説明

方法、装置、エンコーダ装置、デコーダ装置及びオーディオシステム

【課題】マトリクス化技術とパラメータ多チャネルオーディオ符号化の結合を可能にし、利用可能なデコーダに依存して完全品質の多チャネル再構成を実現する。
【解決手段】第1、第3の信号が、第1の出力信号(L0w)を得るために加算され、ここで第1の信号(L0wL)は第1の複素関数(g1)により修正された第1のステレオ信号(L0)を有し、第3の信号(L0wR)は第3の複素関数(g3)により修正された第2のステレオ信号(R0)を有する。第2、第4の信号は、第2の出力信号(R0w)を得るために同様に加算される。複素関数(g1、g2、g3、g4)は、空間的パラメータ(P)の関数であり、前記第1の信号と前記第2の信号との間の差(L0wL−R0wL)のエネルギ値が前記第1の信号及び前記第2の信号の和(L0wL+R0wL)のエネルギ値以上であるように、第4、第3、の各信号に対しても同様の基準であるように選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nチャネルオーディオ信号を第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号及び空間的パラメータに符号化するエンコーダから得られるステレオ信号を処理する方法及びデバイスに関する。本発明は、このようなエンコーダ及びこのようなデバイスを有するエンコーダ装置にも関する。
【0002】
本発明は、エンコーダから得られたステレオ信号を処理するこのような方法及びデバイスにより得られたステレオダウンミックス信号を処理する方法及びデバイスにも関する。本発明は、ステレオダウンミックス信号を処理するこのようなデバイスを有するデコーダ装置にも関する。
【0003】
本発明は、このようなエンコーダ装置及びこのようなデコーダ装置を有するオーディオシステムにも関する。
【背景技術】
【0004】
長い間、例えば、住居環境における音楽のステレオ再生は一般的になっている。1970年代の間、幾つかの実験が、家庭用音楽機器の4チャネル再生を用いて行われた。
【0005】
映画館のような、より大きなホールにおいて、音声の多チャンネル再生が長い間存在していた。ドルビーデジタル(登録商標)及び他のシステムは、大きなホールにおける現実的かつ印象的な音声再生を提供するために開発された。
【0006】
このような多チャネルシステムは、ホームシアターに導入されており、広く関心をもたれている。したがって、5.1システムと称される、5つのフルレンジ(full-range)チャネル及び1つのパートレンジ(part-range)チャネル又は低周波効果(LFE)チャネルを持つシステムは、今日の市場で一般的である。2.1、4.1、7.1及び8.1のような他のシステムも存在する。
【0007】
SACD及びDVDの導入と共に、多チャネルオーディオ再生が進出している。多くの消費者は、既に家庭において多チャネル再生の可能性を持ち、多チャネルソースマテリアルが人気になっている。しかしながら、多くの人は、依然として2チャネル再生システムのみを持ち、伝送は、通常2チャネルを介して行われる。この理由から、2チャネルを介した多チャネルオーディオの伝送を可能にするために、例えばドルビーサラウンド(登録商標)のようなマトリクス化技術が開発された。送信される信号は、2チャネル再生システムを用いて直接的に再生されることができる。適切なデコーダが利用可能である場合、多チャネル再生が可能である。この目的に対する周知のデコーダは、ドルビープロロジック(登録商標)(I及びII )(Kenneth Gundry, "A new active matrix decoder for surround sound", In Proc. AES 19th International Conference on Surround Sound, June 2001)及びサークルサラウンド(登録商標)(I及びII)(米国特許第6198827号公報:5−2−5マトリクスシステム)である。
【0008】
多チャネルマテリアルの増大した人気のため、多チャネルマテリアルの効率的な符号化がより重要になっている。マトリクス化は、伝送に必要とされるオーディオチャネルの数を減少させ、したがって必要とされる帯域幅又はビットレートを減少させる。マトリクス化技術の他の利点は、ステレオ再生システムと下位互換性があることである。ビットレートの更なる減少のために、従来のオーディオコーダが、マトリクス化されたステレオ信号を符号化するために使用されることができる。
