説明

既設マンホールの耐震補強方法

【課題】周辺地盤の液状下によるマンホールの浮上り等を防止できるようにした既設マンホールの耐震補強方法を提供する。
【解決手段】周囲を埋め戻して地盤中に敷設された既設マンホール1の周辺の地盤中に恒久グラウト材を注入する。前記の既設マンホール1の周囲に以下の条件を充足する固結体4を形成する。マンホール1の自重(W)+固結体4の自重(Ws)≧静水による揚げ圧力(Us)+周辺地盤の液状化による揚圧力(Ud)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設マンホールの耐震補強方法に関し、主として地震時の液状化によるマンホールの浮上り等を防止することができる。
【背景技術】
【0002】
マンホールは、下水管(管渠)などを管理していくために地中に構築される上被りを持たない縦長のコンクリート構造物であり、一般に、例えば図2に図示するように砕石を一定の層厚に締め固めて基礎砕石10を構築し、その上に円筒形に成形されたマンホール11を柱状に組み上げ、その周囲を埋め戻して構築され、上端部の開口部には専用の鉄蓋12が取り付けられている。そして、このように構築されたマンホール11に下水管(管渠)13が接続されている。
【0003】
たった管路被害が非常に多く発生し、特に埋め戻し土の液状化によるマンホールの突出被害は甚大であった。
【0004】
マンホールは、一般に、マンホールの深さと地下水位にもよるが、自重だけでは地下水の浮力に耐え切れないことが知られている。また、マンホールに接続された下水管の強度はマンホールの強度より低く、径もマンホールより小さいため下水管が構造上の弱点とされている。
【0005】
このため、特に基礎砕石や埋め戻し土の締め固めが不充分だと、地震時に周辺地盤の過剰間隙水圧が上昇することにより土粒子間の有効応力が失われて泥水化する液状化が発生し、液状化した地盤では泥水より軽いものが浮上するため中空で見かけ比重の小さいマンホールは浮き上がってしまう。
【0006】
地盤中のマンホールは、一般にマンホールの重量(W)と、マンホールと周辺地盤間のせん断抵抗力(Qt)に対し、静水圧による揚圧力(Us)が釣り合っていることで地盤中に静止しているが、これに地震時の液状化によって揚圧力(Ud)が加わり、静水圧による揚圧力(Us)と地震時の液状化による揚圧力(Ud)の和がマンホールの重量(W)と、マンホールと地盤間のせん断抵抗力(Qt)を上まるとマンホールが浮き上がる。液状化時の(Qt)は土粒子間の有効応力が低下することにより著しく低下する。
【0007】
液状化によるマンホールの浮上り防止対策には、局所的な液状化を防止する必要があるが、従来の液状化防止対策としては、レキや砕石類を埋め戻し土として利用し、地震時に発生する間隙水圧の上昇を抑制する過剰間隙水圧消散工法、埋め戻し土にセメントを混合した改良土を利用する事前混合処理工法、さらにセメントと原地盤を撹拌混合し、土粒子間を結合し液状化を防ぐセメント系噴射・撹拌工法などが知られている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−155273号公報
【特許文献2】特開2007−120104号公報
【特許文献2】特開2008−2175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
過剰間隙水圧消散工法は、下水管(管渠)とその周辺の埋め戻し土が点接触するため、埋め戻しの際や地震時に応力集中により下水管が破損するおそれがあった。
【0010】
また、既存のマンホール周辺の地盤を開削して施工する必要があるため、比較的広い作業スペースを必要とするだけでなく、長期にわたる交通規制を強いられた。
【0011】
一方、事前処理工法やセメント系噴射・拡販工法は、いずれも、改良部の地盤剛性が大きくなると、地震時の揺れ方が未改良部と異なり、特に下水管(管渠)に過大な曲げやせん断が作用するおそれがあった。
【0012】
また、マンホール周辺の地盤を開削して施工する必要があり、しかも大型重機を使用するため、前記と同様に比較的広い作業スペースを必要とするだけでなく、長期にわたる交通規制を強いられた。
【0013】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、周辺地盤の液状化によるマンホールの浮上りを防止できるようにした既設マンホールの耐震補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の既設マンホールの耐震補強方法は、周囲を埋め戻して地盤中に敷設された既設マンホールの耐震補強方法であって、既設マンホール周辺の地盤中に恒久グラウト材を注入することにより、前記既設マンホールの周囲に以下の条件を満たす固結体を形成することを特徴とするものである。マンホールの自重(W)+固結体の自重(Ws)≧静水による揚げ圧力(Us)+周辺地盤の液状化による揚圧力(Ud)
【0015】
