説明

日射量推定装置、日射量推定方法及びプログラム

【課題】少ない地点での観測値に基づいて日射量を推定することができるようにする。
【解決手段】日射量推定装置20は、基準地点11における日射量の測定値を記憶する測定値記憶部253を備える。日射量推定装置20は、期間m1での測定値の移動平均値f(t)と、期間m1よりも短い期間m2での測定値の移動平均値f(t)m2とを算出し、移動平均値f(t)及びf(t)m2の差を調整値α(√N<α<1)で割った商を移動平均値f(t)に加算し、f(t)を他の地点13の日射量の推定値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日射量推定装置、日射量推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題への意識の高まりなどから太陽光発電設備の設置が広まっている。太陽光発電による発電の出力は、日射により変動するため、その出力変動を把握することが重要視されている。太陽光発電の出力変動を分析するには、自然現象である日射量の変動を把握する必要がある。例えば、特許文献1には、気象衛星画像データから求めた日射量データと、気象観測した気象データとに基づいて、日射量を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−249608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のシステムでは、日射量の算出には気象衛星画像データが使われているが、気象衛星画像データでは雲がかかっている地域については日射量の算出が困難であり、地上で観測した日射量の測定値を利用したいというニーズがある。しかしながら、地上に現存する日射量の観測地点は多くなく、また数多くの日射量計を設置するにはコストがかかる。
【0005】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、少ない地点での観測値に基づいて平滑化した日射量を推定することのできる、日射量推定装置、日射量推定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、地域に含まれる複数地点における日射量の平均値を推定する装置であって、前記地域内のある地点における日射量の測定値を記憶する測定値記憶部と、第1の期間での前記測定値の第1の移動平均値と、前記第1の期間よりも短い第2の期間での前記測定値の第2の移動平均値とを算出する移動平均値算出部と、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記測定値の数の平方根から1までの間の調整値で割った商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して、前記日射量の推定値を算出する日射量推定部と、を備えることとする。
【0007】
本発明の日射量推定装置によれば、ある1地点における日射量の測定値に基づいて複数地点における日射量の平均値を推定することが可能である。すなわち、少ない地点での観測値に基づいて数多くの地点についての日射量平均値を推定することができる。また、本発明の日射量推定装置によれば、長い期間での移動平均値を、短い期間での移動平均値で調整することができる。移動平均の期間を長くすれば、距離の離れた2地点で移動平均値は相関が高くなることが想定されるが、平滑化により日射量の変動が小さくなってしまうところ、短い期間での移動平均値を用いて長い期間での移動平均値を調整することにより、日射量の変動を反映した推定値を算出することができる。また、本発明の日射量推定装置では、短い期間での移動平均値の調整幅は、長短期間の移動平均値の差を、1〜1/√N(Nは測定値の個数)倍したものとしており、後述するように、従属する(相関の高い)確率変数の標準偏差は、平均値の標準偏差の1倍で(σAV=σ)、独立した(相関の低い)確率変数の標準偏差は、平均値の標準偏差の1/√N倍である(σAV=σ/√N)ことから、調整後の推定値の標準偏差は、実際に測定をした場合の値の平均値の標準偏差に近似させることができる。したがって、より精度高く日射量を推定することができる。
【0008】