【0009】
ビットレートを減少する他の可能性は、マトリクス化せずに全ての個別のチャネルを符号化することによる。この方法は、2つの代わりに5つのチャネルが符号化されなければならないので、より高いビットレートを生じるが、空間的再構成は、マトリクス化を適用するよりも元に大幅に近くすることができる。
【0010】
原理的に、マトリクス化処理は劣化を伴う演算である。したがって、2チャネルミックスのみからの5チャネルの完全な再構成は一般に不可能である。この性質は、5チャネル再構成の最大知覚品質を制限する。
【0011】
近年、多チャネルオーディオを2チャネルステレオ信号及び少数の空間的パラメータ又はエンコーダ情報パラメータPとして符号化するシステムが開発されている。結果として、このシステムは、ステレオ再生に対して下位互換性を持つ。送信される空間的パラメータ又はエンコーダ情報パラメータPは、どのようにデコーダが利用可能な2チャネルステレオダウンミックス信号から5チャネルを再構成するべきかを決定する。アップミックス(up-mix)処理が送信されたパラメータにより制御されるという事実により、5チャネル再構成の知覚品質は、制御パラメータを持たないアップミックスアルゴリズム(例えばドルビープロロジック)と比較して大幅に向上する。
【0012】
要約すると、提供された2チャネルミックスから5チャネル再構成を生成するために3つの異なる方法が使用されることができる。
1)ブラインド再構成(blind reconstruction)。この方法は、提供される情報無しで信号性質のみに基づいてアップミックスマトリクスを推定しようとする。
2)マトリクス化技術、例えばドルビープロロジック。特定のダウンミックスマトリクスを使用することにより、2チャネルから5チャネルへの再構成は、使用されるダウンミックスマトリクスにより決定される特定の信号性質により向上されることができる。
3)パラメータ制御アップミックス。この方法において、エンコーダ情報パラメータPは、典型的には、ビットストリームの補助的部分に記憶され、通常のステレオ再生システムとの下位互換性を保証する。しかしながら、これらのシステムは、一般に、マトリクス化システムとの下位互換性はない。
【0013】
上述の方法2及び3を単一のシステムに結合することは興味深いかもしれない。これは、利用可能なデコーダに依存して最大品質を保証する。ドルビープロロジック又はサークルサラウンドのような、マトリクスサラウンドデコーダを持つ消費者に対して、再構成はマトリクス処理によって得られる。送信されたパラメータを解釈することができるデコーダが利用可能である場合、より高い品質の再構成が得られることができる。マトリクスサラウンドデコーダ又は前記空間的パラメータを解釈することができるデコーダを持たない消費者は、依然としてステレオの下位互換性を楽しむことができる。しかしながら、方法2及び3を結合する1つの問題は、実際の送信されたステレオダウンミックスが修正される(modified)ことである。これは、前記空間的パラメータを使用する5チャネル再構成に対する不利な効果を持ちうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、マトリクス化技術とパラメータ多チャネルオーディオ符号化の結合を可能にする方法であって、利用可能なデコーダに依存して完全品質の多チャネル再構成が実現されることができるような方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、この目的は、Nチャネルオーディオ信号を第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号及び空間的パラメータに符号化するエンコーダから得られるステレオ信号を処理する方法を用いて達成され、当該方法が、
第1の信号及び第3の信号を加算して第1の出力信号を得るステップであって、前記第1の信号が第1の複素関数(complex function)により修正された前記第1のステレオ信号を有し、前記第3の信号が第3の複素関数により修正された前記第2のステレオ信号を有するステップと、
第2の信号及び第4の信号を加算して第2の出力信号を得るステップであって、前記第4の信号が第4の複素関数により修正された前記第2のステレオ信号を有し、前記第2の信号が第2の複素関数により修正された前記第1の信号を有するステップと、
を有し、