本発明は、既設マンホールの周囲に恒久グラウト材を注入して既設マンホールの周囲に上記条件を充足する固結体を形成することにより、マンホールの見掛け比重を重くして周辺地盤の液状化による揚圧力(Ud)に対し充分な抵抗力を既設マンホールに持たせることで、液状化による既設マンホールの浮上りを未然に防止するようにしたものである。
【0016】
恒久グラウト材には、水ガラス注入材の劣化要因とされるNaをイオン交換法によって除去し、増粒した活性シリカをベースとして得られる恒久性のあるグラウト材が特に適し、当該恒久グラウト材を周辺地盤を乱すことなく土粒子間浸透させることによりマンホールの周辺地盤を一定範囲に渡って固結体に改良することができる。
【0017】
また、当該グラウト材は特にマスキング効果を有するため、コンクリート表面の金属イオンを不動態化し、不溶性の被膜を形成することによりコンクリートへのイオンの侵入やコンクリートからのイオンの溶出を防止する効果があるため、既存のマンホールの耐震補強に適しているといえる。
【0018】
さらに、グラウト材の注入には、マルチパッカ注入工法やエキスパッカ注入工法などを用いることができ、いずれの注入工法も既設マンホールの周囲を開削しないで施工が可能ため、狭い施工用地での施工が可能であり、また短い工期で行なうことができる。また、グラウト材は周辺地盤の地下水面下に注入すればよいが、地下水面より上方にも注入してもよい。
【0019】
請求項2記載の既設マンホールの耐震補強方法は、請求項1記載の既設マンホールの耐震補強方法において、既設マンホール周辺の埋め戻し土が請求項1の条件を充足するように固結体を形成することを特徴とするものである。
【0020】
本発明は、特に既設マンホール周辺の埋め戻し土にのみ液状化のおそれがある場合に備えたものである。
【0021】
請求項3記載の既設マンホールの耐震補強方法は、請求項1記載の既設マンホールの耐震補強方法において、既設マンホール周辺の埋め戻し土およびその外側に位置する原地盤の双方が請求項1の条件を充足するように固結体を形成することを特徴とするものである。
【0022】
請求項4記載の既設マンホールの耐震補強方法は、請求項1〜3のいずれか1に記載の既設マンホールの耐震補強方法において、恒久グラウト材は非アルカリ性シリカ溶液であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項5記載の既設マンホールの耐震補強方法は、請求項4記載の既設マンホールの耐震補強方法において、非アルカリシリカ溶液は、金属イオン封鎖剤を含むシリカ溶液であることを特徴とするものである。
【0024】
請求項6記載の既設マンホールの耐震補強方法は、請求項1〜5のいずれか1に記載の既設マンホールの耐震補強方法において、固結体の設計強度は80〜100KPaであって、液状化強度比は0.2〜0.5であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、既設マンホールの周囲に恒久グラウト材を注入して既設マンホールの周囲に下記条件を充足する固結体を形成することにより、マンホールの見掛け比重を重くして周辺地盤の液状化による揚圧力(Ud)に対し充分な抵抗力を既設マンホールに付与することで、液状化による既設マンホールの浮上りを防止することができる。マンホールの自重(W)+固結体の自重(Ws)≧静水による揚げ圧力(Us)+周辺地盤の液状化による揚圧力(Ud)
【0026】
また、本発明は、恒久グラウト材を注入するだけによる補強であり、既設マンホール周辺の地盤を開削する必要がないので、狭いスペースでも施工が可能であり、また短期間での施工が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1(a),(b)は、共に地盤中に周囲を埋め戻して敷設された既存のRC構造のマンホールを簡単に図示したものであり、図1(a)は周辺地盤を補強する前のマンホールの敷設状態を、図1(b)はグラウト材の注入により周辺地盤を補強した後のマンホールの敷設状態をそれぞれ図示したものである。
【0028】
図において、符号1は地盤中に敷設された既存のRC構造のマンホール、2はその周囲に充填された埋め戻し土、そして符号3は埋め戻し土2の外側に位置する原地盤である。また、図1(b)において特に符号4は、グラウト材の注入によって造成された埋め戻し土2と原地盤3からなる固結体を示す。
【0029】
グラウト材には、水ガラス注入材の劣化要因とされるNaをイオン交換法によって除去し、増粒した活性シリカをベースとして得られる恒久性のあるグラウト材が用いられている。
【0030】
当該グラウト材は特にマスキング効果を有し、このマスキング効果によりコンクリート表面の金属イオンを不動態化し、不溶性の被膜を形成することによりコンクリートへのイオンの侵入やコンクリートからのイオンの溶出を防止する効果があるため、既存のRC構造のマンホール1の耐震補強に非常に適しているといえる。
【0031】
また、当該グラウト材はマンホール1周囲の埋め戻し土2およびその外側に位置する原地盤3内に土粒子間浸透させて充填されている。この場合、特にマンホール1周囲の埋め戻し土2および原地盤3の双方に液状化のおそれがあるときは、地下水面下の埋め戻し土2と原地盤3の双方にグラウト材を注入して所定の固結体4を形成し、また、埋め戻し土2のみに液状化のおそれがあるときは、埋め戻し土2に対してのみグラウト材を注入して固結体(改良土)4をすればよい。