また、本発明の日射量推定装置は、前記地域内における2つの地点の間の距離と、移動平均を求める期間とに基づいて、前記第1の地点における日射量の移動平均値と、前記第2の地点における日射量の移動平均値との間の相関係数を求めるための相関モデルを記憶するモデル記憶部と、前記地域に含まれる前記複数地点に含まれる2地点間の距離の統計値を算出する統計値算出部と、前記統計値及び前記第1の期間を前記相関モデルに適用した値である相関値を算出する相関値算出部と、をさらに備え、前記日射量推定部は、前記相関値に応じて前記調整値を決定するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明の日射量推定装置では、前記相関値算出部は、前記統計値及び前記第1の期間を前記相関モデルに適用して第1の相関値を算出するとともに、前記統計値及び前記第2の期間を前記相関モデルに適用して第2の相関値を算出し、前記日射量推定部は、前記第1の相関値が所定の閾値以上であり、かつ、前記第2の相関値が前記閾値未満である場合にのみ、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記第1の相関値に応じた前記調整値で割って前記商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して前記推定値を算出するようにしてもよい。
この場合、相関が小さいものについてのみ、移動平均値の差を相関に応じて1〜1/√N倍した値で長期の移動平均値を調整して推定値とすることができる。後述するように、従属する(相関の高い)確率変数の標準偏差は平均値の標準偏差と一致する(σAV=σ)ことから、相関が高い場合には調整を行わないようにすることで、より精度高く日射量を推定することができる。
【0010】
また、本発明の日射量推定装置は、前記地域に含まれる複数の地点において過去の所定期間に測定された日射量の測定値である実験値を記憶する実験値記憶部と、前記複数の地点のそれぞれに対応する前記実験値を前記第1及び第2の期間のそれぞれで移動平均した移動平均値を算出し、前記複数の地点に含まれる2地点間の組み合わせについて、前記2地点間の距離を算出し、前記移動平均値の相関係数を算出し、前記距離、前記移動平均値及び前記相関係数に基づいて前記相関モデルを推計する相関推計部と、をさらに備えるようにしてもよい。
この場合、実際に測定した値に基づいて相関係数を求めることができる。したがって、日射量の推定の精度をより向上させることができる。
【0011】
また、本発明の日射量推定装置では、前記日射量推定部は、3つ以上の長さの算出期間のうち、前記地点間の前記統計値と前記算出期間とを前記相関モデルに適用した前記相関値が前記閾値以上となるものの中で最も短いものである最短期間を選択し、前記移動平均値算出部は、前記最短期間で前記測定値を移動平均することにより前記第1の移動平均値を算出し、前記最短期間よりも短い前記算出期間のそれぞれについて、前記移動平均値算出部は、当該算出期間で前記測定値を移動平均することにより前記第2の移動平均値を算出し、前記日射量推定部は、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記相関値に応じた前記調整値で割った商を前記第1の移動平均値に加算していくようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の他の態様は、ある地域に含まれる複数地点における日射量の平均値を推定する方法であって、前記地域内のある地点における日射量の測定値を記憶するコンピュータが、第1の期間での前記測定値の第1の移動平均値と、前記第1の期間よりも短い第2の期間での前記測定値の第2の移動平均値とを算出し、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記測定値の数の平方根から1までの間の調整値で割った商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して、前記日射量の平均値の推定値を算出することとする。
【0013】
また、本発明の日射量推定方法では、前記コンピュータは、3つ以上の長さの算出期間のうち、前記地点間の前記統計値と前記算出期間とを前記相関モデルに適用した前記相関値が前記閾値以上となるものの中で最も短いものである最短期間を選択し、前記最短期間で前記測定値を移動平均することにより前記第1の移動平均値を算出し、前記最短期間よりも短い前記算出期間のそれぞれについて、当該算出期間で前記測定値を移動平均することにより前記第2の移動平均値を算出し、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記相関値に応じた前記調整値で割った商を前記第1の移動平均値に加算していくようにしてもよい。
【0014】