前記複素関数が、前記空間的パラメータの関数であり、前記第1の信号と前記第2の信号との間の差のエネルギ値が前記第1の信号及び前記第2の信号の和のエネルギ値以上であり、かつ前記第4の信号と前記第3の信号との間の差のエネルギ値が前記第4の信号及び前記第3の信号の和のエネルギ値以上であるように選択される。したがって、前記デコーダにおけるフロント/バック・ステアリング(steering)が可能にされる。
【0016】
これらの差信号及び和信号のエネルギ値は、これらの信号の絶対値又は2−ノルム(2-norm、即ち複数のサンプルに対する2乗の和)に基づき得る。他の従来のエネルギ測定もここで使用され得る。
【0017】
本発明の一実施例において、前記Nチャネルオーディオ信号は、フロントチャネル信号及びリアチャネル信号を有し、前記空間的パラメータは、前記ステレオダウンミックス内の前記フロントチャネルの寄与と比較した前記ステレオダウンミックス内の前記リアチャネルの相対的寄与の尺度を有する。これは、前記リアチャネル寄与の選択が必要であるからである。
【0018】
前記第2の複素関数の大きさは、左右のリア・ステアリングを可能にするために前記第1の複素関数の大きさより小さくてもよく、及び/又は前記第3の複素関数の大きさは、前記第4の複素関数の大きさより小さい。
【0019】
前記第2の複素関数及び/又は前記第3の複素関数は、フロントチャネル寄与との信号キャンセルを防ぐためにプラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有しうる。
【0020】
本発明の他の実施例において、前記第1の関数は、第1の関数部分及び第2の関数部分を有し、前記空間的パラメータが、前記第1のステレオ信号内の前記リアチャネルの寄与が前記フロントチャネルの寄与と比較して増大することを示す場合に、前記第2の関数部分の出力が増大し、前記第2の関数部分は、プラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有する。これは、フロントチャネルとの信号キャンセルを防ぐためである。更に、前記第4の関数は、第3の関数部分及び第4の関数部分を有することができ、前記空間的パラメータが、前記第2のステレオ信号内の前記リアチャネルの寄与が前記フロントチャネルの寄与と比較して増大することを示す場合に、前記第4の関数部分の出力が増大し、前記第4の関数部分が、プラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有する。
【0021】
前記第1の関数部分は、前記第4の関数部分と比較して反対の符号を持つことができる。前記第2の関数は、前記第3の関数と比較して反対の符号を持つことができる。前記第2の関数及び前記第4の関数部分は、同じ符号を持つことができ、前記第3の関数及び前記第2の関数部分は、同じ符号を持つことができる。
【0022】
本発明の他の態様において、上述の方法によりステレオ信号を処理するデバイスが提供され、このようなデバイスを有するエンコーダ装置が提供される。
【0023】
本発明の他の態様において、第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号を処理する方法が提供され、当該方法は、上述の方法による処理演算を逆変換する(inverting)ステップを有する。
【0024】
本発明の他の態様において、ステレオダウンミックス信号を処理する上述の方法によりステレオダウンミックス信号を処理するデバイスが提供され、このようなデバイスを有するデコーダ装置が提供される。
【0025】
本発明の更に他の態様において、このようなエンコーダ装置及びこのようなデコーダ装置を有するオーディオシステムが提供される。
【0026】
本発明の他の目的、フィーチャ及び利点は、実施例及び添付図面を参照する本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による後処理及び逆変換後処理を含むエンコーダ/デコーダオーディオシステムのブロック図である。
【図2】本発明によるステレオ信号を処理するデバイスの一実施例のブロック図である。
【図3】本発明の他の細部を示す図2と同様な詳細なブロック図である。
【図4】本発明の更に他の細部を示す図3と同様な詳細なブロック図である。
【図5】本発明の依然として他の細部を示す図3と同様な詳細なブロック図である。
