説明

新規スチルベン系化合物を含有する電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、画像形成装置、及び新規スチルベン系化合物

【課題】 電子写真感光体の感光層に好適に用いることが可能な、バインダー樹脂との相溶性が良く、電荷移動度が比較的高く、酸化性ガス等の画像ボケ発生物質に強く、しかも優れた電気特性を有するスチルベン系化合物を感光層に含有する電子写真感光体を提供する。
【解決手段】 導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体において、該感光層は、下記[1]式で表される構造を有するスチルベン系化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体用の光導電材料として好適に用いることができるスチルベン系化合物を感光層に含有する電子写真感光体、この電子写真感光体を用いる電子写真カートリッジ、画像形成装置、及び新規スチルベン系化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、即時性に優れ且つ高品質の画像が得られること等から、複写機、各種プリンター、印刷機等の分野で広く使われている。電子写真技術の中核となる電子写真感光体として、無公害で成膜が容易、製造が容易である等の利点を有する有機系の光導電材料を使用した電子写真感光体(以下、単に「感光体」ともいう。)が使用されている。
近年、電子写真複写機等の画像形成装置の用途は拡大しており、画像品質への市場の要望は一段と高い水準を求めるものになってきている。特に、事務用の書類等においても、入力における写像技術、潜像形成技術の発展に加え、出力時においても、文字の象形の種類はより豊富に、より微細化されており、またプレゼンテーションソフトウェアの普及と発達により、印刷画像に欠陥や不鮮明さの少ない、極めて高画質な潜像の再現性が求められている。
【0003】
さらには、近年の電子写真機器の高性能、低コスト化に伴い、電子写真感光体の高感度化及び原体コストの低減が必須となっていることが業界の共通認識である。このうち、高感度化のためには、電荷発生材料の最適化だけでなく、それとのマッチングの良好な電荷輸送材料の開発が必要であり、低コスト化のためには、安価な原料と短い反応ルート、さらに簡単な精製工程で精製できる電荷輸送材料の開発が必要である。そのため、低分子量の電荷輸送材料の高性能化が注目されつつある。低分子量の有機光導電性材料は、製造コストが低い利点があり、しかも、それと併用する結着剤の種類、組成比等を選択することにより、被膜の物性あるいは電子写真特性を制御することが比較的容易である点で好ましいものである。
【0004】
従来の技術として、スチルベン側にアルコキシ基を有するトリアリールアミン−スチルベン共役型化合物が電荷輸送材料として用いることができる。例えば特許文献1〜3に記
載されたトリアリールアミン−スチルベン共役型化合物(以下、単に「スチルベン系化合物」ともいう。)が電荷輸送材料として使用できると提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載されている化合物群は、バインダー樹脂との相溶性に
問題があり、高部数で使用する場合に、結晶析出の問題が起きやすかった。
【0005】
特許文献2に記載されている化合物群は、移動度が比較的遅く、電気特性に改善すべき
点もある。
特許文献3に記載されている化合物群は、酸化性ガス等のボケ発生物質による画像流れ
(画像ボケ)等の問題解決できる一方、移動度が比較的遅く、電気特性に改善すべき点もある。また、これらの化合物群は、製造コストも高く、経済的にも不利である。
【0006】
このように感光体を作製する上で実用的に好しい特性を有する低分子量の有機化合物はほとんど無いのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63-019867号公報
【特許文献2】特開昭60-196768号公報
【特許文献3】特許公報第4030906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子写真感光体の感光層に好適に用いることが可能な、バインダー樹脂との相溶性が良く、電荷移動度が比較的高く、酸化性ガス等の画像ボケ発生物質に強く、しかも優れた電気特性を有するスチルベン系化合物を感光層に含有する電子写真感光体、及び該感光体を用いた電子写真カートリッジ及び画像形成装置、更に上記スチルベン系化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定のスチルベン系化合物を電子写真感光体に用いることによって、バインダー樹脂との相溶性、耐酸化性ガス性、光感度、残留電位、電荷移動度などの特性を比較的良く改善され、電子写真感光体の感光層に用いた場合に、光感度、残留電位、耐久時の電位安定性、環境安定性、カブリ、ゴーストなどに優れた特性を示すことを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体
において、該感光層は、下記[1]式で表される構造を有するスチルベン系化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする電子写真感光体、に存する。
【0011】
【化1】

