説明

新規微生物、それを用いた植物病害防除剤および病害防除方法

【課題】イネの育苗時に発生する種子伝染性病害および土壌伝染性病害および農園芸作物病害に対し、幅広い拮抗作用を有する新規微生物を供試して優れた防除効果を発揮し、環境負荷の少ない植物病害防除剤および防除方法を提供すること。
【解決手段】植物病害に対して防除能を有するペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株(FERM P−21726)を有効成分として含有することを特徴とする植物病害防除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害に対して防除能を有するペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)を有効成分とするイネの育苗時に発生する病害防除剤または植物病害防除剤、およびそれを利用した植物病害の防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農作物の生産においては種々の植物病害が発生し、その防除には化学合成された化合物を有効成分とする化学合成農薬が一般に使用されている。しかしながら、防除方法として有効なこれら化学合成農薬を継続的に使用すると、薬剤に対して感受性の低い、あるいは耐性を有する病原菌が出現し、防除効果が低下する場合が問題となっている。また、近年では、食物の安全性や環境保護などの面から、作物栽培における化学合成農薬の使用量や使用回数の低減が求められており、化学合成農薬に代わるべき、または化学合成農薬と併用すべき手段として、年々環境に影響の少ない微生物資材を利用した病害防除(いわゆる微生物農薬)に期待が高まっている。
【0003】
イネ箱育苗時のイネ幼苗に発生する種子伝染性病害の被害は、イネ育苗栽培で防除すべき重要な病害となっている。これら病害のうちイネばか苗病およびイネいもち病等の糸状菌による病害、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病およびイネ褐条病等の細菌による病害は、特に防除困難な病害である。これらの種子病害は種子伝染により発病することが知られており、病害防除のための薬剤による種子消毒はイネ栽培において重要な作業の一つとなっている。また、種子消毒剤の廃液処理においては環境保護の点で問題化しており、環境負荷の少ない防除資材の開発が不可欠である。
【0004】
近年、環境負荷の少ない農薬として、微生物を利用した生物農薬が開発されており、イネ種子伝染性病害防除においても、生物防除に関する研究が行われている。細菌を利用した生物防除剤としては、シュードモナス属の一種(Pseudomonas sp.CAB−02)に属する細菌が、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病、イネばか苗病の防除に有効なことが開示されている(例えば特許文献1参照)。また、バチルス・シンプレクス(Bacillus simplex) に属する細菌がイネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病の防除に有効なことが開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
糸状菌を利用した生物防除剤としては、トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)に属する糸状菌がイネばか苗病、イネいもち病、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病、イネ褐条病の防除に有効なことが開示されている(例えば特許文献3および4)。さらに、タラロミセス属の一種(Talaromyces sp.)に属する糸状菌が、イネばか苗病、イネいもち病、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病およびイネ苗立枯病(トリコデルマ菌)の防除に有効なことが開示されている(例えば特許文献5参照)。また、タラロマイセス・フラバス(Talaromyces flavus)に属する糸状菌が、イネばか苗病、イネいもち病、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病、イネ褐条病およびイネ苗立枯病(フザリウム菌、リゾプス菌、トリコデルマ菌)の防除に有効なことが開示されている(例えば特許文献6参照)。
【0006】
一方、農園芸作物の病害防除に用いられてきた微生物としては、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)に属する細菌が灰色かび病、うどんこ病等の防除に有効なことが開示されている(例えば特許文献7参照)。また、タラロマイセス・フラバス(Talaromyces flavus)に属する糸状菌が、炭疽病(例えば特許文献8参照)、灰色かび病、葉かび病およびうどんこ病(例えば特許文献9参照)に有効なことが開示されている。さらに、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)に属する糸状菌が、灰色かび病および菌核病に(例えば特許文献10参照)、ペニシリウム・ワックスマニ(Penicillium waksmanii)に属する糸状菌が、うどんこ病および炭疽病に有効なことが開示されている(例えば特許文献11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−124427号公報
【特許文献2】特開2006−143628号公報
【特許文献3】特開平11−225745号公報
【特許文献4】特開平11−253151号公報
【特許文献5】特開2006−182773号公報
【特許文献6】特開2007−31294号公報
