝子領域欠失部位に外来遺伝子を挿入するための制限酵素認識配列を有する、前記13)〜22)いずれか記載のベクター、
24) 制限酵素がSwaIである前記23)記載のベクター、
25) E1遺伝子領域欠失部位にさらにCAGプロモーターまたはEF−1αプロモーターを含有する、前記23)または24)記載のベクター、
26) ベクターがコスミドベクターである、前記13)〜25)いずれか記載のベクター、
27) アデノウイルスゲノム以外に、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域を含有することを特徴とする、前記26)記載のコスミドベクター、
28) 薬剤耐性遺伝子および複製オリジンが、アデノウイルスゲノムの左端逆方向反復配列とスペーサー配列との間に位置することを特徴とする、前記27)記載のコスミドベクター、
29) アデノウイルスゲノムの左端逆方向反復配列の外側から右端逆方向反復配列に向け、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域をこの順序で含有することを特徴とする、前記28)記載のコスミドベクター、
30) 前記13)〜29)いずれか記載のベクターを制限酵素で消化し、該ベクターで細胞を形質転換することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法、
31) 制限酵素がCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iである、前記30)記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法、
32) 制限酵素がPacIである、前記30)記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法、
33) 制限酵素がClaIまたはBspDIである、前記30)記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法、ならびに
34) 前記13)〜29)いずれか記載のベクターを成分として含有する、組換えアデノウイルスベクター作製用試薬、に関する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のコスミドベクターを用いた組換えアデノウイルス作製法の概念図である。図中、DNA−TPCは末端タンパク質が付いた状態のアデノウイルスゲノムDNAを、Ad5はヒトアデノウイルス5型ゲノムを、Apはアンピシリン耐性遺伝子を、oriは大腸菌複製オリジンを、COSはCOS領域を示す。また、DNA−TPCに記載された太い矢印は制限酵素EcoT22I認識部位の位置を示す。
Aに示したCOS−TPC法では、制限酵素消化していないコスミドベクターと制限酵素消化したDNA−TPCとで細胞を形質転換し組換えアデノウイルスを作製する。
Bに示したクローン化ゲノム導入法では、コスミドベクターを制限酵素Csp45Iで消化後、細胞を形質転換し組換えアデノウイルスを作製する。
図2は、本発明に用いたコスミドベクターの構造の概念図である。図中、CAGはCAGプロモーターを、GpAはβ−グロビンポリA付加配列を示す。
図3は、本発明のコスミドベクターの構築法を示す模式図である。図中、Ψはアデノウイルスパッケージングシグナルを、ITRは逆方向反復配列を示す。
また、プラスミドやコスミド名の前の(A)から(K)の識別記号は、図3から図5で共通である。
図4は、図3の続きであり、本発明のコスミドベクターの構築法を示す模式図である。
図5は、図4の続きであり、本発明のコスミドベクターの構築法を示す模式図である。
図6は、コスミドベクターpAxCAwt(両端欠失型)、pAxcwit(両端完全型)およびpAxCAwtit(両端完全型)の構造を示す模式図である。
図7は、コスミドベクターpAxCARedEitで形質転換した細胞から生じた組換えアデノウイルスの構造を確認した実験結果である。形質転換5日ないし6日後にRedEタンパク質の発現が確認されたクローン(早期発現)から5クローンを、形質転換8日から10日後にRedEタンパク質の発現が確認されたクローン(後期発現)から4クローンを選び、ウイルスゲノムDNAをSmaIまたはClaI消化し解析した。
上左図はSmaI消化、上右図はCla消化したDNAのアガロース電気泳動の結果である。図中、ゲル上の数字はクローン番号を示す。下図は、生じた組換えアデノウイルスゲノム上での各制限酵素認識部位の位置ならびに制限酵素消化断片のサイズを模式的に示したものである。矢印の上の数値が、ゲノム左端を1番とした場合の各制限酵素部位の塩基番号、線下の数値が制限酵素消化断片のサイズ(kb)を示す。
図8は、アデノウイルスゲノム両端に複数の制限酵素認識部位を有する本発明のコスミドベクターの構築法を示す模式図である。
図9は、図8の続きであり、アデノウイルスゲノム両端に複数の制限酵素認識部位を有する本発明のコスミドベクターの構築法を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書ではアデノウイルスゲノムでの遺伝子の位置を示すため、マップ単位(map units、以後m.u.と略す、1m.u.は約360塩基対)を使用することがあるが、その値はアデノウイルス5型を基準にしたものを用いている。当該アデノウイルスのゲノム構造は周知であり、例えばヒトアデノウイルス2型ゲノムの全塩基配列はジーンバンク(アクセス番号J01949)に、またヒトアデノウイルス5型ゲノムの全塩基配列はジーンバンク(アクセス番号M73260)に登録されている。よって特に断りがない限り、アデノウイルスにコードされる遺伝子の位置はアデノウイルス5型を例として示すが、本明細書におけるアデノウイルスはこれに限定されるものではない。
(I)本発明の第一の態様
本発明は、以下の(1)〜(3)の特徴を有するコスミドベクターを提供する:
(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、
(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、
(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を含有する。
ここで前記(1)におけるアデノウイルスゲノムとは、アデノウイルス科に属するウイルスが有する直鎖状二本鎖DNAのことを言う。具体的には、ヒトアデノウイルス2型ゲノム(ジーンバンク アクセス番号J01949)、ヒトアデノウイルス5型ゲノム(ジーンバンク アクセス番号M73260)などが挙げられる。当該アデノウイルスゲノムは、以下に示すように完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含有することを要するが、それ以外の領域については、組換えアデノウイルスベクターとしての機能を有することを限度として、当業者の常識の範囲で適宜塩基配列の置換、欠失および/または挿入が施されていても良い。
またアデノウイルス逆方向反復配列(以下、逆方向反復配列のことをITRと略する)とは、アデノウイルスゲノムの両末端に存在し、互いに逆向きになった反復配列のことで、その塩基数はアデノウイルスの血清型により異なるが、ヒトアデノウイルス5型においては103塩基、2型では102塩基である。
よって「完全な塩基配列のアデノウイルスITRを含むアデノウイルスゲノム」とは、それぞれの血清型のアデノウイルスに本来存在するITR部分の塩基配列を完全に含むアデノウイルスゲノムを意味する。
前記(2)においてアデノウイルスE1遺伝子領域とは、1.3−4.6m.u.に位置するE1A遺伝子領域と4.6−11.2m.u.に位置するE1B遺伝子領域の総称である。E1遺伝子領域には、アデノウイルスの複製ならびに遺伝子発現に必須のタンパク質がコードされている。
アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失しているとは、E1遺伝子領域の全部もしくは一部の塩基配列が存在しないことであり、E1遺伝子領域にコードされるタンパク質が産生されない、あるいは産生されても機能しないような欠失であれば、欠失する範囲に特に制限はない。E1遺伝子領域の欠失の例として、1.3−9.3m.u.の欠失(Trapnell B.C.,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.12,185−199.(1993)Elsevier Science Publishers B.V.)が挙げられる。
前記(3)においてアデノウイルスゲノムの両側とは、プラスミドベクターやコスミドベクターにクローニングされたアデノウイルスゲノムを挟む位置のことを言う。具体的には、左端ITR側においてはアデノウイルスパッケージングシグナルとは逆側の位置、右端ITR側においてはE4遺伝子プロモーターとは逆側の位置のことである。
ここで、アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列は、当該アデノウイルスゲノム中に存在しない制限酵素認識配列であれば如何なる配列であっても良い。望ましくは6塩基認識の制限酵素の認識配列が挙げられ、具体的には制限酵素Csp45 I、BspT104 IおよびBstB Iの認識配列であるTTCGAAを挙げることができる。すなわち本発明の好ましい態様として、本発明は、アデノウイルスゲノムの両側にTTCGAAを含有するコスミドベクターを提供する。
本発明のコスミドベクターは、アデノウイルスゲノムの両側において、前記制限酵素認識配列を1種類のみ有していても、複数(複数種類)含有していても良い。複数有する場合については後に詳しく述べる。
前記本発明のコスミドベクターにおけるアデノウイルスゲノム部分は、E1遺伝子領域以外の遺伝子がさらに欠失していても良いし、また塩基配列の一部に置換や挿入があっても良い。E1遺伝子領域以外の遺伝子の欠失の例として、E3遺伝子領域、pIX遺伝子、E4遺伝子領域、若しくはE2A遺伝子などの欠失が挙げられる。ここで欠失とは、前記いずれかの遺伝子(領域)において全部もしくは一部の塩基配列が存在しないことであり、当該遺伝子(領域)にコードされるタンパク質が産生されない、あるいは産生されても機能しないような欠失であれば、欠失する範囲に特に制限はない。