【0012】
(前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を少なくとも一つ有するフェニル基、またはHammett則に
おける置換基定数σp が0.20以下であって、任意に炭素数1〜4の有機基を有する芳香族の縮合多環式炭化水素基を示し、Rは、炭素数3〜4のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を示し、m、nは0〜4の整数を示す。)
本発明の第2の要旨は、上記本発明の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させ
る帯電手段、帯電した該電子写真感光体に対し像露光を行ない静電潜像を形成する像露光手段、前記静電潜像をトナーで現像する現像手段、前記トナーを被転写体に転写する転写手段、及び、前記電子写真感光体に付着した前記トナーを回収するクリーニング手段から選ばれる少なくとも一つとを備えた電子写真感光体カートリッジ、に存する。
【0013】
本発明の第3の要旨は、上記本発明の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させ
る帯電手段と、帯電した該電子写真感光体に対し露光を行ない静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーで現像する現像手段と、前記トナーを被転写体に転写する転写手段と、前記被転写体に転写された前記トナーを定着させる定着手段とを備えることを特徴とする、画像形成装置、に存する。
【0014】
本発明の第4の要旨は、下記[1]式で表される構造を有するスチルベン系化合物、に
存する。
【0015】
【化2】

【0016】
(前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を少なくとも一つ有するフェニル基、またはHammett則に
おける置換基定数σp が0.20以下であって、任意に炭素数1〜4の有機基を有する芳香族の縮合多環式炭化水素基を示し、Rは、炭素数3〜4のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を示し、m、nは0〜4の整数を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の低分子量のトリアリールアミン−スチルベン共役型化合物は、バインダー樹脂との相溶性、光感度、残留電位、電荷移動度などの特性が良く、繰り返し使用した場合の疲労劣化が少なく、安定性が良い。電子写真感光体に用いた場合に、応答性、耐久時の電位安定性、環境安定性に優れた特性を示す電子写真感光体を提供することができ、また、この電子写真感光体を用いることにより、印刷時において、カブリ、ゴーストなどの画像欠陥のない電子写真カートリッジ及び画像形成装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の画像形成装置の一実施態様の要部構成を示す概略図である。
【図2】実施例で用いたオキシチタニウムフタロシアニンのX線回折図である。
【図3】本発明の例示化合物CT-1の核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】本発明の例示化合物CT-2の核磁気共鳴スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明のスチルベン系化合物は、下記[1]式で表される構造を有する化合物である。
【0020】
【化3】

【0021】
(前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を少なくとも一つ有するフェニル基、またはHammett則に
おける置換基定数σp が0.20以下であって、任意に炭素数1〜4の有機基を有する芳香族の縮合多環式炭化水素基を示し、Rは、炭素数3〜4のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を示し、m、nは0〜4の整数を示す。)
ここで、Hammett則は、芳香族化合物における置換基が芳香環の電子状態に与える効果
を説明するために用いられる経験則であって、置換ベンゼンの置換基定数σpは、置換基の電子供与/吸引の程度を定量化した値といえる。σp値が正であれば置換安息香酸の方が無置換のものより酸性が強い、つまり電子吸引性置換基となる。逆にσp値が負であると電子供与性置換基となる。表1は、代表的な置換基のσp値である(日本化学会編、「化学便覧 基礎編II 改訂4版」、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、p.364〜365)。
【0022】
前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を少なくもと一つ有するフェニル基、またはHammett則にお
ける置換基定数σp が0.20以下であって、任意に炭素数1〜4の有機基を有する芳香族の縮合多環式炭化水素基である。
前記Hammett則における置換基定数σpの値としては、電気特性の観点から0.00以下であることが好ましく、-0.10以下であることが特に好ましい。一方で下限としては、耐酸性
ガス性の観点から-0.3以上であることが好ましい。
【0023】
前記炭素数1〜4の有機基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N, N−ジメチルアミノ基、N, N−ジエチルアミノ基などが挙げられる。中でも、電気特性や製造コストの面から、炭素数1〜2の有機基が特に好ましく、具体的にはメチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基などが挙げられる。
【0024】
前記[1]式中、Ar1、Ar2が芳香族の縮合多環式炭化水素基である場合は、ナフチル基、
フルオレニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などが挙げられるが、電気特性の面でナフチル基が好ましく、2-ナフチル基が特に好ましい。
中でも、前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基が少なくもと一つを有するフェニル基である場合が好ましく、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基の何れか一つを有するフェニル基であることが特に好ましい。
【0025】
【表1】