【特許文献7】特開平8−175919号公報
【特許文献8】特開平10−229872号公報
【特許文献9】国際公開WO2002/035934号パンフレット
【特許文献10】特開2004−231626号公報
【特許文献11】特開2005−278526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、イネの育苗時に発生する種子伝染性病害および土壌伝染性病害および農園芸作物病害に対し、幅広い拮抗作用を有する新規微生物を供試して優れた防除効果を発揮し、環境負荷の少ない植物病害防除剤および防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記イネの育苗時に発生する種子伝染性病害および土壌伝染性病害または農園芸作物病害の防除に優れた効果を発揮しうるペニシリウム(Penicillium)属に属する新規な微生物株を見出し、これら知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)植物病害に対して防除能を有するペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株(FERM P−21726)を有効成分として含有することを特徴とする植物病害防除剤。
(2)植物病害がイネの育苗時に発生する種子伝染性病害または土壌伝染性病害である(1)に記載の植物病害防除剤。
(3)イネの育苗時に発生する種子伝染性病害がイネばか苗病、イネいもち病、イネごま葉枯病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の病害であることを特徴とする(2)に記載の植物病害防除剤。
(4)イネの育苗時に発生する土壌伝染性病害がフザリウム(Fusarium)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、リゾプス(Rhizopus)属菌またはトリコデルマ(Trichoderma)属菌によるイネ苗立枯病から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の病害であることを特徴とする(2)に記載の植物病害防除剤。
(5)植物病害が灰色かび病、うどんこ病、炭疽病または斑点細菌病から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の病害であることを特徴とする(1)に記載の植物病害防除剤。
(6)浸種前、浸種時、浸種後または催芽時に(2)〜(4)のいずれかに記載の植物病害防除剤によりイネの種子を浸漬、噴霧、塗布または粉衣処理することを特徴とするイネの種子伝染性病害防除方法または土壌伝染性病害防除方法。
(7)イネの種子の播種前、播種時または播種後に(2)〜(4)のいずれかに記載の植物病害防除剤によりイネの育苗培体に潅注または混和処理することを特徴とするイネの種子伝染性病害防除方法または土壌伝染性病害防除方法。
(8)植物を栽培する土壌または植物体に、(1)または(5)に記載の植物病害防除剤を施用することを特徴とする植物病害防除方法。
(9)植物病害に対して防除能を有するペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株(FERM P−21726)、およびその変異株。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を有効成分として含有する植物病害の防除剤は、イネの育苗時に発生するイネばか苗病、イネいもち病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病、リゾプス(Rhizopus)属菌によるイネ苗立枯病を含む病害に対して発病を強く抑制する作用がある。また、農園芸作物に発生する灰色かび病、うどんこ病、炭疽病または斑点細菌病に対しても、発病抑制効果が強い。本発明の防除剤は、これらの病害に対して現在使用されている化学農薬と同等またはそれ以上の防除効果が期待でき、化学農薬の代替として、または化学農薬と併用して使用できる。また、自然界に存在する微生物を使用するため、環境に対する負荷も少なく、化学農薬を使用した場合に比べて耐性菌が出現しにくいと考えられる点でも有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の防除剤に用いる微生物としては、ペニシリウム(Penicillium)属に属し、植物に対し病原性を示さない微生物が利用できる。好ましくは、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)に属する微生物であり、そのうちでも特に好ましい菌株としては、本発明者らが神奈川県厚木市七沢で採取した土壌から新たに分離した糸状菌であり、イネばか苗病を指標とした生物検定でばか苗病に対し強い発病抑制効果を示したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株があげられる。
【0013】
ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株の菌学的性状を以下に示す。
(1)各培地における生育状態
CZA(ツアペック寒天)培地上での生育は良好で、培養温度25℃、7日間の培養でコロニーの直径は24〜26mmに達し、ビロード状で薄く平坦で輪紋状を呈する。コロニー表面は淡白色〜淡灰白色で、分生子構造は殆ど認められない。裏面は無色で、可溶性色素は認められない。
【0014】
CYA(ツアペック・酵母エキス寒天)培地上での生育は良好で、培養温度25℃、7日間の培養でコロニー直径は29〜31mmに達し、ビロード状でやや厚く盛り上がり、放射状のしわを呈する。コロニー表面は淡白黄色で、分生子構造は殆ど認められない。裏面は淡黄白色を呈し、可溶性色素は認められない。
【0015】
