説明

旋盤

【課題】 ワークの基準孔等の特徴形状部の回転位置を、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を使用して検出でき、配線系も簡素なものとできる旋盤を提供する。
【解決手段】 検出用の棒状等の接触子24を刃物台3に取付ける。特徴形状部回転位置検出手段27を制御装置2に設ける。この手段27は、接触子24が定められ位置に来たことを示す信号に応答して、主軸モータ11を回転させながら主軸トルク検出手段19のトルクを監視する。このトルクが設定値以上になると、このときに回転位置検出手段16が検出した回転位置を特徴形状部Hの回転位置として記憶する。特徴形状部Hが孔である場合は、主軸6を正逆に回転させて孔内面の2か所の位置を測定し、その平均から孔の中心を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワークの定められた回転位置で加工を行う機能を備えたタレット旋盤等の旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
タレット旋盤等の多数の工具が装着可能な旋盤では、ワークの孔明けやタップ加工等が行えるものがある。このような孔明けやタップ加工を行う際に、ワークに孔や切欠などの基準位置となる特徴形状部を利用することがある。このような特徴形状部の回転位置を知るために、従来では、タッチスイッチ等をタレット等の刃物台に搭載し、主軸を回転させてその回転位置(回転方向の座標)を検出している(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−309651号公報
【特許文献2】特開平05−061511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のタッチスイッチを刃物台に搭載した構成では、専用の検出器であるタッチスイッチが必要となるうえ、その配線が必要となる。この配線は、移動や回転する刃物台に搭載されたタッチスイッチと位置固定の制御装置との間に設けられるため、煩雑な配線系となり、断線の恐れもある。固定部と可動部の間で光等を媒体とするワイヤレスの通信手段を用いることも可能であるが、工作機械では油汚れ等で通信不良が生じる恐れがある。
【0005】
この発明の目的は、ワークの基準位置等の特徴形状部の回転位置を、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を利用して検出でき、配線系も簡素なものとできる旋盤を提供することである。
この発明の他の目的は、前記特徴形状部が特定の回転位置にあることを、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を利用して検出でき、配線系も簡素なものとできるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、前記特徴形状部が孔である場合に、その中心の回転位置を簡易な構成で検出可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の旋盤は、ワーク(W)を支持して回転させる主軸(6)、およびこの主軸(6)に対して主軸軸心方向および主軸軸心(O)に直交する方向に相対的な送り移動が可能に設けられて工具(22)が装着される刃物台(3)と、前記主軸(6)を回転させる主軸モータ(11)および前記主軸(6)又は刃物台(3)の前記送り移動を行わせる送りモータ(12,14)を制御する制御装置(2)とを備えた旋盤において、
前記刃物台(3)に、前記主軸(6)に支持されたワーク(W)に接触させる検出用の接触子(24)を設け、
前記主軸(6)の回転位置を検出する回転位置検出手段(16)を設け、
前記主軸モータ(11)のトルクを検出する主軸トルク検出手段(19)を設け、
前記ワーク(W)の特徴形状部(H)の回転位置を検出する特徴形状部回転位置検出手段(27)を設け、
この特徴形状部回転位置検出手段(27)は、前記主軸(6)又は刃物台(3)の送り相対移動により前記接触子(24)が前記ワーク(W)の特徴形状部(H)の回転位相を検出可能な送り位置にあるときに、前記主軸モータ(11)を回転させながら前記主軸トルク検出手段(19)のトルクを監視し、このトルクの変化により前記接触子(24)とワーク(W)の特徴形状部(H)の接触を検出し、このときの前記回転位置検出手段(16)が検出した回転位置に基づいて前記特徴形状部(H)の回転位置を記憶する。
【0007】