【図6】本発明によるステレオダウンミックス信号を処理するデバイスの一実施例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の方法は、パラメータ多チャネル再構成を劣化させることなくマトリクス復号を可能にすることができる。これは、マトリクス化技術が、ダウンミキシングの前に行われる通常のマトリクス化に反して、ダウンミキシングの後に前記エンコーダにおいて使用されるので、可能である。ダウンミックスのマトリクス化は、前記空間的パラメータにより制御される。
【0029】
使用されるマトリクスが可逆(invertible)である場合、前記デコーダは、送信されたエンコーダ情報パラメータPに基づいて前記マトリクス化を元に戻す(undo)ことができる。
【0030】
従来、マトリクス化は、元のNチャネル入力信号に使用される。しかしながら、2チャネルのみが前記デコーダにおいて利用可能であるので、正しいNチャネル再構成に対する必要条件であるこのマトリクス化の逆変換は一般に不可能であるので、このアプローチはここでは適切でない。したがって、本発明の1つのフィーチャは、通常は5チャネルミックスに使用されるマトリクス化技術を2チャネルミックスのパラメータ制御修正により置き換えることである。
【0031】
図1は、本発明を組み込むエンコーダ/デコーダオーディオシステムのブロック図である。オーディオシステム1において、Nチャネルオーディオ信号は、エンコーダ2に供給される。エンコーダ2は、前記Nチャネルオーディオ信号をステレオチャネル信号L0及びR0並びにエンコーダ情報パラメータPに変換し、デコーダ3は、エンコーダ情報パラメータPを用いて、前記情報を復号し、デコーダ3から出力されるべき元のNチャネル信号を近似的に再構成することができる。前記Nチャネル信号は、1つのセンタチャネル、2つのフロントチャネル、2つのサラウンドチャネル及び1つの低周波効果(LFE)チャネルを有する5.1システムに対する信号であることができる。
【0032】
従来、符号化されたステレオチャネル信号L0及びR0並びにエンコーダ情報パラメータPは、図1において円4により示される、CD、DVD、放送、レーザディスク、DBS、デジタルケーブル、インターネット又はその他の伝送若しくは配信システムのような適切な形でユーザに送信又は配信される。左及び右ステレオ信号L0及びR0が送信又は配信されるので、システム1は、ステレオ信号のみを再生することができる膨大な数の受信機器と互換性がある。前記受信機器がパラメータ多チャネルデコーダを含む場合、前記デコーダは、ステレオチャネルL0及びR0並びにエンコーダ情報パラメータP内の情報に基づいて前記Nチャネル信号の推定値を提供することにより前記Nチャネル信号を復号することができる。
【0033】
ここで、Nが2より大きな整数であり、z1[n],z2[n],...,zN[n]がNチャネルの離散的な時間領域の波形を記述するようなNチャネルオーディオ信号を仮定する。これらNの信号は、好ましくは重複する解析窓を使用する、共通のセグメンテーションを使用することによりセグメント化される。この後に、各セグメントは、複素変換(例えばFFT)を使用して周波数領域に変換される。しかしながら、複素フィルタバンク構造も、時間/周波数タイルを得るのに適切であり得る。この処理は、kが周波数インデックスを示すZ1[k],Z2[k],...,ZN[k]により示される、前記入力信号のセグメント化されたサブバンド表現を生じる。
【0034】
これらNチャネルから、2つのダウンミックスチャネル、即ちLO[k]及びRO[k]が作成される。各ダウンミックスチャネルは、Nの入力信号の線形結合である。
【0035】
【数1】

【0036】
パラメータαi及びβiは、LO[k]及びRO[k]からなるステレオ信号が良いステレオイメージを持つように選択される。
【0037】
結果として生じるステレオ信号において、ポストプロセッサ5は、主にステレオミックスにおける特定のチャネルiの寄与に影響を与えるような形で処理を適用することができる。処理するにつれて、特定のマトリクス化技術が選択されることができる。これは、左及び右マトリクス互換信号LOw[k]及びROw[k]を生じる。これらは、前記空間的パラメータと一緒に、図1において円6により図示される前記デコーダに送信される。エンコーダから得られたステレオ信号を処理するデバイスは、ポストプロセッサ5を有する。本発明によるエンコーダ装置は、エンコーダ2及びポストプロセッサ5を有する。
【0038】
