説明

方位測定装置、該方位測定装置に用いられる方位測定方法及び方位測定プログラム

【課題】同一周波数に複数の送信源(無線機)が存在する混信状態でも、それぞれの送信源の位置の特定が可能となる方位測定装置を提供する。
【解決手段】混信波方位測定手段(方向探知装置10A)により、複数の送信源(無線機)による混信波の各方位が測定され、ヌルパターン形成手段(アレイアンテナ制御装置20)により、複数の送信源(無線機)による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された出力信号を得る。送信源識別手段(無線機識別装置30)により、ヌルパターン形成手段(アレイアンテナ制御装置20)で得られた出力信号に基づいて、各送信源(無線機)が識別される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、方位測定装置、該方位測定装置に用いられる方位測定方法及び方位測定プログラムに係り、特に、受信装置で複数の電波を受信している混信状態のときに、送信源を識別する場合に用いて好適な方位測定装置、該方位測定装置に用いられる方位測定方法及び方位測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
不法無線局などから電波が発射された場合、受信装置では、本来必要な到来電波と不要な到来電波とが混信状態となることがある。このため、不法無線局などから発射される電波を監視するための方位測定装置が製作されている。
【0003】
この種の方位測定装置は、たとえば図6に示すように、方向探知装置10であり、アンテナ素子111 ,112 ,…,11M と、受信機121 ,122 ,…,12M と、A/D(アナログ/ディジタル)変換部131 ,132 ,…,13M と、直交変換部141 ,142 ,…,14M と、方位処理部15と、局部発振器16と、制御処理部17と、ステアリングベクトル格納部18とから構成されている。
【0004】
この方向探知装置10では、アンテナ素子111 ,112 ,…,11M により、アレイアンテナが構成されている。各アンテナ素子111 ,112 ,…,11M で受信された信号は、受信機121 ,122 ,…,12M により、中間周波数信号に変換されて出力される。これらの受信機121 ,122 ,…,12M には、局部発振器16から必要な基準信号が発生されている。アナログの各中間周波数信号は、A/D変換部131 ,132 ,…,13M により、ディジタル受信信号に変換される。
【0005】
各ディジタル受信信号は、直交変換部141 ,142 ,…,14M により、複素受信信号に変換される。ステアリングベクトル格納部18では、通信波の周波数毎に、到来方位に対する空中線出力が記録されている。方位処理部15では、直交変換部141 ,142 ,…,14M の各複素受信信号、及びステアリングベクトル格納部18の空中線出力に基づいて、到来方位及び相対電力が計測される。制御処理部17は、ユーザの指示による測定周波数に応じた設定を、方位処理部15及び局部発振器16に対して行うと共に、方位処理部15で計測された到来方位に基づいて、到来方位情報を出力する。
【0006】
上記の方位測定装置の他、この種の関連技術としては、たとえば、特許文献1に記載された周波数ホッピング通信波の受信装置がある。
この受信装置では、不要到来波の到来方向にヌルパターンを形成できるアンテナ装置を備え、このアンテナ装置からの受信波が復調される。また、方向探知装置を備え、目的の通信波の到来方向に感度が維持され、他の不要到来波の到来方向にヌルパターンを形成するようにアンテナ装置が制御される。
【0007】
また、特許文献2に記載された目標検出装置では、各方位目標検出部で検出された目標数の最大値を基に、目標の同一視処理が行われると共に、電波到来方位測定センサにより、特定方向からの目標出現が継続的に監視され、同電波到来方位測定センサにより、方位目標検出履歴監視部に設定された基準継続時間以上継続して目標が検出された場合、その同一方位に新規の目標が存在すると判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−024564号公報
【特許文献2】特開平11−271417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記関連技術では、次のような課題があった。
すなわち、図6の方向探知装置10では、同時に受信する複数の電波の到来方位は測定可能であるが、送信源の情報と到来方位とを関連付けることができないため、送信源の位置を特定できないという課題がある。すなわち、同一周波数に複数の送信源が存在する場合、受信信号が混信し、それぞれの送信源位置の特定ができなくなる。受信信号が混信している場合においても、それぞれの方位測定を可能とする混信分離型方位測定技術はあるが、複数の方位測定装置が出力する到来方位情報を組み合わせて位置を特定する場合、個々の方位測定装置が出力する混信数分の複数方位情報と、他の方位測定装置が出力する複数方位情報との組合せが不明であるため、個々の送信源の位置を特定することができないという課題がある。