この構成によると、刃物台(3)の相対移動で接触子(24)が定められ位置に来ると、例えば特徴形状部(H)が孔である場合にその孔内に接触子(24)が来ると、特徴形状部回転位置検出手段(27)は、主軸モータ(11)を回転させながら前記主軸トルク検出手段(19)の検出するトルクを監視する。この検出されたトルクに定められた変化、例えばトルクが設定値以上になったことが検出されると、このときに前記回転位置検出手段(16)が検出した回転位置を前記特徴形状部(H)の回転位置として記憶する。
このように、タッチセンサ等の特別なセンサ類を用いることなく、主軸モータ(11)の回転位置検出手段(16)や主軸トルク検出手段(19)で検出することができる。これら回転位置検出手段(16)や主軸トルク検出手段(19)は、数値制御式の旋盤では、位置フィードバックや電流フィードバックによる高精度な加工制御のために通常に備えられており、この通常に備えられている各検出手段を用いて特徴形状部(H)の回転位置が検出できる。また、前記回転位置検出手段(16)や主軸トルク検出手段(19)は、旋盤の固定部分に設置されているため、配線系も簡易なもので済む。上記のように、ワーク(W)の基準位置等の特徴形状部(H)の回転位置を、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を使用して検出でき、配線系も簡素なものとできる。
なお、前記回転位置検出手段(16)は、主軸モータ(11)に装備されているパルスコーダやエンコーダ等が使用できる。
【0008】
この発明において、前記送りモータ(12,14)のトルクを検出する送りモータトルク検出手段(20,21)を設け、前記ワーク(W)の特徴形状部(H)が特定位置に存在することを検出する特徴形状部存在検出手段(26)を設けても良い。
前記特徴形状部存在検出手段(26)は、前記主軸(6)に支持されたワーク(W)の前記特徴形状部(H)が主軸(6)の回転によって成す軌跡の中に前記接触子(24)が位置するように前記送りモータ(12,14)を駆動させた後、前記主軸モータ(11)によりワーク(W)を回転させながら前記送りモータトルク検出手段(20,21)の主軸軸心方向のトルクを監視し、このトルクの変化により前記特徴形状部がワーク(W)の特定の回転位置に存在することを検出する。
【0009】
この構成の場合、前記接触子(24)が前記特定位置に来るように刃物台(3)を相対移動させた後、ワーク(W)を回転させながら、刃物台移動トルク検出手段(20,21)の検出トルクを監視する。この検出トルクに定められた変化が生じたことが検出されたことで前記特徴形状部(H)が主軸(6)の特定の回転位置に存在することを検出する。例えば、特徴形状部(H)が孔である場合、接触子(24)をワーク(W)に押し当てた状態でワーク(W)を回転させると、接触子(24)が特徴形状部(H)である孔に来たときに、孔内に嵌まり込み、刃物台(3)をワーク(W)に押し当てる駆動を行っている送りモータ(12,14)のトルクが急激に低下する。このトルクの急低下により、孔内に接触子(24)が嵌まり込んだこと、つまり特徴形状部(H)が特定の回転位置にあることが検出できる。
このように、特徴形状部(H)が特定の回転位置にあることも、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を使用して検出でき、配線系も簡単で済む。
【0010】
この発明において、前記ワーク(W)の前記特徴形状部(H)が軸方向に形成された孔であり、前記特徴形状部回転位置検出手段(27)は、前記主軸モータ(11)を正回転及び逆回転させて孔の内側面の回転方向両側の回転位置を記憶し、これら2つの記憶された回転位置から、前記特徴形状部(H)である孔の中心の回転位置を求めるようにしても良い。
この構成の場合、特徴形状部(H)が孔である場合に、2点の測定よって、その中心の回転位置を簡易な構成で検出することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の旋盤は、ワークを支持して回転させる主軸、およびこの主軸に対して主軸軸心方向および主軸軸心に直交する方向に相対的な送り移動が可能に設けられて工具が装着される刃物台と、前記主軸を回転させる主軸モータおよび前記主軸又は刃物台の前記送り移動を行わせる送りモータを制御する制御装置とを備えた旋盤において、前記刃物台に、前記主軸に支持されたワークに接触させる検出用の接触子を設け、前記主軸の回転位置を検出する回転位置検出手段を設け、前記主軸モータのトルクを検出する主軸トルク検出手段を設け、前記ワークの特徴形状部の回転位置を検出する特徴形状部回転位置検出手段を設け、この特徴形状部回転位置検出手段は、前記主軸又は刃物台の送り相対移動により前記接触子が前記ワークの特徴形状部の回転位相を検出可能な送り位置にあるときに、前記主軸モータを回転させながら前記主軸トルク検出手段のトルクを監視し、このトルクの変化により前記接触子とワークの特徴形状部の接触を検出し、このときの前記回転位置検出手段が検出した回転位置に基づいて前記特徴形状部の回転位置を記憶するため、ワークの基準位置等の特徴形状部の回転位置を、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を使用して検出でき、配線系も簡素なものとできる。