【0026】
前記一般式[1]中、X、Yとしては、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を示す。前記Hammett則における置換基定数σpの値としては、電機特性の観点から0.00以下であることが好ましく、-0.10以下であることが特に好ましい。一方で下限としては、耐酸性ガス性の観点から-0.3以上であることが好ましい。前記炭素数1〜4の有機基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N, N−ジメチルアミノ基、N, N−ジエチルアミノ基などが挙げられる。中でも、電気特性や製造コストの面から、炭素数1の有機基が特に好ましく、具体的にはメチル基、メトキシ基などが挙げられる。
【0027】
前記[1]式中、m、nは0〜4の整数であり、0〜1の整数が好ましいが、製造コストの観点
から考え、m=n=0である場合は特に好ましい。
前記[1]式中、Rとしては、炭素数3〜4のアルキル基であって、例えば、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルが挙げられる。電気特性や製造コストの面から、R
は、n-プロピル基またはイソプロピル基が特に好ましい。
【0028】
前記[1]式の分子量としては、460以下であることが好ましい。この範囲を満足す
ると実写評価をした際にクリーニング性が良好となり、音鳴りやフィルミングを防止しやすくなる。これは低分子の電荷輸送物質を使用することで感光体の表面硬度が高くなりクリーニングブレードなどの感光体表面に接触する部材との相互作用が小さくなるためだと考えられる。したがって、前記[1]式中、Ar1、Ar2の有する置換基や、R、X、Y、m、nは
上記分子量を鑑みて調整することが特に好ましい。一方で下限値としては、電機特性の観点から400以上であることが好ましい。
【0029】
前記[1]式で表されるスチルベン系化合物の代表例として、以下の例示化合物CT-1〜CT-20が挙げられる。ただし、本発明に関わるスチルベン系化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
これらのスチルベン誘導体は、公知の方法により容易に合成することが出来る。例えば、本発明の例示化合物CT-1は、次の反応式に従って製造することができる。
【0036】
【化9】

【0037】
p-ブロモベンジルブロマイドAを亜リン酸トリエチルに加え、90〜95℃まで加熱し、リ
ン酸エスエル誘導体B(ワーズワース試薬)を得る。Bとp-アルコキシベンズアルデヒドC
とをジメチルホルムアミド(以下、DMFという)溶媒に溶かし、塩基を加えることによっ
て縮合させ、スチルベン誘導体Dを作る。最後に、Dとジアリールアミン誘導体Eとを、パ
ラジウム−トリ(o-トリル)ホスフィン錯体の存在下でカップリングし、目的物である電荷輸送材CT-1を得ることができる。
【0038】
<電子写真感光体>
以下に、本発明の電子写真感光体の構成について説明する。本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に、上述した[1]式で表されるスチルベン系化合物を含有する感光層を設けたものであれば、その構造は特に制限されない。中でも、電荷発生層と、電荷輸送層とが積層された積層型の感光体が好ましく、特に、電荷輸送層が、上述した[1]式で表されるスチルベン系化合物を含有することが好ましい。
【0039】
(導電性支持体)
導電性支持体については特に制限はないが、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。導電性支持体の形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状等のものが用いられる。更には、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布したものを用いても良い。
【0040】
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化被膜を施してから用いても良い。陽極酸化被膜を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。導電性支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであっても良い。また、安価化のためには、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。
【0041】
(下引き層)
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子等が挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いても良いし、複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコン等の有機物による処理を施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
【0042】
また、金属酸化物粒子の粒径としては種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の点から、その平均一次粒径は、10nm以上100nm以下が好ましく、特に10nm以上50nm以下が好ましい。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタンアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤等の公知のバインダー樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても良く、或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すことから好ましい。
【0043】
下引き層に用いられるバインダ樹脂に対する無機粒子の使用比率は任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常は10質量%以上、500質量%以下の範囲で使用することが好ましい。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性を向上させる観点から、通常は0.1μm以上20μm以下の範囲が好ましい。下引き層には、公知の酸化防止剤等を混合しても良い。画像欠陥防止等を目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させて用いても良い。
【0044】
(感光層)
感光層の形式としては、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層型と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層の二層からなる機能分離型(積層型)とが挙げられるが、本発明における感光層は、いずれの形式であってもよい。また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に導電性支持体側から電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。
【0045】
(積層型感光層)
電荷発生層
積層型感光体(機能分離型感光体)の場合、電荷発生層は、電荷発生物質をバインダー樹脂で結着することにより形成される。
電荷発生物質としては、セレニウム及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とが挙げられるが、有機系光導電材料の方が好ましく、中でも特に有機顔料が好ましい。有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。これらの中でも、特にフタロシアニン顔料またはアゾ顔料が好ましい。電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の微粒子を、各種のバインダー樹脂で結着した分散層の形で使用する。
【0046】
電荷発生物質として、無金属フタロシアニン化合物、金属含有フタロシアニン化合物を用いた場合は比較的長波長のレーザー光、例えば、780nm近辺の波長を有するレーザー光に対して高感度の感光体が得られる。また、モノアゾ、ジアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料を用いた場合には、白色光、又は660nm近辺の波長を有するレーザー光、もしくは比較的短波長のレーザー光(例えば、380nm〜500nmの範囲の波長を有するレーザー光)に対して十分な感度を有する感光体を得ることができる。
【0047】
電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を使用する場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウム等の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシド等の配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類等が使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。
【0048】
また、これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)、B型(別称α型)、および粉末X線回折の回折角2θ(±0.2゜)が27.1゜、もしくは27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とするD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型のヒドロキシガリウムフタロシアニン、28.1゜にもっとも強いピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン、または26.2゜にピークを持たず28.1゜に明瞭なピークを有し、かつ25.9゜の半値幅Wが0.1゜≦W≦0.4゜であることを特徴とするヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
【0049】
フタロシアニン化合物は単一の化合物のものを用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態における混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
【0050】
電荷発生物質としてアゾ顔料を使用する場合には、各種ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料
が好適に用いられる。好ましいアゾ顔料の例を下記に示す。
【0051】
【化10】