【0010】
また、特許文献1に記載された受信装置では、周波数ホッピング通信波が複数異なる方向から到来していても、これらを分離して復調でき、また、目的の通信波の送信局が移動しても、これを他の到来波と分離して復調できるが、この発明とはハード構成や処理方法が異なる。
【0011】
特許文献2に記載された目標検出装置では、同時刻、同一方位上に電波の送信源である複数の目標が存在する場合でも、これらの複数の目標を分離及び検出することができるが、この発明とはハード構成や処理方法が異なる。
【0012】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、同一周波数に複数の送信源が存在する混信状態においても、それぞれの送信源の位置の特定を可能とする方位測定装置、該方位測定装置に用いられる方位測定方法及び方位測定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、方位測定装置に係り、複数の送信源による混信波の各方位を測定する混信波方位測定手段と、前記複数の送信源による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された出力信号を得るヌルパターン形成手段と、該ヌルパターン形成手段で得られた前記出力信号に基づいて、前記各送信源を識別する送信源識別手段とを有することを特徴としている。
【0014】
この発明の第2の構成は、方位測定方法に係り、方位測定プログラムがコンピュータに、複数の送信源による混信波の各方位を測定する混信波方位測定処理と、前記複数の送信源による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された出力信号を得るヌルパターン形成処理と、該ヌルパターン形成処理で得られた前記出力信号に基づいて、前記各送信源を識別する送信源識別処理とを行わせることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
この発明の構成によれば、同一周波数に複数の送信源が存在する混信状態でも、それぞれの送信源位置を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1の実施形態である方位測定装置の要部の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】ヌルパターンの一例を示す図である。
【図3】関連技術に係る図6の方位測定装置による測定結果を示す図である。
【図4】図1の方位測定装置による測定結果を示す図である。
【図5】この発明の第2の実施形態である方位測定装置の要部の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】関連技術に係る方位測定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記ヌルパターン形成手段(アレイアンテナ制御装置)が、識別対象とする到来波の方位を示す識別対象方位情報、及び上記ヌルパターンを形成する到来方位を示す抑圧方位情報が与えられ、上記識別対象方位情報及び抑圧方位情報に基づいて上記ヌルパターンを形成する構成とされている方位測定装置を実現する。
【0018】
また、上記送信源識別手段(無線機識別装置)は、ユーザが登録を希望した特徴ベクトルを既知の送信源(無線機)情報を表す教師ベクトルとして登録するデータベース(特徴ベクトルDB)を有し、混信が抑圧された上記出力信号に対して所定の処理を行うことにより得られる特徴ベクトルと上記教師ベクトルとを比較照合し、最も類似度の高い上記教師ベクトルを上記送信源(無線機)として識別(同定)する構成とされている。
また、上記混信波方位測定手段(方向探知装置)は、上記ヌルパターン形成手段(アレイアンテナ制御装置)に対して、上記識別対象方位情報、及び上記抑圧方位情報を与えると共に、上記送信源(無線機)の識別結果と上記混信波の方位測定結果とを関連させて上記送信源(無線機)の位置を特定する構成とされている。
【0019】
また、到来信号を受信する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナを備え、上記混信波方位測定手段(方向探知装置)は、上記アレイアンテナで受信される複数の送信源(無線機)による上記混信波の各方位を測定する構成とされ、上記ヌルパターン形成手段(アレイアンテナ制御装置)は、上記混信波方位測定手段(方向探知装置)と共用されている上記アレイアンテナで受信される上記複数の送信源(無線機)による上記混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された上記出力信号を得る構成とされている。