また、cDNAやプロモーターなどの外来遺伝子が挿入できるように、アデノウイルスゲノム中に存在しない制限酵素認識配列がE1遺伝子領域欠失部位に存在することが好ましい。当該制限酵素認識配列としては、平滑末端を生じさせる制限酵素認識配列であることが好ましく、具体的にはSwa I認識配列(ATTTAAT)が挙げられる。平滑末端を生じさせる制限酵素により認識される配列が好ましいのは、一つには外来遺伝子を含むインサート断片を当該コスミドベクターに組み込む際、インサート断片を平滑末端化するだけで直接組み込めるため、シャトルプラスミドを用いる必要が無いからである。もう一つには、当該コスミドベクターとインサート断片とをライゲーションした後に当該制限酵素(SwaI等)で消化することにより、インサート断片が挿入されていないコスミドクローンが除かれるため、インサートが挿入された所望のコスミドクローンが効率的に得られるからである。
前記E1遺伝子領域欠失部位は、さらに、外来遺伝子を発現させるプロモーターを含有していても良い。ここでプロモーターとは、所望の外来遺伝子の転写を行うために必要な塩基配列のことを言い、哺乳動物の細胞で機能するプロモーターであれば、動物ウイルス由来プロモーターや哺乳動物細胞由来プロモーター、または両者のハイブリッドプロモーターなど、特に制限なく用いることができる。プロモーターの例として、CAGプロモーター、EF−1αプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモータなどが挙げられるが、CAGプロモーター(Niwa H.et.Al.,Gene,Vol.108,193−200.(1991))やEF−1αプロモーター(Kim D.W.et.al.Gene,Vol.91,217−223.(1990))、ならびにCMVプロモーター(Foecking M.K.et.al.Gene,Vol.45,101−105.(1986))など特に高発現とされているプロモーターを用いるのが好ましい。
前記本発明のコスミドベクターはアデノウイルスゲノム以外に、少なくとも、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域を含有する。ここで薬剤耐性遺伝子とは、大腸菌に対して毒性を有する薬剤に対して耐性を賦与する遺伝子を言い、その例としてアンピシリン耐性遺伝子やカナマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。また複製オリジンとは、大腸菌におけるプラスミドの複製起点のことを言う。
スペーサー配列とは、それ自体は機能を有さないが、コスミドベクター全体のサイズを調節するための塩基配列を言う。その目的は、スペーサー配列を挿入しコスミドベクター全体のサイズを一定以上の大きさにすることにより、コスミドベクターのin vitroでのパッケージング効率を上げるためである。当該スペーサー配列としては、具体的にはプラスミドpBR322由来の約2kbのDNA断片(Saito I.et.Al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.83,8664−8668.(1986))が挙げられ、当該スペーサー配列が3個タンデムに並んでいるものを用いることが好ましい。
COS領域とは、バクテリオファージλの粘着末端が連結した塩基配列のことを言う。なお、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、およびCOS領域に関しては、Molecular Cloning,A Laboratory Manual.,T.Maniatisら編、第2版(1989)、Cold Spring Harbor Laboratory等の基本書に明確に定義されているので、それらを参照されたい。
前記本発明のコスミドベクターにおいて、薬剤耐性遺伝子および複製オリジンは、アデノウイルスゲノムの左端ITRとスペーサー配列との間に位置することが望ましい。すなわち、薬剤耐性遺伝子および複製オリジンが、アデノウイルスゲノムの左端ITRとスペーサー配列との間に位置することにより、本発明のコスミドベクターに所望の外来遺伝子を挿入した後、外来遺伝子の挿入部位はコスミドベクターと全く同じ塩基配列を保持したまま、アデノウイルスゲノムの大部分及び、スペーサー領域ならびにCOS領域を除いたプラスミドを容易に作製することができる(アデノ落とし)。
なお、この操作を簡便に行うため、E1遺伝子領域の左側(ITR/パッケージングシグナル側)から薬剤耐性遺伝子ならびに複製オリジンまでの間には存在しない制限酵素認識部位を、E1遺伝子領域の外来遺伝子挿入部位の右側(IVa2遺伝子側)に付加しておくことが望ましい。そのような制限酵素の例として、前述したpBR322由来のスペーサー配列内にも認識配列が存在するSalIやNruIが挙げられる。
前記薬剤耐性遺伝子および複製オリジンは、アデノウイルスゲノムの左端ITRの外側から右端ITRに向け、薬剤耐性遺伝子、複製オリジンの順序で含有されていても良いし、また複製オリジン、薬剤耐性遺伝子の順序で含有されていても良い。従って薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列およびCOS領域が、アデノウイルスゲノムの左端ITRの外側から右端ITRに向けてどのような順序で含有されるかについては、以下の▲1▼〜▲4▼が例示される:
▲1▼薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、COS領域。
▲2▼複製オリジン、薬剤耐性遺伝子、スペーサー配列、COS領域。
▲3▼薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、COS領域、スペーサー配列。
▲4▼複製オリジン、薬剤耐性遺伝子、COS領域、スペーサー配列。
このうち特に、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列およびCOS領域をこの順序で含有するコスミドベクターが好ましい。
次に、前記本発明のコスミドベクターの作製法を以下に例示する。
前記本発明のコスミドベクターは、アデノウイルスゲノムの大部分がクローニングされたコスミドベクターから作製できる。その例を以下に示す。コスミドベクターpAxcw(特開平8−308585号公報、15頁、pAdexlcwはpAxcwと同一である)は、E1およびE3遺伝子領域以外のヒトアデノウイルス5型ゲノムの大部分を含むが、左端から33bpと右端から198bpを欠失したベクターである(図3の(A))。まず、コスミドベクターpAxcwをSalI消化後自己ライゲーションすることにより、アデノウイルスゲノムの大部分を除き、E1遺伝子領域欠失部位から左側(ITR/パッケージングシグナル側)約430bpを含むプラスミド(pxcws、図3(B))を作製する。プラスミドpxcwsで欠失しているアデノウイルスゲノム左端部分は、ゲノム左端から33bpのみであるので、欠失部位の塩基配列を有するオリゴDNAを合成し、欠失部位に挿入することで修復され、左端が完全なゲノム配列を持つプラスミドを作ることができる。なお、その際合成DNAのアデノウイルスゲノム左端に隣接して所望の制限酵素に認識配列を付加しておくことにより、アデノウイルスゲノム内には認識部位が存在しない制限酵素の認識配列をゲノム左端の挿入することができる。このようにして作製したプラスミドpyctcws(図3(D))は完全長の左端ITRおよびITRに隣接してCsp45I部位を持つプラスミドである。pyctcwsのEcoRI−SwaI間を、コスミドベクターpAxcwのEcoRI−SwaI間と置換することにより、ゲノム左端が完全長に修復されたコスミドベクターpAxcwith(図4(E))が得られる。
ゲノム右端からの198bpの欠失の修復は、左端と同様に欠失部位の塩基配列を複数のオリゴDNAに分けて合成し、ゲノム右端部分を一旦クローニングしたプラスミドにこれらを合成DNAを挿入することでも実施可能である。しかし、本明細書では、左端ITRと右端ITRの塩基配列は同一であることを利用して右端の欠失部位の修復を行う方法について説明する。まず、アデノウイルス5型ゲノムの76マップ単位のEcoRI部位からゲノム右端付近までを含むプラスミドpdlx(Saito I.et.al.、J.Virol.,Vol.54,711−719.(1985))のゲノム右端から約1kbを含むHindIII−BamHI断片をサブクローニングする(プラスミドpUAF97R、(図4(F))。このプラスミドpUAF97RのHhaI−BamHI間を、プラスミドpytcwsのHhaI−BamHI間(83bp)と置換することにより、完全長の右端を有するプラスミドpUAF97Rct(図4(G))が得られる。最後に、コスミドベクターpAxcwithのゲノム右側部分をプラスミドpUAF97Rctのゲノム右側部分とを順次入れ替えることにより、両端とも完全長に修復されたコスミドベクターpAxcwit(図5(K))を作製することができる。
前記本発明のコスミドベクターは、従来知られているコスミドベクターに比して、以下の(1)〜(5)に示すように種々の利点・特徴を有し、組換えアデノウイルスベクターの作製において極めて有効に使用することができる。
(1)本発明のコスミドベクターは、完全長クローン化ゲノム導入法、COS−TPC法のいずれの方法においても高い効率でアデノウイルスベクターを作製することが出来る(図1)。特に、クローン化ゲノム導入法は従来よりウイルス生成効率が低いことが問題点として指摘されていたが、本発明のコスミドベクターを用いることにより充分なウイルス生成効率を確保することができる。
具体的なアデノウイルスベクターの作製ステップとしては、まず、外来遺伝子(目的遺伝子)を挿入した本発明のコスミドベクターを用いてクローン化ゲノム導入法により組換えアデノウイルスを作製する(図1(B))。ベクターに搭載した外来遺伝子の発現が宿主細胞に毒性を示すなどの理由により、この方法で目的アデノウイルスが得られにくい場合や、ウイルスゲノムを切り出すための制限酵素部位が外来遺伝子内に存在する場合は、そのまま従来のCOS−TPC法(特開平8−308585号公報)のコスミドカセット(コスミドベクター)として用いて組換えアデノウイルスを取得することができる(図1(A))。このように本発明のコスミドベクターを用いることにより、如何なる外来遺伝子に対しても効率良く組換えアデノウイルスを作製することが出来る。