また、本発明の他の態様は、ある地域に含まれる複数地点における日射量を推定するためのプログラムであって、前記地域内のある地点における日射量の測定値を記憶するコンピュータに、第1の期間での前記測定値の第1の移動平均値と、前記第1の期間よりも短い第2の期間での前記測定値の第2の移動平均値とを算出するステップと、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記測定値の数の平方根から1までの間の調整値で割った商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して、前記推定値を算出するステップと、を実行させることとする。
【0015】
また、本発明のプログラムでは、前記コンピュータに、3つ以上の長さの算出期間のうち、前記地点間の前記統計値と前記算出期間とを前記相関モデルに適用した前記相関値が前記閾値以上となるものの中で最も短いものである最短期間を選択するステップと、前記最短期間で前記測定値を移動平均することにより前記第1の移動平均値を算出するステップと、前記最短期間よりも短い前記算出期間のそれぞれについて、当該算出期間で前記測定値を移動平均することにより前記第2の移動平均値を算出し、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記相関係数に応じた前記調整値で割った商を前記第1の移動平均値に加算していくステップとをさらに実行させるようにしてもよい。
【0016】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、少ない地点での観測値に基づいて日射量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】日射量の分析対象となる地域の地図の一例を示す図である。
【図2】日射量推定システムの全体構成の一例を示す図である。
【図3】日射量推定装置20のハードウェア構成を示す図である。
【図4】日射量推定装置20のソフトウェア構成を示す図である。
【図5】相関モデルの登録処理の流れを示す図である。
【図6】実験値記憶部251に記憶される実験情報の構成例を示す図である。
【図7】相関モデルを表示するグラフの一例を示す図である。
【図8】測定値記憶部253の構成例を示す図である。
【図9】日射量推定部213による日射量の推定処理の流れを示す図である。
【図10】6地点での実測値の平均値と基準地点11での実測値とをプロットしたグラフ60の一例を示す図である。
【図11】6地点での実測値の平均値と6地点についての推計値の平均値とをプロットしたグラフ63の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
==平均日射量の推定==
以下、本発明の一実施形態に係る日射量推定システムについて説明する。本実施形態の日射量推定システムは、太陽光発電の発電量を推定する基礎となる日射量の推定を行うものであり、特にある1地点(以下、「基準地点」という。)において測定された日射量の測定値(観測値)に基づいて、その基準地点から所定距離内の範囲(以下、「推定範囲」という。)に含まれる対象地点における日射量の平均値を推定する。図1の例では、基準地点11はA地点であり、推定範囲12は、円12の内側の範囲であり、対象地点は地点A−Fである。
【0020】
ここで、基準地点11における日射量の変動と、他の地点13における日射量の変動とは、距離が近いほど相関が高いと想定される。
【0021】
一般に、N個の確率変数があって、それぞれの標準偏差をσ、N個の確率変数の平均値の標準偏差をσAV、変数iと変数jの相関係数をrijとすると、次式が成立する。

ここで、相関係数がすべて1(連動)の場合、次式が成立する。

全てのσが同一のσとすれば次式が成立する。

すなわち、相関係数がすべて1の場合には、平均を取っても標準偏差は変わらないことになる。
【0022】
したがって、基準地点11からごく近い距離の地点13、すなわち、基準地点11における日射量の変動と連動する地点13では、基準地点11における測定値を日射量の推定値とすることができる。
【0023】
逆に、基準地点11から距離が離れるほど、日射量の変動は相関係数が小さくなることが想定される。しかし、日射量について移動平均により平滑化を行う場合には、長い期間について移動平均を求めるほど、基準地点11と他の地点13との間で移動平均値の相関は高くなることが想定される。したがって、他の地点13における移動平均値については、相関の高い移動平均値を推定値とすることができる。
【0024】
もっとも、長期間における移動平均値を算出すると、平滑化により日射量の変動が抑えられてしまい、各時点における移動平均値と日射量とが乖離することが考えられる。そこで、長期間の移動平均値を各時点における日射量の推定に用いる場合には、短期間での移動平均値を参酌して値を調整することが望ましい。
【0025】
ここで、相関係数がすべて0(独立)の場合には、上記式(1)から次式(4)が成立する。