PDA(ポテト・デキストロース寒天)培地上での生育はかなり良好で、培養温度25℃、7日間の培養でコロニーの直径は44〜46mmに達し、羊毛状を呈する。コロニー表面の縁は白色で、その内側は淡灰緑色となり、分生子構造は豊富に認められるが、子のう果形成は認められない。裏面は淡黄白色を呈し、可溶性色素は認められない。
【0016】
CMA(コーン・ミール寒天)培地上での生育は非常に良好で、培養温度25℃、7日間の培養でコロニーの直径は45〜47にmm達し、ビロード状で薄く平坦である。コロニー表面は淡白色〜淡灰白色で、分生子構造がわずかに認められ、さらに未成熟な閉子のう殻が散在して形成される。裏面は無色で、可溶性色素は認められない。
【0017】
(2)生理学的特徴
CYAおよびMEA(麦芽エキス寒天)培地を用いた5℃、25℃、37℃の各温度条件下での培養における生育は、5℃では認められず、25℃、7日間の培養で、コロニー直径はそれぞれ29〜31mmおよび35〜37mmに、14日間の培養ではそれぞれ52〜54mmおよび67〜69mmに達する。また、37℃、7日間の培養で、コロニー直径はそれぞれ21〜23mmおよび34〜37mmに、14日間の培養ではそれぞれ33〜35mmおよび63〜65mmに達する。生育温度範囲は10℃〜37℃で、至適生育温度は30℃付近である。pHを3、4、5、6、7、8、9および10に調製したMEA培地を用いた培養温度25℃での生育pHは3〜10で、至適生育pHは5〜7である。
【0018】
(3)形態的特徴
CMA培地において淡白色〜淡黄白色の子のう果形成が認められ、子のう果は明確な壁ができず緩く編まれた菌糸に被われ、直径80〜200μmの球形〜亜球形を示し、子のう果原基は棍棒状の造のう器に細い造精器がコイル状に巻き付き発達する。しかしながら、約2ヶ月間の培養においても子のう胞子の形成は認められず、子のう果は未成熟であった。分生子柄は、主に気中菌糸から生じ、無色、平滑、長さ20〜80μmである。ペニシリは単輪生体から複輪生体、メトレは10〜12×2.0〜2.4μm、2〜3本輪生、フィアライドはペン先型、10〜14×1.6〜2.0μm、2〜5本輪生する。分生子は広楕円形〜楕円形、2.4〜3.4×2.0〜2.4μm、滑面である。
【0019】
(4)DNAの塩基配列
核の5.8SリボソームRNAをコードするDNAの塩基配列を配列番号1に示す。
【0020】
(5)微生物の同定および寄託
以上の菌学的性状よりAB5194株は子のう果を形成することから子のう菌類(Ascomycotina)に属する。子のう果は未成熟であるが、緩く編まれた菌糸に被われていること、分生子世代(アナモルフ)としてペン先型のフィアライドを有するPenicillium属であることよりTalaromyces属に属する。そこで、AB5194株の分類学上の位置を高田正樹著、「真菌の分離と同定・分類 Talaromyces属」防菌防黴、Vol.20、651−661、1992年およびジョン・アイ・ピット著、「ザ・ジーナス・ペニシリウム・アンド・イッツ・テレオモルフィック・ステイト・ユーペニシリウム・アンド・タラロマイセス」アカデミック・プレス、ロンドン、1979年(John I.Pitt,"The Genus Penicillium and its Teleomorphic States Eupenicillium and Talaromyces",Academic Press,London,1979)、に従って同定した。
AB5194株はアナモルフの性質、コロニーの生育状態よりTalaromyces
flavusに近い種と考えられたが、コロニーの性状および色調が著しく異なった。また、DNAの塩基配列の相同性検索(使用したデータベース:GENBANK、使用したプログラム:BLAST(Basic Local Alignment Search Tool))の結果では、Penicillium sp.RCEF3398の塩基配列と100%の相同率を示した。また、国際塩基配列データベースから得られた配列をもとに作成した系統樹においては、AB5194株はPenicillium sp.RCEF3398、Penicillium cf.verruculosumなどと同一系統枝を形成した。Penicillium verruculosumの分生子形成構造を比較すると、1)メトレは7〜10本輪生、2)フィアライドはアンプル型で7〜10本輪生、3)分生子は球形で、いぼ状となっており、AB5194株と異なる点が多く、形態的には合致しなかった。よって、本発明者はAB5194株をペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194と命名した。
なお、AB5194株は、新規分離菌株であって、平成20年11月18日に独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM P−21726で寄託されている。
【0021】
以上、植物病害、およびイネの育苗時に発生する病害に対し活性を示すAB5194株について説明したが、一般的には菌類の菌学上の性状は極めて変化しやすく、一定したものではない。本発明では上記菌株をそのまま用いることが好ましいが、その変異株を用いることも可能である。菌類は、自然的あるいは通常行われている紫外線照射、X線照射、変異誘発剤(例えば、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンおよびエチルメタンスルホネート等)などの人為的変異手段により変異することは周知の事実である。また、このような処理により薬剤耐性を獲得したなどの自然変異株ならびに細胞融合、遺伝子組換えなどの遺伝子操作によって得られた人工変異株も含め、ペニシリウム属に属する微生物であれば、すべての微生物が使用できる。
【0022】