(2)本発明のコスミドベクターをクローン化ゲノム導入法で用いる場合は、親ウイルスDNAを必要としないため廉価で入手することが出来る。また従来法(COS−TPC法)における相同組換えのステップを要さないため、生成した組換えウイルスはほぼ100%目的のウイルスであり、目的ウイルスクローンの選別の手間をほとんどかけることなく目的遺伝子を持つウイルスベクターを簡便に作製することができる。
(3)本発明のコスミドベクターが、アデノウイルスゲノムの左端ITRの外側から右端ITRに向け、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列およびCOS領域をこの順序で含有する場合、本発明のコスミドベクターに所望の外来遺伝子を挿入した後、外来遺伝子の挿入部位はコスミドベクターと全く同じ塩基配列を保持したまま、アデノウイルスゲノムの大部分及び、スペーサー領域ならびにCOS領域を除いたプラスミドを容易に作製することができる(アデノ落とし)という利点を有する。アデノ落としをしたプラスミドを用いることにより、外来遺伝子とベクターとのジャンクション部分を容易にシークエンスすることができる。さらには、アデノ落としをしたプラスミドで細胞を形質転換することにより、挿入した遺伝子の発現を確認することができる。
(4)本発明のコスミドベクターにおけるE1遺伝子欠失部位に、平滑末端を生じさせる制限酵素(例えばSwa I)の認識配列を有する場合、外来遺伝子を含むインサート断片を当該コスミドベクターに組み込む際、シャトルプラスミドを用いる必要が無く、インサート断片を平滑末端化するだけで直接組み込めるという利点を有する。また、当該コスミドベクターとインサート断片とをライゲーションした後にSwaIで消化することにより、インサート断片が挿入されていないコスミドクローンが除かれるため、インサートが挿入された所望のコスミドクローンが高い頻度で得られるという利点も有する。
(5)本発明のコスミドベクターは、アデノウイルスゲノム両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を含有する。当該制限酵素がCsp45Iである場合(すなわち制限酵素認識配列がTTCGAAである場合)、細胞を形質転換する前に当該コスミドベクターを制限酵素消化する際に、完全消化が容易であるという利点を有する。通常、本発明のコスミドベクターを制限酵素消化する際、コスミドDNA30μgを100単位の制限酵素で消化する。Csp45IはTOYOBO社から市販されているが、1包装当たり2500単位の酵素が含まれているので、本発明のコスミドベクターを1包装で25回消化することができる。一方、従来のクローン化ゲノム法のプラスミドやコスミドベクターで用いられている制限酵素PacI(認識配列TTAATTAA)も同じくTOYOBO社から市販されているが、1包装当たり50単位しか酵素が含まれておらず、本発明のコスミドベクターを消化するのに2包装が必要である。従って、Csp45IとPacIとでは、同量のコスミドベクターを消化するのに必要な制限酵素の包装量に50倍もの差がある。さらに本発明者らの経験では、1包装当たりに含まれる単位数が少ない制限酵素は、1包装当たりに含まれる単位数が多い制限酵素に較べると、同じ単位数を用いて基質DNAを消化をしても、完全消化が困難であるという傾向があることを見出している。従って、Csp45Iを用いることにより、PacIを用いるよりも必要な制限酵素量がさらに少なくて済み、かつ完全消化が容易であるという利点を有する。
本発明はまた、前記本発明のコスミドベクターを用いた組換えアデノウイルスベクターの作製方法を提供する。本発明の組換えアデノウイルスベクターの作製方法は、以下の工程(1)及び(2)を含有する;
(1)本発明のコスミドベクターを制限酵素で消化する工程、
(2)前記(1)工程で制限酵素消化したコスミドベクターで細胞を形質転換する工程。
工程(1)において用いる制限酵素は、アデノウイルスゲノム内には認識配列が存在せず、アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列を消化することの可能な制限酵素である。好ましくはTTCGAAを認識する制限酵素であるCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iが挙げられる。
工程(2)において用いる細胞は、アデノウイルスE1遺伝子を発現し、アデノウイルスを増殖させることに適した細胞であれば特に制限はない。そのような細胞の例として、ヒト胎児腎臓由来細胞株293細胞(ATCC CRL1573)が挙げられる。
次に本発明の組換えアデノウイルスベクターの作製方法を以下に記載する。
まず、本発明のコスミドベクターを用いて、293細胞などの細胞を形質転換する。細胞を形質転換する方法に特に制限は無く、リン酸カルシウム共沈殿法、リポフェクション法、DEAE−dextran法、エレクトロポレーション法など既存の方法を用いることができる。形質転換した細胞を培養することにより、組換えアデノウイルスベクターが生成するが、生成したウイルスはクローニングすることが望ましい。クローニングの方法に特に制限は無く、生成したウイルスの増殖により出現したプラークを単離する方法や、形質転換した細胞をあらかじめ、限界希釈して96穴プレート等にまき替える方法がある。生成したウイルスは、そのほとんどが目的のウイルスクローンであるので、任意のクローンを選び目的ウイルスとして用いることもできるが、ウイルスゲノムの制限酵素消化解析を行い、目的ウイルスの構造をしていることを確認したクローンを用いる方が望ましい。
本発明のコスミドベクターはまた、従来のCOS−TPC法のコスミドカセット(コスミドベクター)として、組換えアデノウイルスベクターの作製に用いることができる。この場合、前記工程(1)のコスミドベクターを制限酵素で消化する工程は不要である。
本発明はまた、本発明のコスミドベクターを成分として含有する、組換えアデノウイルスベクター作製用試薬を提供する。本発明の試薬は、水または適当な緩衝液にコスミドベクターを溶解した形で提供される。当該緩衝液は、DNAを溶解、保持するのに適した緩衝液であれば特に制限は無いが、TEバッファーを用いることが望ましい。
また前記試薬においては、本発明のコスミドベクターを環状のまま提供しても良いし、あらかじめSwaIなどの制限酵素で消化したコスミドベクターとして提供しても良い。
本発明の試薬は、組換えアデノウイルス作製用のキットの一成分とすることができる。当該キット中の他の成分としては、組換えアデノウイルスを作製するために必須となる種々の試薬を挙げることができる。具体的には、制限酵素、制限酵素反応用バッファー、DNAリガーゼ、リガーゼ反応用バッファー、制限酵素消化済み末端タンパク質付きアデノウイルスゲノムDNA(DNA−TPC)等を挙げることができる。前記制限酵素としては、▲1▼アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列を消化する制限酵素(例えばCsp45 I、BspT104 IまたはBstB I)、および/または▲2▼E1遺伝子欠失部位に存在する制限酵素認識配列を消化する制限酵素(例えばSwa I)を挙げることができる。制限酵素消化済みDNA−TPCの例として、アデノウイルスAd5−dlX(Miyake S.et.Al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.93,1320−1324.(1996))のゲノムDNAをEcoE22I消化したDNA−TPCや、組換えアデノウイルスAxCAwt(Kanegae Y.et.al.,Nucleic acid Res.,Vol.23,3816−3821(1995))のゲノムDNAをEcoE22I及びClaI消化したDNA−TPC等が挙げられる。
(II)本発明の第二の態様
前記本発明のコスミドベクターにおいて、ウイルスゲノムを切り出すための制限酵素認識配列が外来遺伝子内に存在する場合の解決手段の一つとして、従来のCOS−TPC法のコスミドベクターとして用いれば良いことを既に説明したが、他の解決手段として、本発明者らは、ウイルスゲノムを切り出す制限酵素認識配列を複数有するコスミドベクターが有効に用いられることを明らかにした。すなわち従来は、アデノウイルスゲノムの両端に一種類の制限酵素認識配列のみを有するベクターしか知られておらず、またそれが常識となっていたところ、本発明者らは複数の制限酵素認識配列を導入できることを初めて見出した。このような複数の制限酵素認識配列の導入は、原理上コスミドベクターだけでなくプラスミドベクターにも応用することができる。
従って本発明は、以下の(1)〜(3)の特徴を有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターを提供するものである:
(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、
(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、
(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を複数含有する。
ここで前記(1)〜(3)の各構成要素については前記本発明の第一の態様において述べたとおりであるため、ここでは前記(3)における「制限酵素認識配列を複数含有する」点についてのみ詳しく説明する。
アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列は、一つの制限酵素認識配列について左側、右側のいずれにも存在することを前提として、二種類以上何種類存在していても良い。