後処理された信号L0w及びR0wは、再生のために従来のステレオ受信器(図示されない)に供給されることができる。代わりに、後処理された信号L0w及びR0wは、マトリクスデコーダ(図示されない)、例えばドルビープロロジック(登録商標)デコーダ又はサークルサラウンド(登録商標)デコーダに供給されることができる。更に他の可能性は、ポストプロセッサ5の処理を元に戻すために後処理された信号LOw及びROwを逆変換ポストプロセッサ7に供給することである。結果として生じる信号L0及びR0は、ポストプロセッサ7により多チャネルデコーダ3に供給されることができる。本発明による前記デコーダ装置は、デコーダ3及び逆変換ポストプロセッサ7を有する。
【0039】
デコーダ3において、前記Nの入力チャネルは、
【0040】
【数2】

【0041】
は、Zi[k]の推定値である。フィルタC1,Zi及びC2,Ziは、好ましくは、時間及び周波数依存であり、前記フィルタの伝達関数は、送信されたエンコーダ情報パラメータPから得られる。
【0042】
図2は、マトリクス復号を可能にするために、どのようにこの後処理ブロック5が実施されることができるかを示す。左入力信号LO[k]は、第1の複素関数g1により修正され、この結果として、左出力LOw[k]にフィードされる第1の信号LOwL[k]を生じる。左入力信号LO[k]は、第2の複素関数g2によっても修正され、この結果として、右出力ROw[k]にフィードされる第2の信号ROwL[k]を生じる。関数g1及びg2は、差分信号LOwL−ROwLが和信号LOwL+ROwL以上のエネルギを持つように選択される。これは、マトリクス復号において、前記和信号及び前記差分信号の比がフロント/バック・ステアリングを実行するのに使用される。前記差分信号がより大きくなる場合、更に入力信号がリアにステアリングされる。このため、ROwL[k]は、LO[k]における左リアの寄与が増大する場合に増大しなければならない。この制御手順は、関数g1及びg2により行われ、関数g1及びg2は、両方とも空間的パラメータPの関数である。これらの関数は、LO[k]における左リアの寄与が増大する場合に左入力チャネルの処理の量が増大するように選択される。
【0043】
2の大きさは、好ましくは、g1の大きさより小さい。これは、前記デコーダにおける左/右リア・ステアリングを可能にする。
【0044】
右入力信号RO[k]は、第4の関数g4により修正され、結果として、右出力ROw[k]にフィードされる第4の信号ROwR[k]を生じる。右入力信号RO[k]は、第3の関数g3により修正され、結果として、左出力LOw[k]にフィードされる第3の信号LOwR[k]を生じる。関数g3及びg4は、RO[k]における右リアの寄与が増大する場合に右入力チャネルの処理の量が増大するように、かつRowRからLOwRを減算することが加算するより大きな信号を生じるように選択される。
【0045】
3の大きさは、好ましくはg4の大きさより小さい。これは、前記デコーダにおける左/右リア・ステアリングを可能にする。
【0046】
前記出力は、以下のマトリクス式を用いて記述されることができる。
【0047】
【数3】

【0048】
パラメータ多チャネルエンコーダが以下に記載される。以下の式が使用される。
0[k]=L[k]+Cs[k]
0[k]=R[k]+Cs[k]
ここで、Cs[k]は、前記LFEチャネル及びセンタチャネルを結合した後に結果として生じるモノ信号(mono signal)である。以下の式はL[k]及びR[k]に対して成り立つ。
【0049】
【数4】

【0050】
ここで、Lfは左フロントチャネルであり、Lsは左サラウンドチャネルであり、Rfは右フロントチャネルであり、Rsは右サラウンドチャネルである。定数c1ないしc4はダウンミックス処理を制御し、複素数値であり、並びに/又は時間及び周波数依存であり得る。ITUスタイルのダウンミックスが、(c1、c3=sqrt(2);c2、c4=1)に対して得られる。
【0051】
前記デコーダにおいて、以下の再構成が実行される。
【0052】
【数5】

【0053】
はCs[k]の推定値である。パラメータβ及びγは、前記エンコーダにおいて決定され、前記デコーダに送信され、即ちエンコーダ情報パラメータPのサブセットである。加えて、情報信号Pは、対応するフロントチャネルとサラウンドチャネルとの間の(相対的)信号レベル、即ちそれぞれLf、LsとRf、Rsとの間のチャネル間強度差(Inter-channel Intensity Difference、IID)を含みうる。LfとLsとの間のエネルギ比を記述するIIDlに対する従来の表現は、