本発明菌株の菌体はペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を液体培地または固体培地を用いて培養することにより多量に調製することができる。本発明菌株の培養には、特別な方法を用いる必要はなく、菌株が増殖する培養方法であれば特に限定されるものでない。即ち、液体培地を用いて培養する方法としては、例えば回転式振盪培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター培養およびタンク培養があげられ、固体培地を用いて培養する方法としては、例えば静置培養があげられる。微生物培養に通常使用される栄養源としては、微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機物および必要な生育促進物質を適当に含有する培地であれば天然培地、合成培地のいずれでも利用できる。
【0023】
液体培地に使用される炭素源としては、グルコース、シュクロース、ガラクトース、デキストリン、グリセロール、澱粉、水飴、糖蜜、動・植物油などがあげられる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦胚芽、コーンスティープリカー、コーングルテンミール、綿実かす、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素などがあげられる。その他、必要に応じ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、コバルト、鉄、亜鉛、塩素、燐酸、硫酸およびその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することは有効である。固体培地としては、米、麦、トウモロコシ、大豆、フスマ、大豆粕、小麦粉などを単独または組合わせて、あるいは上記液体培地に使用される炭素源、窒素源、および無機塩などの栄養源を添加することも有効である。その他、上記液体培地に使用される炭素源、窒素源および無機塩などの栄養源を含む粘土鉱物等の固体担体があげられる。本発明菌株の培養に用いられる具体的な培地を例示すると、液体培養として、PD(ポテトデキストロース)液体培地、サブロー液体培地、Czapek Dox液体培地などが、固体培養として、PDA(ポテトデキストロース寒天)培地、CMA(コーンミール寒天)培地、フスマ培地などがあげられる。培養に際しての培養温度は、微生物が生育可能な範囲で適宜変更することができるが、通常15〜35℃の範囲であり、好ましくは25〜30℃である。培養日数は培養条件により異なるが、通常1〜60日の範囲であり、好ましくは液体培養では3〜10日、固体培養では7〜20日間培養することが望ましい。また、培地のpHは通常5〜8の範囲である。
【0024】
本発明における防除剤として用いる場合には、本菌株を含む培養物をそのまま用いても良いが、必要に応じて培養物を破砕あるいは細断して用いても良く、さらに、この培養物から篩などにより胞子を主体に回収したものを用いても良い。また、防除剤の製品の保存性の観点からは、培養物を自然乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理後に篩などにより胞子を主体に回収した乾燥粉末とするのが好ましく、特に水分含有量が10重量%以下、好ましくは5重量%以下である乾燥粉末とするのが好ましい。培養物、培養物の破砕物または乾燥粉末を担体または補助剤などと配合して常法により用途や使用方法に適した様々な種類の製剤、例えば、粉剤、粒剤、水和剤、顆粒水和剤、乳剤、フロアブル剤、微粒剤、種子用コーティング剤などの形態にして使用すると更に好ましい。
【0025】
担体は、固形担体または液体担体のいずれをも用いることができる。好適な固形担体としては、例えば鉱物質粉末(カオリン、ベントナイト、クレー、タルク、ゼオライト、ケイソウ土、バーミキュライト、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、ホワイトカーボン、アルミナ、硫安、消石灰、モンモリロナイト、アタパルガイド、珪藻土、珪砂、合成ケイ酸塩、尿素など)、植物質粉末(大豆粉、小麦粉、でんぷん、結晶セルロースなど)、糖類(ソルビトール、トレハロース、ラクトース、グルコサミン、オリゴ糖など)などを例示できる。好適な液体担体としては、例えば水、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、灯油、軽油など)、農園芸油(マシン油など)、植物油(大豆油、綿実油など)などを例示できる。
【0026】
また、補助剤としては、例えば多糖類(キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、ゼラチンなど)、合成水溶性ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコールなど)、多価アルコール類(グリセリン、エチレングリコール等)を例示することができる。さらに、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤などの界面活性剤を加えることもできる。
【0027】
使用量としては、製剤の剤型、適用方法、適用場所、適用すべき病害の種類などに応じて適宜選抜可能である。例えば、水和剤の場合、本菌株の乾燥粉末を通常コロニー単位として10〜1010CFU/ml程度、好ましくは10〜10CFU/ml程度の範囲で使用することができる。ここで「CFU」とはColony Forming Unit(コロニー形成単位)を示し、コロニーとして検出された菌数のことをいう。
【0028】