全てのσが同一のσとすれば次の式(5)が成立する。なお、この式(5)の関係は1/√N則とも呼ばれる。

したがって、相関係数がすべて0の場合には、平均を取ると標準偏差は1/√N倍になる。そこで、本実施形態では、相関の高い長期間の移動平均値と相関の低い短期間の移動平均値との差を、相関係数に応じて1〜1/√N倍した上で長期間の移動平均値に加算することにより、移動平均値の調整を行う。すなわち、短期s及び長期l(l>s)について、相関係数(0〜1)に応じて決定される調整値α(√N〜1)を用いて、t時における期間lでの移動平均値f(t)lを、次式(6)により調整する。

【0026】
本実施形態の日射量推定システムでは、基準地点11における日射量の測定値を、様々な期間L(本実施形態では、L={30分、10分、5分、1分、30秒、10秒、1秒}とする。)について移動平均値を算出し、なるべく短い期間Lでの移動平均値を基礎に調整を行う。以下、詳細について説明する。
【0027】
==日射量推定システムの構成==
図2は、本実施形態の日射量推定システムの構成例を示す図である。本実施形態の日射量推定システムは、日射量推定装置20と日射量測定装置21とを含んで構成される。日射量推定装置20と日射量測定装置21とは通信ネットワーク30を介して通信可能に接続される。通信ネットワーク30は、例えばインターネットであり、公衆電話回線網やイーサネット(登録商標)、携帯電話回線網などにより構築される。日射量測定装置21は、基準地点11に設置される日射量計22が測定する日射量を取得するコンピュータである。日射量測定装置21は、例えば、パーソナルコンピュータやワークステーション、PDA(Personal Digital Assistant)、携帯電話端末などである。日射量測定装置21は、所定の時間(本実施形態では、0.5秒とするが、任意の時間を指定することができる。)ごとに、日射量計22が測定した日射量を取得する。本実施形態では、日射量測定装置21は、所定の時間ごとに通信ネットワーク30を介して、取得した日射量に測定日時を付帯させて日射量推定装置20に送信するものとする。
【0028】
日射量推定装置20は、日射量測定装置21から取得した基準地点11における日射量に基づいて、推定範囲における対象地点A−Fであるの日射量の平均値を推定する。
【0029】
==日射量推定装置20==
図3は、本実施形態の日射量推定装置20のハードウェア構成を示す図である。日射量推定装置20は、CPU201、メモリ202、記憶装置203、通信インタフェース204、入力装置205、出力装置206を備えている。記憶装置203は、各種のデータやプログラムを記憶する、例えばハードディスクドライブやフラッシュメモリなどである。CPU201は、記憶装置203に記憶されているプログラムをメモリ202に読み出して実行することにより各種の機能を実現する。通信インタフェース204は、通信ネットワーク30に接続するためのインタフェースである。通信インタフェース204は、例えば、公衆電話回線網に接続するためのモデムや、イーサネット(登録商標)に接続するためのアダプタ、携帯電話回線網に接続するための無線通信機などである。入力装置205は、データを入力する、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、マイクロフォンなどである。出力装置206は、データを出力する、例えばディスプレイやプリンタ、スピーカなどである。
【0030】
図4は、日射量推定装置20のソフトウェア構成を示す図である。日射量推定装置20は、相関モデル登録部211、測定値取得部212、日射量推定部213、実験値記憶部251、相関モデル記憶部252、測定値記憶部253を備える。なお、相関モデル登録部211、測定値取得部212、日射量推定部213は、日射量推定装置20が備えるCPU201が記憶装置203に記憶されているプログラムをメモリ202に読み出して実行することにより実現され、実験値記憶部251、相関モデル記憶部252、測定値記憶部253は、日射量推定装置20が備えるメモリ202、記憶装置203が提供する記憶領域の一部として実現される。
【0031】
本実施形態の日射量推定装置20では、対象地点A−Fにおいて、予め所定期間、日射量の測定(以下「実験測定」という。)を行い、実験値記憶部251は、この実験測定により測定された測定値(以下、「実験値」という。)を含む情報(以下、「実験情報」という。)を記憶する。図6は実験値記憶部251に記憶される実験情報の構成例を示す図である。実験情報は、実験値を測定した地点(A地点〜F地点)を示す地点情報、その地点の位置を示す位置情報、実験測定を実施した日時(測定日時)、及び実験値(測定値)を含む。