具体的な制限酵素認識配列としては、アデノウイルスゲノム中に存在しない制限酵素認識配列であれば如何なる配列であっても良いが、一例として、アデノウイルスゲノムの両側において、(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識される(以下単に制限酵素Csp45 Iにより認識されると略する場合がある)TTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識される(以下単に制限酵素ClaIにより認識されると略する場合がある)ATCGAT、から選択される少なくとも二種類の制限酵素認識配列を含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターが挙げられる。
好ましくは、(a)制限酵素Csp45 Iにより認識されるTTCGAA、および(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAAを少なくとも含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターや、(a)制限酵素Csp45 Iにより認識されるTTCGAA、および(c)制限酵素ClaIにより認識されるATCGATを少なくとも含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターが挙げられる。
前述のようにアデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列は、二種類以上何種類存在していても良いが、具体的には二種類の制限酵素認識配列を有するコスミドベクターまたはプラスミドベクター、三種類の制限酵素認識配列を有するコスミドベクターまたはプラスミドベクター、四種類の制限酵素認識配列を有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターが例示される。
アデノウイルスゲノムの両側において、該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を二種類含有する場合、その具体例としては、(a)制限酵素Csp45 Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaIにより認識されるATCGAT、から選択される二種類の制限酵素認識配列を含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターを挙げることができる。
好ましい態様としては、(a)制限酵素Csp45 Iにより認識されるTTCGAA、および(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAAを含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターが挙げられる。この場合、二つの制限酵素認識配列の配置に特に制限はなく、具体的には以下の(A)〜(D)の配置が例示される:
(A)PacI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−PacI認識配列−ベクター配列の順に配置、
(B)Csp45I認識配列−PacI認識配列−アデノウイルスゲノム−PacI認識配列−Csp45I認識配列−ベクター配列の順に配置、
(C)PacI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−PacI認識配列−Csp45I認識配列−ベクター配列の順に配置、
(D)Csp45I認識配列−PacI認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−PacI認識配列−ベクター配列の順に配置。
このうち特に、PacI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−PacI認識配列の順に配置していることが望ましい。ウイルスゲノムを切り出す制限酵素部位がこのようなCsp45I認識配列とPacI認識配列の二つの場合、本発明のコスミドベクターに外来遺伝子をクローニングするための制限酵素認識配列としてはSwaI認識配列及びClaI認識配列を用いることができる。
また、二種類の制限酵素認識配列を含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターの好ましい別の態様としては、(a)制限酵素Csp45 Iにより認識されるTTCGAA、および(c)制限酵素ClaIにより認識されるATCGATを含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターが挙げられる。この場合も二つの制限酵素配列の配置に特に制限はなく、具体的には以下の(A)〜(D)の配置が例示される:
(A)ClaI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−ClaI認識配列−ベクター配列の順に配置、
(B)Csp45I認識配列−ClaI認識配列−アデノウイルスゲノム−ClaI認識配列−Csp45I認識配列−ベクター配列の順に配置、
(C)ClaI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−ClaI認識配列−Csp45I認識配列−ベクター配列の順に配置、
(D)Csp45I認識配列−ClaI認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−ClaI認識配列−ベクター配列の順に配置。
このうち特に、ClaI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−ClaI認識配列の順に配置していることが望ましい。ウイルスゲノムを切り出す制限酵素認識配列がこのようなCsp45I認識配列とClaI認識配列の二つの場合、本発明のコスミドベクターに外来遺伝子をクローニングするための制限酵素認識配列としてはSwaI認識配列及びPacI認識配列を用いることができる。
アデノウイルスゲノムの両側において、該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を三種類含有する場合、その具体例としては、(a)制限酵素Csp45 Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaIにより認識されるATCGATの三種類の制限酵素認識配列を含有するコスミドベクターまたはプラスミドベクターを挙げることができる。三種類の制限酵素認識配列の配置に特に制限はなく、前記二種類の制限酵素認識配列の場合と同様にどのような組み合わせ(36通り)をとることも可能であるが、その例としてはClaI認識配列−PacI認識配列−Csp45I認識配列−アデノウイルスゲノム−Csp45I認識配列−PacI認識配列−ClaI認識配列−ベクター配列の順に配置されたコスミドベクターが挙げられる。この場合、外来遺伝子をクローニングするための制限酵素認識配列としてSwaI認識配列を用いることができる。
ウイルスゲノムを切り出すための制限酵素認識配列を複数有する本発明のコスミドベクターにおいて、アデノウイルスゲノムに最も近い制限酵素認識配列だけでなく、ウイルスゲノム端から約二十塩基離れた位置に存在する制限酵素認識配列でコスミドベクターを切断しても、目的の組換えアデノウイルスベクターが十分に得られることは、実施例7より明らかである。
なお実施例7は、アデノウイルスゲノム端から離れた位置に存在する制限酵素認識配列でコスミドを切断してもアデノウイルスベクターが得られることを示すためのモデル系であるので、ウイルスゲノムを切り出すための制限酵素認識配列として、SwaI認識配列、ClaI認識配列、PacI認識配列、およびCsp45I認識配列を有している。すなわちこれは、4種類の制限酵素認識配列が存在している場合であっても、アデノウイルスゲノムの両側から最も離れた位置に存在する制限酵素認識配列で切断して所望のアデノウイルスベクターが得られることを示すものであるが、実際の外来遺伝子挿入用コスミドベクターにおいては、ウイルスゲノムを切り出すための制限酵素認識配列からはSwaI認識配列を除き、外来遺伝子のクローニングのため、E1遺伝子欠失部位にSwaI認識配列を挿入しておくのが望ましい。
前述のように、アデノウイルスゲノムを切り出す制限酵素認識配列を複数有するベクターは、コスミドベクターに限定される必要はなく、プラスミドベクターにも応用可能である。すなわち、アデノウイルスゲノム全長をクローン化したプラスミドベクターやコスミドベクターを制限酵素で消化し、ウイルスゲノムを切り出した後に細胞を形質転換し、アデノウイルスを作製する原理に基づく方法(クローン化ゲノム導入法)全般に応用することができる。
例えば、クローンテック社(Clontech Laboratries,Inc.)が販売している当該方法に基づいた組換えアデノウイルス作製用プラスミドベクター(Adeno−X TM Expression System)は、ウイルスゲノムの切り出しにPacI認識配列が用いられているが、ベクターに挿入した外来遺伝子内にPacI認識配列が存在する場合は、PacIの部分消化を行うよう指示されている。しかし、一般に制限酵素の部分消化は条件設定が難しく、完全消化に較べると、部分消化で目的の箇所だけが切れたDNAが生成する割合は極めて低い。従って、上記アデノウイルス作製用プラスミドベクターをPacIで部分消化しても、外来遺伝子内のPacI認識配列では切断されずアデノウイルスゲノム両端のPacI認識配列が切断されたDNAの存在割合は非常に低いので、当該DNAで細胞を形質転換しても目的の組換えアデノウイルスベクターが得られる可能性は極めて低い。
このような場合、PacI認識配列だけでなく、アデノイルスゲノムを切り出すための第二、第三の制限酵素認識配列が存在する本発明のプラスミドベクターを用いれば、効率の悪い部分消化を行う必要がなく、この第二または第三の制限酵素認識配列で切断すれば良いので、効率的にアデノウイルスベクターの作製を行うことができる。そのような制限酵素認識配列は、アデノウイルスゲノム部分に認識配列が存在しない制限酵素認識配列であれば特に制限はなく、その例については前記したとおりである。好ましくはPacI認識配列(TTAATTAA)、Csp45I認識配列(TTCGAA)およびClaI認識配列(ATCGAT)のうち、少なくとも2つの制限酵素認識配列を有するプラスミドベクターが挙げられる。