本発明の防除剤および防除方法は、任意の植物に適用でき、イネなどを含む食用作物、果菜を含む野菜、果樹および園芸作物などに使用できる。通常、イネを育苗する場合、発芽程度を揃えるために、イネ種籾を一定期間水中に浸すいわゆる浸種作業を行い、更に32℃前後の温度に1日〜2日保って催芽を行った後に、育苗土壌を充填した育苗箱に播種するか、あるいは苗床に直接播種する。病原菌に感染したイネ種籾または感染の恐れのあるイネ種籾に対して優れた防除効果を示し、イネの育苗時の少なくとも一つの時期に本発明の防除剤を施用する方法であれば特に制限はなく、例えば、浸種前、浸種時、浸種後または催芽時のいずれか、またはこれらの時期の一つ以上の時期に、イネの種子を浸漬、噴霧、塗布または粉衣処理することにより、発病を著しく減少させることができる。また、イネ種籾の播種前または播種後にイネの育苗培土に潅注または混和処理することによっても発病苗が著しく減少し、優れた防除効果を示す。本発明の防除剤および防除方法により防除できる病害は、イネ科植物の種子の細菌病であり、具体的には、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病などである。また、イネばか苗病、イネいもち病、イネごま葉枯病、イネ苗立枯病(リゾーブス属菌、フザリウム属菌、トリコデルマ属菌、ピシウム属菌により引き起こされる)など糸状菌による病害についても本発明の防除方法によって有効に防除することができる。
【0029】
本発明の植物病害に対する防除方法は、植物体または植物を栽培する土壌に、本発明の防除剤を施用する方法であれば特に制限はなく、例えば、本発明の防除剤を植物体に直接散布処理することにより、あるいは、植物を栽培する土壌に混和、散布または潅注処理することにより、発病が著しく減少し、優れた防除効果を示す。本発明の防除剤および防除方法により防除できる病害は、イチゴうどんこ病、イチゴ炭疽病、キュウリ灰色かび病またはキュウリ斑点細菌病などである。
【実施例】
【0030】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本実施例により本発明を制限または限定することを意図するものではない。
【0031】
<調製例1:ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株分生子の製造>
継代培養しているペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株のPDAスラントより分生子をかき取り、滅菌水に懸濁した。分生子懸濁液(10CFU/ml濃度)0.1mlをPDA培地含有シャーレに塗布し、30℃で15日間静置培養した。培養終了後、シャーレに適当量の滅菌水を加え、コロニー表面を滅菌筆でかき取り、その菌液を3重ガーゼで濾過し、遠心分離することにより、2×10〜4×10CFU/ml程度に濃縮された分生子懸濁液を得た。
【0032】
<調製例2:ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株分生子の製造>
100mlのPD液体培地を含む500ml容量バッフル付き三角フラスコを、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。滅菌後の培地に、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株の菌体を接種し、27℃で2日間振とう培養した。次に、20gのフスマ、1gのコーングルテンミールと20mlの水を含む200mlコルベンを、121℃で30分間オートクレーブ滅菌した。滅菌後のフスマ培地に、PD液体培養液の一部を接種し、十分に混合した後、30℃で15日間静置培養した。培養物を滅菌水に懸濁させ、十分に撹拌した後、3重ガーゼで濾過し、遠心分離することにより、2×10〜5×10CFU/ml程度に濃縮された分生子懸濁液を得た。
【0033】
<調製例3:ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株分生子の製造>
調製例2と同様に滅菌フスマ培地に、PD液体培養液の一部を接種し、十分に混合した後、30℃で15日間静置培養した。培養後、培養物を乾燥し、その培養物を篩にかけ、フスマ残渣を取除くことによりAB5194株分生子含有乾燥粉末(2×10〜6×10CFU/g)を得た。
【0034】
<調製例4:ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株の水和剤調製>
調製例3で得られた分生子含有乾燥粉末(5×109CFU/g)20部を、ゼオライト80部と均一に混合することにより水和剤を調製した。この水和剤の分生子濃度は、1×109CFU/gであった。
【0035】
〔実施例1〕
<イネ苗立枯細菌病に対する発病抑制効果(開花期接種籾)>
調製例1で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株をイオン交換水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液(5×10CFU/ml)を調製した。この分生子懸濁液に、イネ苗立枯細菌病罹病籾(品種:コシヒカリ、開花期接種籾)を浸種前浸漬処理または催芽時浸漬処理した。
1)浸種前浸漬処理:浸種前の種籾を15℃、24時間、分生子懸濁液に浸漬処理(浸漬液量比=1:1)。
2)催芽時浸漬処理:浸種後の種籾を32℃、20時間、分生子懸濁液に浸漬処理(浸漬液量比=1:2)。
なお、浸種は、15℃で6日間浸漬(浸漬液量比=1:2)し、浸種3日後に水交換を1回行った。その後、水を捨て32℃の催芽器内で17時間蒸気催芽するか、または、32℃、20時間浸漬処理(浸漬液量比=1:2)の水中催芽をした。その後、育苗培土(くみあい合成培土3号)を充填した育苗箱に催芽種子を播種、覆土し、播種後2日間、32℃の育苗庫内に静置し出芽処理を行った。次に、出芽処理した苗を温室内で16日間管理した後、全苗について発病の程度を表1に示した調査基準に従い調査し、式1により発病度(%)を、また式2により防除価を算出した。また、試験は3反復で行った。
【0036】
【表1】