【0052】
【化11】

【0053】
【化12】

【0054】
電荷発生物質として、上記例示の有機顔料を用いる場合には、1種を単独で用いてもよいが、2種類以上の顔料を混合して用いてもよい。この場合、可視域と近赤域の異なるスペクトル領域で分光感度特性を有する2種類以上の電荷発生物質を組み合わせて用いることが好ましく、中でもジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料とフタロシアニン顔料とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0055】
電荷発生層に用いるバインダー樹脂は特に制限されないが、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いても良く、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いても良い。
【0056】
電荷発生層は、具体的に、上述のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、電荷発生物質を分散させて塗布液を調整し、これを導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布することにより形成される。
塗布液の作製に用いられる溶剤としては、バインダー樹脂を溶解させるものであれば特に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等の鎖状又は環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状又は環状エーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水等が挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を併用して用いてもよい。なお、上述の下引き層を設ける場合には、この下引き層を溶解しないものが好ましい。
【0057】
電荷発生層において、バインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(質量比)は、バインダー樹脂100質量部に対して電荷発生物質が通常10質量部以上、好ましくは30質量部以上、また、通常1000質量部以下、好ましくは500質量部以下の範囲である。電化発生層の膜厚は通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲である。電荷発生物質の比率が高過ぎると、電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下する虞がある。一方、電荷発生物質の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招く虞がある。
【0058】
電荷発生物質を分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の公知の分散法を用いることができる。この際、粒子を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の範囲の粒子サイズに微細化することが有効である。
・電荷輸送層
積層型感光体の電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有するとともに、通常はバインダー樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分とを含有する。このような電荷輸送層は、具体的には、電荷輸送物質等とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布、乾燥して得ることができる。
【0059】
電荷輸送物質としては、本発明のスチルベン系化合物を用いることが好ましい。本発明のスチルベン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、複数種のものを任意の比率で組み合わせてもよい。
また、本発明のスチルベン系化合物に加えて、公知の他の電荷輸送物質を併用してもよい。他の電荷輸送物質を併用する場合、その種類は特に制限されないが、例えば、カルバゾール誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、エナミン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましい。更に具体的には、特開平2−230255号、特開昭63−225660号、特開昭58−198043号、特公昭58−32372号、および、特公平7−21646号の各公報に記載の化合物が好ましく使用される。これらの電荷輸送物質は、何れか1種を単独で用いても良く、複数種のものを任意の組み合わせで併用しても良い。なお、本発明のスチルベン化合物と、公知の他の電荷輸送物質とを併用する場合、電荷輸送物質全量における、併用する電荷輸送物質の含有比率(質量%)は、特に制限されないが、1%以上20%以下の範囲内であることが好ましく、本発明のスチルベン化合物の役割をより効果的に発揮させるために、3%以上10%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0060】
バインダー樹脂は膜強度確保のために使用される。電荷輸送層のバインダー樹脂としては、例えば、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましい。これらのバインダー樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで用いても良い。
【0061】
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、バインダー樹脂100質量部に対して電荷輸送物質を20質量部以上の比率で使用する。中でも、残留電位低減の観点から30質量部以上が好ましく、更には、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から40質量部以上がより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、電荷輸送物質を通常は150質量部以下の比率で使用する。中でも、電荷輸送材料とバインダー樹脂との相溶性の観点から110質量部以下が好ましく、耐刷性の観点から80質量部以下がより好ましく、耐傷性の観点から70質量部以下が最も好ましい。
【0062】
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下、更には30μm以下の範囲とする。
<単層型感光層>
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質に加えて、積層型感光体の電荷輸送層と
同様に、膜強度確保のためにバインダー樹脂を使用して形成する。具体的には、電荷発生物質と電荷輸送物質と各種バインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、導電性支持体上(下引き層を設ける場合は下引き層上)に塗布、乾燥して得ることができる。
【0063】
電荷輸送物質およびバインダー樹脂の種類並びにこれらの使用比率は、積層型感光体の電荷輸送層について説明したものと同様である。これらの電荷輸送物質およびバインダー樹脂からなる電荷輸送媒体中に、さらに電荷発生物質が分散される。
電荷発生物質は、積層型感光体の電荷発生層について説明したものと同様のものが使用できる。但し、単層型感光体の感光層の場合、電荷発生物質の粒子径を十分に小さくする必要がある。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。
【0064】
単層型感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少な過ぎると十分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下等の弊害があることから、単層型感光層全体に対して、通常0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、また、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下の範囲で使用される。
また、単層型感光層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との使用比率は、バインダー樹脂100質量部に対して電荷発生物質が通常0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、また、通常30質量部以下、好ましくは10質量部以下の範囲とする。
【0065】
単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
<その他の機能層>
積層型感光体、単層型感光体ともに、感光層又はそれを構成する各層には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤等の添加物を含有させても良い。
【0066】
また、積層型感光体、単層型感光体ともに、上記手順により形成された感光層を最上層、即ち表面層としてもよいが、その上に更に別の層を設け、これを表面層としてもよい。
例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、保護層を設けても良い。
保護層は、導電性材料を適当なバインダー樹脂中に含有させて形成するか、特開平9−190004号公報に記載のトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いて形成することができる。
【0067】
保護層に用いる導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物等を用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。
保護層に用いるバインダー樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることもできる。
【0068】
保護層の電気抵抗は、通常10Ω・cm以上、1014Ω・cm以下の範囲とする。電気抵抗が該範囲より高くなると、残留電位が上昇しカブリの多い画像となってしまう一方、前記範囲より低くなると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう。また、保護層は像露光の際に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、表面層にフッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂等、又はこれらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含有させても良い。或いは、これらの樹脂や粒子を含む層を新たに表面層として形成しても良い。
【0069】
<各層の形成方法>
上記した感光体を構成する各層は、含有させる物質を溶剤に溶解または分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成される。
【0070】
塗布液の作製に用いられる溶媒または分散媒に特に制限は無いが、具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせおよび種類で併用してもよい。
【0071】
溶媒または分散媒の使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