【0032】
相関モデル登録部211は、実験値記憶部251に記憶されている実験値に基づいて、基準地点11からの距離d及び期間Lに対応する相関関係を表す相関値を求めるためのモデル(以下、「相関モデル」という。)を算出し、算出した相関モデルを相関モデル記憶部252に登録する。
【0033】
図5は、相関モデルの登録処理の流れを示す図である。相関モデル登録部211は、期間リストL(本実施形態では、L={30分、10分、5分、1分、30秒、10秒、1秒}とする。)に含まれる各期間mについて、また、各対象地点をpとして以下の処理を行う。
相関モデル登録部211は、地点p(例えば地点A)に対応する、時点tにおける実験値の移動平均値Xp,m(t)を算出し(S301)、地点p以外の地点q(例えば地点B〜地点F)について、以下の処理を行う。
相関モデル登録部211は、地点qに対応する、時点tにおける実験値の移動平均値Xq,m(t)を算出し(S302)、実験情報に含まれる位置情報に基づいて、地点pと地点qとの間の距離dを算出する(S303)。相関モデル登録部211は、地点pにおける期間mでの移動平均値Xp,m(t)と、地点qにおける期間mでの移動平均値Xq,m(t)との相関係数R(m,d)を算出する(S304)。相関モデル登録部211は、相関係数R(m,d)を、次式(7)を用いて係数a及び定数bを推計する(S305)。

相関モデル登録部211は、上記式(7)に推計したa及びbを適用したモデルを相関モデルとして相関モデル記憶部252に登録する(S306)。
以上のようにして相関モデルが相関モデル記憶部252に登録される。
【0034】
図7は、相関モデルを表示するグラフ40の一例を示す図である。図7のグラフ40には、mが30分の場合の相関係数41(R(1800,d))と、mが10分の場合の相関係数42(R(600,d))と、mが1秒の場合の相関係数43(R(1,d))とが表示されている。一般に、相関係数は、0〜0.2の場合ほとんど相関がなく、0.2〜0.4の場合やや相関があり、0.4〜0.7の場合かなり相関があり、0.7〜1.0の場合強い相関があると評価されている。本実施形態では、0.4を閾値として採用する。すなわち、相関係数R(m,d)が0.4以上の場合(すなわち、一般的にかなり相関がある又は強い相関があると評価される場合)に「相関が高い」と評価し、0.4未満の場合(すなわち、一般的にやや相関がある又はほとんど相関がないと評価される場合)に「相関が低い」と評価する。図7の例では、mが30分の場合、相関係数41は距離dに関わらず全て0.4を超えているので、常に相関が高いと評価される。この場合、後述するように、期間Lの最小値(1秒)での移動平均値が日射量の平均値として推定される。一方、mが1秒の場合、相関係数43では、距離dが4km以下の場合は相関が高く、距離dが4kmを超える場合は相関が低いと評価される。この場合、後述するように、地点間の距離の統計値(本実施形態では平均値)が4km以下の場合については、期間Lの最小値(1秒)での移動平均値が日射量の平均値として推定され、4kmを超える場合については、相関係数R(m,d)が0.4を超える移動平均値を基礎に、相関係数R(m,d)が0.4を超えるmよりも短い期間Lでの移動平均値を加味して日射量の平均値を推定する。
【0035】
測定値記憶部253は、基準地点11における日射量の測定値を記憶する。図8は測定値記憶部253の構成例を示す図である。測定値記憶部253は、測定日時に対応づけて、基準地点11における日射量の測定値を記憶する。
測定値取得部212は、日射量測定装置21から送信される日射量を受信し、受信した日射量と、付帯された測定日時とを対応づけて測定値記憶部253に登録する。
【0036】
日射量推定部213は、測定値記憶部253に記憶されている基準地点11における日射量の測定値に基づいて、推定範囲における日射量を推定する。図9は、日射量推定部213による日射量の推定処理の流れを示す図である。
日射量推定部213は、地点間の距離の統計値(本実施形態では平均距離)dを算出し(S502)、期間リストLに含まれる各期間mについて、mに対応する相関モデルを相関モデル記憶部252から読み出し、読み出した相関モデルに、算出した平均距離dを与えて相関係数R(m,d)を相関値として算出する(S503)。日射量推定部213は、相関値が所定の閾値(本実施形態では0.4とする。)以上となるmのうち、最も小さいものをm1とする(S504)。日射量推定部213は、相関値が閾値以下となるmがない場合、又は、m1がmの最小値(本実施形態では1秒)である場合(S505:NO)、測定値記憶部253に記憶されている測定値をF(t)として、最小のmでの測定値の移動平均値を次式により算出する(S506)。