【0037】
【数1】

比較のため、無処理、または化学農薬であるテクリードCフロアブル(クミアイ化学工業社製)を200倍希釈で浸種前浸漬により処理し、同様に発病度および防除価を算出した。
【0038】
結果を表2に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株は、イネ苗立枯細菌病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0039】
【表2】

【0040】
〔実施例2〕
<イネもみ枯細菌病に対する発病抑制効果(減圧接種籾)>
調製例2で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を水道水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液(5×10CFU/ml)を調製した。この分生子懸濁液に、イネもみ枯細菌病罹病籾(品種:コシヒカリ、減圧接種籾)を、実施例1で示した浸種前浸漬および催芽時浸漬処理を行った。その他の育苗作業については実施例1に従った。次に、出芽処理した苗を温室内で16日間管理した後、全苗について発病の程度を表3に示した調査基準に従い調査し、式1により発病度(%)を、また式2により防除価を算出した。対照薬剤としてテクリードCフロアブルを200倍希釈で浸種前浸漬により処理し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は3反復で行った。
【0041】
【表3】

【0042】
結果を表4に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株は、イネもみ枯細菌病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0043】
【表4】

【0044】
〔実施例3〕
<イネ褐条病に対する発病抑制効果(開花期接種籾)>
調製例4で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株水和剤を水道水で200倍に希釈し、AB5194株の分生子濃度(5×10CFU/ml)を調製した。この希釈液に、イネ褐条病罹病籾(品種:コシヒカリ、開花期接種籾)を、実施例1で示した浸種前浸漬および催芽時浸漬処理を行った。その他の育苗作業については実施例1に従った。次に、出芽処理した苗を温室内で15日間管理した後、全苗について発病の程度を表5に示した調査基準に従い調査し、式1により発病度(%)を、また式2により防除価を算出した。対照薬剤としてテクリードCフロアブルを200倍希釈で浸種前浸漬により処理し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は3反復で行った。
【0045】
【表5】

【0046】
結果を表6に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株は、イネ褐条病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0047】
【表6】