以上に述べたような、アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を複数含有する本発明のベクター(コスミドベクター、プラスミドベクター)に関しても、前記本発明の第一の態様において述べたとおり、cDNAやプロモーターなどの外来遺伝子が挿入できるように、アデノウイルスゲノム中に存在しない制限酵素認識配列がE1遺伝子領域欠失部位に存在することが好ましい。当該制限酵素認識配列としては、平滑末端を生じさせる制限酵素認識配列であることが好ましく、具体的にはSwa I認識配列(ATTTAAT)が挙げられる。
前記E1遺伝子領域欠失部位は、さらに、外来遺伝子を発現させるプロモーターを含有していても良い。ここでプロモーターとは、所望の外来遺伝子の転写を行うために必要な塩基配列のことを言い、哺乳動物の細胞で機能するプロモーターであれば、動物ウイルス由来プロモーターや哺乳動物細胞由来プロモーター、または両者のハイブリッドプロモーターなど、特に制限なく用いることができる。プロモーターの例として、CAGプロモーター、EF−1αプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモータなどが挙げられるが、CAGプロモーター(Niwa H.et.Al.,Gene,Vol.108,193−200.(1991))やEF−1αプロモーター(Kim D.W.et.al.Gene,Vol.91,217−223.(1990))、ならびにCMVプロモーター(Foecking M.K.et.al.Gene,Vol.45,101−105.(1986))など特に高発現とされているプロモーターを用いるのが好ましい。
本発明の第二態様のベクターがコスミドベクターの場合、アデノウイルスゲノム以外に、少なくとも、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、およびCOS領域を含有する。また、スペーサー配列も含有するのがより望ましい。これら各構成要素については前記本発明の第一の態様において述べたとおりである。
当該コスミドベクターにおいて、薬剤耐性遺伝子および複製オリジンは、アデノウイルスゲノムの左端ITRとスペーサー配列との間に位置することが望ましい。すなわち、薬剤耐性遺伝子および複製オリジンが、アデノウイルスゲノムの左端ITRとスペーサー配列との間に位置することにより、本発明のコスミドベクターに所望の外来遺伝子を挿入した後、外来遺伝子の挿入部位はコスミドベクターと全く同じ塩基配列を保持したまま、アデノウイルスゲノムの大部分及び、スペーサー領域ならびにCOS領域を除いたプラスミドを容易に作製することができる(アデノ落とし)。
なお、この操作を簡便に行うため、E1遺伝子領域の左側(ITR/パッケージングシグナル側)から薬剤耐性遺伝子ならびに複製オリジンまでの間には存在しない制限酵素認識部位を、E1遺伝子領域の外来遺伝子挿入部位の右側(IVa2遺伝子側)に付加しておくことが望ましい。そのような制限酵素の例として、前述したpBR322由来のスペーサー配列内にも認識配列が存在するSalIやNruIが挙げられる。
前記薬剤耐性遺伝子および複製オリジンは、アデノウイルスゲノムの左端ITRの外側から右端ITRに向け、薬剤耐性遺伝子、複製オリジンの順序で含有されていても良いし、また複製オリジン、薬剤耐性遺伝子の順序で含有されていても良い。従って薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列およびCOS領域が、アデノウイルスゲノムの左端ITRの外側から右端ITRに向けてどのような順序で含有されるかについては、以下の▲1▼〜▲4▼が例示される:
▲1▼薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、COS領域。
▲2▼複製オリジン、薬剤耐性遺伝子、スペーサー配列、COS領域。
▲3▼薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、COS領域、スペーサー配列。
▲4▼複製オリジン、薬剤耐性遺伝子、COS領域、スペーサー配列。
このうち特に、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列およびCOS領域をこの順序で含有するコスミドベクターが好ましい。
以上のような本発明の第二態様のコスミドベクターを用いることにより、組換えアデノウイルスベクターを作製することができる。これに関しても前記本発明の第一の態様において述べたとおりであり、具体的には、以下の工程(1)及び(2)を含有する;
(1)本発明のコスミドベクターを制限酵素で消化する工程、
(2)前記(1)工程で制限酵素消化したコスミドベクターで細胞を形質転換する工程。
工程(1)において用いる制限酵素は、アデノウイルスゲノム内には認識配列が存在せず、アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列を消化することの可能な制限酵素である。例えばアデノウイルスゲノムの両側に存在するTTCGAAで消化する場合は制限酵素Csp45 I、BspT104 IまたはBstB Iを用い、TTAATTAAで消化する場合はPacIを用い、ATCGATで消化する場合はClaIまたはBspDIを用いる。
工程(2)において用いる細胞は、アデノウイルスE1遺伝子を発現し、アデノウイルスを増殖させることに適した細胞であれば特に制限はない。そのような細胞の例として、ヒト胎児腎臓由来細胞株293細胞(ATCC CRL1573)が挙げられる。
以上のようなコスミドベクターおよび細胞を用いた組換えアデノウイルスベクターの作製方法についても前記本発明の第一の態様において述べたとおりである。また、ベクターがプラスミドベクターである場合も、前記コスミドベクターと同様にして組換えアデノウイルスベクターを作製することができる。
これらコスミドベクターおよびプラスミドベクターに関しても組換えアデノウイルスベクター作製用の試薬の成分とすることができる。具体的な態様については前記本発明の第一の態様において述べたとおりである。
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の変更ができることは言うまでもない。なお、実施例中のファージ、プラスミド、DNA、各種酵素、大腸菌、培養細胞等を取り扱う諸操作は、特に断らない限り、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual,T.Maniatisら編、第2版(1989),Cold Spring Harbor Laboratory」に記載の方法に準じて行った。
【実施例1】
−アデノウイルスゲノム両端を完全長にしたコスミドベクターの作製−
▲1▼pAxcw(特開平8−308585号公報15頁のpAdexlcwはpAxcwと同一である)は、ヒトアデノウイルス5型ゲノムの大部分を含むが、E1およびE3遺伝子領域ならびにアデノウイルスゲノムの左端から33bpと右端から198bpを欠失した(両端欠失型)コスミドベクターである(図2A及び図3(A)参照)。pAxcwをSalI消化後、自己ライゲーションし、アデノウイルスゲノム左端から約0.4kbの部分以外のアデノウイルスゲノムを除いたプラスミドpxcws(3.1kb、図3(B))を作製した。
▲2▼完全長の左端ITRを含むプラスミドを作製するため、以下の操作を行った。
(a)プラスミドpxcwsをBamHI及びBsrGI消化し、oriを含む約2.9kbのDNA断片を得た。
(b)プラスミドpxcwsをHaeIII及びBsrGI消化し、ITRを含む162bpのDNA断片(b)を得た。
(c)アデノウイルス5型ゲノム左端部分を含み、かつアニーリングした時に、片方の末端がBamHI消化断片と結合可能で、他方が平滑末端になるように設計した以下の2つのオリゴDNAを合成し、その5’末端をリン酸化後アニーリングしたDNA断片を得た。

(大文字はアデノウイルスゲノム部分の塩基配列を表す)
(a)(b)(c)の三断片をライゲーションし、完全長の左端ITRを含むプラスミドpytcw(3.1kb、図3(C))を作製した。
▲3▼プラスミドpytcwにCsp45I部位を導入するため、以下の操作を行った。プラスミドpytcwをEcoT22Iで消化後、Klenow酵素で3’突出末端を平滑化した。このDNA断片と、Csp45I認識配列を含みかつ5’末端をリン酸化した合成リンカー(5’−TGTTCGAACA−3’)をライゲーションし、リンカーが一つのみ挿入されたプラスミドpyctcws(3.1kb、図3(D))を得た。
▲4▼プラスミドpyctcwsをSwaI及びEcoRI消化し、完全長左端ITR及びパッケージングシグナルを含む482bpのDNA断片(a)を調製した。一方、コスミドベクターpAxcwをEcoRI消化し、ori及びCOS領域を含む約18kbのDNA断片(b)を調製した。また、pAxcwをSwaI及びEcoRI消化し、COS領域を含まない側の約24kbのDNA断片(c)を調製した。(a)(b)(c)の三断片をライゲーションし、コスミドベクターpAxcwith(42.5kb、図4(E))を得た。pAxcwithは、ゲノム右端側はITRを含む198bpを欠失しているものの、左端ITRは完全長であるコスミドベクターである。
▲5▼プラスミドpdlxは、アデノウイルス5型ゲノムの76マップ単位のEcoRI部位からゲノム右端付近までを含むプラスミドである(Saito I.et.al.、J.Virol.,Vol.54,711−719.(1985))。pdlxをHindIII及びBamHI消化し、アデノウイルスゲノム右端側を含む約1kbのDNA断片を調製した。このDNA断片をプラスミドpUC19のマルチクローニングサイト内のHindIII−BamHI部位間に挿入し、プラスミドpUAF97R(3.7kb、図4(F))を得た。