一方、最小値(1秒)より長いm1がある場合(S505:NO)、日射量推定部213は、まず次式により、期間m1での測定値の移動平均値を日射量f(t)とする(S507)。

日射量推定部213は、期間リストLからm1の次に小さいmをm2として(S508)、期間m2での測定値の移動平均値をf(t)m2として算出する(S509)。

日射量推定部213は、次式により、日射量の推定値f(t)と、m2の移動平均値f(t)m2との差を、相関値に応じた調整値α(√N<α<1)を用いて1/α倍したものを、日射量の推定値に加算する(S510)。

【0037】
ここでm2が最小値(1秒)でなければ(S511:NO)、ステップS508からの処理を繰り返し、日射量の推定値f(t)には、m2の移動平均値f(t)m2との差を、相関値に応じた調整値α(√N<α<1)を用いて1/α(√N<α<1)倍したものが加算されていく。
【0038】
m2が最小値(1秒)になれば(S511:YES)、日射量推定部213は、日射量の推定値f(t)を出力する(S512)。
【0039】
以上のようにして、本実施形態の日射量推定システムによれば、基準地点11における測定値のみに基づいて、推定範囲内の各地点における日射量を推定することができる。したがって、少ない地点での観測値に基づいて広いエリアでの日射量を推定することができる。
【0040】
また、本実施形態の日射量推定システムでは、基準地点11における日射量の変動と連動しない(相関の低い)他の地点13については、基準地点11における測定値をそのまま推定値として用いず、相関が高くなる移動平均値に基づいて推定値を決定することができる。したがって、基準地点11における日射量の変動と相関しない地点についても、妥当な推定値を求めることができる。さらに、本実施形態の日射量推定システムでは、相関の低い移動平均値と、相関の高い移動平均値との差を、相関値に応じた調整値α(√N<α<1)を用いて1/α倍した値を、相関の高い移動平均値に加算して、移動平均値を調整することができる。したがって、より精度の高い推定値を求めることができる。
【0041】
図10は、6つの地点(地点A〜地点F)において日射量を実際に測定した測定値の平均値をX軸とし、その時点tにおける基準地点11での測定値をY軸としてプロットしたグラフ60である。図11は、6地点における日射量の測定値の平均値をX軸とし、その時点tにおける基準地点11での測定値に基づいて、上述した図9の処理により算出した日射量平均値の推定値f(t)をY軸としてプロットしたグラフ63である。図10のグラフ60におけるプロット62よりも、図11のグラフ63におけるプロット64の方がライン61からの乖離が少なく、基準地点11における実測値そのものよりも、推定値の平均値の方が、6地点での実測値の平均値により近いことが分かる。したがって、本実施形態の日射量推定装置20の算出する推定値を用いることにより、ある1カ所の基準地点11における日射量の実測値そのものを使う場合に比べ、対象地点における日射量平均値の推計値の精度を高めることができる。
【0042】
なお、本実施形態の日射量推定システムでは、日射量測定装置21と日射量推定装置20とが通信ネットワーク30を介して接続されているものとしたが、これらを独立に稼働させ、例えば日射量測定装置21において測定された測定値を、可搬型の記憶媒体に書き込んで日射量推定装置20に入力するようにしてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、一例として6地点(地点A〜地点F)において実験測定を行い、この6地点について日射量の推定を行うものとしたが、もちろんより多くの地点について実験測定を行うようにしてもよいし、より多くの地点について日射量の推定を行うようにしてもよい。また、実験測定を行った地点と、日射量の推定を行う地点とが異なってもよい。
【0044】
また、本実施形態では、調整値αは√N<α<1であるものとしたが、√N≦α≦1としてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、予め行った実験測定による実験値を記録しておき、日射量推定装置20の相関モデル登録部211が実験値を分析して相関モデルを推計するものとしたが、これに限らず、相関モデル登録部211は、他のコンピュータにおいて作成した相関モデルの入力を受け付けて、入力された統計モデルを相関モデルとして相関モデル記憶部252に登録するようにしてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、距離dの対数log(d)を用いた式(7)を推計するものとしたが、式(7)を次式(7’)にしてもよい。