【0048】
〔実施例4〕
<イネばか苗病に対する発病抑制効果(自然感染籾)>
調製例4で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株水和剤を水道水で200倍に希釈し、AB5194株の分生子濃度(5×10CFU/ml)を調製した。この希釈液に、イネばか苗病罹病籾(品種:新潟早生、自然感染籾)を、実施例1で示した浸種前浸漬および催芽時浸漬処理を行った。その他の育苗作業については実施例1に従った。次に、出芽処理した苗を温室内で18日間管理した後、全苗について発病の有無(徒長苗および枯死苗)を調査し、式3により発病苗率(%)を、また式4により防除価を算出した。対照薬剤としてテクリードCフロアブルを200倍希釈で浸種前浸漬により処理し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は3反復で行った。
【0049】
【数2】

【0050】
結果を表7に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株は、イネばか苗病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0051】
【表7】

【0052】
〔実施例5〕
<イネ苗いもち病に対する防除効果(自然感染籾)>
調製例4で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株水和剤を水道水で200倍に希釈し、AB5194株の分生子濃度(5×10CFU/ml)を調製した。この希釈液に、イネ苗いもち病罹病籾(品種:コシヒカリ、自然感染籾)を、実施例1で示した浸種前浸漬処理を行った。その他の育苗作業については実施例1に従った。次に、出芽処理した苗を保湿するために透明なビニールで周りを覆い温室内で18日間管理した後、全苗について発病の有無(不完全葉、第一葉鞘および枯死苗)を調査し、式5により発病苗率(%)を、また式4により防除価を算出した。対照薬剤としてテクリードCフロアブルを200倍希釈で浸種前浸漬により処理し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は3反復で行った。
【0053】
【数3】

【0054】
結果を表8に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株は、イネ苗いもち病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0055】
【表8】

【0056】
〔実施例6〕
<リゾプス菌によるイネ苗立枯病に対する発病抑制効果>
調製例3で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を水道水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液(5×10CFU/ml)を調製した。この分生子懸濁液に、イネ健全籾(品種:コシヒカリ)を、実施例1で示した浸種前浸漬および催芽時浸漬処理を行った。
なお、浸種は、15℃で6日間浸漬(浸漬液量比=1:2)し、浸種3日後に水交換を1回行った。その後、水を捨て32℃の催芽器内で17時間蒸気催芽するか、または、32℃、20時間浸漬処理(浸漬液量比=1:2)の水中催芽をした。その後、下記に示したイネ苗立枯病汚染土壌を充填した育苗箱に催芽種子を播種、覆土し、播種後2日間、32℃の育苗庫内に静置し出芽処理を行った。次に、出芽処理した苗を温室内で36日間管理した後、全苗について発病の程度を表9に示した調査基準に従い調査し、式1により発病度(%)を、また式2により防除価を算出した。また、試験は3反復で行った。病原菌の接種は土壌フスマ培地(黒土:フスマ=4:1)で24℃、7日間培養したリゾプス菌培養物を育苗培土(くみあい合成培土3号)に均一に混和し、リゾプス菌によるイネ苗立枯病汚染土壌とした。また、対照薬剤としてテクリードCフロアブルを200倍希釈で浸種前浸漬により処理し、本発明の防除剤と比較した。
【0057】
【表9】

【0058】
結果を表10に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株は、リゾプス菌によるイネ苗立枯病に対して化学農薬に匹敵するほどの高い発病抑制効果を示した。
【0059】
【表10】

【0060】
〔実施例7〕
<イチゴうどんこ病に対する発病抑制効果>
調製例3で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株をイオン交換水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液をイチゴ(品種:とよのか)に散布した。散布濃度は、1×106CFU/mlまたは1×105CFU/mlとした。その後、24℃、湿室下で3日間管理した。3日後に試験ポットをビニールハウス内に移し、うどんこ病罹病イチゴポットを均等に隣接静置し、連続接種した。接種26日後に、各ポットの上位3複葉について病斑面積率を調査し、式6により防除価を算出した。また、うどんこ病に対する化学農薬であるアミスター20フロアブル(シンジェンタジャパン社製)の2000倍希釈したものを散布し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は5反復で行った。
【0061】
【数4】

【0062】
結果を表11に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を処理した区は、イチゴうどんこ病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0063】
【表11】

【0064】
〔実施例8〕
<イチゴ炭疽病に対する発病抑制効果>
調製例3で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を水道水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液をイチゴ(品種:さちのか)に散布した。散布濃度は、1×10CFU/mlまたは1×10CFU/mlとした。その後、24℃、湿室下で管理し、散布3日後に炭疽病の病原菌であるグロメレラ・シングレイタ(Glomerella cingulata)の分生子懸濁液(1×10分生子/ml)を接種した。接種処理後、24℃、湿度100%条件下に1日間静置した後、湿室下で管理した。接種24日後、散布時に完全展開していた各ポット最上位複葉について病斑数を調査し、式7により防除価を算出した。また、炭疽病に対する化学農薬であるアミスター20フロアブルの2000倍希釈したものを散布し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は4反復で行った。
【0065】
【数5】