▲6▼プラスミドpUAF97RをBamHI及びAor51HI消化し、oriを含む約3.3kbのDNA断片(a)を調製した。また、pUAF97RをAor51HI及びHhaI消化し、oriを含まない375bpのDNA断片(b)を調製した。一方、▲2▼で作製したプラスミドpyctcwsをBamHI及びHhaI消化し、ITRの一部を含む83bpのDNA断片(c)を調製した。(a)(b)(c)の三断片をライゲーションし、プラスミドpUAF97Rct(3.7kb、図4(G))を得た。
▲7▼プラスミドpUAF97RctをのBstEII−BamHI部位間の713bpの領域を、プラスミドpdlxのBstEII−BamHI部位間と入れ替え、プラスミドpdlxct(9.0kb、図5(H))を作製した。pdlxctは完全長右端ITRを有するプラスミドである。
▲8▼コスミドベクターpAx4w(図5(I))は、アデノウイルスE4遺伝子の上流と右端ITRとの間に外来遺伝子の挿入部位を有するベクターである(Miyake S.et.Al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.93,1320−1324.(1996))。pAx4wをEcoRI及びBamHI消化し、ori及びCOS領域を含む約11kbのDNA断片を得た。一方、プラスミドpdlxctをEcoRI及びBamHI消化し、oriを含まない6.7kbのDNA断片を得た。両断片をライゲーションし、プラスミドpcdlxct(18.1kb、図5(J))を得た。
▲9▼コスミドベクターpAxcwith(▲4▼で作製)をEcoRI消化し、左端ITRを含む約24.6kbのDNA断片を調製した。このDNA断片をプラスミドpcdlxctのEcoRI部位に挿入し、コスミドベクターpAxcwit(42.6kb、図5(K))を作製した。pAxcwitは、左端ITRおよび右端ITRとも完全長であるコスミドベクターである。
【実施例2】
−発現単位を挿入したコスミドベクターの作製−
(1)サンゴ由来赤色蛍光タンパク質の発現単位を挿入したコスミドベクターの作
コスミドベクターpAxCAwt(図6(A))は、pAxcwと同じアデノウイルスゲノム構造を有し(両端欠失型)、かつE1遺伝子欠失部位にCAGプロモーター(Niwa H.et.Al.,Gene,Vol.108,193−200.(1991)および日本特許第2824434号)が左向き(E1遺伝子の転写方向の逆向き)に挿入されたベクターである(Kanegae Y.et.al.,Nucleic acid Res.,Vol.23,3816−3821(1995))。pAxCAwtには、CAGプロモーターとポリA付加配列との間に外来遺伝子を挿入するためSwaI部位が存在する。
サンゴ由来赤色蛍光タンパク質(RedE)をコードする遺伝子は、市販プラスミドpCMV−DsRed−Express(クローンテック社)より調製した。pCMV−DsRed−ExpressをNotI及びAor51HI消化後、Klenow酵素で両端を平滑化し、RedE遺伝子を含む713bpのDNA断片を調製した。このDNA断片をpAxCAwtのSwaI部位に挿入し、RedE発現単位が挿入されたコスミドベクターpAxCARedE(45.5kb、両端欠失型、図2A参照)を作製した。
次いで、pAxCARedEをSalI及びPmeI消化後、Klenow酵素で平滑化し、RedE発現単位を含む約3kbのDNA断片を調製し、実施例1で作製したコスミドベクターpAxcwithのSwaI部位に挿入し、コスミドベクターpAxCARedEith(45.5kb、左端完全型、図2B参照)を作製した。同様に、RedE発現単位を含むDNA断片をコスミドベクターpAxcwitのSwaI部位に挿入し、コスミドベクターpAxCARedEit(45.5kb、両端完全型、図2C参照)を作製した。
(2)クラゲ由来緑色蛍光タンパク質の発現単位を挿入したコスミドベクターの作
プラスミドpxCAEGFPは、CAGプロモーターの下流にクラゲ由来緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子が連結されたベクターである(Nakano M.et.al.,Nucleic acid Res.,Vol.29,e40(2001))。pxCAEGFPをSalI及びPmeI消化後、Klenow酵素で平滑化し、GFP発現単位を含む約3.1kbのDNA断片を調製し、コスミドベクターpAxcw(両端欠失型)のSwaI部位に挿入し、コスミドベクターpAxCAGFP(45.6kb)を作製した。同様に、GFP発現単位を含むDNA断片をコスミドベクターpAxcwit(両端完全型)のSwaI部位に挿入し、コスミドベクターpAxCAGFPit(45.6kb)を作製した。
(3)CAGプロモーター下流に任意の遺伝子を挿入するためのコスミドベクターの作製
コスミドベクターpAxCAwt(両端欠失型、図6(A))をBsrGI及びBstZ17I消化し、CAGプロモーターを含む約5.1kbのDNA断片(a)を得た。一方、コスミドベクターpAxcwit(両端完全型、図6(B))をBsrGI及びSrfI消化し、ori及びCOS領域を含む約18kbのDNA断片(b)を得た。また、pAxcwitをBstZ17I及びSrfI消化し、oriを含まない約22kbのDNA断片(c)を得た。(a)(b)(c)の三断片をライゲーションし、コスミドベクターpAxCAwtit(45.0kb、図6(C))を作製した。pAxCAwtitは、アデノウイルスゲノム両端部分以外は、コスミドベクターpAxCAwt(両端欠失型)と同じ構造であり、CAGプロモーターとポリA付加配列との間のSwaI部位またはClaI部位に外来遺伝子を挿入することができるコスミドベクターである。
【実施例3】
−アデノウイルスゲノムの大部分を除いたプラスミドの作製及び挿入遺伝子の発現確認−
(1)アデノウイルスゲノムの大部分を除いたプラスミドの作製
実施例2で作製したコスミドベクターpAxCARedEit及びpAxCAGFPitには、CAGプロモーターの上流すぐの所とスペーサー領域内に制限酵素SalI部位ならびにNruI部位が存在するので、コスミドベクターをこれらの制限酵素で消化後自己ライゲーションすることにより、アデノウイルスゲノムの大部分を除いた(左端から約0.4kbは存在する)プラスミドを作製することができる。
まず、pAxCARedEitをSalI消化後、自己ライゲーションさせたDNAで大腸菌DH5αを形質転換し、アデノウイルスゲノムの大部分及びスペーサー領域を除いたプラスミドpxCARedEit(6.1kb)を作製した。
同様に、コスミドベクターpAxCAGFPitをSalI消化後自己ライゲーションすることにより、プラスミドpxCAGFPit(6.2kb)を作製した。
(2)赤色蛍光タンパク質の発現確認
コスミドベクターpAxCARedEitにおいて、サンゴ由来赤色蛍光タンパク質(RedE)の発現単位が正確に組み込まれていることを確認するため、(1)で作製したプラスミドpxCARedEitで細胞を形質転換し、RedEの発現確認を行った。
まず、血清を含まないダルベッコ変法イーグル培地(DMEM培地)1mlに、プラスミドpxCARedEit3μgとTransFast(登録商標)トランスフェクション試薬(Promega)9μlを加え、よく混合後室温で15分放置した。次いで、コラーゲンコート6穴プレートでほぼコンフルエントに培養した293細胞の培地を除き、上記プラスミド/試薬の混合物全量を加え、37℃で1時間培養後、5%FCS添加DMEM培地2mlを加え、16時間培養後培地交換を行い、さらに培養した。形質転換の2日後、蛍光顕微鏡で赤色の蛍光を観察(励起波長558nm/放射波長583nm)したところ、多数の細胞で赤色の蛍光が認められたことより、コスミドベクターpAxCARedEitはRedE発現単位が正確に組み込まれていることを確認した。
【実施例4】
−コスミドベクター単独での形質転換による組換えアデノウイルスベクターの作製−
実施例2で作製したコスミドベクターpAxCARedE(両端欠失型)、pAxCARedEith(左端完全型)、pAxCARedEit(両端完全型)、pAxCAGFP(両端欠失型)、pAxCAGFPit(両端完全型)を大量に調製し、おのおの30μgを制限酵素Csp45I(TOYOBO)で37℃、2時間消化した。反応液の一部をアガロース電気泳動し、DNAが完全に消化されたことを確認後、反応液をフェノール/クロロホルム抽出し、次いでクロロホルム抽出を2回行った後、エタノール沈殿した。エタノール沈殿後のDNAをTEバッファー60μlに溶解し、その1μlをアガロース電気泳動し、1.5kbのバンドの濃さを濃度既知のDNAのバンドと比較することによりDNA濃度を算定し、形質転換に用いた。
まず、血清を含まないダルベッコ変法イーグル培地(DMEM培地)2mlに、Csp45I消化したコスミドDNA10μgとTransFast(登録商標)トランスフェクション試薬30μlを加え、よく混合後室温で15分放置した。なお、pAxCARedEitについては、Csp45I消化せず、環状のままのコスミドも形質転換に用いた。6cmシャーレにほぼコンフルエントになった293細胞から培地を除き、上記プラスミド/試薬の混合物全量を加え、37℃で1時間培養後、5%FCS添加DMEM培地(以後単に培地と呼ぶ)3mlを加え、さらに培養を続けた。16時間後、培地交換を行い、シャーレから細胞を剥がし培地11mlに縣濁した。これとは別に、形質転換していない293細胞(6cmシャーレ)を用意し、細胞を剥がし培地10mlに縣濁した。形質転換した細胞11mlのうち1.1mlを形質転換していない細胞9mlと混合し、コラーゲンコートされた96穴プレート1枚に100μl/ウェルずつ分注した(10倍希釈プレート)。形質転換した残りの細胞も、同様に96穴プレート1枚に100μl/ウェルずつ分注した(1倍希釈プレート)。各々のプレートは5%CO2存在下、37℃で培養し、5日後および10日後に培地50μlを添加した。