【0012】
前記送りモータのトルクを検出する送りモータトルク検出手段を設け、前記ワークの特徴形状部が特定位置に存在することを検出する特徴形状部存在検出手段を設け、前記特徴形状部存在検出手段は、前記主軸に支持されたワークの前記特徴形状部が主軸の回転によって成す軌跡の中に前記接触子が位置するように前記送りモータを駆動させた後、前記主軸モータによりワークを回転させながら前記送りモータトルク検出手段の主軸軸心方向のトルクを監視し、このトルクの変化により前記特徴形状部がワークの特定の回転位置に存在することを検出する場合は、前記特徴形状部が特定の回転位置にあることについても、特別なセンサ類を用いることなく、加工の制御に通常に使用されているセンサ類を使用して検出でき、配線系も簡素なものとできる。
【0013】
前記ワークの前記特徴形状部が軸方向に形成された孔であり、前記特徴形状部回転位置検出手段は、前記主軸モータを正回転及び逆回転させて孔の内側面の回転方向両側の回転位置を記憶し、これら2つの記憶された回転位置から、前記特徴形状部である孔の中心の回転位置を求める場合は、前記特徴形状部が孔である場合に、その中心の回転位置を簡易な構成で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態に係る旋盤の旋盤本体とその制御系の概念構成を示すブロック図である。
【図2】同旋盤の旋盤本体の平面図である。
【図3】同旋盤の旋盤本体の正面図である。
【図4】(A)(B)はそれぞれ、同旋盤で加工するワークの一例および検出動作を示す各動作状態の正面図である。
【図5】同旋盤で加工するワークの他の例を示す斜視図である。
【図6】同旋盤で加工するワークのさらに他の例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この旋盤は、機械部分である旋盤本体1と、この旋盤本体1を制御する制御装置2とでなる。旋盤本体1は、図2,図3に示すように、ベッド4と、このベッド4上に搭載されて主軸6を回転自在に支持する主軸台5と、タレット型の刃物台3とを備える。刃物台3は正面形状が多角形状であり、外周面の各平面部分からなる工具ステーションに工具22が取付けられている。工具22としては、バイトの他に、ドリルやタップ工具、ミリングヘッド等の回転工具(いずれも図示せず)が取付けられている。主軸6は、ワークWを把持するチャック6aが先端に取付けられ、主軸モータ11によって回転駆動される。チャック6aはチャック爪6aaを有する。
【0016】
ベッド4上の主軸台5の側方には、案内レール7を介して送り台8が設置され、この送り台8に、前記刃物台3が搭載されている。送り台8は、案内レール7上で主軸6の軸心Oと直交する方向(X軸方向)に移動自在な送り台ベース部8aと、この送り台ベース部8aに、主軸6の軸心Oに沿う方向である前後方向(Z軸方向)に移動自在に搭載された送り台上側部8bとでなり、この送り台上側部8bにタレット軸10を介して前記タレット型の刃物台3が旋回自在に設置されている。送り台ベース部8aは、X軸方向の送りモータ12により、ボールねじ機構13を介してX軸方向に進退させられる。送り台上側部8bは、Z軸方向のモータ14により、ボールねじ機構15を介してZ軸方向に進退させられる。これら送り台ベース部8aおよび送り台上側部8bの移動により、刃物台3は主軸6に対して直交2軸方向に進退駆動される。刃物台3の旋回駆動は、送り台上側部8bに搭載されたモータ(図示せず)により行われる。
【0017】
主軸6を回転駆動する主軸モータ11、および刃物台3の移動用の各軸の送りモータ12,14は、それぞれ回転位置検出手段16,17,18が設けられており、またこれらの主軸モータ11および送りモータ12,14の電源配線に、電流計からなる主軸トルク検出手段19および送りモータトルク検出手段20,21がそれぞれ設けられている。回転位置検出手段16,17,18は、インクリメンタル式のパルスコーダであっても良く、またアブソリュート式のエンコーダであっても良い。
【0018】