【0066】
結果を表12に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を処理した区は、イチゴ炭疽病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0067】
【表12】

【0068】
〔実施例9〕
<キュウリ灰色かび病に対する発病抑制効果>
調製例3で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を水道水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液をキュウリ(品種:相模半白)の第1葉に散布した。散布濃度は、1×10CFU/mlまたは1×10CFU/mlとした。その後、24℃、湿室下で管理し、散布3日後に灰色かび病の病原菌であるボトリシス・シネレア(Botrytis cinerea)の分生子(5×10分生子/ml)を含有したPDA寒天ディスク(Φ6mm)を葉面上に静置し、接種した。
接種処理後、20℃、湿度100%条件下に5日間静置した後、病斑直径(mm)を調査し、式8により防除価を算出した。また、灰色かび病に対する化学農薬であるセイビアーフロアブル20(シンジェンタジャパン社製)の1000倍希釈したものを散布し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は3反復で行った。
【0069】
【数6】

【0070】
結果を表13に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を処理した区は、キュウリ灰色かび病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0071】
【表13】

【0072】
〔実施例10〕
<キュウリ斑点細菌病に対する発病抑制効果>
調製例3で調製したペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を水道水に懸濁し、AB5194株の分生子懸濁液をキュウリ(品種:相模半白)の第1葉に散布した。散布濃度は、1×10CFU/mlまたは1×10CFU/mlとした。その後、24℃、湿室下で管理し、散布3日後に斑点細菌病の病原菌であるシュードモナス・シリンゲ・パソバー・ラクリマンス(Pseudomonas syringae pv.lachrymans)の懸濁液(1.0×10CFU/ml)を散布した。散布処理後、24℃の発病室に10日間静置した後、第2本葉および第3本葉の病斑数を調査し、式7により防除価を算出した。また、斑点細菌病に対する化学農薬であるカスミンボルドー(北興化学工業社製)の1000倍希釈したものを散布し、本発明の防除剤と比較した。
なお、試験は3反復で行った。
【0073】
結果を表14に示す。ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株を処理した区は、キュウリ灰色かび病に対して高い発病抑制効果を示した。
【0074】
【表14】

【受託番号】
【0075】
FERM P−21726

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物病害に対して防除能を有するペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株(FERM P−21726)を有効成分として含有することを特徴とする植物病害防除剤。
【請求項2】
植物病害がイネの育苗時に発生する種子伝染性病害または土壌伝染性病害である請求項1に記載の植物病害防除剤。
【請求項3】
イネの育苗時に発生する種子伝染性病害がイネばか苗病、イネいもち病、イネごま葉枯病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の病害であることを特徴とする請求項2に記載の植物病害防除剤。
【請求項4】
イネの育苗時に発生する土壌伝染性病害がフザリウム(Fusarium)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、リゾプス(Rhizopus)属菌またはトリコデルマ(Trichoderma)属菌によるイネ苗立枯病から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の病害であることを特徴とする請求項2に記載の植物病害防除剤。
【請求項5】
植物病害が灰色かび病、うどんこ病、炭疽病または斑点細菌病から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の病害であることを特徴とする請求項1に記載の植物病害防除剤。
【請求項6】
浸種前、浸種時、浸種後または催芽時に請求項2〜4のいずれかに記載の植物病害防除剤によりイネの種子を浸漬、噴霧、塗布または粉衣処理することを特徴とするイネの種子伝染性病害防除方法または土壌伝染性病害防除方法。
【請求項7】
イネの種子の播種前、播種時または播種後に請求項2〜4のいずれかに記載の植物病害防除剤によりイネの育苗培体に潅注または混和処理することを特徴とするイネの種子伝染性病害防除方法または土壌伝染性病害防除方法。
【請求項8】
植物を栽培する土壌または植物体に、請求項1または請求項5に記載の植物病害防除剤を施用することを特徴とする植物病害防除方法。
【請求項9】
植物病害に対して防除能を有するペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)AB5194株(FERM P−21726)。