【0047】
また、本実施形態では、ある6地点における日射量の平均値を推定する処理(図9)について説明したが、日射量推定部213は、6地点以下、あるいは6地点よりも多い複数の地点について図9の処理を行うようにしてもよい。
【0048】
また、日射量推定部213は、推定値f(t)を出力する場合に、出力装置206に出力するようにしてもよいし、メモリ202や記憶装置203における所定の記憶領域に書き込むようにしてもよい。通信ネットワーク30を介して通信可能に接続される他のコンピュータに推定値f(t)を送信するようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、6地点における日射量の平均値を推定するものとしたが、これに限らず、例えば、所定のステップ値(例えば、1kmなど)の単位で距離dを変化させ、変化させた距離dについて推定処理を行うようにしてもよい。また、日射量推定部213は、推定範囲内に含まれる所定の地点のそれぞれについて、あるいは推定範囲内に含まれる限度で上記ステップ値により変化させた各距離dについて、日射量の推定値を算出していき、各時点tにおける推定値f(t)の平均値を算出するようにしてもよい。この場合、推定範囲内における日射量の平均値の推移を求めることが可能となる。
【0050】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0051】
11 基準地点
13 地点
20 日射量推定装置
21 日射量測定装置
22 日射量計
30 通信ネットワーク
201 CPU
202 メモリ
203 記憶装置
204 通信インタフェース
205 入力装置
206 出力装置
211 相関モデル登録部
212 測定値取得部
213 日射量推定部
251 実験値記憶部
252 相関モデル記憶部
253 測定値記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある地域に含まれる複数地点における日射量の平均値を推定する装置であって、
前記地域内のある地点における日射量の測定値を記憶する測定値記憶部と、
第1の期間での前記測定値の第1の移動平均値と、前記第1の期間よりも短い第2の期間での前記測定値の第2の移動平均値とを算出する移動平均値算出部と、
前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記測定値の数の平方根から1までの間の調整値で割った商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して、前記推定値を算出する日射量推定部と、
を備えることを特徴とする日射量推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の日射量推定装置であって、
前記地域内における2つの地点の間の距離と、移動平均を求める期間とに基づいて、前記第1の地点における日射量の移動平均値と、前記第2の地点における日射量の移動平均値との間の相関係数を求めるための相関モデルを記憶するモデル記憶部と、
前記地域に含まれる前記複数地点に含まれる2地点間の距離の統計値を算出する統計値算出部と、
前記統計値及び前記第1の期間を前記相関モデルに適用した値である相関値を算出する相関値算出部と、
をさらに備え、
前記日射量推定部は、前記相関値に応じて前記調整値を決定すること、
を特徴とする日射量推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の日射量推定装置であって、
前記相関値算出部は、前記統計値及び前記第1の期間を前記相関モデルに適用して第1の相関値を算出するとともに、前記統計値及び前記第2の期間を前記相関モデルに適用して第2の相関値を算出し、
前記日射量推定部は、前記第1の相関値が所定の閾値以上であり、かつ、前記第2の相関値が前記閾値未満である場合にのみ、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記第1の相関値に応じた前記調整値で割って前記商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して前記推定値を算出すること、
を特徴とする日射量推定装置。
【請求項4】
請求項2又は3のいずれかに記載の日射量推定装置であって、
前記地域に含まれる複数の地点において過去の所定期間に測定された日射量の測定値である実験値を記憶する実験値記憶部と、