【実施形態1】
【0020】
図1は、この発明の第1の実施形態である方位測定装置の要部の電気的構成を示すブロック図である。
この形態の方位測定装置は、同図に示すように、方向探知装置10Aと、アレイアンテナ制御装置20と、無線機識別装置30とから構成されている。方向探知装置10Aは、図示しない複数の無線機(送信源)による混信波の各方位を測定する機能を有し、アレイアンテナ制御装置20に対して、識別対象とする到来波の方位を示す識別対象方位情報、及びヌルパターンを形成する到来方位を示す抑圧方位情報を与えると共に、上記無線機(送信源)の識別(同定)結果と上記混信波の方位測定結果とを関連させて上記無線機(送信源)の位置を特定する。
【0021】
この方向探知装置10Aは、特に、この実施形態では、アンテナ素子111 ,112 ,…,11M と、受信機121 ,122 ,…,12M と、A/D変換部131 ,132 ,…,13M と、直交変換部141 ,142 ,…,14M と、方位処理部15と、局部発振器16と、制御処理部17Aと、ステアリングベクトル格納部18とから構成されている。アンテナ素子111 ,112 ,…,11M は、アレイアンテナを構成している。受信機121 ,122 ,…,12M は、アンテナ素子111 ,112 ,…,11M で受信した信号を中間周波数信号に変換して出力する。A/D変換部131 ,132 ,…,13M は、アナログの上記中間周波数信号をディジタル受信信号に変換する。
【0022】
直交変換部141 ,142 ,…,14M は、上記ディジタル受信信号を複素受信信号に変換する。方位処理部15は、上記複素受信信号に基づいて、到来波の方位及び相対電力を計測する。局部発振器16は、受信機121 ,122 ,…,12M に必要な基準信号を発生する。ステアリングベクトル格納部18は、通信波の周波数毎に、到来波の方位に対する空中線出力が記録されている。制御処理部17Aは、ユーザの指示する測定周波数に応じた設定を各部に行う。
【0023】
アレイアンテナ制御装置20は、上記複数の無線機(送信源)による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された出力信号を得る機能を有し、上記識別対象方位情報、及び上記抑圧方位情報が与えられ、識別対象方位情報及び抑圧方位情報に基づいてヌルパターンを形成する。このアレイアンテナ制御装置20は、特に、この実施形態では、アンテナ素子211 ,212 ,…,21M と、アンテナ(空中線)モジュール221 ,222 ,…,22M と、電力合成器23と、ウエイト係数演算装置24とから構成されている。ウエイト係数演算装置24は、到来波数及び到来方位から指向性のヌルパターンを形成するためのウエイト係数を算出して出力する。アンテナ素子211 ,212 ,…,21M は、アレイアンテナを構成し、到来信号を受信する。アンテナ(空中線)モジュール221 ,222 ,…,22M は、アンテナ素子211 ,212 ,…,21M で受信された信号に、ウエイト係数演算装置24で演算されたウエイト係数を乗ずる。電力合成器23は、アンテナモジュール221 ,222 ,…,22M の出力を合成して無線機識別装置30に出力する。
【0024】
無線機識別装置30は、アレイアンテナ制御装置20で得られた、混信が抑圧された上記出力信号に基づいて、各無線機(送信源)を識別する機能を有し、ユーザが登録を希望した特徴ベクトルを既知の無線機(送信源)情報を表す教師ベクトルとして登録するデータベース(特徴ベクトルDB)を有し、混信が抑圧された上記出力信号に対して所定の処理を行うことにより得られる特徴ベクトルと上記教師ベクトルとを比較照合し、最も類似度の高い教師ベクトルを上記無線機(送信源)として識別(同定)する。この無線機識別装置30は、特に、この実施形態では、受信機31と、A/D変換器32と、立ち上がり検出部33と、実効電圧測定部34と、包絡線検波部35と、微分処理部36と、特徴ベクトルDB(データベース)37と、無線機同定処理部38とから構成されている。
【0025】
受信機31は、電力合成器23からの信号出力を中間周波数信号に変換する。A/D変換器32は、受信機31からの中間周波数信号をディジタル複素包絡信号に変換する。立ち上がり検出部33は、ディジタル複素包絡信号から信号の立ち上がりを検出し、検出トリガを出力する。実効電圧測定部34は、立ち上がり検出部33から通知された検出トリガから一定時間範囲のディジタル複素包絡信号の平均電力を測定する。包絡線検波部35は、立ち上がり検出部33から検出トリガを受け取り、一定時間範囲のディジタル複素包絡信号を包絡検波信号に変換し、その値を実効電圧で割って正規化した包絡検波信号を生成する。
【0026】
微分処理部36は、正規化された包絡検波信号を微分処理して特徴ベクトルに変換する。