例えば、単層型感光体、及び機能分離型感光体の電荷輸送層の場合には、塗布液の固形分濃度を通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、また、通常40質量%以下、好ましくは35質量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度を使用時の温度において通常10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、また、通常500mPa・s以下、好ましくは400mPa・s以下の範囲とする。
【0072】
また、積層型感光体の電荷発生層の場合には、塗布液の固形分濃度は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、また、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度は、使用時の温度において、通常0.01mPa・s以上、好ましくは0.1mPa・s以上、また、通常20mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以下の範囲とする。
【0073】
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
塗布液の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行っても良い。
【0074】
<電子写真感光体カートリッジ、及び、画像形成装置>
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施
の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
【0075】
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0076】
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電装置(接触型帯電装置)等がよく用いられる。直接帯電装置の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等が挙げられる。なお、図1では、帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。直接帯電手段として、気中放電を伴う帯電、あるいは気中放電を伴わない注入帯電いずれも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
【0077】
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行って電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED等が挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行うようにしてもよい。露光を行う際の光は任意であるが、例えば、波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光等で露光を行えばよい。
【0078】
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像等の乾式現像方式や、湿式現像方式等の任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジ等の容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
【0079】
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル等の金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を被覆した樹脂ロール等からなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
【0080】
規制部材45は、シリコン樹脂やウレタン樹脂等の樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅等の金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
【0081】
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
【0082】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、殆ど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
【0083】
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シート等公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
【0084】
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着等、任意の方式による定着装置を設けることができる。
【0085】
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行われる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行う。
【0086】
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に
対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
【0087】
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行うことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行うことで電子写真感光体の除電を行う工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
【0088】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行うことができる構成としたり、オフセット印刷を行う構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
なお、電子写真感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(以下適宜「電子写真感光体カートリッジ」という)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。この場合、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
【実施例】
【0089】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
<スチルベン系化合物の製造>
(製造例1:例示化合物CT-1の製造)
窒素雰囲気下、p-ブロモベンジルブロマイド 50.00 g (200 mmol)に亜リン酸トリエチ
ル39.88 g (240 mmol)を加え、90 oC下で1時間攪拌した。その後、減圧蒸留によって余分の亜リン酸トリエチルを留去し、室温まで冷却し、リン酸エステル体B61.24 g (196 mmol、収率98%)を得た。
【0090】
窒素雰囲気下、p-ノルマルプロピルベンズアルデヒドC 8.21 g (50 mmol)、リン酸エステル体B 17.66 g (57.5 mmol)をDMF 150 mlに溶解し、室温下で、攪拌をしながら、カリ
ウムtert-ブトキシド6.74g (60 mmol)をゆっくり添加し(必要に応じて冷却)、さらに1
時間攪拌した。この溶液を、メタノール/氷水(v/v = 8:2)混合液400 mlに滴下し、結晶
化した。固体を濾別し、減圧乾燥し、スチルベン誘導体D 12.45 g (39 mmol、収率79%)を薄黄色粉末として得た。
【0091】
窒素雰囲気下、攪拌装置、温度計、還流管を装着した 300mlの四つ口フラスコに、ス
チルベン誘導体D 12.45 g (39 mmol)、p-ジトリルアミン8.52 g(43.2 mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド4.52 g(47 mmol)、充分に脱酸素したキシレン150 mlを順次に加え、系内を窒素により置換した後、酢酸パラジウム11.2 mg、トリ(o-トリル)ホスフィン60.8 mgを加え、150 ℃まで加熱し、その温度に保ちながら加熱還流を続け、反応を実施した。反応の間、反応系溶液を高速液体クロマトグラフィー(カラム:ジーエルサイエンス(株)社製イナートシルODS-3V、溶媒:アセトニトリル)で一定時間毎に分析することにより反応を追跡し、反応系溶液中のスチルベン誘導体Dがなくなるまで(約5時間)反応を行なった。反応終了後、室温まで冷却し、固体を濾別し、濾液を減圧濃縮した。得られたオイルを、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル500g、展開溶媒:トルエン/ヘキサン=1/2)に通し、さらにメタノールによる再沈で精製した。真空乾燥した後、例示化合物CT-111.08 g(25.6 mmol、収率66%)を黄色い粉末として得た。この化合物の核磁気共鳴スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)を添付図2に示す。
【0092】
(製造例2:例示化合物CT-2の製造)
アルデヒド体Cの原料としてp-イソプロピルベンズアルデヒドを使用した以外は、製造
例1と同様な操作で、例示化合物CT-2を黄色い粉末として得た。この化合物の核磁気共鳴
スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)を添付図3に示す。
<電子写真感光体の作製>
(実施例1:電子写真感光体A1)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着層(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その導電性支持体のアルミニウム蒸着層上に、以下の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
【0093】
下引き層用分散液の調製は以下の手法で行なった。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールのボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(F)で表される化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル
)メタン[下記式(G)で表される化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(H)で表される化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(I)で表される化合物]/オクタ
デカメチレンジカルボン酸[下記式(J)で表される化合物]の組成モル比率が、60%
/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの質量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層分散液とした。
【0094】
【化13】