【0054】
【数6】

【0055】
により与えられる。
これらのパラメータが使用される場合、図2におけるスキームは、図3におけるスキームにより置き換えられることができる。左チャネルLO[k]を処理するために、前記左入力チャネルにおけるフロント/バック寄与を決定するパラメータのみが必要とされ、これらはパラメータIIDL及びβである。前記右入力チャネルの処理に対して、パラメータIIDR及びγのみが必要とされる。関数g2は、ここで関数g3により置き換えられることができるが、反対の符号を持つ。
【0056】
図4において、関数g1及びg4は、両方とも2つの並列な関数部分に分裂される。関数g1はg11及びg12に分裂される。関数g4はg11及び−g12に分裂される。関数部分g12及び関数g3の出力信号は、リアチャネルの寄与である。関数部分g12及び関数g3は、信号キャンセルを防ぐために1つの出力において同じ符号で加算され、異なる出力において反対の符号で加算される必要がある。
【0057】
関数部分g12及び関数g3は、両方ともプラスマイナス90度の位相シフトを含む。これは、フロントチャネル寄与(関数部分g11の出力)のキャンセルを防ぐためである。
【0058】
図5は、このブロックのより詳細な説明を与える。パラメータwlは、LO[k]の処理の量を決定し、wrはRO[k]の処理の量を決定する。wlが0に等しい場合、LO[k]は処理されず、wlが1に等しい場合、LO[k]が最大限に処理される。同じことがRO[k]に関するwrに対しても成り立つ。
【0059】
以下の一般化された式は、後処理パラメータwl及びwrに対して成り立つ。
l=fl(P)
r=fr(p)
ブロックΦ-90は、90度の位相シフトを実行する全通過フィルタである。図5におけるブロックG1及びG2は、ゲインである。結果として生じる出力は、
【0060】
【数7】

【0061】
であり、ここで、
1=f1(wl,wr)
2=f2(wl,wr)
である。
【0062】
したがって、関数g1...g4は、より具体的な関数、即ち、
1=1−wl+wlΦ-90
2=−wlΦ-901
3=wrΦ-902
4=1−wr=wrΦ-90
により置き換えられる。
【0063】
行列Hの逆行列は、(det(H)≠0の場合)
【0064】
【数8】

【0065】
により与えられる。
したがって、行列H内の適切な関数の使用は、マトリクス化処理が逆変換されることを可能にする。
【0066】
パラメータwl及びwrは送信されたパラメータから計算されることができるので、前記逆変換は、追加の情報を送信することを必要とせずに前記デコーダにおいて行われることができる。したがって、元のステレオ信号は、再び利用可能になり、これは多チャネルミックスのパラメータ復号に対して必要である。
【0067】
更に良い結果は、ゲインG1及びG2が前記サラウンドチャネル間の前記チャネル間強度差(IID)の関数である場合に達成されることができる。この場合、このIIDは、前記デコーダにも送信されなければならない。
【0068】
上述のパラメータ記述を仮定すると、以下の関数が前記後処理演算に対して使用される。
l=f1l)f2(β)
r=f3r)f4(γ)
ここで、f1...f4は任意の関数でありうる。例えば、
【0069】
【数9】

【0070】
である。
全通過フィルタΦ-90は、複素演算子j(j2=−1)との(複素数値)周波数領域における乗算を実行することにより効率的に実現されることができる。ゲインG1及びG2に対して、wl、wrの関数は、サークルサラウンドにおいて行われるように取られることができるが、値1/√2を持つ定数も適切である。これは結果として行列において、
【0071】
【数10】

【0072】
を生じる。この行列の行列式は、
det(H)=(1−wl−wr+(3/2)wlr)+j(wl−wr)
に等しい。
【0073】
この行列式の虚部は、wl=wrの場合にのみゼロに等しい。この場合、以下の式が前記行列式に対して成り立つ。
det(H)=1−2wl+(3/2)wl2
この関数は、wl=2/3に対してdet(H)=1/3の最小値を持つ。
【0074】
結果として、wl=wrに対しても、この行列は可逆である。したがって、ゲインG1=G2=1/√2に対して、行列Hは、常に可逆であり、値wl及びwrと独立である。
【0075】