特徴ベクトルDB(データベース)37は、微分処理部36から特徴ベクトルを受け取り、ユーザが登録を希望した特徴ベクトルを、既知の無線機情報を表す教師ベクトルとして登録する。無線機同定処理部38は、微分処理部36から受け取った未知の特徴ベクトルと、特徴ベクトルDB37から受け取った教師ベクトルとを比較照合し、最も類似度の高い教師ベクトルを受信信号の無線機として同定する。この方位測定装置は、方位測定プログラムに基づいて機能するコンピュータで構成されている。
【0027】
図2は、ヌルパターンの一例を示す図、図3は、関連技術に係る図6の方位測定装置による測定結果を示す図、及び図4が、図1の方位測定装置による測定結果を示す図である。
これらの図を参照して、この形態の方位測定装置に用いられる方位測定方法の処理内容について説明する。
この方位測定装置では、方位測定プログラムに基づいて、コンピュータにより、複数の無線機(送信源)による混信波の各方位が測定され(混信波方位測定処理)、複数の無線機(送信源)による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンが形成されて抑圧され、混信が抑圧された出力信号が得られ(ヌルパターン形成処理)、同ヌルパターン形成処理で得られた出力信号に基づいて、各無線機(送信源)が識別される(送信源識別処理)。
【0028】
すなわち、制御処理部17Aにより、ユーザにより指示された目的とする通信波の周波数に対応する局部発振周波数が、順次、局部発振器16に設定され、同時に、測定周波数が受信機31に通知され、また、測定対象周波数に応じたデータベースの種類が特徴ベクトルDB37に通知される。それぞれの周波数に対応する各アンテナ素子111 ,112 ,…,11M の信号が、受信機121 ,122 ,…,12M からA/D変換部131 ,132 ,…,13M に出力され、アナログからディジタルに変換された後、直交変換部141 ,142 ,…,14M からI/Q分離された信号が方位処理部15に入力される。方位処理部15では、入力された各信号と、事前測定によりステアリングベクトル格納部18に格納されているステアリングベクトルとに基づいて、たとえばMUSIC法などのアルゴリズムを用いることで、各周波数における到来波数及び到来方位が得られる。
【0029】
MUSIC法によれば、到来方位推定の原理は、およそ次のようなものとなる。
アレイアンテナからの入力ベクトルX(t)は、同アレイアンテナの素子数をKとすると、次式(1)で表される。
X(t)={X1(t),X2(t),…,XK(t)} ・・・(1)
この入力ベクトルX(t)を用いて、K次元の自己相関行列を作成すると、次式(2)で表される。
S=E[X(t)XH (t)] ・・・(2)
このSの一般固有値問題を解くと、得られる固有値は、次式(3)で表され、このときのLが到来波数となる。
λ1 ≧λ2 ≧…≧λL >λL+1 =λK ・・・(3)
ここで求められた到来波数Lと固有ベクトル{eL+1 …eK }との関係から、到来方位θの関数である、次式(4),(5)で示される評価関数Pmu(θ)のピークを探すことにより、到来方位{θL,…,θK}が求められる。
【0030】
【数1】

・・・(4)
N =[eL+1 ,…,eK ] ・・・(5)
【0031】
無線機識別装置30では、この方位測定結果に対応した無線機の同定情報が算出されるが、実空間に複数の無線機での通信系が存在した場合、通常の空中線からの信号受信では、それらが混在したままであり、目的とする無線機を同定することは困難である。そこで、存在する複数の通信波のうち、目的とするもの以外の通信波の到来方向に対し、ヌルパターンを形成し、アレイアンテナ制御装置20から出力される信号が目的とする無線機の通信波のみとなるようにする。この場合、方向探知装置10Aによる測定結果を用い、制御処理部17Aから、識別対象とする到来波の方位(識別対象方位)、及び、ヌルパターンを形成する到来方位(抑圧方位)がウエイト係数演算装置24に設定される。
【0032】
アレイアンテナ制御装置20では、ウエイト係数演算装置24にて、目的の通信波以外の到来方向に対して指向性のヌルを形成するよう、Howell Applebaumの指導原理に基づいてウエイト係数が求められ、このウエイト係数に対応する位相変化量及び減衰量がアンテナモジュール221 ,222 ,…,22M に設定される。設定するウエイト係数を“a1 ,a2 ,…,aM ”とすると、ウエイト係数Aは、次式(6)の関係から求めることができる。
A=RUU-1*
但し、
A=[a12 …aMT
UU;不要波の相関行列
S;所望波方向θmaxのステアリングベクトル
* ;複素共役 ・・・(6)
【0033】
アンテナモジュール221 ,222 ,…,22M では、設定された位相変化量及び減衰量が付加された信号出力が、電力合成器23によって合成されて出力されることにより、不要波方向にヌルパターンが形成され、不要となる通信波が除去された出力信号が出力される。なお、対象となる無線機の使用している周波数帯域が広帯域にわたる場合、所望波方向の到来波を受信したときのアレイ応答からなるステアリングベクトルSは、周波数により異なる数値を取る必要がある。このため、受信状態にあるときのステアリングベクトル情報をウエイト係数演算装置24に知らせておく必要がある。