【0095】
次に、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示し、図2に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニン10部を1,2−ジメトキシエタン150部に加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行い顔料分散液を作製した。こうして得られた顔料分散液160部と、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名#6000C)の5%1,2−ジメトキシエタン溶液100部と、適量の1,2−ジメトキシエタンとを混合して、最終的に固形分濃度4.0%の分散液を作製した。
【0096】
この分散液を、上述の下引き層上に乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにワイアバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成した。
次に、スチルベン化合物CT-1の電荷輸送材料80部、下記のポリカーボネート樹脂(H)100部、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05部をテトラヒドロフランとトルエンの混合溶媒(テトラヒドロフラン80重量%、トルエン20重量%)640部に混合し、電荷輸送層形成用塗布液を調製した。この液を上述の電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、125 ℃で20分間乾燥して電荷輸送層を形成して、感光体シートA1を作製した。なお、ポリカーボネート樹脂(H)の粘度平均分子量は30,000であった。
【0097】
【化14】

【0098】
用いられたバインダー樹脂の粘度平均分子量の測定法は以下の通りである。樹脂をジクロロメタンに溶解し、濃度Cが6.00g/Lとなる溶液を調製する。溶媒(ジクロロメタン)の流下時間tが136.16秒のウベローデ型毛細管粘度計を用いて、20.0℃
に設定した恒温水槽中で試料溶液の流下時間tを測定する。以下の式に従って粘度平均分子量Mvを算出する。
【0099】
a=0.438×ηsp+1 ηsp=t/t−1
b=100×ηsp/C C=6.00(g/L)
η=b/a
Mv=3207×η1.205
(実施例2:電子写真感光体A2)
例示化合物CT-1に代え、CT-2を電荷輸送物質として使用した以外は、実施例1と同様に
して、実施例としての電子写真感光体A2を得た。
【0100】
(比較例1:電子写真感光体P1)
例示化合物CT-1に代え、特許文献1に例示された下記の電荷輸送物質(L)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P1を得たが、感光体塗布後に結晶が析出した。この感光体の電気特性測定を試みたが、ほとんど光減衰が見られず、特性の測定に至らなかった。
【0101】
【化15】