形質転換3日目以降、連日、細胞変性の有無を観察すると共に、RedEの発現単位を搭載したコスミドベクター(pAxCARedE、pAxCARedEith、pAxCARedEit)で形質転換した細胞は、赤色の蛍光を発するRedEタンパク質が発現しているかどうか蛍光顕微鏡で観察した(励起波長558nm/放射波長583nm)。pAxCARedEitで形質転換した細胞では、RedEタンパク質の発現が確認された。ただし、その時期はクローンにより異なり、形質転換5日ないし6日後の比較的早い時期から発現が認められたクローンと、形質転換8日から10日後の比較的遅い時期に初めて発現が認められたクローンが存在した。そこで、前者から5クローン、後者から4クローンを任意に選び、それぞれ細胞変性が完全に起きてから、細胞縣濁液を1.5ml容のマイクロ遠心チューブに回収し、密閉型超音波破砕機で破砕後(200W、30秒x3回)、マイクロ遠心機で遠心し(5,000rpm、5分)、その上清をウイルス液として回収した。
一方、コラーゲンコートした24穴プレートにほぼコンフルエントとなった293細胞を用意し、約100μを残して培地を除き、回収したウイルス液10μlを加え、37℃で1時間、ウイルスを感染させた後、培地0.4mlを加え、37℃で培養した。細胞が完全に変性した3日から4日後に、細胞画分を回収し、100μg/mlのProteinase Kを含むTNEバッファー(50mM Tris・HCl(pH8.0)/100mM NaCl/10mM EDTA)400μlで細胞をよく縣濁後、10% SDS 4μlを添加し、50℃、2時間加温した。次いで、フェノール/クロロホルム抽出、クロロホルム抽出を各々2回行った後、エターノール沈殿し、沈殿後のDNAを20μg/ml RNaseAを含むTEバッファー50μlに溶解した。最後に、回収したDNAを制限酵素SmaIまたはClaIで消化後、アガロース電気泳動を行い、目的の組換えアデノウイルスが出来ているかどうかを確認した(図7)。
図7の下段に制限酵素消化により生じるバンドのサイズを模式的に示したが、目的の組換えアデノウイルスが生成していると、ClaI消化により、ウイルスゲノム左端を含む約0.45kbのバンドと発現単位由来の約1.7kb、0.74kb、0.57kbのバンドが生じる。一方、SmaI消化では、ウイルスゲノム右端を含む0.58kbのバンドが生じる。アガロースゲル電気泳動の写真に示したように、RedEタンパク質の発現が早期に認められた5クローンならびに比較的後期に認められた4クローンとも、ClaI消化及びSmaI消化において、全て予想通りのバンドが生じたことより、本発明の両端完全型のコスミドベクターを用いることにより、ほぼ100%の頻度で目的の組換えアデノウイルスが得られることが示された。
次に、両端欠失型(pAxCARedE)、左端完全型(pAxCARedEith)、両端完全型(pAxCARedEit)のコスミドベクターにより得られた組換えアデノウイルスのクローン数を比較した。実験は2回行い、1回目は全てCsp45Iで消化したコスミドDNAを用いて形質転換を行った。両端欠失型コスミド(pAxCARedE)及び左端完全型コスミド(pAxCARedEith)では組換えアデノウイルスは全く得られなかったが、両端完全型コスミド(pAxCARedEit)では、コスミドDNA10μg当たり340クローンと十分な数の組換えアデノウイルスが得られた(表1)。実験2では、両端完全型コスミド(pAxCARedEit)をCsp45I消化せず環状のまま形質転換する群も加えたが、Csp45I消化しない場合は組換えアデノウイルスは全く得られなかったことより、両端完全型コスミドを制限酵素消化しアデノウイルスゲノム部分を直鎖状にしてから形質転換する必要があることが示された(表1)。
さらに、他の遺伝子(GFP)を挿入したコスミドベクターを用いて検討を行った。両端欠失型コスミド(pAxCAGFP)または両端完全型コスミド(pAxCAGFPit)10μgを、前述したTransFast(登録商標)トランスフェクション試薬またはCellPhectトランスフェクションキット(Amersham−Pharmacia社)を用いて293細胞を形質転換した。pAxCARedEitの場合と同様の操作で、形質転換細胞を希釈して96穴プレートにまき替え、生じた組換えアデノウイルスクローン数を計測した。結果を表1に示したが、両端欠失型コスミドで形質転換を行った場合には組換えアデノウイルスは全く得られず、両端完全型コスミドで形質転換した場合のみ、コスミドDNA10μg当たり50ないし80クローンと十分な数の組換えアデノウイルスが得られた。さらに、このうち10クローンを、pAxCARedEitの場合と同様、ゲノムDNAの制限酵素消化により、生じたクローンのアデノウイルスゲノム構造を解析した。データは省略するが、全てのクローンが目的の組換えアデノウイルスであることが確認できた。
以上の結果より、本発明の両端完全型コスミドベクターは、所望の遺伝子を搭載した組換えアデノウイルスベクターを効率良く作製できることが示された。

【実施例5】
−COS−TPC法による組換えアデノウイルスベクターの作製−
両端完全型コスミドベクターが、末端タンパク質付きアデノウイルスゲノムDNA(DNA−TPC)とコスミドベクターとの相同組換え法(COS−TPC法)にも適用できることを確認するため、以下の実験を行った。
DNA−TPCは市販の組換えアデノウイルス作製キット(Adenovirus Expression Vector Kit、タカラバイオ社、#6150)に添付されているDNA−TPCを用いた。両端欠失型コスミド(pAxCARedE)または両端完全型コスミド(pAxCARedEit)8μgとキット添付の制限酵素処理済DNA−TPC 5μlとを、TransFast(登録商標)トランスフェクション試薬またはCellPhectトランスフェクションキットを用いて、実施例4に示した方法で293細胞を形質転換し、翌日に細胞を96穴プレートにまき替え、細胞変性が生じたウェル数より、生成した組換えアデノウイルス数を計算した。結果を表2に示す。両端完全型コスミドを用いた場合でも、従来の両端欠失型コスミドを用いた場合とほぼ同数の組換えアデノウイルスが得られたことより、本発明の両端完全型コスミドはCOS−TPC法による組換えアデノウイルスベクター作製にも使用できることが確認された。
なお、COS−TPCを用いたにもかかわらず、生成した組換えアデノウイルス数はコスミド単独で形質転換した場合(表1)と差は無かった。本発明者らによるCOS−TPC法のこれまでの実績では、コスミドDNA 10μg当たり、約1000クローンの組換えアデノウイルスが生成する(Miyake S.et.Al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.93,1320−1324.(1996))ので、原因は不明であるが、コスミド単独で形質転換した場合と差が無かったのは、今回のCOS−TPC法での組換えアデノウイルス生成効率が低かったためと考えられる。

【実施例6】
−アデノウイルスゲノム両端に複数の制限酵素認識部位を付加したコスミドベクターの作製−
▲1▼実施例2で用いたCAGプロモーター下流にGFP遺伝子が挿入されたプラスミドpxCAEGFP(図8(L))をAseI及びClaI消化後、Klenow酵素で両端を平滑化し、GFP遺伝子を含む773bpのDNA断片を調製した。一方、プラスミドpCAwG(図8(M))は、CAGプロモーターを含むプラスミドpCAGGS(Niwa et.al.,Gene,Vol.108,193−200(1991))のクローン化部位であるEcoRI部位をSwaI部位に変えたプラスミドpCAGw(特開平8−84589号公報10頁)と同一のプラスミドである。前記773bpのDNA断片をpCAwGのSwaI部位に挿入し、GFP遺伝子がプロモーターと同方向に挿入されたプラスミドpCAGFPdc(5.6kb、図8(N))を得た。
▲2▼実施例1で作製したコスミドベクターpAxcwit(図5(K)及び図8(K))のSwaI部位及びClaI部位を欠失させ、かつGFP発現単位を挿入したコスミドベクターを作製するため、以下の操作を行った。プラスミドpCAGFPdcをHindIII消化後、Klenow酵素で末端を平滑化し、SalIリンカー(5’−GGTCGACC)を結合し、次いでSalI部位と同じ塩基配列を認識するAccIで消化し、GFP発現単位を含む約3.0kbのDNA断片を調製した。AccI消化断片はClaI消化断片と同じ突出末端を生じるので、両断片は結合可能である。そこで、pAxcwitをClaI消化し、先ほどの約3.0kbのDNA断片をライゲーションし、GFP発現単位が左向き(E1遺伝子の転写方向の逆向き)に挿入されたコスミドベクターpAxCAGFPitdcp(45.6kb、図8(O))を得た。
▲3▼コスミドベクターpAxCAGFPitdcpに3ヶ所存在するCsp45I部位のうち、COS領域近傍のCsp45I部位を欠失させるため、pAxCAGFPitdcpをCsp45Iで部分消化し、次いでKlenow酵素で末端を平滑化後、自己ライゲーションし、COS領域近傍のCsp45I部位のみが欠失したコスミドベクターpAxCAGFPitdcp2b(45.6kb、図8(P))を得た。
▲4▼アデノウイルスゲノム両端のCsp45I部位の外側に、さらにSwaI部位−ClaI部位−PacI部位を有するコスミドベクターを作製するため、以下の操作を行った。
(1)SwaI部位、ClaI部位、PacI部位をこの順に含み、かつアニーリングした時に両端とも5’末端側が2塩基突出し、Csp45I消化断片と結合できるように設計した以下の2つのオリゴDNAを合成し、その5’末端をリン酸化後アニーリングし、合成ポリリンカーを調製した(図9)。

このポリリンカーは両末端ともにCsp45I消化断片と結合可能であるが、PacI部位側の末端がCsp45I消化断片と結合した場合のみCsp45I部位が再生する。
(2)コスミドベクターpAxCAGFPitdcp2bをCsp45I消化し、アデノウイルスゲノムを含む約34kbのDNA断片とアデノウイルスゲノムを含まない約11.4kbのDNA断片とに切断し、両DNA断片を混合したまま(1)で調製した合成ポリリンカーを大過剰(モル比150倍)加え、ライゲーションした。両DNA断片の両端に複数コピー結合したポリリンカーを除くため、ライゲーション後のDNAをClaI消化後、電気泳動により両DNA断片に結合していない短いDNAを除いた。この操作により、両端がClaI消化断片で、その内側にSwaI部位またはPacI部位を有する約34kbまたは11.4kbのDNA断片が生じる。最後に両DNA断片をライゲーションし、アデノウイルスゲノム部分、アンピシリン耐性遺伝子、大腸菌複製オリジン及びCOS領域はpAxCAGFPitdcp2bと同じ位置関係に配置され、かつSwaI部位−ClaI部位−PacI部位−Csp45I部位−アデノウイルスゲノム−Csp45I部位−PacI部位−ClaI部位−SwaI部位の順に制限酵素認識部位が配置されたコスミドベクターpsbAxGbs(45.7kb、図9(Q))を得た。