【0032】
また、グラウト材は、マンホールの自重(W)+改良土自重(Ws)≧静水による揚げ圧力(Us)+液状化による揚圧力(Ud)の条件を充足するように充填範囲を設定し、その範囲に注入することにより所定の固結体4を形成する。
【0033】
マンホール1周囲の埋め戻し土2および原地盤3内にグラウト材を注入するには、例えばマルチパッカ注入工法やエキスパッカ注入工法などを用いることができる。なお、上記条件でのグラウト材の注入が可能であれば、注入工法は特に限定されるものではない。
【0034】
例えば、マルチパッカ注入工法によってグラウト材をマンホール周辺の地盤中に注入するには、最初に既存のマンホール1の周囲の埋め戻し土2および原地盤3内にマルチパッカ内管を装着したマルチスリーブ外管を地下水面下まで挿入する。
【0035】
次に、マルチスリーブ外管内でマルチパッカ内管のパッカを地上からエアーを供給する等の方法によって膨張させる。そして、マルチスリーブ外管内のマルチパッカ内管を介して地上から上下パッカ間にグラウト材を圧入する。そうすると、上下パッカ間のグラウト材はマルチスリーブ外管の吐出口から周囲の埋め戻し土2および原地盤3内に浸透注入され、土粒子間の間隙水と置き換わる。
【0036】
なお、マルチパッカ注入工法は、瞬結、長結、単独注入、複合注入、さらには複段同時注入が可能であるのみならず、注入中の地表面へのリークも防止することができ、グラウト材を急速浸透させることができる。
【0037】
こうしてグラウト材を注入することにより造成された固結体4における土粒子間の間隙は、ゲル状のシリカに置換されて液状化の要因とされる間隙水がほとんどなくなり、しかも間隙のゲル化物により改良砂の付着力は増加する。このため、既設マンホール1の周辺地盤は地震の際でも液状化はせず、これにより液状化に伴なう既設マンホール1の浮上りを未然に防止することができる。
【0038】
なお、改良後の固結体4の一軸圧縮強度は100〜400KPaと比較的低強度である。また、固結体4の設計強度は80〜100KPa程度が目安であり、この強度は液状化強度比Rl 2.0=0.4程度で大きな液状化抵抗に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、地震時の周辺地盤の液状化による既設マンホールの浮上り等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】地盤中に周囲を埋め戻して敷設された既存のRC構造のマンホールを簡単に図示したものであり、図1(a)は周辺地盤を補強する前のマンホールの敷設状態を、図1(b)はグラウト材の注入により周辺地盤を補強した後のマンホールの敷設状態をそれぞれ図示したものである。
【図2】既存のマンホールの敷設状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 既設マンホール
2 埋め戻し土
3 原地盤
4 固結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲を埋め戻して地盤中に敷設された既設マンホールの耐震補強方法であって、既設マンホール周辺の地盤中に恒久グラウト材を注入することにより、前記既設マンホールの周囲に以下の条件を充足する固結体を形成することを特徴とする既設マンホールの耐震補強方法。マンホールの自重(W)+固結体の自重(Ws)≧静水による揚げ圧力(Us)+周辺地盤の液状化による揚圧力(Ud)
【請求項2】
マンホール周辺の埋め戻し土が請求項1の条件を満たすように固結体を形成することを特徴とする請求項1記載の既設マンホールの耐震補強方法。
【請求項3】
マンホール周辺の埋め戻し土およびその外側に位置する原地盤が請求項1の条件を充足するように固結体を形成することを特徴とする請求項1記載の既設マンホールの耐震補強方法。
【請求項4】
恒久グラウト材は非アルカリ性シリカ溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の既設マンホールの耐震補強方法。
【請求項5】
非アルカリシリカ溶液は金属イオン封鎖剤を含むシリカ溶液であることを特徴とする請求項4記載の既設マンホールの耐震補強方法。
【請求項6】
固結体の設計強度は80〜100KPaであって、液状化強度比は0.2〜0.5であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の既設マンホールの耐震補強方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−121343(P2010−121343A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295400(P2008−295400)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】