【0102】
(比較例2:電子写真感光体P2)
例示化合物CT-1に代え、特許文献2に例示された下記の電荷輸送物質(M)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P2を得た。
【0103】
【化16】

【0104】
(比較例3:電子写真感光体P3)
例示化合物CT-1に代え、特許文献2に例示された下記の電荷輸送物質(N)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P3を得た。
【0105】
【化17】

【0106】
(比較例4:電子写真感光体P4)
例示化合物CT-1に代え、特許文献2に例示された下記の電荷輸送物質(P)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P4を得た。
【0107】
【化18】

【0108】
(比較例5:電子写真感光体P5)
例示化合物CT-1に代え、特許文献3に例示された下記の電荷輸送物質(Q)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P5を得た。
【0109】
【化19】

【0110】
(比較例6:電子写真感光体P6)
例示化合物CT-1に代え、下記の電荷輸送物質(R)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P6を得た。
【0111】
【化20】

【0112】
(比較例7:電子写真感光体P7)
例示化合物CT-1に変え、下記の電荷輸送物質(S)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P7を得た。
【0113】
【化21】

【0114】
[特性評価]
製造した電子写真感光体A1〜A2,P1〜P7について以下の電気特性試験を行なった。
<電気特性試験>
電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)を使用し、上記感光体シートを外径80mmのアルミニウム製ドラムに貼り付けて円筒状にし、アルミニウム製ドラムと感光体シートのアルミニウム基体との導通を取った上で、ドラムを一定回転数60rpmで回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行なった。その際、感光体の初期表面電位が−(マイナス。以下同じ。)700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを1.0μJ/cmで露光したときの100ミリ秒後の露光後表面電位(以下、Vlと呼ぶことがある。)を測定した。Vl測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとし、高速応答の条件とした。また、感光体表面電位が、−700 Vから−350 Vになるまでに要した半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm2)を求めた。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%で行なった。
【0115】
各電子写真感光体A1〜A2、P1〜P7の評価結果を表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
表2に示すように、公知のスチルベン系化合物Lを用いた電子写真感光体P1は、バイン
ダー樹脂との相溶性が悪く、塗布後結晶が析出したため、光減衰がほとんど見られず、特性の測定に至らなかった。また、一般式[1]で表される本発明のスチルベン系化合物を用
いた感光体は、公知のスチルベン系化合物M、N、P、Qまたはスチルベン側にn-ペントキシ基を有するスチルベン誘導体Sに比べ、優れた電気特性を示した。一方、公知のスチルベ
ン系化合物Rを用いた感光体は、初期電気特性の面で本発明のスチルベン系化合物とほぼ
同等であった。
【0118】
<耐オゾン特性の評価>
オゾン暴露試験の方法を以下に記す。川口電気社製EPA8200を使用し、実施例A1〜A2、
比較例P5、P7で得られた感光体をコロトロン帯電器に25μAの電流を印加して帯電させ、
その帯電値をV1とした。その後、これらの感光体に150 ppm濃度のオゾンを1日5時間、2日間暴露し(総暴露量750 ppm・時間)、暴露後に同様に帯電値を測定し、この値をV2とし
た。表3にオゾン暴露前後の帯電保持率[(V2/V1)*100] (%) を示した。また、前記の電
気特性評価法と同様に、露光10秒後、オゾン暴露前後の残留電位(それぞれVr1、Vr2とする)を測定し、その差ΔVr(Vr2-Vr1)を求め、表3に纏めた。
【0119】
【表3】