【0034】
図2では、たとえば5素子アレイを用いて形成したヌルパターンが示され、横軸に方位(度)、及び縦軸にアレイ利得(dB)がとられている。この場合、ヌルパターンは、目的波の到来方向が180°、不要波方向が100°及び140°としてシミュレーションにより求めている。したがって、この図に示した例では、100°及び140°方向から到来する通信波の信号は、電力合成器23の出力に現れないことになる。
【0035】
次に、目的とする無線機の信号のみ抽出された信号は、受信機31で中間周波数信号に変換される。そして、A/D変換器32により、この中間周波数信号がディジタル複素包絡信号に変換される。立ち上がり検出部33により、A/D変換器32から受け取ったディジタル複素包絡信号に対して信号の立ち上がり検出が繰り返し行われ、検出した場合には、実効電圧測定部34及び包絡線検波部35に検出トリガが送出される。実効電圧測定部34では、立ち上がり検出部33から検出トリガを受け取ると、一定時間範囲のディジタル複素包絡信号の平均電力が測定され、その平方根を実効電圧値として包絡線検波部35に通知する。包絡線検波部35では、立ち上がり検出部33から検出トリガを受け取ると、一定時間範囲のディジタル複素包絡信号が包絡検波信号に変換され、その値を実効電圧で割って正規化した包絡検波信号が生成される。
【0036】
微分処理部36では、正規化した包絡検波信号が微分処理されて特徴ベクトルに変換される。特徴ベクトルDB37では、特徴ベクトルを受け取り、ユーザが登録を希望した特徴ベクトルが、既知の無線機情報を表す教師ベクトルとして登録されると共に、ユーザの指示に基づいて、教師ベクトルの更新、削除及び参照などの編集処理も行われる。無線機同定処理部38では、微分処理部36から受け取った未知の特徴ベクトルと、特徴ベクトルDB37に問い合わせた教師ベクトルとが比較照合され、最も類似度の高い教師ベクトルが受信信号の無線機として同定され、識別結果として制御処理部17Aに出力される。この処理を、方向探知装置10Aで検出された到来波数分だけ繰り返すことで、到来方位に対応する無線機の同定結果としての識別結果が得られ、制御処理部17Aから、到来方位情報及び識別結果が出力される。
【0037】
図3及び図4では、送信源SA及び送信源SBから同時に電波が発射された場合に、方位測定装置RA,RBが示した方位測定結果が方位線で示され、それらの交点から送信源SA,SBの位置を推定している例が示されている。
この場合、図3に示すように、図6の方位測定装置による測定結果では、複数の電波を同時に受信した場合、方位は分離及び測定は可能であるが、方位と送信源の情報とを対応させることができないため、位置推定の結果に、送信源SA,SB以外の偽目標C,Dが検出されている。一方、図4に示すように、図1の方位測定装置による測定結果では、送信源である無線機を同定した識別情報と測定方位とを関連付けすることができるため、実際の送信源SA,SBのみに対して位置が特定されている。
【0038】
以上のように、この第1の実施形態では、目的とする通信波以外の通信波の到来方位に対し、アレイアンテナによる指向性のヌルパターンを形成することで、目的波のみ抽出した後に無線機の識別を実施し、測定到来方位と対応させることができるので、複数の通信波が存在しても、分離及び抽出した後に無線機の同定を行い、同時に到来する複数の電波に対応した到来方位情報と無線機の識別結果が得られる。
【実施形態2】
【0039】
図5は、この発明の第2の実施形態である方位測定装置の電気的構成を示すブロック図である。
この形態の方位測定装置では、図5に示すように、図1中の方向探知装置10Aに代えて、異なる構成の方向探知装置10Bが設けられている。方向探知装置10Bでは、方向探知装置10Aのアンテナ素子111 ,112 ,…,11M が削除されている一方、受信機121 ,122 ,…,12M が、アレイアンテナ制御装置20のアンテナ素子211 ,212 ,…,21M にそれぞれ接続されている。他は、図1と同様の構成である。
【0040】
この方位測定装置では、アレイアンテナ制御装置20は、アンテナ素子211 ,212 ,…,21M が方向探知装置10Aと共用され、第1の実施形態と同様の動作が行われる。これにより、装置規模が低減され、経済性に優れた構成となる。
【0041】
以上、この発明の実施形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成は同実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、この発明に含まれる。