この実施形態の旋盤は、上記構成において、刃物台3の一つの工具ステーションに接触子24を設けると共に、図1の制御装置2に特徴形状部存在検出手段26、および特徴形状部回転位置検出手段27を設けたものである。
【0019】
加工対象となるワークWは、例えば、加工を行うための円周方向の位置についての基準となる特徴形状部Hを有するものである。特徴形状部Hは、凹部であっても凸部であっても良いが、ワークWの円周方向の位置決めの基準となり、他の部分との区別が可能な形状の部分である。ワークWの具体例を挙げると、図4(A)に示すように、円柱状であって、端面に基準孔となる円形の特徴形状部Hがあり、この特徴形状部Hである基準孔の円の中心から、ワーク中心回りに円周方向に所定の角度αだけ離れたワーク周面位置に加工予定部B(図4(B))(図示の例では、他の加工予定部Bはタップ加工を行う下孔)が存在するものである。
【0020】
図1,図2において、接触子24は、この例では、主軸軸心Oと平行な方向に延びる鋼製等の棒状の部品であり、接触子ホルダ28を介して刃物台3に取付けられている。接触子24の先端部24aは、球面状のボール部としてある。この接触子24は、ワークWの端面に設けられた基準孔となる特徴形状部Hの検出用である。なお、ワークWの周面に設けられた基準孔となる特徴形状部H(図5)を検出するには、接触子24は主軸軸心Oと直交する方向に延びる形状とされる。
【0021】
図1と共に制御系を説明する。制御装置2は、コンピュータ式の数値制御装置であり、コンピュータのハードウェア(オペレーションプログラムを含む)と、これに実行されるNCコード等からなる加工プログラム(図示せず)とで、同図に示す加工制御手段25、特徴形状部存在検出手段26、および特徴形状部回転位置検出手段27が構成される。前記加工プログラムは、旋盤本体1に加工を行わせるプログラム部分と検出動作を行わせるプログラム部分とを有し、加工を行わせるプログラムで前記加工制御手段25が、検出動作を行わせるプログラム部分で前記各検出手段26,27がそれぞれ構成される。なお、制御装置2は、刃物台3を移動させる各軸の移動指令(X軸,Z軸の送りモータ12,14に対する移動指令)、および主軸モータ11の回転指令に対して、位置フィードバック制御を行う手段(図示せず)を有している。
【0022】
加工制御手段25は、刃物台3の各軸方向の移動や、主軸6の回転、および刃物台3に設けられた回転工具の制御を行い、各工具によるワークWの加工を制御する手段である。図4(A)のワークWの場合、加工制御手段25は、ワークWの外周面に位置する加工予定部Bである下孔にタップ加工を行うように、刃物台3の各軸方向の移動、主軸6の回転、および刃物台3に取付けられたタップ工具(図示せず)の制御を行う。
【0023】
特徴形状部存在検出手段26は、ワークWの特徴形状部Hが特定位置に存在することを検出する手段である。図示の例では、特徴形状部Hは、上記のようにワークWの端面にワーク中心を外れて設けられた基準孔となる円形の孔である。前記特定位置は、主軸6の軸心に対して刃物台3側となる水平となる角度位置である。
特徴形状部存在検出手段26は、主軸6に支持されたワークWの特徴形状部Hが主軸6の回転によって成す軌跡R(図4)の中に前記接触子24が位置するように、刃物台3の相対移動を行わせる各軸の送りモータ12,14を駆動させる。図4の例では前記軌跡Rは、一点鎖線のハッチングを付して示すように、ワーク中心回りの環状の領域である。この例の場合、刃物台3を移動させる各軸送りモータ12,14の駆動により、接触子24をワークWの端面に軌跡R内で位置させ、押し付け状態を維持させる。この押し付けは、例えば、Z軸のモータ14に対して、ワークWの端面位置よりも奥側の目標位置に位置させる指令値を与えることで行う。
【0024】
図1の特徴形状部存在検出手段26は、この押し付けの後、主軸6を回転させる主軸モータ11の駆動によりワークWを回転させながら、Z軸の送りモータトルク検出手段21の検出トルクを監視する。この検出トルクに定められた変化が生じたことが検出されたことで、特徴形状部Hが主軸6の特定の回転位置に存在すること検出する。上記ワークWの回転は、検出信号に応答して即座に停止できるように、トルク制限を掛けて微速で行わせ、送りモータトルク検出手段21により前記変化が検出されると、ワークWの回転を停止させる。上記の「定められた変化」は、この例では検出トルクの設定値以下への低下、または検出トルクの急低下である。特徴形状部Hが孔である場合、ワークWの回転によって接触子24がその孔内に嵌まり込むと、Z軸モータ14のトルクは急低下する。この急低下を送りモータトルク検出手段21検出する。
【0025】