前記複数の地点のそれぞれに対応する前記実験値を前記第1及び第2の期間のそれぞれで移動平均した移動平均値を算出し、前記複数の地点に含まれる2地点間の組み合わせについて、前記2地点間の距離を算出し、前記移動平均値の相関係数を算出し、前記距離、前記移動平均値及び前記相関係数に基づいて前記相関モデルを推計する相関推計部と、
をさらに備えることを特徴とする日射量推定装置。
【請求項5】
請求項3に記載の日射量推定装置であって、
前記日射量推定部は、3つ以上の長さの算出期間のうち、前記地点間の前記統計値と前記算出期間とを前記相関モデルに適用した前記相関値が前記閾値以上となるものの中で最も短いものである最短期間を選択し、
前記移動平均値算出部は、前記最短期間で前記測定値を移動平均することにより前記第1の移動平均値を算出し、
前記最短期間よりも短い前記算出期間のそれぞれについて、前記移動平均値算出部は、当該算出期間で前記測定値を移動平均することにより前記第2の移動平均値を算出し、前記日射量推定部は、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記相関値に応じた前記調整値で割った商を前記第1の移動平均値に加算していくこと、
を特徴とする日射量推定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の日射量推定装置であって、前記閾値は0.4であることを特徴とする日射量推定装置。
【請求項7】
ある地域に含まれる複数地点における日射量の平均値を推定する方法であって、
前記地域内のある地点における日射量の測定値を記憶するコンピュータが、
第1の期間での前記測定値の第1の移動平均値と、前記第1の期間よりも短い第2の期間での前記測定値の第2の移動平均値とを算出し、
前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記測定値の数の平方根から1までの間の調整値で割った商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して、前記推定値を算出すること、
を特徴とする日射量推定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の日射量推定方法であって、
前記コンピュータは、
3つ以上の長さの算出期間のうち、前記地点間の前記統計値と前記算出期間とを前記相関モデルに適用した前記相関値が前記閾値以上となるものの中で最も短いものである最短期間を選択し、
前記最短期間で前記測定値を移動平均することにより前記第1の移動平均値を算出し、
前記最短期間よりも短い前記算出期間のそれぞれについて、当該算出期間で前記測定値を移動平均することにより前記第2の移動平均値を算出し、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記相関値に応じた前記調整値で割った商を前記第1の移動平均値に加算していくこと、
を特徴とする日射量推定方法。
【請求項9】
ある地域に含まれる複数地点における日射量の平均値を推定するためのプログラムであって、
前記地域内のある地点における日射量の測定値を記憶するコンピュータに、
第1の期間での前記測定値の第1の移動平均値と、前記第1の期間よりも短い第2の期間での前記測定値の第2の移動平均値とを算出するステップと、
前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記測定値の数の平方根から1までの間の調子値で割った商を算出し、前記商を前記第1の移動平均値に加算して、前記推定値を算出するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムであって、
前記コンピュータに、
3つ以上の長さの算出期間のうち、前記地点間の前記統計値と前記算出期間とを前記相関モデルに適用した前記相関値が前記閾値以上となるものの中で最も短いものである最短期間を選択するステップと、
前記最短期間で前記測定値を移動平均することにより前記第1の移動平均値を算出するステップと、
前記最短期間よりも短い前記算出期間のそれぞれについて、当該算出期間で前記測定値を移動平均することにより前記第2の移動平均値を算出し、前記第1及び第2の移動平均値の差を、前記相関値に応じた前記調整値で割った商を前記第1の移動平均値に加算していくステップと、
をさらに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−225757(P2012−225757A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93324(P2011−93324)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)