たとえば、図1中の方向探知装置10A、アレイアンテナ制御装置20及び無線機識別装置30は、同様の機能を有するものであれば、他の構成でも良い。また、図5では、アンテナ素子211 ,212 ,…,21M が、方向探知装置10Bとアレイアンテナ制御装置20とで共用されているが、アンテナ素子211 ,212 ,…,21M を削除し、図1中のアンテナ素子111 ,112 ,…,11M を共用するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明は、たとえば不法無線局などから発射される電波を監視するための電波監視装置として用いられる方位測定装置全般に適用できる。
【符号の説明】
【0043】
10A、10B 方向探知装置(混信波方位測定手段)
111 ,112 ,…,11M アンテナ素子
121 ,122 ,…,12M 受信機
131 ,132 ,…,13M A/D変換部
141 ,142 ,…,14M 直交変換部
15 方位処理部
16 局部発振器
17A 制御処理部
18 ステアリングベクトル格納部
20 アレイアンテナ制御装置(ヌルパターン形成手段)
211 ,212 ,…,21M アンテナ素子
221 ,222 ,…,22M アンテナ(空中線)モジュール
23 電力合成器
24 ウエイト係数演算装置
30 無線機識別装置(送信源識別手段)
31 受信機
32 A/D変換器
33 立ち上がり検出部
34 実効電圧測定部
35 包絡線検波部
36 微分処理部
37 特徴ベクトルDB(データベース)
38 無線機同定処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信源による混信波の各方位を測定する混信波方位測定手段と、
前記複数の送信源による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された出力信号を得るヌルパターン形成手段と、
該ヌルパターン形成手段で得られた前記出力信号に基づいて、前記各送信源を識別する送信源識別手段とを有することを特徴とする方位測定装置。
【請求項2】
前記ヌルパターン形成手段は、
識別対象とする到来波の方位を示す識別対象方位情報、及び前記ヌルパターンを形成する到来方位を示す抑圧方位情報が与えられ、前記識別対象方位情報及び抑圧方位情報に基づいて前記ヌルパターンを形成する構成とされていることを特徴とする請求項1記載の方位測定装置。
【請求項3】
前記送信源識別手段は、
ユーザが登録を希望した特徴ベクトルを既知の送信源情報を表す教師ベクトルとして登録するデータベースを有し、
混信が抑圧された前記出力信号に対して所定の処理を行うことにより得られる特徴ベクトルと前記教師ベクトルとを比較照合し、最も類似度の高い前記教師ベクトルを前記送信源として識別する構成とされていることを特徴とする請求項1又は2記載の方位測定装置。
【請求項4】
前記混信波方位測定手段は、
前記ヌルパターン形成手段に対して、前記識別対象方位情報、及び前記抑圧方位情報を与えると共に、前記送信源の識別結果と前記混信波の方位測定結果とを関連させて前記送信源の位置を特定する構成とされていることを特徴とする請求項2又は3記載の方位測定装置。
【請求項5】
到来信号を受信する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナを備え、
前記混信波方位測定手段は、
前記アレイアンテナで受信される前記混信波の各方位を測定する構成とされ、
前記ヌルパターン形成手段は、
前記混信波方位測定手段と共用されている前記アレイアンテナで受信される前記混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された前記出力信号を得る構成とされていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の方位測定装置。
【請求項6】
方位測定プログラムがコンピュータに、
複数の送信源による混信波の各方位を測定する混信波方位測定処理と、
前記複数の送信源による混信波のうちの1つを除いた他の混信波の到来方向に対する指向性のヌルパターンを形成して抑圧し、混信が抑圧された出力信号を得るヌルパターン形成処理と、
該ヌルパターン形成処理で得られた前記出力信号に基づいて、前記各送信源を識別する送信源識別処理とを行わせることを特徴とする方位測定方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1乃至5のいずれか一に記載の方位測定装置として機能させることを特徴とする方位測定プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−215444(P2012−215444A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80048(P2011−80048)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)