特徴形状部回転位置検出手段27は、刃物台3の相対移動で前記接触子24が定められ位置に来たことを示す信号、具体的には、特徴形状部存在検出手段26による特徴形状部Hの存在確認が終了した信号、つまり前記Z軸モータ14のトルク低下の検出信号に応答して、主軸モータ11を回転させながら主軸トルク検出手段19の検出トルクを監視する。主軸モータ11の回転は、検出信号に応答して即座に停止できるように、トルク制限を掛けて微速で行わせる。この監視時に、検出トルクに定められた変化、例えば検出トルクが設定値を超えたこと、または検出トルクの急増が検出されると、このときに前記回転位置検出手段16が検出した回転位置を特徴形状部Hの回転位置として記憶する。
【0026】
ワークWの特徴形状部Hが孔である場合、特徴形状部回転位置検出手段27は、前記のように検出トルクに前記の定められた変化が生じたことが検出されると、この検出時の回転位置検出手段16が検出した回転位置を記憶した後、主軸モータ11を逆方向に回転させながら、主軸トルク検出手段19の検出トルクを監視する。このときも、主軸モータ11の回転は、検出信号に応答して即座に停止できるように、トルク制限を掛けて微速で行わせる。前記検出トルクに定められた変化が生じたことが検出されると、このときの前記回転位置検出手段16が検出した回転位置を記憶し、これら2つの記憶された回転位置から、前記特徴形状部Hである孔の中心の回転位置を求める。
【0027】
なお、特徴形状部存在検出手段26および特徴形状部回転位置検出手段27のより具体的な機能は、次の動作説明と共に説明する。
【0028】
上記構成の動作を説明する。ワークWは図4(A)と共に前述したものとする。ワークWが主軸6に支持されると、加工開始に先立って、特徴形状部存在検出手段26の制御による検出モードである特徴形状部検出モードとなる。このとき、特徴形状部Hの回転位置は不明である。
特徴形状部検出モードでは、接触子24が、主軸6に支持されたワークWの端面における特徴形状部Hの軌跡Rの中に位置するように、刃物台3をX軸方向に移動させる。なおこのとき、特徴形状部Hの回転位置が前記特定位置(刃物台3に対向する水平方向の位置)にあるときの特徴形状部Hである孔の中心位置のX座標(ワーク中心から孔中心までの半径)は既知であり、この既知のX座標へ刃物台3をX軸方向に移動させる。その後、刃物台3をZ軸方向に移動させる。このZ軸方向への移動はトルク制限を掛けて、目標位置まで移動させ続ける。設定時間までに目標位置まで達しない場合は、接触子24が特徴形状部Hである孔と位相がずれていてワーク端面で停止し、ワーク端面を押し付けている場合である。このときは、そのままZ軸方向へ押し続け、主軸6を回転させる。
【0029】
ワークWの回転により特徴形状部Hが接触子24の位置まで旋回移動すると、接触子24が特徴形状部Hである孔内に嵌まり込むように刃物台3のZ軸移動が開始するので、即座に主軸モータ11の回転を停止させ、Z軸移動の完了を待つ。これにより、特徴形状部Hが特定位置に存在することが確認される。
【0030】
前述の最初に軌跡Rの中で接触子24をZ軸方向に移動させたときに、設定時間までに目標位置に達したときは、接触子24が特徴形状部Hである孔内に位置している場合である。この場合は、主軸6の回転は行わせず、Z軸方向の目標位置に達したことの検出で、特徴形状部Hが特定位置に存在することが確認される。
【0031】
このように特徴形状部Hが特定位置に存在が確認されると、特徴形状部回転位置検出手段27の制御による回転位置検出モード、つまり基準座標算出モードとなる。
回転位置検出モードでは、接触子24が特徴形状部Hである孔内に入った状態から、主軸モータ11にトルク制限を掛けながら、主軸6を順次正転および逆転させ、それぞれの回転時に主軸トルク検出手段19が設定トルクに達したときの回転位置検出手段16の検出位置を読み取る。
【0032】
つまり、主軸6を正転させ、接触子24が特徴形状部Hである孔の内面に当たると、それ以上は回転できなくなって主軸トルク検出手段19が増大するため、トルクが設定値に達したことを検出して、そのときの回転位置検出手段16の検出位置を読み取って記憶すると共に、回転を停止させ、逆回転させる。逆回転によって接触子24が特徴形状部Hである孔の反対側の内面に当たると、それ以上は回転できなくなって主軸トルク検出手段19が増大するため、トルクが設定値に達したことを検出して、そのときの回転位置検出手段16の検出位置を読み取って記憶する。
【0033】
ついで、2つの記憶された回転位置から、徴形状部Hである孔の中心の回転位置を、両回転位置の平均値等として計算し、記憶する。このように求められた特徴形状部Hの中心の回転位置が、ワークWの円周方向の基準位置である。
【0034】