図6は、逆変換ポストプロセッサ7の一実施例のブロック図である。前記後処理と同様に、前記逆変換は、各周波数帯域に対する行列乗算により行われる。
【0076】
【数11】

【0077】
結果として、関数g1...g4が前記デコーダにおいて決定されることができる場合、関数k1...k4が決定されることができる。関数k1...k4は、関数g1...g4と同様にパラメータセットPの関数である。逆変換に対して、関数g1...g4及びパラメータセットPは、したがって、既知である必要がある。
【0078】
行列Hは、行列Hの行列式がゼロに等しくない、即ち、
det(H)=g14−g23≠0
である場合に逆変換されることができる。これは、関数g1...g4の適切な選択により達成されることができる。
【0079】
本発明の他の応用は、前記デコーダ側のみにおいて前記ステレオ信号に前記後処理演算を実行することである(即ち、前記エンコーダ側における後処理無し)。このアプローチを使用して、前記デコーダは、強化されていない(non-enhanced)ステレオ信号から強化されたステレオ信号を生成することができる。前記デコーダ側におけるこの後処理演算のみが、前記エンコーダにおいて多チャネル入力信号が単一の(モノ)信号及び関連した空間的パラメータに復号される状況において更に詳述されることができる。前記デコーダにおいて、前記モノ信号は、まず(前記空間的パラメータを使用して)ステレオ信号に変換されることができ、この後に、このステレオ信号が、上述のように後処理されることができる。代わりに、前記モノ信号は、多チャネルデコーダにより直接的に復号されることができる。
【0080】
動詞"有する"及びその活用形の使用が他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞"1つの"の使用は、複数の要素又はステップを除外しないことに注意すべきである。更に、請求項内の参照符号は、前記請求項の範囲を限定するように解釈されるべきでない。
【0081】
本発明は、特定の実施例を参照して記載されている。しかしながら、本発明は、記載された様々な実施例に限定されず、本明細書を読んでいる当業者に明らかなように、異なる形で修正され、組み合わされることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nチャネルオーディオ信号を第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号及び空間的パラメータに符号化するエンコーダから得られるステレオ信号を処理する方法において、前記方法が、
第1の信号及び第3の信号を加算して第1の出力信号を得るステップであって、前記第1の信号が、第1の複素関数により修正された前記第1のステレオ信号を有し、前記第3の信号が、第3の複素関数により修正された前記第2のステレオ信号を有する、当該第1の出力信号を得るステップと、
第2の信号及び第4の信号を加算して第2の出力信号を得るステップであって、前記第4の信号が、第4の複素関数により修正された前記第2のステレオ信号を有し、前記第2の信号が、第2の複素関数により修正された前記第1のステレオ信号を有する、当該第2の出力信号を得るステップと、
を有し、
前記第1の関数が、第1の関数部分及び第2の関数部分を有し、前記空間的パラメータが、前記第1のステレオ信号における前記リアチャネルの寄与が前記第1のステレオ信号における前記フロントチャネルの寄与と比較して増大することを示す場合に、前記第2の関数部分の出力が増大し、前記第2の関数部分が、プラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有する、
方法。
【請求項2】
前記Nチャネルオーディオ信号が、フロントチャネル信号及びリアチャネル信号を有し、前記空間的パラメータが、前記ステレオダウンミックス内の前記フロントチャネルの寄与と比較した前記ステレオダウンミックス内の前記リアチャネルの相対的寄与の尺度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の複素関数の大きさが、前記第1の複素関数の大きさより小さく、及び/又は前記第3の複素関数の大きさが、前記第4の複素関数の大きさより小さい、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の複素関数及び/又は前記第3の複素関数が、プラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記第4の関数が、第3の関数部分及び第4の関数部分を有し、前記空間的パラメータが、前記第2のステレオ信号における前記リアチャネルの寄与が前記第2のステレオ信号における前記フロントチャネルの寄与と比較して増大することを示す場合に、前記第4の関数部分の出力が増大し、前記第4の関数部分が、プラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の関数部分が、前記第4の関数部分と比較して反対の符号を持つ、請求項1に