【0120】
表3に示すように、本発明のスチルベン系化合物を用いた感光体A1〜A2は、特許文献3
に記載されているスチルベン系化合物Qを用いた感光体P5に比べ、耐オゾン性の面でほぼ
同等であった。また、電子写真感光体A1〜A2は、電子写真感光体P7より、オゾン暴露前後の帯電保持率が高く、露光10秒後の残留電位の差が小さい。したがって、本発明のスチルベン系化合物を電荷輸送物質として用いた電子写真感光体は、スチルベン側に炭素数5の
アルコキシ基を有するスチルベン誘導体Sを用いた電子写真感光体より、良好な耐オゾン
性を有し、電気的安定性が良いことが確認された。
【0121】
<応答性の評価>
実施例A1〜A2、比較例P2〜P7で得られた感光体を、電荷輸送層の電界強度E = 2.0+5E (V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度をTOF法により測定した。各電子写真感光体A1〜A2、P2〜P7のホールドリフト移動度を表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
表4に示すように、電子写真感光体A1〜A2は電子写真感光体P2〜P5、P7と比べ、ホールドリフト移動度が速い。したがって、本発明のスチルベン系化合物を用いた電子写真感光
体は、公知のスチルベン系化合物またはスチルベン側に炭素数5のアルコキシ基を有する
スチルベン誘導体を用いた電子写真感光体より、応答性の面で、電子写真機器に好適である。一方、公知のスチルベン系化合物Rを用いた感光体は、応答性の面でも本発明のスチ
ルベン系電荷輸送物質とほぼ同等であった。
【0124】
<画像形成試験、及び感光体の安定性・耐久性試験>
(実施例3〜4)
表面を陽極酸化し、封孔処理を施した直径3cm、長さ25.4cmのアルミニウムチューブ上に、電子写真感光体A1〜A2と同様に作製した電荷発生層及び電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布、乾燥して、膜厚が電荷発生層0.3μm、電荷輸送層20μmの電子写真感光体ドラムA3〜A4を、実施例3〜4として、それぞれ作製した。これらの電子写真感光体ドラムを、ヒューレットパッカード社製レーザープリンタ、レーザージェット4(LJ4)に搭載し、画像試験を行った。初期画像を印刷した後、引き続き1万枚連続印刷を行い、画像劣化の有無を目視で観察し、その結果を表5にまとめた。
【0125】
(比較例8)
実施例3〜4の手順において、電荷輸送層塗布液として電子写真感光体P6と同様に作製したものを用いた以外は、実施例3〜4と同様の手順で、比較例8として、電子写真感光体ド
ラムP8を作製し、画像試験を行ない、その結果を表5にまとめた。
【0126】
【表5】

【0127】
実施例3〜4及び比較例8から、公知のスチルベン系化合物Rを用いた電子写真感光体においては、初期で画像欠陥が現れないが、繰り返し使用時の特性は十分ではない。これに対し、本発明に係る[I]式で表されるスチルベン系化合物を用いた電子写真感光体は、全く問題なく、非常に良好な繰り返し特性を有することが確認された。
【0128】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思
想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電子写真感光体および画像形成装置もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、電機写真感光体を必要とする任意の分野で実施することができ、例えば複写機、プリンター、印刷機などに用いて好適である。
【符号の説明】
【0130】
1 感光体(電子写真感光体)
2 帯電装置(帯電ローラ;帯電部)
3 露光装置(露光部)
4 現像装置(現像部)
5 転写装置
6 クリーニング装置
7 定着装置
41 現像槽
42 アジテータ
43 供給ローラ
44 現像ローラ
45 規制部材
71 上部定着部材(定着ローラ)
72 下部定着部材(定着ローラ)
73 加熱装置
T トナー
P 記録紙(用紙,媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体において、該感光層は、下記[1]
式で表される構造を有するスチルベン系化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を少なくとも一つ有するフェニル基、またはHammett則に
おける置換基定数σp が0.20以下であって、任意に炭素数1〜4の有機基を有する芳香族の縮合多環式炭化水素基を示し、Rは、炭素数3〜4のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ
、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を示し、m、nは0〜4の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電手段、帯電し
た該電子写真感光体に対し像露光を行ない静電潜像を形成する像露光手段、前記静電潜像をトナーで現像する現像手段、前記トナーを被転写体に転写する転写手段、及び、前記電子写真感光体に付着した前記トナーを回収するクリーニング手段から選ばれる少なくとも一つとを備えた電子写真感光体カートリッジ。
【請求項3】
請求項1に記載の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電
した該電子写真感光体に対し露光を行ない静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーで現像する現像手段と、前記トナーを被転写体に転写する転写手段と、前記被転写体に転写された前記トナーを定着させる定着手段とを備えることを特徴とする、画像形成装置。
【請求項4】
下記[1]式で表される構造で表されることを特徴とするスチルベン系化合物。
【化2】

(前記[1]式中、Ar1、Ar2は、それぞれ、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を少なくとも一つ有するフェニル基、またはHammett則に
おける置換基定数σp が0.20以下であって、任意に炭素数1〜4の有機基を有する芳香族の縮合多環式炭化水素基を示し、Rは、炭素数3〜4のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ
、Hammett則における置換基定数σp が0.20以下であって、炭素数1〜4の有機基を示し、m、nは0〜4の整数を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−48199(P2011−48199A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197329(P2009−197329)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】