加工制御手段25は、上記のようにして求められた基準位置を用い、加工予定部Bの加工、例えば下孔に対するタップ加工を行うように旋盤本体1を制御する。
【0035】
この構成の旋盤によると、上記のようにして、ワークWの基準位置等の特徴形状部Hが特定の回転位置にあること、および特徴形状部Hの回転位置(回転方向の座標)を、タッチスイッチ等の特別なセンサ類を用いることなく、単なる鉄の棒等からなる接触子24と、加工の制御に通常に使用されている回転位置検出手段16や主軸トルク検出手段19を使用して検出することができる。また、刃物台3にセンサ類が不要なため、配線系も簡素なものとできる。
【0036】
なお、上記の例では特徴形状部HがワークWの端面の孔である場合につき説明したが、図5のように特徴形状部HがワークWの周面の孔である場合にも適用できる。その場合、Z軸方向の送りモータトルク検出手段21に代えて、X軸方向の送りモータトルク検出手段26を用いることになるが、上記と同様にして特徴形状部Hが特定の回転位置にあること、および特徴形状部Hの位置を検出することができる。
さらに、特徴形状部Hが孔である場合に限らず、例えば図6に示すワークWにおける、螺旋状の溝Gの内端部が特徴形状部Hである場合等にも、その存在および位置の回転の検出を行うことができる。また、特徴形状部Hが突出部分である場合も、この発明を適用することができる。
また、この発明は、主軸6に対する刃物台3のいずれか一方向または両方向の相対移動を、主軸台5の移動によって行う旋盤にも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…旋盤本体
2…制御装置
3…刃物台
4…ベッド
5…主軸台
6…主軸
8…送り台
8a…送り台ベース部
8b…送り台上側部
11…主軸モータ
12,14…送りモータ
16,17,18…回転位置検出手段
19…主軸トルク検出手段
20,21…送りモータトルク検出手段
22…工具
24…接触子
25…加工制御手段
26…特徴形状部存在検出手段
27…特徴形状部回転位置検出手段
B…加工予定部
H…特徴形状部
O…主軸軸心
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを支持して回転させる主軸、およびこの主軸に対して主軸軸心方向および主軸軸心に直交する方向に相対的な送り移動が可能に設けられて工具が装着される刃物台と、前記主軸を回転させる主軸モータおよび前記主軸又は刃物台の前記送り移動を行わせる送りモータを制御する制御装置とを備えた旋盤において、
前記刃物台に、前記主軸に支持されたワークに接触させる検出用の接触子を設け、
前記主軸の回転位置を検出する回転位置検出手段を設け、
前記主軸モータのトルクを検出する主軸トルク検出手段を設け、
前記ワークの特徴形状部の回転位置を検出する特徴形状部回転位置検出手段を設け、
この特徴形状部回転位置検出手段は、前記主軸又は刃物台の送り相対移動により前記接触子が前記ワークの特徴形状部の回転位相を検出可能な送り位置にあるときに、前記主軸モータを回転させながら前記主軸トルク検出手段のトルクを監視し、このトルクの変化により前記接触子とワークの特徴形状部の接触を検出し、このときの前記回転位置検出手段が検出した回転位置に基づいて前記特徴形状部の回転位置を記憶する旋盤。
【請求項2】
前記送りモータのトルクを検出する送りモータトルク検出手段を設け、
前記ワークの特徴形状部が特定位置に存在することを検出する特徴形状部存在検出手段を設け、
前記特徴形状部存在検出手段は、前記主軸に支持されたワークの前記特徴形状部が主軸の回転によって成す軌跡の中に前記接触子が位置するように前記送りモータを駆動させた後、前記主軸モータによりワークを回転させながら前記送りモータトルク検出手段の主軸軸心方向のトルクを監視し、このトルクの変化により前記特徴形状部がワークの特定の回転位置に存在することを検出する請求項1記載の旋盤。
【請求項3】
前記ワークの前記特徴形状部が軸方向に形成された孔であり、
前記特徴形状部回転位置検出手段は、前記主軸モータを正回転及び逆回転させて孔の内側面の回転方向両側の回転位置を記憶し、これら2つの記憶された回転位置から、前記特徴形状部である孔の中心の回転位置を求める請求項1または請求項2記載の旋盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94899(P2013−94899A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239898(P2011−239898)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】