記載の方法。
【請求項7】
前記第2の関数が、前記第3の関数と比較して反対の符号を持つ、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の関数及び前記第4の関数部分が同じ符号を持ち、前記第3の関数及び前記第2の関数部分が同じ符号を持つ、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
Nチャネルオーディオ信号を第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号及び空間的パラメータに符号化するエンコーダから得られるステレオ信号を処理するデバイスにおいて、前記デバイスが、
第1の信号及び第3の信号を加算して第1の出力信号を得る第1の加算手段であって、前記第1の信号が、第1の複素関数により修正された前記第1のステレオ信号を有し、前記第3の信号が、第3の複素関数により修正された前記第2のステレオ信号を有する、当該第1の加算手段と、
第2の信号及び第4の信号を加算して第2の出力信号を得る第2の加算手段であって、前記第4の信号が、第4の複素関数により修正された前記第2のステレオ信号を有し、前記第2の信号が、第2の複素関数により修正された前記第1のステレオ信号を有する、当該第2の加算手段と、
を有し、
前記第1の関数が、第1の関数部分及び第2の関数部分を有し、前記空間的パラメータが、前記第1のステレオ信号における前記リアチャネルの寄与が前記第1のステレオ信号における前記フロントチャネルの寄与と比較して増大することを示す場合に、前記第2の関数部分の出力が増大し、前記第2の関数部分が、プラスマイナス90度に実質的に等しい位相シフトを有する、
デバイス。
【請求項10】
Nチャネルオーディオ信号を第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号並びに空間的パラメータに符号化するエンコーダと、
前記ステレオダウンミックス信号を処理する請求項9に記載のデバイスと、
を有するエンコーダ装置。
【請求項11】
第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号を処理する方法において、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法による処理演算を逆変換するステップを有する方法。
【請求項12】
第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号を処理するデバイスにおいて、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法による処理演算を逆変換する手段を有するデバイス。
【請求項13】
第1のステレオ信号及び第2のステレオ信号を有するステレオダウンミックス信号を処理する請求項12に記載のデバイスと、
前記処理されたステレオ信号をNチャネルオーディオ信号に復号するデコーダと、
を有するデコーダ装置。
【請求項14】
請求項10に記載のエンコーダ装置と請求項13に記載のデコーダ装置とを有するオー
ディオシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−39535(P2011−39535A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207979(P2010−207979)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【分割の表示】特願2007−520943(P2007−520943)の分割
【原出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【出願人】(506427990)コディング テクノロジーズ エイビー (24)