【実施例7】
−異なる制限酵素部位で消化したコスミドベクターを用いたアデノウイルスベクター生成効率の比較−
実施例6で作製したコスミドベクターpsbAxGbsを制限酵素Csp45IまたはClaIあるいはSwaI消化し、各々10μgのDNAを用い、実施例4に示した方法で293細胞を形質転換後(TransFast使用)、細胞を96穴プレートにまき替えた。17日後に、組換えアデノウイルスの生成による細胞変性を伴い、かつGFPを発現している細胞の割合が75%以上のウェルを数え、生成したウイルスクローン数とした。
実験は2回行い、1回目はCsp45IまたはSwaIで消化したコスミドを用い、2回目はCsp45I、ClaI、SwaIで消化したコスミドを用いて形質転換を行った。
結果を表3に示す。2回の実験とも、Csp45I消化したコスミドを用いた場合に較べ、SwaI消化したコスミドを用いた場合に生成したウイルス数は明らかに少なく、またClaI消化したコスミドを用いた場合に生成したウイルス数は両者の中間の値であった(実験2)。

この結果から、アデノウイルスゲノム末端から3塩基外側の切断部位(Csp45I)より遠い、21塩基外側の切断部位(SwaI)でコスミドを切断した場合でも、ウイルスの生成効率はやや減少するものの、Csp45Iの場合の約3分の1以内にとどまっているので、アデノウイルスゲノム末端外側に複数のウイルスゲノム切り出し部位を持つコスミドベクターは有用であることが明らかとなった。また、コスミドベクターをアデノウイルスゲノム末端により近い部位で切断した方が、組換えアデノウイルス生成効率が高い可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
本発明により、組換えアデノウイルスベクターの作製に有効に用いられる新規コスミドベクターなどが提供される。本発明の新規コスミドベクターは、COS−TPC法、完全長クローン化ゲノム導入法の両方に応用可能であり、かつ簡便で実用性の高いコスミドベクターであることから、組換えアデノウイルスベクターの作製において有効に利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号:1に記載の塩基配列は合成オリゴヌクレオチドである。
配列番号:2に記載の塩基配列は合成オリゴヌクレオチドである。
配列番号:3に記載の塩基配列は合成オリゴヌクレオチドである。
配列番号:4に記載の塩基配列は合成オリゴヌクレオチドである。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(3)の特徴を有するコスミドベクター;
(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、
(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、
(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を含有する。
【請求項2】
アデノウイルスゲノム以外に、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域を含有することを特徴とする、請求項1記載のコスミドベクター。
【請求項3】
薬剤耐性遺伝子および複製オリジンが、アデノウイルスゲノムの左端逆方向反復配列とスペーサー配列との間に位置することを特徴とする、請求項2記載のコスミドベクター。
【請求項4】
アデノウイルスゲノムの左端逆方向反復配列の外側から右端逆方向反復配列に向け、薬剤耐性遺伝子、複製オリジン、スペーサー配列、およびCOS領域をこの順序で含有することを特徴とする、請求項3記載のコスミドベクター。
【請求項5】
アデノウイルスゲノムの両側に存在する制限酵素認識配列としてTTCGAAを含有する、請求項1〜4いずれか記載のコスミドベクター。
【請求項6】
TTCGAAを認識する制限酵素がCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iである、請求項5記載のコスミドベクター。
【請求項7】
E1遺伝子領域欠失部位に外来遺伝子を挿入するための制限酵素認識配列を有する、請求項1〜6いずれか記載のコスミドベクター。
【請求項8】
制限酵素がSwaIである請求項7記載のコスミドベクター。
【請求項9】
E1遺伝子領域欠失部位にさらにCAGプロモーターまたはEF−1αプロモーターを含有する、請求項7または8記載のコスミドベクター。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか記載のコスミドベクターを制限酵素で消化し、該コスミドベクターで細胞を形質転換することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項11】
制限酵素がCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iである、請求項10記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項12】
請求項1〜9いずれか記載のコスミドベクターを成分として含有する、組換えアデノウイルスベクター作製用試薬。
【請求項13】
以下の(1)〜(3)の特徴を有するコスミドベクターまたはプラスミドベクター;
(1)完全な塩基配列のアデノウイルス逆方向反復配列を含むアデノウイルスゲノムを含有する、
(2)アデノウイルスE1遺伝子領域を欠失している、
(3)アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を複数含有する。
【請求項14】
アデノウイルスゲノムの両側において、(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGAT、から選択される少なくとも二種類の制限酵素認識配列を含有する、請求項13記載のベクター。
【請求項15】
(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAAを少なくとも含有する、請求項14記載のベクター。
【請求項16】
(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGATを少なくとも含有する、請求項14記載のベクター。
【請求項17】
アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を二種類含有する、請求項13記載のベクター。
【請求項18】
(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGAT、から選択される二種類の制限酵素認識配列を含有する、請求項17記載のベクター。
【請求項19】
(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAAを含有する、請求項18記載のベクター。
【請求項20】
(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGATを含有する、請求項18記載のベクター。
【請求項21】
アデノウイルスゲノムの両側に該アデノウイルスゲノム中には存在しない制限酵素認識配列を三種類含有する、請求項13記裁のベクター。
【請求項22】
(a)制限酵素Csp45 I、BspT104 I、BstB Iにより認識されるTTCGAA、(b)制限酵素PacIにより認識されるTTAATTAA、および(c)制限酵素ClaI、BspDIにより認識されるATCGATの三種類の制限酵素認識配列を含有する、請求項21記載のベクター。
【請求項23】
E1遺伝子領域欠失部位に外来遺伝子を挿入するための制限酵素認識配列を有する、請求項13〜22いずれか記載のベクター。
【請求項24】
制限酵素がSwaIである請求項23記載のベクター。
【請求項25】
E1遺伝子領域欠失部位にさらにCAGプロモーターまたはEF−1αプロモーターを含有する、請求項23または24記載のベクター。
【請求項26】
ベクターがコスミドベクターである、請求項13〜25いずれか記載のベクター。
【請求項27】
請求項13〜26いずれか記載のベクターを制限酵素で消化し、該ベクターで細胞を形質転換することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項28】
制限酵素がCsp45 I、BspT104 IまたはBstB Iである、請求項27記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項29】
制限酵素がPacIである、請求項27記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項30】
制限酵素がClaIまたはBspDIである、請求項27記載の組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項31】
請求項13〜26いずれか記載のベクターを成分として含有する、組換えアデノウイルスベクター作製用試薬。

【国際公開番号】WO2004/094643
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571103(P2004−571103)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014760
【国際出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【出願人】(502415124)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】